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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第一部 『ジェノサイド・リアリティー』
67/223

67.街が……

「街が、大変なんだ……」

「はぁ……どういうことだ七海、ちゃんと話せ」


 七海の話しだと、封鎖したはずのエレベーターが何者かによって作動されているところが見つかったそうだ。

 何者かによって、地下一階と十階を繋ぐエレベーターが作動された。


「七海、それはモンスターによってということか?」

「あそこは、街のすぐ入口だ。モンスターは来ない安全地帯だし、そうでなくても人の出入りが多くて監視されていたはず……」


 すると、街の人間の誰かがやったということか。

 なんでそんな自殺行為を……。


「……いや、今は犯人探しなどどうでもいい。地下十階から、モンスターが登ったのか? まさか紅の騎士カーマイン・デスナイトが本隊ごと上がったということは」

「今のところその報告は受けていないが、その危険はあるね。ダクトテープによるエレベーターの封鎖が破られていることを発見した、生徒会執行部は再封鎖を行った。今は調査を行っているところだ」


「それでも、看過はできないな」

「もちろん放おっては置けない。真城くんには申し訳ないが、僕達はバリケードの監視を一旦止めて、街に上がらせてもらう」


「その判断で構わない」

「それでなんだが、できれば真城くんも……」


「ああ、皆まで言うな。俺達もすぐに地下一階の現場までいく」

「そちらの事情もあるだろうに、済まない。君が行けば街のみんなも安心するだろう」


 封鎖されていたエレベーターが動いたことで、みんな不安がっている可能性もある。

 人心の混乱を収めるためには七海が戻る意味はある。みんなを安心させられるのは七海修一だ。


 ただ、紅の騎士カーマイン・デスナイトが暴れ出したら、俺がやるしかない。

 そのために、俺も戻るしか無いわけだ。街の連中が嫌いとか、面倒だとかさすがに言ってられる状況でもない。


 七海達との通信を終えると、俺はすぐ『遠見の水晶』で、瀬木を呼び出した。

 街よりも、俺にはそっちのほうがよっぽど優先の事情だったからだ。ちょっと呼びかけるのに緊張したがちゃんと繋がった。


「真城くん?」

「……ああ、瀬木か。今どこだ、無事か」


 ついこの間会ったばかりなのに、瀬木と話すのは本当に久しぶりな気がする。

 瀬木の優しい声色を聞くと心が和む。少し落ち着いた。


 まだ、俺のくれてやった鎧を着込んでいるようだ。

 やはり、武骨な鉄の鎧は瀬木には似合わないな。


「エレベーターの封印が破られた話は聞いたよ。今、僕達は地下五階にいるよ」

「そんなところまで進んでいるのか、危ないだろ!」


「僕達も、それなりにできるようになったんだよ……」

「それでも……」


 地下四階には、死霊どもが居る。

 地下五階にはレッサードラゴンやガーゴイルまで出現する。瀬木達じゃ危ないだろう。


「真城くんが心配してくれるのは分かる。それは、ありがたいけど、木崎さんもいるから僕達は大丈夫だよ。地下六階まで来ている七海副会長と合流して、一緒に街に向かうつもり」


 木崎が水晶に映った。

 口元が少しこわばってみえる。


「アタシが言ったんだ! この集団パーティーの魔術師ランクも上がってきたし、地下五階でも大丈夫だろうって判断した」

「そうか、木崎がそう判断したなら悪くない」


「うん……」


 そう頷く木崎に、まだ俺に何か言いたいような感じを受けた。

 あっ、そうか木崎は俺が頼んで瀬木についてもらってるんだから、お礼ぐらいは言わないといけないのか。


「木崎はよくやってくれている。判断にケチを付けるようなことを言ってすまなかった。ありがとう」

「あっ、あの……真城には借りがあるから」


「助かるよ。木崎、いまは緊急時だからお前が頼りだ。いいか木崎、七海達と合流して上に向かうのはいいが、街には向かうなよ。下層階も危険には違いないが、こうなると街のほうが敵の襲撃がリスクが高い」


「でも、真城。アタシは」

「木崎、お前が黒の騎士(ブラック・デスナイト)とでもやれるのは俺が知ってる。だが、瀬木達のパーティーは弱い奴もいるんだろう。守りながらは戦えない」


「……分かった。言う通りにする」

「お前は物分りが良くて助かるよ。街も危ないが、下にいるのも危ないとなれば……とりあえず、街の無事が確認できるまで地下二階にいろ。その辺りの隠し部屋で休むのがベストだろう。何度も言うがお前だけが頼りだから、安全第一で動いて瀬木を守ってやってくれ」


