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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
111/223

111.街への帰還

 俺とウッサーと久美子は、一足先にジェノサイド・リアリティーの街に降り立つ。

 すると、しばらくして黛京華まゆずみきょうかが姿を表した。


「俺達に気がつくとは、ちゃんと監視の役目は果たしているようだな」

「うん。大人しく役目を果たしていた私にご褒美はないの?」


 そう言いながら、俺に色目を使い近づいてこようとする京華を久美子とウッサーが前に出て止めた。


「近寄らないで」「それ以上はダメデス!」

「あら、酷い対応ね」


「お前ら喧嘩するなよ。黛は、金でいいんだろ」


 宝石は別に使い道があるが、金貨ならまだたくさんある。

 俺が差し出した金貨の袋を受け取らず、持っている俺の手を握りしめてきた。


「なんのつもりだ」

「お金も欲しいんだけど、なんだか退屈しちゃうのよね」


 久美子とウッサーは、俺に触れたことを敵対行動と判断して黛にローキックとパンチを浴びせているが、お前ら、街は攻撃禁止エリアだって忘れてるだろ。

 調子に乗った京華は、俺に抱きついてきた。


「金が要らないなら下げるぞ」

「へーそんなこと言うんだ。私は、真城くんに身体で払ってもらってもいいのよ?」


 お前なんか、安売りしだしてないか。

 俺を誘惑するんじゃなくて、なんでお前のほうが欲求不満っぽいんだよ。


「黛、お前それ以上やると、久美子とキャラかぶるぞ?」

「ええーそれは嫌だなー」


 俺がそう言ったら「私をこんな女と一緒にしないで」と、久美子が怒りだした。

 その怒りを言った俺ではなく京華にぶつけるのが久美子らしいが、だから街の中で攻撃してもしょうがないって言ってるだろ。


 久美子達をさんざん挑発し終わった京華は、俺からさっと身を引く。

 やっぱり、そうやって遊ぶのが目的だったのか。相変わらずだな。


「フフッ、まあ今日は、これぐらいにしておきましょうか」


 そう言いながら、金貨の袋はちゃんと俺の手からひったくってるあたりがたくましい。

 こいつはこいつで、役に立ってないこともない。


 久美子達とくっつくと、いちいち姦しいのは癇に障るが、退屈しのぎに遊ばせるぐらいはいいだろう。

 最近になって分かったが、こいつらも本気で争ってるわけではない。こういうのは女どものレクリエーションのようなものなのだろう。


「無人の街にいたら、退屈する気持ちもわかるけど……」


 そこで、俺はびっくりして目を見張る。

 なんで――


「賑やかだと思ったら、やっぱり真城くんが来てたのね」

「なんで、和葉がこの街にいる!」


 俺は慌てて、和葉に駆け寄る。


「そろそろ真城くんが来る頃だと思って、きちゃった」

「きちゃったじゃない、危ねえだろ!」


 四階の『庭園ガーデン』から、街までダンジョンを抜けて一人で上がってきたというのか。

 戦闘力がないはずの和葉が、どうやって街まで登ってきたんだ。


「もしかして、真城くん私が戦えないと思ってる?」

「戦えるって言うのか」


「私だって戦えるよ。なんだったら、ステータス見てみたら?」


 そういうので、携帯用の神託板で和葉のステータスを慌ててチェックして、また驚かされた。


竜胆和葉りんどうかずは 年齢:十六歳 職業:王宮料理人ロイヤルシェフ 戦士ランク:中級師範ミドルマスター 軽業師ランク:下級師範ローマスター 僧侶ランク:最終到達者アークマスター 魔術師ランク:専門家エキスパート


