第七章 その1(前)
第七章 バラード──Ballade──
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翌朝、二つの部屋で同時に取り調べが始まった。
三件の殺人を計画した首謀者の丸山美登利は鍋島と一条が担当し、殺人の実行犯でもある
辻悦子の取り調べには芹沢と島崎が当たった。
「何もかも、親父のせいや」
美登利は吐き捨てた。制服姿で、椅子に背を預けてふてくされて腕を組んでいる。
昨日までの明るく素直な彼女からは想像もできない豹変ぶりで、少年課に補導されてくる
不良少女と同じような冷めた目をしていた。
「どういうことや、説明してみ」
壁にもたれている鍋島が言った。
「健を見殺しにしたから」
「あなたと飯田健はどう言う関係?」一条が訊いた。
「恋人同士」
「恋人って……」鍋島が言って、思わず笑みを漏らした。
「何が可笑しいんよ」
「ああ、悪かった」鍋島はちらりと一条を見た。「いつから?」
「あたし、去年の春休みから親父の店を手伝うてたんや。店、あんまり儲かってなくて、
ウェイトレスを雇われへんようになったし。健は店の常連やったんや」
美登利は頭の良さが顔に出ているせいか、大人っぽく見えないこともなかった。それに
近頃の子供は発育がいい。化粧をして、流行りの洋服でも着れば、十七、八歳には
見えそうだった。
「親父が健を強盗に誘たんや。去年の九月頃、あたしが健とつき合ってるって知った親父は、
言うことを聞かんとあたしとのつき合いは認めへん、中学生とつき合うなんて条例違反やぞ
って脅して。健はちょっと気の弱いとこがあったし、親父の言うがままに会社を辞めて
横浜についていくことにしたんよ」
「それは、強盗の片棒を担がされるって分かってて?」
「もちろんよ。親父は行く前からそのつもりやったわ。他にも、健と同じく店の常連で、
長いこと横浜の大きな宝石店に勤めてて二年ほど前に大阪に戻ってきた工藤達彦と、親父の
麻雀仲間の藤川って言うおっさんを仲間に入れて」
「きみはいつの段階でそれを知ったんや?」
「最初から知ってた。親父らが店の奥でひそひそ話してるの、いつも表で聞いてたし」
「……まさか、お母さんも?」
「知るわけないやん。あんな、男に頼って生きるしか能のない人が聞いたら、それこそ
慌てまくって仕事の邪魔やと親父も思たんやろ。内緒にしとけって、あたしもくどいほど
言われてた」
「親父らはいつ横浜へ?」
「この前オフクロも言うてたやろ、去年の十一月や。めぼしい宝石店を見つけて、入念に
下見するのに半年は時間が掛かるって言うてた。そやし決行は六月になったんやろ」
「──で、きみの犯行についてやけど」鍋島は言った。「飯田健が死んだと知ったのは
いつや?」
「……健は、最後まで怯えてたんよ。あたしの親父の命令やから聞くけど、ほんまはこんな
ことしとうないって──それで、大阪を発つ前の夜にあたしに言うたの。犯行の日が
決まったら連絡するけど、その日から一日経っても自分からの連絡がなかったり、
捕まったって報道もされへんかったら、自分の身に何かあったと思ってくれって。そして、
そのときにはある人に連絡してほしいんやって」
「それが辻悦子ね」
「そうよ」美登利は頷いた。
隣の取調室では、その辻悦子が涙ながらの供述を続けていた。
「──健ちゃんは、あの子が施設にいる頃からずっと知っていたんです」
悦子は言った。「私の勤める博物館が施設の近くで、よく職員さんに連れられて来て
ましたから。特に恐竜が大好きだったみたいで、中学生になってからも毎日のように」
「あなたと知り合ったのはその頃ですか」芹沢が訊いた。
「確か──小学五年生の頃だったと思います。実は私もその頃、女手一つで育てた息子を
病気で亡くしたものですから……健ちゃんとだぶってしまって。健ちゃんも私に知らない
なりにも母親のイメージを重ねていたんでしょう。よく懐いてくれました。学校が休みの
時は、二人でお弁当を持って出かけたりして──親子のまねごとをしているうち、本当の
息子のように思えてきたんです。就職して初めてのお給料で財布をプレゼントしてくれた
ときは、自分が育てたわけでもないのに、涙が止まりませんでした。優しい子でした」
「彼が死んだと知ったのはいつ?」
「強盗事件のあった二日後です。勤め先に連絡が入って……女の子の声でした」
「丸山美登利か」島崎が穏やかに言った。
「ええ。健ちゃんとつき合うてたって言うて──健ちゃんからも、そんな女の子がいるって
こと、ちらっと聞いたことがあったんです。就職してすぐ、アパートの近所に行きつけの
喫茶店ができて、そこの娘さんと知り合ったって」
「それで、美登利は何と言うてきた?」
「横浜に行った健ちゃんからの連絡が途絶えたって。それで、もしかしたら死んだかも
知れないって。私はそれはもう、びっくりしました。健ちゃんがしばらく横浜へ行ってるのは
知ってましたが、てっきり仕事やと思てましたから。それで、彼女とはその翌日に会う約束を
しました。そのときです。彼女からすべての話を聞かされたのは」
そう言って悦子はまた涙を流した。三人の女性を惨殺し、一条まで狙った大女には
似つかわしくない、さめざめとした泣き方だった。
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