妖狐玉藻伝-幻惑の美狐-(12/14)PDFで表示縦書き表示RDF


美狐が本性を僅かに出します。
妖狐玉藻伝-幻惑の美狐-
作:宮座頭数騎



第十一話『美狐の本性』


「食らえ!」
 危ないわね――。
 襲い来る電流を纏った鞭を、隣の木の枝へと飛び移り回避する。
 飛び移ると同時に、私がいた枝は鞭によりあっさり両断された。
 当たったら痛そうだわ――。
 実際、普通の人間に当たったら痛い何てものじゃないが、私にとってはその程度に過ぎない。
 一応、注意はしようと思う。
「この、ちょこまかと!」
 苛立ちの募る表情を露わにし、素早い身のこなしで鞭を操る女。
 螺旋を描くように回転させて私に飛ばす鞭は、まるでとぐろを巻いた後に飛びかかる蛇を想わせる。まさしく変幻自在とも言えるしなやかな動きだ。
 だけど、そんなもの私には当たらない。
 飛んで来た鞭を、また木の枝から飛び移ることでやり過ごした私は、次の木の枝でぶら下がり後方支持回転を行い。鞭が迫り来ると共に枝から手を放して体を丸め、回転しながら落下。
 屈む姿勢で着地した瞬間、ふわっと来る風が私の銀髪を(なび)かす。
「ふっ……ヘタクソ……」
 立ち上がりながら女を横目で見やり、ワザと聴こえるように私は呟く。
「なっ!」
 にやける私に対し、女は憤慨の様子を露わにした。
「見え見えなのよ。あんたの動きがね」
「なに!」
 伊達に千年生きてはいない。
 既にその類いの武器使いの相手は経験済みだ――こういうリーチのある武器は、動きに隙が出来てしまうもの。振るう動作で事前に鞭がどうしなるのかを予測し、見極めた後はタイミングを見計らって避ければいい。――さてと、遊ぶ時間もないし、そろそろ終わらせるとしましょう。
 そうと決まれば、私は颯爽と駆け出す。
「馬鹿め! 自分から食らいに来たか!」
 遅いわよ。そんなんで私は捉えられたりはしない!

 顔を目掛けて来た鞭を屈むように身を低めかわし、詰め寄りながらこのまま胸に拳を叩き込もうとしたが。まさかこの時、女があんな行動を見せるとは思わなかった。

「――なっ!」
「死ね!」
 女が何も手にしていない右手を上げると、袖の中から手のひらサイズの拳銃が飛び出し、それを手にすると同時に素早く私の頭に向け引き金を引いた。

 銃口が火を吹き、乾いた音が弾ける。

 私はとっさに横に身をそらして、ギリギリで弾丸をかわした。
 とっさの判断が遅れたせいか、僅かだが頬を掠めてしまった。
「くっ――」
 傷口から、僅かに血が滲み出てきたが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
 私はすぐに後ろに身を引く。同時に足に当たるはずだった弾丸が地面を撃ち抜いた。
「逃がすか!」
 執拗なくらい銃を連射してくる女。
 私は飛んでくる弾丸を、バック転や側転とアクロバティックな動きで彼女の後ろへ回り込むようにかわす。
 女も当然ながら、回り込むのを阻止するために、私から目を離さず正面を向いている。しかもそれだけではなく。鞭で薙払いながら銃を撃つという、巧みな連携も行う。
 正直、弾が無くなるか、弾詰まり(ジャム)が起こるのを待つのは厳しそうだ。とりあえず、私をしっかり睨み据えている訳だし、幻術を利用させてもらうとしよう。
「一気に片を着けさせてあげるわ……」
 前転飛びで五発目の弾丸をやり過ごし、その後で右斜めに振るって来た鞭を逆方向に身を低めることで後にし、その瞬間足腰に力を加え、放たれた矢のように駆け出した。
「こちらとてそのつもりだ!」
 女は銃を撃ち続けながら後ろに下がる。
 だが、それでも距離は縮む。
 何故なら私が止まらずに弾道を予測し、体への直撃を僅かな動きで反らしているからだ。
 そうなれば当然、女の顔が驚きと焦りで歪む。
「クソッ! 舐めるな!」
 鞭を横に振るって牽制した女、私が跳躍してかわすと、これを待っていたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「空中なら、逃げられないだろう?」
 女は銃口を空中にいる私に向け。
「私の勝ちだ!」
 トリガーを引いて、放たれた弾丸が私を撃ち抜いたのを目にし、勝ち誇った笑みを浮かべたが――。
「な、何!」
 それはすぐに戦慄へと変わる。

 当然だ――何故なら、策に掛かったのは私では無く。あんたなのよ!

