Extra Episode:シアワセの在処
――新暦77年 某月 無人世界
かつては栄えていたであろうこの世界もまた滅び、朽ち果てていた。
所々に文明の名残である建造物が多く残っている。
レンガ造りの家、教会のような豪華絢爛なもの、さらには城のようなものまである。
しかしそのほとんどが時間という波に晒され風化、そして崩れ落ちている。
遺跡。人はこの場所を見て廃墟ではなくそう呼ぶに違いないだろう。
そんな遺跡を歩く集団。
スーツの者、白衣の者、バリアジャケットの者と。老若男女を問わず様々。
遺跡を傷つけないよう慎重に触れ、何かを調べているかのような者たちだ。
「スクライア先生」
「どうしました?」
一人の白衣の男性が、スーツ姿の青年に声をかけた。
スクライア先生と呼ばれた青年ユーノ・スクライア。
時空管理局本局・超巨大データバンク“無限書庫”の司書長を務め、ミッドチルダ考古学士会の学者でもある。
掛けた眼鏡を少し上げ、呼ばれた場所へと歩いていく。
そこは未だに原形を残すほどの大きなレンガ造りの建造物だった。
ユーノは白衣の男について、中へと入って行く。
(一体どれだけの時間を過ごしたんだろう・・・?)
ユーノは今まで見てきたこの世界の遺跡を見てそう思う。
ユーノを始めとした彼ら学士会を筆頭とした調査団は、突如として次元の海に現れたこの世界を調査しに来ていた。
念のための護衛として管理局員を含めた100人からなる調査団だ。
「これを」
「・・・・本・・・?」
ユーノが手渡されたのはボロボロになった一冊の本。
しかし本はその一冊だけではなかった。
「ここは・・・・書庫だったのか・・・?」
建造物の中、所狭しと納められた本の山。
そこはさながら書庫。そう呼ぶに相応しい場所だった。
他の学者たちも書庫へと集まり、慎重に書棚に納められている本を手にする。
「見た事のない文字ですね・・・」
本に記されていた文字は、何一つとしてユーノには見覚えのないものだった。
「スクライア先生、無限書庫で調査していただいても?」
「ええ、そのつもりです」
次々と本が回収されていく。崩れないように保存の魔法をかけ、運び出される。
一通りの調査を終え、調査団は“ミッドチルダ”へと引き上げていく
そんな中、ただ一人ユーノが遺跡へと振り返る。
(この景色・・・どこかで見たことがあるような気が・・・)
妙な既視感を覚えつつ、彼も急いで離れていく調査団へと戻る。
後にこの世界は、重要管理指定世界“オムニシエンス”と名付けられた。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
――同年 某月 重要管理指定世界“オムニシエンス”
遺跡内を歩く人影が一つ。
大きなリュックを背負い、服装もポケットがいくつもある物。
一般人は一般人でも、その見た目はトレジャーハンターそのものだった。
現在“オムニシエンス”は、管理局とこの世界の調査を依頼したとある財閥の許可なく入ることは許されていない。
だが、歩く人影は許可を取ることなく“オムニシエンス”へと来ていた。
方法は不明。監視の抜け穴を通ってきたのだろう。
無法者と呼ばれてしまうトレジャーハンターならではの方法に違いない。
「これはすごい・・・!」
都合の良い事に現在“オムニシエンス”は無人。
それゆえにトレジャーハンター・シャレードは悠々と歩いていた。
真剣な表情で様々な建造物を眺めては写真を撮っていく。
そして、多くの書物が発見されたあの書庫へとたどり着く。
どこも壊さないようにゆっくりと入り、一冊も残されていない書庫の中を行く。
「ここが依頼主の言っていた書庫・・・か・・・」
一冊も本が残されていないことから、残念そうに呟きながらも奥へ奥へと進んでいく。
そのとき、ガラッと何かが崩れる異音をシャレードは耳にした。
彼は「今は無人のはずだぞ」と呟き、緊張感から嫌な汗を流す。
