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「いってきます」 ~Happy day~
――4月12日 PM13:55 機動六課隊舎食堂


†††Sideシャルロッテ†††


ルシルの光神の調停(コード・バルドル)で視界が潰されたと同時に、私たちの意識は現実に戻ってきた。
ルシル・・・自分がまだ生きている場面を見せなかった。
光神の調停(コード・バルドル)によって堕天使が撤退した後、フラフラのフェンリルが助けに来てくれて、ルシルをセインテストの王城グラズヘイムに運ぶ場面。
フェンリルによる時間凍結封印を受けて、生き長らえる場面。
“神意の玉座”との契約場面も省かれている。

(なのはたちに、自分が生きている事を知られたくないということ・・・か)

そんなにしてまで自分が死んでいると思わせたいのか、この馬鹿は。大馬鹿は。超馬鹿は。
幸せを望まないと、その資格がないと。とことんド級馬鹿者だ。ゴッドオブバカ。
フェイトにあんなに想われているのに、それを自ら突き放そうとしている。

「・・・・・バカ」

少し離れて突っ立っているルシルに呟く。
当然聞こえていないルシルは、モニター越しでデスクに突っ伏して寝ているリンディさんと騎士カリムにかけた術式を解いている。

「この子たち、私たちの真実知ってどんな反応するかな・・・・?
引くかな? 哀れむかな? 怖がられるかもしれないな・・・」

食堂の床で寝かされているなのはたちを見る。目から涙が零れている。
結構辛い、刺激の強いっていうか強過ぎるものだからね、私たちの時代は。
平気で人が殺して殺されて死んでいく。それが当たり前の時代。

「それならそれでいい。だから見せたようなものだしな。
永遠の別れの時だ。親しまれているより、嫌われている方が別れやすい。
その方がこの子たちは傷つかない。優しいこの子たちにいらない感傷は必要ないのだから」

「そう言って、悲しそうな顔しているのはどこのどなたぁ?」

「まさか。いつ私がそんな顔をした」

ルシルがなのはたちにかけた術式を解いた。
それから数分。ようやく目を覚ましたなのはたち。
みんな、私たちを直視しない。これは完璧嫌われたかも。
黙って椅子に座って、俯いていたままだ。

「シャルちゃん、ルシル君・・・」

そんな中、口を開いたのはなのは。
赤く腫らした目で私たちを見て、名前を呼んでくれた。
その先に続く言葉が怖い。何て言われるのかな。

「これから・・・・二人はどうなるの・・・?」

「・・・・・・・え?・・・・あー、えっと・・・。
・・・。うん、私たちはこの次元世界を護る。だから戦わないと、テルミナスと」

テルミナスの目的はルシルを絶望させて亡失アーミッティムスにする事。
その前準備として、なのはたちの命を奪う。
ルシルに殺させるつもりだったのだろうけど、それは見事失敗。
今度はテルミナス自ら殺しに来るって言っていた。ならそれを阻止するのが役目だ。
テルミナスを斃す。それが絶対条件。敗北は次元世界やルシルの終わりに直結する。

「そのあとは? 戦いの後、シャルちゃんとルシル君はどうなるの?」

真っすぐと私とルシルを見るなのは。そしてみんなも逸らしていた視線を私たちに向ける。
その視線には恐怖も憐憫も無かった。ただひたすらに真っ直ぐな視線。

「消える。消えるんだよ、なのは。役目を終えた守護神は用済みとして消される。
当然だ。そんな強大な力を残せば、それだけで争いの種となるのだから。
世界が争いを、滅びを回避するために呼んだ守護神が、争いや滅びの種になっては本末転倒。
そうなる前に、役目が終わると同時に邪魔()を排除する。だから消える」

「消え・・・る・・・?」

「フェイト・・・」

ボソッと呟くようにフェイトがそう口にした。
それを横から心配そうに声をかけるのはアルフ。
フェイトの使い魔で家族、ルシルとも共に過ごした子。

「ルシルとシャル・・・、いなくなるの・・・?」

「そうだ。今日でお別れだ、フェイト」

「っ!」

あそこまで絶望したフェイトの顔を見た事がない。
さっきまでの記憶を見ていた時以上に酷い顔だ。

『ルシル、あなた・・・!』

『この方が・・・フェイトのためだ』

『ルシル・・・・』

重すぎる空気が、さらにこの場を沈黙させる。
フェイトは俯いて、アルフやエリオたちは何て声をかければいいのか判らないという様子で戸惑っている。
シグナムとヴィータとザフィーラは腕を組んで、ただ目を瞑って座っている。
シャマルとリインとキャロはまだ小さく嗚咽を漏らしているし。ごめん、嫌なもの見たよね。
スバルとティアナ、ギンガからも嗚咽が聞こえる。ホントにごめんね、ごめんね。
クロノとユーノは、テーブルに置かれた再誕神話の表紙の上で握り拳を固めてる。
何を考えているのかは分からないけど、出来れば嫌わないでくれたらいいな。
モニターに映るリンディさんと騎士カリムもまた意気消沈といった様子。

「そういうわけだ。みんな、今まで世話になったな」

「ちょっ、ルシル!」

ルシルが短くそう言って、その姿を消した。
位相転移だ。歩いて去るなんていう人間の行動じゃなくて、わざわざ守護神としての力を使って食堂(ココ)から消えた。

(これは完全に守護神として事を全うするつもりだ。ここに残るなんていう選択肢を全く持っていない)

思っていた以上に難しいかもしれない。

「なぁ、フライハイト。訊きてぇんだけどさ。ちょっといいか?」

「え? あ、な、なに?」

組んでいた腕を解いて、顔を上げたヴィータ。
シグナムも同じように腕を解いて、私を見てきた。

「フライハイト、お前がテスタメントになった理由は分かった。
仲間と故郷を護るためにテスタメントになったという事が、な。
だが、セインテストはどうだ? 奴はどうして、どうやってテスタメントになった?
奴の・・・」

