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俺、貯蓄する

 帰路に着いた俺はクタクタだった。


 魔物と戦うよりしんどいことがこの世界にあるとは思わなかった。


 それで得られたのがほんの僅かに銀が混じった石ころひとつって、割に合わなすぎる。


 俺は二度と自力で採掘なんかしないことを誓った。


「おう、お帰り。上層には行けたか?」

「それは楽勝。銀もほら、ちっこいけど取ってきた」


 斡旋所で出迎えてくれたおっさんに銀の鉱石を渡す。


「こっちはすげー手間かかったぞ。絶対次はやらねぇ」

「ハハハ、いい社会勉強にはなっただろう?」

「ああ、理解したよ。俺に鍛冶の注文は向いてないってな」


 とにかく、納品は完了。これで依頼達成となり、ヒメリから預かっていたであろう6000Gを一括で支払われる。


 大してうまみはないが、まあ、臨時収入とでも考えておくか。


「直接渡してもいいんだぞ? いろいろ言ってやりたいこともあるだろう」

「ねぇよ。どうでもいい。勘違い女の相手をするのはもうこりごりだ」


 これは明確に嘘だった。反論材料も整ったことだし、本当は鼻を明かしてやりたいという気持ちは多々ある。


 しかし俺もそこまで暇ではない。明日からはまた金策の日々が待っている。


「そういえばシュウト」

「なんだよ」

「これがお前の初の依頼成功になるな」


 ……あー、そうなるのか。


「薬草採取はバックレたし、お尋ね者の討伐は別に誰かから頼まれたわけじゃないしな」

「普通、懸賞金を獲得するほうが後になるんだがな……ともあれ、これでお前も駆け出しは卒業だ。Eランクに昇格させておくよ」

「なにそれ」

「ギルド所属の冒険者にはランクというものがある。加盟直後は何の階級もなし。これは簡単な依頼だけを受けられる状態だ。で、ひとつでも達成したらEランクにステップアップする。受けられる依頼に幅が出るぞ」


 求人が増えるのか。資格みたいなもんだな。


「そこから更に功績を積み重ねていけば、ランクもそれに従って上がっていくぜ。ある程度上がれば通行証を発行してやれるようになるから、他の宿場町にも遠征できる」


 別の土地に行けるのか。


 ゆくゆくはボロ家を手放し、大都会にでかい屋敷を建てて豪勢な生活をしてみたいものだ。


「けどこの港町だって、王都を除けばドルバドルでもかなり栄えてるほうだぜ?」


 見捨てたもんじゃないぞ、と弁解してからおっさんは続ける。


「それと、上位ランク限定で要請される依頼もあるから、でかく稼ぎたいならランクは上げておいて損はない。名うての盗賊団や暗殺者集団の相手をしようと思ったら、それなりの腕と実績が求められるからな」

「おいおい、受けられないと分かってて盗賊団解体すりゃ稼げるぞとか言ってたのかよ」


 こいつ、どうせ俺が断るだろうと踏んでハッタリかましやがってたのか。


「お前が一度で大金を得たいって無茶言うから例として挙げてやったんだろうが。結局近道なんてのはないってことだ」


 俺にはあるけどな、と口走りたくなりそうになるのを堪える。


 さておきだ。


 高ランクの依頼自体には食指は動かない。頭のネジが外れてそうな反社会勢力と戦ってまで高額報酬を取りに行く意義は、女神がくれた資金アップスキル持ちの俺には一切ないからな。そんなリスクに身を投じるくらいならゴブリンでも狩ってたほうが賢明だ。


 だがランクには関心を寄せていた。要するにこれは俺の世間的な地位みたいなもの。どんなに金を持ってても「え……でもEでしょ?」みたいな扱われ方をするのは虚しい。


 そういう意味ではヒメリの依頼をやっておいてよかったな。


「感謝しとけよ。銀一個持ってくるだけの依頼なんて、こんな楽な条件ないんだからな」

「そっか」


 となると、あいつは俺が冒険者としてやっていけるよう背中を押してくれたのかも知れない。


 まさか……ツンデレってやつなのか?


「真面目な話をすると、ランクも持ってないような奴に抜かれそうなのが納得いかないから、とりあえず箔だけつけておいて安心したかったんだろう」


 そういう無情な意見は求めてない。


「だが鉱山も余裕だったとなれば、次は湖畔くらいしか今のシュウトが行けるところはないな」

「お? 他にも探索できるとこがあるのか」

「西にずーっと行けば広大な湖がある。周辺に生息する魔物が手強いのは当然として、遠いから野営の支度もいる。本来Eランクで立ち入るような区域じゃない」

「肩書きはそうだが、実力は違うぜ」


 自信を持って言うと、おっさんはうむと頷いた。


「だろうな。なんせ一人で同時に三匹の賞金首を仕留められるくらいなんだから。……ここで採れる植物は珍しいものが多い。一度足を運んでみるのも悪くないぞ」


 ほう、なにやらレア素材が眠っていそうな気配だ。


「ただなぁ、ここの魔物はマジで強いからな。パーティーを組んで行くような場所だぞ? うちではパーティー結成も仲介しているが、どうする?」

「いや、行くなら今回も単独だ」


 そうはいっても一人は心もとない。仲間を募れというのは真っ当な忠告だろう。


 やはり名実ともに必要なようだな、アレが。



 翌日から俺は鉱山でのオーク狩りにいそしんだ。


 最上部に出現するこいつの撃破報奨は一匹あたり一万G。


 絶好かどうかは不明だが、まだまだ探索範囲の狭い現状においては一番の金策スポットといえる。


 一度倒した経験のある魔物なのでそう苦労はしない。かつてはびびりながらの戦闘を強いられたけれど、被害がないと分かっていれば恐れる必要はなかった。


 遭遇する、ボコる、金貨を拾う。


 単純作業の繰り返しだ。


 二日目の昼過ぎには予定どおり設定金額の百万Gに達したが、足りない可能性も考えて次の日も狩りを行った。


 三日三晩働き詰めという、怠惰な俺にしてはありえない量の労働である。


 結果として、俺の手元には百五十万Gという莫大な資産が残った。これ、金運がなかったら果たして何日がかりだったんだろうか。


「短いようで、長い旅路だった……」


 オーク狩りを始めてから三日目の夜、自宅に戻った俺は金貨の群れを前にしてそわそわと浮き足立った気分に襲われていた。


 落ち着けというのも無理な話だろう。


「これで……これで……」


 そう、これでついに買える。


 俺の奴隷が。


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