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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
103/223

103.元領主の帰還

 顔になんか、ペタペタと当たる。

 手ではねのけたら、また当たる。


 なんだこれ、ペラペラしてて、モコモコの毛が生えてて……。

 ウッサーの耳かよ。


「……お前、人の上で何やってんだ」

「子作りデス……かね?」


 なんで疑問形。

 ヤバイと思って、身体をさすったがちゃんと服は着けてる。


 セーフ。

 いや、そんな話じゃねえか。


 寝こみを襲われて気がつかないほど腕は鈍ってないとは思うが。

 ウッサーも、マスターランクまで極まった武闘家なので用心は必要だ。


「お前、マジで何やってんだよ」

「だって、なんか最近、旦那様が相手してくれなくないデスか。夫婦のスキンシップが足りないと思うのデス」


「してなくないことはないだろう」

「してなくなくないことはあるデスよ」


 めんどくせえ。どっちだよ。

 せっかく人が気持ちよく寝てたのに起こしやがって。


 てか、デカイ胸を押し付けられても、重いだけなんだが……。

 こうして正面から改めて見ると、谷間がすごいことになっている。


 もしかすると見せつけているつもりなのかもしれないが、ウッサーはバカっぽいので、あんまりエロさは感じない。

 それより、こいつの胸どうなってんだというのが大きい。


 ちっこい身体に対してデカすぎるだろ。


 こんなに重たいのぶらさげて、よくちぎれずに付いてるな。

 武闘家とかやってて、動くときめっちゃ邪魔なんじゃないか、これ。


「まあ、どっちでもいいけどさ」

「いまから足りない分を取り戻せば、ワタシもどっちでもいいデス」


 匂いを擦り付けるように、頬ずりしてくる。

 ピンク色の髪の毛から、甘ったるいような、女の香りが濃厚にする。こいつ、ちゃんと風呂入ってんのかな。


「そういや、お前らどこいってたんだ?」


 アリアドネは常にいたが。

 いつも俺にくっついてきてる久美子やウッサーがいないのはなんでかなと、ほんの少し疑問に思っていたのだ。


 いなきゃいないで、うるさくなくていいわけだが。

 何をやってたのかは気になる。


「せっかく、久美子もワタシも、旦那様のために働いてたデスよ。それなのに、こんな子供と気持ち良さそうなことをして」

「お前、誤解を招くことを言うんじゃねえよ!」


 寝てたことを、気持ち良さそうなことと表現するな。

 慌てて隣を見るが、寝ているリスって青髪のガキは眠ったままである。


「悪いと思ったら、ワタシとも気持ち良さそうなことをするんデスよ」

「いや、お前……会話をちゃんとしろよ」


 まず悪いと思ってねえから。

 頼むから、コミュニケーションをしてくれ。


「会話より、旦那様のぬくもりが欲しいデス」

「それは分かったから、まず説明しろよ。働いてたって、何やってたんだ?」


「なんか、街を調査してるときに、怪しい連中がいたんデスよ」

「怪しい連中?」


「なんて言ったらいいんですかね。一般人の振りをしてる感じが逆に怪しい、忍びっぽい感じデスね」

「忍びねえ」


 この世界に忍びっているのかよと思ったが、職業に忍者ってあったな。

 まさに久美子がそうだ。他にも忍者はいるのか。


「追いかけたら逃げたので、とりあえず捕まえました」

「それ、忍びとかじゃなくて普通の人だったらどうするんだ」


 俺がそう聞いても、ハテナという顔をしている。

 ああそうだった、この世界の常識はそんなんだったよな。


 スパイと間違えられた段階で、逮捕されて当然となるのだ。

 誤認逮捕が誤認にならない、力が全ての修羅の国である。


「そんで、領主の館の牢に放り込んでおいたデスよ」

「ここ、牢屋とかあるんだな」


 まあそこは、領主なら裁判権を持ってるはずだから。

 牢獄ぐらいあっても不思議はない。


「久美子達が、やけに気にしてたようデスから、今頃は嗅ぎまわる目的を吐かせてるとこじゃないデスかね」

「吐かせてるねえ……それで、俺を呼びに来たってわけだな」


「いや、特にそんなわけはないデス」

「なんだ、そうじゃねえのかよ」


 どうせ大した情報はなさそうだが、こんな酷い状況の世界でも情報戦に気を回しているのかとちょっと驚く。

 この世界の忍びという連中がどんな存在なのかも、俺はちょっと興味あるぞ。


「ふぁぁ~。とりあえず街の騒ぎも落ち着いたようだから、ワタシは旦那様とノンビリしにきただけデス」


 俺に抱きついたウッサーは、眠たそうにあくびをする。