 街が一番危険かもしれないのだ。

 考えようによっては、瀬木達は最も安全な地点にいるとも言える。


 最悪ではない。むしろ、木崎はよく動いてくれた。

 俺は、心を落ち着けるために深呼吸した。


 今すぐ瀬木のところに行って守ってやりたい気もするが、エレベーターを押さえるほうが先だ。

 瀬木に向いている装備も手に入ったことだし、すぐにも行ってやりたいけど、遊んでる暇はない。今は、街の安全の確保が先決。


「ウッサー、久美子。まず地下一階の安全地帯だ。そこからエレベーターに行く。直接は飛ぶなよ」

「ハイデス!」「分かったわ」


 まあ、俺達が転移ルーアンできるのはバレバレだろうけどな。

 それでもなるべく生徒会執行部(SS)の連中には、飛べることを目撃はされたくない。


 街の連中のなかに、エレベーターを作動させた裏切り者がいるかもしれないと思えばなおさらだ。

 とにかく、ここは一刻も早く戦局を立て直す。


     ※※※


 久美子達と合流して、地下一階のエレベーターのところにいくと、黒い制服に生徒会執行部(SS)の腕章を付けた連中が十人近く集まっていた。

 こいつらは街の警察的な役割を果たしているので、捜査の真似事なのだろうか剥がされたダクトテープの痕跡を調べたりしている。


 こんな数いても意味ないだろうが、集まってないと不安なのだろうか。だいたい、いつもダンジョンの入り口で門番をしている連中なので、みんな顔に見覚えがある。

 しかし、どこに行ったのかこんな事態になっても神宮寺司じんぐうじつかさの奴が見当たらなかった。


 アイツが責任者だろうに。

 神宮寺の代わりというわけではないだろうが、ひょろっと背の高い、神経質そうな顔の青瓢箪あおびょうたんが俺に声をかけてきた。


 たしか、執行部の副部長で祇堂修しどうおさむだったか。

 陰険メガネがいない以上、副部長であるコイツがこの場所の責任者となるのだろう。


「真城くん、わざわざご足労そくろう

「お前もな、祇堂。エレベーターの閉鎖はちゃんと済んでるのか。エレベーターは一体どのくらい動いていたんだ?」


「もちろん再度動かないように固定してある。今のところ異変は確認されていない。エレベーターがどれぐらい動いていたかはこちらも把握できていないのだが、おそらく半日程度ではないかと思われる」


 半日か。

 危うい、敵が登ってくるには十分な時間だ。


 紅の騎士カーマイン・デスナイトは抜け目なく、黒の騎士(ブラック・デスナイト)を要所に分散させて偵察させていた。

 エレベーターが動いていることに気がついて、すでに登っている可能性も十分にあるんじゃないだろうか。


 もしかしてすでに登ってきて、この辺りに隠れているかもしれない。

 そう思うとゾッとして、周りを見回すが気配はない。


「ところで、お前らの親方はどうした」

「神宮寺執行部長なら、部員を引き連れて、この不祥事を起こした犯人を探しておられると思う。我々がここで捜査してるのも、部長の指示だ」


 アイツの姿が見えないと不安になる。

 もしかしたら、エレベーターを動かした犯人は神宮寺じゃないのかとすら思ってしまう。


 まあ、そんなことをしても得になるとは思えないけどな。それ以前に動機がない。

 俺がムカつくというだけで犯人扱いはできない。


 そんなことを不用意に口にしたら、生徒会執行部(SS)全員が敵に回って、またピーピーうるさく鳴くだろうから言うべきではないだろう。

 さて、どうするべきか。


「そうだ、お前ら街の見回りはしているんだろうな」

「えっ、街は安全圏だから大丈夫だろう?」


「はあ? お前らまだそんな認識でいるのか! いいか、街が禁じてるのは『プレイヤー同士のネガティブ行為』だ。モンスターが入り込んで襲いかかってくる可能性まで否定してない」

