恋空───見上げた空、青かった───縦書き表示RDF


恋空───見上げた空、青かった───
作:松の慎


「おい柚月ー」
「なにさー、波川くん」


高3の終わり間近。
みんな別々の進路へ行こうとしている。

もうすぐ2月。
2月に入れば3年生は自由登校になるが、あたしのような国公立組は2月下旬が試験なために毎日学校へ来る。

今日はクラスみんなで過ごす最後の日。


「お前国立受けんだっけ?」
「そうだよ。波川くんもそうだよね?」
「おう。で、どこ受けるの?」
「山梨」


あたしが行きたいのは医学部。
けどあたしの県の国立は医学部がないから隣の県に行くことになる。

まだ受かるかなんて分からないけど、でも一応挑戦はしたい。


「波川くんは?」
「俺岩手」
「岩手かぁ。遠いねぇ」


波川くん…本名・波川貴也はあたしのケンカ友達。


「でもまぁ俺らが国立目指すとはな」


波川くんは笑いながら言った。

長身で少し色が濃くて、まさにスポーツやってそうな身なりの波川くんはとてもよくモテた。

色白美人の彼女もいる。


「あたしにとっては波川くんのおかげかな」
「え、俺?」
「ちがーう、史舞樹くんのほう」
「あー、なっちゃんね」


波川くんがなっちゃんと呼ぶ人は、波川くんと同じ苗字の波川史舞樹くん。

2年になったばかりの頃、教師に注意されてるあたしを救ってくれた人。
そしてあたしの勉強のライバル。


「でも俺なっちゃんより物理できるぜ」
「あたしは生物選択だも〜ん」


クラスを見回すともう帰っていく人がけっこういる。
推薦で決まった人、私立の受験が終わった人。

それでもあたしたちは放課後学校で勉強をしていく。
家だとなかなか勉強に手がつかないしね。

ていうのは口実で、ただ帰りたくないだけ。

帰ったら家に1人だし、みんなといたほうが楽しい。


「あ」


廊下にふと目をやると、美人の女の子がうちの教室をのぞいている。

というよりも明らかにあたしに向かって睨んでる。


「波川くん、波川くん。ほら」


あたしはドアのほうを指差す。
波川くんはあたしが差したほうを見るなり、「ああ、さんきゅ」と言って席を立ってその女の子のところへ行く。

あの女の子が波川くんの彼女。
美人だけど、怖いって評判。

独占欲がすごくて、あたしに嫉妬しているらしい。


「元杉は帰んないの?」
「うん。一応勉強してこっかなって」


座っているあたしに話しかけてきたのは、史舞樹くんのほうの波川くん。

波川くんはあたしの前の席に座った。


「山梨だっけ」
「うん。波川くんも山梨だったのに止めたんだね」
「うん。まぁね」


あたし、1年のときは確かに学校で成績1番だった。
でも別に他の人もあまりやってなかっただけであって、今考えるとあれはそこそこの成績でしかない。

2年、波川くんと同じクラスになった。
はじめてライバルと呼べる人ができて、ものすごくやる気が出た。

運動部に入ってることを言い訳にしたくないこともあったし、それに「あたし運動部だから勉強できなくて当然」と言ってる人が多くいるから、勉強したくない言い訳に運動部って言葉を使ってる輩が気に食わない。