「なんだこれは、なんでこんなに異常に成長してるんだよ」


 料理しかできないと思わせておいて、実は隠れて訓練でも積んでいたのか。

 そう思って聞いたら、違うという。


「うん、なんか料理や工作してるだけで強くなっちゃったみたいで、魔法とかもバリバリ使えちゃうから」

「料理してるだけでマスターランクとか、お前はどこのチーターだよ」


 料理してるだけで最強とか、どっかのファンタジー小説にありそうな話だが……いつからお前が主人公になったんだよ。

 特に、なんで僧侶ランクが最終到達者アークマスターになってんの。


 僧侶ランクを最終アークまでカンストしてるのは、この世界で俺だけだと思ってたんだが……。


「えへへ」

「まあ、これなら危険はないけどな」


 和葉怖いなと、俺は内心で舌を巻いた。

 全く着目してなかった料理人スキルが、実は使えるものだったってパターンはありがちだろう。


 そこには驚かないんだが、それにしたって三ランクマスターランクの成長ぶりは尋常じんじょうではない。

 最上級師範ハイエストマスターから、最終到達者アークマスターに上がるには、それまで上げるのと同等量の莫大な経験値をつまないといけない。


 最終アークの名は伊達ではない。この最後のランクを上げるには、血の滲むような訓練がいる。

 ゲームの時ですら連打しすぎて、キーボードがぶっ壊れるぐらいの回数の鍛錬。


 そこまでレベル上げする奴ってのはそんなにいない。

 人並み外れた根気がいる作業だ。


 料理で上げたという和葉の言葉が正しいとすると、料理スキルが僧侶ランクと関連してることは明白である。

 真面目な和葉は、延々と弛むことなく食料を製造・料理し続けたことによって、気が付かないうちにカンストさせたわけだ。


 和葉は無力だからと甘く見ていた。

 『庭園ガーデン』からの出方も知らないだろうと思い込んでたが、ちゃんと出方も覚えてたんだな。


 ここまでの実力を持ちながら、これまで俺にそれをまったく気が付かせなかったことには戦慄を覚える。

 女をあまり舐めてちゃいけないってことなんだろう。


 これは、教訓だ。


「おい、黛。お前もこっち来い」

「えっ、真城くんに抱きつけばいいの?」


 だからそういう冗談をやると、無駄に空気がピリッとするから止めろ。

 お前は一回ダンジョンに出て、久美子に蹴られとけよ。


 俺は抱きついてくる京華を振り払って、携帯用神託板で京華のステータスも調べておく。


黛京華まゆずみきょうか 年齢:十六歳 職業:上級魔術師じょうきゅうまじゅつし 戦士ランク:アーチザン 軽業師ランク:名人アデプト 僧侶ランク:名人アデプト 魔術師ランク:専門家エキスパート


