魔王様の悩みの種(27/40)縦書き表示RDF


魔王様の悩みの種
作:イヌ教官



第27話:魔王様とダイエット(実行編)


初日の朝


【ドンドンドン】

……うるさい。

【ドンドン!! マー君! 起きて!!】

遠くで扉を叩く音とともに、誰かが呼ぶ声がする。
もっとも、私をマー君などと呼ぶ奴など数えるほどしかいないからすぐに分かる。

【ええい、こうなったら】

叩く音が聞こえなくなった。諦めたか。

【ドガァァァン!!】

「!!?」
「起きろマー君ー!!」


【バサッ!!】


突如私を寒風が襲った。布団を引っ剥がされたようだ。

「……寒い」
「ほら、起きて!」

寝ぼけた頭で布団を探そうと手を動かすが、一向に見つからない。
どうやらベッドの下に放り出されたかなんかで、どうやっても私を起こすつもりのようだ。

「……こんな時間に何のようだ」

時計の時間はまだ午前五時になっていないのだから、私が怒るのも当然だろう。

「あれ、昨日言ったでしょ。早朝ランニング」
「それは聞いていた。それと私を起こすのとに何の関係がある」
「え、だってマー君も走るんでしょ」
「誰がそんなこと言った……寝る。布団を返せ」
「細かいわねぇ……イイじゃん、せっかく起きたんだし。ほら言うでしょ? 早起きは三文の得って」
「引っ張るなー!!」

くそ、強化の魔術でも使っているのか?
とても女とは思えない腕力になす術もなくずるずると引きずられていくのだった。

「……寒い」
「寒いわねえ」
「葵さん、遅いですよ」
「ゴメンゴメン、マー君がなっかなか起きなくてね」
「……アイス、お前もか」
「……アレク、お前もだったのか」

二人仲良く拉致られたのか。

「さて葵さん、さっそく走りましょうか」
「コースはどうしよっか?」
「中心の広場まで行って軽くダッシュなどをした後帰ってくればちょうどいいかと」
「そうね、そうしましょっか。じゃ、アリスちゃん先頭お願いね」
「分かりました。遅れずについて来てくださいね?」
「任せて」
「それじゃあ行きます……って、そっちの二人は何をしているのですか」
「いやなに、私はアレクの背中で『走ろう』と思ってな」

足踏みをしている横で、アレクは羽を羽ばたかせ、私は後ろに乗ろうとしているところだ。

「そんなの認められるわけ無いでしょ!」
「では、先に行くぞ」
「がははははははは!! 広場で待ってるぜー」
「あ、待って!!」
「葵さん! 追いますよ!!」

バサバサ、と風を切りながら飛んでいく。
その後ろを凄まじいまでの殺気を撒き散らした二人が追いかけてきていた。



約一時間後、私たち四人は魔王邸の前まで戻って来ていた。

「ゼーハーゼーハー……」
「情けないぞ、あの程度で息を上げるなんて」
「あのね…全力で広場までノンストップ往復すれば誰だって息くらいあがるに決まってるでしょ!!」
「アリスは涼しい顔をしているが?」
「魔族と人間を一緒にしないで……」
「しかし、これでは葵さんのダイエットにはなっても私のダイエットにはなりません」
「明日からサウナスーツでも着たらどうだ?」
「……そうですね」

そんなこんなで軽めの走りのはずが、葵は初日から死に掛ける結果となった。
まあ、私等も葵の魔法から逃げるのに必死でかなり無茶を強いられて結構疲れたわけなのだが

「アイス、明日は自分で走れよ」
「わかった」
「あ、明日は普通に走るわよ……」



初日の朝食後


「アレク。どこへ行くだ?」
「酒場」
「よし、私も行くぞ」

たまには生き抜きも必要だし

「待って二人とも」
「ゲ」
「ゲ、とは随分だね」
「そりゃあ……な」
「朝食後は私の運動に付き合ってもらうはずだよ?」
「いやまあ、そうなんだがな……」
「というわけでお願いね。ああ、ちなみに朝食が少なくて気が立ってるからで二人同時でいいよ」

