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俺、手配する




 合宿七日目。


 これだけの期間共同生活を続けると自然と距離は縮まるものだ。


 カイとチノはチーム内の親密さを深めようと考えているのか、はたまた甘えられる年長者がいることが嬉しいのか、このところヒメリにべったりである。もっともチノに関しては別にヒメリに限った話ではなく、隙さえあればスパー相手のホクトや魔法の先生を務めるミミ、探索帰りにソファでくつろぐ俺にも表情を変えないままぴとっとくっつくのだが。


 あとミミ、ナツメ、ホクトのメイド業も板についてきた。


 特にミミはチノに再生魔法を教えるかたわら、空いた時間を使ってレシピ本を隅から隅まで読み漁り、飛躍的に料理の知識を増やしている。


 昨日なんかはフラーゼンの店で買ったハーブを用いて肉の香草焼きを作ってくれた。焼き加減はまだまだ研究の余地はあったが味は申し分なし。出来を褒めると「教本のとおりですから」と謙遜する奥ゆかしさも、シックなメイド服と相まってたまらないものがある。


 で、仕上がりのほうだが、こっちも順調に進んでいる。


 闘技場で開催されたイベントで実力者たちの妙技を目の当たりにしたことは大いに発奮材料になったらしく、三人の練習にも熱が入るようになった。


 カイは本戦で使用する剣をフランベルジュ一本に絞ったらしい。


 その一方、相変わらずヒメリは様々な武器をローテーションしている。対戦相手に合わせた使い分けが肝心とかそんな感じのことを言っていたが、果たして脳筋気味のこいつにそんな臨機応変な真似ができるんだろうか。


 まあ俺としては、こいつらが優勝できるよう手厚い支援をしてやるだけだ。


 待ってろ貯金箱。


 ということで、この日。


 早朝から日課の素振りに励むカイとヒメリを庭先に残して、俺はナツメを引き連れ町の商業区まで足を伸ばしていた。


 目当ては防具。


 そろそろこっちの準備もやっておかないとな。


「おお……壮観だなこりゃ」


 防具屋奥の区画にはレアメタル製と思われる色彩豊かな鎧がずらりと並んでいた。


 うーむ、カラフルである。


 しかし性能差は視覚だけではまったく判別できない。プロに意見を求めねば。


 ってことで店主のおっさんを頼る。


「どれがイチオシなんだ?」

「同価格帯の売り物に優劣なんてつけられないね。しいて言うなら用途次第だ」

「む……だったら、なるべく軽いものがいいんだが」


 ホクトがまとっているようなプレートメイルは、大食いのくせして華奢なヒメリには向いていないだろう。身を守るための鎧に逆に潰されてしまいかねない。


「軽量鎧か。先月入荷できた分の中じゃ、波濤鉱か飛竜鉱で作られたバンデッドメイルが比較的軽い部類になるかな」


 おっさんが二つの鎧を前に出す。


 片方はマリンブルーが目に鮮やかな、曲面が多く全体的に丸っこいデザイン。


 もう片方はそれとは反対に角張っていて、色も深みのある大人びたワインレッドだ。


「にゃにゃっ、これは美人さんと偉丈夫さんですにゃ」


 独特の表現で鎧を例えるナツメ。


 丸みを帯びた青いほうの鎧に女性的なイメージを感じるのは分からなくもない。


 後者は謎だが。


「バンデットメイルは必要最小限の金属板で補強した鎧だ。プレートメイルやブリガンダインほどの防御性能はないが、その分軽く、然程動きを阻害しない」

「ほうほう。よさそうだな」

「軽いといってもチェインメイルほどではないがね。まあ、それはまた別の話だからいいとして、こっちの青い鎧から説明するぞ。波濤鉱は名前のとおり水属性の魔力が宿ったレアメタル。合金にして防具にすることで高い物理耐久を得られる。それに加えて火に強い性質も備えているぞ。水のヴェールで守られた鎧とでも呼ぼうか」


 話を聞いてるだけで頬ずりしたくなるような高性能だな。


「飛竜鉱ってのも教えてくれ」


 催促する俺。


 名前のカッコよさからして期待が持てる。なにせ飛ぶ竜と断言しているのだから、「実はモグラでした」なんていうオチになりはしないだろう。


「なにを想像しているのかは知らんが、これは飛竜、つまりワイバーンと戦うのに最適という理由でその名がついた地属性のレアメタルだ。猛毒の呪縛に対して高い耐性を持つのが一番の特徴だな。斬撃にも強く、魔法にはそこそこといったところか」

