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ラブカクテルス その23
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は愛雪でございます。

ごゆっくりどうぞ。


私は手を擦り合わせた。
寒い。
そう、私はいつも思う。この雪がココナッツだったらと。
しかし、いつまで経っても雪はココナッツにならなかった。
当たり前だ。
私は空想屋さんだ。
常に日常に嫌なことがあると空想の世界に入り込む。
そして私の都合がいい世界を創り上げる。
誰にも迷惑を掛けずに、そして誰にも邪魔されずに。
この辺の天気はいつも雪。
極寒の世界。
なぜにこんなところに生まれてしまったのか。
しかしそこは選べない。これから先はわからないけど。

私は学校からの帰り道にポストに手紙を入れた。
宛先は南国だ。
楽園と呼ばれる天国みたいな島があると聞いた。
私必ずやそこに行くのだと決めている。
そこには雪の代わりにココナッツが降っていると聞いたことがある。
それは甘い甘い白い粉だそうだ。
なんてメルヘンチックなんでしょう。
きっと南国の子供達はオヤツの時間になると皆一斉に空に向かって口を開ける。
それから裸になって日焼けって言う儀式で肌を黒く染めて海に入る。
きっと南国の海はお風呂のように温かく、ついでに体も洗ってしまうのだろう。
なんて素敵なんでしょう。
ここで海なんて言ったら氷しかない。
こんなところで泳ぐなんて信じ難い。
きっと海のどこかに大きなヒーターがあって海を温めて、南国に送っているに違いない。
また雪が降ってきた。
私は試しに口を空に向かって開けてみた。
やはり雪だった。私は急いで家に帰った。

家は留守だった。
当たり前だ。親は共働きで、夕飯の支度は私の仕事だ。
毎日遅くまで働く父と母に美味しい夕食を作って感謝するのが私の日課だ。
今日はあまり多くないお肉を少し入れてシチューにしてみた。
野菜はなるべく大き目に切って、ボリューム感を出した。
しかし、その夜の雪はかなり激しく、二人はなかなか帰って来なかった。

私には、宝物がある。それはココナッツクッキーの缶詰だった。
昔、まだ私が小さい時に父が珍しい物をもらったと、私の誕生日にくれたのだ。
そこには青い海と黒い肌の男の人、そして白い粉の掛かったクッキーの写真が描かれてあった。
私の世界はそこで膨らんだのである。
その後父が話してくれたのが空から降るオヤツの話。
その時の私もう、南国に飛んでいたのだった。
温水の海。綺麗な魚やアシカにトド。赤と黄色のペンギン、それにクマはきっとピンクだ。
人々は朝は泳いで魚捕り。
昼は日陰でお昼寝。
夕方は夕陽のオレンジに染まった海で水浴び。
夜は裸で月に向かって ダンス。
なんて素晴らしいのだろう。
そうそう、波にソリで滑る遊びもあると聞いたことがある。
私はそれから淋しい時や、心細い時にはこの缶を手に取って南国に行くのだった。

それにしても父も母も帰りが遅かった。
外を見るともう白い雪しか見えなかった。
何か大変な事になっていないだろうか。
私は心配になってきた。
コートを着込んで扉に手をやった。しかし扉は重くて開けられなかった。
きっと雪で閉じ込められたんだ。
私は一人、ここに捕われてしまった。
どれくらいまで雪は来ているのだろうか。
私はよく、雪を綺麗と言う人をたまに見かけるが、そういう人は雪の本当の怖さを知らないのだと思う。
雪は重く、冷たく、滑り、流れる。
私は雪が嫌いだ。
何もかも白くしてしまう。夢までも。
そんな気がするからだ。
私はとりあえず、火を消さないように努めた。
もしこの暖炉から火が消えれば、何分もしないうちに家の中も、私も冷えきってしまうに違いなかった。
私は思った。南国に行くまで死ねないと。
そのうち父と母が助けに来てくれる。それまでの辛抱だった。
私はココナッツクッキーの缶を手に取った。

いいアイデアが浮かんだ。
私は白い山に住む北の神に、雪を無くして、ここを陽気な南国にしてもらうように頼んでみることにした。
本棚にある、世界の神話の本を出して、北の神の呼び方を調べた。
本には、暖炉を消して神様の好きなチョコレートを白い息で香らせる。そして、自分の髪の毛を抜いてそれを結び、人が入れるくらいの円を作ったら、そこに鏡を二つ向かい合わせに置くと、そこに北の神は訪れるのだとあった。
私は早速試してみることにした。
しかし問題がある事に気付いた。
いくら探してもチョコレートが見つからなかったのだった。
私は考えた。しかし方法は一つ。イチカバチか、クッキーを使ってみることだった。
しかし、大事なクッキーを使っても成功するとは限らないし、もし現れたとしても、願いを聞いてくれる保証はない。
だけど今はそれしかないのだ。
私は腹をくくった。そして儀式はなんとか遂行された。

