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遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅳ
「「ここに今誓いを立てる」」

最大禁呪“ラグナロク”によって、次々とヴィーグリーズに居た人命が失われていく。
その“ラグナロク”発動地点。強烈な衝撃波が生み出され続けるその中心である漆黒の光球。
そこに、過去ルシリオンとフノスが、生き残った同盟連合両軍の兵たちを逃がすために、そして“ラグナロク”を再封印するためにいた。

過去ルシリオンは“ラグナロク”を封じるために完全解放した“グングニル”や他無数の神器を、発動地点を囲う様に突き立て、結界とした神器群を維持していた。
それと並行して行われようとしている魔術。

「我、フノス・クルセイド・アースガルド」

「我、ルシリオン・セインテスト・アースガルド」

過去ルシリオンとフノスが互いに自分の両手の親指の肉を切り、手の平を重ねるようにして傷口を合わせる。
今行われているのは“契約(メンタルリンク)”と呼ばれる儀式魔術。
自分と相手の傷口を合わせ、血と魔力を混合することで魔術炉(システム)をリンクさせるというもの。
そして魔力をどちらからでも送ることが可能となる。
魔術炉(システム)に掛かる負担も分けることで、片方の無茶な術式を補助することが出来ようになる、本来は主従を誓うための儀式。
しかし今は“ラグナロク”を停止させるために必要な魔力を用意するための緊急用のものだ。

「「我ら、ここに誓いを築き、主従の理を宣言す」」

二人の魔術炉(システム)がリンクを開始し、混合し暴れ回る魔力を制御する。
そして最後に、

「「契約(メンタルリンク)」」

過去ルシリオンとフノスが口づけを交わす。儀式は晴れて終了となる。
フノスを主とし、彼女から流れる魔力、過去ルシリオンは結界を構築する神器群に流し、結界の効果を最高にする。
“ラグナロク”の破壊が停止するのを確認したフノスは、悲しそうな表情をする過去ルシリオンに微笑み返す。
対する過去ルシリオンは、自分が犯した後戻りできない罪に歯がみし、フノスに見えないように涙を流した。

「目覚めて。私の神剣・・・グラム!」

魔道王フノスの有する神器、神造兵装第二位“神剣グラム”。
“グングニル”と同様にクリスタルのような刀身を持つ両刃の剣“グラム”が虹色の輝きを放つ。
そしてフノスは、彼女の固有能力“空間干渉”を発動。
“空間干渉”を今から放とうとする真技に付加する。
その様子を背後で感じ取った過去ルシリオンが「すまない」と激しく後悔した表情で呟く。
もちろんフノスには届かない。謝って許されるような事ではないのだから。

「っ・・・くそ・・・。今だ!! フノス!!!」

後ろに控えていたフノスが、過去ルシリオンの合図とともに“ラグナロク”の中心へと駆ける。
銀の長髪が波打ち、コバルトブルーの瞳は“ラグナロク”の中心のみを映し、その表情は決意と覚悟に満ちていた。
が、その顔色は青を通り越して白かった。血の気の無い、まるで死人のように。

フノスが過去ルシリオンの脇を通り過ぎる。
一瞬だけ交差する二人の視線。片や笑み。片や泣き。
フノスは優しく「大丈夫」とだけ告げ、そのまま“ラグナロク”の中心へと駆ける。
過去ルシリオンは、背を向け走り去ろうとするフノスへと右手を伸ばす。
だが彼の右手は、フノスの後ろ髪の毛先を少し触れるだけとなり、フノスを止める事は出来なかった。

「くそっ・・・。何がみんな護ってやる、だ。私は、義妹一人護れないのか・・・!」

“ラグナロク”を抑える結界の楔たる神器群への魔力供給を停止させる過去ルシリオン。
結界が消えた事で再度猛威を揮う“ラグナロク”。
今度は過去ルシリオンからの魔力供給を受けたフノスが、自身と過去ルシリオン分の魔力を合わせ、“ラグナロク”へと最接近する。
迫る衝撃波を、一切の無駄のない、流れるような動きで回避し、

「真技・・・!」

フノスは“グラム”の柄を両手で握り締める。
表層世界全体とも言える全ての空間に張り巡らされた“ラグナロク”の力。
それを寸断し世界をこれ以上破壊させないために、フノスは跳躍。そして、

神徒の(アポストリック)――」

“グラム”を頭上に掲げるようにして、“ラグナロク”の中心へと落ち行く。
虹色の両翼を背に展開し、フノスは衝撃波を掠りつつも回避。

「――剣閃(セイバー)ァァァーーーーーーーーッ!!!!」

“グラム”の刀身を包む虹色の輝きが伸び、巨大な光剣となる。
それを一気に振り下ろし、“ラグナロク”に巨剣の一閃を叩きこんだ。
手応えを確信し、フノスはすぐさま“ラグナロク”より離れようとするが、足がもつれて倒れ込みそうになる。

「フェンリル!!」

過去ルシリオンが叫び、それに応え姿を現す彼の使い魔フェンリル。
その姿は本来の巨大な漆黒の魔狼となっていた。
フノスの元へと近寄り、いつもの少女の姿となって彼女を抱え上げる。

「フェン・・・リル・・・?」

「はい、フノス様。すぐにシェフィリス様のところへと御連れ致します」

フェンリルはフノスを背負い、再度巨大な魔狼へと姿を変えた。
そして一回の跳躍で、ヴィーグリーズより避難しようとしていたアースガルド・クルセイド王家保有超巨大戦艦“フリングホルニ”の艦上へと移動、人型へと戻り甲板へと降り立った。

それを見守った過去ルシリオンは、フノスの真技によって再封印され始める“ラグナロク”へと近づく。
止めを刺すために、展開した蒼翼で周囲の魔力を収集する。
そのまま“グングニル”を完全解放し、“ラグナロク”へと投擲した。
直撃を受け、“ラグナロク”は完全に封印された。