シグナムがフェイトへと一度視線を向けた。
シグナムの疑問を耳にしたフェイトが顔を上げて、シグナムと視線が合う。
シグナムは少し言い淀んで、でも続けた。

「・・・奴の最期は見た」

それを聞いたフェイトの目からまた涙が零れる。
シグナムはそれを心配していたのだろうけど、それでも話を続けた。

「しかしお前のようにテスタメントになった理由が分からない。
そこだけが省かれている。セインテストは一体何を隠している?」

「あたしもシグナムと同じだ。いきなりテスタメントになった、ってことはないんだろ?
セインテストはどうやってテスタメントになったんだよ? お前のように取引したんじゃないのか?」

「その取引内容が、セインテストの隠したい事なのかどうか・・・だな」

シグナムとヴィータとザフィーラは鋭い。着眼点が良い。さすがは歴戦の騎士。
冷静に見ていたからこそ気づけるルシルの終わりの記憶の違和感。
私は見せた。私が“界律の守護神(テスタメント)”になったその刻を。けどルシルは違う。
そこを、シグナムたちをおかしく思ったんだろう。

「さすがだね。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。もしかして他にも気づいた子いる?」

手を上げたのはクロノだ。あー、やっぱりクロノもすごいよ。
なのはたちも、シグナムたちから聞いてようやくルシルの終わりに疑問を持ったようだ。

「確かにシグナムたちの言う通り、ルシルはわざとあの記憶の続きを隠した」

「どうして・・・なんだい?」

「それは・・・・、それはルシルが・・・・」

言うよ、ルシル。フィイトの想いを叶えてあげたいから。
そしてルシル、あなたにも幸せになってほしいから。

「ルシルは死んでない。今も生きた人間だから」

沈黙が流れる。

「ル、ルシル君が死んでないって・・・どういうことなん・・・?」

みんなが息を飲む中、はやてが神妙な面持ちで訊いてきた。
フェイトも顔を上げて話の続きを待っているみたいだ。

「ルシルの魔術で堕天使は撤退。その後に、アースガルドから助けが来た。
ルシルの使い魔フェンリル。あの子、界律から存在そのものに制限をかけられているのに、主のルシルを救うために命を懸けて来た」

ルシルを護るために、自分が死ぬかもしれないのに来たフェンリル。
しかも、その後に時間凍結なんて大魔術を使って、ルシルの肉体を封印した。
そうみんなに教えた。不死と不治の呪いの所為で、人間としての生活が出来なくなったと。

「ルシルさんの取引内容って・・・」

「堕天使にかけられた呪いを解いて人間に戻る事。
それには堕天使ガーデンベルグを破壊しないといけない。
そのための手段として、ルシルは仕方がなく界律の守護神(テスタメント)になったの。
それまではルシルは何だってする。神意の玉座や界律に言われるがまま、ずっと」

エリオに答える。それを聞いたフェイトの表情が変わる。

「じゃあその堕天使を倒せば、ルシルは消えなくてもいいのか?」

「そ、そうなの!?」

クロノの言葉にフェイトが身を乗り出して訊いてきた。
かなり怖い。だけど、それは出来ない。

「確かにそうなれば、ルシルは神意の玉座から解放されて人間に戻れる。
それが私たちの生きた世界なら、ね」

「・・・・・・え?」

「並行世界、パラレルワールドって知ってる?」

目を丸くしたフェイトはもちろん、なのはたちにも尋ねる。
私の質問に答えたのはユーノだ。さすがは学者。

「それってIfの世界のことだよね。
例えば、コインを投げたとして表の世界もあれば裏だった世界もあるっていう・・・」

分かりやすい例えをありがとう、ユーノ。

「ルシルたちアンスールが堕天使によって全滅した世界は、今私とルシルのいる次元世界じゃないの。
並行世界の一つ。今私たちがいる次元世界のアンスールは、ラグナロクと一緒に滅んだ。
だから、この次元世界に堕天使は存在してないの」

「それってつまりは・・・」

「この世界でルシルを解放する事が出来ない」

「・・・・そん・・・な・・・」

フェイトが絶望から座り込んだ。本当にルシルの事を想ってくれているんだ。
それなのにあの馬鹿は。もっと素直になれば良いのに、バカバカバカバカバカ。

「ねぇ、フェイト。フェイトはルシルに残ってもらいたい?」

「え? あ、えっと・・・その・・・・うん」

くそぉ、頬を赤く染めて可愛いな。
さっきまで抱いていた暗い想いが晴れていくよう。

「そっか。じゃあ教えてあげる。ルシルをこの世界に残す方法はある」

みんなの視線が一気に集まる。

「じ、じゃあシャルちゃんも残れるの!?」

「・・・・なのは・・・・。ごめん、私は残れない。
私はもう本当に死んでいるから。残れるのは、今も生きているルシルだけなんだ」

「あ・・・・。そっか・・・」

私が残れない事に落ち込んでくれるなのは。
ありがとう、なのは。嬉しいよ。すごく、本当に嬉しい。

「ごめんね、なのは」

「うん・・・」

「・・・・フェイト、ルシルを残す方法は教える。
あとはあなたがルシルをこの世界に残ろうと思えるように説得する。
今のルシルは残る意思がほとんどない。あったとしても、残ろうとしない」

そこが最大のネック。

「どうしてですか? 残れるなら、やっぱり残ろうと思うんじゃないんですか?」

スバルの言葉に続くようにみんなも同じような事を言い始める。
昔のルシルならそうだったろうけど、ルシルには酷い思い出がある。
それが、ルシルに幸せになるという選択肢を失わせている。
それにアンスールで一人だけ生き残ったという負い目もある。
そこのところは大丈夫だって言っていたけど、それも原因の一つに変わりない。

