第28話:葵様と七並べ
<葵視点>
いつもの昼。私とアルカとアリスちゃんは相変わらずのように暇をもてあましていた。
「暇だね……」
「暇やな……」
「暇すぎですよ……」
テレビもつまらないし、マー君はぶっ飛ばしたまま帰ってこない、寝るにもまだ早いし、何をしろというの。
「お茶淹れましたわ〜。飲みますでしょ〜?」
「ちょうだい」
「お、おおきにな」
「もらいます」
キッチンルームからお姉ちゃんがやってきて、四人でテーブルを囲みお茶をすする。
う〜ん、アリスちゃんの淹れる紅茶もいいけど、お姉ちゃんのミルクティーも相変わらずいい仕事をする。だがしかし、この程度でまぎれるほど私たちの退屈は甘くはないのだ。
「なあ杏、何かこう、面白い遊びないか?」
「面白い遊び〜? 何でまた」
「いやー、退屈で退屈で。何かないの?」
「そうですわね……トランプでもやりますか」
「とらんぷ? とらんぷとは何ですか杏さん?」
「あー……待ってて、ちゃんと説明するから」
がさごそとお姉ちゃんはゲート開き、中を漁る。
トランプか……まっ暇つぶしにはなるか。
<杏視点>
お、ありましたありました。
ゲートの奥から埃を被ったトランプケースを引っ張り出して、とりあえず一安心。
ずっと前にお父様や葵と一緒に遊んだ記憶ぐらいしかなかったから、残っているか不安でしたわ〜。
「ほら、これですわ〜。見たことくらいありますでしょ?」
「はじめて見ます」
……やっぱり、魔族のアリスちゃんに現代の遊びを知っているかどうかを聞くのは間違いでしたわ。
とりあえず簡単にトランプ自体の説明。
スペード、ダイヤ、クラブ、ハートの四種類にジョーカーがあること等を話す。
「それじゃやりましょうか」
「えっ!? 私、よくわからないのですか…」
「大丈夫。ちゃんと説明しますわ〜」
とりあえずカードを切りながら、何をしようか考える。
四人で出来るゲームとなると、ババ抜き、大富豪、ポーカー、七並べ、ハーツ、セブンブリッジ、ダウト……位か。
ざっと思いつくのは。
さて、この中で何をやるかだけど……。
ポーカー、セブンブリッジは賭けないと面白くないから却下だし、ハーツやダウトは説明がめんどくさい……。
ババ抜きとかも面白いかもしれないけど、長時間やるなら大富豪か七並べですわね、やっぱり。
だとすると説明の簡単な七並べにしましょうか。簡単ながら奥が深い、人間性の分かるゲームだし。
「じゃあ……七並べ、っていうゲームをやろうと思いますの〜」
「七並べ、ですか。どういったゲームなのですか?」
「今から説明しますわ。まずは―――」
私はアリスちゃんにざざっとどういったゲームなのかを説明する。
7を中心に、順番に一枚ずつカードを出していくということ。パスは三回までで、四回目でゲームオーバーだということ。
出せないときは当然パスだけど、出せるときにもパスをしてもいいということ。
最初に四枚の7を出すとき、ダイヤの7を出した人から時計回りに進めていくことなど。
「杏さん、このカードはどうやって使うのですか?」
「ん? ああ、それも説明しなきゃいけませんわね〜」
アリスちゃんが見せてくれたのは、二枚あるうちの一枚のジョーカー。
無しでもよかったんだけど、あったほうがより面白いから、ってことで一枚入れたんだっけ。
「これは……そうですわね、例えば5を持ってて6が出てないときに7の隣にジョーカーを置いて5を出せるんですわ〜」
「では、そこに置くべきカードはどうするのですか?」
「ジョーカーが出された場所のカードを持ってる人はすぐにそこにカードを出さないといけないですわ〜」
「それでそのジョーカーってやつはどうするんですか?」
「カードを出した人が欲しければ貰ってもいいし、いらないなら潰しても構わない。但し、後になって欲しいから貰う、ってのはなしですわよ〜。あと、ジョーカーを最後まで持ってると負けだからそこの考えも重要かな〜」
このジョーカーというカードが曲者で、これで何度も小さいころの葵を泣かしたことか。