≪このラグナロクの影響によって滅んだ世界は大小合わせて840強。
そして表層世界、つまりは私たち人間の在る単一次元が分かたれてしまった。
これが再誕神話に記された単一次元だった表層世界の終わり、複数の次元世界への再生。再誕だ≫

一つの次元が“ラグナロク”によって寸断され、空間を隔てた次元世界が生まれた。
これが、古のルシリオンたちの世界の終わりで、今のなのはたちの存在する次元世界の始まりである。

なのはたちは何も言えなかった。
まさか次元世界の始まりを見る事になるとは思わなかったからだ。
それ以前に、次元世界の始まりなんてことすら考えたこともなかったはずだ。
生まれた時から次元世界を知る世界にいた、なのはとはやてを除くフェイトたちは特に驚愕していた。
全てを覆されたようなそんな感覚に襲われ、学者であるユーノは放心状態だ。

≪ラグナロクが与えた影響はそれだけじゃなかった≫

ルシリオンが重々しく告げ、なのはたちが絶句する中場面が変わる。

ルシリオンは語る。
アースガルドも“ラグナロク”によって甚大な被害を被っていた。
四王家の治める王領はほとんどが滅んでいた。臣民もまた残さずに、だ。
アースガルドは、全て空に浮かぶ空中大陸で構成され、その下は全部海といった世界だ。
“ラグナロク”の影響で、それらが海に落ち、沈んだ。

残ったのが、高さが2万mの“支柱塔ユグドラシル”と呼ばれるアースガルドの中心にそびえ立つ塔。
そしてセインテスト王領、クルセイド王領の三つ。
同盟世界もまた似たようなもので、ムスペルヘイムとニダヴェリールに至ってはその形すら残っていないのだと。

そんななのはたちが居るのは、そのユグドラシルが有する万を超える部屋の一つ。
アンスール・リーダー、フノスの寝室だった。
そこは豪華絢爛という言葉が一番当てはまる部屋。
その寝室に置かれた天蓋付きのベッドに横たわるのは、シーツを胸のあたりまで被ったフノスだ。
寝息すら聞こえない、本当に生きているのかも怪しいくらいに静かな眠りだ。

≪フノスはただでさえ体が弱く短命の少女だった。魔術を、ましてや戦うなんて自殺行為。
イヴ姉様、イヴィリシリアのフノスに対する過保護もそこから来ている。
それなのに、彼女は大戦でウリベルトと戦い、そして・・・・≫

「ラグナロクを討った」とルシリオンは呟いた。

≪いくら“ラグナロク”を再封印するためにはフノスの力が必要だったとはいえ、私は体の弱い彼女と契約(メンタルリンク)した≫

ルシリオンが、眠りについているフノスへと歩み寄る。
触れることが出来ないのを理解しつつ、彼はその指でフノスの前髪を撫でた。

≪私がフノスを殺したようなものだ。こうなることを知りつつ契約(メンタルリンク)したのだから。
・・・・大戦終結から一年。明日だ。彼女がその生を終えるのは。
だが、これから起こることを見ることなく逝けた彼女は、幸せな方なのかもしれない≫

場面が変わる。
フノスの遺体が納められた棺を、ユグドラシルの霊廟へと運ぶアンスールメンバー。
ルシリオンは、なのはたちにフノスの死に際を見せなかった。
情けなく泣く自分を見られたくなかったからだ。
過去ルシリオンの目が赤く腫れている。それだけでなのはたちも分かった。
アンスール全員が未だに涙を流す。が、過去ルシリオンだけはもう涙を流していなかった。
フノスの遺体を霊廟へと納める場面が終わり、さらに場面が変わる。

「ヴァナヘイムが!?」

「はい、お父様。世界監視統制システム(エリスリナ)からの報告です」

そこはユグドラシルの最下層“ノルンの泉”。
戦天使(ヴァルキリー)全機を統括するシステム“アプリコット・ノルン・ウルド。
世界を監視する目を担うシステム“エリスリナ・ノルン・ヴェルダンディ。
アースガルドと他世界を繋ぐ門を創りだすシステム“リナリア・ノルン・スクルド”。
その統括三女神(ノルニル)システムが置かれた場所。

今、そこには過去ルシリオンと長女アプリコットが話をしていた。
大戦終結から八年後、ヴァナヘイムが活動を再開したとの報告を、過去ルシリオンは受けていた。
29歳となった過去ルシリオンは(アプリコット)と話を続ける。

「ヴァナヘイムは復興作業を途中で止め、ここアースガルドに攻め込む準備をしているそうなんです」

ヴァナヘイム。アンスール率いる同盟軍が陥落した連合主要世界の一つだ。
あれから八年経った今、ヴァナヘイムは敗戦世界として存在している。
“ラグナロク”によって、ウトガルドとスリュムヘイムは完全滅亡し、ヨツンヘイムは何とか存続している状態。
ヴァナヘイムの被害も甚大だったが、他の三世界に比べればマシなものだった。

「それは臣民の意を酌んだものなのか?」

「いえ。現皇帝カトラス・シュープリーム・ヴァナヘイムによる独裁のようです。
アースガルドを攻め落とし、その魔道技術を手にして、一気に次元世界を支配するつもりかと」

「なるほど。しかしヴァナヘイムに世界を渡る術はあるのか?」

「申し訳ありません。不明です。ですが、ラグナロクを生き残った世界ですので、あるかと思われます。」

「そうだな。・・・・くそ、こっちは復興作業がまだだというのに。
エリスリナ! 引き続き、ヴァナヘイムの動向の監視を頼む!!」

過去ルシリオンはアプリコットから視線を外し、泉の中央に浮かぶ巨大なクリスタルに叫ぶ。
すると、

「了解です、お父様!」

そのクリスタルから、フワッと次女エリスリナが現れてはそう答え、また姿を消した。

「アプリコット。念のために戦天使(ヴァルキリー)の調整を頼む」

「了解いたしました、お父様」

そしてアプリコットもまた、クリスタルへと姿を消した。
過去ルシリオンは難しい顔をしながら、ユグドラシル上層階へと向かった。

≪また・・・戦争が始まるんですか・・・?≫

キャロが涙目でルシリオンへと尋ねた。
ルシリオンは「ああ」とだけ答えて、再度場面を変えた。

そこは戦場だった。名の無い世界――いや、名があった世界。
元夢幻世界ウトガルド。“ラグナロク”によって滅んだ連合主要世界の一つだ。
何も無い光景が広がる寂しい世界と変わり果ててしまっていた。