逃げようとする襟首を二人同時につかまれ、ずるずると外まで引きずられていく。


「お、おい! 稽古はアレクだけの……」



【ドカッ! バキッ! ガスッ! ズバッ!! グシャッ!! ドガァァァァン!!!】


途中から、絶対におかしい音が混ざっていたのは気のせい……じゃないよな。
痛え。



二日目の昼食後


「葵は?」
「アキラをおしつけておいた」
「そっか。なら安心だな」
「というわけで私は仕事を……」


【ドガァァァァァァン!!】


突如、大地を揺るがす爆音が。

「…………」
「…………」
「……アレク」
「……ああ」
「に、逃げるぞ!!」×2

私たちは急いでその場から逃げた。
アキラ……君の犠牲は忘れない……



三日目の夕食前


「アリスちゃん、その箱はなんなの?」
「あ、これですか? 魚屋さんが皆で食べてって蟹くれたんですよ。見ます?」

発泡スチロールの箱には馬鹿でかい蟹がうじゃうじゃと。
一体いくらするんだこれ、ってくらいに高級品で、ただでさえ金のかかる我が家じゃまず食べれないだろう一品だ。

「か、蟹……蟹……ふ、ふふふふ……」
「……葵さん?」
「とりゃあああああ!!!!!」



【ズドガァァァァァァァァァン!!!】


「な、何てことのですか!!?」
「アリスちゃん!!!」
「は、はいっ!!」
「私たちはダイエット中だよ…今日の夕食は精進料理!!!!」
「サ、サーイエッサー!!」

結局、蟹のことは闇に葬られた。
食べたかったのに……。



三日目の夕食後



「……いつまでやるつもりなんだろうな」
「一週間、と言っていたぞ。あと四日だ」
「四日ですか……長いですね」
「ふ、この程度のことも耐え切れないのかアキラ」
「がはははははは!! お前だって葵にボコされて半泣きだったじゃないか」
「う、五月蝿い!」

はぁ……とテーブルを囲んだ3人から一斉に溜息が漏れる。
もっぱらの被害者である私、アレク、アキラ。

「しっかしよぉ……」
「何だ」
「あそこまでして痩せる必要があるのかね」
「さあなあ……でも葵にそう言ったら最大魔法を食らったから、多分必要があるんだろ」
「えげつねえな……」



【ズドーーーーーーーン!!!】

パラパラパラ……



―――なんで減ってないのー!!!!―――


「…………」
「…………」
「…………」

おそらく、体重が減ってないことの腹いせに葵が体重計を破壊したのだろう。

「……私、また体重計直すのか」
「何回目だ?」
「……数えるのも忘れた」
「……頑張って。あ、それとフルハウスです」
「がははははははは!! 俺はストレートだ」
「……もう、いや」


四日目の夜



「……杏さんは減量しようなどと思ったことはありますか?」
「あらあら〜えらく唐突ね。アリスちゃん」
「不意に気になったので」
「そうね……」

考え込む杏。それに横から口を挟んだのは食事が少なくて腹が立っている葵だった。

「体重増えたってどーせまたその無駄に大きい胸が大きくなったの一言で済むんだもん。必要ないでしょ、ダイエットなんて」
「……確かにそんなことを考えた時期もあるけど〜。でも、葵には一生言えそうもない言葉よね〜。言えるときに言っておかないと」
「ムキー!」
「葵さん、自分で言ったのに釣られてどうするのですか」
「何よ、アリスちゃんだって似たようなもんじゃない!!」
「今の台詞は聞き捨てなりませんよ!! 私のは服の使用で小さく見えるだけです!!」
「イヤ。そんなことよりお姉ちゃん! さっきの言葉、もう一回言ってみなさいよ!!」
「葵の胸は一生大きくならないって言っただけ……聞こえなかったのかしら〜?」

