第29話:魔王様と反乱 前編
<マー君視点>
「ようやく帰ったか」
十日前にやってきて、ついさっきまでに一日平均三回は魔王室のどこかしらを破壊していた
葵がようやく家に帰ったのだ。
それだけに、主に被害を受けていた私やアキラは感激もひとしおなのだ。
「いつもなら、そういう言い方はよくないぞって言うんだろうけど……」
「今回くらいはな」
「……ま、いいでしょう」
私とアキラはようやくのことで平和になった魔王室でのんびりと食後のお茶を啜っていたりなんかした。
杏は実験が忙しいらしく工房に篭りきったまま、葵は帰っていったからな、本当に静かだ。
あれだけ暑かった夏も過ぎ去ろうとしている季節、開けっ放しにした窓から吹き込んでくる風が涼しかった。
「……静かですね」
「……だな」
ぼんやりと外を見ながらお茶を啜る。
そのとき、なぜだか知らないが先日読んだ本の一説が私の頭にふっと浮かんだのだった。
―――何とかの前の静けさ―――
(……思い出せんな、まあいいか)
やっとのことで手に入れた平和な時間を無駄な考え事で潰してしまうこともあるまい、
と判断した私は思考を打ち切ってお茶を啜るのだった。
このとき熟考しなかったことを後で心底後悔するとも知らずに。
葵が帰って30分ほど。
「く、卑怯だぞアリス!」
「ふふふふふふ、この程度もガードできないようでは、一生私には勝てませんよ」
画面の中では、私の操るキャラがアリスのキャラにパーフェクトで叩きのめされいる。
仕事の息抜きと興味本位でゲームを買ってみたが、意外とこれが面白い。
「ああー……も、もう一度だ!」
「いいですよ、もう一度コテンパンにしてあげます」
そう言って私たちは再び、対戦をはじめるのだった。
「……飽きない人たちですね」
「俺等だって同じようなもんだろ。ほら、王手」
「ああっ! そ、そこはなし!!」
「なんだよ、また待ったか? 何回目だと思ってんだよ」
ちなみに、アキラとアレクは日本の遊びである将棋をやっている。
今のところ、アレクの二十七連勝らしい。どうもアキラはこういった勝負事は苦手のようだった。意外だ。
私にもゲームでズタボロにされたしな。
まあ、私たちは概ね平和な夜を過ごして……
【ガチャ!!】
【ダダダダッ!!!!】
「…………」
「……何だ?」
「誰か来たようですが……」
アリスの言うとおり、魔王邸に何者かが入ってきた気配がある。
だが、泥棒はここまで大きな足音を立てないだろうし。
で、泥棒でなく、こんな真似をする奴を私は一人しか知らない。
「仕事よ仕事よ!」
バァン! と魔王室の扉を吹き飛ばしてで入ってきたのは、一番予想被害の大きい葵ではなく
、葵と同じローブと制服をきたポニーテイルが似合う少女だった。
でも、私たちは一日の最後にして運に見放されたらしい。
「あんたたち、のんきに遊んでないで私の手伝いをしなさいよ!」
ブチッ!
「ああ!? 何をするんですか!!」
「ああーーー!! 後ちょっとでアリスから一本取れたのに!!」
「人が困ってんのに、のんきにゲームなんかやってるのが悪いのよ!」
ガシャーン!
「あ、危ねーだろ!? 何すんだよ!」
「あああーーーーーーっ!! ぼ、ボクの王手飛車取りが!!」
「ダマらっしゃい! 緊急事態なの!!」
ふーっ、ふーっ、と肩で息をしてこちらを睨みつけてくる。
まさに暴君。
「何か言った!?」
「何も」
くわばらくわばら。
<アキラ視点>
「で、緊急事態ってなんだ? その前に誰だ、君は……」
とりあえず今にも暴れだしそうな少女をテーブルにつかせ、いやいやながら魔王が話を進めようとする。
進めて欲しくないボク等は、気付かれないように目配せをしあう。
もちろん、ボクとアレクさんとアリスさんの三人だ。
「私? 私は坂下 桜。葵姉さまの後輩よ」
「葵の? その君が何のようなんだ?」
「実は、おにい……」
「アリス、みんなに茶を」
「あ、すみません」
「…………」
魔王の横槍により、アリスさんがお茶を淹れに行き、一旦中断。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
全員に茶を配ってから、再開。
「あのね、おに…」
「アリスさん、出来ればお茶請けをお願いしたいのですが……」
「わかりました」
「…………」
今度はボクの横槍に、アリスさんがお茶請けを取りに行き、一旦中断。
「どら焼きでいいですか?」
「ありがとうございます」
全員にどら焼きを配ってから、再度再開。
「……あのね、お」
「アリスすまん、俺は酒の方がいいんだけど」
「そうゆうのは先に言ってくださいよ」
「わりーな」
文句を言いつつもお酒を取りに行こうと立ち上がり……
「いい加減にしろーーーーーーーーーー!!!!」
【ずがーーーーーーーーーーん!!!】
こ、この人も魔法使い……!?