「はい……大体分かりました」
「あらあら〜。後はやりながら覚えりゃいいし、さっそくやってみましょうか〜」
「よっしゃ、頑張るで!!」
「ふ、私に勝てるかな?」
さくさくとカードを配って、テーブルに7を出していく。私はクラブの7を一枚出すことが出来た。
順番は私から見て左にアリスちゃん、正面に葵、右にアルカとなっている。
私は自分の手札をざっと確認し、順番を入れ替える。
とりあえず止めるべきカードを確保、あとは順番どおり並べていく。
「じゃ、ダイヤの7を出した葵からですわ〜」
「わかった。じゃあ、始めるよ」
葵がとりあえずダイヤの6を置き、ゲームが始まった。
ぶっちゃけた話、今回の私の手札はかなりいい。
ジョーカーこそないものの、なくたって十分勝ちを狙っていける。
まずスペードが8だけあって、それ以上大きいのがない。これでスペードの8以降は止めておける。
次に、クラブも8、9、12、13と揃っている。
早いうちに8と9を出しておけば、後々何の問題もなく12、13を出せるはずだ
爆弾なのがダイヤの1とクラブの3で、これだけ孤立している。この子達を何とかすればもう勝ったも同然ですわ〜。
あとはハートが3、4、6、10。そしてダイヤの10、これもそんなに時間はかからないだろうし。
スペードの8、ハートとダイヤの10辺りを止めておけばいいかな。
と、さくっと計算したところで私まで回ってきた。
場に出ているカードはダイヤの6、クラブの6。私はクラブの8を出し、アリスちゃんにまわす。
「あ、私の番ですね」
アリスちゃんはハートの8を出す。これでまた一つ、私の勝ちに近づいた。
「う〜ん……では私はこれを出そうかな」
葵はハートの9を出した。これでハートの大きいほうはもう出ることがなくなりましたわね。
そんなこんなで意外とサクサク進み、ゲームは中盤に差し掛かった。
「……誰、スペードの8を出さないのは」
「葵さん。そんなにスペード持ってるのですか?」
「……もしかしてスペードの8持ってるのアリスちゃんなの?」
「ち、違いますよ」
うふふふふふ、私ですわ。
「では、スペードはないから代わりにこれ出しますよ」
といってアリスちゃんが出したのはクラブの11。あらあら〜12も13も私が持っているのに。
「そこじゃない! スペード!! スペードを出して!!」
「あらあら〜葵の番ですわよ〜」
「ぐ……パ、パス二回目…」
「やれやれ……仕方ないな。ウチが出したろ」
といってアルカが出したのはスペードの2。
「そこでもない! 私が欲しいのはスペードの8!!」
「そんな無茶言われてもな。持ってないねんからしゃあないやろ」
「まあまあ、そんなに怒らないで〜」
そういいつつ、私が出したのはクラブの12。うふふふふふ〜楽しいですわ〜。
「お姉ちゃんまで……」
「あらあら〜。な、何でそうなるのかしら〜ちゃんと出しましたわよ〜」
「その場所は私には意味がないの!!」
そりゃそうでしょうね。私が13持ってるんだもん。
「アルカさん、ありがとうございます」
「ああ。別にいいって」
で、アリスちゃんが出したのはさっきアルカが出したスペードの2に続く、スペードのエース。
事実上、場がほとんど動いていないということだ。それが分かるのは私だけなんだけど。
「ぐぐぐぐ……」
「ほらほら葵、唸ってないでさっさと出しなさい〜」
「わ、分かってて言ってるんでしょう……パス三回目!!」
葵は大声で三回目を宣告。
あんまりいじめると後でめんどくさいだけど、どうしようかな……。
三回目ならスペードの8を出してあげたところでその後どこかで勝手にゲームオーバーになりそうだけど。
「む……ウチか。ウチもあまり出せるカードがないねんけどな」
といいつつ、アルカはジョーカーを使い、ダイヤの11を置いた。
ああ、そこは私が止めてたんだっけ。
私はジョーカーの上にダイヤの10を置き、もちろんジョーカーを潰す。
