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俺、買物する

 早めの夕食を済ませて帰宅した俺は、大いに頭を悩ませた。


 何も困っているわけではない。


「どう使うかなー、これ」


 数えてみたところ、レッドウルフ三匹が落としただけでも金貨二百四十枚。


 これに懸賞金や他の魔物から得た硬貨を合わせると、総額三十万G近い資金を俺は今日一日で稼ぎ出していた。


 途轍もない額だ。しばらくは遊んで暮らせるだろう。


 しかし……しかしだ!


「まともに遊べねぇんだよ、この世界じゃ」


 俺は下半身のうずきをなんとか鎮めた後で、これだけ金貨があってもまだまだ目標金額に足りていない事実を噛み締める。


 女の奴隷を買うには最低でも百万Gは必要。現状は半分にも達してない。


 まだ軍資金の段階だ。ここから更に増やしていかねば。


 考えられる用途は二つ。


 一つ目は貯金。奴隷を買うという目的のために、一切手をつけずに取っておく。


 二つ目は新しい装備の購入。武器は問題ないが、よりよい成果を目指すなら防具はもっといいものにすべきだ。


 さて、どうするか。


 前者を選ぶのであれば、このまま地道に森で雑魚狩りにいそしむことになる。今日のように一気に稼げる機会が巡ってこずとも、一週間から二週間あれば百万Gには到達するはず。これは安全な道だ。


 片や後者を選べば他の場所にも探索に行けるようになるだろう。そうなれば受けられる依頼や討伐できる魔物にも幅が出るし、結果的に稼ぎの効率はよくなるに違いない。その上、俺の評判も高まる。ただし相応の危険は伴うが。


