第31話:魔王様と反乱 後編
<アキラ視点>
グングニールとナイフの爆発の余波により、見るも無残になったボク等は、それでも椅子から動こうとしなかった。
「トモ君とマー君の連携により絶対不利の状況から一対一にまで持ってきた漢チーム。
逆に、絶対有利だったはずの状況から一対一にまで持ってこられた女の子チーム。
泣いても笑ってもこれが最後の勝負、勝つのはどっちなんでしょーね〜……」
「あの距離ならば智也さんがあの矢を射れば勝負はつきそうなものですが……」
全身埃まみれで、いかにも機嫌の悪そうな杏。
だが、ボクなんてアレクさん背中の範囲外だったおかげで全身に石やら何やらが
当たりまくって、今にも倒れそうなんですけど。
「すまん。俺は、これでもレディファーストなんだ」
「分かっています……」
そんなアレクさんも、杏さんとアリスさんを守るために全身に石やらが当たって
若干、顔が引きつっている。
「しかし……なんですかね」
「ん? 何か言ったか?」
「いや……当初の目的とずれているような気がするのはボクだけですか?」
「……そう言われれば、そうかも」
まあ……面白いので、よしとしますか。
<桜視点>
お兄様を見据えながら、頭の中でシナリオを描く。
体に纏う魔力がない事から、お兄様がレーヴァンティンなどの強力な武器を召喚して魔法を防ぐことは出来ないだろう。
―――ならば、今この瞬間に全解放すればいいのではないか?―――
という問いかけを頭で否定する。
この間合いなら、術が発動した後に矢を射て余裕で私を倒せる。
さらにお兄様なら術を完璧に避けるという嬉しくないおまけつきでやってのけるだろう。
あるいは、先ほど使ったアイギスとかいう盾も考えられる。
グングニールの一撃を、直撃ではなかったからといって苦もなく避けきったあの盾を使われては、こちらの魔法など何一つ届かないだろう。
どう考えても、およそ勝ちに繋がる手段は見つからなかった。
だが、それでも。どうしても諦める気にはなれなかった。
自分をかばって戦闘不能になった葵姉さまの、その行動に報いるには勝利しかない。
ギリ……と唇をかみ締めながら己の無力さに対する苛立ちを押さえつけ、必死に糸口を探る。
そんなあたしの頭に、なぜか以前、学校の先生に武術を習ってたとき言われた言葉が思い出された。
『ちょっと手加減ぐらいしてくださいよ!』
『なぜ?』
地面にすっ飛ばされた私は、相変わらずの無表情でたたずんでる先生に文句をぶつける。
『どう考えたってずるいじゃないですか! 男と女だし、体型も体格も筋力も何もかもが!!』
激昂していた私は、あの時先生が言った言葉の意味がよく理解できていなかった。
たぶん、煙に巻かれたんだと思ってさらに怒ったような記憶さえある。
『……桜君、自分がどう逆立ちしたって勝てない相手と勝負するときはどうすればいいと思う?』
『へ? 勝てない相手と? そんなの勝負しないで逃げればいいじゃないのですか』
『それではダメだ。その相手には一生勝てんだろう』
『……じゃあどうすればいいのですか』
先生は肩をすくめると、言い放った。
『簡単なことだ。イカサマすればいいのだよ』
『あっそ』
『ぐはっ!!』
そして私は先生の言うとおり、魔法で強化した足で股間を蹴っ飛ばしてやったんだっけ。
今の私の状況は、以前とまったく同じだ。
今の状況でお兄様に勝てるなど、考えることすらおこがましい。
だとすれば先生に言われたとおりイカサマすればいいのか?
そんなものが通用する相手なのだろうか?
答えは否。
ただ、何かの手がかりは掴んだような気がした。
それでも決定的なピースがかけている。
だから、私はあの後のことをさらに深く思い出そうと、自身の記憶をほじくり返した。
あの後、先生は悶絶しながら何を言っていた?
