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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第一部 『ジェノサイド・リアリティー』
82/223

82.地下大聖堂

「気持ち悪いな」


 地下十七階層は、邪教の地下大聖堂だ。

 天井や壁に描かれているフレスコ画が、松明の炎に照らされている。


 このフレスコ画というのが、ほとんど人物画なのだ。

 いきなり異教のやけに顔の濃い聖者や天使の姿が出てきたりするので、なんかキモい。


 モンスターよりも、こっちのほうの雰囲気にビビる。

 このセンス付いて行けない、まあ付いて行く必要もないんだが。


 見方によっては、芸術的な階層とも言えるのだろうが、美術センスのない俺にとっては不気味にしか見えない。

 ともに進むアリアドネは、通路の飾りには何の感慨も持たないらしく黙って歩いている。


 やがて、通路の先から、暗黒僧侶ダークプリーストが四体やってきた。

 地下二十階のジェノサイド・リアリティーの主、狂騒神(ロアリング・カオス)を信仰する邪教の集団。


 僧侶と言っても、普通に鎧を着込んで盾まで持って武装している。

 手にモーニングスターという、鉄球の付いた棒を持って振り回しているのが、僧侶らしいといえばらしい。


 いや、らしいのか?

 よく分からない、刃物を持たないというのが僧侶らしさなのかな。


 ぶっちゃけ雑魚である。

 俺が、唐竹割りに孤絶ソリチュードを振り下ろすと、目の前の二体があっけなく断ち切られた。


 兜を付けていないので、グシャッと頭が柘榴ざくろのように砕け散って、血の混じった脳漿が飛び散る。腰のあたりまで斬り落として、刀が止まった。

 一気に二体倒せたのは良いとしても、一刀両断できないのは修行が足りないせいだ。


 アリアドネは、鎧ごと袈裟斬りにしてサッサッと二体を片付けた。

 その両断の太刀筋があまりに鮮やかなので、ほとんど血が飛び散っていない。


 俺の一刀に潰された敵は、「ぎょええー」と断末魔を上げていたが。

 アリアドネは、敵に叫ぶ暇すら与えずに殺していた。


 武器の長さや、斬れ味の違いもある。

 最下層の敵だけあって、暗黒僧侶ダークプリーストの鎧は、おそらく超鋼の鎧だ。


 聖騎士の使うエクスカリバーなら綺麗に断ち斬れるが、孤絶ソリチュードでは力ずくで叩き潰すことはできても、超鋼で作られた鎧を両断とまではいかない。

 剣神と聖騎士、同じ上級職の極みにあって、この差はちょっと悔しい。


「ふん、まあいいさ」

「はい?」


 声に出て、しまっていたようだな。

 一人じゃないと、不用意に独り言も言えん。


「いや、とにかく手当たり次第いくぞ」

「ハッ!」


 俺達が目指すのは、階層の一掃である。

 とにかく、目に付く敵を全て絶滅させる。戦闘スタイルの違いもあるが、俺もアリアドネに見習って、なるべく綺麗な殺し方を目指すか。


 しばらく、雑魚を押しのけるように斬り進んでいくと。

 暗黒僧侶ダークプリーストに混じって、高位暗黒僧侶ハイ・ダークプリーストが混じり始めた。


 いや、こいつも雑魚なんだけどな。

 本来ならば、一撃で倒せないとヘルスポーションで回復されたりして厄介な敵となるんだが、ここまで全部一撃である。


 あれだな、俺もちょっとランクが上がりすぎちゃたんだよな。

 デーモンが大量に出てくる、もう一つ下の階層ならまだしも、暗黒教団が相手では物足りない。


 そんなことを思って油断していたのか、目の前が爆裂音とともに真っ赤に染まる。


「チッ、爆弾ポーションか」

「ご主人様ーッ!」


 高位暗黒僧侶ハイ・ダークプリーストは、ポーションを使うことが多い。

 現れる敵を一撃で殺していく俺達に対して、自暴自棄になったのかなんなのか。


 一矢報いるために、捨て身の突撃で爆弾ポーションを投げつけてきた。

 前にも言ったが、爆弾ポーションだけは特性が違うのでダメージを喰らってしまう。


 魔闘術で弾き返すって手もあるにはあるんだが。

 それも、面倒だ。


「大丈夫だ、爆発程度でいちいち騒ぐな」

