126.再コンテニュー
「本当に、休まなくていいのか七海?」
「死んでいる人達は、今も黄泉で苦しんでいるんだ。一刻も早く助けてあげたいからね」
「七海らしいな」
「僕達にも、『再生のコイン』を出すことはできないだろうか」
「それはわからないが、いまの七海の仮定だとこの世界に何らかの変革を与えると出るんだろ。それは、俺にしかできないわけではない」
俺は強大なモンスターを倒しまくって出したわけだが、敵の強さに比例しているという感じでもない。
「だったら、僕も僕なりに頑張れば仲間を救えるのかな」
「できないことはないと思うぞ」
「そうか。真城ワタルくんがそう言うなら、出来るかもしれないね。僕は、いや僕達は……仲間を救うためにできることはすべてやっていくつもりだよ」
「期待してる。それはそうと、今回生き返らせる奴だが……」
俺は街にいる安田太一という男子生徒に向田冬美という女子生徒を生き返らせるように頼まれている。
とりあえず一人はそれとして、あとは戦力になりそうな男子生徒を中心に生き返らせることにした。
七海と使えそうな奴ということで相談するなかで、俺は名前を一つあげた。
二軍のリーダーであった男だ。
「なるほど、仁村流砂くんか。確かに彼なら実力も、仲間を率いる責任感もある」
責任感はどうか知らないが、黛京華をかばって死んだ仁村に、俺は戦闘センスを感じていた。
とっさに京華をかばって死んでいなければ、最後まで生き残ってもおかしくないだけの力量の持ち主だ。
「まあ、仁村がジェノサイド・リアリティーに残って、俺達に協力してくれるかはわからんのだけどな」
どちらにしろ全員生き返らせるのだ。
戦力にならない弱い生徒を先に生き返らせてもしょうがないし、協力してくれるかどうかは生き返らせてみてから聞けばいいことだ。
「わかった、じゃあ向田冬美くんと仁村流砂くんだね。あとは、一軍だった生徒を中心に生き返らせることにしようか」
やはり戦闘力となると一軍のメンバーが中心となる。『再生のコイン』をスロットルに入れて、選べる六人を蘇生する。
それと呼応して、選べない六人も蘇生する。
計十二人の蘇生。今回は、全員生徒だった。
ガラスケースに閉じ込められた人間が出てきて、息を吹き返すのは何度見ても昔のSFのようだ。
「これは、生き返ったってやつかァ?」
「おう……。久しぶりだな仁村。俺が蘇らせたんだ、恩に着ろよ」
仰向けに床に倒れていた仁村が、ゆっくりと起き上がる。
ちょっと恩着せがましいが、俺が蘇生させたことをアピールしておく。仁村には、働いてもらいたいからな。
「フン、恩に着ろってェ、テメェは俺に何をさせてェんだァ?」
白髪が混じった長い前髪をかき上げて仁村が凄む。
「勘が鋭いじゃないか。じゃあ直裁に頼むが、神宮寺良と、御鏡竜二を殺すのを手伝って欲しい」
「あいつらか、俺もあいつらのクソみてェなやり方は気に入らねェが……」
向こうの世界でも、七海達のグループと神宮寺達は敵対していたらしいからな。
中盤で脱落した仁村も、神宮寺がこの事件の元凶であったことは知っている。
「もちろん現実世界に帰るって選択肢もあるが、お前はやられっぱなしになるやつじゃないだろ?」
仁村がどんなやつかなんて俺は知らないが、まあこれは勘だ。
挑発してやれば、神宮寺達を潰すまでは手伝ってくれるんじゃないかと思える。
「……まァ考えとく。それより京華はどうした。あいつは、ハデスに居なかった。生きてるんだろ?」
「そうか、仁村は黛が好きだったな」
「バッ、バカ野郎! そんなんじゃねェよ!」
その顔を見れば丸わかりなんだが、それなら話は早い。
黛京華は金で動いてくれているから、こちらの陣営に京華がいるとなれば、仁村も何もせず日本に帰るってことはないだろう。
その他、戦力になりそうな一軍の男子を中心に蘇らせた。
生き残った十二人のうち半数はこちらの戦力を増やせそうだが、七海が協力を要請してもなお、残りの半数はやはり日本に戻りたいと言い出した。
「まあしょうがないね」
そう言って、七海は苦笑する。
そうだな、いつでも日本に帰れるとなれば、好き好んでこんな危険な世界に残ろうなんて酔狂な生徒はそういないだろう。
「おい、真城ォ。京華はどこなんだ」
「落ち着け、仁村。黛はこの迷宮の街にいる。すぐに会えるさ」
ダンジョンの上の街で、京華に上手いこと仁村にも協力するように言いくるめてもらったんだが、その話は割愛する。
今回の蘇生者のなかに、仁村の他にも京華に翻弄されて働いていた二軍の生徒が結構いて、大変面倒なことになっていた。
