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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
124/223

124.オークロードの洞窟

 水竜を倒して洞穴から出ると、沖合に船が待っててくれた。

 船に跳躍して戻る。


「なんだ、船頭待っててくれたのか」

「王様があっしらのために頑張ってくれてるのに、あっしらだけが逃げられませんぜ」


 船頭がそう言うと、寡黙な船員達も頷いた。


「お前達のために戦ったわけではないんだが、邪魔なモンスターがいれば俺が片付けるから言うといいぞ」

「本当にありがたいことでさ。街を支配してた熊人どもなんざ、無理やり税を取り立てるだけで、あっしら漁民が困ってても何もしてくれなかった……おっといけねえ、野郎ども。王様を港にお戻しするぞ。エイヤサー!」


 船頭がそう掛け声をかけると、船員たちも「エイヤサ! エイヤサ!」とオールを漕いで、船は港へと戻り始めた。


「船頭、俺の支配下では四民平等にしようと思っている。熊人ともいろいろあったろうが、他の種族とも仲良くやってくれな」

「あっしらは、そのつもりでさ。王様のおかげで、街の熊人もすっかり大人しくなりやしたから」


「ならいいがな」


 モンスターと違って、人族に類する種族は同じ文化を共有しているし言葉も通じる。

 後はわだかまりさえ解ければ、同じ街の住人としてやっていけるだろう。


 そうは簡単にいかないのが民族問題だとも知識としては知っているが。

 そこら辺は、七海かアリアドネがなんとか考えてくれるだろう。


 そういう統治の仕方は、俺にはわからんしな。

 俺ができることは、力ずくで障害をぶっ潰す事だ。


「王様、港に戻ったら酒宴を開かせていただきまさー」

「俺は、酒を飲まんからいい。飯もいらん」


 和葉に持たされた弁当を食べておかないと悲しい顔をされるからな。

 俺は、また船の前に立ちはだかったシーサーペントの頭が飛び出てくるなり、首を斬り裂り。


「それより船頭、まだ俺は血に飢えている。この辺りに強いモンスターがいれば、退治するぞ」

「そ、それじゃあ……」


 船頭に教えられて、俺はバローニュの街近郊のモンスターの巣を潰しにかかることにした。


     ※※※


 モンスターの巣といっても、水竜の洞穴以外は大したものはない。

 俺はまず、近郊の銅鉱に住み着いたというオークの巣を掃討にかかった。


「王様、ここがオークの巣です」

「そりゃ、見りゃわかる」


 俺は、門番らしきオーク二体を一瞬にして斬り捨てた。

 後ろの兵士が「ヒッ!」と叫びを上げた。


「なんだ軟弱だな。オークと戦ったことはないのか?」

「失礼しました、陛下の剣がすごすぎまして」


「世辞はいい。それで、洞窟の構造は?」

「ただの竪穴です。オークの群れが六十匹ほどで、オークロードが居るとの報告があります」


 いちいち相手にするのが面倒だ。


最上級ハイエスト イア 飛翔フォイ!」


 俺は、洞窟の入り口から炎球ファイアーボールをぶちこんで焼き払った。


「うあ! こっ、これはなにをされて」

「汚らしい洞窟を消毒しただけだ。これで、中に入れるだろう」


「何たるすさまじさ……これが、祭祀王を打倒された新たな人族の王のお力か」

「これで、綺麗になったから早く進めるだろう」


「あっ、待ってください王様。ただいま松明をお付けします!」

「必要ない」


 完全な夜目を持っているわけではないが、オークが生息できるぐらいの薄暗がりなら俺の目でも見える。

 ずっとダンジョンにこもってたから、暗闇で動くのにも慣れてしまった。


「なんだ、他愛もない。そんなに大きな坑道じゃなかったんだな」


 俺が洞窟の奥で見つけたのは、オークロードの死骸である。

 オークは最上級ハイエスト炎球ファイアーボールに触れた段階で一瞬で蒸発してしまったが、さすがにオークロードは黒焦げの死体が残っていた。


 だがそれだけだ。

 そういやこいつ、地下一階やそこらの雑魚だったわ。


「王様、オークの巣に財宝があります」

「財宝? そんなもんお前らにくれてやるわ」


 洞窟の奥には、オーク達が集めたらしい鉄くず同然の武具が転がっていた。後は、銅鉱だったので銅の延べ棒が多数転がっている。

 こんなガラクタが、この街の兵士には財宝に見えるらしい。