「でも、御身に傷が付きます!」


 ダメージぐらい受けるだろう。ダメージを受けたほうが、レジストが上がるって考え方もある。

 物陰に逃げてかわすって手もあるが、その時間がもったいない。


 死なない程度の攻撃ならそのまま受ける。

 ダメージを受けるたびに、ヘルスポーションを飲めばいい。


「構わず行くぞ。いつ七海達が降りてくるか分からないから、早く始末しておきたい」

「だったら、妾にお任せ下さい!」


 何を思ったのか、アリアドネは飛んでくる爆弾ポーションに向かって手のひらを差し出した。

 魔闘術でも使うつもりなのかと思ったら、アリアドネの差し出した手を避けるように、爆弾ポーションはあらぬ方向へと撥ね退けられる。


「なんだ、飛び道具が通用しないって紅の騎士カーマイン・デスナイトの特性を、お前はまだ持っているのか?」

「いえ、ご主人様のおっしゃっている意味が分かりかねますが、シルフィード族は風の精霊の加護がありますので、飛び道具の軌道を逸らすことができます」


 飛び道具が通用しないというのは、紅の騎士カーマイン・デスナイトではなく、アリアドネが元々持っていた種族的なスキルだったようだ。

 なんとも便利なもので、見えないバリアが張ってあるみたいだった。


 アリアドネが前に立つと、高位暗黒僧侶ハイ・ダークプリーストが投擲してくる爆弾ポーションの直撃は確実に避けられる。

 爆風ダメージは喰らってしまうんだが、気分的には楽ではある。


「風の精霊の加護なあ……」

「はい。下僕の技、お役立てください」


 しかし、風の精霊とか、本当にどこの設定だよ。

 少なくとも俺が知っているジェノサイド・リアリティーにはなかった。


 もしかすると、いろんな種族が選べるMMO版にはあったのかもしれない。確か、ウッサーのラビッタラビット族はあったと思うが、シルフィード族はどうだったかな。

 俺はあんまり好きじゃないから、やりこんでなかったんだよな。


 初期のジェノサイド・リアリティーは、まさに天才的ゲームデザイナーが作った至高の芸術という美しさがあったが。

 その後のジェノリアを基礎デザインにした続編、特にオンラインゲーム化したのは、あまり俺の好みに合わなかった。


 天才が基礎デザインしたゲームを、凡人が運営して、最低のプレイヤーが汚すという感じが好きじゃなかったのだ。

 変なパッチばかり当てられて、どんどんつまらなくなっていったというか……。


 いや、ありていに言えば、試してはみたものの、ソロプレイで遊び難かったのだ。

 俺はコミュ障傾向だから、他のプレイヤーに邪魔されないオフラインゲームのほうが好きなんだよな。


 ゲームは、やはりレトロに限る。

 最新式のゲームも決して否定するわけじゃないが、昔のゲームのリメイク版が売れてるのが現状じゃないかとも思うのだ。


「アリアドネ、邪魔」

「御身に傷が付きますから」


 俺を守るつもりなのかもしれないが、飛び道具が来るたびに前に立たれると、敵を斬りにくくて仕方がない。

 敵と一緒にぶった斬るぞといえば、どうぞそのままお斬りくださいとか言いそうだよな。


 急いで階層の敵を根こそぎ絶滅させたいということはあるが、アリアドネに敵殲滅のスコアで負けたくない気持ちもある。

 しかし、アリアドネが邪魔で倒しにくかったなんてのも、言い訳してるみたいで嫌だ。


 種族的なスキルで飛び道具をシャットアウトする。

 その上で、最高位の聖騎士でもある……どんなチートだよ。


最上級ハイエスト イア 飛翔フォイ!」


 俺は、腹いせに通路の遠くに見えた敵に向かって、炎球ファイアーボールの大玉を叩きつけた。

 暗黒僧侶ダークプリーストが四体ほど、一気に消し炭へと変わる。


「ご主人様、お見事です」

「ふんっ……」


 ジェノサイド・リアリティーのサムライは、魔法剣士でもある。

 力押しなら、なにも刀だけで戦わなくてもいいのだ。


 マナ切れに気をつけながら、適度に遠距離の敵には炎球ファイアーボールをぶつけていくことで。

 俺は、なんとかアリアドネに負けない程度のスコアを稼ぐことにした。


 階層の中腹まで来て、泉の噴水の前で休憩。

