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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第一部 『ジェノサイド・リアリティー』
80/223

80.六十一人の攻略者

「はぁ、なんでそんな話になる?」


 一旦『庭園ガーデン』に戻った俺は、ログハウスに和葉と入った。

 街にいる七海修一ななみしゅういちと『遠見の水晶』で連絡を取ることにしたのだ。


 もう俺がクリアするだけだから良いかとも思ったのだが、こっちが放っといても向こうが和葉と話させろとうるさいだろうし。

 ロープでぐるぐる巻きにされたアリアドネをかどわかして、そのまま生徒会と連絡せずバイバイってのもなんか悪いと思ったので連絡を入れてやった。


 そしたら、とんでもないことを言い始めたのだ。


 地下十七階と、地下十八階のボスの攻略は、アリアドネが済ましてしまっている。

 あとは地下十九階の最後の審判をクリアして、最下層の玄室で、狂騒神(ロアリング・カオス)を封印するだけなのだ。


 最後の攻略は俺達に任せて、お前らはのんびり街にいろと言うつもりだったのだが。

 それが七海は、街に残った生徒五十九名を連れて俺と合流して一緒にクリアするとか言い始めたのだ。ふざけてんのかよ。


「真城ワタルくん、無理を言っているのは分かっている」

「だったらどうして、まさかお手手つないでみんなでゴールしようとか言うわけじゃあるまい?」


「危険は承知の上で言っているんだ。真城ワタルくんも、ゲームのときのジェノサイド・リアリティーのエンディングを知っているね?」

「ああ、地下十九階で神封石を四つ集めて、地下二十階最下層で、狂騒神(ロアリング・カオス)の封印でゲームクリアだ」


「その際だよ。エンディングを見ているのは、クリアした集団パーティーだけじゃないか?」

「それは、ふむ……」


 ゲームクリアのときに、その場にいる集団パーティーだけが、平和の戻った地上へと帰還する。

 つまり、街に置き去りにされた生徒達は、誰かがクリアしても助からない可能性があるというのだ。


「この提案は、ゲーム知識のある御鏡竜二みかがみりゅうじくんを交えて、生徒会で検討した結果なんだ」

「良く考えたもんだな。確かに、ジェノサイド・リアリティーのイヤラシさなら、最後の最後でそういう罠を仕掛けてくる可能性もある」


「街の生き残りの生徒五十九名、真城ワタルくんとそっちに匿ってもらっている和葉を入れて、総勢六十一名を全員を同集団(パーティー)として、クリアしたほうが安全だと考える」

「そうか、まあそっちの面子めんつでも行けるか」


 すでに街でも生き残れったメンバーは、七海を始めとして十分な戦闘力を持った生徒が多数いる。

 地下十七階、地下十八階の雑魚を俺が先に片付けてやっておけば、突破できないことはない。


 だが、なんだこの違和感……。

 何かが可怪しいと感じる。


「じゃあ、真城ワタルくん。その手はずで」

「七海待て……なあ、本当に反対意見は出なかったのか。結構リスクが高い案だぞ。みんな賛成したのか、神宮寺達とかはどうだ?」


 そうだ、生徒会執行部(SS)の連中。

 自分達は、安全な街に残って絶対ダンジョンを降りて来なかったではないか。


 そいつらが、念の為にダンジョンの最下層まで行きますと言って。

 ハイそうですかと聞くはずがないと思う。


「最下層までみんなで行こうと提案したのは、神宮寺司じんぐうじつかさくんなんだよ」

「はぁ、神宮寺が?」


 それはありえないぞ。

 あいつは、危険な場所には絶対近づかないタイプだろう。


「もし良ければだが、神宮寺司くんが君と話したいと言っているんだ。もちろん、君が良ければなんだが……」


 七海は俺の顔色を窺いながら、気遣う素振りを見せた。

 そうだろうな。俺と、神宮寺は合わない。


 俺だって、できるなら話したくない。

 だが、この違和感の解消をしておきたかった。


「分かった、神宮寺と代わってくれ」


 直接会って話すよりはマシだ。

 七海に代わって、神宮寺が画面に顔を出した。


「やあ、久しぶりというほどでもないですかな」

「神宮寺……お前は何を企んでいる?」


 陰険メガネめ。

 相変わらず、不愉快な笑みを浮かべている。


「いきなり顔を合わせて企むとは……真城くんが何をおしゃっているか、皆目分かりかねます」

「お前は、このゲームで安全な街から一歩も出てないんじゃないか。なんで今さら、リスクを冒してまで最下層に来ると言い出したおかしいだろう?」


 この違和感を解消するためにも。

 ちょっと、カマをかけてみる。


「おや、これは酷い言われようだ。確かに私はリスクを避けてきましたが、留まるほうがリスクだと思えば動くんですよ。全員によるクリア、素晴らしいじゃないですか。そちらのほうが、助かる可能性が高いと思えばもちろん行きますよ」