ついに爆発した桜さんの魔法に全てが吹き飛ばされた。
もちろん、ボクや魔王も。ついでに魔王室も。
「大丈夫か?」
「……その体の頑丈さ、私にも分けてくれ」
「がははははは!! 無理だな」
ちなみに、アレクさんとアリスさんは無傷。
アレクさんは元々の体の頑丈さ、アリスさんはとっさにアレクが匿ったおかげで無傷。
ずるいです。
「あ・ん・た・ら・はーーーーーーーー!」
「お、落ち着いてください、桜さん。いくらなんでもこれ以上は……」
「あんた、一緒になって邪魔しといてよく言うわね……」
「ま、まあ……それはそれ、これはこれと」
「はぁ……まあいいわ」
アリスさんになだめられ、何とか怒りのボルテージが下がったみたいである。
風通しのよくなりすぎた居間で、とりあえず全員正座して暴君の
言葉に耳を傾けることにする。
「……あのね、お兄様が行方不明なの」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あまりに予想外な台詞に、言葉を失うボク等一同。
だって、
「お兄様って誰ですか?」×4
<トモ君視点>
あっどうも、お久しぶりです。坂下智也です。
えっ!? 誰、お前。知らねぇよって読者の方は18話を読んでください。
では、本編に戻りますね。
―――無念。無想―――
海面にたらしている釣り糸に全神経を集中し、じっとあたりを待つ。
海釣りは夜か早朝が一番食いつきがいい。
「……きた!」
僅かに伝わってきた振動を逃さず、僕は釣り糸を巻き上げる。
手ごたえは徐々に大きくなり、針には目標が引っかかっていることを如実に伝えてきた。
「兄ちゃんやるねえ」
「いえ、運が良いだけですよ」
バケツに釣り上げた魚を放り込む。
何匹目かは忘れたが、十は軽く超えるであろう魚が、バケツの中で躍っていた。
こうして、僕は久しぶりに羽を伸ばして、充実した時間を送っているのだった。
<マー君視点>
「さあ、お兄様を探すわよ!」
「……おー」
「何でそんなにやる気ないのよ」
本気で言っているのか、この女は。
むしろこの状態でやる気があるほうが異常だと思うぞ、私は。
全身がほんのりと焦げている私等二人と相変わらず無傷なアレクとアリスが、坂下家の門の外で並んでいた。
その前には、その張本人である坂下桜が腰に手をやって立っている。
あの後、話を聞かない私等を吹き飛ばし強引にゲートに放り込み連れ出したと、つまりはそういうことだ。
「でもさ、なんで智也君だっけ……家出なんてしたのさ」
「……あんた、人の話聞いてた?」
「聞いてた限りでは桜さんの自業自得のような気がするのですが……」
「そこ! うるさいわよ!」
お兄様……坂下智也が家出した理由。それは毎日毎日……(中略)……毎日、問題を起こされてそれに嫌気が差し、逃げ出したらしい。
智也君……君の気持ちは痛いほど分かるぞ
「なぁ、アキラ」
「どうしました?」
「……私等って、何なんだろうな」
「……言わないでください」
私とアキラ、それにアレクとアリスは空を見上げ、深い深い溜息をつくのであった。
「こらそこ、何で溜息なんかついてるのよ」
「つきたくもなりますよ」
「……もうちょっと、自分の言動を鑑みたほうがいいんじゃないのか?」
「うるさいわね」
はぁ……もはや何を言っても通じないのか。
「で、探すって、どうやってさ」
「葵さんがボク達を見つけたように、魔力を辿っていけばいいのでは?」
「あー……そう、なんだけどさ」
「何だ。なんか問題でもあんのか?」
「……お兄様、どうやら感知できないくらい遠くまで行ったみたいなの。だから困ってるのよ」
もともとあんた達みたいに強力な魔力をもってるわけでもないしね、と付け加える。
「……何よ、その目は」
「別に」
まあ、私には関係ないことだからな。
下手に突っついて怪我するよりは、このまま適当に付き合ってやったほうが安全だろう。
「がはははは!! で、智也はどっちのほうに行ったんだ?」
「さあ……」
「おいおい、それじゃ探しようがないではないか。どうすんだよ」
「そこは……気合よ気合。あいつ目立つから、何とかなるでしょ」
何とかなったら苦労しないと思うのは私だけか?
