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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
110/223

110.戦争終結

「皆の者、抵抗をやめよ! 妾はシルフィード族の祭祀王の息女アリアドネである!」


 一際大きな軍馬に乗ったアリアドネは、エクスカリバーを掲げて、戦争の集結を宣言する。


「お前らも見たであろう! 祭祀王ゴルディオイは、妾が主、ジェノサイド・リアリティーの覇王、真城ワタル様によって誅殺された! 我らが王に下れ。これは天命である!」


 動揺している熊人の軍に向かって、よく響く声で語りかけるアリアドネ。

 数では圧倒している敵の大軍に向かって、よくも堂々というものだと感心する。


 なるほど信仰心に厚い民だから、祭祀王の血族であるアリアドネが神だの天命だのと言い募ると、効果があるのかもしれない。

 全兵の目の前で、俺が祭祀王ゴルディオイを下してみせたこの状況を最大限に利用するらしい。


 そっちはアリアドネに任せる。俺は、祭祀王の死体から首を斬り落としにかかっている。

 死体を放っておいたら、ただでさえ強かった祭祀王ゴルディオイが、さらに死霊化して本当にモンスターになるとかってパターンもありえる。


 十メートルにも及ぶ圧倒的な巨体を誇りながら、魔法で戦うことにこだわり過ぎたのが祭祀王ゴルディオイの弱点であった。

 こいつがゾンビ化して肉弾戦に特化すれば、意外な強敵になるかもしれない。


 ゾンビ化する発動条件はわかっていない。

 ただ、これまでのゾンビを見ていれば、頭部を切離せば動かなくなるタイプではあった。


 だから、まず頭を。次に四肢を切り離す。

 やれることはやっておく。


「なにを、バカな! 戦はもうあとひと押しで我らの勝利ではないか!」

「皆の者怯むな! 祭祀王陛下の弔い合戦だ! 何をしておるか、攻めかかれ!」


 動揺した兵士達を抑えつけて、なおも抗戦しようとする熊人騎士がいる。

 赤い外套マントを翻し、武装した軍馬にまたがる見るからに高位の騎士である。


 立派な全身鎧を身に着けてるな。

 こいつらは、どうやら将軍クラスのようだ。


 躍起になって交戦の継続を訴えてる。数では優位だと言うのはわからなくもないが、じゃあお前らが最初に俺にかかってこいよ。

 そう思って俺がジッと睨みつけてやると、怯みやがった。死に物狂いでかかってきた城の近衛兵より、コイツらは弱い。


 兵士も同様である。

 俺が倒した祭祀王ゴルディオイの首を斬り落としたというのに、辱められている死体を奪い返しにも来ない。


 おそらくゴルディオイは、熊人にとって神にも等しい絶対的な存在だったのだろう。

 だから、それを倒した俺に向かって立ち向かうことができないのだ。


 相手は見渡す限りの大軍だから、一気にかかってくれば戦闘がどう転ぶか分からないとも思ったが、どうやら心配しすぎたようだな。

 すでに完全に怯えてしまっている将兵が、何千いようが物の数ではない。


「いや、お待ち下さい。祭祀王が亡くなられてこれ以上どうされるのですか。ここは、無益な争いは避けるべきです!」


 そんなことを言う熊人の隊長もいる。