……巻き添え食らわないうちに逃げるか。
だがしかし、世の中はそんなに甘くは無く。

「マー君」「魔王様」「マー君〜」

こそこそ逃げ出そうとした私の背中に三人同時に声がかかった。

「……私が言うことは何一つ無い。喧嘩するなら勝手にやれ」
「でもねー、ここは一つ、外野の意見を聞いてみるって言うのも手だと思うの」
「だったらアキラにでも聞け。私は知らん」

すまんアキラ。私はまだ死にたくない。
これで逃げ切れるかと思ったのだが、やはり世の中は甘くなかった。

「アーちゃんいないもん。てか今はマー君しかいないでしょ。だから聞いてるの」
「そうそう、マー君も葵の胸は一生大きくならないと思いますよね〜?」
「…………」
「やっぱり無駄に大きいのは美しくないわよねー」
「ぶっちゃけたところ、魔王様の意見はどうなのですか」
「…………」

詰め寄られ、後ずさりするも壁にぶつかってしまった。
もはや退路は断たれた、ということなのか。私に与えられた試練としては少々厳しすぎるぞ、これは。

「あー……まあ、その、なんだ」
「何」
「なんなの〜」
「言いたいことがあるならはっきり言ってください」
「……五十歩百歩」

その言葉を最後に私の記憶はキレイさっぱり無くなり、気がついたときには外で朝日を迎えていた。
当然、髪の毛は真っ白だった。



五日目の朝食後


「お、お出かけかい?」
「ああ。流石に腹が減った。何か食べに行ってくる」
「待て待て、なんで俺を呼ばないだよ」
「葵に捕まったものだと思っていたからな」
「がはははははは!! 葵なら空腹でぶっ倒れて動く気力も無いってよ」
「……私等にとってはありがたいが、死ぬのではないか?」
「あのなぁ、仮にも魔法使いがこんなことで死んだりするかよ」
「葵なら死にかねんからな」

と取り留めの無い会話をしながら外へ。
少し寒いが、この程度の寒さで死ぬことは無いから安心だ。
葵の相手は死と隣り合わせだからな。マジで。

「どこ行く?」
「リコの店でいいだろう。ついでにどっかで寝てから帰る」
「そうだな……最近朝早かったからな。俺もそうしよ」

坂を下り、商店街にあるリコの店とへ入る。

「魔王様、アレクくん。いらっしゃい。どうする?」
「なんでもいい。あまり物でいいから持ってきてくれ」
「はい。わかりました。ちゃっと待ててね」


待つこと10分ほどで大量の料理がテーブルの上に運ばれてきた。
さすがリコの料理、二人とも無言のままあっという間に平らげてしまった。

「しっかしよ」
「どうした」
「あいつ等、いつまで続けるつもりなんだろうな」
「一週間と言っていたからな。あと二日、切ったな。終わるかどうかはまた別物だが」

毎晩毎晩体重計を破壊しているということを鑑みると、あと二日で目標を達成できるとも思えない。
その後続けるかは二人しだいだが、私としてはさっさと辞めて欲しい。


図書館で昼寝をしてから昼食を取り、公園でアレクとだべって三時前にようやく家に戻った私等は、魔王室で倒れている葵を目撃した。
したのだが、起こすのも怖いので放っておいた。
ライオンの尻尾をわざわざ踏むことも無い。君子危うきに近寄らず。


五日目の深夜


【カリカリカリ】

最近、葵のバカのせいで仕事が出来ず、さらには葵が問題を増やしていくため、こんな時間だが仕事を片付けているのだ。

【ガタッ】

「…………」

ペンを走らせる音にまぎれて、私の耳が何か別の音を捉えた。

【カリカリカリ】

【ガタガタッ】

今度は結構大きい。どうやら、隣の台所から聞こえてくるようだ。
どうしようか。今は手を離せないのだが……。

「……中断して見に行ってみるか」

少し考えて出した結論はこっちだった。
アリスもこのところネズミか何かが出るみたいだ、とか言ってたし。
なんでも、朝起きると朝食のために仕込んでおいたものなどがなくなっているそうなのだ。
ここいらで退治しておいてやるのもいいだろう。