「そうか、ふうん」


 その言葉に、嘘はない様に見えた。

 神宮寺にしろ、この危険なダンジョンから日本に帰還したいとは思っているはず。


「どうですか、何をお疑いになっているか知りませんが、納得していただけましたか?」

「そうだな、分かった。お前らも来ればいい」


 街に留まっていて、クリアできたのに帰れなくなっては困る。

 論理的に考えれば、神宮寺の言うことに特におかしな点はない。


「前々から言ってますが、私は真城くんと仲違いしたいわけではないんですよ。我々の利害は一致しているはずです。できれば、最後まで協力してゲームクリアと行きたいものです」

「お前に協力してもらうことなど、こっちは何もないけどな」


 神宮寺は、肩を竦めると画面から姿を消した。

 その場に七海達と居たのか、瀬木が顔を出してくれた。


 三軍のリーダーになっているし、爆弾弩バリスタを開発した功績で、幹部クラス扱いをされているようだ。

 うん良いことだ。


「真城くん……」

「お前達も来るんだな。もちろん、来るがいいさ。久美子か、ウッサーか、どっちかは護衛に送ってやるから道中も危険はないだろう」


 眼を見れば、瀬木だって覚悟を決めていると分かる。

 男の子だからな。


「あのね、神宮寺くんとはいろいろあるだろうけど。なるべく多くの生徒を助けて、みんなクリアさせよう」

「瀬木、俺がやるんだから全員生かして元の世界に戻すさ」


 そんな保障があるわけない。

 でも、瀬木にだけはそう言って安心させておきたかった。


「それは信じてる、でも何があっても……」

「おい瀬木! その先は言うな。なるべく多くじゃなくて全員助けてやる」


 変なフラグを立てるんじゃない。

 お前だけは死なない。他の誰が死んでも、お前だけは俺が守ってやる。


 瀬木に代わって、七海が再び姿を現す。

 そうだろうな、これで通信が終わりとは思ってなかった。まだ、七海は和葉と話してないからね。


「あと、真城くん」

「おう」


 少し言いにくそうに、七海は言う。


「あの真城くんが連れて行った、女性だが……。結局どうしたんだ」

「ああ、その話か。俺が処断したよ。生かしておくわけには、行かなかったから」


 そうかとだけ、七海は言った。

 赤の鎧に操られたアリアドネ本人に責が無かったとはいえ、殺された生徒も多いのだ。まさか、その原因となった女をまだ生かしているとは言えない。


 黙っておけばいいことだ。

 どうせ、もうすぐゲームクリアだ。それまで隠しておけばいいし、それは難しいことではない。


「では、すぐにでも作戦を開始したい」

「七海……竜胆とは、話さなくていいのか?」


 あれほど、和葉和葉と言っていた七海がやけにそっけないことに気がついた。


「真城くん、僕はたくさんの生徒を死なせてしまった。ある程度の犠牲は覚悟していたとはいえ、もう死亡者は百五人だ」

「何度も言わせるな、それは七海のせいじゃない」


 遠見の水晶の画面に映る七海は、苦しげに頭を振る。


「いや、みんな僕を信じて付いてきてくれたのだ。だったら、それは僕のせいだ」

「あまり気負いすぎるなよ。もうすぐ、かず……じゃない。お前の幼馴染の竜胆和葉とも会えるから、ほら話すんだろ?」


 七海の計画なら、和葉も最下層まで連れて行くしかない。

 本人は会いたがっていないが、七海とも会わせないわけにはいかない。


「そうだね、それはとても嬉しいことだ。正直なところを言えば、全てを投げ出して、僕は和葉だけを守りたい。でも、あと一息……この事件が解決するまで、僕は私情を控える。そして、もう一人も犠牲を出さない」