 すでに怯えきっている兵士達の意見を代表して将軍クラスに抗弁している隊長の顔に見覚えがあった。


 よく見るとここに来るときに会った百人隊長だ。

 名前は、確か……。


「ウルス! 百人隊長ごときが、我ら千人将の命令に口を挟むのか!」

「敵の虚言に騙されおってこの腰抜けが! 人族ごときに、誇り高きバクベアード族が負けられるものか!」


 ふーん。じゃあこいつら将軍を片付ければ戦争は終わるということか。

 狙いは決まった。


最終アーク イア 飛翔フォイ!」


 俺は、即座に最終アーク炎球ファイアーボールで、小うるさい千人将とかいうのを焼き払ってやった。

 ノコノコ前に出てきてくれたから、潰すのが簡単でいい。


「うあー、千人将の方々が!」

「なんとむごいことを……」


 それどころか、一気に千人将の取り巻きの何百人もが、紅蓮の炎に巻き込まれて消し炭になった。

 軍に向かって大魔法をぶつけるのは、なかなか爽快で気分がいい。


「おいそこの男、酷いと言ったな」

「お前は、ジェノサイド・リアリティーを制覇して世界を救った勇士ではないのか?」


「そうだが、これは戦争なんだろう。敵を殺して何が悪い」

「こんな殺し方は虐殺だ。戦士のやることではない!」


 戦士のやることではないだと。笑わせてくれる。

 自分達は、力ずくで他の種族を抑えつけておいて、それをされる段になったら不満を言い立てる。


 結局、こいつら熊人も人間と同じなのだ。

 人間と同じ醜悪さを持った生き物というだけで、何も変わらない。


 愚かな祭祀王が、俺を聖人君主か何かと都合よく勘違いしてくれたおかげで勝てたわけだが。

 こんな雑魚といちいち話すのも面倒だ。戦場なんだから剣で決着をつければいい。


「大規模魔法での攻撃は、お前らの祭祀王もやってたことだろう。俺に文句があるならかかってこい。魔法がそんなに嫌なら、剣士としてのやり方で殺してやるぞ」

「クッ……」


 なんだ口だけで、かかって来ないのか。

 いっそもうひと暴れしてもいいのだが、戦闘は硬直したままで俺にかかってくる兵士はいない。


 無抵抗な雑魚を斬り殺しても仕方がないか。

 つまらないものだ。


 どうやら絶対的な力の差を前にして、こいつらには何もできないらしい。

 動けないでいる他の連中を尻目に、ウルスが俺の前に跪いて懇願した。


「真城ワタル様。愚かなる我らが所業、どうか平にご寛恕かんじょいただきたい。我らの投降をお許し下さい!」

「ウルスと言ったな。大人しく降伏するのならば許そう」


「おおっ、なんと寛大な。皆の者、このお方はジェノサイド・リアリティーを制した勇士である。その上で祭祀王ゴルディオイ陛下に勝利されたのならば、我らがいくらいても勝てん!」


 ウルスという百人隊長は、やけに物分りがいい。

 もしかすると、さっきゾンビから助けた借りを、ここで返すつもりなのかもしれない。


 それが結果的に仲間を救うことにもなるから、賢明な判断といえるだろう。

 ウルスが話を合わせてくれるなら、ちょうどいい。


「投降するのならばさっさと武器を捨てろ。逆らう奴は、今のように順番に焼き殺してやるぞ。最終アーク炎球ファイアーボールを十回も撃てば、お前らは消し炭だ。祭祀王ゴルディオイより強い奴がいるならば、俺が直々に刀を交えてやるから前に出ろ」