そこで戦いがあった。アンスールとヴァナヘイム軍の戦闘だ。
八年前まで続いていた大戦では最強だったアンスール。
そのアンスールが敗れた。相手は連合主力の一つだったA.M.T.I.S.の最新鋭機。
近接のタイプ・セイバーと遠距離のタイプ・アーティラリーの複合タイプ・ハイブリット機。
ロールアウトする前に先の大戦が終わってしまい、工廠に封印されていた機体。
ランクにしてXXランク。過去ルシリオンとステアのEXランク二人がいれば余裕で勝てる戦いだったはずだ。
だが負けた。圧倒的な差とは言わずとも、それでもアンスールは負けた。

≪敗北の要因・・・・。ラグナロクの影響による界律の変調。
魔術師一人における魔力使用総量が著しく低下させられた。
最大X+ランク。それ以上は界律が認めない、許さない。
人間ではないA.M.T.I.S.はその例外。だから後れを取ることとなった≫

ルシリオンは続ける。
彼らの使い魔であるフェンリルとガルムが行動不能になるまで弱体化させられた事。
その他にも、魔術師の証たる魔力炉(システム)を持たない子供が生まれる事が多くなってきた事。
魔力を持たない人間が生まれるのは初めての事。
そして、魔術や魔術師が次元世界から途絶え始めた事。
リインカーコアという器官を新たに持って生まれてくる人間が現れるまで、魔術は滅んでいた事。
全ては“ラグナロク”による界律への悪影響の所為だという事を。

場面が変わる。戦天使(ヴァルキリー)の母であり総司令官シェフィリスと父である過去ルシリオンが、その数を一千へと増やした戦天使(ヴァルキリー)全機を前にしている光景だ。

「みんなも知っての通り私たちアンスールはヴァナヘイム軍に敗れた。
界律による魔術師能力制限によって。だからあなたたちに頼ることしか出来なくなったしまったの」

戦天使(ヴァルキリー)全機は黙って(シェフィリス)の言う事を聞いている。

「もう一度お前たちを戦場に出す事をすまなく思う」

シェフィリスの隣、過去ルシリオンが復興用に調整した戦天使(ヴァルキリー)全機へと謝る。
彼らは約束していた。争いの無い世界で最期まで共に生きようと。
しかしそれが破られる。ヴァナヘイムの覇道というくだらない野望のために。
だが、戦天使(ヴァルキリー)たちは笑う。そんなことで謝らないでください、と。
自分たちは父過去ルシリオンと母シェフィリス、そしてその仲間であるアンスールを護る為の存在。
だから戦う事に何の不満も無く、逆にアンスールの力になれることこそが最大の喜びだと。

これが悲劇の始まりとも知らず、戦天使(ヴァルキリー)の参戦が決まった。
この二日後、ヴァナヘイムへと進軍を開始したアンスールと戦天使(ヴァルキリー)部隊。
A.M.T.I.S.の相手を全面的に戦天使(ヴァルキリー)が引き受け、アンスールはカトラス帝の身柄拘束に動き出す。

タナクヴィスル川を掛かる大橋。
八年前に、シェフィリスがグラシオン率いる騎士団と連合軍を潰した場所。
そこでまた戦いが起きようとしていた。
戦天使(ヴァルキリー)千機とA.M.T.I.S.八百機の大混戦。人間サイズと半端じゃない巨人との激戦。

アンスールは、A.M.T.I.S.の数が減ってから帝都を目指そうとしていた。
戦闘開始から30分が経過しようという時、それは起きた。

「何をしているブリュンヒルデ隊! 何故味方を攻撃する!?」

前線で起こり始める戦天使(ヴァルキリー)の同士討ち。
第一世代戦天使(ヴァルキリー)ブリュンヒルデ隊。最高レベルの実力を誇る少数精鋭部隊。
そのブリュンヒルデ隊が、味方戦天使(ヴァルキリー)へと攻撃を開始した。

「何が起きているの!?」

「どういうことだ、ガーデンベルグ!?」

ガーデンベルグと呼ばれた戦天使(ヴァルキリー)が、魔造兵装第二位“呪神剣ユルソーン“を手に、彼の部隊ブリュンヒルデを率いて反逆を開始。
次いで、

「報告します!! ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊が、ヴァナヘイム軍につきました!!」

ランドグリーズ隊シリアル04リオが、アンスールの待機場所へと報告しに来た。
驚愕するアンスールメンバー。そこに、

『アンスール諸君、聞いているか?
戦導世界ヴァナヘイム皇帝カトラス・シュ―プリーム・ヴァナヘイムだ』

帝都から聞こえるカトラス帝の声が、タナクヴィスル川を挟んだ待機場所へと届いた。

『突然の戦天使(ヴァルキリー)の反逆に驚いている事だろう。俺はな、この日を待っていた。
お前たちの技術の粋を結集した戦天使を操り、俺の手駒にする今日この日を。
大戦中に散々情報を集めさせたおかげで、この計画がようやく陽の目を浴びたよ。
戦天使ヴァルキリーに、特製のウイルスを流し込み我が下僕とする“堕天使計画”。
これでお前たちは終わりだよ、アンスール。大人しく投降してくれると嬉しいな』

アンスールは――特に過去ルシリオンとシェフィリスは――頭の中が真っ白になった。
戦天使(ヴァルキリー)を操るなんて信じられない、不可能だと。
しかし現に、ブリュンヒルデ隊、ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊が反旗を翻した。
事実だと受け止めるしかない。納得できないが、今は撤退する事を第一として行動を開始した。

