妖狐玉藻伝-幻惑の美狐-(13/14)PDFで表示縦書き表示RDF


かなり久しぶりの更新! 待っててくれた読者には本当に申し訳ないっす(汗
妖狐玉藻伝-幻惑の美狐-
作:宮座頭数騎



第十二話『倒れた木々の謎』


 紅蓮の女退魔師を軽くあしらってから、私は当初の目的の場所へ向かった。
 しかし、私が着いた時には、既に先客がいた。
「……お前か」
 霧島光我だ。
 私を横目で一瞥するも、再び目前の木々へ視線を戻した。
 羽織っている丈長の黒ジャケットのポケットには両手が突っ込まれたままで、光我の表情は何かを悩んでいるようにも不機嫌そうにも見える。
 まだ、光我は私が気に入らないらしい。まあ、私自身馴れ合いたいわけでもないから別にいい。
 それよりも――。
「あんたもそれが気になるの?」
「あぁ……」
 光我の隣りにまで歩み寄り、私も大木に目を向けた。
 改めて近くで観察しても、やはりこの木々の倒れ方は不自然だ。でも、これだけは確信している。
「明らかに大型の妖怪である可能性が高いわね」
 遥か昔からこの大地に息づく植物の力は偉大なのだ。生半可な妖怪では、ねこそぎ倒すなど到底かなわない。
「だろうな。それも地を進むやつだと言うのがまた面妖だ……鬼熊(おにくま)か?」
「それは、ないでしょうね」
 鬼熊は年老いた熊が突然変異で妖怪化した、妖獣や神獣などと伝えられている。だが妖怪化したとしても、熊の生態までもが変わるわけではない。
 仮に鬼熊だとして、木々を倒すこの行為は自然の摂理に反するし、足跡を付けずに歩くなど不可能。よって論外と言える。
「わかってる。ただ他に浮かばないから言ってみただけだ」
 苦し紛れに悪態付く光我を無視して、私はもう一度木々の周囲に眼を凝らした。やはり、熊の足跡も見当たらないかと思ったその矢先。何かが視界に入った。
 足元に気を配りながら“それ”がある木の根元に歩み寄り、屈み込んだ。
「これは……」
 それは、大きな鶴嘴(つるはし)を打ち付けたような跡だ。湿った土が、くっきりと不可解な形に(くぼ)んでいる。倒れた木々の根元付近にあることから、何かの足跡なのだろう。通過した際に付いたのか――。
「おい、どうした?」
「……光我。この辺に小動物の死骸がいないか調べてみて」
「あ?」
「いいから」
 振り返らず光我に伝え、私も調査のためにさらに奥へと進んだ。



 それから数分後。
 光我と共に倒れた木々に沿って移動しながら探りを入れた結果、ほとんど原型を留めていない小動物の死骸を幾つか発見できた。
 この時、私の予想は確信へと変わる。
「おい、小動物の死骸に何があるってんだ、そろそろ答えろよ」
 死骸の中でも特に損傷の激しいものを確認し、一つの答えを思案していた私に、光我が苛立った口調で問い掛ける。
 仕方なく、口元にやっていた右手を下げて、私は答えた。
「この山には……“わいら”がいる」
「わいら? なんだそれは」
 退魔師の光我でも知らないのは無理もない。
 わいらは、遠い昔に絶滅したと思われた獰猛な妖怪だ。牛のような大きな体に、前足は太く鋭い鉤爪を持ち、山奥で土竜などの小動物を捕食して生活している。
 体格のせいで、身を引きずるようにして移動するのが特徴だ。そのため、わいらの通り道は殆どが現状のような有り様になる。
「なる程な……だが実際にそのわいらが木々を倒したとしても、こいつはこの工事妨害と関係は持たねえだろ?」
「そうね……」
 確かに足跡はわいらのものだが、工事の妨害をしたのもわいらであるなら、被害はもっと大規模のはずだ。だが実際は小規模な事件。機械が勝手に暴走して壊れ、作業員は気絶程度。
 わいらは獰猛な妖怪だけれど、剛力なだけに不器用な面がある。力を加減するなどわいらには出来ないだろうし、この場所から工事現場までには距離がある。事件とは直接的な関わりは無いだろう。
 でも……。
「無関係とは、言い切れないわよ」
「なに?」
 どこかで繋がりがある。まだ断定は出来ないけど、少なからず私は睨んでいる。
 全ては一つに繋がっている……そう思えてならないのだ。


