122.新たなコインを求めて
とりあえず、リスと瀬木の底上げを終えた俺は、訓練の監視を和葉とウッサーに任せて地上の街へと上がってきた。
訓練だけやっていればいいわけではない。
俺には『再生のコイン』を集めて、黄泉を全員蘇生エンドで終わらせると言う目標もある。
優凛高校の死亡者計百六十五人、ウッサーのパーティーの死亡者が六人。アリアドネのパーティーの死亡者が六人である。
死者総数は、百七十七人。
すでに蘇生させたのは十人で、残りは百六十七人。
コインは一枚で二人蘇生させられるから、全死亡者復活まで残り八十四枚となる。
「まっ、なんとかなるだろう」
一回なんかやるごとに一枚だと、気が遠くなる感じだが。
コインを手に入れる条件の世界変革は、その規模によって枚数が変わってくるようなので、人族の邪魔になってる大物をぶっ潰せばその分だけ多くの枚数が手に入ることになるだろう。
ちなみに、優凛高校の生存者数が二十一名で、それにウッサーとアリアドネを入れるとジェノサイド・リアリティーの死亡者と合わせてちょうど二百人となる。
挑戦者が二百人きっちりというのも、なんとなく操作めいたものを感じる。
今までの情報を総合するに、この終わりかけの世界に変革をもたらせる人材を競わせようとしている、全ては創聖神の手の内ということなのだろう。
「あるべき姿に戻すということか」
神の思惑など知ったことかと思っていたが、最近ちょっと心境の変化があったので、協力してやってもいい気になっている。
とりあえず全員蘇生して黄泉を終わらせるぐらいは、付き合ってやっても……。
「んっ、あれは何やってるんだ。おーい」
「あっ、真城くん」
街に常駐している黛京華と一緒に男子がいる。
ついでで蘇った奴らだ。日本に帰ったとおもったんだけど。
こんなとこでいまだに武装して、またいまからダンジョン探索にでも行こうかと言う雰囲気である。
「お前誰だっけ」
「安田だ。C組の安田太一」
まったく思い出せない。
モブだな。
「お前ら、なんで日本に帰らず残ってるんだ?」
俺の疑問に、安田と名乗った生徒ではなく京華が答える。
「安田くんは、彼女の向田冬美さんが帰ってきてないから、それを待ってるんですって」
「ふーん、それで残ることに決めたのか」
安田という男は、低い声で言う。
「本当は、自分の力で冬美を取り戻したいところなんだけど……」
「あーそれは止めとけ」
「自分の力のなさは、ここでも黄泉でも死ぬほど思い知らされたよ。真城……真城さんが蘇らせてくれるのを、待つしかない。でもせめて、これを受け取ってくれ」
安田という男は、俺にアイテムを渡してきた。
「黄泉産の魔法の巻物に、杖が二本に、あとはここの宝石と金貨か」
「少しでも役に立てないかと思って、ここでも必死にアイテムを集めたんだ。真城さん、男と見込んで頼む。俺の彼女を、冬美を蘇らせてくれ」
黄泉産のアイテムは、希少価値がある。
宝石はクズでも役に立つが、金貨は余っているのでここで生活するのに使えと返すことにした。
「まっ、いいだろ。向田冬美だな。七海に相談して蘇生リストに上げておくことにしよう」
「ありがとう、ありがとう!」
男が好きな女のために必死になる気持ちはわからなくもない。
どうせ全員蘇生させるつもりなんだから、次の機会に蘇生してやればいいだろう。
「真城くんは、本当は優しいのよね」
「お前に言われると、褒められた気がしないな」
抜け目の無い京華に言われると、甘いと揶揄されてる気になる。
単に利害が一致しただけなんだがな。
「あら、私だって安田くんには同情するし、協力もしてあげてるのよ」
「どうだかな」
「誰かさんが構ってくれないから、街で話し相手になってくれるのもありがたいしね」
「そりゃ良かったな。ほれ、手を出せ黛。ちょっと金貨をやるぞ」
京華は、目を輝かせて金貨を受け取る。
わかりやすいやつだ。
「ありがと!」
「それで、引き続き街の監視の仕事を続けろ。神宮寺がちょっかいをかけてくる可能性は低いが、念のためにな。安田も残ってるなら、その間は街の警備を頼む」
金を与えておけば、使い物になる京華はわかりやすくて嫌いではない。
俺はジェノサイド・リアリティー近郊で、『再生のコイン』の対象になりそうなモンスターを討伐しにいくことにした。
※※※
俺は、ジェノサイド・リアリティーを北上し、バローニュの街へと来ていた。
ここは港街で、街の真ん中に小さな砦が立っているのだが、なんか見覚えのある旗がたなびいていた。
「なんで、日の丸の旗が立ってるんだ」
正確には日章旗ではない。