場面が変わる。
堕天使計画より四日後、アンスールメンバーの集まる会議場で、過去ルシリオンたちは耳を疑う報告をエリスリナから聞いていた。

「マジ・・・なのか・・・?」

「はい。ヴァナヘイムは、堕天使によって完全に滅亡しました」

プレンセレリウスに答え、エリスリナが再度告げる。
カトラス率いるヴァナヘイムが、操って駒とした堕天使によって滅ぼされたと。

「どういうこと?」

ステアの疑問に、アプリコットが答える。

「おそらくですが、戦天使(ヴァルキリー)のプログラムに完全介入出来るほどのウイルスではなかったのかと。
相反するプログラムの所為で暴走状態になったのかと思われます」

「お父様とお母様の組んだプログラムですし」と付け足すアプリコット。

「アプリコット。堕天使と繋がる貴女から見て、堕天使は直せそう?」

19歳となった大人のシエルが、アプリコットへと尋ねる。

「・・・・それについては、先程お父様とお母様と話したのですが、リカバリーはもう不可能なのです。
時間をかけて行えばいつかは、ですが、これ以上統括三女神(ノルニル)システムと堕天使を繋げておくと、私たち姉妹にまでウイルスが侵入、正常な戦天使(ヴァルキリー)含む私たちまでウイルスに侵され暴走する事になると思います」

苦々しく答えるアプリコット。
それはつまり、ブリュンヒルデ隊、ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊を諦めろということだった。
正常な天使と女神を救いたいなら、堕ちた天使は殺せということだった。

沈黙が流れる。
戦天使(ヴァルキリー)の生みの親である過去ルシリオンとシェフィリスの決定には従うつもりでいる他のメンバー。
過去ルシリオンとシャルロッテが口を開くのをただひたすら待とうとしたとき、

「堕天使の掃討を第一として、ステア、戦術戦略の構築を頼む」

大して時間をかけずに過去ルシリオンはステアに告げた。
アプリコットに話を聞いてからの数分間、全力で考えた末の結論だった。

「・・・・それでいいの、ルシル?」

「ああ。堕ちたあの子たちには悪いが、このまま統括三女神(ノルニル)や他の戦天使(ヴァルキリー)を暴走させるわけにはいかない」

光景が一時停止となる。

≪これが大戦終結から八年後で起きた“堕天使戦争”。
再誕神話には記されていない物語だ。
アンスールは、この1カ月半という短すぎる戦争で次々と命を落とし、私もまた・・・≫

フェイトの表情が強張る。その先の言葉を聞きたくないと。
なのはとはやては、フェイトの両側からその震えた手を握る。
フェイトは少し驚いた顔をするが、「大丈夫、ありがとう」と微笑を浮かべた。
アルフやエリオにキャロ、リンディとクロノもまた心配そうにフェイトへと近づき声をかけていく。
そんなフェイトたちを離れた所からルシリオンは見守っていた。

フェイトの表情を見て、ルシリオンは先へ行く事を躊躇った。
しかしフェイトの先の言葉を思い出し、場面を変える。
そこは滅亡世界スヴァルトアールヴヘイム。
アースガルドと共に戦い、そして連合によって滅ぼされた世界。
そこで起きた堕天使戦争の第一戦。

アンスール、第二世代アルヴィト隊、第四世代ラーズグリーズ隊と敵ヘルヴォル隊、A.M.T.I.S.が衝突する。
A.M.T.I.S.の存在が想定外であったため、苦戦を強いられるアンスールと戦天使(ヴァルキリー)各隊。
ただでさえ戦天使(ヴァルキリー)八部隊の中で最も数の多いヘルヴォル隊。
しかもヘルヴォル隊は前線特攻部隊でもある為、各機の実力が高い。
そこにA.M.T.I.S.の最新鋭部隊が追加、圧倒的に不利となる戦いとなった。

「御気をつけください、アリス様。ですがご安心を。私たちが御背中を御守りします」

「ありがとう、レンマーツォ、ミスフィ」

成長したアリスを護るように、アルヴィト隊隊長“星天の槍レンマーツォ”と副隊長“双剣の帝ミスフィ”を含むアルヴィト隊百体が堕天使ヘルヴォル隊と交戦。
アリスは得意の結界術式でサポートし、視界に映る堕天使やA.M.T.I.S.を捕獲していく。
だが、魔力量や堕天使の持つ神器の所為で上手くはいかない。
離れた場所でも激しい戦闘が繰り広げられていた。
互いの戦力に損害を着々と与えていく両勢力。

『ヘルヴォル隊撤退を開始。繰り返す。ヘルヴォル隊は撤退を開始』

風嵐系最強戦天使(ヴァルキリー)だったヘルヴォル隊隊長“戦導の鉄風シュヴァリエル”の戦天使(ヴァルキリー)専用回線による指示が、ヘルヴォル隊各機へ告げられる。
念話阻害が激しい戦場の最中、ヘルヴォル隊は粘ろうと思えばもっと戦えたのに撤退した。
A.M.T.I.S.の何機を自爆させ、それを目晦ましとしての鮮やか過ぎる撤退だった。

撤退というその行動に強烈な胸騒ぎを得た過去ルシリオンとステアは、すぐさまアンスールメンバーの安否確認を行った。
そして知った。大戦時は風迅王と謳われ、連合に恐怖を与えた魔術師イヴィリシリア。
彼女がシュヴァリエルとの一騎打ちに敗れ戦死したのだ。

「イヴ・・・義姉様・・・?」

「ぃやぁ・・・いや・・・」

バッサリと左肩口を裂かれ息絶えたイヴィリシリアの遺体。
風嵐系最強の魔術師イヴィリシリアが、同じく風嵐系最強の堕天使シュヴァリエルに敗れた。
“界律”からの能力制限という状況下での敗北だった。
アンスールらはユグドラシルへと帰還し、イヴィリシリアの遺体は、フノスの眠る棺の隣へと納められた。