「ルシルにはいろんな悲劇の記憶がある。
アンスールの事もそうだし、守護神としての契約の数々の中にもたくさんの悲劇があった。
護る為には親しくなった人をその手で殺め、逆に殺されるなんて事もたくさんあった。
ルシルに来る界律からの契約はそんなのばっかり。ルシルの心を犠牲にするような、ね。
とことん使われて、多くの絶望を体験して心が壊れ始めた」

「テスタメントになってからも、そんな酷い目に遭ってきたんですか!?」

ティアナが叫んだ。この子もまたルシルにいろんな事を教わった弟子のようなものだ。
親しくなった人の悲劇はやっぱり耐えられないんだろう。優しい子だ。

「守護神なんてそんなもの。人権なんてもちろん存在しない。
世界にとって都合のいい道具でしかないの。殺せと命令されれば殺す。
殺されろと命令されれば殺される。常に世界にとって一番の行動を取らされる」

そして少し気が引けたけど、守護神として初めてルシルが愛したガブリエラの事も話した。
愛した女性をまた護れなかったルシル。それが最大の原因であることも。

「そんなの酷いです」ってリインがまた泣き始めた。
リインをあやすはやてとシャマル。そんな二人もまた辛そうな表情だ。

「だからルシルは自分が幸せになるという選択肢を持たない。
持てたとしても選ばない。自分の幸せに恐怖を抱いてると言ってもいい。
相手を不幸にするかもしれない。それもまたルシルをキツく縛り付ける鎖」

「なんだよそれ・・・。お前やセインテストはそんな事をずっとさせられてきたのかよ」

ヴィータが怒りに震えた声でそう言った。

「だからこそ私は、そんなルシルに幸せになってもらいたいと思ってる。
私以上の悲劇を背負ったルシルに。自己満足で余計なお世話かもしれないけど、それでも!」

フェイトを見てハッキリ口にする。

「この世界でフェイトと一緒に幸せになってもらいたい」

「シャル・・・」

「・・・・・ルシルをお願いできるかな?」

握手を求める。フェイトはゆっくりと優しく手を重ねてきて、

「うん!」

ハッキリと頷いてくれた。あとはフェイトがルシルを説得するだけ。
それが上手くいけば、ルシルはこの世界で新しい生を得る事が出来る。
幸せになるかどうかはこれからのフェイトやルシル、なのはたち次第だけど、そこは何も心配してない。
だってなのはたちと一緒なんだから。不幸になる方がおかしい。

「それじゃよく聞いて。ルシルをこの世界に留める方法は―――」


†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††


――4月12日 PM14:29 機動六課隊舎ロビー


シャルから聞いて、ルシルがいる隊舎の庭先に向かうためにロビーにいる。
たとえ聞かなくても、私もルシルがどこにいるのか分かってた。
ルシルがいつも読書する庭先のとある場所。その場所は私も気に入っているから。

「ルシル・・・」

シャルが教えてくれた。ルシルの隠していた事実。
この世界にルシルを留める方法も。
あとは私がルシルにこの世界に残りたいと思わせるだけ。

「フェイトママ・・・」

「うん。大丈夫、任せて」

ロビーでヴィヴィオとなのはたちと一度別れる。
それにしても、まさかヴィヴィオが私たちの話を立ち聞きしていたなんて思いもしなかった。
ルシルとシャルの話の内容のほとんどが解っていないようだったけど、それでもルシルとシャルがいなくなるというのだけは解っていた。

「ルシル」

ルシルと出会って10年。いろんなことがあったね。
一つ一つ楽しかった出来事を、今でもハッキリと思い出せるよ。

「・・・・・少し、いいかな? ルシル」

木に背を預けて座っていたルシルに声をかける。
ルシルは何も答えない。でも諦めない。
そもそも諦めるなんて選択肢は私の、私たちの辞書に存在しない。
ルシルの反対側に回って、木に背を預けて座り込む。お互いの顔が見える事のない逆位置。

「暖かいね。もう春だからかな」

「・・・・・何の用だ。もうじき消える存在に、何かあるのか?」

ルシルの突き放すような冷たい声。でもそれは嘘。
私がどれだけルシルの側で、ルシルの声を聞いていたのか分からない?
どれだけ必死にルシルの側にいようとしたのか、ルシルはやっぱり分からない?

「ルシルは消えないよ絶対に。私が居るから」

「・・・・・・あの馬鹿。話したのか、私の隠していた真実を・・・?」

「うん・・・・。シャルから聞いたよ、ルシルの事」

「そうか。知ったんだな、私が死んでいないと」

「うん。ルシルはこことは別の次元世界で今も生きてるって。
時間が凍結された封印の中で、六千年以上も前と全く変わらない状態で眠ってるって」

昔の魔術はすごい。今の魔法とは全然違う。比べられないほどに進んだ技術。

「ルシルがこの世界に残れる方法があることも聞いた」

今も生きるルシルだからこそ残れる裏技(ってシャルは言ってた)。
シャルのように、もう死んだ人では出来ないということだ。
本当ならシャルも残って、これからもずっと一緒に生きていきたかった。

「私は・・・・残らない。残れない」

「その理由も少しだけ聞いた。でももう許してあげて、自分を。
このままだとルシル、また壊れてしまうかもしれない」

シェフィリスさんを愛して護れなくて。ガブリエラさんを愛してもまた護れなかった。
一体どれだけの絶望をルシルが抱いたのか分からない。
分かるわけがない。私なんかが分かっていいほど簡単なものじゃない。

「・・・・・君たちをテルミナスから護り抜けば、そんな事は無くなる。
君たちを護れた。それを支えにして、私は、私とシャルは先へと進める。
だから、大丈夫だ。今までありがとう、フェイト。だから、さよな――」

「聞きたくない!!!」

「っ!!」

叫んだ。ルシルの口からサヨナラなんて聞きたくない。
今までルシルからサヨナラなんて一度も言われた事ない。
それなのに、こんなときにサヨナラなんて・・・・嫌だ。

「フェイト・・・」

ルシルが困ったような声を漏らす。

「ルシルはここが嫌い? そんなに残りたくない?」

「嫌いではない。が、残らない。残る理由が無い」

「理由が・・・無い・・・!」

その言葉にカチンと来た。いくらなんでもそれは酷い。あんまりだ。
どれだけみんなが、私がルシルとこれからも一緒にいたいか。
私がどれだけルシルを想っているか。ルシルとの未来を望んだか・・・!
だったら私が、ルシルがこの世界に残る最大の理由になる。そのためにここに来た。

