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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
127/223

127.男湯再び

 いつもどおりのメンバーで食卓を囲む。

 今日は、木崎晶が加わっているが、久美子の分の席が空いているのでスペースは足りている。


「木崎、あんま肉ばっか食うなよ」

「でもこれ美味くって」


 確かにドラゴンステーキの熟成肉は美味いよな。

 でもこの土地の特別な土で野菜も、湖の魚もいい味なのだ。


「いいわよ、好きなもの食べてもらえば。木崎さんもいい食べっぷりで嬉しい」


 そういいながら肉の付け合せにクレソンなどを添えているので、和葉も気を使ってはいるんだろう。

 人に飯を食わせる和葉は、いつもいい笑顔である。


 やっぱり、さっきの木崎を歓迎しないような雰囲気は気のせいだったか。

 会話するのは俺ぐらいで、ウッサーもリスも一心不乱に食べている。


 上品にフォークで料理を口に運んでいる瀬木ですら、黙々と食べている。

 やみつきにさせるだけの味わいがある。


「しかし、瀬木は野菜ばっか食べてるのな」


 肉ばっか食う木崎と、野菜ばっかり食べる瀬木と合わせてちょうどいい感じだ。

 ちなみに、ウッサーとリスは大食漢だけあって肉でも野菜でもなんでもよく食べる。とにかく出されたものは、全部胃の腑に収めていく勢いだ。


 瀬木は感心したように言う。


「うん。和葉さんの料理も素晴らしいけど、野菜自体がとても甘いんだよね。あと、このオレンジ色のキノコはなんだろう。ふーむ、強い香りがあって歯ごたえがあって美味しいね」


「瀬木くん。それはアンズ茸よ。名前の通りアンズみたいな香りがするでしょう? 日本にも北海道辺りには生えてるらしいけど、あまりみないわね。ここの林にはたくさん群生してるんだけど、お肉にもお魚にも、よく合うから香りづけにするのに重宝してるの」