アンスール風迅王イヴィリシリア・レアーナ・アースガルド。戦死。

堕天使戦争第二戦。
有人世界での対ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊。
街を破壊して回る堕天使二隊に、雷撃系最強にして戦天使(ヴァルキリー)序列二位“雷滅の殲姫プリメーラ”率いるランドグリーズ隊。
炎熱系最強の“凶狩の紅翼ティーナ”率いるヒルド隊の二隊が交戦。
アンスールは避難誘導に力を注ぐ。
激戦の果て、堕天使を何体か破壊。残った堕天使を退かせる事に成功した。
アンスールからも犠牲者が出ることなく、今回の戦いは終息した。

堕天使戦争第三戦。
また無関係な有人世界での戦い。今回は堕天使全部隊が出現。
戦天使(ヴァルキリー)も全部隊で堕天使と真っ向から交戦を開始。
アンスールは、伏兵として用意されていたA.M.T.I.S.と交戦を開始。
戦術で足りない魔力を補い、次々と撃破していくアンスールだったが、A.M.T.I.S.の自爆行為によって分散させられる。
それによって、地帝カーネルが闇黒系最強の堕天使“黒煌の紡ぎ手クリスト”と他堕天使三体と交戦、戦死する。
呪侵大使フォルテシアが、ブリュンヒルデ隊シリアル05“闇絶の拳レーゼフェア”と交戦。
対闇黒系魔術師用として開発されたレーゼフェアの能力により、フォルテシアも戦死する。

アンスール地帝カーネル・グラウンド・ニダヴェリール。戦死
アンスール呪侵大使フォルテシア・アウリアス・スヴァルトアールヴヘイム。戦死。

堕天使戦争第四戦。
滅亡世界アールヴヘイムでの激戦。
ヘルヴォル隊とゲイルスケルグ隊と、氷雪系最の“瞬凍の狩神 氷月(ひづき)”率いるラーズグリーズ隊とプリメーラ率いるランドグリーズ隊、そしてレンマーツォ率いるアルヴィト隊が参加、交戦する。
無人世界ということもあり、アンスールはユグドラシルでの待機となっていた。
激戦の結果、カーネルを殺害したクリストを破壊する事に成功。
ヘルヴォル隊にも十数体という損害を与えた。

最悪な事は立て続けに起こることを知る。
堕天使の目的は、正常な戦天使(ヴァルキリー)にもウイルス感染させる事だった。
堕天使は戦闘を繰り返す事で、戦天使(ヴァルキリー)にウイルスを徐々に、しかし確実に
感染させていた。
その結果、統括三女神(ノルニル)システムの凍結となった。
それは戦天使(ヴァルキリー)という重要な戦力を失うことになるものだった。

堕天使戦争第五戦
戦天使(ヴァルキリー)を失ったアンスールは、堕天使とA.M.T.I.S.に苦戦を強いられる。
そこを助けてもらったのが、再編された“星騎士(シュテルン・リッター)”だった。

堕天使(アレ)にはミッドガルド(わたしたち)も困っています。ですので、微力ながらお手伝いします」

大人となった第五騎士(フュンフト・リッター)“風雷グレーテル”と彼女の率いる“自由騎士団フライハイト・オルデン”。
同じく第三騎士(ドリット・リッター)“花の姫君チェルシー”と彼女の率いる“聖願騎士団ヴァイナハツシュテルン・オルデン”が、アンスールと共闘する事になった。

それでも戦力的には劣るアンスールと星騎士(シュテルン・リッター)の共闘軍。
熾烈を極めた戦いの果て。雷皇ジークヘルグが、ブリュンヒルデ・シリアル04“宝雷の矛グランフェリア”と交戦。
彼女の雷撃系無効化の神器“天槍・雷界幻矛(ライカイゲンム)”によって魔術を全て無効化され、ジークヘルグが殺害される。

アンスール雷皇ジークヘルグ・フォスト・ニダヴェリール。戦死。

次々と戦死するアンスールメンバーに、アリスが心を閉ざし始める。
元は大戦にも関係のない世界から拉致されたアリス。
ここまで共に戦ってきたが、それも普通ならあってはならない事だった。
これ以上は彼女の心が完全に失われると判断した過去ルシリオンは、彼女の記憶を消し、ミッドガルドの“天光騎士団”に預ける。

アンスール結界王アリス・ロードスター。強制脱退。

堕天使戦争第六戦。
有人世界――後に第四管理世界カルナログ――での堕天使全軍との激戦。
ここに来て残りの星騎士(シュテルン・リッター)も参戦し、ゲイルスケルグ隊とヘルフィヨトル隊を完全殲滅に成功。
ヘルヴォル隊にも甚大な被害をもたらせることに成功する。
しかし、白焔の花嫁ステアが、民間人をブリュンヒルデ・シリアル06“響嵐の弓フィヨルツェン”からの攻撃から庇い、その命を落とす。
彼女の妹セシリスもまた、ブリュンヒルデ・シリアル02“氷浪の鏡リアンシェルト”と同部隊シリアル03“炎暁の槌バンヘルド”によって戦死する。

アンスール白焔の花嫁ステア・ヴィエルジェ・ムスペルヘイム。戦死。
アンスール炎帝セシリス・エリミング・ムスペルヘイム。戦死。

堕天使戦争第七戦。
防衛世界ビフレストでの戦闘。
カノンの魔力炉破綻(バースト)覚悟の創世結界“殲滅領域フェアテルゲン・ヴェルトール”。
ヘルヴォル隊を、同隊隊長シュヴァリエルを残し全滅させる。
しかし、カノンが動けないのをいいことに攻勢に転ずるブリュンヒルデ隊。
アンスール、星騎士(シュテルン・リッター)の援護が間に合わない程の速度でカノンに迫る、最強の堕天使シリアル01“戦計の剣ガーデンベルグ”。
無限の呪いを宿す魔剣“呪神剣ユルソーン”を振るう。
刃がカノンを両断しようとしたその時、彼女を庇う一人の男。
プレンセレリウスがカノンを庇い、ガーデンベルグの一撃を受け絶命する。