「ルシル!!」

立ち上がって、反対側に座るルシルの前へと移動する。
ルシルは座ったままで、目の前の私の顔を見上げる。
表情が読めない。無表情のようだけど、見方によっては悲しそうな表情。

「どうした・・・?」

顔が熱くなる。面と向かって――というか初めてだ。
一度深呼吸。スゥーーーーーーハァァーーーーーーー。
よし! その???な表情を変えてあげるよ、ルシル。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは・・・・」

ルシルの目をまっすぐに見つめる。綺麗な紅と蒼の瞳。
その瞳に私の姿が映っているのが分かる。鼓動がさらに高鳴る。

「ルシリオン・セインテスト・アースガルドが・・・・」

ここまで言えばルシルでも分かるはず。
これから私が何を言おうとしているのか。
でも、ルシルの表情は変わらない。

「・・・・・好きです」

言った。初めてルシルに伝えた私の10年来の想い。
耳まで赤くなっていくのがハッキリ分かる。熱い熱い熱い熱い、すごく熱い。

「「・・・・・・・・・」」

ルシルは何も言ってくれない。
イヤ、何か言って。お願いだから黙らないで。

「ルシ――「すまない」――・・・・どうして・・・?」

さっきとは違う意味で真っ白になる。
ルシルは本当に残らないの? 私じゃルシルを幸せに出来ないの?

「ほ、他に・・・好きな人とか・・・いるの?」

「いない」

「やっぱりここが好きじゃない?」

「とても大切な場所だ」

「私の事が・・・嫌い?」

「・・・・・違う、そうじゃない。君の事が嫌いなわけがないだろう」

それを聞けて嬉しく思う。だけど今はそんなこと言ってられない。
どうしてルシルはそこまで自分を追い詰めるのか。自分の幸せを否定しようというのか。
それほどまでにルシルを追い詰めるのは・・・・。

「だったら!! 何でルシルは自分をそんなに・・・!」

「・・・・・・私の、私の想い人はいつも殺されて逝く。
護ると誓っても、愛すると誓っても、必ず私の手の中から零れ落ちる。
私は疫病神だ。自分が幸せになる云々以前に、一番大切な女性(あいて)を幸せに出来ない。
そんな私に、人を愛する事はもう出来ない。必ず不幸にしてしまうからだ。
だからフェイト。君が嫌いなわけじゃない。この場所が嫌いなわけじゃない。
怖いんだ。私が残ることで、この愛おしい場所がまた何かに奪われるんじゃないかと・・・」

一瞬だけ泣き顔のような表情を見せたルシルが、私の視線から逃れるように顔を伏せた。
ルシルの心は酷く傷ついていた。六千年、そんな長い時間の間にルシルはどれだけ傷ついたんだろう。
私なんかが理解できないほどの、それは凄惨な出来事ばかりを見てきたに違いない。

「それ以前に私は人殺しだ。いかなる理由とて人を一度でも殺めればもう幸福の席は無い。
私の想い人が私を置いて逝くのは、その罰なのかもしれないな。
私は数多くの命の十字架を背負っている。殺めてきた人たちの十字架だ。
その数はもう知れない。あまりにも多くの命を奪った。人を抱きしめるにはこの手は穢れ過ぎている」

人殺し。俯いたままルシルが苦々しく言った。
ルシルが背負い、ルシルを縛り付ける罪科の十字架と鎖は多すぎる、重すぎる。
それがルシルの幸福という選択肢を奪う元凶。

(でも、それでも、だからこそ私はルシルを幸せにしてあげたいんだ)

その決意はもう揺るがない。

「私も一緒に背負うよ、ルシルの十字架。
私一人じゃ頼りないかもしれないし、ううん、私じゃ全然力になれない。
それでも一緒に背負うよ。これからはずっと、私がルシルを一人になんてしないから」

「フェイト・・・・。いや、ダメだ。・・・知っているか、フェイト?
優しい人というのはな、優しいからこそ気づき、そして余計なものまで背負うことになるんだ。
優しいからというだけで、ただそれだけで辛い目に遭う事が多いんだよ。
フェイト、今の君がそれだ。私という余計な“物”を背負おうとしている。
だから、君の想いには応えら――」

「そんなの全然関係ない! 問題ない! だってルシルが一緒なら私は幸せ! だからルシルも幸せ! それで全て解決!!」

そう叫んだ。するとルシルは俯いていた顔を上げてポカンとしている。

「だ、だから! ルシルが残ることで私やなのはたちはすごく嬉しくて、幸せなの!
みんなが嬉しがっているとルシルだって嬉しいでしょ!? ならそれでいいよ!
私は不幸なんかじゃない! だって好きな人と一緒にいられるんだから!
えっと、その、えっとえっと、だからルシルは残ったっていいんだよ!!
私たちが、私が今度はルシルを護るから! みんなでみんなを護ればいい、と思う!!」

どうしよう、自分でも何言っているのか分からなくなってきた。
ルシルは相変わらず目を点にしてポカンってしてるし。
一気に恥ずかしくなってきた。今すぐここから逃げ出したいよ(泣)

「あのね、私が言いたいのは、その、だから・・・」

「・・・・・プッ、ククククク・・・・!」

「あぅ、わ、笑わないで!」

ルシルが右手で両目を隠すように翳して笑いだした。
こっちはいっぱいいっぱいで大変なのに、笑うなんて少しひどいよ?
どんどん笑い声が大きくなっていくし。うぅ、もう恥ずかしさで泣きそう。

「あー笑った。随分と滅茶苦茶な事を言っていたな、フェイト。
あまりの必死さについ、な。ハハハハ、そうむくれて怒らなくてもいいだろう?」

「ひどいよルシル。私、こんなにもルシルの事・・・す、好きなのに・・・」

もう本当にメチャクチャだ。溢れてくる涙を何度も拭って大変だ。
今日一日でどれだけ泣いただろう? いろんな事が急に、しかも連続で起こり過ぎだよ。

「ありがとう、フェイト。気持ちは確かに嬉しい。その純粋な想いには応えたいとは思う」

「え?」

ルシルは今何て言ったの?
私の気持ちに応えたい、ってそう確かに言ったよね?

