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少女の加護
作:坂田火魯志



第十三章


「上手くいったな」
 クレールはモニターに映る自軍と敵軍のコンピューター映像を眺めながら述べた。
「これでよし」
「既に友軍はトリトンに入っております」
「ではこのまま撤退か」
「はい、そして我々も」
 ここでも参謀達が報告していた。
「このままトリトンへ入りましょう」
「そしてこのままアルテミスへ」
「そうだな、全ては上手くいった」
 ほっと胸を撫で下ろした顔になる。
「正直ここまで上手くいくとは思えなかったがな」
「オレルアンの少女の加護でしょう」
 参謀の中の誰かが言った。
「ジャンヌ=ダルクか」
「はい、今の戦闘でも我が艦隊はそれ程損害を出してはおりませんし」
「これはやはり。彼女の加護かと」
「そしてワルキューレのな」
 クレールもジャンヌ=ダルクのことは知っている。そしてもう一人の乙女のことも。
「二人の加護の賜物か」
「我が軍の損害も考えますと」
「損害は一千を下回りました」
「義勇軍に突貫したというのにか」
「はい。これはやはり加護でしょう」
「少女と乙女のな」
「彼女達が奇跡を起こしてくれたのですよ」
「ならば今はそれ感謝させてもらおう」
 顔が綻んでいく。
「こうして生きていられたのだからな」
「はい」
「ではこれから我が艦隊は
「トリトンから撤退し、その向こうで友軍と合流する」
 クレールは述べた。
「それからアルテミスへ向かうぞ」
「はっ」
「了解です」
 スタッフ達もそれに応える。第一七五艦隊はこうして無謀とも思える攻撃を奇跡的な損害で抑えて戦場を離脱することができた。そして事前に撤退させていた友軍の二個艦隊と共にトリトンを離脱するのであった。その中には当然ながらジャンヌ=ダルクの姿もあった。
「まずは一安心ね」
 クレスパンは自室で乾杯していた。その向かい側にはエリザベートがいる。
「これで私達はアルテミスへ下がることが出来るわ」
「そうですね」
 エリザベートはそれに応える。彼女もクレスパンも上機嫌に笑っていた。
「全ては女神の加護かしら」
「パラス=アテネの」
「いえ、違うわね」
 だがクレスパンは言葉をあらためた。
「これは少女の加護ね」
「オレルアンの少女の」
「そうよ、ジャンヌ=ダルクが守ってくれたのよ」
 もう酔っているわけでないがこう言った。
「私達を」
「確かにそうかも知れませんね」
 エリザベートはそれに応えて頷く。
「この戦いは。常識で考えればとても成功するものではありませんでした」
「ええ」
「大規模な損害を出して撤退するだけだったでしょう。ところが」
「そうはならなかったわね」
「運がよかったと言うべきでしょうか」」
「よかったのよ」
 クレスパンはにこやかに笑って言う。
「オレルアンの少女が私達を守ってくれたのだから」
「彼女が」
「そうよ。そして」
 今度はエリザベートの顔を見ていた。
「聞いてるわよ。敵のタイガーキャット部隊を翻弄したそうね」
「いえ、それは」
「ザーヒダン少佐のものも合わせて十一機。よくやったわね」
「有り難うございます」
 顔を少し赤らめさせてこくりと頷く。
「そのおかげで我がジャンヌ=ダルクのエインヘリャル隊は助かったわ。そちらはワルキューレの加護ね」
「私はワルキューレでは」
「いえ、貴女はワルキューレよ」
 クレスパンは謙虚になろうとするのを許さなかった。
「だって。オレルアンの少女と共に私達を救ってくれたから」
「はあ」
「これからも。宜しくね」
「その言葉、謹んでお受け致します」
 エリザベートは畏まってそう述べた。
「エウロパの為にも」
「そう、そして我が軍の為にもね。これからも宜しく」
「まだ戦いは続きますが」
 エリザベートは述べる。
「戦いましょう、最後の最後まで」
「少女の加護を信じてね」
「はい、オレルアンの少女と共に」
 二人は誓い合う。そしてトリトンを去りアルテミスへと向かう。アルテミスの戦いは連合軍とエウロパ軍の激戦の一つとなった。この時も第一七五艦隊は果敢な攻撃を仕掛け武勲を挙げている。その中にはジャンヌ=ダルク、そしてエインヘリャルを駆るワルキューレ、エリザベート=デア=アルプの姿もあったという。連合とエウロパのかってない規模の戦い、苦戦を続けていたエウロパ軍の中の一つの話であった。


少女の加護   完


                   2006・9・11








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