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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第一部 『ジェノサイド・リアリティー』
88/223

88.本当の友達

※ 85話からの設定を軽機関銃からアサルトライフルに変更しました。

「みんな、死にたくなければ動くな!」


 アサルトライフルを小脇に二丁抱えてそう叫んだのは、痙攣したように頬を引きつらせた御鏡竜二みかがみりゅうじだった。


最上級ハイエスト 放散フー 刻限ウーア 敏捷ロス


 人質達の前に着地した俺は、最上級ハイエストのスローの呪文を小声で唱える。

 モジャ頭の引きつった顔を見た瞬間、余裕をぶっこいていた神宮寺よりヤバい敵だと判断したからだ。


 俺の全力で準備を整える。

 そして、まず受け答えして相手の出方を見る。


「おい御鏡、この期に及んで何をするつもりなんだ?」

「これも、神宮寺執行部長の指示でね。人質の中に紛れていた僕が、万が一のときに活躍する作戦だったのさ」


 これも神宮寺の策か。さすが、何十にも策を張り巡らせたと言っていただけのことはある。

 俺に銃を向けた京華だけでなく、こんな駒まで用意していたとは、確かに策士としては一流だな。


 いや、自分が死んでしまった後に発動しても策に溺れるってやつだから一流には程遠い。

 しかし、モジャ頭は何をやらかすか分からない奴だ。こんな迷惑な隠し玉を用意しておくとか、最後まで意地が悪い陰険眼鏡め。


「御鏡もう止めろ、神宮寺は死んだんだぞ!」

「そ、そうだ……だから、僕が……僕こそが新しい執行部長だ! おい、執行部員ども。銃を拾って金を持って来い」


 やっぱりこうなったか、バカめ!

 こうなればもう殺り合うしかなくなるが、俺と御鏡の間には距離があった。


 これでは、スローの呪文でスピードを上げても。

 二丁のライフルを持った敵を撃つ前に殺るのは難しい。


「御鏡、本当に止めろ。見たら分かるだろ、アリアドネには銃弾が効かないんだ。お前だって死にたくないだろ?」

「だが人質は利くだろ! その金髪の剣士にライフルが当たらないなら、真城を含めて周りの人間を殺すだけだ。そうされたくなかったら、動くなよ!」


 チッ、どうする。

 俺なら御鏡は殺れる。その自信はある。だが、怖いのは流れ弾だ。


 俺は避けられるが、周りには他の生徒もいる。

 アサルトライフルを拾い上げた執行部員が散っているのも良くない状況だ。


 神宮寺と違って、モジャ頭は何をやらかすか分からない危険な奴だ。

 何よりも、二丁のアサルトライフルを引き金をかかる指がブルブルと震えているのが怖い。


 戦争映画のハリウッド俳優じゃあるまいし、本来両手で構えるべきアサルトライフルを二丁同時に構えるなんて無茶が過ぎる。

 無理やり肩紐をクロスさせてぶら下げているのだが、食い込んで首がしまってきてるのか顔が真っ赤になってきている。


 しかも、極度の緊張で手どころか肩まで震えているので射線がブラブラと左右に振れるのがヤバ過ぎる。

 これは、いつ銃を暴発させるか分からない。


 即座に殺ったほうが、まだしも安全というものだろう。

 御鏡さえ倒してビビらせれば、執行部員は一度は降伏した連中なんだから投降するだろう。


 俺が殺ると決断して動こうとしたとき、後ろから瀬木碧せきみどりが声をあげた。


「みんなこれ以上争わないでよ! 御鏡くん。君は金があればいいんだろ。僕達はそんなものいらないから、持っていけばいいじゃないか」


 そうか、取引で落ち着かせるつもりか。

 殺るしかないと思ったが、瀬木がそう考えるなら交渉してもいい。


 御鏡は極度に緊張しているのか、肩まで震わせながら叫ぶ。

 こちらとしたら、撃ったら殺すぞという姿勢で牽制するしかない。その引き金にかかってる指さえ退けてくれたら、撃つ前に殺れるんだが……。


「も、物分りがいいな。そうだ、僕は金を持ってクリアしたいだけだ!」


 瀬木の説得は功を奏したようだ。少し、御鏡が落ち着いたようにも見える。上手く誘導できているな。さすが瀬木だ。

 取引で済むなら、俺もそれでいい。もし隙が見えるようなら殺してもいいが、なにも俺だって自分がクリアすることにはこだわってないから、モジャ頭にやらせてやってもいいんだ。