 俺が瀬木を安心させるために言ったおざなりな言葉なんかじゃなく。

 それは、身を切る覚悟を決めた男の固い決意だった。


「そうだな、七海……」

「そのためにどうか真城ワタルくんも、あと少しだけ僕に力を貸して欲しい」


 深々と頭を下げる七海修一。

 ここまでの責任を、この男が負う必要などない。


「頭を上げろよ七海。行き掛けの駄賃だ。お前らがクリアするまでの道は、俺が切り開いてやる」

「ありがとう、真城くん……」


 端正で大人びて見える風貌だが、七海も俺達と同じ十六歳ガキに過ぎない。

 助けたい友達がいて、守りたい幼馴染がいて、みんなただそれだけなのだ。


 クリアすることで、どうなるかまでは保証できないが。

 少なくとも、その道筋はつけてやろう。


 できれば、犠牲無しでだ。

 そのためには、まず七海達生徒全員が降りてくるまえに、地下十七階、地下十八階の掃除を徹底してやらないとならない。


     ※※※


「真城くん。私は良いよ?」


 七海との通信を終えた後、和葉がそっと言った。

 『遠見の水晶』で通信するときに、七海と話をさせてやろうとスタンバイしていたわけで当然、さっきの話を聞いている。


「そうか、悪い。七海と会うことにはなるだろうが、すぐゲームクリアだ。俺はちょっと最下層までのモンスターの駆除に言ってくるが、ちゃんとゴールまでの和葉の安全が確保されるようにウッサーか久美子に護衛はさせる」


 七海のこととなると、和葉は感情的になるし、二度と会わないとも言っていたので少し心配していたのだが。

 説得する前にオーケーを出してもらって助かる。


「さっきの様子だと、七海くんは会っても私に個人的な話はしてこないと思うから、大丈夫だと思うの」

「そうか、正直もっとゴネられると思っていたから、ありがたい」


「そっか……もっとゴネたほうが良かったのかな?」

「いや、勘弁してくれよ」


「いーや、やっぱり許さない。私が七海くんとのことを誤魔化す分は、真城くんにも当然『リスクを冒してもらう』から」


 リスクを冒すとか、俺の口調を真似しやがった。

 これで和葉は、意外に曲者なんだよな。


 男を利用して生き延びる、猫を被った悪女と思える黛京華まゆずみきょうかなんかは、むしろ分かりやすい。

 竜胆和葉は、猫を被った悪女の皮を被った善女と見せかけて実は猫ぐらい複雑な女に思える。


 自分でも言っててよく分からないが、一見気安そうで、実はいろいろと抱え込んでいる女子だ。

 和葉も、七海も、良い奴には違いない。


 ただどちらも、自分ではどうしようもないほど大きな傷を抱えて、それが埋められないほど大きな溝になっている。

 俺には、そう思えた。


「和葉も、七海を許して仲直りしてやればいいじゃねえか」


 俺が何気なく言ってしまった言葉が、和葉の笑顔を強張らせて、今にも泣きそうな顔にさせた。

 京華のような見え透いた演技ではない、本気の悲しみの色。


 こっちまで、奈落に引きずりこまれそうな深い瞳でこっちを見てきやがる。

 チッ……これだよ、だから和葉には滅多なことを言えない。


「真城くんはさ、悪い人だよね?」

「ああそうだよ、俺は悪い奴だな」


「私のことも『利用してる』んでしょう?」

「ああそうだよ」


「だったら、ちゃんと手駒にする私のことを分かっていてね。分からないなら何度だって言うけど、私が七海くんのことを『許す』なんてことはもうない。何があっても」

「そうか、ふう……無神経なことを言って悪かった」


 この俺が、気圧けおされるほどの重い言葉だった。和葉は、自分でも泣きそうなのが分かったのか、俺の肩に顔を押し付けた。

 あれほど和葉のことを思っている七海は、もう絶対に許されることはないそうだ。俺は正直、和葉がたまに怖くなる。


 いや、和葉がじゃない。

 女の業の深さというのが、俺は怖いのだ。


「ごめん、ちょっとだけ、肩を貸して。ううっ……悪いと思ったなら優しく抱きしめてもいいよ。そういうシーンじゃないこれ?」

「調子に乗るな」


 和葉はそう言うと、涙声混じりに笑い始めた。本当に扱い難い女だよ。

 しかし、肩に強くすがりついてくる和葉のことを俺は振り払えない。


 今の俺は、隙だらけだ。

 和葉が豹変して、ナイフで俺を刺したら殺られてしまうかもしれない。


 孤高を愛するだのなんだの偉そうな御託を並べて、俺は女には弱いってことか。

 いつからこうなった。


 俺の母親を死ぬまで放ったらかしにしたクソオヤジのことや。

 そのクソオヤジを死ぬまで待ち続けた、母親の影響だとは思いたくない。


 俺は、クソオヤジみたいに女を泣かす男にだけは成りたくないとは思っていた。

 人との関わりを避ければ、傷つけることも傷つけられることもない。


 それがいつの間にか、女を泣かしてしまっているのは、この身体に流れる血の呪いなのだろうか。

 ああ、俺はまたダンジョンの闇にまた、身を躍らせたい気持ちになっている。

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― 新着の感想 ―
「そうか、ふう……無神経なことを言って悪かった」 無神経すぎるから、本当には何が悪かったか分かっていない、人の心が分からない奴ですねる
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