「だが、私は・・・・私は――」

「ルシル・・・。これからも私と、みんなと一緒に生きよう?
大丈夫だよ。私は絶対に不幸なんかじゃないし、ならない。
シェフィリスさんもガブリエラさんもきっとそう。
ルシルと一緒にいられて幸せだったはずだよ。不幸なんて思ってないはずだよ」

ルシルのその先の言葉を遮るように言葉を声に出す。
私はそう。ルシルと一緒だという事に意味があるんだ。
好きな人と同じ時間を過ごせるなら、それは幸せなんだと思う。

「私はルシルの事が好きです。これからも・・・私と一緒に、私の側にいてください」

左手の小指にはめていたルシルから貰った指環に優しくキスをする。
その指環をはめた左手をルシルに差し出す。
私は黙ってルシルを見つめる。私にはこれ以上の言葉は無いから。


†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††


私に差し出されたフェイトの左手。その小指に輝くのは私が贈った指環だ。
フェイトの想いには前々から気づいていた。これでも心から愛した女性がいるのだから。

(どうする? フェイトはもう引き下がらない。
こんな私に好意を持った少女。優しく綺麗な少女。
さっき聞かされた言葉から、フェイトの想いは同情ではないのは解る)

だからと言ってその左手を取っていいのか?
私にそんな資格があるのか? この優しい少女を苦しませることになるんじゃないか?
分からない。どうすればいいんだ。苦しむのは、十字架を背負うのは、私独りで十分なんじゃないか?
なのに、何でこんなに苦しいんだ?
フェイトの想いを拒絶しようとすればするほど心が軋んでいく。

(私は・・・・フェイトが好き、なのか・・・・?)

違う。そんな事があってはならない。その想いは捨てろ。
彼女を傷つけるな。その手を取るな。取れば彼女は不幸になる。
護りたいなら、彼女の想いを否定しろ、拒絶しろ。それが一番答えだ。
私の目に映るフェイトから視線を逸らせられない。
何故だ? 解が出てこない。私は一体どれを選択すれば良いんだ・・・?

ふと、かつて見た都合のいい夢を思い出す。
シェフィ達とグラズヘイム城の庭園で再会した夢だ。
シェフィは言っていた。私の幸せをいつまでも願っている、と。
我ながら都合のいい夢だと当時は思って自己嫌悪していたな・・・。

(・・・・なぁ、シェフィ。リエラ。私は・・・・この手を取っていいのだろうか・・・?)

両拳を握りしめる。正直怖いんだ。
声を出す。震えているのが分かる。この世界に来てから、これほどの恐怖は無かった。

「フェイト。後悔しないのか?」

「絶対しない」

「私が残る方法、対人契約の事は聞いているな?」

「聞いた」

「いいのか? 後戻りできないぞ」

「絶対大丈夫」

「きっと辛い事が待っているぞ」

「絶対そんなこと無い」

「絶対は無い。無いんだ、フェイト」

「私の絶対は絶対。だから問題ないよ」

「・・・・・まったく」

フェイトの言葉に救われた気がした。
心が軽くなるような、濃い靄が晴れていくような、そんな感じだ。
シェフィ、リエラ。私は、フェイトの手を取るよ。

――あなたの幸せを私たちは願い続ける――

最後にまた二人の声が聞こえたような気がした。
やはり都合のいい言葉だ。だが、それが私の一歩を助けてくれた。

(ありがとう)

フェイトの左手を取って、指環に口づけする。
そしてフェイトの顔を見ると真っ赤にして、オロオロし始める。

「私の負けだよ、フェイト。私も、君の側で生きようと思う。これからも、私と共に歩んでくれるか?」

「うん・・・うん! うん!」

次々と溢れてくる涙を拭いながら何度も頷くフェイト。
そんな嬉しそうな顔を見せられたら、こっちまで嬉しくなるだろうが。

「ルシルパパーー!!」

嬉し泣きの止まらないフェイトに困っていると、まだ眠っているはずのヴィヴィオが駆けてきた。
そのヴィヴィオの後ろにはシャルやなのはたちも一緒に歩いてくる。
全力で駆けてきたヴィヴィオの半ばタックルのような抱きつき。
とは言ってもヴィヴィオは軽い。しっかりと受け止める。

「ルシルパパ、どこにも行かないでね♪」

腰にしがみついたヴィヴィオが私を見上げてきてそう言った。
これは・・・・見ていたな。さっきの私とフェイトのやり取りを・・・・。
優しくそっとヴィヴィオの頭を撫でる。
するとヴィヴィオはくすぐったそうに目を細め笑みを浮かべた。
あぁ、悪くない。こういうのも、やはり悪くない。

「やっと決心したんだね、ルシル」

「ああ。満足か、シャル?」

「うん。・・・・・ちゃんと幸せになってよね」

ここまでお膳立てされたんだ。なってやるさ。
この世界で、フェイトたちと共に新たな時間を生きてやるよ。
フェイトの周りを囲うなのはたちも嬉しそうに抱き合っている。
さっきまでの暗い雰囲気が根こそぎ吹き飛んでいるような光景に、自然と笑みが零れる。