「じゃあ行くわよ。あいつが行きそうなところを片っ端から当たってくわ」
「……おー」
「だからなんでそんなテンション低いのよ! ほら、きりきり歩く!」
こうして、私等四人は暴君に連れられ、夜の街へと出かけていくのであった。
<トモ君>
「……む、動き出したな」
三十匹を超えたあたりで、僕がセットしておいた使い魔からのエマージェンシーコールが入った。どうやら、桜が動き出したらしい。
だとすると、この場に長い間とどまっているのは危険だろう。早々に場所を変えねば。
「では、僕はこれで」
「彼女によろしくなー」
「……あははははは」
彼女など、僕にはいないし、よろしく伝える相手がいるとすれば、
今はまだそのときではない。
伝えようものなら命が危ない。
しかし、桜が一直線にここに向かっていたとしても、到着するまでには結構な猶予がある。
僕がどこか別の場所に逃げる分には、何の問題もなくいけるはずだ。
そう判断した矢先、どこからとともなく桜の声が。
『おぉぉぉぉおにぃぃぃぃぃいさぁぁぁぁあまぁぁぁあああ!!。そこを動くんじゃないわよ。逃げたりしたら承知しないんだからねーーーーー』
「…………」
おそらく、僕の使い魔を捕まえて無理矢理メッセージを送りつけてきたのだと思われる。
だが、そうなるとこの場所も一発でわかってしまうだろう。
さっさと逃げなければ。
「……そういえば、別に逃げる理由もないのだけど」
まあ、あそこまで言われてしまった以上、逃げないわけにもいくまい。
耳に波の音を聞きつつ、僕はどこへ逃げたものか思案するのであった。
<マー君視点>
ぐしゃり、と使い魔を握りつぶす音が聞こえた。
「ふ、ふふ……あそこまで言われてなお逃げるとはいい度胸じゃないのお兄様ぁぁぁあ……」
「でもさ、使い魔潰しちゃったらどうやって智也君の居場所を探るのだ」
「……あ」
唯一の手がかりまで潰えてしまった。
この先、一体どの位の時間がかかるのか見当もつかんというのに。
どうするつもりなのだろうか、まったく。
「と、とりあえず最後に確認できた場所まで行くわよ。その間に使い魔見つけられればそいつ捕まえればいいだけだし」
「よするに行き当たりばったぐはぁ!」
あーあー余計なことを言うからだぞ、アレク。
ああ、無情。
吹き抜ける風が、妙に涼しかった。
「……もう秋なんだな」
「……そうだな」
「ボク等、何やってるんでしょう」
「……私に聞くな」
街の中心街を目指して歩く道すがら、ついこの生活の先行きについて考えてしまう私たちであった。
何とか、無事に日々を切り抜ける方法を探さないとな……。
<智也視点>
飛ばしていた使い魔から情報が帰ってきた。
どうやら、桜は魔界の面々を味方に引き入れて私を追跡しているとか。
メイド服を着た女性を除く三人が半分泣きそうだったというのは……まあ、仕方ないというかなんというか。
「……なんか悪いことしちゃったな。後で謝りに行こう」
ボクの勝手に巻き込んでしまったのだから、それくらいはすべきでだ。
「とは言ったものの……どうしよう」
さすがに今出て行くわけにもいかない。
だとすると、あの五人が分かれて動くのを待つことになるのだろう。
「……まあ、いっか」
やはり今回は、あの三人には犬にでもかまれたものとして諦めてもらうことにするとしよう。
涼しい風の吹くビルの屋上で、ボクは短く彼らに祈りをささげるのだった。
<アキラ君視点>
電灯の上に見慣れない鳥がいた。こんな時間に。
「見つけた! 行け! 犬一号!!」
「だから誰が一号だ!」
それを智也君の使い魔だと一発で見破った桜さんは魔王に捕獲命令を飛ばす。
ちなみに、
『一号=魔王 二号=ボク 三号=アレクさん』
らしい。
あえてもう何も言うまい。
魔王などは必死に抵抗したものだが、
『人権? 魔族にそんなものあるわけないじゃない』
『魔族権? 何それ。くだらないこと考えてる暇があったら働きなさい』