けど、波川くんはそんなあたしを褒めてくれた。

運動部なのにすごいって。

成績が少し下がったときは仕方ないって慰めてくれた。

だからあたしは頑張れた。

波川くんがいたから今のあたしがいる。


「でも有名私立だもんね。頑張ってね」
「元杉もな」


あたしと史舞樹くんが仲良いのは、そういったいきさつ。

貴也くんと仲良い理由は、貴也くんから話しかけてきてくれたことだった。

数学と英語はAクラス、Bクラスに分かれる。
あたしはAだったけど、出席番号順で座ると席が前後左右男子だった。

嫌だなって思ってたとき、隣の席の貴也くんが話しかけてくれたんだ。
だから仲良くなった。

お調子者だし、たまにバカなこともやる人気者。
優等生で真面目な史舞樹くんとは正反対。


「じゃ、俺帰るわ」
「うん。ばいばい」


波川くんはカバンを持って帰っていった。


人は聞く。
どっちの波川が好きなのか、と。


どうしてみんな恋バナが好きなんだろうか。
なにかと恋愛につなげたがる。

別に恋愛に興味ないってわけではないし、あたしだって中学のときは彼氏いた。

でも、どっちの波川くんもただあたしにとって特別な存在なだけで恋愛感情なんかない…そう思ってた。


「柚月」
「あ、麻美〜。麻美も勉強してく?」
「もちろん。ところで知ってる?貴也くん彼女と破局寸前って」
「えー?」


麻美は、同じ部活で同じクラスの友達。

貴也くんの親友である爽くんの彼女。


「狙うなら今じゃん?」
「だぁからー、別にそんなんじゃ…」


仲の良い友達でさえ勘違い。

はたから見るとそう見えるのかな。
今までに何人からかも、貴也くんが好きなの?って聞かれた。

どうして彼女いる人好きになれるの、って笑って言ったのを覚えてる。


「じゃ史舞樹?もしかして告白された?」
「まさか」
「嘘ー。でも絶対柚月のこと好きだよ」


ほらね。
またこうやって始まるの、恋バナ。

確かに2人は他の男子とは違う。
それは十分分かってる。


けど、好きかどうかなんて分からない…


良いライバルの史舞樹くん。
一緒にいて楽しい貴也くん。


選ばなきゃいけないの?
どっちにしろ大学離れるのに、どうしてみんなこの時期に彼氏作れるんだろう。

離れるんだよ?
離れたらなかなか会えないのに、どうしてだろう…


「昨日孝太に告られたって?」
「えっ、なんで知ってるの?」
「情報がねー」


麻美は笑って言った。
孝太も、あたしとは違う県の大学へ行く。

中学から一緒だったから今更そんな風には見れないとは言ったものの、なんで卒業間近に告白するのかが分からなかった。


「あ。じゃあたし行くね」


爽くんが教室に入ってくると、麻美は爽くんのほうへと行った。


今度こそ1人になったあたしは、耳にイヤホンをつけて音楽を聴きながら勉強を始める。

勉強というよりあたしが国立二次で使うのは小論と面接だから、小論を書き始める。

作文は大得意なのに、小論はまったくのペケ。
だから死ぬ気でやらないとならないんだ。


それでも、やっぱりみんなが尋ねてくることを考える。

東京へ行く史舞樹くんと、岩手へ行く貴也くん。

2人がいない生活、どうなるんだろう。
そんなことを思いながら、小論に手をつけた。






****************





「おはよー」


2月にも入ると、人はぐんと減る。
それでも初旬は私立組が少し残ってたけど、中旬になれば数人だけになってしまった。

少ないほうが集中できるけど、やっぱり寂しい。
それに加えて受験を終わらしてる人が9割なのに、なんで自分は残りの1割に入ってるのかという不満もあった。


「うーす。今日はおせぇじゃん」
「ちょっと寝坊」


珍しくあたしよりはやく来てる貴也くんが笑った。

そういえば結局貴也くんと彼女はどうなったんだろう。
なんとなく聞くに聞けない。


麻美たちももう勉強をしている。
麻美の彼氏の爽くんは、推薦で国立決まってる。

勉強と恋愛、両立するの大変だろうなと人事に思う。


「柚月、おっはよ」
「おはよう麻美」


麻美の隣に座り、カバンをおろす。

寝不足のあたしに麻美は不思議そうに話しかけた。


「珍しいじゃん。柚月が寝坊なんて」
「昨日なかなか寝れなくって」
「へぇ?なんかあったの?」


麻美はそう尋ねたけど、あたしはなにも言わずに黙りこくった。

なにか、あったんです。


人はなぜ人に告白するんだろう。

あたしの元彼は、あたしに3回告白してきた。