 それに――。

「調べものがまだ残っているわ」
「……あの鬼の事か?」
 そう、白い小鬼だ。あれとは二度も会っているが、あの傍観に徹する行動を始め、謎が多い。こっちの方はわいら以上に事件との関わりは深いと思われる。
「確かに、あの山伏姿の白い鬼は何か知ってそうだな。この事件の犯人の可能性高えし――」
 光我がそう呟いた時、私達の後方にある木の上から、僅かな気配と視線を感じた。 ――この感じは、あの小鬼ね。
 やれやれ、噂をすれば影がさすとは、よく言ったものだが。まさか、こう都合よく現れるとは思ってもない偶然だ。
「まあ、せっかくあちら側から出向いて来たみたいだし、いろいろと詳しく聞いてみるのもいいかもね」
「ふん、それが手っ取り早えだろ」
 私が済ました態度で口にすると、光我も同様の表情で、その方角へと振り返った。
「おい、聴いてんなら降りてこいよ」
 数メートル離れた樹木に顔を上げた光我が声を掛けるが、気配は反応を示さない。
「もう判ってんだよ。早く降り――」
 光我は途中で言葉を切った。
 立木の上を緑で包む葉から、握り拳くらいの石が光我の頭部を目掛けて飛んで来たからだ。
 とっさに首を反らしてかわした光我は、一歩後ろに下がって睨み据える。私も警戒して石が来た方に目を向けていたが、こちらには全く攻撃は来なかった。どうやら、敵意は光我だけにあるようだ。相手の殺気がこちらには向いてない。
「やろう――とんだ挨拶だなおい」
 悪態付く光我の都合などお構いなしに、また石が飛んでくる。
「ちぃっ、喧嘩売ってんのか!」
 光我は舌打ち座間に裏拳ではたき砕き、怒声を上げた。同時に、木を覆う葉の中から小さい影が飛び出す。
 やはり影はあの小鬼だった。空中で数回体を捻って回転を加えてから光我の背後に降り立ち、すぐさま地を蹴り襲い掛かる。
「ハァッ!」
 覇気の篭められた発声。共に足刀蹴りが後頭部を目掛けて繰り出されるが、光我はすぐに反応して振り返り、直撃する前に右腕で防ぐ。
 小鬼には予想の範疇だったのだろう。続けざまに、今度は旋回による勢いを加えた蹴りを脇腹に打ち込む。より鋭い一撃が、光我の脇腹に刺さるようにめり込む。
 一見、食らったかに見える光景だが――。
「ぐぅ、てめぇ」
 苦痛に顔を歪めつつも、光我は繰り出された右足首を、両手で押さえつける形で捉えていた。
「オラァッ!」
「うぁ!」
 右手を脹ら脛に掴み替えると、光我は背負い投げの要領で軽々と小鬼を投げ飛ばす。
 あらら、私だったら投げないで地面に叩き付けて関節決めるのに――。
 などと思いながら私は、こちらに飛んできた小鬼を軽く身を反らしてかわす。
「ぐあっ!」
 私とすれ違い、小鬼は大木に背中から勢いよく打ち付けてずり落ちるが。少し間を空けると、よろめきながらも立ち上がり光我を睨み、歯軋りを立てる。
「ざけんなよてめぇ。勝手に喧嘩ふっかけてきて悪態付きやがって……どういうつもりだコラ」
 光我が苛立ちを露わにして問い掛けるも、小鬼は聞く耳持たずで再度攻め立てる。颯爽と駆け出し助走を付けて跳躍すると、飛び回し蹴りを繰り出す。
 加速が加わったキレのある一撃が、こめかみを襲う。
「ぐっ!」
 光我は小鬼の右足を肘辺りで受けたが。まだ宙にいる小鬼はそのまま左の足刀突きでガードをこじ開け、がら空きになった顔面を蹴り上げる。
「うぁっ!」
 そして最後に光我の胸を蹴って後ろへ跳び、空中で宙返ると、妖気で練り上げた水色の気弾を掌から放つ。
 完全にバランスを崩し、背中から倒れそうな光我の胸部に、後押しの気弾が直撃する。
「ぐあっ!」
 直撃後の爆発も受け、光我は地に叩き付けられる。同時に、小鬼は着地を済ませ、もう一度光我のいる前方に跳躍し、追撃で踏み潰そうとする。だが、光我相手にその手は詰めが甘すぎだ。
「いい加減にしやがれ!」
 そう、もともと打たれ強い光我だ、あの程度で弱りはしない。にもかかわらずそんな空高く跳躍していたら回避が不可能になり、迎撃して下さいと言っているようなものだ。当然、光我は切り返すだろう、すぐに体を跳ね起こし、拳に霊力を集束する。
「食らいやがれ……」
 次第に右拳に集まった青白い粒子が、力強い輝きとなり雷鳴を唸らせる。そして集束が絶頂に達した刹那、光我は急降下しつつある小鬼に目掛け、拳を突き出した。
紫電拳しでんけん!」
 突き出された拳から蒼い稲妻が放たれ、小鬼の体を射抜くように走り抜ける。
「うぐぁ――!」
 呻きを上げ、小鬼は仰向けで地に落ちた。そして体を何度か痙攣を起こした後、動かなくなる。