「お前ら、聞こえなかったのか! 何をしている命を無駄にするな。早く降伏するのだ!」


 すでに士気が萎えている兵士達の大部分は、ウルスの言葉に従って武器を捨てて平伏した。

 最終アーク炎球ファイアーボールで焼かれては、かなわんと思ったらしい。


 しかし、後ろの方の連中は、ウルス達のように平伏せずに叫び声をあげて逃げていく部隊もいる。

 俺に馬を寄せたアリアドネは、追撃を進言してくる。


「少し逃げましたね。ご主人様、追いますか?」

「いや、逃げたきゃほっとけ。これで戦は終わりだ」


 こちらの軍も、満身創痍のようだし、追撃できる余裕が有るようには見えない。

 それでもアリアドネならやってしまうかもしれないが、周りの兵が付いていけないだろう。傷ついた者の治療を優先したほうがいい。


 だいたい、さっきの最終アーク炎球ファイアーボールで、俺のマナもほぼ打ち止めだ。

 さすがに最終アーククラスの魔法は、ごそっとマナが削られるのでポンポン連発できるものではない。


 マナポーション代わりの宝石にだって限りがある。

 まして、ゴルディオイとの戦闘の後だ。十回も撃てば全滅させられるというのは完全にハッタリだったが、上手く行ってよかった。


 熊人どもの処置としては、だいたいこんなもんでいいだろう。

 俺達を敵対視していた熊人族の頭さえ叩けば、この地域でもう俺達の命を狙うものはいなくなるはずだ。


 俺に投降したウルスがやってきて、ゴルディオイの死体を渡してくれと願いでてきた。

 ゾンビ化しないように、すでに四肢をバラバラにしてるんだけどな。


「亡くなられたとはいえ、そのかたは我らが王です。せめて手厚く葬らせていただきたい」


 まあいいだろうと許可を与える。こんな醜悪な肉塊に使い道はない。

 これだけバラしておけば、万が一死霊化しても動き出すこともできないだろう。


「とりあえず、これで一件落着か」

「ご主人様、むしろこれからが大変です。投降した熊人族も味方として、カーンの都を治めて、残存する反対勢力を平伏させねばなりません」


 街の統治なんか俺はどうだっていいんだが。

 アリアドネはやりたがってるし、そういう約束だしな。


「そこは、アリアドネに任せる」

「ハッ、そのために私が居るのだと心得ております」


 やけに嬉しそうだ。

 本人がやりたいなら好きにすればいいさ。


「街の統治なら、七海達にも手伝ってもらうといい」


 俺はそういうのは全く苦手だが、生まれついてのリーダー気質を持つ七海なら上手くやるだろう。

 タランタンでもできたんだから、カーンの街も統治できるだろう。


 上手く取り込んだ配下を使ってはいるようだが、さすがにアリアドネだけでは手が余るのではないかと思う。


「ですがご主人様。七海殿達は、お仲間の蘇生に行かせなくてもよろしいのですか?」


 そうか、それもあった。どちらにしろ、カーンの街はアリアドネ達に任せて一旦タランタンに戻るか。

 そう思って準備していると、ウッサーと久美子がやってきた。


「旦那様が行くならワタシも行くデス」

「おー、お前らも戦闘に参加してたのか」


 二人は、アリアドネと一緒に戦っていたらしい。

 さっきの祭祀王の電撃に巻き込まれなくて良かったな。


 こいつらが人質に取られたら面倒なので、前に出てこない判断はありがたかったな。

 いや、ハイマスタークラスのこいつらなら一撃死はしないだろうからゴルディオイに狙われてても無視したけども。


「ねえワタルくん。こんなの捕まえたんだけど知ってる?」


 久美子が首根っこを獲っ捕まえて猫忍者には、もちろん見覚えがある。


「なんだ、ニャル。今度は久美子に捕まってたのか」

「ううっ、主君を討たれた上にこの辱め、いっそ殺せニャー」


 どうやらニャルは城から逃げるときに、久美子に捕まったらしい。

 ニャルと久美子では、忍者としてのレベルが違いすぎるからな。


 久美子が処遇をどうするか聞いてくるが。

 いまさらこいつを捕まえておいてもしょうがないし、殺す理由もない。


「いいぞ。逃がしてやれ」

「ふーん、一応敵の幹部っぽかったんだけど……ワタルくんが言うなら放す」


 久美子に首根っこを掴まれていたニャルは、解放されてもすぐに逃げなかった。


「真城ワタル! 我は辱めを受けたこと忘れないニャー! ここで我を逃したことを後悔しなければいいがニャー!」

「うるせえ。お決まりのセリフはいいから、俺の気が変わらないうちにさっさと行けバカ忍者」


 どう考えても、コイツを逃して後悔するわけもない。

 アリアドネはニャルを見て、人質にしてアルジャンスの街の猫忍軍も味方に引き入れたらどうかとか言ってたが、あんまり気乗りがしないな。