だから押しに負けて付き合った。

けどすぐだめになった。

そのあと、好きな人ができた。
その人も、あたしのことが好きだった。

告白せずされず、高校も離れて今では音信不通。
両思いだと知ったのはそのあとだった。

告白してれば変わった世界があったかもしれない。


人は…なぜ人に告白するのか。


『あ、波川くんからメールだ』


夜、寝ようとしたときに史舞樹くんからメールが届いた。

突然の告白。
ただただ単純に、「俺、一緒にいて楽しいし可愛いし、元杉のこと好きだよ」と。

なんて返したら良いのか分からず「ありがとう。あたしも波川くんと一緒にいて楽しいし好きだよ」と返した。


けど、次に返ってきたメールは


俺、本気で好きだ


だ。


いつだったか麻美が言ってた。
史舞樹くんはあたしのことが好きなんだと。

本当なんだ…って思った。


2人の波川くんの間でふらつく自分が、なんだか情けなく思えた。

好きなのかと聞かれれば答えられない。
けど、好きじゃないとはキッパリ言えない。

友達にも言えない、こんな思い。


分からない。

分からないのに、ただ単純に史舞樹くんじゃだめだ…ってそう感じた。

体がそう言った。


史舞樹くんは良いライバル。
はじめてライバルと呼べる存在ができたから特別に感じていただけなのかもしれない。

だって、楽しかった。
勉強で競えたこと、すごく楽しかった。

励ましてくれて嬉しかったよ。
褒めてくれて、嬉しかった。


史舞樹くんとの2年間の楽しい思い出が頭の中を巡る。
勉強を頑張れたのはあなたのおかげ。


けど、あなたはあたしの好きな人じゃない。

あなたは大切なライバルでした…


『あたし…貴也くんが好きなんだ』


部屋の中で1人、ボソッと呟く。

史舞樹くんに告白されて、ようやく気づいた。
史舞樹くんへの思いは恋じゃない。

史舞樹くんは人として好きだった。


けど、男として好きになったのは…


貴也くんだった。


どうして?って聞かれたら答えられない。
なんで気づかなかったのかと聞かれたら、なにも言えない。

彼女がいると、岩手へ行くと知った時点で貴也くんへの思いを隠そうとしていただけなのかもしれない。


これ以上好きにならないように…って、勝手に制御していただけなのかもしれない。

そんなこと無理なのに。
好きって思ったら、もうだめなのに…


「…どうして好きって言えるの?麻美は。だって爽くんとだって離れちゃうじゃん」


爽くんと麻美は他県同士。
それでも付き合ってて、とても仲が良い。

もう一緒に笑うことも少なくなってしまうのに、どうして一緒にいられるんだろう。

だって、一緒にいた分離れたら悲しいんだよ。
会えないの我慢しなきゃいけないんだよ。


「だって、好きだもん」


麻美は微笑みながら言った。


「離れちゃうけど、好きだからしょうがないよ」
「じゃあ…じゃあ、叶わないって知ってるのに告白するのは、なんでかなぁ」


麻美たちは両思いだし、まだ良い。

けど、片思いだと知ってるのに告白する意味ってあるのか。


「知ってもらいたいじゃん、自分の気持ち」


中学のとき、告白せずに終わったあの恋。
恥ずかしかったから告白しなかった。

振られるのが怖くて告白しなかった。

だから、告白する勇気があるのはすごいと思う。


「だって…叶わないのに」


小さな声でそう言うと、麻美は優しそうな顔をした。


「柚月、付き合って欲しいから告白するんじゃなくて、あなたを好きになれて良かったって…幸せだったって伝えるためにする告白もあるんだよ」


一瞬麻美の言葉が理解できなかった。

告白にも種類があるのか。


そんなの、ただの自己満だよ…と言うと、麻美は言った。


「じゃあなんで柚月泣いてるの?」


そして、あたしにハンカチを差し出した。

麻美が言ってることが、あたしに当てはまりすぎて泣けてしまった。

自己満だけど、それでも伝えたい気持ちは変わらないことを教えてくれた。



勉強だけじゃない

学校は、勉強だけじゃない。


恋愛するところなんだって、教えてもらった彼に伝えたい言葉。


ちゃんと自分では分かってた。


「やっと自分の気持ちに気づいたんだね」


ハンカチで目を押さえ、声を押し殺しながら泣くあたしの頭に麻美はポンッと手を置いた。

離れちゃうとか関係ない。
付き合いたいとかじゃない。

