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俺、用意する

 メイド服を純白のローブに、オタマを魔術書に持ち替えたミミ。


 ナイフを差してリュックを背負った、いかにもな冒険者ルックのナツメ。


 そして頑健なプレートメイルでガッチリと身を固めたホクト。


 この編成で探索に出かけるのも久しぶりだな。


「やはり自分には、こちらのほうが性に合うでありますな!」


 中でもホクトは久々に制限なく体を動かせるとあって、人一倍やる気を見せている。この気の張り具合、頼もしい働きをしてくれそうだ。


 ヒメリたちが全体練習を兼ねた模擬戦で家を空けているこの日、俺はスカルボウを相棒に選び、朝から三人を連れ出してギルドを訪れていた。


 目的は当然、レア素材の宝庫であるという狩猟区についての情報収集。


 早速ギルドマスターのおっさんに厄介になる。


「ようこそギルドへ。また名簿の確認か? あれから何人か増えてはいるが」

「そっちも気になるが、今日の用件はそうじゃない。狩猟区とかいう探索スポットについて教えてほしいんだよ」

「狩猟区だと?」


 おっさんは眉間に皺を寄せ、苦み走った表情をする。


「そんな顔されても俺は行く気満々だぞ。服の素材が欲しいからな」

「確かにここから南にある狩猟区では、数多く生息する鳥や獣型の魔物から良質な素材を手に入れることができる。ただ魔物の強弱にバラつきがあってな……強い輩はとことん強い。油断すると一瞬で壊滅状態に陥れられる場所だ」

「だから一人じゃなくてパーティー組んで来てるんじゃないか」


 前衛後衛のバランスが取れた構成をおっさんに示す。


「俺一人では無謀でも、四人集まればそうじゃねぇだろ?」

「君の決意は固いようだな」


 そう言って、重々しく「うむ」と頷くおっさん。


「ならば我々は出来得る限りのサポートをするまでだ。その一歩として、地図を渡しておこう。外周の密林部分は迷いやすいから気をつけるように。それと中央の平野部は身を隠す手立てがない。つまり魔物から逃れづらいということだ。深追いは禁物だぞ」

「胸に留めておくよ。あ、それと」

「なんだ?」

「一応採取依頼も俺名義で出しておくわ。ダメだった時の保険で」


 何十枚かの金貨をカウンター上に積む。


 真面目な顔で狩猟区に挑む際の心構えを説いていたおっさんの、強張った肩の力が抜けていくのが目に見えて分かった。


「いろいろと台無しだな……」

「そこは用意周到と呼んでくれよ」

「慎重さは認めるよ。ただ、魔物が貴重な素材を落とすかどうかは運次第なところもあるからなぁ。納品があるかどうかは怪しいぞ」

「その時はその時だ」


 俺は受け取った地図をコートの裏にしまい、ギルドを去る。


 いざ出発……ではない。


 その足で先に防具屋に向かう。


「おっさん、約束を果たしに来たぞ。タワーシールドの使い手を連れてきたぜ」


 開店したばかりで慌しくしている店主のおっさんに声をかける。


 少し緊張した面持ちのホクトを前に出して紹介しながら。


 なんのためにこいつを手ぶらで連れてきてるのかって話だ。


「こりゃまた長身の獣人だな……ふむ、しかし、耳からして馬の血統か。それなら重量級の盾でも問題なく装備できるだろう」

「一個じゃない。二個売ってくれ。両手に装備させるつもりだから」

「両手をふさぐのか……それだと重すぎるものはよくないか。とはいえ、そんなに選択の幅があるわけでもないがね。ちょっと待ってろ」


 と言って、おっさんは三つの候補を提示した。それらを順番に解説する。


「これは光銀鉱製。定番のレアメタルだな。といってもよくある流通品とは違って含有量が多いから強度は一枚上手だ。特徴としては打撃、斬撃、突撃すべてに満遍なく強い。防具に向いた地属性だけなことはある」


