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俺、整列する

 目標数に達したところで帰還。


 町に戻った頃にはとっくに夕方、ということもなく、まだまだ空では太陽が現役バリバリで働いている。西に隠居するまでにはあと二時間くらいあるだろうか。


「お買い物をして帰りましょうにゃ。ミミさんが『今晩は卵料理にチャレンジしたい』って朝から張り切ってましたにゃ」


 ポケットに手を突っこみ、ミミから渡されていたらしい献立メモを出すナツメ。


「その前に一度ギルドに寄るぞ」

「ギルド? なにか用事ってありましたかにゃ?」

「ちょっと調べておきたい情報があるからな」


 小首をかしげて不思議がるナツメを伴い、ギルドへ。


 昼下がりのそこは尋常じゃない量の熱気が充満していた。


 この町の人間なのか、はたまた闘技場に引き寄せられた各地方の猛者なのかは分からないが、とにかく人の数が多くラウンジが満席になっている。


 盛んに議論を交わす、三人組で座っている面々は大会のために結成されたチームメンバーなのだと推測が立つが、そうでない奴らはピリピリしたムードをまとっている。自分の出した条件に適う冒険者が中々見つからないからだろうか。


 かといって妥協してハグレ者同士で手を組むなんて気配もなく、剣呑な雰囲気だ。


 まあ、こいつらが仲間探しで難航している理由はなんとなく分かる。


 その装備品を見るだけで一目瞭然。金属製の重厚な鎧に、剣や槍といった接近戦主体の武器……どいつもこいつも前衛タイプだ。役割のかぶった奴を誘ってもチーム力は上がらない。だからできることなら魔法の使える味方を求めているんだろう。


 裏を返せば自分が引き入れられる場合は競争相手が多すぎて厳しい。


 脳筋の辛いところである。


 うーむ、癒し手のプリシラが引く手数多だったという話も頷けるな。


 逆に今はプリシラが募集をかけているらしいから、あいつに選ばれた奴は幸運だな。


 ……と、それより。


「おっさんに厄介にならないとな」


 といっても先ほどの話とまったくの無関係ではない。


 俺が知りたい情報とはつまり、現在ここで斡旋希望として登録されているか、メンバー募集をかけている冒険者のデータである。


 売りこみをかけるからには簡単な自己アピールは必須だろうし、名前以外にもランクや戦闘スタイルくらいは知れるだろう。


 が、しかし。


 受付に向かうと先客がいた。


 全身金ピカの、体格のいい男である。


 あまりにも着ている鎧が眩しいので短く刈り揃えたアッシュの髪の印象が薄れてしまう。


 両サイドにマッシブな獣人男性を従えているがそいつらも同様の格好だ。


 なんて悪趣味な鎧なんだ……とゲロを吐きそうになるも、よくよく考えてみればこの微妙に赤みがかった黄金の輝きには見覚えがある。


 俺のツヴァイハンダーと同じだ。ってこと土竜鉱が原料か。


 俺は訳あって武器にしたが、本来は防具に適したレアメタルと聞いている。


 めちゃくちゃ頑丈そうだな。


 そして、それだけ高性能な鎧を三つも所有しているということは、この男も相当のやり手に違いあるまい。


 密かにそんな分析をしながら後ろに並んで順番を待つ。


「……だからだな、闘技大会に剣闘士として参加できるのは冒険者登録が済んでいる者だけだ。奴隷は冒険者ギルドに登録できないからトーナメントにも出られないんだよ。この説明四度目だぞ?」

「うむ、それは重々理解している。闘技場の受付で見目麗しいご令嬢から同種の内容のことをうかがった」

「そのエピソードを聞くのも四度目だ。ギルドで紹介してもらえって言われたんだろ?」

「しかり」

「だったら君も大人しく斡旋希望か人員募集の届出をだな」

「いーや! 私は断固として他人とは組まんぞ! 気心の知れたこいつらを置いていくわけにはいかない!」

「話が大げさすぎるだろ……今生の別れってわけじゃあるまいに」

「私が戦地に赴く時は常にその覚悟だ。闘技場も例外ではないのさ!」


 待つだけじゃ暇なのでギルドマスターのおっさんとの会話を盗み聞いていたが、どうやらこの三人で出られないかとゴネているらしい。


 馴染みのメンツで出場したいという気持ちも分かる。分かるが、無理と言われているのだからいい加減折れてもらいたい。虎と馬の耳を生やした二人のお供もこっちにめっちゃ申し訳なさそうな目線を送っていることだし。