「ふむ、普通だ。なんかホッとする。けど、お前もそこそこ強くなってるけどな」

「暇だから、トレーニングもたまにしてるからね」


 ふーん。


「あと、黛。お前、異変があったら報告しろって言っておいただろ。和葉が街に来たなら報告しろよ」

「えー、ちゃんと何度か報告しようとしたけど、真城くんが応答しなかったんじゃない」


 あっ、そうだったのか。

 連絡に使う『遠見の水晶』は、着信側が呼びかけをスルーすると当然ながら連絡が届かない。


 無限収納リュックサックの奥の方に入れっぱなしにしておいたからか。

 連絡が来たのが、たまたま忙しいときだったんだろうが、これは俺がうっかりしていた。


「それでも、七海の方に連絡するとか」


 俺がそう言うと、和葉が口を挟んだ。


「待って、それは私が止めてって、黛さんに頼んだの」

「そうか、ならしょうがないか」


 まあ、七海に和葉の話をするとか、ろくなことになりそうにないからな。

 そういう配慮はしてくれたほうが良かったかもしれない。京香は自慢気に言う。


「ねっ、私は悪くないでしょ。ちゃんと街に来た和葉さんの相手もしてたし」

「……そのようだな。今後は、もうちょっと連絡ないかどうか気を配る。黛は、街の監視を引き続き頼む。なんかあったら連絡入れろ」


「えっ、もう行っちゃうの?」

「ああ、あと数日もすれば七海達がくるから、そうしたらまた俺に連絡を入れてくれ」


「はいはい。ろくに相手もしてくれないのに、人使いが荒いのね」


 やけに不満そうだな。

 街でのんびりしてるだけで金もらえるんだから、割のいいバイトだろ。


 まあ、黛のほうはどうでもいい。

 俺は『庭園ガーデン』に下りるまでに、和葉の実力のほどを見せてもらうことにした。


 実際に戦うところを見なければ、納得いかないところだ。

 そして、和葉はダンジョンでステータス通りの実力を示した。三階層までのモンスターなど瞬殺であった。


     ※※※


「なんだこりゃ……」


 四階の『庭園ガーデン』につくと、その光景に驚く。


「真城くんがなかなか帰ってこないから、食べ物が余っちゃって」


 俺がいない間もひたすら製造に励んだせいか、『庭園ガーデン』の食料庫から、肉や魚が溢れだしている。

 暇に飽かせて食料生産するうちに、大量に作りすぎたらしい。


「まあ、食い物はいくらあっても困るものではないが……」


 見た感じ、森を切り開いた畑も増えているし、新しい建物もいくつか増えている。

 一人でこれをやったって、よく考えると凄すぎるだろ。


 いつの間にか、和葉の技術力はとんでもなく高くなっている。

 和葉と一緒にここに住み着いてたときは、そのことを全く気が付かなかったのが不思議だ。


 すっかり気を許してしまっていたってことなのだろうか。

 和葉は、やはり曲者である。しかし、これだけの実力。


 もし和葉が、七海と力を合わせれば街の運営とかも容易になるんだろうけど。

 ……それを言ったら、怒るよなあ。


「お腹空いてるでしょう。すぐ料理にかかるわね」

「ああ、確かに腹が減ってはいる。頼むよ」


 ウッサー達は、飯だと喜んでいる。

 和葉の飯は美味いから、俺も嬉しくないことはないのだが。しかし、なんだこの悪い予感……。


「なんだこの料理の量、満漢全席かよ」

「たくさん食べてね」


 やたら巨大なテーブルを持ってきたと思ったら、その上にデカイ皿をならべて溢れんばかりの肉料理、魚料理、野菜料理。洋の東西を問わず、あらゆる種類の料理が並んでいる。

 俺は、小さい頃から母親から食い物を残すなという教育を受けてるので、食う分以上の物を出されるのは好きじゃないんだが。


「なあ和葉、俺達四人しかいないんだから、もうちょっと量の加減を……」

「真城くんがなかなか帰って来なかったから余っちゃったし、たくさん食べてね!」


 あれ、和葉。もしかして怒ってるのか?

