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僕と私の時間
作者:穂刈末斗
 彼女は本を読んでいる。
 一人でベンチに座っている。
 ゆるやかな風が長い髪を揺らした。
 春の日差しに黒髪がきらめく。
 彼女はページをめくる。

 私は本を読んでいる。
 町外れの公園で30分だけ読書するのが私の趣味だ。
 家に居ても良い事が一つも無い。
 大きな木の下のベンチがいつもの場所。
 学校から帰ると、散歩のつもりで公園まで歩く。
 人気の無い公園は読書するのにうってつけなのだ。
 最近はめっきり暖かくなった。
 冬の凍える息吹はなりを潜め、春の気配が私を包んだ。
 私はページをめくった。

 *

 彼女の隣に僕がいる。
 僕の様子をちらちらと窺っている。
 彼女は怖がっている、と僕は思う。
 子供たちが、僕と彼女を指さした。
 彼女は顔を伏せる。

 隣に彼がいる。
 私の顔をじろじろ見ているみたいだ。
 最初は少し怖かったけど、すぐに慣れた。
 私に何かしようと思って近づいてきたのではないらしい。
 遠くから子供たちの声が聞こえてきた。
 その内の一人が、私を指差した。
 私は恥ずかしくなった。

 *

 重い雲が垂れこめる。
 冷たい雨が降る。
 彼女はいない。
 友達の声がする。
 僕を呼んでいる。

 *

 彼女はパンを食べる。
 もそもそ食べる。
「あなたも食べる?」
 僕もパンを食べる。
 冷たい風が吹く。
 僕と彼女は身震いする。

 私は鞄からパンを出した。
 彼と友達になろうと思って、用意しておいたのだ。
 まず私が食べた。
 それから、さり気なさを装って、彼にも勧めた。
 彼は世界中のどんな人間よりも素直に食べた。
 彼と友達になれただろうか?
 そんなことは、とても聞けない。
 しぶとい冬の尻尾が私を身震いさせた。

 *

 彼女の隣に男が居る。
 男は大声で笑っている。
 彼女は顔を伏せる。
 僕は男に近づく。
 驚いた男は立ち去る。
 彼女の笑顔は白く輝く。
 僕はパンを食べる。

「いつもここに居るの?」
「そう、静かだから」
「一人で?寂しくない?」
 彼の事を話した。
 友達に笑われてしまった。
 話さないほうが良かったかもしれない。
 私は恥ずかしくなった。
 そのとき彼が、友達に向かっていった。
 きっとどこかで見ていたんだ。
 友達は何かぶつぶつ呟いて、帰ってしまった。
 彼が私の隣に来る。
 当たり前みたいな顔で、居座っている。
 私は少し可笑しくなった。
 彼と私はパンを食べた。

 *

「明日からもう来ないよ」
 彼女はこっそり言う。
 僕は彼女がくれたパンを食べる。
「あなたみたいに、自由になりたいな」
 僕は彼女の手をつつく。
 驚いた彼女は、僕を叩く。
 僕は遠くへ行くことにする。

 私は、やっぱり寂しかったんだろう。
 いつまでも彼と遊んでいてはいけないのだ。
 私は彼に別れを告げた。
 最後に、パンを食べることにする。
 私たちがずっとやってきた事。
 一緒にパンを食べること。
 私はそれに、ささやかな絆を感じる。
「あなたみたいに、自由になりたいな」
 小さな声で言った。
 彼だけに聞こえるように、小さな声で。
 彼は私の手をつついた。
 驚いて思わず彼を叩いてしまった。

 私の言葉が通じたのかもしれない。
 あれは彼なりの挨拶だったのかもしれない。
 そう考えるのは、人間の傲慢だろうか?
 私の隣にいたカラスは、夕暮れの空へ飛び立った。  
鳥の話を書こうと思ったら、ものすごく短い話になってしまった。
しかもジャンル分けに困る始末。
精進します。

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