『これでいいの?』
『ぐ……見事だ』
股間を押さえながら偉そうにされてもねぇ……。
『はぁ……こんなんで勝ってもねぇ。ま、勝ちは勝ちだけど』
『ついでだ……一つ教えといてやろう』
額に脂汗浮かべながら偉そうにされてもねぇ……。
『何ですか? まだ何か?』
『勝負時において、押すことも引くことも含め、やることが全てなくなったときは何をすればいいと思う?』
『は? そんな状況になる前に勝負をつけますよ』
この人の問いかけはいつもどこかおかしいと思っていた。
少なくとも、昔の私はそんな状況になるなど考え付くことすらなかったのだから。
『ふむ、確かにそれは一面では正しい。だが、常にそう上手く行くとも限らないだろう』
『じゃあどうすればいいのですか。回りくどいこと言ってないでさっさと教えてください』
打つ手など、少し考えればいくらでも出てくるものだと思っていたのだから。
『何、簡単なことだ。ただ、全力を尽くせばよい。結果はおのずとついてこよう』
『何ですかそれ、そんなのあったりまえじゃないですか』
『確かに当たり前だ。だが、それが出来る奴など見たことがない。君はどうかな?』
『さっきも言いましたけど。そんな状況になる前に勝つんだから、一生見ませんよ』
そう言って私は不敵に微笑んで、立ち上がった先生の股間に、もう一発お見舞いしてやったんだっけ。
……昔の私って、随分と強気な発言してたのね……。
今更ながらに呆れてしまう。だが、今の私とて負けてはいない。
違うのは、発言したかしないかだけなのだから。
要は、全力を尽くしてイカサマをすればいいのだ。
「セット」
最初の一発でどこまでお兄様に気付かれずに事を進められるかが勝負。
「五番、三番、四番。終局、炎の剣、相乗」
【ゴアァァァァァッ!!】
先ほどの焼き増しのように、強烈な炎がお兄様に向かってほとばしる。
先ほどと違うのは、お兄様がレーヴァンティンを持っているか否か。
「我が呼び声に答えよ」
そしてお兄様は矢を手から離すそぶりすら見せていない。
ここから導き出される結論は唯一つ、お兄様は、さっきの盾―――アイギス―――
で私の魔法を防ぐに違いないということ。
「神の祝福を受けし盾!!」
そして私の読みどおり、盾が前方に展開される。
その盾の前では、私の炎など何の効果も持たないこともあらかじめ予想済み。
アイギスが出てきたなら、こっちのとるべき手段はおのずと決まってくる。
「六番:冬の河!!」
私は、札に込められた氷の魔法を解き放つ。お兄様の真上に向かって。
今の私の魔法は、炎の壁に遮られてお兄様からは見えていないだろう。
あとは―――
「二番:強化!!」
―――全身を強化し、一直線に突っ込むだけ!
「勝負よお兄様!!」
<アキラ視点>
「あらあら〜桜は何をやっているんでしょうね〜。炎が効かないことは分かってるはずなんですが」
「何か策があるんじゃないのか?」
「どうやらそのようですよ。炎にまぎれてよく見えませんでしたが、何か別の札も使ったようですし」
ボク等はあくまでも傍観者。巻き添え怖いからですから。
……まあ、すでに巻き添え食ってるという意見はあえて置いておいて。
「どうなるんでしょう……」
智也君があっさりやられるとも思えないし、また逆に桜さんがあっさり返り討ちにあうとも考えにくい。
どうなるか色々考えてみるものの、どれもが正しそうでまたどれもが間違いのように思える。
だが、あの二人のことだ。きっと何か、想像もつかないような決着のつけ方をしてくれるのだろう。
しかし、最後の最後まで来てなお先が読めないな。
まったく、面白い人ばかりですね。
<智也視点>
アイギスの向こう。炎にまぎれて見ることはできないが、桜が飛び込んできたのが感じ取れる。
何を考えているのかは知らないが、どうやら桜は勘違いをしているようだ。
僕のアイギスは防ぐだけではない。
魔力の塊であるわけだから、当然のごとく、押し寄せる炎を相殺したりも出来る。
「……見誤ったな、桜。今回は僕の勝ちだ」
呟きとともに、アイギスに込められていた魔力に少し方向性を与えてやる。
周囲一帯に閃光が走ったかと思うと、たったそれだけで炎は完全に消滅していた。
「残念だったな、桜」
「…………」
僕の矢は弓につがえられ、手を離すだけで桜の眉間を撃ち抜くであろう状態である。
だというのに、桜の表情には"してやったり"な笑みが。
「……?」
「あああーーーーーーーーーーっ!!」
「な、なんと言うことでしょう! 桜はここまで計算済みだったのかーーーー!!?」
どうやら、杏さんたちには何が起こっているのか理解できているようだ。
僕が困惑していると、くいっ、くいっと桜が上を指差している。
「えっ……な、なにぃぃぃぃっっ!!!」
これが漫画だったなら、きっと僕の目玉は飛び出していただろう、そのぐらい驚く光景が広がっていた。
僕の頭上には、直径十メートルを超える巨大な氷塊が、今まさに僕を潰さんと落下してきていたのだから。
「う、おおおっ! アポロン!!」
【ズガァァァァァン!!】
咄嗟に構えていた弓を上に向け、氷塊を破壊する。
そしてそのときには、桜は僕の懐に飛び込んできていたわけで……
「ちっ、我が……!!」
「おそーいっ!!」
【キィィィィン!!】
「ぐはっ……!!」
全身を突き抜けた痛みで、思わずその場にうずくまってしまう。
「うわぁっ……!」
「う……エグ……」
剣を召喚する暇も有らばこそ。
桜は強化済みであろう、その足で以って僕の股間を一撃したのだ。