「…………」

今の電気を落とした後、物音を立てないようにそーっとキッチンルームの戸を開け、台所の中を覗き込む。
冷蔵庫のある場所から光が感じられ、ゴソゴソとなにやら動く物体が。

……明らかにネズミより大きいぞ。というか、ネズミは冷蔵庫を開けられないだろう。

「……!!」
「む……」

などと思っていると、不意に影が振り向いた。
どうやらこっちの気配を敏感に察知したらしい。
逃げ出そうとしたが、しかしそれより早く私の手が台所の電気のスイッチを入れた。

「……葵」
「ふ……ふふ……ついに、見つかちゃったか……」
「お前な……ダイエットしているのではないのか」
「仕方ないでしょう! お腹がすいて寝れないんだから!!」
「しかも逆ギレか……てか、家に帰れよ……」

葵のいた場所にはこれでもかというほど食い散らかした形跡が残っていた。
そりゃあ、毎晩毎晩寝る前にこんだけ食べれば痩せる訳が無いよな。
寝る前は特に太りやすいわけだし、現状維持しているだけでも褒めるべきなのかもしれないぞこれは。

「そんなことより、マー君はなぜこんな時間に起きてるの」
「……仕事だ」
「む……」
「…………」
「……マジ」
「誰かさんが仕事をさせてくれず、更に仕事も増やしていくからな」
「へぇ〜それは大変だね……」

ふ、ふふふ……となんだか怖い笑みが漏れている。

「ん、なんだ?」
「天誅!!」


【ボーン!!】


「あーーーーーーーーー!!!!!」
「ではおやすみ」
「……、ま、魔王室が……」

翌朝、葵がやけに機嫌が良かったのはきっと私が死にそうだったからに違いない。
腹いせにぶっ飛ばしてやろうとしたら、飛んできた箸が目に突き刺さってそれどころじゃなくなった。




六日目の朝食後



ぐーきゅるるるる……


ジャバー……


「…………」
「…………」


……きゅるるる……


「……随分スゲー音するなぁ」
「天罰が下ったのだろう」

昨日の深夜、散々食い散らかしていた葵は朝からずっと腹を下していた。
朝食後、稲妻もとやかくといわんばかりのスピードでトイレへと駆けていった葵を見て溜息をついたアリスとの会話が思い出される。

『まさか、葵さんが犯人だとは思いませんでしたよ』
『なぜ知っているんだ? 私はまだ話してないぞ』
『ああ……昨日、台所に置いといたごはん、少し痛んだ食材で作りましたから』
『……なるほど』

天誅だ天誅。魔王室をいきなりぶっ飛ばしたりするからだ。違うけど。
むしろ夜中に食って朝食後まで何の異常もきたさなかった葵を褒めるべきだろう。



七日目の朝


「……よぉ、葵。おはようさん」
「……お早うございます、アレクさん、マー君」
「……随分やつれたな」
「がははははは!! 一瞬誰かと思ったぞ」

げっそりと骸骨のように痩せこけた葵を見て思わずペンを取り落としてしまった。
つまみ食いの分以上に痩せたな。これは。

「形はどうあれ目的を達成できそうでよかったじゃないか」
「よくない! アレクさんもあの地獄の苦しみを味わってから言ってみてよ!」
「がははははは!! 全力で遠慮させてもらうぜ」
「それで、今日は走らなかったのか?」
「無茶言わないで。私に死ねと言うの」
「……随分追い込まれてんな」

どうやら今日は何事もなく朝食を迎えられそうである。

「……あら、皆さん…おはようございます。お早いですね」

と、葵同様げっそりとしたアリスがのろのろと入ってきた。
いつもの起き抜けのやばさがダイエットの相乗効果でさらに悪化している。
はっきりいって、遠目から見たら骸骨と間違えかねんぞ。

