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俺、悪用する

 質より量がこのアンデッドの本領に違いない。


 実際問題物量で攻められると、アホみたいな殲滅力の魔法や剣で大立ち回りするなどの広範囲攻撃手段を持っていなければ誰であろうと苦戦を強いられるだろう。


 討伐困難というのはマジもマジらしい。


 ホクトが持ちこたえている間に数減らしにかかる。


 数は確かに多いとはいえ、一体一体は雑魚。ささっと火の矢で射抜けば瞬殺だ。


 同じく炎を繰るミミと共にスケルトンを掃討し、ようやく射線が開ける。


「今度こそやってやりますにゃっ!」


 ノーライフキングに向けて聖水の瓶を投擲するナツメ。


 が、またしても泥をかき分けて親衛隊が出現し、こちらの企みを阻む。


 玉座に背中を預けたノーライフキングは手を打って喜び、そしてこちらを嘲弄する。


 おいどうすんだこれ。鉄壁にもほどがあるんだが。


 そうしている間にも剣士フォルムのスケルトンが湧き直し――。


「……ん? 待てよ」


 俺はそこでふと、地面に散らばる硬貨の輝きに目がいった。


 召喚されたこいつらも普通に金を落とすのか。


「待て待て待て待て待て待て。ちょっと計算させてくれよ」


 壁役として湧いてくるのが通常のスケルトンだから、一体につき6000G。


 攻撃手段として湧いてくるのが剣持ちだから、一体につき一万G+二束三文の素材。


 一度に呼ばれる個体数は、前者が十体、後者が五体。


 こ、これは……。


「なんてこった……俺はついに金のなる木を見つけてしまったのか?」


 というわけで。


「業務連絡。あの椅子に座ってる奴はしばらくシカトするよーに」


 急遽生かさず殺さずの戦闘に切り替えた。


 ナツメはアイテム係ではなく、ダメージと疲労を一手に引き受けるホクトの回復に専念させる。速さだけでなく、こういう持久戦にも対応しているからこいつは便利だ。


 スケルトンを狩るのは俺とミミの仕事。


 出てきたそばから焼き尽くす。


 ひたすらに倒せば倒すほどに、地面を覆う金貨の枚数は膨れ上がった。


 尋常ならざるフィーバーだ。完全に設定六。


 とはいえ面倒ではある。スケルトンの防御力は中の下未満だが、まとめて退治する手立てを持っていないからな、俺たちは。威力はそこそこでいいから一挙に薙ぎ払える攻撃方法があればそりゃもう超の字が七個はつくハイペースで金を稼げたことだろう。


 ノーライフキング出没注意の情報が広まっているのか、この通路は他の冒険者から避けられているようで、誰かが「ちょっと通りますよ」と首をつっこんでくる様子もない。


 第一層じゃないからいくら討伐したところでビーストフォルムも出現せず。


 俺とノーライフキングだけの秘密のランデブーである。


 心を無にして火の矢を飛ばし続けた。


 ああ、この感じ、深夜にライン工のバイトをしていた時期を思い出すな……。


 反復作業に没頭し、いい加減時間の感覚がなくなってきた頃。


「あ、主殿、いくらなんでもこれ以上の戦利品は持ち帰れないであります!」


 困惑気味のホクトがタオルの投入を求めてきた。


 正論である。


 金貨もそうだが素材も凄い。折れた剣の残骸が堆く積み上げられている。


 ガラクタとしか言いようのない鉄クズの山なのだが、これを納品すれば教会の心象がよくなる=アリッサのウケがよくなる=おっぱいという図式を考えると、途端に光り輝いて見えてくるから不思議だ。真に不思議なのは単なる脂肪の塊に興奮を覚えてしまう人間のオスの習性だが、俺はそんな無粋な話はしたくない。