アンスール冥祭司プレンセレリウス・エノール・スヴァルトアールヴヘイム。戦死。

堕天使戦争第八戦。
ここ最近姿を現さなかったA.M.T.I.S.大隊、それらを率いるシュヴァリエルによるミッドガルド侵略。
残るアンスールの過去ルシリオン、シエル、シェフィリス、カノンが救援へと向かう。
その通り道として大戦終結の地ヴィーグリーズへと赴いた。
そこで待ち構えていたのは少数精鋭部隊ブリュンヒルデ隊。

≪・・・・ここが、英雄アンスールの終焉の地となる≫

ずっと黙って見ていたルシリオンが口を開く。
それを聞いたなのはたちは涙に濡れた顔で、ルシリオンを見た。
家族であった戦天使(ヴァルキリー)と戦い、そして死んでいくアンスール。
これ以上の悲劇は知らないと言わんばかりに、彼女たちは泣いていた。

「くそ・・・! ガーデンベルグとリアンシェルトとバンヘルドは私が引き受ける!
シエル、シェフィ、カノンは、グランフェリアとレーゼフェアとフィヨルツェンを頼む!」

過去ルシリオンが指示を出す。そして始まるアンスール最期の戦い。
もう言葉は必要ない。完全に暴走したブリュンヒルデ隊に、人の言葉は理解できなかった。

「第三級断罪執行権限解凍・・・!」

“界律”からの能力制限によって必要となった魔力炉(システム)リミッター術式を、過去ルシリオンは解凍。
幼少のころに組んだ天使の名を冠する中級術式で、堕天使三機を同時に相手する。
その三機は、現状の過去ルシリオン以上の魔力を扱える格上の実力者。
過去ルシリオンは得意の空戦に持ち込んで何とか持ちこたえる。

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

なのはの全力バスター並の魔力が籠もった一本一本の槍、計五百が三機に迫る。
が、その三機は避けることなく突貫、大したダメージを受けずに過去ルシリオンへと迫る。
空戦である以上、過去ルシリオンと三機の拮抗が崩れない。
先に拮抗が崩れたのは、シエルたちの方だった。
ミッドガルドにいるはずのシュヴァリエルからの奇襲。
彼の神器“極剣メネス”が、カノンとフィヨルツェンの砲撃戦の最中、カノンを背後から貫いた。

アンスール殲滅姫カノン・ヴェルトール・アールヴヘイム。戦死。

三対七。圧倒的に不利となったアンスール。
一時撤退の指示を出す過去ルシリオンだったが、それが許されるような戦況ではなかった。
過去ルシリオンが殿(しんがり)として、シエルとシェフィリスを庇い、堕天使七機と戦う。
が、リアンシェルトの真技“極寒薔薇園フリジット・ローゼン・ガーデン”が発動。
シエルとシェフィリスの足下に拡がる氷で出来た薔薇の大庭園。
その無数の薔薇が一気に砕け、氷の薔薇の花弁が舞い散り、シエルとシェフィリスの足を斬り、凍結させる。
身動きが取れなくなった二人に迫るフィヨルツェンの矢型砲撃と、バンヘルドの炎熱砲撃が迫る。

「おおおおおおおお!!!!」

――真技・圧戒(ルイン・トリガー)歪曲空間(マーシレス・ドライヴ)――

シエルが冷たくなった大親友カノンの遺体を背負ったまま真技を発動させる。
魔力炉(システム)に致命的なダメージを負いつつも、大好きな兄の恋人であるシェフィリスを護るための真技発動だった。
二機の砲撃が、シエルの生み出した空間歪曲によって軌道を捻じ曲げられ、明後日の方向へと進み爆散した。
この一瞬の隙に、シェフィリスが自分とシエルの足の傷を完治させる。

「シェフィ義姉(ねえ)!!」

そこに直接二人の命を奪おうとグランフェリアが迫る。
カノンの遺体をシェフィリスへと預け、シエルが迎え撃つ。

「よせ! 逃げるんだ!! シエル!!!」

過去ルシリオンは堕天使六機と戦い傷つけられながら、シエルがグランフェリアを迎え撃つのを見て叫ぶ。

――第二級粛清執行権限解凍――

過去ルシリオンが“界律”の制限以上の魔力を捻り出す。魔力炉(システム)が悲鳴を上げる。
魂が叫ぶ。これ以上は“界律”に殺されてしまうと。

「シエルに手を出すなぁぁぁぁーーーーーッ!!!!」

だがそんなこと知った事ではないと、過去ルシリオンは魔術を組み上げ発動する。

――凶竜の殲牙(コード・ニーズホッグ)――

呪文(スペル)などの工程を全て無理やり省き、“神々の宝庫(ブレイザブリク)”から複製神器を無数に取り出す。
そしてグランフェリアに迫る神器群で構成された竜ニーズホッグ。
しかし、レーゼフェアが固有魔術“影渡り”を発動し、グランフェリアの背後へと移動。
凶竜の殲牙(コード・ニーズホッグ)の牙を構成する魔剣と聖剣を真っ向から殴り砕く。
その衝撃が最後尾にまで伝搬し、凶竜の殲牙(コード・ニーズホッグ)が完全に瓦解した。

「やめろぉぉぉぉぉーーーーッ!!!!」

吐血しながら叫ぶ過去ルシリオン。
すぐさまシエルとシェフィリスの救援へと向かおうとするが、それを妨害する堕天使五機。

「邪魔をするなぁぁぁぁぁーーーーッ!!」

――邪神の狂炎(コード・ロキ)――

普段の全てを魅了するような蒼い炎ではなく、憤怒を思わせる紅蓮の炎が生まれる。
過去ルシリオンの両腕両足に纏わりつき、炎で出来た両腕と両足が生まれる。
腕の長さ3m、足の長さを2mとした全てを焼き尽くす炎の戦鬼。
そして背の蒼翼にすら纏わりつき生まれた巨大な紅炎の翼。
それはさながら炎の巨人だった。