「そんなことがありえるのか!」


 いまさら、そんな当然の指摘に驚かれても困る。

 地下一階をウロウロしているだけのこいつらは、まだジェノサイド・リアリティーのいやらしさが分かってないのだ。


 確かに、人間同士の諍いを完全にシャットアウトする街のシステムは、いかにも安全を感じさせるだろう。

 だからこそ、罠が張ってある。そういう展開になるって、見えてるだろう。


 こんなことなら、モンスターを捕まえてきて街に放つ実験をすればよかった。

 俺が街でもやり方によっては殺せると言った意味はそれだ。モンスターを街まで誘導してけしかけてやれば、街でも人を殺せる。


 MPKモンスタープレイヤーキルと呼ばれる行為だ。

 ガードが居ない街なんだから、わざとセキュリティーに穴を開けているようなものだ。


 そんなくだらないことに時間を割いている余裕がなかったこともあるが。

 その程度のチェックもしてないとは、まったく使えない連中。


 何が執行部だよと、ため息が出てくる。


「もういい、街へは俺達が行く。もし紅の騎士カーマイン・デスナイト達が街に潜入しているなら、お前らなんぞ何の役にも立たないからな」

「おい、そんな言い方はないだろう、我々だって必死に対処をしているんだぞ!」


 祇堂が声を荒げたことで、生徒会執行部(SS)の連中もざわついた。

 コイツらは俺を敵視してるからな、またくだらん騒ぎになりそうな空気を感じる。


「ちょっと、今そんなことで言い争ってる場合じゃないでしょう! 祇堂くん、紅の騎士カーマイン・デスナイトの相手は、真城くんしかできないのよ」


 そこを割って入った久美子が、祇堂に言い返す。

 俺はこいつらなんぞどうでもいいので、勝手に言わせておけと思うが。


 ここはもうダンジョン内だから。

 あんまりうるさいなら、全員斬り飛ばしてやってもいいぐらいだ。


「九条書記、申し訳ありません。真城……さんには、協力してもらってるのでしたね。それでは、街の警邏けいらのほうをよろしくお願いします」


 祇堂は、意外にも俺にすぐ謝ってきた。

 久美子は、生徒会役員だからこいつよりは階級が上だったな。どうでもいいが。


「お願いされても、困るけどな。俺は、あくまで自分の敵を探しに行くだけだ。敵を見つければ、叩き潰すだけで街の安全には責任持てない。まあ、敵が出れば俺が殺るから、お前らはここで好きなだけ捜査ゴッコをやってればいい」


 ガキは好きなだけ警察の真似事でもやっていればいい。こいつらの相手をしている時間がもったいない。

 エレベーターの監視はこいつらに任せて、俺は久美子とウッサーを連れて街に入ってみることにした。


 大階段を登って、街に戻る。ここも久しぶりだ。

 地上の明るさに目が眩む。


 入り口の辺りには人気がない。生徒会執行部(SS)が、勝手に作った詰所にも人が居ない。

 あいつら、この状況で門番まで置いてないとか何考えてるんだ。


 わざと敵を招き入れているんじゃないかとすら感じる。

 さっきの祇堂の必死な反応をみる限り、そんなことはないとは思うんだけどな。


「ワタルくん、まずどこに?」

「まず、神託所にでもいくか。ランクアップできるかどうか、ついでにチェックしにいこう」


 どこを見に行っても一緒なので、自分の都合を済ますのを先にする。

 神託所までの道すがら、生徒達が歩いているのを見かけたがみんな普通に生活している。


 どうやら、敵の侵攻があるかもしれないなんて話が一般生徒に伝わってないようだ。

 混乱が起きなくていいとは、言えるが無用心過ぎるだろうとも思う。


「まあいいか、どうせ一般生徒が騒いだところで何の対処もできないだろうからな」

「ワタルくん、誰からチェックする?」


 神託所の前まで来た。

 まず俺からと言いたいところだが、久美子に先にやらすことにする。


 御影石に手を置くと、久美子が平然とした顔でこんなことを言った。


「『首領』というのになれたわ」

「おい嘘だろ!」


九条久美子くじょうくみこ 年齢:十六歳 職業:首領しゅりょう 戦士ランク:下級師範ローマスター 軽業師ランク:上級師範ハイマスター 僧侶ランク:下級師範ローマスター 魔術師ランク:中級師範ミドルマスター


 ステータス画面を見ると本当だった。各種能力値も、完全にマスターランク。

 やっぱり、元から上級職業だった奴のランクアップ速度は半端ない。


 忍者首領とは、つまり忍軍を従えるトップ。

 忍者界でいえば、服部半蔵や風魔小太郎と同ランクに位置する頂点に立ったということだ。


 こんなに早く『隠密』から『首領』にランクアップしたなんてケースは見たことがない。

 まあそれもそうか、ジェノサイド・リアリティーの戦いもゲームのときとは比べ物にならないほど過酷なものになっているから。


「次は俺が行く」


 ウッサーも、すでに武闘家の頂点である『武神』となっている。

 これで、俺が『剣神』になっていなかったら……。


 祈るような気持ちで、御影石に手を添えた。


『剣聖から剣神にランクアップしますか? YES/NO』


「ふうっ、よかった……イエス」


 俺もついに『剣神』か。

 これでいよいよ、紅の騎士カーマイン・デスナイトと互角に渡り合うことができる。


『真城ワタル(しんじょうわたる) 年齢:十六歳 職業:剣神けんしん 戦士ファイターランク:最上級師範ハイエストマスター 軽業師ベンチャーランク:上級師範ハイマスター 僧侶プリーストランク:上級師範ハイマスター 魔術師マジシャンランク:上級師範ハイマスター


 浮かび上がってくるステータス画面を、俺は安堵の溜息を吐きながら見つめた。

 これなら十分に殺れる。首を洗って待ってろ紅の騎士カーマイン・デスナイト


「誰か、助けてくれぇぇ!」


 そこに必死な形相の生徒が一人こっちに駆け込んできて、俺達の目の前で派手にすっ転んだ。

 やっぱり、敵が入り込んでいたのか。


 街まで侵入されたのは痛手であったが、ここで勝負を決められるなら悪くない。

 むしろ絶好のタイミングだ。やってやるぞと、俺は腰の聖銀の剣を引き抜いた。

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