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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
134/223

134.バルドの都潜入

 バルドの都に集結した軍勢は、砂煙をあげて次々と出撃した。

 竜人族の支配するトカランの都への侵撃を開始するという噂だ。


「凄まじい騎馬の数だな」

「虎人族の槍騎兵隊は、一万騎を誇ると言われているわ」


「一万騎?」


 さすがに声が出た。その数はないだろ。

 騎兵は維持費が高い。馬の餌とか、どうするんだよ。


 とても補給を維持できるだけの輜重隊しちょうたいがあるようには見えない。

 略奪して進むにしても、限度がある。


「一万は、誇張があるわね。熊人族の残党軍も吸収して更に戦力を増強している事も考えて、できる限り多く見積もって全軍で六千騎ってところかしら。あとは歩兵が七千人で、総勢一万三千ってところね」


 それでも、内訳の半数近くが槍騎兵なら凄まじい数であった。

 万騎と誇張して言いたくなるのもわかる。


「さて、じゃあ早速、神宮寺とモジャ頭を叩きに行くか」


 ウッサーが得意げに飛び上がり、聖騎士装備に身を包んだアリアドネがガチャンと腰のエクスカリバーを鳴らした。

 久美子が聞く。


「もう行くの?」


 しばらく様子を見たほうがいいのではないかというのだろう。

 確かに常道からいけば、せめて敵の主力が消えるのを待ってから襲撃したいところだろう。


「だが、あえて今このタイミングだ」

「わかったわ」


 久美子も、頷いて先頭を務める。

 多くを議論する必要はない。


 敵も襲撃に備えているのだから、相手の大軍が出撃した直後ならば意表を突くことはできる。

 ……なんてのは、後付の理屈だな。


 ぶっちゃけ、いつ仕掛けてもいいのだ。神宮寺ごときを狩るのに待つのが面倒だから、さっさとやってしまいたい。

 俺達四人は、すぐさま街へと侵入した。


「警備は手薄だな」

「虎人族は攻めるのが好きで、守るって発想があまりないのよ。新参の熊人族を自分達の街に多く残していくわけもないし、侵入はたやすいわね」


 都の外側の堀を、なんなく渡る。

 大軍を送り出したばかりで、街の中はやけに静まり返っている。


 久美子がそういうルートを選んでくれているにしても、これだけの街で住人の姿がまばらすぎるように思える。

 雰囲気としては、都に厳戒令が敷かれているように見える。


 良く言えば、統制が取れている。悪く言えば、軍国主義化されてるぶんだけ活気に欠ける街だ。

 そろりそろりと隠密ハイドの状態で、物陰から物陰を小走りに移動する。


 これは無防備すぎるな。

 もぬけの殻だったら無駄足だが。


「もしかして、神宮寺達も一緒に行ったってことはないのか?」

「わからないわね。事前の情報では、中央の城に残るってことだったけど」


 まあ、行ってみるしかないか。

 二の堀を抜けて、ついに神宮寺達がいる中央の城まできた。


 たいした大きさの城ではない。

 四隅に、小さい砦があって塀が張り巡らされているだけの平城だ。


 城の前まで来た時、後ろからビーッ! ビーッ! と警告音が鳴り響いた。


「あっ、ごめんデス」

「何やってんだよ」


 ウッサーが警告音の鳴る罠に引っかかってしまったようだ。

 さすがに、まったく無防備というわけではなかったか。


 久美子が叫ぶ。


「いえ、バカ兎じゃないわ。最初から誰が来ても鳴るようになってたみたいよ」


 珍しくウッサーを弁護する。

 罠に詳しい忍者の久美子がそういうなら、そうなのか。


「まあいい。もう押し通ってしまうぞ」


 俺がそう言うと、久美子が一瞬で門番を二人斬り殺す。

 俺達は油断なく宮殿の前へと突入した。


 城の囲いの中に入ると、だだっ広い大広間に出る。その奥に立っている壮麗な宮殿のテラスから神宮寺司と、モジャ頭が顔をだした。

 神宮寺はやってきた俺達に向けて、大きな声を張り上げる。


「やはりきましたか、真城ワタル!」


 宮殿や四方の砦の上から弓を構えた熊人族が立ち並び、朱色の槍を構えた虎人族がぞろぞろと姿を現す。

 どうやら、門の前も後ろから軍勢が囲んでいる。


「神宮寺、待ち伏せのつもりか。殺る気とは、いい度胸じゃねえか!」


 思わず笑った。

 俺が恐れていたのは、神宮寺達が逃げ出すことだ。


 待ち構え伏兵を用意していた程度は全く問題ない。

 久美子とウッサーとアリアドネと俺。