……ひ、卑怯すぎるぞ……
脂汗を浮かべながら周囲を見回してみると、かすむ視界の中でアキラ君とアレクさんが同じように股間を押さえていた。
「ふふん、私の勝ちねお・に・い・さ・ま♪」
「う……ぐ……」
声も出ない私の目の前に仁王立ちして、上機嫌な様子で言葉をぶつけてくる我が妹。
だが、彼女は一つ大きな見落としをしていたようだ。
「桜さん、桜さん! 上、上!!」
「え?」
桜はアリスさんの声に反応して上を見上げ、愕然とする。
そう、僕はアポロンで氷塊を破壊したが、だからといって氷塊が全て消滅したわけではないのだ。
というわけで、先ほどの破片が雨あられと降ってきて……
【ガスッ!!】
「ぐ……早く言いなさいよ、馬鹿……」
その中でも一番大きな塊の直撃を頭に受け、我が妹は最後の最後で詰めることができず、
その場に昏倒したのだった。
<アキラ視点>
「……痛そーだったな」
「そりゃあ……痛いでしょう」
自業自得とも言えなくないが。
氷塊を智也君が壊すとこまで計算できたなら、壊した後どうなるかも計算しないほうが悪いのだ。
それに不運が重なっただけなのだろう。
事実、智也君は破片を一つも食らってないし。
「で、杏さん。この勝負はどうなるんですか?」
「え、えーっと……」
戦闘の結果だけ見れば女の子チームの勝ちなのだろうが……。
智也君にはまだ意識があるみたいですし。
智也君以外の三人が気絶していることを考えると、漢チームの勝ちでもいいような気がする。
「……この勝負、引き分け〜!」
「…………」
「…………」
「…………」
杏さんの投げやりな発言に、一同は固まる。
「……ダ、ダメ、かな?」
まあ、それが一番妥当でしょう。
どっちかに軍配を上げれば、先ほど、ボクが考えたようなことで後々まで言われるかもしれないですし。
「でさ、あの四人どうする?」
「…………」
「…………」
「…………」
アレクさんの何気ない一言に、再び一同は固まる。
そんな中、杏さんとアレクさんが目配せしあっていた。
これはもう、運命は決まったと見ていいのだろう。
「……じゃ、頑張ってね〜♪」
「がははははは!! 頑張れ、アキラにアリス」
結局、こうなるのか……。
ボクとアリスさんは顔を見合わせ、今日何度目か分からない深い溜息をつきあうのであった。
で、昨日のよく分からない理由による大戦闘が終わって一夜明けた坂下邸では……。
「ふ……そんなもので私を……いだっ! ちょっと待いだだっ!」
「ちょっとアリスちゃん、やめてってば!! 痛いんだって!!」
「お願いです杏お姉さま、それ以上は!! いたたたたっ!」
「ちょ、ちょっと痛いですって!!」
怪我人の看病とかいう名目の、お仕置きが行われていたり。
「いっでーーー!! アレク、もうちょっと優しくだな……」
「だから動くなって。ふん!」
「だーーーーーーーーーーー!!!」
「動くと痛いぞ」
「まったく動いてねーだ……ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」
包帯でぐるぐる巻き、というより限界まで縛り上げられている魔王とか。
「ちょ、ちょっと、杏お姉さま、私の傷は大したことないのですが……」
「あらあら〜頭に何か問題が残ってたら大変でしょ〜。いいからおとなしくする!」
「い、いやーーーーーーー!!」
「ほらほら、逃げたってどこまでも追いかけるから意味ないわよ〜」
「ちょ、ちょまっ……いたっ、痛いって! いだだだだだっ!!!」
同じく、病人服の上から包帯をギチギチに巻かれている桜さんとか。
「いだっ! アリスちゃん、私の傷はもう治っている……って、聞いてないし!?」
「病人はおとなしく看護士さんの言うことを聞くものです」
「アリスちゃんは看護士じゃなくてメイドじゃないの?」
「細かいことは気にしない!」
「いだだだだだっ!! マー君、助けてーーー!!!!」
なぜか素っ裸の上から全身包帯ぐるぐる巻きでミイラにされた葵さんとか。
「さてアキラ君。なぜ、そんなに包帯を持っているんですか?」
「冷や汗まみれで何を言っても決まりませんよ。大人しくしてください」
「そ、そもそも僕がダメージを負ったのはごくごく一部で……って、聞いてるのうわ、何をするんですか!」
「だから大人しくしていろと言ってるでしょう。なに、すぐ済みます」
「やめ……ぎゃあああああっ!!」
股間を痛打されただけなのになぜか身動き一つ取れなくなるほど包帯まみれの智也君とか。
まあ、あの後警察に散々事情聴取されたボクたちにはこの位する権利くらいあるだろう。
ということで。
それはともかく、人間なんだかミイラなんだかよく分からないモノの叫び声というか呻き声というかが一日中響き渡っていたとかいなかったとか。
まあこれで葵さんも桜さん以前より少しは大人しくなるだろう。
……大人しくなると、いいですね。いやむしろ、なってくれ。特に葵さん。
なんて思った、平和で、よく晴れた日のことだった。
<マー君視点>
そういえば……思い出したぞ、昨日の言葉。
「確か、嵐の前の静けさ、だったな……」
「何か言ったか?」
「いや何も。度忘れしていたことを思い出しただけだ」
「ふーん……そうか!!」
「ぎゃああああああ!!」
痛みに耐えながら、私はもう一つ思い出す
(そういえば……台風一過、なんて言葉もあったな)
そんなことを思うのだった。
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