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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
117/223

117.漆黒の森

 瀬木が女の子になってしまった。

 俺は耳を疑ったが、古屋がそう確かに証言したのだ。


「なんでまたそんなことになった。いや、責めてはないぞ。むしろよくやってくれ……いや、落ち着け。ともかく事情をまず聞かせろ!」

「くるし、苦しい。ゲホッ、話せないから」


 俺は、慌てて古屋……いや、古屋くんの襟首から手を放す。


「すまん。古屋つい……」

「いや、真城が怒るのも無理ないよ。お前は、瀬木の親友だったもんな。あのな、瀬木が女の子になってしまったのは俺のせいなんだ」


 お前のおかげだったのか古屋さん!


 黄泉の国(ステイジアンハデス)では、『新生ニューライフ』の際に種族を変更できるように、性別も変更できる。

 そして『新生ニューライフ』しなくても、ゲーム中で性別転換が出来るレアアイテムも存在する。


「しかし、性転換アイテムなんてよく出たな!」

「だって、いきなり『性転換の杖』なんて出たからさ。瀬木にちょうどいいのがあるぞーって、つい振っちゃったんだよ。その時は、まさか本当に性転換するなんて思わなかったんだ!」


 さすが古屋。

 そんな怪しい名前の杖を、つい振ってしまう馬鹿さ加減が最高だ。


 俺でもそれはミスって振ってしまうわ。うん、古屋は悪くない。

 むしろ、古屋のアイテムの引きスゲエ。性転換の杖なんて、かなりのレアだぞ。


 最終的にはアリアドネに斬り殺されたものの、土壇場の局面での古屋のリアルラックは相当なもんだったからな。

 よくやってくれたわ!


「それでその、瀬木は女の子のままなのか。女の子のままなんだろうな?」

「うん。もちろん俺達は、すぐ元に戻そうとしたんだよ。だけど、杖の使用回数が一回だったんだよ! それでみんなで新しい『性転換の杖』を探してるところだから、瀬木の蘇生はちょっとだけ待って欲しいんだ」


 そう手をあわせてお願いされた。

 なんだよ、それじゃまるで俺が瀬木の性別を元に戻すのを邪魔するみたいじゃないか。


「ちょっと、真城くん?」

「旦那様?」


 俺の背中にくっついて、七海を牽制していた和葉とウッサーが声を上げる。


「なんだお前ら。何か言いたいことでもあるのか?」


「元に戻るまで、瀬木くんの蘇生を待ってあげるんでしょう?」

「そこの男は、そうお願いしてるデスよ?」


「はぁ? 待つわけないだろ。そんな瀬木の性別がどうとか、つまらん事情を勘案しているような事態じゃねぇだろ」


「真城くん。絶対楽しんでるでしょ!」

「旦那様、いつになく嫌な笑い方デス」


「うるせぇ。今は、神宮寺対策に一人でも戦闘で使える駒が必要なんだよ。瀬木は、僧侶としての実力もさることながら、爆発ポーションを使った爆弾矢なんかを創りだすクラフトスキルもあるだろ。なんというか、絶対に必要な人材だから、一刻も早く蘇らせなきゃならない」