などと、真っ向から否定され、泣く泣く運命を受け入れたようだった。
「はぁ、帰りたいです……」
「がははははは……諦めろ」
「やっぱり、ボクってついてないですね……」
「俺もだ」
「お前らちょっとは手伝ってくれよ……」
アレクさんがボクを慰めていると、単身使い魔との勝負をしていた魔王が、
顔に傷を負いつつも使い魔を捕まえてこっちに歩いてきていた。
「がははははは……命令を受けたのはお前だろう。なぜ俺が手伝わねばならん」
「そうゆうことです。言われたことくらいは自分でやってください」
「そうそう。そこの二人にはお兄様を捕まえてもらうんだから、使い魔は魔王で十分でしょ」
「魔王様、お疲れ様です」
「……もういいよ」
心底疲れたような顔で、魔王は捕まえた鳥を女王に渡す。
これで四匹目だ。そろそろ智也さん本体に情報を回している使い魔に当たってもいい頃だろう。
どういうことかというと、驚いたことに智也さんは使い魔を何匹も経由して情報を受け取っていたのだ。
だから一匹捕まえたところで智也さん本体には行き着かないということになる。
そこで我が暴君はどうしたかというと、
『手当たり次第に捕まえるまでよ』
とのお達しだった。
で、自分で捕まえるのかと聞くと、
『何のためにあんたたちを連れてきたと思ってんのよ』
とのことだった。
時刻は午後十一時を回っている。
いい加減疲れてきたので、ボクはもう帰って寝たい。
「お兄様を捕まえたら戻っていいって言ってるでしょ」
「そのお兄様が出てこないから困っているのだろうが。まだ彼は見つからんのか」
「で、今度の奴はどうなんだ? あいつに繋がってんのか?」
「ちょっと待ってってば……」
使い魔を即席魔法陣に放り込み、ぶつぶつと呪文を唱える。
陣が薄ぼんやりと光ったかと思うと、暴君の顔が狂気の笑みに、歪んだ、よう、な、気が、した。
怖いです。
「見つけた……ついに見つけたわ……」
ぐぐっ、と桜さんの右手に力がこもる。
このままだとせっかくの手がかりがまた消えることに……
「桜! これを!!」
そんな反応を見越していたのか、魔王がどこからとともなくコーラの缶を取り出して差し出す。
そして、桜さんの手のひらが缶に伸び……
グシャッ!
「ぎゃあああっ!?」
差し出した魔王の右手ごと、苦もなく握りつぶしていた。
「さあ、お兄様の居場所はつかんだわ! 急ぐわよ!!」
転がる魔王を無視して走り出す。
ボク、アリスさん、アレクさんは互いに目配せすると、仕方なしにその後を追うのだった。
ちなみに、魔王とアリスさんはアレクさんが背中に乗っけている。
魔王は走るときの振動が手に響くのか、ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げているが、どうせすぐに直るのだから、この際無視なのだろう。
哀れ。
走って走って走って、どのくらい走っただろうか。
通行人を薙ぎ倒し、自転車を跳ね飛ばし、スクーターを抜き去り、路駐の車を吹っ飛ばして。
中心街へ入り、増えた通行人もなんら障害にはなり得ない。
ただただ、暴風に巻き込まれた紙切れのように吹き飛ばして、ボクたちは疾走し続けていた。
「桜さん、どこまで走るのですか!?」
「もうすぐよもうすぐ! この先に公園よ」
いくつかの角を曲がり、目指す場所が目前に迫る。
その暗闇の中に、一人の少年が、こちらを見据えているのが見えた。
そして、ボク等は対峙する。
変わらぬ表情でこちらを見据える少年と、それを捕らえに来たボク等五人。
「……意外と遅かったね。もう少し早く来るものだと思っていただけど」
「お兄様がややこしいことしてくれるから時間がかかったのよ……まあ、いいわ。
それよりも聞きたいことがあるのよ」
「僕が正直に答えるとでも」
「洗脳魔法でも何でも使うまでよ」
だったら、家に帰るように魔法を使えばいいではないですか。