 御鏡達が金で満足してこの場から消えてくれるなら、同じ学校の生徒同士で殺し合う必要もないだろう。

 なるべく犠牲を少なくが、瀬木の考えだしな……。


「良し、アリアドネ。金で済むなら、そいつらの好きにさせてやれ。無駄な犠牲は俺だって避けたい」

「真城! お前は持ってる神封石をこっちに寄越すんだよ。アリアドネ姫までお前の下僕になってるとか、本当にどこまでなんだよ! 本当にお前は、どこまでも人をバカにしやがって畜生めぇぇ!」


「落ち着け御鏡」

「うるせぇぇ真城、お前さえ居なきゃ僕が……クソッ、死にたくなければ、早くするんだよおぉぉ!」


 俺は、ポーチに入れていた三つの神封石を、御鏡竜二みかがみりゅうじに投げてやる。

 どうしようないことをほざいているモジャ頭でも、アサルトライフルを二丁抱えれば思わぬ強敵にもなり得るから警戒は怠らない。


 俺もここまでの戦いで、殺意が読めるようになってきた。

 モジャ頭の辺りに撒き散らしている黒い憎悪と殺意は、ある意味でとても分かりやすいものだ。


 相手の撃つという意識を感じれば、それを先読みして射線を避けることは俺にもできる。

 だがそれも、相手に撃つという明確な意識があればこそだ。


 感情を暴走させたあげく闇雲に引き金を引かれたら、避けきれずに流れ弾に当たってしまうかもしれないのが難しいところ。

 拳銃の弾程度ならともかく、アサルトライフルの弾に俺の鎧の装甲が耐えられるかどうかは未知数だ。


 御鏡は、少し落ち着いたように見えても、叫ぶたびに緊張で頬をピクピクと引きつらせている。キチガイに刃物どころか、アサルトライフル。

 子供のように癇癪を起こす奴が怖いのは、どんな凶行に出るか予想が付かない点にある。


 この場で癇癪を爆発させれて凶弾を撃ち放てば、その直後に俺やアリアドネに斬り殺されることはモジャ頭にだって分かっているだろう。

 それでも、撃つぞというモジャ頭の脅しはブラフとは思えない。


 殺られる前に辺りの人質を撃ち殺せるだけ撃ち殺して道連れにする。

 そんな愚かな自爆攻撃を、本気でやる可能性もあると思えた。


 御鏡竜二という男は、何をやらかすか分からない危険な香りがする。

 学校では虐められて鬱屈を溜め込んでいただけではない、神宮寺達に利用された挙句冤罪をかけられて処刑されそうになったのに、まだ執行部員の側に立ってこんな真似ができる御鏡という男の心を俺には読み切れない。


 これなら、自己愛が強い分だけ動きが読めた神宮寺司を相手にしたほうがよっぽどマシだった。

 金で済むなら、言うことを聞いてやるほうがいい。


 モジャ頭は、俺の三つの神封石に、神宮寺が持っていた白い神封石を手に入れてクリアする権利を手に入れた。

 最後まで抵抗していた生徒会執行部の四名ほどは、御鏡の決死の気迫に流されたのか、御鏡の味方をして言う通りに動くようだ。


「フハハッ、だがなあ最後は僕の勝ちだった。金も神封石も全部僕のもんだ。僕だ、僕だ、この御鏡竜二こそが、このジェノサイド・リアリティーの覇者なんだ!」


 もうお前が金と神封石を持って勝手にゲームをクリアしろよ。俺達は止めないから。

 刺激しないようにみんな黙っていたのに、全てを手に入れて部屋の入口まで逃げ延びると御鏡はまだ叫ぶ。


「ど、どうだ、真城! 最後は僕の勝ちだったぞ。どっちが最強か、思い知っただろう?」

「そうだな、御鏡竜二、お前が最強だった」


 御鏡は確認するように何度も、俺に向かって勝ち誇ってくる。

 しつこい、さっさと去ってくれ。


「ウフハハハハハッ、分かればいいんだよ真城。じゃあさ……」


 ゾワッと目で見えるぐらい黒い凶暴な殺意が、御鏡竜二のなかで膨れ上がる。

 銃弾よりも先に、殺気が俺に襲いかかった。

 