 しょうがないよな。事態が切迫してるんだから。

 古屋が心配そうな顔をする。


「真城……」

「心配するな古屋。他の奴も、後からちゃんと生き返らせてやるんだから『性転換の杖』を後から持ってきてもらえばいいだけだろ」


 出ればの話だけどな。

 かなりのレアアイテムだから、出ない公算のほうが多いんじゃねえか。


 こうなったら、急いで全員を生き返らせてやるか。

 そうすれば、黄泉の国(ステイジアンハデス)を終了させられる。そこで、瀬木の性別は女のまま確定する。完璧な作戦だ。


「なあ、真城……」

「女の子になった瀬木も、ちょっと見てみたいしな」


「あー、真城くん。やっぱりそれが本音なんじゃない。そんなに瀬木くんがいいんだ……」

「旦那様。浮気はいいけど、本気はダメデス!」


 女どもがうるせーうるせー。

 だって古屋達だけが、女になった瀬木を見られたなんてズルイだろ。


 さすがに、瀬木を女のままにするとか冗談だからな。

 俺だってちょっと女の子になった瀬木を見てみたいだけだ。


 これぐらいの役得がなくて、こんなクソゲーやってられっか。


「そうか、瀬木は本当に碧ちゃんになっちゃったのか」


 俺は、瀬木の遺体が安置されているガラスケースを覗く。

 相変わらずの美しさであるが、そう言われてみれば女性的な柔らかさが増している感じを受ける。


 もともと瀬木は女子より綺麗で、女性用の装備である聖女の修道服を身に着けているから気が付かなかったが、そう考えると胸の膨らみ辺りがなるほどなって感じだ。

 女の子になった瀬木か。どんな感じなんだろうか。


 これは一刻の猶予もないぞ。

 神宮寺のこととか、全部後回しだ。


「じゃあ、俺はちょっと。出てくるから」


 俺は早急にやることができたから、出かける。

 慌てて七海が呼び止めてくるが、悪いけどスルーだ。


「真城ワタルくん。話し合いはまだ終わってないんだが」

「すぐ戻る! 神宮寺は久美子に追わせてるから大丈夫だし、七海が中心になってとりあえずジェノサイド・リアリティーの防衛体制を固めておいてくれ」


 とりあえず地上階に連れてきたのだ。万が一にも敵が来るかもしれないという状況では、みんなが協力しあわなければならない事情もある。

 俺がいない状況のほうが、和葉と七海の仲直りも上手くいくかもしれないしな。


「ああっ、リス。お前は、絶対安全な街にいろよ。ある意味、お前の存在が一番大事だ」

「えっ、ああ、ハイ」


 リスもなんか、他の女どもと一緒で釈然としない顔をしているがまあいいか。

 ともかく、みんな後は頼む。


 俺はやらなきゃならないことができた。


     ※※※


 ジェノサイド・リアリティーを飛び出した俺が向かった先は、タランタンの街から南にある『漆黒のブラック・フォレスト』だった。

 巨大な樹木が鬱蒼うっそうと茂り、そのために日中も日が当たらない黒い森である。


 しかも、地面は木の根が張りまくってるので足場も悪い。

 そのうえ――


「また、ツリーエンドかよ」


 動く樹木の化物がウヨウヨしているのだ。

 枝か蔦を伸ばして攻撃してくるだけの大した敵ではないのだが、暗い森だから視認性が悪い。


 単調な攻撃だが振り回す枝は、当たれば結構痛い。

 十体以上に囲まれても斬り飛ばせる俺じゃなければ、囲まれて死ぬところだ。


「いや、俺でもウザい。こうなったら、最後の手段といくか」


 俺は、高く三メートルほどジャンプして森を突きって位置を確認する。

 見えた。


 俺の目的地はちょうど、この森の中央にある東京タワーみたいな巨大な漆黒の樹木である。

 本来なら世界樹の木とか聖的な存在っぽいポジションなのだが、この樹木系のモンスターがウヨウヨしている森ではラスボスになる。


 そこまで一気に突っ切るのに、一番簡単な方法。

 それは、燃やすことだ――


最終アーク イア 飛翔フォイ!」


 紅蓮の炎球ファイアーボールが、一直線に森を焼き切って道を切り拓いた。

 スッキリする。


「良し」


 なんか盛大に炎と煙が上がって、森のところどころでもうもうと煙が上がっているが知ったことじゃねえ。

 ここの森なんか全部焼いてしまってもいいぐらいだ。


「木の化物ども、近寄ったら全員焼くぞ!」


 俺はそう叫びながら、炎球ファイアーボールを撃ちまくって天を貫くような巨大な黒い樹木のところまできた。

 ワールドツリーエンド。


 単に巨大なツリーエンドなら、グレートと言うがこいつの大きさは世界級ワールドクラス