「退けぇぇぇぇーーーーッ!!」

紅蓮の炎の腕を振り回し、空を翔る堕天使を落とそうとする。
だがその短時間に、シエルとシェフィリスは追い込まれていく。
グランフェリアとレーゼフェア、そしてフィヨルツェンの空からの砲撃。
そして、

「シェフィ義姉様・・・・。兄様と幸せに・・・!」

「シエル!!?」

シエルは、シェフィリスを護るために反重力を使って、ヴィーグリーズにあるアースガルド方面の転移門付近へと弾き飛ばす。
そしてシエルは単騎、交戦する。
レーゼフェアの拳打を捌き、吐血しながらも重力を纏わせた、今引き出せる最高の威力を持った拳打を繰り出す。
直撃。数百mという距離を吹き飛ぶレーゼフェア。
直後、

「「シエルーーーーーーーッ!!!!」」

「ごふっ・・・! ぅぐ・・・。まだまだぁぁぁぁッ!!」

グランフェリアの“雷界幻矛”に腹部を貫かれるシエル。

――真技・天壌蹂躙するは(デストラクション・)神なる拳(パイル)――

グランフェリアの“雷界幻矛”に腹部を貫かれながらも、シエルは文字通り最期の力を振り絞り真技を繰り出そうとした。
が、過去ルシリオンの攻撃を回避し、余裕を持てたリアンシェルトがシエルへと魔術を放つ。

――美麗散華クリプティック・クライシス――

「っ!! リアンシェ――」

過去ルシリオンが炎の腕を伸ばすがすでに手遅れ。
シェフィリスもシエルを護るために動くが、距離があり過ぎた。

無数の氷の花弁がシエルの頭上から降り注ぎ、押し潰した。
ただでさえ切れ味の鋭い氷の花弁。それが無数に降り注いだ。
今のシエルには防御出来ないほどの威力を持った術式。

「シエル!!」

シェフィリスが、カノンの遺体を転移門付近に横たえシエルへと駆け寄る。
そして見た。すでにその命を奪い取られたシエルの姿を。

アンスール拳帝シエル・セインテスト・アースガルド。戦死。

「・・・・・・・」

シェフィリスの泣き叫ぶその姿を空から見た過去ルシリオン。
実妹の死を知った。唯一血の繋がった最後の家族を失った。
しかし、過去ルシリオンとシェフィリスに悲しむ時間を与えない堕天使。
すぐさまシェフィリスに襲いかかるグランフェリアとレーゼフェア。
過去ルシリオンにもガーデンベルグたちが襲撃を再開する。

「シエル・・・。カノン・・・・。くそっ・・・! 逃げるぞ、シェフィ!!」

過去ルシリオンは、凍結した統括三女神(ノルニル)システムの再起動を決定した。
それは戦天使(ヴァルキリー)を再度戦腺に復帰させるということだ。
残り七機の堕天使。数では圧倒的に勝ることになるため、短期決戦が可能と判断した結果。

両腕両足、背の翼の紅蓮の炎を爆散させ、堕天使の目晦ましにした。

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

空戦形態へと戻り、シェフィリスへと最接近。

「ダメ! ルシ――」

シェフィリスが過去ルシリオンの背後を見て叫ぼうとする。
その様子に、過去ルシリオンが振り向こうとした瞬間、

――真技・望まれぬ嵐エレメンタル・クライシス――

シュヴァリエルの魔力光ハンターグリーンの竜巻を纏った“メネス”が、過去ルシリオンを襲う。
回避すればシェフィリスに直撃――はせずとも相応のダメージは確実。
そう判断した過去ルシリオンは、

――女神の聖楯(コード・リン)――

女神が祈る姿が描かれた蒼い円盾を展開。
真っ向からの防御ではなく、“メネス”を逸らせるように展開させた。
衝突する大剣と円盾。過去ルシリオンの狙い通りに逸らす事に成功。
が、それによって動きを止めてしまった過去ルシリオンへと迫る第二波。

――真技・瞬神の風矢(ソニック・エア)――

フィヨルツェンの真技が真横から襲いかかってきた。
その直撃を受け、吹き飛ばされた過去ルシリオン。

「ルシ――ぁ・・・!?」

シェフィリスの胸から生える真紅の大剣の刃。
シェフィリスの背後、魔造兵装第二位の魔剣“呪神剣ユルソーン”を手にしたガーデンベルグが立っていた。

「シェフィーーーーーーーーッ!!!」

戦闘甲冑の上半身部分は吹き飛ばされ、所々に裂傷を負った過去ルシリオンがガーデンベルグによって貫かれたシェフィリスを見て叫ぶ。
“ユルソーン”を抜かれ、力なく崩れ落ちそうになるシェフィリスを抱きしめる過去ルシリオン。

「シェフィ! シェフィ! ダメだ、目を開けてくれ!
死ぬな! 私一人を置いて逝かないでくれ! そ、そうだ! 私にはアレがある!」

――女神の祝福(コード・エイル)――

過去ルシリオンの有する最高の治癒魔術。
死人でなければ確実に治癒する事が出来る最高クラスの術式。
だが、

「何故だ!? 何故傷口が閉じない!! どうしてだ!!」

“ユルソーン”の能力。無限の呪いを宿す魔剣。
この剣によって傷つけられた者には、ランダムでいくつかの呪いをかけられる。
シェフィリスにかけられた呪い。それは絶対死。
少しの猶予時間の果て、絶対に死ぬというものだった。
“ユルソーン”の能力は、過去ルシリオンも知っている。
元は彼の複製神器だからだ。だが、今の錯乱状態の彼には関係のないものだった。