 下手な動きは刺激すると分かっていたが、これは対処せざる得ない。

 とっさの判断、俺は魔法の壁を出すか、魔闘術で跳ぶかを迷って、上に飛ぶことを選んだ。


 魔法の壁は、一定のダメージを与えられるとすぐに消えてしまう。そうなれば、まともに銃弾の雨を受けることになる。


 アサルトライフル二丁の乱射。

 受けるか、避けるかで言ったら避けるしか無い。


熱量ラー イア 電光ディン


 殺気の塊に一瞬遅れて、銃弾の雨が俺の元いた場所に撃ちかかる。

 そこにはもう俺はいないが、跳ぶタイミングが一瞬遅れて、太ももあたりに鉄球を打ち付けられるような重たい衝撃が走った。


 硬い装甲である当世具足とうせいぐそくが、辛うじて弾いてくれたようだ。

 ライフル弾で蜂の巣にされたら、とてもじゃないが装甲が持つとは思えないので、避けて正解だったかと思考したとき。


 下から「……みんな死ねぇぇ!」という、御鏡竜二みかがみりゅうじの魂の絶叫が聞こえてきた。

 みんなだと! 俺じゃなくて、みんなと言ったのか!


 魔闘術で跳び上がれば、もう細かいコントロールはできない。

 俺は身体を捻って、五メートルほどの高さの天井に足を付けると、蹴り飛ばして銃を乱射する御鏡竜二みかがみりゅうじに向かって飛んだ。


 これは賭けだった。

 もし、御鏡竜二みかがみりゅうじが俺だけを狙って撃っていたなら、空に眼がいっただろうから狙撃される恐れもあった。


 でも御鏡が言葉通りみんなを狙ったなら、近い人間を全員撃ち殺すことを狙う。一刻も早く殺して、止めるしか無い。

 結果的に、俺は賭けに勝った。


「御鏡ッ!」

「ぎゃぁぁあああああ!」


 俺は、両手に持ったライフルを乱射し続ける御鏡を身体をぶつけるようにして、孤絶ソリチュードの刃を首元に突き刺した。

 そのまま、柄から手を離さずにゴロッと前に転がる。その勢いで、深く突き刺さった刃は血飛沫を撒き散らしながら御鏡の身体から抜ける。肉を突き刺す重たい手応えと同時に、御鏡のうるさい怒声が消えた。確実に殺った。


 まだ終わっていないと、壁に身体をぶつける激痛に耐えながら即座に起き上がった。

 だが、そのときは全て終わっていたのだ。


 御鏡の仲間になって、貴金属や美術品を載せた台車を運んでいた生徒会執行部員は、アリアドネに全員斬り殺されていた。

 それはいい。


 最後の抵抗をした御鏡竜二と執行部員が死んで、ようやく終わったのだ。

 終わった、だがこれは……。


 俺には、御鏡竜二が最後に何をしたかったのか分からない。

 金が欲しかっただけなら、あのまま金を持って行けば良かったじゃないか!


「なぜだ、御鏡……」


 誰も止めなかったのに、どうして最後に凶弾の引き金を引いた……。

 御鏡は、俺を妬んでいたようにも思う。


 だから俺を恨んで殺そうとするなら、まだ分かる。

 なんで最後に俺ではなく、みんなを……関係ない生徒のほうを撃ったんだよ!


 問いかけても、すでに俺の足元で事切れた御鏡竜二は答えない。

 そして、俺の目の前に残ったのは、倒した御鏡によって起こされた血塗れの虐殺ジェノサイドだった。


 その死亡者の中には自ら前に立ち、他の生徒達の盾になるようにして撃たれた瀬木碧も含まれていた。

 ああ……。


「瀬木、嘘だろう……」


 あり得ないだろう。お前がそんな……。

 眼を瞑っている瀬木は、綺麗な顔をしている。それなのに、胸のあたりがぐっしょりと血に濡れていた。


「ポーション飲ませてみたんだけど、息がないとやっぱり効果がないみたいで……」


 そう、久美子が言う。

 冗談じゃない!


「人工呼吸とかやれよ、心臓が止まったんなら心臓マッサージをすれば」

「その心臓に弾が当たったのよ、胸の傷を見れば分かるでしょう。即死よ……こんなになって、生きてるわけないじゃない!」


 久美子も泣いていた。

 ああ、俺は瀬木の無数に穴が開いたローブの下を見る。瀬木の美しかった胸は、無数の銃弾を受けてズタズタになっていた。


 魔法の防御効果のあるローブも、瀬木を守ってはくれなかった。

 そう思っても、俺は目の前の現実が信じられなかった。


 久美子がもうなんか言ってても、聞こえなかった。

 音が消えて、息が詰まって、瀬木と一緒に俺も死んだんじゃないかと思った。目の前が、ぐしゃっと歪んでもうマトモに見えなかった。


 何かの間違いだろ。

 そうだ、俺の最上級ハイエンドヘルスポーションなら、回復するかもしれない。


 そう思って、口移しで何度も飲ませてみた。

 何度も何度も繰り返したが、静かに眠っている瀬木は、眼を覚まさなかった。


「真城くん、しっかりしてよ……」


 あり得ない。

 瀬木が、御鏡みたいな雑魚が撃った流れ弾で死ぬとかあり得ないだろ。


 こんなその他大勢みたいな死に方していい奴じゃないんだよ!