もう私には必要ないし。
「やっぱり杏か」
「まあまあ〜、あの辺は止めるべきでしょう〜」
「アルカ! そこではないの!! 今のはスペードに使うべきだったのに!!」
「そういわれてもな。ウチにとってスペードはさほど関係ないし」
葵……いくらピンチだからってあんまり喋るのはどうかと思いますわよ〜。
「それにウチはスペードの9を持ってないねんから、ジョーカーを使えんやろ?」
「そうですね、それじゃダメです」
「ぐぐぐぐぐ……」
カードをへし折らんばかりに握り締め、こっちを上目遣いに見上げてくる。
しかも目が少し潤んでるし。
―――お姉ちゃんは、お姉ちゃんだけは! 二人と違って私のこと助けてくれるよね?―――
なんて想いがビシバシ伝わってくるんですが……。
う〜ん、どうしよう。ゲームの流れ的にはここでパスなり13を置くなりするんだけど……。
こんな子犬みたいな葵を見捨てるの……私は。
「……」
「お姉ちゃん……」
思考一秒、結論。
(ま、ゲームだし)
ごめんね〜葵、私は貴方を助けられないの〜。……だって、そっちのほうが楽しいし〜
「ごめんね〜、私も持っていないの〜」
と言いつつ、出したカードはまだ可能性のあるハートの3でも10でもなくて、クラブの13。
要するに、そこから伸びないただ一ターン凌ぐだけのカード。
そこに込められた意味はただ一つ。
『ゲームなんだし、諦めてゲームオーバーになってね〜』
ごめんね葵、私だって勝ちたいのですわ〜。
「お姉ちゃんのバカーーーーーーーーーー!!!!」
「わわわわっ!! ゲームなんかで魔法を撃っちゃだめですわ!!」
我を忘れた葵を取り押さえ、なだめるのにしばし時間を使う。
「ほら、まだアリスちゃんが出してくれるかも知れませんわよ?」
「うう……アリスちゃん、お願い」
そんな葵の懇願をアリスちゃんは、少し悩んでから
「ごめんなさい。パスいちってことで」
申し訳なさそうに斬って捨てた。
【ピシッ!!】
瞬間、世界が凍った。
「ふふ、ふふふふ……」
「葵さん……」
「そう……そういうこと」
あれ……電灯がついてるはずなのに、世界が暗い?
ここは……一時退避ね
「お、落ち着いて葵さん! たかがゲームですよ!」
「そうや! こんなことでいちいち魔法をぶっ放してたら体がもたへんやろ!」
「だったらスペードの8を出しなさいーーーーー!!!」
【どかーんがしゃーんばきーん】
なんともやる気のない表現だけど、現場はもの凄かっただろう。
音が収まってから戻ってみれば、魔王室は半壊、カードは飛び散り、アリスちゃんは部屋の片隅でガタガタ震えており、アルカはボロボロで倒れている。
とりあえず、半壊した居間を修理し、飛び散ったカードを集めて場を再現するのに三十分以上、アリスちゃんとアルカのケアで一時間以上かかった。
「……で、誰の番やったけ」
「……葵さん、でしたっけ」
ぴしり、とまた嫌な音がする。
ようやく落ち着いたと思われた葵がまたしても頭に青筋浮かべてすんごい怨念出してるし。
「ふ、ふふふ……分かってて、言っているの?」
「あらあら〜、死亡ですわね。ほら、持ってるカード置きなさい」
「ふふ……ふふふふふふふ……」
ペシペシと葵は手持ちのカードを置いて……って、うわっ。
出てくる出てくるスペードの9、10、11、12、13
こんだけ集まっての〜、これでは8止められたら死にますわね。
と、ここまで考えてはっと気付く。
「…………」
――あら?もしかして私、思っていたより相当、そーとーやばいでは?―――
スペードの9、11だけ、とかならまだしも、こんだけ止めてたってなると……攻撃されるは間違いなく私になるわけで。
「〜〜〜♪」
ちらりと葵を盗み見てみると、さっきとはうってかわった楽しげな表情で―――
(あら……)
魔力の球体でお手玉してるし。
「すごいですね、そんなに持ってたのですか」
「うん。8だけないというパーフェクトな布陣だったのに」
「あーあ、誰やー? 8止めてたのは」