「……生きているわね」
 歩み寄って首に手を添えて生死を確認した私が呟くと、光我がこちらに足を進め、溜め息混じりで口を開いた。
「たりめぇだ……ちゃんと力抜いてる。お前だったら容赦なく力入れるがな」
「なんか、あの技は私に食らわせたかったと言っているように聞こえるんだけど。あんたまだ私を殺す事を諦めてないの?」
「何今更なこと言ってやがる。当然だろが。言ったはずだぜ……俺は絶狐丸の妹であるお前は信用出来ないってな」
 相変わらず、不機嫌そうに眉を斜めに吊り上げ、光我は私を睨み据える。黒き瞳に輝きを宿すも、その奥には私に対する疑惑の意思が強く含まれているのがみられた。
「ちっ……崎原さんの命令が無かったら、今すぐにでもてめぇの顔面に撃ち込んでやるってのによ」
 そう吐き捨てるように言って、光我は私から小鬼に眼を逸らす。
 はぁ……――やれやれ。困ったお子様だこと。
 前も言ったように私は無関係だと言うのに。
 だいたい、絶狐丸兄さんが憎いなら、絶狐丸兄さんだけを狙っていればいいのだ。にもかかわらず私が双子の妹だからとか、だから危険だとか言う解釈や偏見で狙われるのは、こちらとしてはかなり理不尽である。まあ、現段階では崎原の命令がある以上、その心配もないから問題ないだろう。
 不本意だけど、とりあえずあいつに感謝はしておこうと思う。
 それよりも――。
「何でこいつはあんただけ狙っていたのかしらね」
 この小鬼、不可解にも私にはまったく目もくれずに光我だけを集中的に狙った。私は二度小鬼と接触はしたが、二度目の際は私を畏怖した様子で逃げ去ったことから、勝機は無いと思ったのだろうか?
 だけど、光我も強い。戦闘能力は一端の退魔師から明らかに並外れている。そもそも、生身で正面から私とまともにやり合うくらいの頑丈さと破壊力を持っているのだから、これで素早さが加われば、退魔師最強に位置するに相応しい実力を有していてもおかしくない。
 小鬼としても解るはずだ。自分の勝てる相手ではないと。
 なのに何故、光我だけを狙ったのか。それも、まるで試すように……。それにあの戦いで繰り出した飛び四段蹴り。烈狐丸兄さんの蹴り技、紅四閃脚(くれないしせんきゃく)に似ている。本来烈狐丸兄さんの紅四閃脚は、炎を足に纏った状態で相手を蹴る。更に追撃では小鬼がやったような妖気の気弾では無く、妖気で作り上げた炎弾数十発を瞬時に放つ技なのだが、手口は全く同じだ。
 やっぱり、この小鬼、謎が深い。
「何にしても、こいつが起きてからじゃないと話は進まない。起きるのを待つしかねえ」
「そうね。――って、言いたいけれど、起きているでしょ。あんた」
「何……?」
 私の意外な言葉に、光我は眉をしかめて小鬼を見やる。
 すると――。
「バレてましたか……」
 小鬼は呟いてゆっくり目を見開く。光我の紫電拳のダメージがまだ体に残っているのか、苦悶に顔を歪めつつも上体を起こすと、視線を光我に向けて透き通った優しい声で喋り出す。
「人間。光我と呼ばれていましたね。先の無礼は失礼しました。ですが、改めてあなたが強者で、そして信用できると思いました」
「それはどういうこった?」
「僕は、あなた方、攴魔の退魔師がここに来た時からずっと見ていました」
 表情を曇らせる光我に、小鬼は一旦呼吸を整え、口を開いた。
「いきなりですが、お二方へ単刀直入に言います。僕に……力を貸して下さい」
 小鬼は告げると、私達に頭を下げた。


はい、あとがきっすね。
いやぁ、かなり遅れた更新。ここ最近はディメイション・ザ・アドベンチャーと共に執筆してはボツ。執筆してはボツの繰り返しでした。
バイトも2つやっていたのも原因で、全く時間も取れずに難航に難色。もう、状況は土壇場状態っすよ。
まあ、どうにか更新が出来て良かったですよ本当に。
最近は気になって、評価依頼に見てもらったりしたんですが。意外に好評、時々また別に評価や感想が来てこれも好評。嬉しい限りです。
さて、こんな更新の遅い玉藻伝ですが、頑張って書きますので、どうぞこれからも応援よろしくです。それでは












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