 高級感溢れる銀色のタワーシールドを試しに手に取ってみたホクトは、中々どうしてしっくりきていそうだった。


 装着している鎧と同じ金属なこともあり、美しいシルバーで統一されていて色彩の取り合わせが非常にいい。まあこれは正直どうでもいい要素ではあるが。


 で、次。


「そしてこっちが緋銅鉱。一番ポピュラーな火属性のレアメタルといえるかな」


 銅によく似た、しかしそれよりも赤みの強い合金で出来た盾を売りこまれる。


「火属性は魅力的な追加効果を持つケースが多いから主に武器にされるが、こいつは鍛冶屋の気まぐれで盾になった。面白いからと入荷してみたが魔法全般に耐性があって意外と実用的な一品に仕上がっているぞ」

「魔法に強い、かぁ」


 魅力的な売り文句だ。防御面の穴埋めで役に立ちそうな臭いがプンプンする。


「最後はこれ。こいつはかなりユニークだぞ」

「もったいぶらずに早く教えてくれ」

「醍醐味の分からん奴だな。まあいい、話を進めようじゃないか」


 おっさんはパステルピンクの盾を重たそうにかかげながら続ける。


「この盾に使われているのは息吹鉱といって、風属性の魔力が宿っているんだが、はっきり言ってそれほど丈夫じゃない。鋼鉄よりはマシ程度だ。ただし装備しているだけで失った体力を少しずつ回復してくれる。持久戦に向いた盾といえるな」

「ほうほう」


 俺のブローチに効果が近い。もちろんこいつほどの即効性はないだろうけども。


「まとめると、物理に強い光銀鉱、魔法に強い緋銅鉱、特異性のある息吹鉱、といった感じかな。どれにするかは娘さんと二人で話し合ってくれ」

「そうさせてもらうか。でも二人じゃなくて四人で話させてもらうぜ」


 どういう役割をホクトにやらせるかは、パーティー全体の問題だからな。


 さて。


「どうしよっかな」


 三種類全部買うのもありっちゃありだが、それはこの後の探索に差し障りが出る。とりあえず狩猟区に装備していく二つを選ばないといけない。


「治療はミミと、それにナツメさんでもできますから、耐久力を重視した組み合わせの二枚にしてはいかがでしょうか?」

「だけどホクトさんが自分で回復できたら便利そうですにゃあ。その間ミャーの手も空きますからにゃ」


 ミミとナツメ、どちらの意見も一理ある。


 うむむ……難しいが、狩猟区に出没する魔物の傾向を考えると物理耐久を最優先すべきではなかろうか。鳥獣連中が魔法を使ってくるとは考えにくいし。


 それと狩りの能率を上げるためにミミにも攻撃に回ってもらいたいところ。


 ということで。


「光銀鉱と、息吹鉱のタワーシールドを一個ずつ売ってくれ」


 俺はそうおっさんに注文した。


 今日のために金貨を大量に持参していたので、値段交渉をするまでもなく即決。


 合わせて七十六万9400G。でかい買い物だ。


 もっとも本日中に済ます予定の買い物はこれだけに留まらないのだが。


「予約していた防具はまた夜に取りに来るよ」

「お? ということは今からどこかに探索に行くのか」

「そういうこった。もしかしなくても、あんたが言ってた狩猟区にな」


 ホクトに盾の握り心地を再確認させながら応じる俺。


 どんなに値が張ろうが店頭で揃えられる防具は楽なもんだ。自力で素材から集めないと作れない装備品のほうが遥かに入手難易度が高い。


「なるほどねぇ。だから盾が必要だったわけか。あまり無茶はするんじゃないぞ」

「分かってるって」


 そう返して、今度は武器屋に。


 貫通力の高い黒曜石の矢をしこたま買いこみ、これで出発前の準備は完了。


 俺は三人に「行くぜ」と告げて、町の南口から発進した。

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