「誰かさんが毎朝叩き起こしてくれたせいでな」
「今日は起こしてないよ」
「がははははは!! どうやら癖になってしまったようだ」
「早起きの習慣がついたのはいいことじゃん。私に感謝しなさい」
「はいはい、感謝しますよ」

……まあ、内容はどうであれ『体重を減らす』という目的は二人とも達成できているようだ。
ようやく長かった一週間が終わりそうだな。よかったよかった。

「……お腹すきました」
「アリスちゃん、今日が最後の一日なんだから。我慢我慢」
「……そうですね。でも、もう私がいないときにつまみ食いなんてしないでくださいよ」
「……もう二度としません」


今にも死にそうな二人を尻目に、私たちは平和な朝を一週間ぶりに過ごしたのだった。

「平和って、素晴らしいものだったんだな」
「今更何を」



七日目の夜


「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

夕食を終え、片付けもすんだ魔王室の中心にはテーブルではなく、体重計があった。
その周りを取り囲むいつものメンツと、体重計を睨みつけている二人。
いよいよ、一週間の結果が示されるときがやってきたということだ。

「いつまで睨んでるの〜、とっとと乗れば?」
「ま、まだ心の準備が……」
「大丈夫ですって。一週間頑張ってきたんですから」
「そ、そうじゃないけど! でもあと少しだけ……」
「葵、お願いだから体重計をこれ以上壊さないでくれよ」
「あれは私が悪いんじゃないわよ」

さっきから何度も繰り返した会話。
葵とアリスの二人は三十分以上前からこうやって体重計の前でうじうじしているのだからそれもまた当然といえるのだが。

「早くしてよね〜、帰れないじゃない」
「誰も見て行けなんて言ってないじゃない」
「だって面白そうだし〜」
「お姉ちゃん……」

杏がけしかけ、アキラがけしかけ、リコがけしかけ、アルカがけしかけ、アレクと私がけしかけて、それでもまだ乗らない。
ええい、イライラする。

「もういい」
「ん、どしたアイス」
「乗らないなら乗せるまで」
「え?」


【ドガッ!】


「きゃあっ!?」

おもむろに近付いていき、そっとアリスの背中を押す。
完璧な不意打ちを食らったアリスはそのまま足を一歩、体重計の上に踏み出してしまった。

「ちょ、ちょっと魔王様!?」
「文字通り背中を押してやっただけだ。ほら、もう片足も」
「……わかりました」

流石に片足を乗せた時点で観念したのか、恐る恐るもう片方の足を乗せて表示を覗き込む。
その様子を一同は固唾を呑んで見守る。

「…………」
「……アリス?」
「や……」
「や?」
「やりましたーーーーーーー!!」

先ほどとは打って変わって満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる。
どうやら、ダイエットには成功したようだ。よかったよかった。


「さ、葵さん! 次は貴方の番ですよ!!」
「う、うん……」

葵は促されるままに恐る恐る足を体重計に乗せていく。
これで上手くいってくれればこの一週間の苦労も報われるというものなのだが……。

「……え」
「え?」
「どうした葵?」

両肩が震えている。ついでに声も。
何かとてつもなく嫌な予感が―――

「エターナル――――!!!!!」
「うわああああああ!!」
「やめろバカ!!」
「落ち着いてください!!」
「離して!! こんなの物―――――――!!」
「それで魔王室までぶっ壊すなぁぁぁあああ!!!」

―――――!!!

―――!!