 人の目を覚ましておいて、ウッサーは眠りたいらしい。人のことは言えないが、勝手なことだ。


「街の治安とかはどうでもいいが、忍びとやらは気になるな」

「旦那様は妙なことを気にしマスね。それなら、民心を落ち着かせるのに七海達が頑張ってたんデスから、そっちも手伝ってやればよかったデスのに」


「そっちは興味ねえ。忍者がいるといえば、どれぐらい強いのか気になる」

「せいぜい、軽業師ベンチャーランク技巧者クラフトマンってとこデスよ」


「そういうランクって、こっちでも分かるのか?」

「相手の力を調べるマジックアイテムに、携帯用の神託板もあるんデスよ。そこまで珍しいものじゃないデスから、おそらくこの館の宝物庫なら一つぐらい転がってるんじゃないデスか」


「ふーんそんなものもあるのか」

「あの程度の相手は、調べる必要もないデスが、一応忍びデスから、武装も鉄製の小刀を持ってるデスし、ああ毒矢を忍ばせてたりもしました」


「その程度か」


 雑魚だな。


「そんな連中でも、ここでは忍者と呼ばれる練達の密偵なんデスよ」

「ふうん」


「ねっ、つまんない話でしょう。そんなことより、夫婦の時間を大事にするデスよ」

「夫婦なあ……。ウッサー、言っとくけど」


「子作りなら焦ってないですよ」

「ああ? やけに物分りがいいじゃないか」


 この前まであんなに言ってきたのに。


「まだ無理だと分かってるデスから。女子達から聞いたんデスが、旦那様の世界だと子作りして家庭を築くには、まだ早いんデスね……」

「俺の世界だと、十五歳や十六歳で結婚は、まずありえないからな」


 七海達と行動してるときに、他の女子からいろいろと聞きかじったらしい。

 俺が抵抗あるのはそっちじゃないんだが、まあそう思ってくれるなら好都合だ。


「旦那様は、ずっとこの世界でワタシといるんでしょう?」


 ウサ耳を垂れさせて、俺の胸の上に乗っているウッサーは俺の目を深く覗き込んでいる。

 普段はバカっぽいのに、いつになく真剣な雰囲気だ。


「まあな……」


 元の世界に戻るつもりはないから、そうなるだろう。


「そう聞いて、ホッとしたデス」

「別にウッサーがいるからとかじゃないからな、もとの世界に帰る理由がないだけだから」


 この世界ムンドゥスも大概だが。

 元の世界ちきゅうは、いろいろ不自由だからもっと嫌だ。


 力が自由に振るえるだけ、こちらのほうがマシといえる。

 もう元の世界に心残りもないし。


「それでもいいデスよ。旦那様は、なんだかんだ言ってワタシがあげた『ウサギの尻尾』も大事に持ってくれてマスし」

「ああ、持ってはいるな」


 あれは持ってるだけで幸運値を上げる効果がある希少アイテムだから捨てるわけがない。


「たまに荷物整理するたびに、取り出して撫でてくれてマスよね。嬉しいデスよ」

「別に変な意味じゃないからな」


 モコモコで、見てると触りたくなる形状をしているのだ。

 しかしこいつ、思ったより、よく見てんな。


「旦那様との繋がりはなくならないデスし、ずっと一緒にいられるんだからそれでいいデス。その気になるまでゆっくり待つことにしました」


 そう言って、ウッサーは嬉しそうに抱きついてくる。

 なんだろこれ、別行動させたことを怒ってるわけでもないようだし。


 まあ当人がそう言うなら、それでいいか。

 ウッサーは誘惑するのが下手くそだし、一生待ってることになるかもしれねえけどな。


「一緒に寝るならうるさくはするなよ。あと胸の上に乗るのは、重いからやめろ」

「はい、デス」


 たいしてデカイ寝床でもないが、ウッサーは小柄だからなんとか入るだろ。

 俺の上からどいてくれたウッサーは、ゴソゴソと衣擦れの音を立てながら俺の脇あたりに移動した。毛布の中で、器用に丸まっている。


 しかし、リスってガキも俺達がガチャガチャやっててもよく寝ているもんだ。

 いろいろあってよっぽど疲れてるのかもしれん。


 やがて、ウッサーとリスの寝息が重なった。

 俺も眠くなったからもうひと寝入りするかなと、あくびをしてたら、扉もない部屋の外から黒い殺気の塊がやってきた。


「なんだ?」


 久美子だった。


 久美子は、ツカツカと靴音を響かせながら、無言でベッドまでやってくる。

 半身を起こした俺の脇にある、毛布の盛り上がりにザシュッと手刀を繰り出した。


「ぐぇ」


 毛布の下から、ウッサーの呻きが聞こえた。


「バカウサギ、ワタルくん呼んできてって言ったでしょ!」

「……なんだ、やっぱりそんな話だったのか」


「捕まえた忍びが吐いたわよ。嗅ぎまわってるのは、ここの元領主だったそうよ。私達が、街を占拠していた盗賊団を倒した情報がもう伝わってるだろうから、すぐに領主が軍を連れて舞い戻ってくるわ」