『あとは、テルミナスの事だけだね』

シャルからのリンク。そう、これからもフェイトたちと居続けるには、テルミナスを斃す必要がある。

『それについてだが。さっきフェイトが来るまで神意の玉座とリンクして、ある策を立てた。
上手くいけば、恐らくテルミナスに勝てる。というより絶対に勝つ』

一人ここで対テルミナス戦の事をただひたすらに考えていた。
フェイトの想いに応えるまでは自己犠牲の策だったが、応えた以上はある程度変更する必要がある。
生き残って、フェイトと対人契約を結ぶ。

『そっか。教えて、その策の内容を。私は何だってするから』

『・・・すまない、シャル』

私一人残り、シャルだけは還る。それに負い目を感じる。
だというのに、シャルは偽りのない笑みを浮かべて、

『私はもう十分だよ。これだけの思い出があれば、これからも頑張っていける』

そう言った。するとシャルはヘッドロックをあまりにも唐突に私にかけた。

「痛だだだだだだだ!!」

「フェイトー! こんな頭の固い義弟だけど、よろしくねーー!!」

「シャル・・・、うん!」

フェイト、そこは笑みで応える場面ではなく、シャルを止めるところだ。
なのはたちもそんな笑っていないで助けてくれ。
それから一分くらい掛けられっぱなしのヘッドロック。
解放された時には酷い頭痛に悩まされていた。

「シャルちゃん、ルシル君。いつ戦いに行くの?」


†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††


さっきまで笑みだったなのはがそう訊いてきた。
それはつまり、あとどのくらいこの世界にいられるのか、ということだ。

「えーっと、界律から何も言ってこない以上はどうしようもないかな」

現状維持で待機。それが今の私とルシルに与えられている命令。
テルミナス出現までは何もすることが無い。

「それやったら、アレ出来るな」

「そうですね、はやてちゃん」

「「???」」

私とルシルは顔を見合わせて、首を傾げる。
アレが出来るって、何をするつもりなんだろう・・・?
再び食堂に案内される私とルシル。
食堂に入っていったみんなに続こうとしたら、

「セインテストとフライハイトはここで待ってろ。いいか? 絶対に覗くなよ?」

ヴィータにそう釘を刺されて、私とルシルは大人しく廊下で待っていた。
それからどれくらいしただろう。長くも無く短くも無い時間が経って、ようやく呼ばれた。
入口を潜った瞬間、パンパン!と破裂音が響いた。
それと同時に私の顔にかかる色とりどりの・・・・・紙テープ?

「クラッカー・・・・?」

そう、今の破裂音の正体はクラッカーだ。
なのはたち一人一人が使用済のクラッカーを持っていた。

「ハハ・・・あははは。忘れてた。今日誕生日だよ」

今朝のアリサとすずかから貰った誕生日プレゼントを忘れるほどに、いろんな事が起き過ぎた今日。
いくつかのテーブルに乗せられたパーティー料理。
すごくいい香りがする。もう人間の身体じゃないのに、空腹感が私を襲った。

「最後ならちゃんと送りださんとな。今までお世話になったシャルちゃんの一足早い旅立ちや。
そしてフェイトちゃんとルシル君を祝う意味を込めたパーティーでもあるな」

はやてがそう言って、私とルシルを席へと案内した。
嬉しい。感激の涙が出そう。だけど、もう泣かないよ。
もう涙は必要ないから。今から最後まで必要なのは最高の笑み、ただ一つ。

「やっぱりシャーリーたちも起こそうか? 私たちだけだと少し寂しい気もするし・・・・」

「ううん。いいよ、起こさなくても。起きてこないっていう事はそれだけ反動が強い事だから」

テルミナスに操られて、こうして動いているなのはたちはすごいとしか言いようがない。
普通ならシャーリーたちのようにしばらく寝込むはずなんだし。恐ろしい。

それから始まる最後の食事会。
リンディさんと騎士カリムからはお祝いの言葉をくれた。
でも、もう管理局が動いている事でリンディさんは一足早くに退場。
騎士カリムも教会の仕事が溜まっているという事だった。
最後まで謝ってくれていたけど、お祝いの言葉だけで本当に十分。すごく嬉しかった。

にしても、なのはたちが作った料理も文句のつけどころの無い絶品。
ルシルも本当に美味しそうに食べているし。私もニヤけるよ。
それから楽しく話をしながら食事会は終わった。
みんながゆったりとして、なのはの作ったデザートのケーキを食べていると、

「シャルちゃん」

なのはたちが綺麗に包装された箱とか紙袋を持って来た。
分かる、分かるよ。誕生日プレゼントだよね。

「これ、誕生日プレゼントなんだけど・・・・。シャルちゃん、いなくなるんだよね・・・・」

「・・・・・あー、うん。でも大丈夫。何くれるのかなぁ❤」

たとえ消えるとしても、親友たちの心の籠もったプレゼントは持っていく。
その術はもうある。というか、この世界で手に入れた物を持って還る為に組んだようなものだ。
私の創世結界“剣神の星天城(ヘルシャー・シュロス)”は。

なのはたちから貰ったプレゼントの包み紙を綺麗に取っていく。
可愛い服やリボン、アクセサリーなどなど。どれも私を飾る装飾品。
私のようなガサツ(自覚は少々ある)な女に似合うのか分からないけど、贈ってくれるんなら大事にしないとね♪
で、ユーノは本? ルシルにじゃなくて、私に本・・・?
なに? 少しは頭のいい本でも読めってか?と思ったら、いろんなプレゼントを貰った。うわっ、気を使わせたみたい。

「ありがとう、みんな。大切に使わせてもらうから」

「うん。でもどうするの? このプレゼント・・・」

「そうだぞ、シャル。私の英知の書庫(アルヴィト)の蔵ようなものでもない限り、持っていけないぞ?」

思い思いに心配そうな声をかけてくるけど、だから創世結界があるんだって。

「フフフ。私はやっぱり天才だったのよ!!」

私の自信満々かつ仰々しい態度に、みんなが若干引いた。引くな引くな。

「私の右手をご覧ください。種も仕掛けもございません。
ご確認を。では、1・・・2・・・3!! はい、どうぞ!」

「「「「「「「???」」」」」」」」

「あ、それって・・・!」

「まさか・・・完成させていたのか・・・!」

私の右手の上に生まれた黒い穴を見ての反応は様々。
なのははたぶんルシルの創世結界を見たんだろう。ルシルから聞いていたし。
ルシルは軽く驚いている。何せ半年で完成させたんだから当然かな。
フェイトたちは?顔。知らないなら当然かな。
記憶の中で見せられた創世結界はどれも現実に展開されているものばかりだったし。

