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俺、焼却する

 皆と合流を果たしたら即刻地下層に。


 先陣はホクトに切らせていた。


 ミミがふわりと飛ばした灯火に照らし出される中、荷物と共に巨大な盾を担ぐ後ろ姿には惚れ惚れさせられる。


 底知れぬ馬力を感じるな。


 とはいえデカブツを呼び寄せるつもりがない以上、撃破報奨の少ない第一層のスケルトンと戦う意味はないのでさっさとフロアを移動する。


 柱に支えられた第二層を散策する俺たち一行。


 この階層は地面から魔物がぞろぞろと湧いてくるので片時も油断ならない。が、今回ばかりは早く出現してきてほしかった。なぜなら……。


「おっ、やっと出てきやがったか」


 お待ちかねのターゲットの登場だ。


 背負った矢筒から銀の矢を一本抜き、腐臭を撒き散らしながら這い上がってきたゾンビに向けて、弓を立てて構える。


 同時にミミもかまどの火を放とうとしたが、俺はそれを声で制した。


「どのくらい効くか知っておきたいからな」


 新装備の試し撃ちだ。スカルボウ側面に設えられた円錐状の装飾を矢印代わりに使って照準を調節しつつ、キリ、キリと胸の筋肉で弦を引っ張り――。


「りゃっ!」


 指を離す。


 矢は目視可能な放物線は描かず、ほぼ地面と平行に等しい直線軌道で飛んでいく。


 ゾンビを狂乱させるにはその一射さえあれば事足りた。


 銀の鏃が突き刺さった箇所を観察すると、その部分だけ肉が溶けていて、硝酸でも浴びせられたかのようになっている。


 やがて煙へと成り果て、跡にはボロ布の覆いかぶさった金貨が残った。


「うおお……マジでつえーな、銀」


 生産コストを度外視して手配しただけあり、ことアンデッドで埋め尽くされた地下層においては絶大な効果を誇ってくれるらしい。


 これならゾンビ相手に聖水と聖灰は必要ないな。第二層では温存できるか。


「わあ、シュウト様、今度の武器は洗練されてますね。とてもとても格好いいです」


 弓矢の貫通力とスタイリッシュな攻撃スタイルにはミミもご満悦だ。


 で、スカルボウの感想だけども。


「ちょっと違和感があるな。なんか物理法則ってやつに喧嘩売ってる感じがするし」


 骨だからか樫の弓に比べてしなりが少ない。そのくせ発射された矢の速度は遥かに増しているんだから、不思議なものである。


 それと、おっさんに指摘されたとおりテンポがよくないな。どうせ一撃で倒せるならミミが魔法を唱えたほうが断然早い。こればっかりは修練あるのみか。


 ただ、骨製の飾りをポインタにする撃ち方はなんとなく理解できた。


 弓に何個もくっついた獣の牙じみた形のパーツは一見すると単なるカッコつけた装飾品にしか映らないが、鋭く尖ったそれぞれには微妙に角度がつけられていて、先端を目で追うと自動的に矢の焦点が合うようになっている。


 この機能を活かせば敵をロックオンするまでの時間を大幅に短縮化できるだろう。


 習うより慣れろだな、それこそ。


 にしても、余分な手間だったろうに職人のおっさんも心憎いカスタマイズをしてくれたもんだ。俺を初心者と睨んでの仕様だろうけど、ありがたく役立たせてもらおう。


 あと気になるのは追加効果か。


「こういうのは大概、矢に対してなにかしら作用してくれそうなもんだが……」


 矢をセットした状態で念じてみる。


 なにも起きない。


「まさか、接近戦にも対応してます、とかそういうことだったりして」


 弓自体をブンと振り回してみる。


 なにも起きない。


「む……じゃあ小突いたり叩いたりなのか。脆いのにそんなことして大丈夫かな」


 矢柄で弓を二度三度叩いてみる。


 なにも起きない。


「なんだこれ。不良品か?」


 俺は秒でおっさんへの感謝の心をなくしていた。


 いやいやいや、結論早すぎ。あの腕の立つ職人がそんな初歩的なミスをやらかすはずないでしょ……と俺の中の天使がなんとか人を信じる心を取り戻すようささやきかけてくれたので、完全な畜生道に落ちることは寸前で回避する。