そして、やがて北の神は来られたのだった。

北の神は小さかった。合わせた手鏡の間で、ぽつんと立って私を見上げていた。
私は思いもよらない迫力のなさに、呆気に取られていると、北の神は私に、
おい娘。何の用だ。とりあえずチョコレートをくれ。と、無愛想に言ってきた。
私は慌てて、缶から一つココナッツクッキーを取り出し、手渡した。
北の神は、なんだチョコレートじゃないのかと、不機嫌にじろじろクッキーを見ると、ポイッと口に投げ込んだ。
私は唾を飲んだ。
そして北の神の様子を伺っていると、みるみるうちに顔がほころび、にこやかになった。
それからガラッと態度を変えて私に何の用かと訪ねてきた。
私はポカンとその変わりようを見ていて、また慌てた。
あの、あのですね、お願いがあってですね、呼んだんですけど。
すると北の神は言う。
私のカワイイ北の民の願いだ。聞いてみようじゃないか。
私は北の神に、早口でココを南国にしてほしいと言った。
すると北の神はまた、不機嫌になって怒りだした。
そんなに私が嫌いかと。
私は滅相もないと首を振った。そして、ココナッツクッキーの缶の絵柄を見せた。
私、ココに行くのが夢なんです。でもあなたが降らした雪のおかげで外に出れなくなりました。それにこの雪のせいで父も母も帰ってきません。
南国にはココナッツの雪が降るそうです。このクッキーに掛かっている白いのがそうです。素敵だと思いませんか。
すると北の神は少し悩んで、クッキーをもう一つねだってきた。
私は缶の中のクッキーを数えながら、また一つ手渡した。
北の神の顔はまた邑楽かになり、それなら雪をココナッツにしようと言ってくれた。
私は喜ぶと、北の神は手を伸ばして缶をよこせと言った。
私はどうしても一つだけ食べたかった。しかし、クッキーを一つ摘まんだ手を、北の神は指差した。
だめ。
私は一つだけと言ったが、北の神はケチで強情だった。
しかし私には切札があった。
後ろを振り返ると、そこには先に呼んでいた南の神がいた。
北の神は言った。
小娘、何のつもりだ。許さんぞ。
すると南の神が私の前に来て北の神をなだめた。
まぁまぁ、いいじゃないか。南国は楽しいぞ。
一緒に裸になってココナッツクッキーを食べよう。
すると北の神は穏やか顔になって同意し、私はココナッツクッキーを口に、口に。

もう、私の想像力は限界だった。
何とか握った缶を開けようとした。しかしその力なく、倒れた。
南国、南国、なん…ご…く…。
その時扉を叩く音がした。
私は意識が無くなる手前でそれを聞いた。

気が付くと、そこには父と母がいた。
そして、雪が止んで外はいい天気だということと、ドアにホウキが挟まって扉を固く閉めていたこと。そして仕事が忙しいくて二人共徹夜になってしまったことを教えてくれた。
私はホッとして父と母に抱きついた。
すると、父は私に一枚の封筒をくれた。
中を開けると、そこには南国行きのチケットが三枚入っていた。
私は気絶しそうなくらい喜んだ。
それを見た父は、本当はもう少し先の誕生日に渡そうと思ったのだけれどと言った。
私は抱きついてまわしていた手をほどくと、手にココナッツクッキーの缶が握られているのに気付いた。
私迷わずに蓋を開けると父と母に一つずつあげて、自分の口にも放り込んだ。
当然三人は笑顔になった。

今日は父が仕事で一年の一番忙しい日だ。
全てのことはこの日の為にあるのだそうだ。そして私の誕生日でもある。
父はソリに跨った。
私と母は外まで送りに出た。
気をつけて。
なんといっても仕事が終わって帰ってきたら三人で南国行きなのだから。

それじゃ行ってくると父は私と母にキスを済ますとトナカイに合図を送った。
トナカイ達は軽く空に舞上がった。
しかし父はあの赤い服と白いヒゲがよく似合う。
空には幾千ものサンタクロース達が翔び立って行ったのだった。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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