…………



……



「ぜーはーぜーはー……」
「む、無駄に疲れました」
「誰の、せいだと、思って、るの、……」
「お前のせいだ!!」

結局、減ってはいたものの目標には届かなかったらしい。

「……ま、まあそんなに気を落とすなよ」
「…………」
「そ、そうですよ。別に体重だけが全てというわけでは―――」
「五月蝿い」
「…………」
「…………」

葵の周りだけが別世界だぞ、おい。

「そりゃあ……一週間あれだけやっておいて達成できてなきゃあ、なぁ」
「そうか、お前は知らんのか」
「何を?」
「……なんでもない」

ただまあ、これ以上追い討ちをかける必要もないか。
流石につまみ食いしていたせいで達成できませんでした、とかバラされたら……。

後が怖い。

いや、そうじゃなくて。
流石に可哀想だ、そう言いたかったんだ。間違いない。

「……アリスちゃん」
「な、何ですか?」
「明日からもう一週間付き合って」
「ちょ、ちょっと冗談ですか?」
「ここで折れては私のプライドが許さない」
「いや、私はもう……」
「付き合って?」
「う……」

目が本気だ。このままだとなし崩し的に私等も巻き添えを食らうことになりそうだぞ。
どうしたものか……。
でも、ここまで言い切った葵をとどめることなんて出来そうにもないしな。

……なるようになるか。

「……なぁ、葵。ちょっといいか?」
「なにアルカ、私は今いそがし……」
「ちょっと立ってみてや」
「なんで?」
「いいからいいから」

全員の頭の上に疑問符が浮かぶ中、すっと直立した葵の前にアルカが立つ。
しばらく葵の全身を見てうんうん頷いていたが、やがて結論が出たのか、一つ大きく手を叩いた。

「うん、やっぱり、私の思ったとおりやわ」
「何が。分かるように説明して」
「そうだ、痩せなかった理由なら私にだって説明できあだぁっ!!」
「命が惜しければ話さないことだよ」
「……わりと皆知っていることだと思うがな」
「黙っていないと……消すよ」
「私は何も知らないぞー!!」
「ちょっと、人が説明しようとしてるのに漫才せんといて」
「……そんな気はないんだがな」
「私も」
「どの口がそんなこと言ってるねん」

まったくもう、と一言付け加えてから両手を腰に当て、どっかの教師のように説明し始めた。


「私の見たところによるとね、葵の身長が伸びてるんじゃないかと思うねん」
「……本当に?」
「本当や。ウチと葵が立って向かい合ったときに、今までとは若干低いところ見ることになっててんから間違いないわ」
「む……」
「てことはあれか。伸びた分重くなったってことか」
「がははははは!! それは良かったではないか!!」
「……本当に?」
「……ウチだって信じらんへんけど」
「だよね……」

だがまあ、それで魔王室が壊れないのであればいいか。
直すの面倒くさいし。

「やったぁ! さあマー君、祝賀会の準備を!!」
「うえぇっ!? い、いきなり?」
「当然。私としてはぜひ以前食べ損なった蟹を食べたい!!」
「あらあら〜それは初耳ね〜」
「あ、あれは葵が粉々に粉砕した……」
「蟹! 蟹!!」
「わ、分かったから暴れるな!!」

でもまあ、ちらりと様子を伺ってみるとアルカの話を聞いて葵は喜んでるみたいだし、まあいいか。

「がはははは!! まあ、いいんじゃねぇ?」
「そうだな。あの様子なら魔王室を壊すことも無さそうだ」
「よしっ、じゃあアイスの奢りで蟹食べに行こうかー!」
「ま、待て! なぜ私が……」
「あらあら〜、さすがマー君ですわ〜」
「こら、待て!勝手に話を進めるな」
「がはははははは!! さすが魔王、太っ腹だな!!」
「アレク! 貴様ぁ!!」
「皆ー、今日はマー君が外で蟹奢ってくれるらしいですわ〜!」
「おいこら杏! 勝手なことを……」