 けれども回収するためには戦闘を一旦終えなくてはならない。


「そろそろ本体を叩くか……大体のパターンも把握できたしな」


 これだけ何度もアンデッドが湧き出る場面を見ていれば、さすがの俺でも戦略が立つ。


 まずは適当に玉座の主へ矢を射る。


 当然のように手下たちの体を張った防護障壁によって妨害されるが、そこは問題ではない。重要なのはその後に召集をかけられる剣を携えた部隊。


「ホクト、きついだろうけど頼んだぞ」

「了解であります!」


 ホクトは明朗な声で返事しながらも、こう言った。


「ですが主殿、それは恐れ多い心遣いであります。自分はいかな逆境も苦しくなどはありません。主殿の恩義に報いることこそが自分の喜びなのですから」


 攻めこんでくるスケルトンに、タワーシールドが突き出される。


 防御に徹するだけのホクトは、五体の敵から一方的に袋叩きに遭って……いるように傍目には映るが、実のところ微塵も危険には陥っていない。


 所詮は第一層で門番役をやっているだけの、階層不相応な魔物。


 強健な身体を頑丈な防具で固めたホクトに通用するはずがなかった。


 俺はそいつらを無視し、壁を担当するスケルトンをミミと足並み揃えて全滅させる。


「シュウト様、次が来ます!」

「分かってるって」


 全滅ついでに奥のノーライフキングにも牽制として火の矢を放ったのだが、それも新しく出現したスケルトンの軍団に防がれていた。


「次を来させるためにやってるんだからな」


 繰り返すが、これは問題にはならない。狙い通りである。


 半分まで減らすと剣士フォルムが地面を突き破って姿を現す。


 十体を同時に相手するホクト。


「なるべく早く終わらせてやるからな……おらっ!」


 急いで残りを焼き払う。


 それから再三に渡るノーライフキングへの攻撃を行ったのだが、これまでとは違い、王を守るために身を投げ出したスケルトンは五体止まりだった。


「鮮魚を薫り高い香草焼きに仕立てるための火!」


 ミミの火球がすかさず飛ぶ。俺も負けじと魔力の矢で追撃。


 呪縛が本命である俺の黒炎とは違い、ミミが操るかまどの火の燃焼作用は凄まじい。標的をオーバーキルの消し炭に変えてしまう。


 炎の嵐に包まれて後列にいる連中が火葬されると、例に漏れず、ノーライフキングは攻めに転じて剣士フォルムを呼び寄せる。


 前線のホクトに襲いかかるスケルトンの数は、ついに十五に達した。


「今だナツメ! 思いっ切りやってやれ!」

「承りましたにゃ! うみゅう、豪速球でいきますにゃ……にゃあっ!」


 大きく振りかぶってナツメが聖水を投げつける。


 幾度となく撃墜されたその瓶がスケルトンの壁に防がれることは――なかった。


「……やっぱりな」


 観察していて分かったが、同時に使役できるのは十五体が限界。数を調整して攻撃にのみ人員を割かせるようにすればガードはガラ空きだ。


 技を誘ってからの反撃、という一貫した戦術が仇になったな、王様よ。


 聖水をモロに浴びたノーライフキングは顎の骨をカクンと落として呆気に取られている。


 相変わらずの人間臭い仕草でどことなく憎めない奴だが、スカルボウが軋むほどに目一杯引き絞った弦を、今更反故にはできない。


 照準をドクロの顔面に合わせる。


「りゃっ!」


 銀の矢はまっすぐに飛んだ。


 弓から頭蓋骨までの点と点を、歪みのない線で結ぶ。


 どれだけ偉ぶった態度を取ったところで、器の肉体はその辺のスケルトンと変わらないという恥ずかしい事実が、盛大に爆ぜた骨片のせいで明るみに出た。


 末期の訪れは平等。


 屍の王は、そこで潰えた。


 所有者の死に殉ずるように玉座も消滅する。


 いや、もしかしたらこっちこそが本体なのかもな。なんとなくそんな気にさせられた。


 強敵の散り様を見届けた俺はふうと一息つく。


 俺の冒険者稼業史上に残る長期戦だった。そのうちの大半は無限1UPみたいな裏技じみた作業に費やされているのだが。


 その甲斐あって、俺の前には金貨の海が広がっている。数えるのも億劫な量だ。果たしてどれがノーライフキングのドロップ分なのかも区別がつかない。


 全員で手分けして拾い集める。おまけの素材も忘れずに。


「ご主人様、見てくださいにゃ~。王冠ですにゃ。えっへん!」

「それオモチャじゃん。すげーチャチな作りだな、こうして間近で見ると」


 得意げにナツメが頭に載せたそれは安っぽい金メッキとビー玉で出来ている。


 どうやらこいつがノーライフキングのドロップ素材らしい。


「……一個から納品受け付けてくれんのかな……」


 いずれにしても、今日はここで帰還しないとな。荷物が多すぎる。


 ホクトだけでなく俺とミミも皮袋を担いで、近場の魔法陣を探す。


 どれも同じなのでどれでもいい。地図の説明書きにあるように全部上層に昇るだけのものだし。


「おっ、あったな。これでいいか」


 通路を抜けた先で見つけた魔法陣に飛び乗り、俺たちは第四層を離脱した。


 ……第四層、を離脱できたのは間違いなかった。


「な、なんだここ……?」


 だが到達したのはすぐ上のフロアではない。


 転送された瞬間に風向きのおかしさを感じた。俺の目の前には、揺れる水面にミミの灯火を映し出す、直径にして百メートル規模の地底湖が広がっていたのだから。

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