 そういえば、久しぶりに会ったときから、ずっと笑顔のままなのがなんか……。


 俺はようやく、悪い予感の正体に気がついた。


「お、おう……そうさせてもらう」


 遠まわしに、放ったらかしにしてたことを非難されてるということなのか。

 いろいろと忙しかったといえば言い訳になるのだが、せめて『遠見の水晶』で、連絡ぐらいいれるべきだったかもしれない。


 いろいろと忙しくしていた俺は、『遠見の水晶』の連絡をぶっちしている状態だった。

 もしかすると、和葉も俺に何度も連絡を入れてたのかもしれない。それを全部スルーしてたら、温厚な和葉もさすがに怒るよな。


 うーん、京華も退屈だったって言ってたし、和葉もここにずっと一人では退屈するだろう。

 京華とすでに顔見知りになってる雰囲気だったが、『遠見の水晶』は京華も持ってるから、俺に連絡の付かない和葉は、京華とずっと交信してたんだろう。


 それで俺を待ちきれず、街まで上がって来てしまったのか。

 京華は金で雇ってるわけだが、和葉に関しては、完全に俺の都合でここに居てもらってる。


 だから、放置したのは悪かった。

 この大量の料理は食べなきゃならんだろう。罪滅ぼしだと思って全部食べる。


「美味しかったデス」

「たしかに美味しいけども……」


 美味いんだけども、もう食えないと言う状況に置かれたのは久しぶりだ。

 腹がはちきれそうで、とても鎧など着ていられない。ジェノサイド・リアリティーでどれだけ鍛えても、胃袋だけは鍛えられないようだ。


 何とか食えたのは、ウッサーがいてくれたからだ。

 このチビの大食い(胸だけはデカイので痩せではない)がいてくれたおかげでなんとか乗りきれた。


 それにしても、小さい身体によく入るもんだ。

 よく見ると、お腹がなんかポンポコリンに膨れている。こいつは、本当に漫画みたいだよな。


「真城くん、まだお肉たくさんあるよ。焼いてこようか」

「もう勘弁してくれ」


 いくら熟成肉が美味くても、もう入らない。

 しかし、和葉はこういうへその曲げ方をするんだな。初めて知った。


 俺が食わなきゃいいだけなんだが、和葉は俺が出された飯を残すのが嫌いだとよく知ってる。

 こっちの内情を知り尽くしてる相手というのは、こうもやりにくいものか。


「じゃあ、ご飯はこれぐらいにしておきましょうか」

「和葉、放ったらかしにしてて悪かったよ」


 これはもう俺の負けだ。

 さっさと謝っといたほうがいい。


「そんなことないよ。真城くんは全然悪くないから。お風呂も沸かしてありますからね」


 いそいそと俺の世話ばかりしてくれるのに、素直に許すって言ってくれないのがなんか怖い。

 どうやったら機嫌が直るんだろう。


 ああ、めんどくせえ。

 俺は女の機嫌の取り方なんか知らないので、もう聞いてしまう。


「どうすれば許すんだよ?」

「えっ、許すとかそんな……。私は勝手に付いてきただけだし、真城くんに放ったらかしにされてもしょうがないけど……」


 モジモジしててもわかんねえよ。


「けどなんだ、ハッキリ言えよ」

「私のことも、もうちょっとかまってもらえたら嬉しいかなって」


「かまってて、どういう風に?」

「例えばだけど、私と一緒に風呂入りたいって、真城くんから言ってくれるとか……」


「あぁ、風呂?」

「なんか嫌そう……ごめん。言い過ぎた。もちろん、ダメならいいんだけど」


 クソッ、これ言わなきゃ絶対機嫌直らない流れだろ。


「和葉と、一緒に風呂に入りたい……でいいのか?」

「いいね!」


 一瞬で機嫌が直ったので、見てて笑ってしまった。


「何がいいねだよ、まったく。まあ、汗は流したかったしな。入るなら入ろうぜ」

「うん、あのね。今度は泡風呂作ってみたんだけど……」


 しかし、女を風呂に誘わなきゃいけないとか、羞恥プレイだな。

 なんか言ってしまってから、こっ恥ずかしい。


 こんな言葉ひとつで機嫌が直るなら、安いもんだが……。

 ため息を吐いてたら、久美子もなんか言ってきた。


「ねえ、ワタルくん。和葉さんだけ、ズルイと思うの。私もお風呂に誘ってよ?」

「なんだよ、久美子は一人で残っててもいいぞ」


「旦那様、旦那様。ワタシは?」

「ああ、まあウッサーは一応嫁だし、付いてきてもいいぞ」


「やったデス! ワタシはやっぱり旦那様に愛されてマスね」

「まあな」


 手違いだったとはいえ、こいつの大事な尻尾をもぎ取ってしまった責任というものもある。

 ウッサーまでへそを曲げられても困る。


「えっー、なんで私だけ仲間はずれなの!」

「久美子が妙なこと言うからだ」


「無理やりにでも付いてくから!」

「勝手にしろ」


 なんだかんだで、久美子は何も言わなくても俺に付いてくるような気がする。

 こういうのも、もしかすると油断なのだろうかと、考えてしまう。


 ジェノサイド・リアリティーを拠点化するのに、こいつらの力は必要ではあるのだ。

 一方的な好意に甘えず、金で雇ってる黛京華のように、何らかの配慮を考えておくべきなのかもしれない。


 目的の蘇生手段は手に入った。

 熊人の祭祀王を倒したことで、外の脅威はとりあえず取り除かれたともいえるが。


 こういう時こそ、油断は禁物だ。

 不慮の事態に備えて、内側のことにも少し気を配るようにしよう。

次回5/1(日)、更新予定です。

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