「い、意外と地味だな……」

「地味なものか。呪いに抵抗のある鎧は珍しいんだぞ。ともかく、この二品がお前さんの要求に当てはまるものだ。買うかどうかじっくり吟味してくれ」

「吟味ねぇ」


 前者の価格は八十七万と5000G。気が狂いそうになる値段だ。鎧を作るには武器のおよそ倍の量の金属が必要と聞いてはいたが、割高なとこまで反映させないでもいいのに。


 飛竜鉱のほうも価格を確認してみたが、八十四万9000Gとこれまた高額。


 といっても購入をためらうような案件ではない。


 合わせて百七十万G少々だが俺の資産は二千万オーバーである。大体、百七十万Gくらい三日で集まる。実際昨日までに三回鉱山に行ってその額超えてるし。


 そんなわけで両方買いたい旨をおっさんに伝える。


 お前マジかみたいな顔をされた。


「でも重いから明日仲間と引き取りに来るよ。手持ちも足りてないし。それまで予約で」


 この後鉱山で金を稼ぐ予定もあるしな。さすがに鎧を二個も担いで探索するわけにはいかない。腰が死ぬ。


 明日はホクトに運搬を頑張ってもらわないと。


 ……と、ホクトで思い出した。


「ついでに盾も見ていこうと思うんだけど」

「盾か? 盾ならあそこの壁にかかっているもので全部だ。まあゆっくり眺めてみな」


 店主のおっさんが指で示したスペースに移動し、片手剣見習いのヒメリでも扱えそうな小型の盾と、後々のためにホクトに持たせたいタワーシールドをチェック。


 ナツメも俺の真似をして小難しい顔で良品を見極めている。


「むむむ……ご主人様、どう思いますかにゃ?」

「クソたけーことしか分からん」

「ミャーも見事に同意見ですにゃ」


 もっとも素人目だと見るべきところは値札しかない。すぐにおっさんを呼んだ。


「小振りの盾がいいなら腕に装着するラウンドシールドが一番だ。剣を受け止めるだけじゃなく、軌道を逸らすのにも向いている。波濤鉱のものがあるからそれにしたらどうだ?」

「よし。じゃあそれも予約させてくれ」


 気軽に返事したが、その盾もまた量産品とは桁の違う高額商品なのは言うまでもない。


「毎度。ところでタワーシールドも気にしていたみたいだが」

「ちょっと装備させたい奴がいてね。まあ明日連れてくるんだけど」

「だったら本人と一緒に選んだほうがいい。タワーシールドは使用者の体格との兼ね合いが他のどの種類の盾よりも大きいからな」

「そうは言ってもその間に売り切れられたら困るんだが」

「なに、そんなすぐに在庫が切れたりはしないさ。一日だぞ? 誰も彼もがポンポンと高級防具に買い換えられるわけじゃないんだぜ」


 俺はスナック感覚で買ってるから麻痺してるが、それもそうだな。


 焦らず騒がずホクト自身に決めてもらうか。


「……で、あとは」


 チノの装備品だな。具体的にいうとローブが望ましい。


 けれど防具屋の主は腕を組んで難色を示した。


「ローブは標準的な商品しかないな。生憎だが」

「そうか。しゃあねぇ、他の店を当たるしかないか……」

「いや、そいつも厳しいと思うぞ」


 おっさんは渋い顔をする。


「ネシェスはレアメタルの安定した供給ルートは確保できてるけど、布にできる素材はそうじゃないからなぁ。いい服やローブはどこの店舗にも置いてないんじゃないか」


 む、そうなのか。


 しかしながら俺が所有する素材は霊布や冥布など、飛び抜けて軽いだけで防御性能は紙切れ同然のものしかない。


「どうしても強力な衣料が欲しいなら、南方の狩猟区に行くしかないな」

「なにそれ」

「珍しい素材を落とす動物系の魔物が多く生息しているそうだ。詳しいことは冒険者ギルドで聞いてくれ。俺はあくまで商人、その分野については門外漢なんだからさ」


 ふむ。それはいいことを教わった。


 とはいえ今から俺とナツメだけで行くのは微妙だな。ギルドマスターのおっさんが紹介してこなかったってことはランク不相応の難所と考えて間違いないだろうし。


 探索するなら万全のパーティーで挑みたいところ。


 ……まあいずれにしても明日以降だな。とりあえず今日のところはノルマをこなすことだけに集中するとしよう。


 主旋律がおぼつかないナツメの鼻歌を聞きながら、金鉱山へと向かう。

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