俺、復習する
「これ、もしかして……全部レアメタルですか?」
金属の虹を目にしてカイはびっくらこいていた。そういう真っ正直なリアクションが返ってくると俺もやり甲斐が出てくるってものだ。
「そうだ。この武器でチームの戦力をグンと引き上げる」
「ちょ、ちょーっと整理させてくださいよ。この七本揃えるのにいくらかけたんですか?」
「新しく買っただけで百五十万Gくらいかな」
「ひゃくご……?」
金額を聞いただけで卒倒しそうになるヒメリ。
「基準にできそうだからって食費換算するなよ。大体八ヶ月くらいだろうけど」
「しませんよ! あとそこまでではないです!」
微妙にありえそうな数字だったので強めに訂正された。
カイとヒメリがにわかに沸き立つその一方で、三角帽に長袖のローブというザ・魔法使いファッションのチノは手持ち無沙汰にしていた。まあ今のこいつが置かれてる状況ってのは俺が本の山に囲まれてるようなものだから、心中は察せられる。
「チノの分の武器は明日だ。一緒に魔法屋に買いに行こうぜ。俺じゃ杖や水晶の良し悪しは分かんねーからな」
そのへんの詳しい話は明日に回すとして。
「早速だが、一本ずつ簡単な説明をしていくぞ。今の段階じゃ向き不向きは判断できないから、まずは好みで頼む」
俺は昨晩まとめておいたメモ書きを取り出し、剣についての講座を始め……ようとしたところでヒメリが苦笑いを浮かべてツッコミを入れてきた。
「先生役、恐ろしく似合いませんねぇ」
「ぐっ……反論できないことを……」
「そんなことないです。指南するシュウト様も素敵ですよ」
自覚がある分だけ効いた言葉のナイフの傷を、すかさずミミが励まして回復。
魔法だけでなく言葉でも癒しを与えてくれるからミミは暖かい。
「不慣れなことには目をつむれ! 始めるからな!」
俺は無理やりにスタートさせた。
まず最初に、青と銀の美しい刃が特徴的な剣を地面から引っこ抜く。
「こいつは海洋鉱のカットラス。見てのとおり小振りだが、その分軽くて扱いやすいし、水のカッターを射出できる。このナリで遠近両用なのがいいところだな」
装備に不自由していた時代を支えてくれた相棒だけあって俺にも思い入れがある。
性能としては他の武器に比べてやや見劣りするが、その使い勝手のよさは天下一品。まだまだ現役を張れるはず。
次に一際刀身の長い剣を。
「これは土竜鉱のツヴァイハンダーだ。冗談みたいに重くて取り回しに難アリだが、リーチもあるし威力もやばい。俺が今まで使ってきた剣の中で最強はこれだな」
「オレはこれが気になります。両手持ちの剣ですよね?」
大剣慣れしているというカイは、やはりと言うべきか興味を引かれている。
「そうだけど、ただすげーでかいぞ? 俺の身長に合わせて作られてるし。それでも構わないってんならいいけどな」
まあ『とりあえずの一本』を決めるにはまだ早い。
最後まで聞いてからでいいだろ、と告げて、続きを進める。
「このブロードソードは征鳥鉱とかいう名前のレアメタルがベースになっている。すげー綺麗な緑色だろ? で、性能のほうだが、幅広な割に見た目ほどは重くない。軽めの金属で作られてるからな。持ち方は片手でも両手でもいけるとは思うが」
「これは私もよく知っていますよ。宝石鉱山では大車輪の働きをしてくれていましたから。ただ両手で振るには軽すぎるかも知れません。そこは懸念材料ですね」
しっかりと力が伝わる両手持ちの剣がご所望らしいヒメリは、さほど食指が動いていないようだった。
当たり前だが軽いということはその分だけ破壊力の面で損をする。
カイにしてもヒメリにしても、なんちゃって冒険者の俺とは違って真っ当な剣士。威力の高は最も重要視したいポイントらしい。
「あとこれ、追加効果も闘技場向けじゃないからなー。風にはほとんどダメージないし。戦闘を避けたい時は役に立つけど、闘技場じゃ戦闘しねぇと意味ないからな」
というか。
「お前ら両手両手って条件に挙げてるけど、片手剣は使えないのか? 使えるものなら盾なんかも使って欲しいんだが」
冷静にパーティーメンバーの役割を再確認しよう。
ヒメリは両手剣装備のアタッカー。
カイも両手剣装備のアタッカー。
チノは兄いわく元素魔法を専門とするソーサラー。
……。
改めてみるとバランス最悪だな。
「恥ずかしい話ですけど、オレ、盾とか持ったことないですね……重くて攻撃力の高い剣を装備するために鎧も犠牲にしてるくらいですし」
カイはポリポリと耳の裏をかく。
「ヒメリ、人生の先輩としての選択をするチャンスだぞ」
「私がタンクを務めるということですか? むむ……ひ、必要とあらば」
「おっ」
少年少女と組んだ時点で年長者としての自覚が芽生えつつあったのか、意外にもヒメリは「考慮してみます」と大人の回答をした。
そもそもヒメリ自身もチームが抱える欠陥を把捉していたのだろう。
確認した大会ルールだと薬品アイテムの持ち込みは不可になっていたので、この構成だと回復手段は皆無である。ヒメリが唯一使える再生魔法がよりにもよって日常生活向けのリフレッシュなのが貧しさに拍車をかけている。
しかし粗探しをしても仕方ない。このパーティーでいかに勝つかだけを考えよう。
「そういう意味ではこの玄霊鉱のファルシオンは使いどころがありそうだな」
「あっ、それはオレも見たことあります! リステリアの地下迷宮で拾える武器ですよね? 剣闘士の中にそれと同じ剣を使っている人がいますよ」
初見ではないというカイの発言にはチノも頷いている。
二人にとってこの漆黒の刀身はそれなりに見慣れたものらしい。まあランダムとはいえ隣町で入手できる武器だし、この土地に所有者がいても不思議ではないか。
「魂の火とかいうオプションを出せば回復に使えるらしいからな……あまり長くもないから両手で持つには不十分だろうが」
体力を分割できるこいつを導入するとしたら、自動的に傷や疲労を取り去る『治癒のアレキサンドライト』とセット運用になるだろう。
「といっても机上の空論なんだけどな、今のところは」
そのへんも含めて色々と模索していくか。人数が多い分試行回数も稼げるだろうし。
「……で、ここからが新しく手に入れた武器になる。ぶっちゃけ俺も詳細はまだよく分かってないから説明不足があっても勘弁してくれよ」
そう前置きして、俺は波打つ刃にオリオンブルーのきらめきを宿した長剣の柄に手を置いた。