「……クソッタレの神がぁああ!」


 これがジェノサイド・リアリティーだって、声が聞こえてきた気がしたからだ。

 どこからか、この世界の神が俺を見ていると感じた。


 瀬木が死んで、ようやく分かった。

 俺が、ジェノサイド・リアリティーのクリアを目指したのは、他の誰でもない瀬木のためだった。


 ずっとそうだった。

 俺は、最初から瀬木のためにずっと……。


 それを、この世界の神はこの四つの試練で深く認識させたあげく、俺からその目標を奪ったのだ。

 クリア直前で、もう後少しという絶妙のタイミングで俺から奪った。


 きっと最初から、そうするつもりだったのだ。


 俺に化けた孤立するもの(アロス・アウトス)は、ジェノサイド・リアリティーの全部に意味があると言っていた。

 言い換えれば全部、仕組まれていたってことだ。


 俺がずっとやってきたこと、瀬木があんなに頑張ってきたこと、全てを台無しにしてしまう最後の虐殺ジェノサイド

 全部、全部、最初から仕組まれていたってことだ。


 この殺戮迷宮は、俺が望む世界を打ち砕くだと?


「ふざけやがって……」


 俺は、御鏡の持っていた四つの神封石を拾い集めた。

 御鏡の乱射のせいで、辺りは地獄だ。


 俺と同じように、隣に居た仲間を失って、泣いている生徒がたくさんいた。

 例えば、三上直継みかみなおつぐだって声を枯らして泣いていた。


 あれほど強い男が、流れ弾に頭を砕かれた男子生徒を抱きかかえて、声を上げて号泣していた。

 泣くのは当たり前だ。


 まだ、ダンジョンでモンスターと戦って死ぬのなら分かる。そこには守るべき仲間がいた。戦う意味も、戦いに殉じて死ぬ意味もあった。

 クリア直前までともに戦い抜いた友達が、なぜこんな醜い仲間割れで、これほどまでに無為な死に方をしなければならない。


 こんな殺され方をしなければならない人間は、ここには一人もいなかった。

 そうだ、これこそが虐殺の悲劇ジェノサイド・リアリティーというものだ。


 きっと、そう言いたいんだろうが、クソッタレの神が!


 俺は、これまで友情とかそういうものを、自分とは関係ないものだと思っていた。

 でもちゃんといたのだ。ずっと俺の隣には、瀬木碧がいた。


 最初から、俺には本当の友達がいたのだ。

 失って初めて、奪われる悲しみと怒りに気づくことができた。


 ジェノサイド・リアリティーに俺達を落とした狂騒神(ロアリング・カオス)を、俺は封印しなければならない。

 そうして、こんなことをしでかしやがった創聖神ジ・オールに、せめて一発くれてやらなければ収まらない。


 その震える怒りに身を任せていなければ、俺はもう一歩も前に進めない。

 泣き崩れるのは、もう少しだけ後にしよう。


 俺は、息絶えた瀬木の身体を優しく床に下ろして、最後の仕事を片づけに行くことにした。

次回更新予定、11/26(木)です。

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ジェノサイド・リアリティー3年ぶりに2巻が出ました! どうぞよろしくおねがいします! あと作者の別作品「神々の加護で生産革命」が書籍化しました! 発売はMノベルズ様からです。予約など始まってますので、ぜひよろしく! (特典SSも、専門店全般として1本と、とらのあなに1本あるそうです) 追伸:おかげさまでオリコン週間ライトノベル20位、ツタヤ週間文芸書14位の快挙! みんな買ってくださってありがとうございます! まだ見てない方はぜひチェックしてみてくださいね! 「おっさん冒険者ケインの善行」コミック5巻! 好評発売中!

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― 新着の感想 ―
くさいなー。どこでアサルトライフルの射撃訓練をしたんだと思う。
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