「ルシ・・・ル・・・。生きて・・・。ルシ・・・だけで・・・も・・・。
それ・・・と、お願い・・・。哀れな・・・あの子たち・・・を、見捨て・・・ないで・・・あげて・・・」

「シェフィ! もう喋るな! 安心しろ、必ず助かるからな!
もう少しだ! もう少しで治るからな! もう少しだ! だから、シェフィ・・・!」

「死ぬな」と泣く過去ルシリオン。
シェフィリスは最後に綺麗な笑みを見せて「大好き」と告げ、死んだ。

アンスール蒼雪姫シェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイム。戦死。

シェフィリスの胸に顔を埋め、ただひたすら泣き続ける過去ルシリオン。
そんな彼の状況を無視して、堕天使たちが動き出す。

「第一級神罰執行権限、解凍。孤人戦争形態・・・顕現・・・!」

過去ルシリオンの魔力炉(システム)全力稼働。“孤人戦争形態”。
首のチョーカーに付いていた白の南京錠が砕け散る。
それと同時に起こった吹き荒れる魔力流によって、迫ってきた堕天使が吹き飛ばされる。
そしてシエル、シェフィリス、カノンの遺体が消える。
過去ルシリオンによって遺体が封印され、創世結界“英雄の居館(ヴァルハラ)”に取り込まれたのだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

吼える。過去ルシリオンの蒼翼が消滅し、代わりに十字架を形作るように六つの魔力で構成された幾何学模様の歯車が展開される。
その八方から同様の幾何学模様で構成された全長5mはある蒼の大剣が伸びる。
戦闘甲冑もまた変わる。吹き飛んでいた上半身部分が修復され、その色が黒から白へと変更された。
機動力を完全に捨て、その分の魔力を全て攻撃力に回した戦闘形態“孤人戦争形態”。
過去ルシリオンの絶対の切り札にして最奥の術式。
一度使用すれば、数年は魔力行使が一切出来なくなるという代償を抱えたもの。

「キエロォォォーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

八本の大剣の剣先から、強大な砲撃が放たれる。
体勢を立て直した堕天使はそれを回避し、孤人戦争ルシリオンへと迫る。
しかし砲撃による弾幕が堕天使の行動を封じる。
これで過去ルシリオンの勝利かと思われた。が、過去ルシリオンの最大のミスのツケが彼を襲う。

“界律”の制限から逸脱した魔力行使。
魔力の消費が他と比べるまでも無く激しい“孤人戦争形態”。
機動力を捨てた事による戦術の激減。
“孤人戦争形態”発動タイミングの間違い。本来は、超長距離からの砲撃戦を主とする形態。
それを敵のど真ん中で発動した。一撃で終わらなければ、ただの的である。
最愛の家族と恋人を失った事による精神錯乱。

それらが彼の敵となり、ついに“孤人戦争形態”維持が出来なくなり、堕天使の攻撃を受けた。
無数の蒼い羽根が舞う中、過去ルシリオンは自分を呪った。
もう少しでシェフィリスとの約束を果たすことなく死ぬところだったと。

過去ルシリオンは、アースガルドへと撤退するために残り少ない魔力で蒼翼を展開する。
目指すはビフレストへと続く転移門。もちろん黙って逃がす堕天使ではない。

空を翔る過去ルシリオンに追い縋りながら攻撃を放ち続ける堕天使。
過去ルシリオンは、堕天使の攻撃を回避しながら転移門へと翔る。
徐々に増えていく堕天使の攻撃によるダメージ。“界律”からのペナルティによるダメージ。
それらが過去ルシリオンの意識を揺るがす。
そして、背後から迫るバンヘルドの投擲した神器“炎填槌ケンテュール”に気づくのが遅れた。

回避では間に合わないと刹那に判断し、魔力障壁を張った過去ルシリオン。
衝突。“ケンテュール”が内部で生成する炎が大爆発を起こす。
障壁が一瞬で砕かれ、炎に包まれながら吹き飛ばされる過去ルシリオン。

地面への墜落をなんとか耐えたものの、きりもみ状態のままで体勢が整えられない。
そこを、尚も治まらない爆炎と黒煙の中から飛び出してきたガーデンベルグが姿を現す。
突き出すように構えた“ユルソーン”が迫る。未だに体勢が整わない過去ルシリオン。
そして、

「ぁ・・・がっ・・・・ッ!」

“ユルソーン”が過去ルシリオンの腹部を貫いた。
それと同時にかけられる不死と不治の呪い。
そして勢いよく“ユルソーン”が抜かれ、過去ルシリオンは大きく飛ばされる。
数mと離れた地面にドサッと落ち、力なく倒れ伏す過去ルシリオン。

「・・・・ごめ・・・ん・・・。シェ・・・フィ・・・。
約束・・・・守れ・・・・なか・・・・た・・・」

――光神の調停(コード・バルドル)――

意識が落ち始める前に、最後の力を振り絞って魔術を発動させる過去ルシリオン。
全方位無差別砲撃の大魔術。それで堕天使を滅ぼそうと彼は考えた。
そして放たれる蒼の砲撃。全てを飲み込まんと光が蹂躙する光景。

なのはたちの視界が光に包まれる。

≪これが、私の終わりだ。この後、私は、シャルと同じように界律の守護神(テスタメント)となった≫

ルシリオンとシャルロッテの人生を見、なのはたちの頬はずっと涙で濡れていた。

ようやく過去編が終わりました。すいません。長々と三話も使ってしまって。
ANSURの流れは大体こんなものです。完全バトル物です。
悲劇いっぱい、喜劇少々の戦争話。昔コレを読んでいてくれた方には、今でも感謝しています。
こんなものでも応援してくださっていてくれましたし・・・。

さて、次回から本編再開で、残り三話(これは絶対。変更なし)となりました。
ではでは、もうしばらくの間、十字架を背負いし神意の執行者にお付き合いください。


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