「こんなマヌケな連中を味方にしたら、こっちが危ない」

「そうですか。どちらにしろ、今はそこまで手を広げる余裕がありませんし、ご主人様がそうおっしゃるなら捨て置きますが……」


 ニャルは、覚えてろだのなんだの叫びながら逃げていった。

 あいつらを雇っていた祭祀王は死んだわけだが、これからどうするんだろうな。


 それも、俺の知ったことではない。

 ともかく、俺はタランタンの街に一度戻ることにした。


     ※※※


「ふーん、またコインが出てきたのか」


 俺に向かってリスが頷く。

 タランタンの領主の館に戻ると、リスが俺に新しい『再生のコイン』を差し出してきたのだ。


 どうやら、俺が祭祀王を倒したあたりの時刻に。

 リスの服の中にまた『再生のコイン』が発生したらしい。


 俺達がこの世界を変えるような事を起こすごとに、『再生のコイン』が出てくるのではないかというのが七海の仮説だった。

 七海にも見せてやると、嬉しそうにコインを見て言う。


「これは、ほぼ確定だね」

「まあ、七海の仮説が有力になってはきたな。これでコインが二つか」


「そうだね。これで、瀬木くんも生き返らせられる」


 七海は、俺の心を見透かしたようなことを言う。

 一枚は実験で他のやつを生き返らせたとして、それで上手くいけば瀬木も生き返らせられるか……。


「いいだろう。ともかく、一度ジェノサイド・リアリティーに戻ることにしよう」


 七海達は、『アリアドネの糸』を持っていないので歩いて帰らなければならないので少し時間がかかる。

 それに付き合うのも面倒だったので、俺は少し休んでマナを回復させてから一足先に飛んで帰ることにした。


「あの、ご主人様……またどこかに行かれるのですか」

「ああ、ジェノサイド・リアリティーのダンジョンに戻るんだ」


「……戻る? またすぐ帰ってこられますか?」

「いや、今度はわからんな」


 どちらかといえば、俺の本拠地はタランタンの屋敷ではなく。

 ジェノサイド・リアリティーのダンジョンのほうだ。


「じゃ、じゃあ私も連れてってください!」

「リス、お前は残れ。ここにいるほうが安全だ」


 俺は瞬間移動できるが、リスは連れていけない。

 だから断ったのだが、やけにしつこくすがりついてくる。


「私は、ご主人様の下を離れるわけには……」

「なぜ俺の下を離れるわけにはいかない?」


 リスは妙なことを言う。

 この屋敷にいれば、仕事もあり食事に困ることもない。そのように取り計らっておいたのだから、俺に付いてくる意味などない。


 俺は、前からリスが気になっていた。

 気まぐれに助けただけの小娘だが、こいつの懐が『再生のコイン』の発生源になっているのは不思議だ。


 当人に聞いてみても、親も居ないただの人族農奴の小娘だったという。

 嘘を吐いているようにも見えないのだが……。


 一回ならば偶然かとも思えたが、二回発生したとなるとこれは再現性がある現象らしい。

 ならコイツが発生源として選ばれた理由があるはずだ。


 こんな風に俺から離れたくないとか言い出すのもおかしい。

 すでに生活が安定したリスが、俺の側にいることに固執する理由はないはずだ。


「私は、ご主人様に助けてもらった……いえ、いただいた。その恩を返せてません」


 たどたどしい口調でそんなことを言う。

 子供が敬語など使わなくてもいいと言ってるんだが。そこに、七海達が声をかけてきた。


「リスちゃんは、真城ワタルくんと離れたくないんだね?」

「七海、何を言って」


「リスちゃんがそう望むならば、僕達と同行すればいい。どうせジェノサイド・リアリティーに行くのだから」


 リスは七海にそう言われると、青い瞳を輝かせた。

 七海は子供に甘い。


 だが、七海が連れて行くという理由は、それだけでもないか。

 リスが本当に『再生のコイン』の発生源として選ばれているなら、側に置いておくことには意味がある。


「ふん、俺は知らん。勝手にしろ」

「やった!」


 リスが喜んでいるが、どうでもいいことだ。

 七海が責任持って面倒をみるというのなら構わないだろう。


 俺はともかく、『アリアドネの糸』で七海達より先に戻ることにした。

 ちょっと出るつもりが、結構長く留守にしてしまったから、残してきた竜胆和葉りんどうかずはや、黛京華まゆずみきょうかがどうしてるかも多少は気になる。

次回4/24(日)、更新予定です。

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