孝太も史舞樹くんも、最後にどうしても伝えたかったから告白してきてくれただけだったんだ。


どうして分からなかったんだろう…



しばらく泣いたあと、顔を洗いに水道へ向かった。
泣いた顔を見せられない。


人はなぜ告白をするのか。
そんなの、自分がよく分かってること。


冷たい水で顔を洗ってハンカチで拭くと、周りがパァッと新鮮に見えた。

シンと静まり返る廊下。
ときおり話し声が聞こえるどこかの教室。

ピチャ…と蛇口から漏れる水の音。


日常の出来事。
なのに、こうも新鮮に思えるとは。


「うし、行くか」


両頬を軽くパンッと叩き、再び教室へ向かった。

教室へ入ると、カリカリと音をたてて勉強をやってるクラスメートの姿。

あたしが教室へ入ってくるのを見た貴也くんが小さな声であたしに話しかけた。


「暇人かよ」


歯を見せて笑う彼。


「まぁね。波川くんもでしょ」


あたしが貴也くんの隣の席に座ると、貴也くんはヘッドホンをはずした。


「ちょっと勉強飽きちゃった」
「はえーよ」


こんな風に、笑いあい、ときにはケンカしあうことが普通だった。

けど、もうこんな日常はなくなってしまうんだね。


遠くに行ってしまったら、きっと会うこともなくなってしまうんだろうね。


「ところで和田さんとはどうなったの?結局」


憎まれ口たたくことも、もうない。


「前ね、誰かに破局寸前って聞いたよー?」


はじめて話しかけてくれたときの安堵。

文化祭、売り子やってるあたしのとこに来て焼きそば買ってくれた。

体育祭ではリレーでアンカーだった貴也くんが1人抜かして3位になった。

夏休みは暑いなんて言いながら進学補講出たり。

球技大会、やった種目は違うけどあたしたちがMVPだった。


「あーそうそう、今やべぇよ」
「彼女すごい独占したがるもんね」
「そーなんだよ〜。メール遅れただけでマジ切れだしさぁ」


貴也くんは愚痴をボロボロをこぼし始めた。

現れてくる彼女の本性。

けど、それでも好きなんだねって言うと、貴也くんはちょっとだけ顔を赤くしながら「うるせーな」って言った。


溢れてくる貴也くんとの思い出。

なに1つ、無駄なんてなかった。
どれも楽しいことばかり。


そう、学校は勉強だけじゃない。


貴也くんがいてくれたから、あたしの本当の高校生活があったんだよ。


ありがとう。



孝太も史舞樹くんも、今のあたしと同じ気持ちになったんだね。
ありがとうって、思ったんだね。


叶わないから告白しないんじゃない。

叶わなくとも、伝えるべきものはある。


「そういやなっちゃんどうなったかな」
「あ、受かったってよ。すごいね、有名らしいじゃん」
「へーそっか!受かったんだ。そりゃ有名だよ、日本四大工業大学の1つだもん」


出会った頃は、こんな日がくるとは思わなかった。


貴也くんは、ふと目を外にやった。
今日良い天気だなーと言った。


「ピクニックしたいねぇ」
「あはは、確かに」
「もーすぐ卒業かぁ」
「その前に受験だけどな」


青い空。

あ。

これ見ていつだか史舞樹くんと話した。

空が青い理由。


恋したんだって。

海に。


じゃあ、あたしも貴也くんに恋したから貴也くん色に染まってるのかな。


「波川くんの一途なとこって良いね」
「なんだよ、いきなり」
「だってそれでも彼女のこと好きなんでしょ?すごい」


悪いところたくさん知ってても、それでも好きでいられる。

それってすごいことだよ。



あ、そっか。

彼女がいても貴也くんを好きでいることが、貴也くん色だ。

一途。


「あのさぁ、貴也くん」


思いが叶わなくとも

上手く言えなくとも



もう会えないし、寂しいけど



ありがとうの気持ちを乗せて



あたしはあなたに伝える。



明日を生きるあたしのために。






     fin


読んでくださった皆様、ありがとうございました。
これは第二編となりますが、第一編を読んでいない方はどうぞ目を通してください。

話に出てくる人物名及び行く大学の県名は、変えさせて頂きました。

なお、ここに出てきたキャスト全員第一志望の大学に見事合格できました。
祝福していただけると嬉しいです。

大学に行ってからも、執筆の方頑張っていきたいと思いますので、なにとぞ応援よろしくお願いいたします。













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