「改めてありがとう、みんな」

包装し直して、プレゼントの山を黒い穴“剣神の星天城(ヘルシャー・シュロス)”の宝物庫に全て送る。
送り終えた後、なのはたちが眠っているシャーリーたちの分も持ってきてくれた。
感動しながら大事に大事に宝物庫に送っていく。

「そう言えば、ルシルにはないの?」

「ん? あぁ、私は残るからな。テルミナスを斃し、戻ってきてから受け取ることにした」

ホントに良い笑みを浮かべて嬉しそうなルシル。
ほら、ルシルにはやっぱりそういう顔が一番似合うよ。

「そっか」

プレゼントも貰った。美味しいご飯もいっぱい食べた。
時間はもう16時。ちょっと短かったけど楽しく過ごせた。うん。もう十分だよ。
そして最後に、私たちのアルバムを観る事になった。
9歳という幼少からつい最近までの、たくさんの思い出が詰まったアルバム。
モニターに次々と映し出されていく笑いを誘う画像や映像の数々。

「誰だ!? こんなものを取っておいたのは!?」

「「「「「「「可愛い!!」」」」」」」

ルシルの初女装の画像。なのはやフェイト、アリサにすずかと初詣した時のものだ。
確か、フェイトの爆弾にルシルは泣きながらのダッシュで消えたっけ。

(懐かしいなー)

小学校時代での旅行画像。そこでもまたルシルの女装、しかも映像。
ルシルは自分の女装姿が出てくるたびに怒鳴って、果てには沈んだ。

「ル、ルシルさんには女装癖が・・・!?」

「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

楽しいな。ホントに楽しいよ。
エリオやキャロの小さい頃(今でも小さいけど)の画像や写真で、二人が真っ赤になったりもした。
可愛いなぁ、二人とも。他にも生まれたばかりのリインの失敗映像。

「キャーキャー、見ないでください!! もー! はやてちゃん!」

「まあまあ。こんな可愛ええリインはなかなか見られへんで?」

リインの猛抗議をヒラヒラかわすはやて。
スバルとギンガの大食い画像なども出てきた。

「アレだけ食べて太らないっていうのも羨ましいなぁ」

それが私の素直な感想だった。
そんな二人は今さら恥ずかしがる事無いのに顔を少し赤らめていた。
六課での生活の画像や映像も増えてきた。六課設立初日のものとか。
みんなが笑ってみている中、私の隣に座るなのはが私の手を握ってきた。
私もそっと握り返す。すると、なのはがもっと強く握ってきた。その震える左手で。

「なのは・・・」

アルバムが見えやすいように少し暗くされた食堂。
そこで、なのはは誰にも気づかれないように静かに泣いていた。
ううん、たぶんみんなは気づいていても、気づかないフリをしていると思う。

「なのは」

なのはの名前を口にすると、なのはは少しずつ嗚咽をこぼし始めた。

「ぅく・・・ひっく・・・シャル・・・っく・・・ちゃん・・・」

私はなのはの頭を胸に抱きかかえる。
なのはは何の抵抗もしないで受け入れてくれた。
何度も何度も、あやすようになのはの頭を撫でる。

「ほら、もう泣かないの。折角の美人が台無しだよ。
ねぇ。今は泣いていても、別れの時はちゃんと笑っててよね」

「シャルちゃん、シャルちゃん・・・うっく・・・シャル・・・っ・・・ちゃん・・・」

私はしばらくなのはの頭を撫で続けた。

――ミッドチルダ界律より剣劇の極致に至りし者及び天秤の狭間で揺れし者へ
破滅の使徒終極との戦場を用意 その場にて殲滅せよ――

(・・・・来た、か)

ルシルの方を見ると、私に視線を移して頷いた。
さぁ、行こう。なのはたちを、この世界を護る為に。

「大好きだよ、なのは」

最後に力強くなのはを抱く。この大好きな親友の温もりを忘れないために。

「シャルちゃん!!」

私が離れた事で、なのはにも分かってしまったようだ。
もうこれでお別れなんだってことが・・・。
なのはの大声にビクッとするヴィヴィオを始めとしたフェイトたち。

「みんな。今までお世話になりました。たった今、界律から最後の命令が来たの」

みんなが一斉に立ち上がる。さっきまでの楽しかった雰囲気が一気に消し飛んだ。

「来たのか・・・テルミナスが」

「うん。それじゃあお願いできるかな、クロノ」

「ああ。いつでも次元航行艦を一隻出せるようにしてある。どこに向かえばいい?」

「第28無人世界。そこが戦場として用意された」

ルシルとフェイトの対人契約のために、フェイトにはルシルの元へとすぐに駆けつけられるようにね。
だからこそ、戦場になる世界の近くにいてもらわないといけない。
ミッドチルダでの戦闘ならそんな手間は要らないんだけど、万が一別の世界で戦う事になったらということで、クロノに頼んでおいた。

「分かった。その世界の軌道上で待っていればいいんだな」

対人契約。守護神、しかも不完全なルシルとマリアにしか出来ない裏技だ。
守護神は本契約を終えると、“界律”との繋がりが消えたことで、“神意の玉座”に還るまでの短い時間フリーな状態になる。
その状態でその世界の住人と契約を交わす。
そうすることで、全ての世界に“生きている”という概念を持つルシルは、その契約者に引っ張られて新たな生を得るというもの。
もちろん肉体を得るし、成長もする。その反面、その世界のルールに則っていろいろと変更される。
ルシルならきっと魔術を使えなくなるだろう。魔力炉(システム)もリンカーコアに変更されるだろうし。