 リスクとリターンを天秤にかけ、俺が下した結論は……。


「……起きた時でいっか」


 とにかくもう、眠い。



 翌日午前、俺は町中を歩いていた。


 最終的に俺は、装備を整えて派遣可能な範囲を広げるという選択を取った。一種のギャンブルだが、そうしたほうが長い目で見れば有益なはず。


 なによりも依頼をこなしていかなければ名声は上がらない。


 奴隷を買うのもいいが、普通にモテたいという願望も捨て切れなかった。


 楽に生きるのは容易。しかし楽しく生きようと思ったら一歩踏みこまなければならない。


 金を稼いで、名声も得る。一挙両得を目指すべく、俺は高品質の防具を探す。


 ……で、どこにそんなもんがあるのかという問題だが。


 俺にはアテがある。昨日の斡旋所とのおっさんとの会話の中にヒントが隠れていた。


 一応、革細工職人のところに行き普通の狼の毛皮で何か作ってもらうことも検討してみたが。


「あのなぁ、衣服の素材にするったって時間がかかるんだぞ。塩漬けに一週間、塩抜きに一週間、それからようやく革になめして、更に加工が……」


 と長々と説教されたので、下取だけしてもらった。


 やはり当初の思惑どおり、『あそこ』に行くしかなさそうだな。


「おー、活気があり余ってんな」


 行き交う人々の合間をぬって吹いてきた潮風が、遠慮の「え」の字もなく俺の頬をなでる。


 俺が向かった場所とは、港だ。


 港の市場では、多くの耳の生えた男が魚やら荷物やらの詰まった箱を運搬していた。


 あれが獣人か。働いているということは奴隷だろう。純粋な労働力としてみた場合単価が高すぎるのか、女の奴隷は一人として見なかった。


 なぜ港なんかに来たのかといえば、交易品狙いである。


 斡旋所のおっさんの言葉が本当なら、レアな装備はこの町にある店では通常まず手に入らない。となれば町の外からもたらされる物資に期待するしかない。


 俺の所有しているカットラスも元はといえば交易船由来の代物、きっと掘り出し物が眠っているはず。


 とりあえず市場をうろついて、よさげな品がないか露店を見て回る。


「これはなんだ?」

「暴れ馬の革で作られたブーツだ。安くしとくよ」


 商人が手を揉むが、大して珍しそうでもないのでスルー。


 別の露店を訪ねる。


 二人の用心棒が睨みを利かせるその店では、武具類ではなくアクセサリーをたくさん売っていた。


「どうです、キレイでしょう? ただキレイなだけじゃなく、魔力を封じた宝石を用いていますから冒険者の方にも最適です」

「おっ、いいじゃん。俺が求めてたのはそういうのだぜ。いくらするんだ?」

「こちらのネックレスですと、特価で八十万Gでございます。お支払いは為替手形で結構ですよ」

「無理!」


 高すぎアホか。さすがの俺も踵を返した。


「くそっ、中々手頃なのがないな……」


 珍しい金属で鋳造されたという盾やすね当てはいくつかあったが、肝心の服が見当たらない。


 金属製の防具はいらんぞ。重すぎて身動き取れないしな。


「……おっ」


 手応えのなさに辟易してきた時、俺の目にとあるものが止まった。


 素人ながらに美麗と感じるほど見事な刺繍の施された、藍色のベストだ。これだけ丁寧な仕事がされているということは、きっと貴重な一品に違いない。


 すぐさま売りに出している商人に問う。


「これは……ベストだよな?」

「見たままだが」

「いやそういうことを聞いてるんじゃない」


 愛想悪いなこのおっさん。よく見たら商人というより船乗りって感じの風貌だし。


「ただのベストかってことか? 聞かれたから答えてやるが、単なるベストじゃない。これは大型のグリズリーの革で作られたものだ。表面に手の混んだ飾り布をあしらっているおかげでデザイン性も両立してある」


 グリズリーっていうと、熊か。それの大型版ってことはドン引きするほどでかそうだな。


 ベストをじっと見つめる俺に、おっさんはニヤリと不適に笑いかける。


「気になるか? 帯剣してる以上あんたも冒険者だろうから教えてやるが、この革には強化属性の魔力がこめられている。ベスト自体も頑丈だが、それ以上の耐久力を着ているだけで得られるぞ」

「おお!」


 それそれ。そういうのを求めてたんだよ。


「特に直接的な衝撃に対しては抜群に強い。鎧並とは言わないがな」

「そこまでの高望みはしねぇよ。軽けりゃなんでもいい。で、値段は?」

「一点ものだから高めにつけさせてもらうが、五万と7000Gだ」


 うむむ、確かに安くはない。とはいえ十分に支払える範囲だ。


 ただ、少しばかり疑念がある。


「……偽物じゃねぇよな?」

「商業ギルドから爪弾きにあうリスクを冒してまで、偽物なんてつかませるかよ。もしバレようもんなら俺は帰りの船から突き落とされて海の藻屑さ」

「よし、じゃあ買おう」


 俺は布袋から取り出した金貨を並べようとする。


「待った。もう少し商談をしようじゃないか。装飾品には興味がないか?」


 おっさんが手に取ったのは革紐のチョーカーだ。


「同じグリズリーの革を使ったものだ。奴らは図体が馬鹿でかいから、服を一着作っただけじゃ毛皮が余るんだよ。こっちは筋力に効果がある。セットで買うなら端数はまけてやるが」

「この際だからそいつもくれ」


 俺の貧弱さを補ってくれるならなんでも大歓迎だ。


 いや、すまん、なんでもは言いすぎた。もしここで頭につけるリボンとかを提示されていたらさすがにお断りさせてもらっていた。


 俺はおっさんに合計六万Gを支払い、その場で装着する。


 姿見がないから全身像がどうなってるかよく分からないが、なんとなく風格がアップした気がする。あとは効き目のほどだが……。


「……実際に試してみないと判断できねーよな」


 まだ昼飯時にもなっていない。今からどこかの狩場に出発しても余裕で帰ってこられるだろう。


 また今日も厄介になりに行くか。


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