「お前ら木っ端が京華に近づくんじゃねェ!」
醜い女の奪い合いだな。
仁村が凄んで勝ったようだが、ああ騒ぎを見ると同じ女関係のトラブルでも七海はスマートだなと思ってしまう。
「あらー怖いわね」
「京華、お前な」
騒ぎの真ん中に居たと思ったら、いつの間にか俺の後ろにいやがる。
「街では喧嘩できないのに、あんなに凄んじゃって男って馬鹿みたい」
それは俺も思うが、お前が周りの男を煽りまくって利用したのがいけないんじゃないのか。
まー、そこらへんの人間関係は俺の知ったこっちゃない。
「京華。仁村は使えるから神宮寺の討伐に協力するように言っておいてくれないか」
「フフン、いいわよ。これも貸しね」
京華に借りを作るなんてろくでもないけど、この際しょうがないか。
金でもやっておけば黙るから、いいだろうと頷いた。
あと安田って男子も、無事に恋人の向田冬美と出会えたことでようやく日本に帰るようだ。
「真城……いや真城さん! 冬美を助けてくれてありがとう!」
「いや、まあ約束だったからな。お前の彼女のアイテムも、俺に寄越せよ」
「もちろんだよ。なあ冬美」
「うん」
「これで、僕達は一緒に日本に帰れる。本当にありがとう」
何度もお礼を言われたのが、なんか気恥ずかしかった。
安田が稼いだなけなしの金貨までこっちに渡そうとしてきたが、それはいらないので返してやった。
日本に戻るといっても、今からだと苦労もあるだろう。金はあったほうがいい。
俺はもらったアイテムと交換に蘇生させただけだから、礼なんていらない。
安田達のように、日本に帰る連中からも持っている黄泉のアイテムを徴収できるので無駄にはならないとは思える。
徴収したアイテムも、神宮寺達を追い詰めるのに役に立つことだろう。
※※※
あと、街から『庭園』に戻るのに木崎晶を誘ってやった。
「おい、木崎。お前は、『庭園』に来てもいいぞ」
「ほ、本当か!」
「なんでそんなに驚くんだ。稽古を付けてやるって言っただろ。いちいち街まで戻ってくるのが面倒だしな」
「だってあそこは、真城に認められた女しか行けないんだろ!」
いつの間にそんな話になってるんだ。
俺が認めるんじゃなくて、どっちかというと和葉の許可がないと入れないんだけどな。
さっき許可はとっておいたから、問題はない。
横にいるウッサーも、ウンウンと頷いている。
「晶は筋がいいから、特別に入れてあげてもいいデスよ」
「本当か、ウッサー師匠!」
いつの間にか、木崎はウッサーを師匠と呼び始めている。
訓練を監視していたウッサーは、木崎の実力と姿勢を認めて弟子にしたらしい。
デーモン相手に拳を鍛えようとしてたのは、木崎だけだしな。
こいつは斧戦士なのだが、意外に体術もいけるのだ。
木崎は言動が乱暴なようで、体育会系の礼儀正しさもある。
武道家のウッサーが気に入るのもわからなくもない。
……というわけで『庭園』に連れてきたのだが、和葉に「また増えちゃった……」とボソッと言われてしまった。
一瞬だけ、不穏な空気が漂うのを感じた。
和葉は、不満を溜めこむタイプだ。
それで七海は和葉を爆発させた経緯があるから、同じ轍を踏みたくない。
「和葉がいいって言ったから連れてきたんだ。もし気に入らないなら言えよ?」
「真城くんが良いなら、私はいつもいいよ」
和葉は、笑顔である。
不満そうなニュアンスに聞こえたんだが、うーむ。
見た感じ木崎晶と和葉はそんなに仲悪そうでもない。
和葉は七海のグループの女子とあんまり上手くいってないのだが、まあ木崎は大丈夫だよな。
木崎はといえば、拳を握りしめて「やった! やった!」と小躍りしている。
そんなに『庭園』を見てみたかったんだろうか。
「おい、木崎。じゃあ、俺が相手してやるから組手でもやるか」
俺がそう言うと、和葉が口を挟んだ。
「真城くん。その前に、ご飯」
「身体が暖まってるうちにちょっと組手を済ませようと思ったんだが」
「ご飯、温かいうちに食べて欲しいから」
「わかった。木崎、組手はいつでもできるから飯が先だ」
「えー、でも真城と組手……」
「木崎さんも、ドラゴンのお肉好きだったわよね。たくさん作ってあるわよ」
「そりゃ肉は食べたいけど」
木崎がなんか言いたげな眼をしているが、ここでは和葉を優先する。
無敵の罠と壁を出せる和葉が本気出して守ったら、俺ですら容易に『庭園』に踏み込めなくなる。ここは、和葉のフィールドだ。
どっちが先でも構わないようなことなら、和葉を怒らせないほうがいい。
さあそうと決まれば、飯だ飯。
次回8/14(日)、更新予定です。