 すまんおっさん、疑って悪かった。もうちょい粘ってみるわ。


「別のやり方を試してみるか……他にどんなのがあるっけ」

「矢なしで弦だけ引っ張ってみたらどうですかにゃ? これでできたらすっごく魔法っぽいですにゃ」

「それだ」


 ナツメの案を採用。


 可能性の塊ことスカルボウを少し傾けて構え、ギュッと引き絞る。すると。


「うおおっ!?」


 ないはずの矢が顕現した。


 正確には、矢のフォルムをした炎が、である。


 矢の周囲ではちぎれた火が飛沫のように舞っている。


 だが、元々がアンデッドの骨だったせいか、炎は鮮やかな緋色ではなく――地獄から呼び覚まされたかのように禍々しい黒色をしていた。


 さすがの俺も驚きを隠せない。原理は不明だが、これだけありありと燃え盛っているのに弓を引く俺自身はまったく熱くないというのも戸惑いに拍車をかけている。


「っていうかこれ、指離せないんだけど」

「ぎにゃー! 熱いですにゃ! こっち向けないでくださいにゃ!」

「そんな逃げなくてもいいじゃん」

「ふにゃああああああ!? フーッ、フーッ!」


 仕方ないのでこの体勢のまま適当な魔物を探すことに。


 こういう時に限ってエンカウントするまでに間が空いたのだが、十字路を曲がったところで念願の的、ゾンビ鳥を発見。


「あいつにぶつけるか。いい加減腕も限界だし……でやっ!」


 作り置きしていた炎の矢をぶつける。


 俺の指を離れた途端、邪悪な炎は螺旋状に渦巻いた。その回転は推進力となり、魔物に届く頃には本来減衰するはずの矢の勢いがピークに達していた。


 加速している。


 そして炎なので当然、着弾地点から大きく火の手は広がっていった。


「おお! 凄いな、こりゃ」


 しかもめっちゃ見た目がいい。魔力で精製された上にダークな黒い炎って。


 やばい、もう気に入ってしまったんだが。


 もっとも威力という観点で見てみるとそんなに甚大ではなかった。銀と並んでアンデッドに特攻であるはずの火なのに標的が一発では倒れていない。


 普通に矢を射るよりもダメージは低そうだな。矢束は節約できるとはいえ。


「まあ、レアメタルほどには魔力はない、とは聞いてたけどさ」

「にゃにゃっ!? ご主人様、来ますにゃ!」


 敵のモーションの変化に真っ先に気づいたナツメが警鐘を鳴らした。


 ゾンビ鳥は火をボロボロの翼ではたいてかき消すと、随所が焼け焦げてしまった肉体に構うことなく捨て身の突進を始める。


 その進撃は二枚の盾をかかげたホクトが強硬に防いだ。


「させぬであります!」


 タワーシールドの防御性能と、それを扱うホクトの膂力が遺憾なく発揮される。


 湿地で繰り返し練習していたから盾さばきは格段によくなっている。機敏にステップするリザードマンに比べたら、ノロマなゾンビなんて屁でもないだろう。


「さあ主殿、次なる一手を!」

「分かってるっての……そらっ!」


 空っぽの弓を引き、炎の矢を更に作り出す俺。


 所要時間を意識して照準を固定。コンマ数秒呼吸を整えてから発射する。


 流れる火が彗星のように尾を引いた。


 黒ずんだ焔に穿たれ、死の現実から逃れ続けた魔物はやっとのことで成仏した。


 ドロップした金貨はナツメが素早くかき集める。


 この編成も悪くないな。前衛ホクト、後衛が俺とミミ。自由に動けるナツメがサポートとアイテム回収要員。剣がなくなった分瞬間火力は落ちたが、安定感はある。


 なんといっても楽だ。俺が危険に晒される場面が激減している。


 後ろにいていいってこんなにも幸福だったのか……。


「けど追加効果がイマイチなのは痛いな」


 せっかくの格好よさなので、積極的に使っていきたいという気持ちもあるが。


「しゃーねぇ。銀の矢だけにしとくか。火ならミミもいるし」

「……ですがシュウト様、ひょっとしてですけど」


 ほんの少しだけ思索していたミミが口を開く。


「ダメージ以外にも効果があるような気がします」

「本当か? 全然そんな感じしなかったけど」

「あの炎からはミミの魔法と同じものを感じました。もしかしたら呪縛を与える効果があるのかも知れません」

「ふーむ、なるほどな」


 呪術魔法を得意とするミミの見立てなので、信憑性は高い。


 素材元もおどろおどろしい亡骸だし、なによりあの邪悪な色彩だ。そういった特質が秘められていてもありえなくはないな。俺のセンサーがそう告げている。


 とはいえ二発で倒せる相手から呪いのありがたみを享受できるはずもない。


 落とす資金もそこそこ止まりだし。


「どうせならレイスの野郎で試さねぇとな」


 下降用の魔法陣が設営されたポイントまで進み、いざ、第三層へ。


 再挑戦だ。

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