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俺、転生する

 目が覚めた時、俺はどこかも定かではない部屋の中にいた。


 だが手のひらを覗きこんでみると、まぎれもなく肉体を得ているのが分かる。どうやら女神の言っていたことはマジだったらしい。


 寝そべっていたベッドから跳ね起きる。


「本当に転生するとはな……ってことは」


 ここは例の異世界と考えて間違いない。よく見たら俺の服も死ぬ前に着ていたジャージではなく、村人Aって感じだ。


 ひとまずドアを開けて部屋から出てみる。


「うわっ!」


 めちゃくちゃ通行人がいたので思わず声を上げて驚いてしまう。部屋というか家のドアだったようだ。


 通りに面したこの小さな石造りの家には『シュウト・シラサワ』のプレートが飾られている。


「自宅付き転生か。こりゃ確かにありがたいが……」


 すぐさま中に戻る。家があるのはいいが、肝心の『アレ』がなかったら意味がない。まあその辺は女神も鬼じゃないから都合はつけてくれてるとは思うが……。


「……って、ねーぞ!」


 家中どこを探しても金がない。


 楽して生きられると言っていたのに、これでは餓死待ったなしじゃないか。


「転生早々に家を売りに出すのか……?」


 だがそれはいくらなんでも目先の利益に走りすぎている。どう考えてもマイホームは持っていたほうが長い目で見れば得になる。


 さてどうしよう。ビル一棟もらって賃貸収益だけで生きていくのが俺の長年の夢ではあったが、こんなしょーもない建物で稼げる気はしないぞ。


「やっぱまともに働けってか?」


 とりあえず町にある仕事の斡旋所へ行ってみる。


「ようこそギルドへ」


 ギルドってなんだよ。それはいいから何か仕事をくれと受付のおっさんに催促する。


「簡単で安全な依頼っていうと……港にやってくる交易船の荷降ろしになるな。一日で1000G」


 最初に薦められた仕事はまったくやる気がしない。


 庫内整理のバイトをやったことがあるが、暑いわ疲れるわ腰が痛いわで最悪だった。


「もっと楽なのはないのか」

「楽さでいえば、薬屋から頼まれている薬草採取というのがある。一個につき10Gだ」

「ほう。ちなみに飯を食うのに必要な額はいくらだ」

「人並みの食事がしたかったら200Gはいるな」


 馬鹿にしてんのか。誰がやるかそんな利率の低い仕事。


「もっと手早くバーンと稼げるのはどれだ? 受けるかどうかはさておき教えてくれ」

「要人警護なら一気に大金が手に入るぞ。ただし失敗したら最悪殺される」

「ぶっ」


 いきなり殺されるとか言われてむせてしまった。もう死ぬのはこりごりだ。


「やるわけねーだろ。他は?」

「あとはレアな素材を拾ってくるとかだな」

「おっ、それなら俺でもできそうだな」

「……レア素材のほとんどは僻地にいる魔物由来だぞ? それも強力な」


 おっさんが「悪いこと言わないからやめとけ」みたいな顔をしてきた。俺もそう思う。


「結局この世界では強くなきゃ金にならなくて、俺は地道に稼ぐしかないのか……?」


 こんなことなら女神がオススメするとおりに超人になれるスキルをもらっておけばよかった。だが今となっては後の祭り。あるのは生きやすさを望んだがゆえに逆に生きにくくなった哀れな俺の姿だけ。


「あー、他に稼ぐ手立てだが、依頼を受けなくてもその辺の魔物を倒すことでも可能だぞ」

「なんだそりゃ。素材を剥いで売るのか?」

「それもあるが、連中は貴金属を溜めこむ習性を持っているからな。倒せば奴らが拾ってきた硬貨を入手することができる」


 薬草集めのついでにやってみたらどうだ、とおっさんは諭した。


 仕方ない、やるか。


 俺は町の裏手にある森へと足を運んだ。おっさんの話によるとこの近辺に出現する魔物は弱いので、ヘボ装備しかない俺でも頑張れば倒せるとのこと。


「っていうか、薬草ってどれだよ」


 植物が多すぎてよく分からない。


「ん?」


 突然俺の前を何かが横切ったが、それは一羽のウサギだった。なんだ、驚かせるなよ。かわいい森の仲間達じゃないか。


 ……と思った次の瞬間、そいつは俺めがけて突進をしかけてきた。


「うおっ!?」


 こいつはただのウサギじゃない。直観ですぐに分かった。魔物だ。


 俺は自宅にあった唯一の武器である棍棒を振り回し、なんとか払いのけようとする。


 顔をそむけてしまったのでどうなったかは見えなかったのだが、手応えはある。どうやらクリーンヒットはしたようだ。


 おそるおそる視線を前に戻してみる。


「……あ、あぶねぇ」


 そこには白目を剥いて倒れている殺人ウサギ(さっき名付けた)の姿があった。棍棒にぶん殴られて完全に意識を飛ばされたらしい。ぴくぴく震えている。


 弱い弱いとは聞いていたが、マジで弱かった。


 倒した魔物は煙となって消滅し、所持していた硬貨がその場に報奨金として残される。


 銀貨が二枚。おっさんに教わったレートだと一枚が100G相当だったはずだから、これで200Gか。


「おいおい、いきなり一食分稼げちゃったんだが。割のいい仕事だなこれ」


 薬草とか採ってる場合じゃないな。というか、これだけ効率がいいなら一番最初に教えてくれりゃよかったのに。


「はい二匹目。これで二食分だな」


 俺は殺人ウサギ狩りを続行し、合計で十三匹しとめて町に帰還した。往復の移動こみでもおそらく二時間と経っていない。時給換算した俺は思わず笑みをこぼしてしまう。


 これでしばらくは持つな。一応稼ぎ方を教えてくれた斡旋所のおっさんに挨拶してから帰るか。


「おう、お疲れ。随分と早かったな。薬草は集まったか?」

「いや採ってきてない。雑草と区別つかなかったし」

「はあ。じゃあ魔物は倒せたのか?」

「それはバッチリだ。変なウサギを十三匹倒してきた」

「やるじゃないか。初めてにしては上出来だぜ」


 ただ、とおっさんは続ける。


「それだとせいぜい今日の分しか食えないだろうなぁ。日用品や嗜好品も買おうと思ったらもっと張り切って稼がないとダメだぜ」


 は? からかってんのか。


「めっちゃ稼げたぞ。ほれ」


 財布代わりの布袋に入れた銀貨を見せる。


「これでも俺はあんたには感謝してるんだぜ。うまいやり方ってのを教えてくれたんだから。一枚手間賃として置いていくわ。そんじゃあな」


 と言って去ろうとするが、後ろからおっさんの妙に慌てた声が聞こえてきたので、足を止める。


「おい、それは本当なのか?」

「嘘なんかつくかよ。たった100Gだろ、それでなんか酒の一杯でも……」

「違う、そっちじゃない! ウサギを倒してその額を得たっていう話だ!」


 振り返った先にいたおっさんは、今までになく神妙な顔つきをしている。


「森に出るウサギだろ? ……あんなの倒しても、一枚が10Gに満たないボロ硬貨しか落とさないんだぞ?」

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