「ふふふ、今から楽しみ。ええ、ひっじょーーーに楽しみ」
やばい……やばすぎですわ〜。
ゲームなんだし、どの道最後は全員のカードが場に出ることになるから必然的に誰が止めてたか分かるわけで。
配られた当初はラッキーカードだったはずのスペ8は、ここに来て一気に地獄への特急券となったのか。
(ああああ……本当にどうしましょう。ああああああーーーーー)
まあ、私が何を考えていようが、未来は決まったようなものなのだろうけどね。
そして、今この場で地震でも起きればいいのに、などといった私の思いなどお構い無しに時は過ぎ、ゲームは終了しようとしていた。
「やった、1抜けです!」
「ふん、まあ2抜けで我慢しといたるわ」
「…………」
ついに、ついにこの瞬間がやってきてしまった。
アリスちゃんとアルカがあがり、残るは私。そして空いた場所はスペードの8だけ。
「あーあ、やっぱり貴方でしたか。それ止めてたの」
「酷いやつやな杏、少しは葵を助けようとは思わんかったんか」
さっきの仕返しか。自分は被害をこうむらないから、とここぞとばかりに言い募る二人。
いや、私だって助けようとは思ったのよ〜! めっちゃ思ったのよ〜!!
でもさ、ゲームなんだからしょうがないじゃない〜!!
「あ、あの、その……葵、さん?」
「ふふふふふ……お姉ちゃん、あなたには今一度、分からせる必要があるようね……」
……何をデスか?
…………
……………………
その後、何が起こったのかは誰も語ろうとしなかった。
私はもちろん、横で見てたアリスちゃんやアルカも今日のこのことは封印したみたいだし。
……痛いよパパ、心も体もズタボロだよ。
まさか、ここまで怒るなんて私も予想外ですわ………
<アリス視点>
コッチ……コッチ……
時計が時を刻む音だけが無機質にこだまする。
「アリスちゃん……今、何時」
「……三時半、です」
「…………」
「アルカ! 寝てないでアルカの番だよ!!」
「はっ……すまんすま、ん……」
あの後、
『さあ! 今度こそ私が勝つ!』
と葵さんが強行にゲームを開始させてから約四時間。
私らは既に限界に達しようとしていたのに、葵さんだけは元気だった。
まあ……ここまで引っ張っておいて一度も勝てずに終われないのは分かりますけど。
「あー……これ、か」
「じゃあ……ウチは、これやな」
「…………」
「お姉ちゃん」
「…………大丈夫ですわお父様、葵は私が守りますわ」
「お姉ちゃん!」
「あ……そっか、もう私の番なのね」
ペシ、ペシとカードがテーブルに並べられていく。
もう幾度となく見たこの光景。そして私らがこれからも見続けるであろう、この光景。
「ぐぐぐ……パス」
葵さんは今まで一度も最初にあがれていない。
何でなのかは知らないけれど、よっぽどめぐり合わせが悪いのだろう。
だって、始めてもう十二時間は軽く経ってるのに一度も最初にあがれないなんて絶対おかしいし。
「あー……いち、抜けですわ。ついでに今度こそおやすみー……」
「お姉ちゃん!」
「ウチが……二抜け、や」
「……はっ、私ですか……。これで、終わりです」
「うがーーーっ! もう一度、もう一度勝負!!」
がさがさ、と強引にトランプをかき集めてカードを切る。
そんな葵さんをぼんやりと眺めつつ、私の意識は再び闇の中へ―――
(アリスちゃん〜)
(アリス)
(……どうしたのですか。さすがに眠いですけど)
落ちる前に、二人の目が私に何かを語りかけてきていた。
どうも葵さんに聞かれるとマズイ内容のようで、私もアイコンタクトだけで会話する。
(ウチも眠い。だからとっとと葵をトップにして寝るで。あんたも協力し)
(そりゃー……構わないですけど。どうするんですか)
(なに、止めないで素直に出してけばいいですわ。パスはぎりぎりまで使ってね)
(そうですね……もうなんでもいいです。分かりましたそれで行きましょう)
などと、三人が一人をあがらせると言う異例の事態になりつつあるわけだが、