白旗に真ん中の丸が、赤丸ではなく黒丸になっている。海賊か、戦国武将の旗みたいでもある。
俺は『遠見の水晶』でアリアドネを呼び出してみる。
「これは、我がご主人様。この端女ごときにお声がけいただけるとは、恐悦至極」
「くだらん挨拶はいい。いまバローニュの街にきてるんだが」
「おお、そうですか。バローニュの街は、すでに我が真城王国のものです」
「真城王国ってなんだ。自分の名前が国号になってるとか……カーン地方なんだから、カーン王国とかにならないのかよ」
ちょっとそのまま過ぎて恥ずかしすぎるぞ。
「カーン王国では、これまでの熊人支配と代わりません。真城王の即位を内外に喧伝することで、刷新が図れるのです」
「しかし、真城王国とか言っても国民はわかんねえだろ」
「ご主人様のお名前の意味がわからないところが、深遠な意味がありそうで格好良くていいのです!」
「厨二かよ……。まあ、国の名前なんかどうでもいいが、あの黒丸の旗はなんだ?」
「我が国の旗です。ご主人様の祖国の旗をモチーフに作ってみましたがいかがでしょう」
すでに国号や国旗も決めてるのかよ。
手回しが早すぎる。
「国を建てるのだから、国旗もいるのはわかるが……」
「ご主人様はお忙しそうだったので、ご判断を仰がずに勝手を致しました。ご不満であれば、変更もできます」
「いきなりだから驚いただけだ。お前に任せると言ったんだから文句はいわん。一応連絡しておくが、俺はこれから北の海で水竜を倒す」
「おお、そういえば漆黒の森近くで、ツリーエンドの被害がなくなったと聞いたのですが」
「それは俺が、ツリーエンドを生み出してるワールドツリーエンドを倒したからだな」
「なんと! もしやとは思っておりましたが、ご主人様のお力でしたか。世界級の魔物をいともたやすく……絶大なる真城王の力を知り、領民どももさらなる忠誠を誓いましょうぞ」
領民のためとかじゃなくて、『再生のコイン』が欲しいだけなんだよ。
「いや、そういうのはいいけど。統治を任せてる関係上、お前にも言っておいたほうがいいと思ったからな。この地域の人族の邪魔になっている魔物を倒せば『再生のコイン』が手に入るようだ。お前の死んだ部下も蘇らせてやれるだろうから、情報を集めてくれ」
「ハッ、有り難き幸せ。全力を尽くします」
アリアドネが『遠見の水晶』の向こう側で跪いてるのが見える。
「じゃ、そういうことでな」
「お待ち下さい。今一つ、ご主人様のご判断を仰ぎたいことがあります」
「なんだ」
「神宮寺司の追討の件です。すでに、九条殿から連絡がありました。領内を通っているようですから、こちらから追討軍を出せますが?」
まだ占領したばかりで陣容は整っていないが、アリアドネは騎兵を三百ほどならすぐにでも出せるという。
それでもよくかき集めたほうなんだが、その程度の軍では倒せないだろうな。
「倒せないまでも、テレポートなどのアイテムを削れるかもしれないが……監視に留めておけ」
「そうお命じになられるならば従いますが、理由をお聞きしても良いですか。兵など、ご主人様のためなら使い潰しても構いませんが」
「いや、そうじゃない。今はまだ、久美子が足取りを捕捉できているのだろう。ここで強襲をかければ、全力で逃げられて見失ってしまう危険性が高い」
どこに居るのかわからなくなることが、一番怖いことだった。
いま確実に倒すために、仲間を育てているところなのだ。
相手の動きさえわかっていれば、それで十分だった。
「御意です。差し出がましいようですが、もう一つ。バローニュはすでにご主人様の街です。水竜の討伐であれば、船が必要でしょう。砦にお寄りください、町長に一番いい船を出すように命じますので」
うーん、面倒だなと思う。他の人間がいると足手まといになるだけでもある。
さっさと一人で片付けたいところだ。確かに一人で海を超えるのは厄介だが、島まではさほど距離はないはずなので、魔法で飛んで渡れないこともないと思っていたのだ。
だが、船を使えば多少面倒でもマナの節約にはなるか。
事前情報も、聞いておいたほうがいいか。
バローニュの街も取り込んだばかりで、まだ安定していない領地だ。
領主である俺が直接顔を出して邪魔なモンスターを討伐すると知らしめたほうが、いろいろと事が上手く運びやすいのだろう。
水晶に映るアリアドネが、懇願の顔をしてる。
「……わかった。そうしてもらおう」
「なるべくお手間は取らせぬように致します」
単独行動を好む俺が面倒そうなのもわかった様子で、アリアドネは申し訳なさそうな顔になった。
余計な手間は取らないように、願いたいものだがな。
次回7/17(日)、更新予定です。