 そう、先にも予定していた通り、私は幻術で跳躍して避けた偽物――つまり幻を見せたのだ。おかげで彼女は、弾丸がすり抜けて消滅した私に度肝を抜かれていた。
 気付いた頃にはもう遅い。
 本物の私は――。
「あんたの足下よ!」
「ッ!」
 足下まで滑り込んでいた私は、そのまま地面に手を付き水面蹴りで彼女のくるぶしを蹴り飛ばす。宙に浮いたところをトーマスフレア、さらにそこからウインドミルへと移行。ブレイクダンスのパワームーヴで勢いづけ、ラストはハンドスプリングで足を槍の如く突き出し、落下してきた彼女の腹部を蹴り上げる。
「おぐぇ!」
 苦悶の表情で嘔吐するかのような呻きを上げ、くの字に折れ曲がったまま更に空高く打ち上げられた彼女に、私は跳躍してトドメの一撃を入れる。
「ハアァッ!」
 覇気を込めたオーバーヘッドキックを彼女の脇腹に入れ、そのまま茂みの中へとゴールインさせた。
「っと……。ま、ざっとこんなものね」
 なかなか強かったけど、光我や赤マントと比べるまでもない。三下妖怪なら倒せる輩だろうが。生憎、こっちは伊達に上級妖怪を気取っちゃいないのよ。


 さて、さっさとあの折れた大木について調べに行くことにしようかな――と、その前に――。



「う……うぅ………私は?」
「目、覚めた?」
「お、お前! あっ! な、何だこれは!」
 まあ、動揺するのは当然だろう。何せ彼女は今、手足を自分の持ち物だった手錠に掛けられて拘束されてしまっている。そんな体をへの字にしてもがく女がどうも滑稽で。私はクスクスと笑いながらそれを観望していた。
「き、貴様ぁ」
 やはり屈辱的なのだろう。私を上目で睨み付けてはいるが、顔が赤い。
「くくく、良い顔よ」
「ふ、ふざけるな! くそぉ……こんな真似してタダで済むと思っているのか!」
「へぇ。そういう口聞くわけ。ふぅん」
 怒りを露わにする女の後ろに、私はゆっくり回り込む。
「悪い子はお仕置きと行こうかしらね?」
「なっ! 待て、お前それは私の!」
「ふふっ」
 そう、あんたが私に使っていた鞭だ。まあ電流は流れないようスイッチは切っているけど。
「まずは、軽く試し打ち」
「あうっ!」
 軽く鞭をしならせて背中をバチンと叩いてみる。
 スーツに切れ目が入らないくらいの力加減で叩いているが、彼女は結構痛そうに鳴いた。
「さて、ここから私の質問に答えてもらうわよ? もし黙秘したら――もう判るわよねぇ?」
 ニヤァっと思わず笑みがこぼれた私を見た女の表情が、冷や汗いっぱいで真っ青になる。とりあえず、それを無視してまずは最初の質問だ。
「あんたの名前何て言うの?」
 突拍子な質問だったのか、女は眉をしかめるも答えた。
「私に名前は無い……だから紅蓮ではジェーン・ドゥと呼ばれている」
 まんまじゃない。まあ、別にいいか。
「それじゃあ次の質問。何で私が妖怪……いえ、あんたは妖魔って言ってるからそっちにしましょう。何で私が妖魔だと解ったの?」
 ちょっと気になっていた。
 この程度のやつが私の正体に気付くのはおかしい。私が妖怪だと知るだけで、そいつは相当な実力者だと見ても良いはず。だいたい、攴魔ですら私の事を調べるのに難儀したと崎原が語るくらいだ。