今の私らにそれをどうこう考える気力のあるやつなんていないわけで。
かくして、なるたけ気付かれないように立ち回りつつ葵さんをサポートしまくること五分。
「やった! ついにやった♪」
やっと一番最初にあがれたことに狂喜乱舞する葵さんが居間にいた。
その姿はとっても可愛いんだけど、それより眠い。睡眠欲が一番強いと言うのは
本当ですね……などと、どうでもいいことを実感する。
「やりましたね葵さん……ぐー」
「ああやったわ。葵、ウチはもう疲れた寝るで」
「あー……おめでとう。じゃあきりもいいしこれで終いに……」
「さあ、もう一回やろう!」
その瞬間、世界は再び固まった。
誰か、助けて。本当に。
ちゅんちゅん……
ああ……雀の鳴き声が聞こえる。もうそんな時間ですか……。
「……アリス、眩しい」
「ああ……太陽ってこんなに強かったですね……」
「お姉ちゃん、次はお姉ちゃんの番だよ」
結局、徹夜してしまった。
何やってるんでしょう私達。
「……私、ご飯を作らないと」
「逃がしませんわ〜アリスちゃん」
「そうやで、逃がしわせんで」
「……勘弁してください」
もう、何度離脱しようとしたか分からない。そのたびに杏さんとアルカさんに
押しとどめられ、渋々席に戻る。
「ウチ、パス」
「私も〜」
「私もです」
「ふ、仕方ないなぁ。出して差し上げよう」
何かもう考える気力すらなくなっている三人と対照的に、葵さんは元気いっぱいだ。
私たち三人を相手にカードを止めまくっていることが楽しいのでしょう。
「……パス。死亡です。じゃ、ご飯を……」
「だから行かせへん」
「ここで抜けられてたまりますか〜」
いい加減にしてください……私には今日も仕事があるのに。
【ガチャ】
と、そのとき玄関が開かれる音がした。
「ん……誰やろ」
「魔王様ではないでしょうか?」
「あー……もうそんな時間か〜」
ついでに、そのことで改めて現在の時間を認識させられる。
今から寝るにしては少し遅すぎる時間帯に突入してしまっていた。
「はぁやっと帰って来れた……何やってるんだ? お前ら」
「……がははははははは!! 徹夜で遊んでいたんだろう」
「お帰りなさいませ、魔王様、おはようございます、アレク様」
「アリスちゃん、アリスちゃんの番ですよ」
「あー……って、さっき死にましたよ」
パス四になってゲームオーバーになったこのときだけは、一時の休息を得ることが出来る貴重な時間。
私はソファーにもたれかかり、天井を見上げて深い息を吐く。
何かもう、全身が疲れきっていた。この後仕事があるとか考えただけで吐き気がしてくる。
「ああ……もう仕事したくない……」
「アリス」
「ん? アレク様?」
「これはなんと言う遊びなんだ?」
「これですか? ああ……七並べって言いまして……」
そして私は杏さんが説明してくれたようにちゃちゃっとアレク様に七並べを説明して……って、閃いた。
私の代わりにやってもらおう。そうすれば私はここから抜け出せる。
何てアイデアなんでしょう。
「まあ、実際にやってみるのが一番ですよ。ですから私の代わりに入ってくださいお願いします、アレク様」
「がはははは!! 何か、えらく深いものを感じるな……まあいいわ。アリスは朝食を作っといてくれ」
「わかりました! では、杏さんにアルカさん、私は朝飯作りますから!!」
「逃げるなアリス! 卑怯やぞ!!」
「アリスちゃん! ずるいですわ〜!!」
「すみません。敗者の特権です」
どんな特権なんだか知らないけど。
「ではよろしくお願いします」
「むむむむ……」
「アリスの……裏切り者め」
「まあ……いいわ。それよりも早く次を始めよ。アレクさんでも手加減はしないからね」
「がはははははは!! 望むところだ。さあ、カードを配ってくれ」
二人の怨念を背に受けつつ、私は厨房に退散した。
頑張ってくださいください二人とも。
「あ、アリス。大丈夫か?」
「あっ魔王様。魔王様は座っていてください……私が」