「ん、ありがと」

「フェイト。テルミナスが消えたらすぐにルシルの元に行って契約ね」

「うん。大丈夫」

さすがに私たちとテルミナスが戦闘中の世界に入れるわけにはいかない。
ルシルとフェイトは頷き合って確認している。これなら大丈夫そうだ。
もうルシルとフェイトの心配はもう必要ないかな。あとは、

「なのは。ちょっといいかな」

「ぅく、っく・・・なに・・・?」

必死に涙を拭って、笑おうとしているなのは。
そんななのはがとても愛おしい。だからテルミナス如きに奪わせない。

「トロイメライ、預かってくれるかな・・・?」

「え?」

右手の中指にはめた待機状態となっている“トロイメライ”の指環をなのはに手渡す。
驚いたような目をして、何度も私と“トロイメライ”を交互に見る。

「トロイメライは残していくよ。勝手だけどごめんね。
なのはたちに私の事を忘れてほしくないんだ」

そう言ったら、なのはたちの顔色が一気に変わった。

「忘れるわけない!!」

「そうだよ! これからもずっと友達だよ!」

「もう会えなくなるとしても、私らはずっと友達や!!」

「そうですよ! あたしは絶対に忘れません!」

「あたしもです! シャルさんと一緒に過ごした時間は忘れません」

「私もです。シャルさんとの時間はとても楽しいものでした。だから忘れる事なんてありえないです」

「僕もです! 僕もシャルさんの事ずっと忘れません!」

「シャルさん、わたしもずっとシャルさんの事憶えてます」

「リインもです!」

「もちろん私もよ、フライハイトちゃん」

「えっと・・・、ありがとう、みんな。でもビックリしたよ。
そう・・・だよね。うん。私も絶対に忘れないよ、みんなの事」

嬉しい事を言ってくれる本当の友達たち。だから心配せずに行けるよ。
なのはたちがそう言うなら、きっと忘れないでいてくれると信じられるから。

「僕だって忘れないよ。なのはの次に友達になってくれたシャルだから」

「そうだな。僕としても今までの人生の中で、一番驚かされたのはシャルだったからな。
出会ってすぐに怒鳴られるわ、殴られるわ、で大変だったな」

「あー、そう言えばクロノはそうだったっけ?」

あはは、懐かしいな。

「フライハイト」

「シグナム・・・・」

「預けていた勝負だが・・・。私の負けでかまわん」

「・・・・・へぇ。どういう風の吹きまわし?」

シグナムがそんなこと言うなんて。

「お前の本当の力を見た以上、勝てるなどとは思わん」

「そう。シグナムがそう言うなら私の勝ちね。・・・・じゃあシグナム、元気でね」

この世界での最高のライバルだったシグナムと握手を交わす。

「ヴィータも元気でね」

「おう。じゃあな、シャルロッテ」

「・・・ヴィータ。・・・うん、ヴィーちゃん」

「なんだそれ!?」

はいはい、こんな事でいちいち目くじら立てないの。
ヴィータの頭をナデナデする。そっとナデナデ♪ 優しくナデナデ♪

「くぅぅぅ・・・。記念に今日だけ許してやる」

あはは、偉い偉い。元気でねヴィータ。

「ザフィーラも今までありがとね」

「ああ。我もお前には本当に感謝している」

狼形態のザフィーラの頭を撫でる。
フサフサだ。小さい頃に何回か乗せてもらったっけ。

「アルフ。これからはフェイトだけじゃなくてルシルもお願いね」

「あいよ。任せておきな。だからシャル、安心して還っておくれよ」

「ありがとう」

小さい子供形態のアルフを抱きしめる。温かい。それじゃ最後に、

「ヴィヴィオも元気でね」

「シャルさんも。・・・・シャルさん・・・!」

「おう? よしよし。なのはママたちの言う事聞いて、立派な女の子になるんだよ」

腰に抱きついてきたヴィヴィオを、私もしゃがみ込んで抱きしめる。
うわぁ、やっぱり柔らかいなぁ、ヴィヴィオは。

「ルシル」

「ん? どうしたフェイト?」

ヴィヴィオの抱き心地にうっとりしてると、フェイトが小さな箱を持ってルシルに歩み寄る。
あの箱はルシルの誕生日プレゼントかな。

「お守りという事で、よかったらはめて」

「・・・指環? ああ、ありがとうフェイト。待っているよ」

「うん。待ってて。必ず迎えに行くから」

えー、あそこの場所だけ熱いです。
物凄き勢いであの場所だけ温度が急上昇です。

「じゃあシャル。そろそろ・・・」

「あ、うん・・・」

食堂からロビーに向かう。無言のままロビーに着いて、

「・・・・それじゃあ行くよ。・・・バイバイ」

なのはたちに手を振る。サヨナラは言わない。
言いたくない。だからバイバイだ。

「シャルちゃん」

なのはに呼びとめられた。

「いってらっしゃい、シャルちゃん」

「あ」

なのはに続いて、みんなも一斉に「いってらっしゃい」と言ってくれた。
もう「ただいま」って返せない私。それなのに「いってらっしゃい」って。

「・・・・いってきます!!」

「いってきます!」

今の私が出来る最高の笑みで言う。ルシルも続いて「いってきます」って口にした。

「さぁ行こうか、シャル」

「うん!」

外に出て、ミッドチルダのこれで最後になる空気を吸う。
いってきます。うん、良い言葉だ。

「そして、君の力を使わせてもらうぞ、マリア」

「はい。ルシリオン様」

少し離れた木陰から、桃色の外套を纏った5th・テスタメントのマリアが姿を現した。

「お願いね、マリア」

「はい♪」

そうして、私たちはミッドチルダから旅立った。

もう多くは語りません。突っ込みの方もご勘弁を。
残り二話。次回はラストバトルです。


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