 そんな俺の願いも虚しく、強行は続いている。


「君も腕に自信があるからネシェスに来たんだろう? どんな仲間とでもやっていけるさ」

「私は真の達人と比べれば未熟な男だ。そんな買いかぶりはやめてくれたまえ」

「もういいから早くどっちかにサインしろ」


 めんどくさくなったのかおっさんの応対も適当になっている。


 ってか、なげーよ。


 ナツメも横で大あくびしている。虎くんと馬くんはついに主人に隠れて無言で手を合わせて謝り始めた。なんか同情させられる。


 そこから更に十分弱の押し問答が続き――やっとのことで男は納得したらしく。


「これは神が私に与えた試練と受け止めよう……!」


 聞いてるこっちが疲れてくるような台詞を口走りながら署名をした。


 で、施設を出ていく。


 自分が世界の運命を背負った英雄であるかのような顔をする主人をよそに、虎馬コンビが去り際に何度も頭を下げていたのが俺の胸を打った。


「やっと行ってくれたか……しつこい奴だった」

「すまん、待たせたな。ようこそギルドへ。君はカイとチノのパトロンだったかな」

「表現が直球すぎるだろ。いや合ってるけども」

「それよりなんの用だ?」

「おっと、そうだったそうだった。斡旋希望者のリストを見せてほしいんだよ。どういう連中が集まってるのか気になってね」

「ほう、君もか。情報収集に余念がないな」


 ニヤリと片側の口角を上げながらおっさんが一覧表を見せてくる。


 しかし「君も」ってことは、俺以外にも同様の下調べをやってる奴が複数名いるってことだよな。考えることは皆同じか。


 まあだからって目的は変わらない。ささっと閲覧する。


 名前、ランク、出身地、それから備考が記されていた。


 備考欄はまあ、アピールポイントを書く場所だな。軽く眺めていると「前衛・片手斧と盾」といった簡潔な自己紹介や、「ヒーラー優先」のような仲間への要望、あるいは「光銀鉱のラメラーメイル保有」みたいに装備品の良好度をアピールしている奴もいる。


 そしてランクに目を通してみると、ずらっと並ぶC、C、C。


 低いランクは見当たらない。


 もっとも、これは別に奇妙な傾向ではない。Cランクで発行される通行証がないとよその町からは来られないし、地元の冒険者は親しい間柄の奴と組むケースが多そうだから、斡旋希望者の名簿は自然とそうなってしまうんだろう。


 実際、フィーの出身者はほとんどいなかった。


「この斜線が入ってるのはなんなんだ?」


 いくつか人名が消されているのが目に止まる。


「それはチームが決まったってことだよ。めでたいことだ」

「へえ」


 早い段階で話がまとまった人たちってことか。


 傾向としては、やはりと言うべきか備考欄に「魔法使用可」と書いてある奴の名前が多く消されていっている。


 それと、この表に載っているのはごく少数だがBランクの奴もだな。同じ前衛タイプを味方に招くなら、そりゃあ当然腕のいいほうを誘うわな。


 けれどその中に、まだ斜線が引かれていないBランク冒険者を見つける。


「まだこいつフリーなのか。勧誘が殺到しそうだけどな」

「そりゃそうだ。その男はたった今登録したばかりなんだから」

「え?」

「さっきの話のくどい戦士だよ」


 即座に再確認する俺。


 デヴィン。Bランク。デルガガ出身。


 それがあの男のプロフィールらしい。


 備考欄も見てみたが、『私は私の力を必要とする者の味方だ!』としか書いていないのでよく分からなかった。


 彼はきっと備考の意味を勘違いをしているのだと思われる。


「少し世間話もしてみたが……まあ正確にはさせられたんだが、あいつは鉱夫の町デルガガの生まれだけあって、力自慢の獣人を率いて採掘の旅をしているらしいぞ。大会の参加目的は自分がどれだけ強くなれたかの腕試しだとさ」

「デルガガってレアメタルがよく採れる地方だったっけ」

「ああ。この町にいる間は金を掘って滞在費を稼ぐ予定らしいから、もしかしたら君も鉱山に行った時は出会うかもな」

「ええ……」


 どうしよ。あんまり会いたいタイプの人間じゃないんだけど。


 なにかと暑苦しそうだし。


 ……とはいえ、少なくとも明日は絶対に出くわすことはないから一安心できるか。


 闘技場にカイとチノの勇姿を見に行くんだからな。

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