 なるほど、ダンジョンでキノコというのはそれっぽい食材だな。

 俺が食べているリゾットにも、オレンジ色のアンズ茸が入っていた。


「ただ食って美味いってだけで、素材まで気にしてなかったな」


 俺がそう言うと、和葉はフフッと笑う。


「真城くんは、ただ美味しいって言ってくれればそれでいいの」

「ふむ、そうか」


 和葉の作るものがまずかったためしがないからな。

 食って美味いというだけなら楽なものだ。


「さて、腹も満ちたし……木崎、組手をちょっとやるか?」


 俺がそう言って、木崎と連れ立っていくと「じゃあその間にお風呂に入ろうかな」という瀬木の声が聞こえてきた。

 聞き捨てならないセリフである。


「木崎」

「おぅ、私も食べ終わったぞ。組手だな!」


「……やっぱり訓練はあとにしよう。俺も風呂に入りたくなった」

「えー。またぁ!」


 瀬木が風呂に入るのに、俺が入らないわけないじゃないか。

 ウッサーと居残って飯を食べていたリスも、いつの間にか顔を出している。


「なんだ、リスも風呂に入るのか?」

「うん」


 いつものことだしな。俺だけで行くより、リスを連れて行くほうが不自然でなくなってこちらも都合がいい。

 それに騒いだのは、木崎だった。


「ちょ、ちょっと待てよ真城。組手は後回しはいいにしても、さっき、瀬木が風呂に入るって……」

「なんだ聞いてたのか。別に、男同士だから問題無いだろ?」


「えー! いやいやいや、男同士ってあれ……? 瀬木って確か、カエルのやつがミスって『性転換の杖』ってアイテムで、女の身体になったんじゃないの?」


 なんだ、瀬木が女性化したのを知ってたのか。

 木崎も古屋がそう言ってたのをちゃんと聞いてたんだな。


「そこはあれだ。心は男同士だから、問題ないだろ」

「えー! そりゃまずいだろ。瀬木は、身体が女になってるんだから!」


 しつこいな。そんなにこだわることでもないだろ。

 もう一回それで瀬木がオーケーだったから、問題ないんだよ。


「じゃ、行くかリス」

「うん……あっ、ごめんなさい。はいでした、ご主人様」


「そんな他人行儀なのはいらねえって言ってんだろ」

「……うん」


「えっ、あっ、いや。ちょっと待ってよ二人とも!」


 木崎が追いかけてきて、俺を押しとどめようとする。


「まさか風呂の中まで付いてくるつもりじゃないだろうな。お前は女だから、ウッサー達とでも入ってろよ」

「いやそういうことじゃなくて……じゃ、じゃあ瀬木はいいとして、リスちゃんは?」


 リスは腰に手を当ててふんぞり返り、なぜか偉そうに言う。


「私は子供だからご主人様が一緒で良いと言った」

「そういうことだ」


 うだうだ問答していると瀬木が風呂を出てしまうので、俺は風呂の入り口で騒いでる木崎をほったらかして脱衣所へと入った。

 木崎はあれでシャイな性格だから、まさか男湯に飛び込んでくる勇気はないだろう。ほおっておけばいい。


     ※※※


 湯気の先に、美少女の姿がみえる。

 胸は小ぶりだが、瀬木碧は本当に女の身体になっている。


「何度見ても、感動的な光景だな……」

「ふぇ、真城くん!?」


 風呂場に入ってきた俺に気がついて、瀬木はドボンと湯船の中に飛び込んだ。

 おっといけない、あふれる思いが声に出てしまったか。


「風呂に入るなら、俺も誘ってくれたら良かったのに。瀬木も水臭い」

「ぼ、僕は一人で入るのが好きなんだよ!」


 瀬木が俺に女になったことを隠しているこの状況。

 ホントに美味しいことしかないので笑えてくる。


 この状況を作り出してくれた古屋には、もっと褒美をやってもいいぐらいだ。

 俺はかけ湯して、風呂場に入ってゆっくりと瀬木に近づく。


「そんなつれないこと言うなよ」


 近づくと、顔を真っ赤にして身体を必死に隠している。

 瀬木が恥ずかしがる様も可愛いらしくていいものだ。


 ほんと俺の周りには、赤裸々な女しかいないから。

 元は男だった瀬木が一番女らしいというのは、まったく皮肉な話だった。


「そんなにくっついちゃ……ダメだって」

「なんでだよ。男同士の裸の付き合いだろ?」


 ほんとやべえな。瀬木が入ってるだけで、風呂の湯気までいい香りに思えてくる。

 そこに、ガラガラっと音を立てて扉を開けて、誰か入ってくる。


「し、真城。やっぱダメだよ!」

「木崎。お前、なんで風呂場まで来たんだ」


「……ちゃんと脱いでるぞ」

「アホか、そんな話じゃねえよ」


 木崎は、バスタオルを巻いただけの姿である。

 俺を止めにきたのは百歩譲ってわかるにしても、むしろなんで脱いだ。


「わ、私は、真城を止めに来たんだ。いくら男同士だって、瀬木の身体は」

「うわー!」


 俺は即座に風呂から上がり、木崎の口を手で封じた。

 コイツ、何を言おうとしてくれてんだ。


 せっかく瀬木が俺に秘密にしようとしてくれているのに。

 俺が知ってるってバレたら台なしになるだろ。


「んぐぐ!」

「木崎黙れ。大人しくしろ。余計なことは言うな!」


 暴れまわる木崎を、俺は必死に抑える。

 まさかこんなところで組手をやることに成るとは思わなかったが、余計なことを言われて困る!


 湯船の中から、今度は瀬木が叫んだ。


「真城くん、それはマズいよ!」

「なにが?」


「木崎さんのタオル!」

「んぐぐぐぐ!」


「そうか、脱げてしまって……あっ!」


 まともに木崎の裸体を見てしまったことで、俺の押さえこむ力が抜けてしまう。

 いきなり解放された木崎が、勢い余って床に倒れそうになった。


 頭を打ったら大変なので、俺は慌てて抱きとめてやる。


「うわー、うわー、うわぁぁあー!」

「……あぶねえな」


 一人で大騒ぎして、顔を真っ赤にした木崎は叫びながら風呂場の外へと飛び出していった。

 まったく……人のくつろぎタイムを邪魔しやがって、何がしたかったんだ。

次回8/21(日)、更新予定です。

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