 樹齢何万年かければここまでツリーエンドが大きくなるのだろうかと不思議に思うぐらいだ。だが今は、学術研究と洒落こんでいる暇はない。


「ニンゲン……」


 こいつは、知能というものを感じさせない他の木の化物と違い人語を話す。

 だが、話し相手もしてやらない。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」


 紅蓮の炎球ファイアーボールが、一直線に巨大な樹木の根本に大穴を開けた。

 さすが世界級ワールドクラスのツリーエンド。


 一発では倒れない。

 正直、二回連続で最終アーク炎球ファイアーボールでこちらのマナはからっけつなのだが。


 こんなときのために、マナポーション代わりの宝石を備蓄しておいたのだ。

 俺は惜しげも無く使う。全ては、瀬木の蘇生のために。


「ニンゲン、オマエタチ!」

最終アーク イア 飛翔フォイ!」


 なんかワールドツリーエンドが慌てて叫んでいるが、知ったことじゃねえ。

 こいつが何を言いたいかは、もうだいたい分かっているしな。


 樹木族ツリーエンドは、人族よりよほど前にこの世界に存在しており、俺達のほうが侵略者だと言いたいのだ。

 ゲームでよくあるパターンである。


 ゲームのときも、このイベントあったからどうせ一緒だろうと思ってた。

 木の化物から言わせれば、ニンゲンのほうが後から来た侵略者で悪い。なるほど、わかる理屈だ。だからどうした。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」

上級ハイ 放散フー 電光ディン 飛翔フォイ


 こいつは魔法も使う。

 電撃の魔法が飛んできたが、いまさら上級ハイかよと鼻で笑ってしまう。


 ニつもランクが下の魔法など、俺には蚊が刺すほどにも感じない。

 申し訳ないが、これは簡単に殺せてしまうな。


 俺だって、別にこの世界の人間に味方したいわけじゃないのだが。

 正義がそちらにあるというなら、死ぬまで正義を叫んでいるがいい。それは自由だ。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」

「ニンゲンメ!」


 ようやく、通常攻撃。巨大な枝が降り注いできたが遅い。

 どれほど巨体でパワーがあろうと、動作が遅いのは致命的な弱点だ。


 降り注いでくる枝の攻撃もまとめて、紅蓮の炎球ファイアーボールが焼き尽くしていく。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」

「ナンデ、コンナ」


 瀬木の復活のためだ。

 この森の全てのツリーエンドの母体であるこいつを討伐すれば、この森はタランタンの街の住人が森から出るモンスターに困らされることもなくなる。


 それはすなわち、この世界の変革となり、その報奨で『生命のコイン』が発生するに違いない。

 悪いなツリーエンドども。俺は瀬木を蘇らせるためなら、世界を滅ぼしてもいいと決めてるんだ。


 森一つ焼き潰すぐらい造作もなくやる。

 もちろん悪いのは俺だ。お前らが正義だ。正義を抱いて死んでいけ、ワールドツリーエンド。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」

「ヤメ……」


 宝石が尽きるほど最終アーク炎球ファイアーボールを撃ち終わったとき。

 ついに自重に耐えかねて、メキメキと音を立てワールドツリーエンドは根本からポッキリと折れた。


 そうして、その巨体を地面へと倒れ伏してくる。

 ゆっくりと頭上から迫ってくる東京タワー程もある樹木は、大スペクタクル。


「いや、感心してないで逃げねえと」


 最後の嫌がらせか、こっちに倒れてくるから慌ててよけた。

 大地を揺るがす地響き。


「ゲホゲホッ」


 それと同時に、辺りにもうもうたる土煙があがって、咳き込む。

 だが、何とかなったとホッとする気持ちのほうが強い。


 ワールドツリーエンドは、思ったよりも強かった。

 呪文を使わずに正攻法で倒してたら何日掛かったわからないところだ。


 ともかく、これで任務完了。


「さてと、ジェノサイド・リアリティーに戻るか」


 これで、俺の予想が正しければだが、リスのところに『生命のコイン』が発生しているはずだ。

次回6/12(日)、更新予定です。

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