「ふらふらではないか。少し眠っていたほうがいいぞ。朝食くらい私がつくってやるから」
「……わかりました。ではお願いできますか」
「ああ。それじゃあ出来たら起こすぞ」
「よろしくおねがいしま……ぐー」
平和って、いいなぁ……。
<アルカ視点>
アリスの奴め。自分だけ逃げおって。この仕打ち、どうしてくれよう……。
(アルカ、アルカ)
(なんや)
(今日はアーちゃんとリコちゃんの二人も来ますわ〜)
(……そうか。それまでの辛抱、と言うことやな)
(ええ。それまで頑張れれば私らの勝ちですわ〜)
何に対する勝利なのかは知らないが、完全に萎え切っていたウチの心が少し立ち直るのははっきりと分かった。
もう少し。あと少しなんや。
「お姉ちゃんの番だよ」
「え、ああ……ごめん。パス」
「アルカ。あなたの番だよ」
「ウチか……パス」
「情けないな二人とも」
「出せないのだからしょうがないやろ」
と言いつつ、もう考えるのも面倒くさいだけなのだが。
何か先ほどからパスしかしてないな、ウチたち。
ロクにテーブルも見ず、時計を確認しては救世主の到着を今か今かと待ち続ける。
この際もう本当に誰でも良かった。
だから。
【ガチャ】
「魔王様!!」
「おはようございます、皆さん」
ピキーン!!
ウチと杏が、あの二人が来た瞬間に目を輝かせてお互いを見合ったのも当然だろう。
(来ましたぁぁあああああ!)
(ウチらの勝ちやぁぁぁぁ!)
あとは、あの二人に代わってもらうだけ。
そうすればウチたちは朝飯が出来るまで寝ていられる。というか、起こされても起きないだろうけど。
まさか健全な睡眠がここまで大切なものだとは思わんかったで、ウチは。
「魔王様……って、あれ? みなさん、何をしてるのですか?」
「見れば分かるやろ。むしろ、やればもっとわかるからウチの代わりに入ってくださいお願いします」
「うわ、!? 腰低っ……何があったんですか?」
「……やればわかる。朝飯までウチと交代して」
「まあ……いいですけど」
よし、まずウチが抜けた。次は杏や。
「でもボク、ルールわかんないですよ?」
「安心して。葵は気合が入ってるから教えてくれますわ〜」
「わかりました。では葵さん教えてください」
「うん、いいよ。まずは――」
葵の説明にふんふん頷いているアキラを視界から外し、
(逃げるで)
(当然ですわ)
アイコンタクトは一瞬、されど意思疎通はそれで完璧だった。
ウチと杏は全力ダッシュでその場を後にし、鍵をかけることの出来る客室へとかつてないスピードで突入する。
朝飯? 何や、それは。
そんなもんいらんから寝かせてくれ。
その勢いのままにベッドに飛び込み、迫り来る眠気に身を任せつつウチはそんなことを思うのだった。
その後、朝飯が出来たからとウチたちを起こしに来たアリスに、上記の通りまんま伝えると、ウチは再び眠りに落ちた。
二度寝って素晴らしい。
そして時は流れ―――
午後五時とかに目を覚ましたウチが魔王室に行ってみると、
ぐったりとなったリコにアキラ、そして魔王が疲れた顔をしてお茶を飲んでいた。
で、元凶である葵はどうしていたのかと言うと―――
「すー……すー……」
カードを持ったままテーブルに突っ伏して寝ていたのだった。
「むにゃ……マー君、次はマー君だよ……」
まだやり足りへんのか、お前は。
夢のなかでまでやっている葵に半分呆れつつ、茶をすする魔王に声をかける。
「……いつまで、やってたん?」
「……ついさっきだ」
昼ごろから危機を察知して逃げ出したアレクの代わりに参戦したらしい魔王は、心底疲れたように呟くと、そのままソファーに転がって寝てしまった。
そしてウチが魔王と話している間に茶を飲み終えたリコとアキラもいつのまにか床に転がって静かに寝息を立てていた。
「…………」
まあ、あれだ。
何事も全て程々が一番と言うことやな、うん。
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