なぜボク等を巻き込むのかがまるで理解できませんよ。
「……強引だな。まあいい、何でも聞いてくれ」
「そうね。じゃあ遠慮なく。何で私の家を出たのかしら?」
「ストレートだな」
「変化球にする必要がないでしょう」
「確かに。まあ、簡単なことだ」
まあ、聞かなくてもなんとなく分かるが。
魔王もボクもアレクさんうんうんと頷いていることだし。
「あんたたち、ぶっ飛ばされたいの?」
それがいけないのだとなぜ気付かないのか。
「……何か、言っても無駄な気がしてきたぞ」
「分かるぞ君の気持ち、辛いよな」
「まったくです」
「あんた等ね……」
智也君を捕まえるためにここまで来たボク等だが、逆に同情心が湧いてしまった。
この人も犠牲者なのだな……。
「まあいいわ。やっぱり詳しい話は家でゆっくり聞かせてもらうから。、アレクさん、魔王、アキラ君、あいつ捕まえちゃって」
「………」
桜さんに命令されたがボク達は動き出さない。
「何やってんの? 早くあいつを……」
「やめた」
「はぁ?」
「私は智也君の味方する」
「え、ええ!?」
言うが早いが、魔王は智也君サイドへと移動する。
「さっきも言ったが君の気持ちはよく分かるぞ……」
「……ありがとうございます」
これで数の上では四対二。だが、アリスさんは戦力外だし。
つまり、実質は三対二。
「こ、こうなったら行くわよ!! アキラ君」
「ちょっと待ってください。ボクが闘うといつ言いました」
「……逆らう気?」
「逆らうも何も、ボクには戦う理由がありませんから」
「もういいわ!! こうなったら葵姉さまに来てもらんだから」
あちらサイドについてもいいのだが、さすがにそれは大人気ないのでとりあえず傍観の立場を取る。
というわけで、ここに来て五対一の一方的な暴力で済むはずだった勝負は、二対二のイーブンにまでなったのだ。
これでどう転ぶか分からなくなった。
「ちょ、ちょっと待てください!!」
「どうしました? アリスさん」
ボクが頭でどっちが勝つかシュミレートしようとすると、アリスさんが走ってきてボクの手を掴む。
「どうしたも何も……早く皆さんを止めないと」
「……アリスさん、それは無理です。魔王たちは己の尊厳を賭けた勝負に出たのです。もはやボクがどうこうできる問題ではありません」
「……それでも」
なおも食い下がろうとするアリスさんに、意外な所から待ったがかかった。
「アリス、止めるな。これはいつか通らなきゃならない道だったのだ」
「大丈夫です。魔王には怪我はさせません」
「アリスちゃん、横槍は勘弁してね」
「……分かりました。もう好きにしてください」
三者それぞれから拒絶の言葉を聞いて、しぶしぶながら納得したようだ。
で、しばらくして葵さんが登場。
「……葵姉さま、あいつ等は女のです」
「あはははは! よく分からないけど暴れていいでしょ!! ラッキ〜♪」
『女』という共通点を使い、葵さんを完全に引き込んだ桜さんと、
「これ以上、好き勝手にされんのはさすがに、な」
「まあ、そういうことです」
『弄られ役』という共通点で結ばれた魔王と智也君。
さて、どっちが勝つのやら。
―――深夜の公園で始まる戦争。
互いの意地と尊厳を賭けた死闘が、今まさに始まろうとしていた―――
勝つのは『暴君』の名を欲しいままにした桜チームか!?
それとも、男の意地を見せつけようとする漢チームか!?
この勝負、己が目に焼き付けろ!!
「実況は私、里原杏!」
「がははははは!! 解説はこの俺、アレクサンドル!」
「さらに特別ゲストのアリスちゃん、アーちゃんのお二方を交えて行きたいと思います!」
な! い、いつの間に!?
「では、中編に続く〜!」
「ちょっと待ってください!!」
アリスさんの絶叫だけが、空しく夜の公園に響くのだった。
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