 金貨も多少あったように思うが、どっちにしろ黒焦げだった。

 俺はそんなものに興味ないが、磨けば使えるかもしれんな。


「王様、ありがとうございます。オークの討伐も終わりましたし、これで銅鉱の生産も再開できて街が助かります!」

「そりゃ良かったがなあ……」


 拍子抜けすぎる。

 これでは、『再生のコイン』は出そうにないな。


「いや、出ないと決め付けるわけにもいかんか」

「はい?」


「いや、こっちの話だ。ここの後片付けは任せた。こういうのがあれば、全部潰すからさっさと教えろ。地図で示すだけでも構わんぞ。一箇所五分で済ませてくる」

「あっ、待ってくださいよ!」


 この調子で、オークだのオーガだのコボルトだのゴブリンだのの巣を潰して回った。

 後は、街の墓場に大量に発生したゾンビども綺麗に掃討しておいた。


 ゾンビに関しちゃ、俺の責任の部分もあるからやらざる得ない。

 こんな雑魚でも数をこなせば、『再生のコイン』一枚分ぐらいにはなるかもしれない。


 移動時間がかかるので、一箇所を五分で済ますとはいかなかった。

 バローニュの街に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。


 半日引きずり回していた街の兵士達は、ヘトヘトになってその場に倒れ込んでいる。

 最初の洞窟に俺を案内してた船頭とか、もうどっかで置いて来てしまったのかいなくなっちゃったしな。


 兵士は、これから巣穴にあったお宝と称するガラクタを街に運ぶのだろうし、ご苦労なことだ。

 俺の前に町長のトルタンという恰幅のいい男が現れて言う。


「今日はどうぞ、街に泊まっていってください」

「まあそうさせてもらうか。一寝入りできたらどこでもいい」


 ここからジェノサイド・リアリティーは、そこまで遠くないんだが、さすがに俺もマナを消費しすぎて疲れた。

 マナの疲労を自然に回復させるためには寝るしかない。


「王陛下には、ご領主の館にて一番いい部屋を用意してございます」

「面倒なことはなしにしろよ」


「はい、酒宴はなしでございますね。お聞きしております」


 アリアドネからバローニュの町長に任ぜられたトルタンは、どうも気が回りすぎる。

 戯れに聞けば、元商人だという。なるほど、道理で揉み手が堂に入っているわけだ。


「部屋だけ用意してくれれば、あとは放っといてくれればいいからな」

「お風呂には入られますよね?」


「風呂か、まあもらおう」

「はい、上質の湯を用意させていただきます」


 湯に上質もクソもあるかとおもうが、もしかするとあるのかもしれない。

 水質が良い土地ばかりではない。


 恐る恐る、領主の館に用意された風呂とやらに浸かってみると普通だった。

 透明なお湯だし、別に肌がヒリヒリしたりもしない。


「どんな泥水かと思えば、悪くない」


 薪で焚いた風呂特有のお湯の柔らかさがある。

 野宿であれば風呂にはありつけないから、贅沢だよなと顔を洗う。


 なんか、外がゴソゴソしだしたと思ったら。

 裸の女が出てきた。しかも、二人も。


「なんだ!」

「お背中をお流しいたします」


「いらん!」


 さっさと追い出す。

 風呂から出て町長を問い詰めてみると「夜伽をと思いまして」なんて言いやがる。


 そういう風習の街なのかここは。

 俺はため息を吐いて、町長の上司であるアリアドネに通信を回すことにした。


「おい、アリアドネ。何とか言ってやれ」

「トルタン町長。ご主人様の夜伽は、妾がいるからいらない」


 いや、それおかしいだろ。

 トルタンは「ご、ご無礼をばいたしました!」と平伏してしまった。それに、アリアドネは鷹揚に答える。


「わかればいいのです。ご主人様もご迷惑をおかけしました」

「まあいいけどさ」


 トルタン町長が、俺よりもアリアドネに対して腰が低いのがなんか気になる。

 よっぽどビビっているのか、アリアドネが映った『遠見の水晶』に向かって土下座の姿勢のまま、しばらく立ち上がらなかった。


 アリアドネはこの街を接収するときに、よっぽどのことをしたのだろう。

 おかげで、俺も邪魔されずにゆっくり眠れるというものだった。


 面倒なのは困るが、風呂や寝床のサービスが良いのはありがたいもんだしな。

次回7/31(日)、更新予定です。

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