 それだけ私は、悟られないようカモフラージュを施しているから当然である。

 加えて崎原は、情報操作で私の正体などに関しては、他の退魔組織には知れ渡らないようにしたとも言っていた。
 だから、私が妖怪だと知るには、直接私を見極める必要がある。
 そうなると、改めて彼女が見極められたのかと疑問が浮かぶ。
 その答えを聞こうと訊ねたのだが――。
「黙秘するわけ?」
「当然だろ……名前は意味を持たないから教えた。だが、今の質問には意味がある。だから、下劣な妖魔に話す気はな――」
「はい、バチーン」
「うぐぁっ!」
 ちょっとイラっときたので、スリムなその背中を軽く叩いた。情けない体勢のクセに何カッコつけたこと言ってるのやら、さっさと吐けオラ。
 更にもう一撃を加えてみる。今度は尻だ。
「あぐぅ!」
 おお、なんか楽しい。――と、つい癖が出てしまった。赤面しながらも、私は再度問い掛けた。
 しかしジェーンは涙目で首を振る。意外と痛みは蓄積しているようだ。
「さっさと吐いた方が良いわよ。私さ、こういうシチュエーションけっこう燃えるのよね。ヒートアップする前に答えた方が身のためよ」
 くるめた鞭を両手で引っ張ってしならせた音を鳴らし、脅しを掛けてみる。
 観念したのか、一旦歯軋りを立て、ジェーンは語りだす。
「平賀だ……アイツの目は、どんな妖怪の正体も見極める特殊な力がある」
「なるほどね。やっぱり平賀が気付いてたの」
 まあ、あの男は崎原のような得体の知れない雰囲気を発してたから、何となく予想は出来ていた。
「つまり、あんたは平賀から聞き出して、私を狙いにきたってわけ?」
「そうだ。平賀は無関心だったが、私は見逃さん! 妖魔を滅ぼす! それが、私の使命だ!」
「……ぶふっ! ――くくく、ブアッハハハハハハハ」
 駄目だ堪えきれない。そんなアホな体勢で、あんまりにも真面目な顔で言い切るから、面白くて笑いが止まらない。
「な! 何がおかしい! 笑うなぁ!」
 それでも顔を真っ赤にして怒るジェーンを尻目に、腹を抱えて私は笑うことを止めなかった。――と言うか、止まらない。
 全く、いろんな意味で片腹痛くてしょうがない。まあ、どういったいきさつでその使命感に辿り着いたのか知らないが、別に私には興味の無い話だし、否定や肯定もしない。
 込み上げてきた涙を指で拭いながらも、私は木の根本付近に行き、湿った土を掘る。
「な、何だ。何をするつもりだ?」
「ま、ちょっとした罰よ」
 訝しげに私を眺めていた彼女だが、私が土から取り出したある物を見て小さい悲鳴を出す。
「な、何だそれは!」
「何って、カブトムシの幼虫よ」
「馬鹿いえ! そんな両手で抱える程の幼虫がいてたまるか!」
 まあ、そりゃあ当然だ。だってこれは幻術でデカく見せているだけなのだから。実際は何も持っていない。だいたい、いくら季節が春だからって、こんな山にカブトムシの幼虫はいるにしても稀だ。
 その辺を掘ってすぐに見つかったら世話ない。
 それは別にいいとしてだ。本格的なお仕置きタイムと行きましょうか。
「お、おい。何でこっちに来る。はっ! まさか! 止めろ! く、来るな!」
 無視して彼女の正面に立ち。私は不敵な笑みを浮かべた。
「ち、ちち近づけるな! わ、わ私は虫が駄目なんだ! お願い! 止めて! ―――いやああああああああ!」



 彼女の悲痛な叫びが、山一面に小玉するかのように響いた。



「さ、そろそろ行こうかしらね」
 泡をブクブク出しながら白目向いているジェーン。
 彼女を近くの木に背中を預ける形で寝かせ、私はこの場を後にしたのだった。


 どうも、あとがきっす。
 いやはや、今回は美狐の本性を少しさらけ出しました。
 意外にサドっけのある美狐。本人も自覚してたりします(笑)
 ちなみに、兄の絶狐丸は彼女の何倍も残虐で非道だったりしますが。烈狐丸も何だかんだ言ってたまに見せたり(笑)












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