 ここは休憩には持って来いのポイント。


 ど真ん中なので、四方が見渡せて、すでに攻略済みのポイントに敵が逃げないように監視することができる。

 まあ、基本見かけた敵はこっちに向かってくるんだが、たまに逃げるのもいるからな。


 今回の目的はエリアの清掃であるから、見落としは許されない。

 ゆっくり休んでいる暇はないが、監視しながらも和葉の持たせてくれた弁当を使い、小休憩は必要だろう。


 お前も飯を食えと、弁当を手渡して。

 アリアドネが水を飲んでいないことに、気がついた。


「なんで、水を飲まない?」

「ご主人様のお許しがないので……」


「水ぐらい勝手に飲めよ」

「そうであれば、そのお手に持った皮袋をお貸し願いますか」


 先程俺が水を飲み干して、また泉の水を汲んだ水筒代わりの皮袋を貸せと言ってるのか。

 水筒ならフラスコでも代用できるだろうと思うんだが。


 しょうがないので渡してやると、薄ピンク色の唇で皮袋の口を咥え込んでゴキュゴキュと喉を鳴らした。

 結構大きな皮袋なのに、一気に全部飲み干した。


 やはり、喉が乾いていたのだろう。

 そりゃ激しい戦闘を戦い抜いたのだから当たり前だ。


 そうして、アリアドネは再び泉の水をタップリと皮袋に汲んで俺に渡す。

 ちゃんと返してくれるのな。


「どうぞ、お飲み下さい」

「俺はもう飲んだよ」


 なんで、残念そうな顔をする。

 何のつもりなんだよ。


 アリアドネのおかしな行動は、今に始まったことではないので気にしないことにした。

 さっさと休憩を取って、また戦闘だ。


 次に現れたのは、暗黒司祭ダーククレリック暗黒司教ダークビショップ

 こいつらは、暗黒僧侶ダークプリーストと色違いの敵という印象しかないが。


「チッ」


 暗黒司教ダークビショップのほうが、俺の孤絶ソリチュードを巧みに力を流して受け止めやがった。

 こいつらは、坊さんの見た目に反して、長い錫杖を振り回す武闘派なのだ。


 一撃でも、俺の野太刀を受け止めたことに舌打ちしつつ。

 ザクっと突き刺して殺した。


 アリアドネのほうは、無言で暗黒司祭ダーククレリックを斬り刻んでいる。

 やはり休憩中とは印象が変わるな。無駄口も叩かないし、一緒に戦う仲間としてはかなりありがたい。


「性格キツイ奴が多いからな」

「なんでしょう、ご主人様」


 いや、いいよと俺は呟いて、新手の敵を炎球ファイアーボールで焼き払う。


「ととっ」


 最上級ハイエストの炎を、潜り抜けてまだ生き延びている暗黒司祭ダーククレリックがいる。

 ダメージはある程度ランダムとはいえ。さすがは最下層だな。


 そんな敵も、俺達の前にくれば一刀のもとにたたっ斬られるしかない。力量が違いすぎるからだ。

 雑魚の教徒どもを切り崩していくと、その後方に、金色の衣をまとった高位司教が現れる。


 この階層の最強モンスター、暗黒高位司教ダークハイビショップ

 青銅の蛇を象った権杖シェズルを、巧みに使う。


「アリアドネ、俺が殺る」

「ハッ」


 ボスはアリアドネにやらせたんだから、これぐらいは殺らして貰わなければなと、真一文字に斬り込む。

 ギリッと、権杖シェズルで真正面から俺の攻撃を受け止めた。超鋼よりも硬い素材か。


「そう来ないとな、力勝負といこうぜ」

「……」


 俺がそのまま押し切っていくと、相手は敵わないと見たのか、逆らわずに後方に飛んだ。

 なかなか、良い判断だが――遅い!


 俺は孤絶ソリチュードを前に差し込んで、グンッと相手の喉を一突きにした。

 相手が息絶えるのを、貫き通した握った柄の手応から感じる。


「悪いな。野太刀は、長いんだよ」

「ご主人様、お見事です!」


 アリアドネでも、これぐらいはできるだろうと思ったが、言わずもがなだな。

 後は、そのまま順調に清掃を終えて、突き当りで終点だ。


 すでにボスを倒し、『聖堂の鍵』を手に入れていたアリアドネが、扉を開き。

 俺達は地下十八階への階段へと歩を進める。あと一階だ。

次回更新予定、11/8(日)です。

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