ゴクリと生唾を飲み込み、彼は音を立てずに異音のした場所へと歩を進めた。
「・・・・これは・・・・隠し通路か?」
彼が目にしたのは広間の壁に空いた穴。
覗き込むとさらに先がある。薄暗く冷たい風が奥から吹いている。
先程の異音は壁が崩れ落ちた音だろうと判断する。
「この先には何が・・・?」
彼は僅かな恐怖が心の底に生まれるのを感じたが、それ以上に好奇心が彼を支配した。
壁伝いに歩き、そしてある細長い一室へとたどり着いた。
そこは祭殿とでも呼べるような場所。
祭壇へと続く道の両側に並び立つ燭台には火が灯っている。
「この火は一体いつから・・・?」
彼は疑問を口にしつつ、祭壇へと近づいていく。
そして祭壇の上にナニかあるのを視界に入れる。
トラップが無いかを慎重に確認し、そっとソレを手にする。
「なんて綺麗な本なんだ・・・!」
祭壇の上に安置されていた一冊の本。
管理局の調査団が発見した何百冊もの本とは違い、どこも風化しておらず綺麗な姿を保っていた。
それは全体的に赤い本。タイトルはどこにも書いてない。
その赤い本の縁には金の装飾が施され、その金の装飾は幾何学模様となって背表紙に伸びている。
表紙には青銀で出来ている何らかの紋章が象られたレリーフが施されていた。
この本を厳重に封印するかのように幾重にも鎖が巻かれている。
「美しい・・・美しい・・・なんて・・・美しいんだ・・・」
彼はうわ言のように「美しい」を連呼する。
その目は何かに取り憑かれたように妖しい輝きを放っていた。
「これほどの物に一体何が記されているんだ・・・?」
どうしても中身を知りたい衝動に駆られた彼は、必死に鎖を解き始める。
一本解いていくたびに、その本が脈動するような感じに襲われるシャレード。
二本、三本、四本・・・・そして最後の五本目の鎖が解かれた。
ゴクリと唾を飲み込み、鎖から解放された赤い本の表紙を開く。
「・・・・・・白紙・・・・?」
何ページも捲る。しかしどこまで行っても白紙だった。
タイトルも無く、その上何も記されていなかった赤い本。
彼は肩を落とし、心底残念そうに大きくため息をついた。
「だがこれほどの立派な装飾、そしてこの遺跡から発見されたとなれば高額で取引されるはずだ。
そうすれば依頼主に依頼料をもっと踏んだくれるぞ。ハハハ、俺ももうすぐで大金持ちだ」
彼は赤い本を背中に背負っていたリュックへと納め、祭壇を後にする。
シャレードが去った後の祭壇。そこにうっすらと白い影が生まれる。
成人男性のような人の形をした白い影。
その影の口の部分にあたる場所が三日月のようにパカッと開く。
それは歓喜を表した笑みのようだった。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
この半年後、第一世界ミッドチルダ東部海上にて、一人の男性遺体が海面に浮いているのを地元民が発見する。
身元確認の結果、トレジャーハンターにしてロストロギアや質量兵器などを横流しする闇のブローカー、第一級指名手配犯“シャレード・アルス”と判明。
死因は物理破壊設定とされた魔法によるものと断定。
怨みによるものか、取引で何らかのトラブルが起きたか、現在調査中。
後にシャレード・アルスの荷物が荒らされている事が判明。
彼は、ここ最近知人に装飾の施された赤い本を自慢していたらしい。
その赤い本が見当たらないことから、その本が盗まれたものだと推測される。
物盗りによる犯行であることも視野に含め、調査が続けられることとなった。
この3年後、新暦80年 11月。
何者かによって盗まれた赤い本によって、再び次元世界に危機が訪れる。
様々な再会と別離が繰り返されていく、それは短い期間での物語。
そう、過去と現在が交錯しせめぎ合う、それはとても辛く悲しい事件が。
§最終章・プロローグ§
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