 こっちの最強の戦力だ。

 弓兵が千人いて、槍兵が千人いようが全く問題ない。


 モジャ頭が得意げに弓兵に号令をかける。


「皆の者、矢を放て!」


 熊人族の剛力により、強弓が放たれる。

 矢が千本、四方から俺達のもとにビュンビュンと殺到する。


 どうやら、同士討ちを避けるために槍兵は囲むだけらしい。


「でっ、それがどうした?」


 どんな強弓だろうと、マスターランクの俺達にとっては避けるのは造作も無い。

 抜刀すら必要なく、俺は小手で飛んでくる矢を撥ね退けるだけで済んだ。


 他のメンバーも涼しい顔だ。


「いまさら、矢なんかで俺達を倒せると思ってるのかよ。おっと」


 バシッと俺の足元に稲妻が落ち、地面を紫電が走った。

 神宮寺が、『雷の杖』を使ったのだ。


「なぜ避けられるんです!」

「確かに稲妻のスピードでは動けないが、お前がおかしな動きをすれば杖を使うとわかる」


 杖を使う前に、モーションで先読みして避けるぐらいは当たり前だ。


「チイッ!」


 神宮寺が舌打ちして『雷の杖』を何度も振るうが、それは一発も俺に当たらない。

 そもそも距離がありすぎるから、そりゃ避けられるさ。


 神宮寺も俺を殺せるつもりで『雷の杖』使っているわけではないだろう。

 あいつの狙いは、俺に転移を使わせないように相殺に魔法を使わせてマナを削ることだろう。


 宮殿に下がっているからダメなんだよ。殺る気があるなら、もっと前に来い。

 神宮寺が振りをミスったのか、俺達の後ろまで来ていた虎人族の槍戦士に当たって味方が黒焦げになる始末だった。


「それでもいいぜ神宮寺。その調子でどんどんアイテムを消費してくれよ」


 こいつらが黄泉ハデスから持ち帰ったアイテムには限りがある。

 使えば使うほど、神宮寺達はアドバンテージを失い、その力を減じていくのだ。


「みんな何をやってる。矢がダメなら切り込んでいけぇ!」


 モジャ頭が偉そうに黒剣を振り回して命じると、わーと四方の槍戦士達がつきかかってきた。


「ご主人様にあだなす虎人どもが、聖剣の威力をみよ!」


 左方では、怒号が上がる。

 アリアドネがエクスカリバーを振るうごと、槍を構えていた虎人の戦士が五人ずつ斬り飛ばされていく。


 槍のリーチがエクスカリバーの倍あるなど、もうこれだけのランク差があると関係ない。

 エクスカリバーに触れた段階で、槍も虎人の鎧も関係なく真っ二つに避ける。


 一方、右では悲鳴が上がる。

 ウッサーが飛び込んで、突き出される槍を全てかわしながら毎秒十人づつ蹴り飛ばしていた。


 まったく、こんな調子だと俺の出番がないじゃないか。

 久美子が前に飛び込みながら叫ぶ。


「ワタルくん。こんな雑魚相手にしててもしょうがないから、さっさと宮殿を落としてしまいましょう!」

「だな」


 神宮寺なら、建物の一階部分に罠を仕掛けていてもおかしくはないが。

 ハイマスター忍者である久美子が先頭すれば、見破れるので全く問題ない。


 俺達はそのまま、宮殿の一階に突入した。

 宮殿の一階部分は、ガランとした大広間になっている。


 神宮寺達の居たテラスもたいして高くないので、二階か三階だろう。

 まずは階段を探すべきだが、久美子が眉根を顰めて言う。


「おかしいわね」

「なんだ、何の罠だ?」


「そうじゃなくて、罠がないの」

「そりゃおかしいな」


 向こうは俺達の突入を待ち構えていたのだ。

 神宮寺の陰湿な性格ならば、味方の兵士が巻き込まれるのも構わず、致死性の罠の一つや二つ仕掛けられていて当たり前のところ。


 それがないというのが、逆に不穏に感じて俺は思わず足を止めた。

 そこに、一体の騎馬武者が姿を表した。


 虎人族は図体のでかいやつが多いが、これまたデカい。

 またがる化物のような漆黒の馬も、朱塗りの甲冑に身を包んだ騎手も特大級である。


「室内で乗馬とは、行儀が悪すぎだろ」


 戦いの予感に、俺は音もなく背中の孤絶ソリチュードを引きぬく。


「構わん。ワシはこの王宮の主であるから」

「そういう、お前は誰だ?」


「覚えておくがいい、ジェノサイド・リアリティーの勇者よ。ワシが虎人族の祭祀王ガドゥンガンである!」


 赤い鎧に身を固め黒馬にまたがる槍武者は、虎人族の祭祀王を名乗る。

 名乗りと同時に馬を走らせ、槍の柄を横薙ぎに打ち据えてきた。

次回10/9(日)、更新予定です。

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