「ふうん」


 まあそうなるだろうな。

 犬人の盗賊団の次は、どうやら熊人の元領主の軍を相手にすることになりそうだ。


     ※※※


 俺達は、タランタンの門の上から街の片面を包囲するように整列した、領主の軍を見回す。

 騎兵が三百に、重装歩兵が千を数える。正規軍だけあって、びっちりと鉄の鎧を装備している。それがトレードマークなのか、白い爪が描かれた黒旗を靡かせている。


「アリアドネ、あれが熊人ってやつか?」

「ハッ、残酷なる黒熊と呼ばれるバクベアード族です。熊人は、大きな体躯と強い腕力を誇る種族で、漆黒の森の北側を治める支配種族となります」


「ただの腕力バカってことか」

「ご主人様、力が強いからといってバカというわけでもありませんよ。他の非支配種族を従え、街を治めるには奸智もなければなりません。数が多いと、侮れない相手ではあります」


 ふむ、たしかにそうだな。

 考えなしの犬人とは違い、輜重隊もつれているようだ。それなりの作戦行動ができそうな部隊である。


「しかし疑問なんだが、あれだけの兵が養えるならなぜ犬人の盗賊に負けた?」


 個々の戦闘力を見ても犬人には負けないであろう。

 犬人の盗賊団は、寄せ集めても三百程度しかいなかった。


 いかにも精鋭そうにランスを構える黒熊騎兵だけで戦っても、盗賊などには負けないであろう。


「このタランタンの東に、カーンという熊人の祭祀王が治める大きな都があります。タランタンの領主は、祭祀王に兵を借りたのではないでしょうか?」

「なるほど、俺達がなにもしなくても熊人は増援を連れて、街を取り戻しに来てたということだな」


 石壁に囲まれた街で防御を固めているといっても、多勢に無勢。

 この数の正規軍で攻め寄せられては、犬人盗賊団などひとたまりもないだろう。


 それは俺達の事情も同じである。

 個々の戦闘力でいえば、絶対に負けない敵だが、俺一人で三百の騎兵と千の歩兵を相手にするのは少し骨が折れる。


 まあそれも千三百回、刀を振るえばいいと考えれば大したことではない気もするのだが。

 俺達が何かするまえに、白旗を上げた騎兵が近づいてきた。


「なんだ、降伏でもするのか?」

「いえ、あれはおそらく使者ではないでしょうか。白旗は、戦闘の意志なしという意味でも使われます」


 近くで見ると、黒熊騎兵は図体がデカくて鉄の鎧まで着けているので、馬がとても重そうである。

 顔は黒熊なのだが、人間の皮膚と同じ部分もあってただの毛深いおっさんといえばそんな感じもする。


 白旗を掲げて近づいてきた黒熊のおっさんは、息を切らしている馬から降りると。

 恭しく書状を取り出して読み始めた。


狂騒神(ロアリング・カオス)を倒し、この世界ムンドゥスを。創聖破綻ジェノサイド・リアリティーより救った勇士の方々よ!」


「なんだありゃ」

「ワタシ達の身元が、バレてるみたいデスね」


「世界を救ったのみならず、我が街を賊より取り戻してくれたこと、カーンの祭祀王ゴルディオイ、並びにタランタン領主クアチキより感謝申し上げる!」


 真っ黒い髭ダルマの暑苦しいおっさんが、芝居がかった仕草でなんか吠えている。


「おい、アリアドネ。あいつ何言ってるんだ?」

「なんか感謝してるみたいですね」


 熊人は、街に密偵まで送り込んでいたのだ。

 盗賊団を下したまではいいが、街の食料を勝手に使って、領主の館まで我が物顔で使った俺達の振る舞いは伝わっているはずだが、なんで感謝だ?


「ついては、世界を救いし勇士の方々を慰労するため、ささやかながら酒宴にお招きしたい。いかがか!」


 また戦闘が始まると思ったら、どうやら宴会に招かれるらしい。

 この世界の連中の考えていることが、俺にはいまいちよく分からないのであった。

次回更新予定、3/6(日)です。

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