だがしかし、時既に遅し。杏の叫び声を聞いたメンツがぞろぞろと私の周りに群がってくる。

「蟹ですか。どのような味がするんでしょう……」
「そっか、アキラさんはまだ食べたこと無かったでしたっけ。じゃあちょうどいい機会ですね」
「はい! 高級食材として名前だけは聞いたことがありますから、非常に楽しみです」
「おいこら、私はまだ奢るとは一言も……」
「蟹なんて久しく食べてないし……楽しみやわ」
「貴様等、人の話を聞いているのか」

私のツッコミに対する返事はなし。
人の話を聞いているようで欠片も聞いてない。このままでは私の財布がペラペラになることは目に見えている。
どうするか、と聞かれれば、答えは一つ。

「……逃げるか」

そーっと足音を消しつつ入り口へ向かう。
バカ連中は蟹のことを考えるだけで精一杯だから、気付くわけ……

「ああっ! 皆、マー君が逃げようとしてるわよ!」

ちっ……バレたか

「あらあら逃がしませんわよ〜! 私の蟹のために!!」

いつの間にやら私の進行方向には杏が。

「ちょっとは私たちを祝おうっていう気持ちがあってもいいと思うんだけど?」

そして後ろには葵が、それぞれ立ちふさがる。お前等、移動が早すぎだ。
っていうか、巻き込まれた私の心情を察する程度の思いやりがあってもいいと思うのは私だけなのか?

「諦めなアイス、金持ちの宿命だ」
「最近、人間に化けてパチンコで儲けているのはどこの誰だったかな?」
「がはははははは!! しらねー」
「このヤロウ……」
「すみません、魔王……この借りはいつか返します」
「…………」

周りに味方はいないのか。どうなってんだオイ。

「それじゃー、高級蟹料理店にレッツゴー!!」
「じゃあな。行ってこい」
「マー君も来るの!」
「いーやーだー!!!」



結局、引きずられるようにして連行された私は、きっちり全員分出させられた。
私、葵、アリス、杏、アレク、リコ、アキラ、アルカ。
総勢八人分、合計四十万オーバー。何の罰ゲームだこれは。いくらなんでも食いすぎじゃないか?


「ああ……私の財布が」

ペラッペラになってしまった。
これでは、しばらくは赤貧生活が続きそうだ。

「いやー、ごっそさん。マジ美味かったぜ」
「ふん、そう思うんなら半分出せ」
「悪かったって。今度ジュース奢ってやっからよ」
「どうせなら酒にしろ」
「わーったわーった」

絶対嘘だ。
くそ、そのうち必ずアレクに出させてやる。

「しかし、アリスちゃんよく食べてたね……」
「そんなことはありません。標準です」
「いや、葵さんも人のことをいえないと思うのですが……」
「リコちゃん、口は災いの元だよ?」
「……と思ったが、どうやら私の気のせいだったようみたいです…」


くそ、どいつもコイツも満足そうな顔しやがって。
私だってたまにはただ飯食ってみたいのに。

「じゃあ、私達はこっちですから。また」
「それでは、おやすみなさい、皆さん」

リコとアキラは自分たちの家のほうへと帰っていった。

「くそ……財布が」
「がはははは!! 凹んでいるの最中悪いんだけど」
「なんだ、アレク」
「俺は、こっちだから」
「……ああ、また明日」
「じゃあな、気をつけて帰れよ」

バサバサっと羽を広げてアレクは飛んでいった。
はぁ〜確かに出費は痛かったが、まあ、楽しかったと言えなくも無かった。
もう二度とゴメンだが。

「美味しかったですね」
「また行きたい!!」
「私以外の奢りならな」
「まぁ〜マー君はケチですわ」

……人の金で、たらふく食べたくせに

ふぅ、ため息をつき、思考を切り替え、明日から再開する平穏な日々の中で何をしようかと考えるのだった。








「ちょっと! マー君があんな美味しい店に連れてくから体重が戻っちゃったじゃない!!」
「私たちの一週間の苦労が……」
「…………」

流石にキレていいか?

そんなこんなで、もう一度一週間やることになったのはまた別の話。
今度は私の代わりにアキラが朝走ることになった。頑張れ。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう