やはり今回でも終わりませんでした(泣)
すいません。もう少しお付き合いください。
遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅲ
――――Episode Charlotte Freiheit
≪今度は私の始まりを見せるよ≫
消えたルシリオンと入れ替わるように姿を現したシャルロッテ。
その手に持つのは、先程までルシリオンが手にしていた再誕神話の一冊。
≪シャルちゃん・・・≫
≪ん。私の事も知ってほしい。ワガママだけど、知ってほしい≫
シャルロッテは全員を見渡し、そして指を鳴らした。
それを合図として世界が変わり、グラズヘイム城内と同じくらいの豪華さのある場所になのはたちは移動していた。
≪む? あれは・・・ベルカ魔法陣・・・なのか・・・?≫
≪は? 何言ってんだシグナム。こんなところにベルカ魔法陣なんてあるわけが・・・・マジか≫
シグナムとヴィータの視線の先には、白亜の壁に飾られている紋章旗があった。
そのデザインはベルカ魔法陣と似たもので、違いといえば三方にある円陣の中に一角獣、翼竜、獅子が描かれているのみだ。
≪・・・・今私たちがいるのはレーベンヴェルトと呼ばれる世界なんだけどね。
その世界が現代では何て呼ばれているか知ってる・・・?≫
先を行くシャルロッテが振り返り、なのはたちを見る。
そしてユーノとクロノが「現代に残っているのか、この世界が!?」と驚愕していた。
≪この剣十字紋章を見れば分かるでしょ?≫
≪まさか・・・ベ、ベルカ・・・なのか・・・?≫
≪うん。私の生まれた世界レーベンヴェルトは、後にベルカと名前を変えるの。
つまり、私はシグナムたち騎士の大大大大大大大大だぁ~~~~い先輩ってこと♪≫
シャルロッテはシグナムたち守護騎士を見据える。
何度目ともしれない驚愕するなのはたち。
ベルカの騎士であるカリムやシグナムたちは特にだ。
唖然とするシグナムを見る事が出来たためか笑みをこぼすシャルロッテ。
彼女は「行こっか」と言い、先へと歩き出す。
歩く間、シャルロッテはなのはたちに簡単な説明をしていく。
天光騎士団の事。星騎士シュテルン・リッターの事。ルシリオンたちアンスールと敵対する側に居る事。
ミッドチルダが、この時代ではミッドガルド本星と呼ばれていた事などを。
そんな中、次第に騒がしくなる天光騎士団本部・聖騎殿ハイリヒ・パラスト。
話をしながら通り過ぎていく人たちは全員軽甲冑を装備している騎士だった。
「聞いているんですか!? 第五騎士!!」
シャルロッテたちの背後から、怒声のようなものが聞こえてきた。
何度も何度も「第五騎士!!」と怒声が飛ぶ。
シャルロッテは「あちゃー」と言いながら額に手を置き、天井を仰いでいた。
なのはたちは何事かと思い、何度も怒声の聞こえる場所へと視線を向けた。
「無視しないでくださいよぉ~! 第五騎士シャルロッテ様ぁ~!!」
≪シャルロッテ!?≫
そこにいたのは、銀のラインや装飾が施された青い長衣に、剣で象られた星が描かれた青のマントを羽織った過去シャルロッテだった。
隣には過去シャルロッテより若干幼い15歳くらいの少女が、涙目で過去シャルロッテの後ろにについて歩いていた。
「少し待っていなさい、グレーテル。今私は考え中だから。これ以上の妨害は・・・殺ッ!」
顎に右手を添え、思考に夢中の過去シャルロッテがグレーテルをギラッと一睨み。
「そんなぁ~! 大事な話なんですよぉ~! 第三騎士からなんですよぉ~!」
スノーホワイトのショートヘアをワシワシとかき乱し、跪いてはアップルグリーンの瞳からダァーと涙を流すグレーテル。
彼女は、過去シャルロッテの率いる騎士団“心慧騎士団”の近衛騎士の一人だ。
そんな彼女と過去シャルロッテの様子を見て、他の騎士たちは「またか」と苦笑しながら通り過ぎていく。
「アレですよ!? 第三騎士からなんですよ!? あのシリア様からなんですよ!?
伝言役すらできない役立たずってことで、血とか吸われて干物になって死ぬの嫌ですよぉ~!!
まだ死にたくないですよぉ~!! 聞いてくださいよぉ~~~~!!!」
過去シャルロッテの右足にしがみ付き、廊下をズリズリと引き摺られていく騎士グレーテル。
それをあえて無視して歩みを止めない過去シャルロッテ。
足を止めたかと思うと、長衣のポケットから飴玉を取り出し口に入れ、また歩き出す。
≪シャルちゃん・・・≫≪フライハイト・・・≫
引き摺られるグレーテルに激しく同情するなのはたち。
シャルロッテを見る彼女たちの視線には、「あの子可哀想。ホント可哀想」の念が込められていた。
≪あーそんな目で見ないで・・・≫
過去の自分から視線を逸らし、情けない声を上げるシャルロッテ。
「もー。シリアが何だっていうのよ? 別に怖がる必要なんかないはずよ?
まあ確かに、あいつの固有魔術の特性からいろいろと陰で言われてるけど、結構いい奴よ?」
口の中で飴玉をコロコロ転がして幸せそうな笑みを浮かべている過去シャルロッテは、“心慧騎士団”の詰め所に到着し、ようやくグレーテルの話を聞く気になった。
「あぅ~、シャルロッテ様ぁ~・・・(泣)」
「ちょっとグレーテル! 星騎士のマントで鼻水とか拭かないでよ!?」
星騎士にだけ与えられるマントを手にして、涙と鼻水を拭くグレーテル。
それをやめさせようとマントを引っ張る過去シャルロッテだが、すでに手遅れだった。
びちょびちょになったマントを見て、若干涙目になっている過去シャルロッテ。
それはどこをどう見ても、完全なる彼女の自業自得だった。
「シャルロッテ様が悪いんですよ!? 一度深く考え出したらテコでも動かないんですからぁ!
・・・・って、そうじゃなくて! 星騎士全騎に招集命令ですよ、シャルロッテ様!!」
「・・・・・それを早く言いなさい!! バカグレーテルーーーーーーッ!!」
「話を聞かないシャルロッテ様が断然悪~い!! このアホーーーーーーーッ!!!」
「アホって、上官に向かって言うことかぁぁぁぁぁぁぁッ!! あと洗っておきなさい!」
グレーテルにマントを投げつけ、そのままの勢いで全力ダッシュする過去シャルロッテ。
目指すは星騎士専用の会議場だ。
≪・・・・何というか、お恥ずかしいところをお見せしました・・・≫
恥ずかしさの所為か顔を赤らめて、指を鳴らすシャルロッテ。
また光景が変わり、豪華なつくりの会議場へと変わっていた。
剣十字の紋章が大きく描かれた赤い円絨毯、その上にある白亜の円卓。
その円卓を囲むようにして座る9人の騎士たち。
≪あれ? あの人たち・・・・シャルちゃんのご両親と姉のチェルシーさんとちゃう?」
はやてが指さす方には、地球において偽りの家族として用意されたフライハイト家の父役オペル、母役シリア、姉役のチェルシーがいた。
≪あー、うん。あの家族は地球の界律が用意した偽物の家族なんだよ。
家族じゃなくて、ホントは同僚。私と同じ星騎士というわけ≫
「突然招集してすまない」
片面の無地の白マスク、その上からアイアンブルーの前髪を右側だけ垂らした男性。
シャルロッテの父として用意されていた男――天光騎士団のトップである第一騎士風の騎士公オペル・オメガ・シュプリンガーが、円卓を囲んで座る八人の星騎士を左の鋭眼で見回す。
「諸君はアンスールという者たちを知っているか?」
「アンスール・・・。確かアースガルド同盟軍が二カ月程前に投入してきた部隊でしたか。
同盟世界の王族のみで構成された少数精鋭部隊。かなり活躍していると聞いています」
オペルに答えるのは漆黒の髪をオールバックにした初老の男、第二騎士大地の鬼神ベルレンス・ヒルベルトだ。
オペルはベルレンスの言葉に首肯する。
「先程、ミッドガルド王が我々星騎士にある命令を下した。
その精鋭部隊アンスールの討伐を主目的としてのヨツンヘイム連合への協力だ」
「「「「「「「「なッ!?」」」」」」」」
オペルを除く他の星騎士の驚愕の声が重なる。
「何だそれ!? 連合は、特務十二将やA.M.T.I.S.は何やってんだよ!?
十二将には魔界支配権がいるんじゃなかったか!?」
A.M.T.I.S.アムティス。
ヨツンヘイム連合が、あまり知られていない科学を用いて造り出した自律稼働の巨人兵団。
Automatic operation Magic use Tactics attack Intelligent battle Systemの略称。
近接戦用のタイプ・セイバー、遠距離戦用のタイプ・アーティラリーの二種類がある。
魔界支配権。
人間の住まう次元“表層世界”とは別の層空間“裏層世界”たる魔界を管理する組織。
上層、中層、下層、最下層の各層七体、計二十八体の魔物の事。
人型の魔人、獣型の魔獣、そのどちらでもない幻想一属の三種がいる。
「静粛にしてもらおう、ナハト」
「・・・・・・・すいません」
勢いよく立ち上がったのは、第十騎士夜宴ナハト・ダーツェ。
ヨツンヘイム連合主力の特務十二将とA.M.T.I.S.の不甲斐無さに怒りを示す。
が、オペルの一睨みを受け、謝罪しながらナハトは再び席に就いた。
「納得いかないのは私も同じ。私も最後まで反対意見を出していたんだが通らなかった。
軍の不甲斐無さによって、第六騎士・ラピスを失った忌々しい戦争への参加だからな。
しかし、王たちの会議の決定である以上従わざるを得ない」
オペルは苦々しくそう告げた。
本来は十人いる星騎士だが、現在この場にいるのは九人だ。
何故なら、5年前のルシリオンとの戦闘により、当時の第六騎士・ラピスが戦死し、それ以来第六騎士の座が埋まらないのだ。
≪ラピス様・・・・≫
シャルロッテの表情に少しばかりの陰が生まれた。
ラピスは、シャルロッテにとって頼れる先輩であり姉のような存在だった。
そして、そのラピスを討ったルシリオンは、シャルロッテにとっての最大の仇でもあった。
「待ってください。まさか星騎士全騎での参加なのですか!?」
「チェルシー。私の話を最後まで聞いてもらいたかったな」
「あ・・・っ! 申し訳ありません!」
第九騎士花の姫君チェルシー・グリート・アルファリオが、椅子から立ち上がりそう声を上げ、オペルより注意されてしまった。
オペルに謝罪し、エメラルドグリーンのポニーテールを揺らしながら急いで椅子へと座りなおす。
12歳で星騎士となり、15歳の今でも最年少である彼女チェルシー。
やはりまだ年若い所為か、どこか落ち着きが足りない少女だった。
「ふむ。順序が少々変わったが、チェルシーの疑問が本題でもあるので答えようか。
まず、我々天光騎士団の存在意義は、ミッドガルドの秩序管理を第一としている。
そんな我々が全騎ミッドガルドより離れるなど以ての外だ」
オペルは天光騎士団の意義を語る。
ミッドガルドの秩序管理機構右翼ミッドガルド軍と共に、ミッドガルドを構成する複数世界の守護だと。
「ゆえに全騎の参加ではなく一部だけの参戦、そこだけは確約を取り付けた。
今から私に呼ばれた者が、大戦に参加する騎士と騎士団だ」
オペルが立ち上がり、円卓に座する星騎士を見回す。
「まずは私の風神騎士団。そして私が騎士団の総指揮官として参加する。
次に、第三騎士・シリア・ブラッディア。鮮血騎士団ノインテーター・オルデン」
「はい。第三騎士・シリア・ブラッディア。及び鮮血騎士団ノインテーター・オルデン。
アンスール討伐、拝命いたします」
鮮血姫シリア・ブラッディアは立ち上がり、その長く艶やかなレッドパープルの髪を後ろに払った。
輝く黄金の瞳を伏せ、気品あふれる優雅な一礼を見せた。
「第五騎士・シャルロッテ・フライハイト。心慧騎士団シュベーアト・オルデン」
「第五騎士・シャルロッテ・フライハイト。及び心慧騎士団シュベーアト・オルデン。
アンスール討伐、確かに拝命したわ」
過去の剣神シャルロッテ・フライハイトが立ち上がり、彼女の武装“断刀キルシュブリューテ”を縦に掲げた。
「第七騎士・ミストラル・ビルゴ・プリマベラ。守盾騎士団フェアタイディゲン・オルデン」
「第七騎士ミストラル・ビルゴ・プリマベラ。及び守盾騎士団フェアタイディゲン・オルデン》。
アンスール討伐、確かに拝命いたしましたの」
紙徒ミストラル・ビルゴ・プリマベラが立ち上がり、恭しく一礼した。
「第八騎士・サー=グラシオン・ヴォルクステッド。鏡面騎士団シュピーゲル・オルデン」
「ふむ。当然ですね! 女子供だけでは心許無いという事なのでしょう? 騎士公オペル。
この僕を参加させるとは、実に分かっておいでだ。いいでしょう!
第八騎士・サー=グラシオン・ヴォルクステッド。そして我ら鏡面騎士団シュピーゲル・オルデン。
アンスールを見事に討伐し、我ら星騎士シュテルン・リッターの名を世に知らしめましょう!」
仰々しく立ち上がり、ハンティングピンクの唯でさえツンツンと立った前髪をさらに掻き上げ、この場にいる女性騎士を蔑むような目で見るサー=グラシオン。
そんないつも通りの彼に呆れているシリアは徹底無視を決め込む。
過去シャルロッテは深く嘆息し、「バァーカ」とわざと彼に聞こえるように一言。
ミストラルは首を横に振って、隣に座するチェルシーに「いつも通り無視してていいの」と耳打ち。
チェルシーはミストラルの言葉に「はぁ」と力なく答え、いつも通り彼から視線を逸らす。
≪なんだ? あの男の、女を馬鹿にするような言動は?≫
≪ああいう感じ悪ぃ奴に限って、第一の戦死者になるんだぜ?≫
シグナムやヴィータに続いて、なのはたちからグラシオンへの批難の集中砲火が発生。
特に熱くなっているのがリインフォースⅡだった。
≪何なんですかこの人は!? 女の人の騎士の何がダメなんですか!?≫
その小さい両拳で、グラシオンの頭をポカポカ殴るリインフォースⅡ。
とは言っても相手は所詮幻。全発虚しくすり抜けるだけだった。
≪あはははは!! リイン、もっとやっちゃえやっちゃえ!!≫
≪シャルさん・・・。はいです! もっとやっちゃいます!!≫
シャルロッテにノせられ、無駄と知りつつさらに速さを上げるリインフォースⅡ。
顔を赤くし、「むぅぅぅ」と唸りながらグラシオンの頭をポカポカ殴る彼女の姿は可愛らしかった。
「少しは自重しろ、サー=グラシオン。・・・。次で最後だ。
第九騎士・チェルシー・グリート・アルファリオ。聖願騎士団ヴァイナハツシュテルン・オルデン」
「・・・第九騎士・チェルシー・グリート・アルファリオ。聖願騎士団ヴァイナハツシュテルン・オルデン。
アンスール討伐の命、拝命いたします」
花の姫君チェルシーもまた立ち上がり、一礼し任務受諾の意を告げた。
「この六騎士団が大戦へ参加する。名を呼ばれなかった騎士と団は、通常任務で頼む」
呼ばれなかったベルレンス、第四騎士鎮魂楽団ランチア・ストラトス、ナハトは、それぞれ首肯する。
「ふむ。では星騎士議会、これにて閉会とする。出撃命令あるまで全騎通常任務で頼む」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
その言葉と共に、なのはたちは真っ暗闇な空間へと放り出された。
戸惑っていると、シャルロッテの言葉が全員の耳へと届く。
≪この二日後、初めて私はアンスールと戦った。
私は・・・甘く見過ぎていたんだ。だから失う事になったんだ≫
≪シャルちゃん? ・・・・泣いて・・・いるの・・・?≫
シャルロッテはなのはには答えず沈黙を保ち、そして暗闇が晴れる。
なのはたちの視界に映るのは、どこかの丘陵だった。
≪ここが私の初陣。ミッドガルド本星アルグレーン島ツヴァイフェルド丘陵≫
なのはたちの前に姿を現したシャルロッテ。
沈んだ表情で、ある一点を見据ている。
なのはたちもシャルロッテに倣い、その一点へと視線を向ける。
そこにいたのは過去シャルロッテと、彼女の率いる騎士団だった。
「まさか天光騎士団の護る世界にまで侵入してくるなんて」
愚痴をこぼしつつ、しっかりと周囲警戒を怠らずに巡回する過去シャルロッテとその騎士団。
「さて、ここからは私の率いる第一隊、グレーテル率いる第二隊、ライヒアルト率いる第三隊で別行動。
敵兵を確認次第、各分隊長の指示に従って戦闘、殲滅して。でも一応報告はしなさい」
こうして心慧騎士団は三隊に別れ、行動を開始した。
なのはたちが見るのは、過去シャルロッテ率いる六十名からなる第一隊。
「にしても。攻め込むならヨツンヘイム直下の世界にしてもらいたいわね。
まったく、アンスールの連中にも困ったものだわ」
「あはは。そう言いますけど、団長は戦いたくてしょうがないんでしょう?」
「そんなことないわ。と言いたいところだけど、正しくその通りね。
戦ってみたいわ。この二カ月で活躍しまくる英雄という連中と、ね」
部下と笑い合いながら、巡回する過去シャルロッテたち第一隊。
それからしばらくして、彼女たちの耳にギンッと鈍い音が届き、オオオォォォォォと大気の震える音が続いた。
「全騎最大警戒! 各々神器解放! 奇襲に備えなさい!!」
過去シャルロッテが“断刀キルシュブリューテ”を完全解放しつつ、第一隊に指示を出す。
その指示に答えるように神器を次々に解放していく第一隊の騎士たち。
「・・・・・・っ!! ダメ!! すぐにこの場から離だ―――」
――圧戒――
過去シャルロッテが本能的に危険を察知。
部下にこの場からの離脱を指示しようとした瞬間、
≪あれ? シャルちゃん? 何も見えなくなったよ≫
なのはたちの視界が闇に妨げられた。
≪・・・・・見せなくしたの。あんな殺戮、絶対に見せられない。なのはたちは見ちゃいけない≫
シャルロッテは指を鳴らし、闇から別の光景へと変えた。
そこは、第一隊が襲撃を受けた場所から1kmと離れた山地。
戦っているのは過去シャルロッテと、アンスールの拳帝シエルだった。
「こんな子供が・・・・!」
「子供である前にアースガルドの人間だ!!
だから、お前たちヨツンヘイム連合を斃すために・・・・わたしは戦う!!」
過去シャルロッテの“キルシュブリューテ”と、シエルの籠手型神器“月狼ハティ”と“陽狼スコール”が互いを討たんと奔る。
「疾い・・・!」
「小さい・・・!」
シエルは過去シャルロッテの必殺の斬撃を、その小さな身体を活かして回避しては拳打を放つ。
過去シャルロッテはシエルの拳打を“キルシュブリューテ”の峰や腹で弾き、隙の出来た急所へと刃を奔らせる。
それはまるで円舞のように美しい闘いだった。が、実際のそれは殺し合いでしかなかった。
拳と刃が生み出す空気を裂く音。二人の周りに降り注ぐ落ち葉の破裂音。
その大きくもない静かな音だけが、周囲の介入を拒むこの激戦の全てだった。
そして徐々に刃に裂かれるシエルの戦闘甲冑。
同様に過去シャルロッテの戦闘甲冑も重力拳によって弾け飛んでいく。
いつどちらかが死んでもおかしくない壮絶な死闘に、ある介入が入る。
『シエル! 5秒後に右へ離脱!』
シエルのパートナー・カノンからの念話。
『カノン!? ・・・・了解!!』
シエルはパートナーであるカノンの言う通りに、5秒ジャストに右へと跳んだ。
そして、カノンからの援護射撃“殲滅爆撃”が過去シャルロッテへと降り注ぐ。
その数約四千。黄金の魔力弾の雨だ。回避は不可能。防御しようとも盾を突破される程の威力。
過去シャルロッテは、そんな魔力弾の雨を防がず、または回避する事もせず、
「甘い・・・ッ!」
自分に直撃する魔力団を一発残らず“キルシュブリューテ”で斬り裂き、無効化した。
それを離れて見ていたシエルとカノンが青褪める。
今まで相手にしてきた連中とはケタが――いや、格が違うと。
『カノン!! こいつヤバい!! 離脱するから援護お願い!!』
『り、了解!! ジークヘルグ様に救援要請完了! それまで頑張ってシエル!!』
「逃がさない! 大人しく投降するなら殺しはしないわ!!」
シエルと過去シャルロッテ、二人だけの死と隣り合わせの鬼ごっこが始まった。
魔力の斬撃を飛ばしつつ、特殊な歩法“閃駆”でシエルに追走する過去シャルロッテ。
その前を重力操作によって身体を軽くしたシエルが物凄い速度で、斬撃を回避しながら走る。
『シエル、同時砲撃で討つ!』
『・・・・・ん。合図ちょうだい・・・!』
シエルは走りながらも砲撃の術式を組み出す。
カノンもまた砲撃戦用の神器“星填砲シュヴェルトラウテ”を構え、その照準を過去シャルロッテへと合わせる。
そして、
『今!!』
――黄金極光――
――重力圧縮砲――
二人の砲撃が、走る勢いを止めない過去シャルロッテへと迫る。
過去シャルロッテは焦ることなく“キルシュブリューテ”を鞘へと納め、能力“絶対切断“を解放。
足を止め、上半身を捻るようにして“キルシュブリューテ”を抜き放った。
――真技・飛刃・翔舞十閃――
過去シャルロッテもまた斬撃砲を放つ。衝突する黄金、アメジスト、桜色の砲撃。
絶対切断の能力を付加された十の巨大な魔力刃が、シエルとカノンの砲撃を徐々に裂いていく。
過去シャルロッテは、止めと言わんばかりに再度“キルシュブリューテ”を鞘へと納め、
――第二波・飛刃・翔舞十閃――
二発目の真技飛刃・翔舞十閃を放った。
ただでさえシエルとカノンの砲撃を押していた過去シャルロッテの真技。
そこに、過去シャルロッテの真技飛刃・翔舞十閃がもう一発追加され、二人の砲撃が一気に押され始める。
過去シャルロッテは再び“キルシュブリューテ”を鞘へと納め、
「アンスール! 神器を納め、大人しく投降しなさい!!」
シエルとカノンに投降を呼びかける。
その瞬間、過去シャルロッテの二連飛刃・翔舞十閃がシエルとカノンの砲撃を完全に掻き消し、シエルへと殺到した。
「・・・・・・・・まだ小さな子供・・・だったのに・・・。
どうして、どうして戦争なんか・・・・。くだらない・・・!」
シエルのいた場所に吹き荒れる砂煙を見つつ、過去シャルロッテは悪態をつく。
彼女は“キルシュブリューテ”の解放を封じ、シエルを支援していたカノンを探し出すために動こうとしたとき、
「・・・・・今ので、まだ生きているなんて・・・。
さすがは同盟軍の英雄アンスールの一人というわけか」
晴れてきた砂煙の向こう、そこには負傷したのか右腕を押さえながら片膝をつくシエルがいた。
シエルは咄嗟に地面に穴を掘り潜ることで、過去シャルロッテの真技をやり過ごしていたのだ。
その彼女の紅と蒼の瞳に宿るのは、恐怖でもなく絶望でもなく、決して揺らがない戦意だった。
過去シャルロッテはシエルのその目を見て、
(ホント冗談は止してもらいたいわ。あんな幼い子供が、あんな目をするなんて・・・)
心底脱帽していた。
「これが最終通告。神器を納めて投降しなさい。
大人しく投降してくれるのなら、絶対に手を出さないと約束するわ」
もう一人のアンスール・カノンに警戒しつつ、過去シャルロッテがシエルと近づいていく。
シエルは黙したままでその場から動こうとはせずにいた。
「怒ってないの? わたしを殺したくなるほど怨んでないの? 憎くはないの?
わたし、あなたの部下を殺したんだよ? 普通なら復讐したくなるんじゃないの?」
シエルが静かにそう告げた。
過去シャルロッテはどういうつもり?と思いながらも、足を止め答えた。
「そうね。確かに憎いわ。でもね、それでも負の感情を戦場に持ち込むのは絶対にいけないわ。
戦場で負を抱いてそのままに戦えば、待っているのは自身の破滅のみだから。
それに、戦場に出た以上、死は覚悟の上。普段からそういう世界にいる私たちは特に」
「だから復讐はしない」と過去シャルロッテは言った。
だが、実際は大切な部下を殺した犯人は容赦せずに殺そうとしていた。
しかし、その犯人であるシエルのあまりの幼さに心が揺らいだ。
本当にこのまま殺してしまっていいのか、と。
こういう小さい子供こそ護るのが騎士なのではないのか、と。
シエルは敵である。部下を殺めた犯人。それでも過去シャルロッテは迷った。
シエルはポカンと口を半開きにしたまま、その言葉を聞いていた。
「・・・これが、騎士。ヨツンヘイム連合の正規軍人とは全然違う」
「軍人と騎士を一緒にしてほしくないわ。っと、それで? 投降するの?しないの?」
「投降は・・・・しない!」
――圧戒――
重力操作による10倍の重力が、シエルの周辺を襲う。
過去シャルロッテは術の出始めを学習して、すでに閃駆によって離脱を終えていた。
そのまま“キルシュブリューテ”を完全解放し、仕方なくシエルを殺す事を揺らいだまま決める。
「真技!! 飛刃・翔舞じ―――っ!!?」
――ネメジ・ディーオ――
何度目かの真技を撃とうとした過去シャルロッテに、ジョンブリアンの雷撃が襲いかかる。
過去シャルロッテは本当にギリギリのところで落雷をかわし、居合い抜きの構えで警戒する。
「これ以上続けるのなら、私が相手をしましょう、レーベンヴェルトの騎士よ」
シエルを護るかのように立つのは、アンスールの雷皇ジークヘルグ。
手にするのは神造兵装“天槌ミョルニル”。柄の短い黄金の鉄槌で、バリバリと放電している。
「ごめん、ジーク。負けちゃった。兄様に何て言おう・・・」
ジークヘルグは負けた事に激しく落ち込むシエルに微笑み、すぐさま過去シャルロッテへと視線を戻す。
「ジークヘルグ・・・。確か同盟世界ニダヴェリールの皇帝で、アンスールの一人。(現状だと分が少し悪い、か。仕方がない。ここは一度撤退する・・・・)」
調子に乗って真技を連発したツケが今の彼女を襲っていた。
魔力の枯渇とまではいかないが、ジークヘルグを相手にするには魔力が足りなかった。
「返答は如何に?」
「・・・・・・撤退するわ。私の部隊も落とされたし。途中で別れた分隊の事が気になるし、ね」
「そうですか。ならばこちらも退きましょう」
互いに神器を納め、踵を返して背を向ける。
そして、同時にジークヘルグと過去シャルロッテが振り向き、
「アースガルドの子、名前は?」「騎士よ、君の名は?」
同時に名前を訊いた。
「・・・・ミッドガルド天光騎士団・星騎士、シャルロッテ・フライハイト」
「アースガルド同盟軍アンスール、シエル・セインテスト・アースガルド」
「シエル・・・ね。もう一人の砲撃手は?」
過去シャルロッテが周囲を見回し、カノンへと訊ねる。
「アースガルド同盟軍アンスール、カノン・ヴェルトール・アールヴヘイム」
姿は見せないが、それでもしっかりと名乗ったカノン。
過去シャルロッテはそれに微笑し、そして去っていく。
「カノン、か。シエル、カノン。次に会ったら、今度こそ私は完全勝利を収める。
それまではその命、あなたたちに預けておくわ」
なのはたちの視界に映る光景が、ビデオの一時停止のように止まる。
≪これが私の初陣。結局第一隊は私一人残して全滅。第二隊も半壊、第三隊は一人残らずの全滅だった≫
俯きながら、そう静かに告げたシャルロッテ。
なのはたちはどう声をかけていいのか解らず、ただじっと黙っていた。
≪本部に帰ってからはいろいろと言われたなぁ。特に男尊女卑の権化グラシオンには≫
場面が変わる。そこは天光騎士団本部聖騎殿の東門前広場。
「いやはや、アンスールには返り討ちにされ、その果てに心慧騎士団が半壊、いや、ほぼ全滅とは。
何をやっているのだろうな、第五騎士・シャルロッテ?」
過去シャルロッテの率いた心慧騎士団の状況を知ったサー=グラシオンは、態々彼女たちの帰りを待ち、その嫌味な言葉を過去シャルロッテへと浴びせる。
その下卑た笑みを見せる彼に、なのはたちは怒り心頭。
「あぁ、これから君はどうするんだい? 騎士団の大半を失った君は?
ふむ、まぁいい機会だ。天光騎士団を辞めてはどうか? やはり君ら女は弱くて頼りない。
大人しく国に帰り、我々に護られていたまえ、フライハイト伯爵令嬢殿。
クククク・・・・アァーハッハッハッハッハッハッ!!!」
そう言って、鏡面騎士団の詰め所へと帰っていくグラシオン。
過去シャルロッテは何も反論せずに黙って耐えていた。事実である以上、文句は言えないと。
切れて血が出るほどに唇を噛み、握った両拳からは血が滴り落ちていた。
それでも涙だけは流さなかった。それが彼女の騎士としての意地だから。
「シャルロッテ様・・・・・」
無傷とはいかないが、それでも無事だったグレーテルが過去シャルロッテを心配して声をかける。
生き残った他の騎士も心配そうにしている。中にはグラシオンにベーッと舌を出す者もいた。
「ごめんなさい。私が団を分けた所為で・・・・こんな・・・。
でも、それでもこんな私についてきてくれるなら、私は、私たち心慧騎士団は終わらない・・・」
背後にいる騎士たちに、背中を向けたままそう告げる過去シャルロッテ。
少し沈黙が続き、背後からこの場から離れていく幾つもの足音を彼女は耳にした。
過去シャルロッテは「しょうがないわよね」と、もう誰もいないであろう背後へと振り向いた。
しかしそこには、
「っ!」
少し離れた場所に、整列した心慧騎士団の騎士たちがいた。
誰一人として欠けることなく、過去シャルロッテから視線を逸らさずにいた。
「私たちの将はあなただけです、シャルロッテ様」
グレーテルが、騎士たちの代表として過去シャルロッテに告げる。
すると、他の騎士たちも「一生ついていきます」などと口々に告げていく。
それを見て、聞いて、ここで初めて過去シャルロッテが涙を流す。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう。みんなの想いに絶対応えるから。
だから、心慧騎士団! 再編成した後に再度同盟軍に仕掛ける!」
「「「「「「借りを返すぞ!!!」」」」」」」
過去シャルロッテ率いる心慧騎士団シュベーアト・オルデンの旗は決して折れることなく、再度大戦参加に向け、腕を磨く。
過去シャルロッテの人望のおかげで日に日に騎士の人数が増え、一ヶ月後には元通りの騎士団へとなっていった。
≪これが、シャルちゃんの始まりなんやね≫
≪うん。ここから幾度もアースガルド同盟軍と戦ったよ。
アンスール戦だけは部下を下がらせたけど≫
再度場面が変わる。
≪それじゃ今度は、ルシルと一緒に語ろうか≫
≪そうだな≫
シャルロッテの隣に並び立つように、ルシリオンがその姿を現した。
それからなのはたちは、再誕神話に記された数多くの戦いを目にした。
――――Episode ANSUR
連合軍と、サー=グラシオン率いる鏡面騎士団の同盟世界“ニヴルヘイム”の攻略戦。
王都エリューズニルへと続く道グニパヘリルでの攻防戦。
過去ルシリオンと蒼雪姫シェフィリスの恋人コンビによる圧倒的な戦力の前に、連合軍は敗走。
グラシオンもまた蔑む対象である女のシェフィリスにボコボコにされ怒り狂った。
部下に取り押さえられながらの敗走である。
頭をかき乱しながら逃げる彼を見たヴィータとリインフォースⅡは、「ざまぁみろ」といった風に笑った。
なのはたちも、顔にも声にも出さないがそういった心境だった。
フェイトは、過去ルシリオンとシェフィリスの姿に、ただ苦々しく彼女の隣に立つルシリオンの横顔を見ていた。
連合四王・スリュムヘイム王と特務十二将マーディス部隊、そしてオペル、シリア、シャルロッテ率いる騎士団による“アールヴヘイム侵略戦”。
そこで、連合を操る四王スリュムヘイム王が、白焔の花嫁ステアの手により戦死。
風の騎士公オペルと地帝カーネルは、カーネルの敗北。鮮血姫シリアと拳帝シエルは引き分け。
過去シャルロッテと風迅王イヴィリシリアは、過去シャロッテの圧倒的な差での敗北。
殺されかけたところを特務十二将の一人、炎浄王マーディスの助けもあり逃走に成功。
連合軍の“アールヴヘイム侵略戦”は失敗に終わる。
ギンヌンガガブ魔族召喚阻止戦。
裏層世界たる魔界と繋がる世界“ギンヌンガガブ”において、連合の戦力増強作戦“魔族召喚“を阻止する戦い。
過去ルシリオンと雷皇ジークヘルグと冥祭司プレンセレリウス、そして戦天使数体による激戦。
この戦いで、同盟軍は連合四王のひとりウトガルド王を討伐。
特務十二将の一体かつ幻想一属である“虹属の魔石群アリウィウス・アルクス”の撃破という功績も上げる。
A.M.T.I.S.八十機も、過去ルシリオンの創世結界“神々の宝庫”により殲滅。
魔族召喚も阻止する事に成功。ヨツンヘイム連合の敗北がより一層強まる。
ミッドガルド・フレスエイ戦
ミッドガルドを構成する世界の一つフレスエイでの戦い。
特務十二将の空席を埋めた魔術師が居るとのことで、呪侵大使フォルテシアと炎帝セシリスと殲滅姫カノンが赴く。
連合大隊の殲滅後、突如三人を襲う強力な捕獲結界。
姿を現したのは、先の戦いで戦死したウトガルド王の娘“夢幻王プリムス・バラクーダ・ウトガルド”。
十歳という幼さで、四王のトップに立つ連合の支配者となった天才大魔術師。
そして、新たな特務十二将“結界王アリス・ロードスター”。
挨拶がてらの捕獲結界に閉じ込められた三人は、為すすべなくプリムスとアリスを逃がしてしまう。
その他にも、新たな四王“葬柩王フォード・テルスター・スリュムヘイム”率いるムスペルヘイム侵略戦。
過去ルシリオンが初めて敗北した、ヨツンヘイム連合第三前線砦“グリュートトゥーンガルズ”の戦い。
アリスの反則捕獲結界“一方通行の聖域”と紙徒ミストラルのコンビによる敗北だった。
救援に来たステアの創世結界“劫火が支配せし煉界ムスペルヘイム”が無ければ、過去ルシリオンは戦死していた。
特務十二将にして、魔界最下層の支配権たる幻想一属“魔砂漠ネブソノフス”。
自我を持つ広大な砂漠。八百年前に、当時の連合召喚魔術師千人の犠牲によって召喚された魔族。
3万平方kmという巨大かつ強大な力を持つネブソノフスとアンスールの戦い。
同盟連合関係なく兵の命を奪い去るネブソノフス。フノスを除くアンスールは為すすべなく敗走した。
同盟軍を裏切ったムスペルヘイムが連合に渡した巨大戦艦“ナグルファル”の攻略戦。
ムスペルヘイムの王女たるステアとセシリスの二人だけの戦い。
彼女たちの実兄であるムスペルヘイム王を殺害する事で“ナグルファル攻略戦”は終結。
ステアが、裏切りの兄王に代わり、ムスペルヘイム最後の女王となる。
アースガルドへ繋がる唯一の道、防衛世界ビフレストで起こった“絶対防衛線戦”。
さながら最終決戦とも言える熾烈を極めた同盟・連合両主力による激戦。
A.M.T.I.S.は上位十機を残し全滅。戦天使もまた被害甚大。
特務十二将のリーダー、ミッドガルド軍大将“召喚王アーサー”もまた、この戦いで重傷を負う。
プレンセレリウスも、過去シャルロッテにより敗北。重体となるも一命を取り留める。
互いに甚大な被害をもたらし、“ビフレスト防衛線戦”は終結。
≪他にもまあ大小様々な戦いはあったけど、これぐらいにしとくね。
で、この大戦が大きく変わることになる戦いが、大戦終結半年前に起こった≫
シャルロッテがそう告げ、場面が変わる。
そこは、ヨツンヘイム連合に与する世界ヴァナヘイムの帝都へと繋がる橋上。
タナクヴィスル川をまたぐ全長12km、幅4kmの巨大な橋の上。
≪ビフレスト防衛線戦で疲弊しきったヨツンヘイム連合を切り崩すための戦いだ≫
ルシリオンが、アンスール率いる同盟軍を見つつそう口にした。
数はそう多くはないが、それでも五万という魔術師部隊だ。
現在ヴァナヘイムの防衛力は弱い。ほとんどがヨツンヘイムに回されている所為だ。
そこを狙ったアンスールの“ヴァナヘイム攻略戦”。
連合世界のリーダー格の一つであるヴァナヘイムを落とせば、それだけで流れが変わると踏んだ魔道王フノスの案だった。
帝都へと繋がる橋の上、そこにはヴァナヘイム防衛のために配置されたグラシオン率いる鏡面騎士団。
そして連合兵が二万という数で待ち構えていた。
「ここは私たちニヴルヘイム軍が引き受けます。ですから、みなさんは帝都を目指してください」
そう言って、同盟軍の前に躍り出るのはシェフィリス。そしてニヴルヘイム軍。
氷雪系に特化したニヴルヘイム軍と、氷雪系最強の蒼雪姫シェフィリス。
対するグラシオンは、神器“魔鏡フェアドレーエン・シュピーゲル”を扱う騎士。
魔鏡の反射による全方位攻撃、防御、転移を行う。
幾度も戦場で遭遇するたびにシェフィリスが破った騎士とはいえ、シェフィリスは一切の油断なく構える。
「シェフィ・・・。気をつけろよ」
「うん! ありがとう、ルシル。ルシルも気をつけてね」
過去ルシリオンはシェフィリスの額に口づけし、彼の率いる部隊と共に先へ往く。
それに続き、ステアをリーダーとした同盟軍が、戦闘を開始したニヴルヘイム軍と連合軍の脇を通り抜け、帝都を目指す。
「誰が防衛線を通る事を許可したぁぁぁぁーーーーッ!!!!」
――秩序無き猛威――
グラシオンの無差別攻撃が同盟軍を背後から襲う。
周囲に展開された二十を超える魔鏡に反射した何条もの青の光線だ。
反射を続ける所為で、その軌道が判断できない程の無差別攻撃となっている。
「私が許可したの・・・!」
――天花麗盾――
同盟軍に迫る光線を、防性術式を発動して防ぐシェフィリス。
それでもすべてを防ぎきることが出来ずに、同盟軍の最後尾へと迫り往く光線。
「ガルム! リアンシェルト! フェンリル!」
シェフィリスがある者たちの名前を叫ぶ。
すると、シェフィリスの盾を通り過ぎたグラシオンの光線が全て弾かれ、上空へと消えていった。
走り往く同盟軍の背後を護り、そしてシェフィリスの背後に立つ三つの人影。
白いセミロングヘアに黄金の瞳を持つ少女、ニヴルヘイムの番犬にしてシェフィリスの使い魔“ガルム”。
黒のロングヘアに黒の瞳を持つ少女、ルシリオンの使い魔にして、世界を呑み込む魔狼“フェンリル”。
そしてもう一人。戦天使の一体“氷浪の鏡リアンシェルト・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア”。
シェフィリスの妹をモデルにした、お淑やかだが好戦的な一面を持つ少女。
「お母様。我らにどうかご命令を」
「全軍、この場から誰一人として帝都へと通すな!!」
全軍がシェフィリスに応え雄叫びを上げる。
「我ら氷零世界ニヴルヘイム。アースガルド共に歩む事を決意せし者。
ここを通り同盟軍に追いつきたくば、アンスールが蒼雪姫シェフィリスを討つがいい!!」
衝突するニヴルヘイム軍と、グラシオン率いる騎士団と連合軍。
橋上の激戦の結果、グラシオンはシェフィリスによって戦死した。
場面が変わる。炎に包まれたヴァナヘイム帝都。
帝都を囲む防護壁にそびえ立つ八つの塔“帝都防衛魔道砲塔エンペラトゥリス・バウティスモ”から、強力な砲撃が降り注ぐ。
女帝の洗礼という意味を持つ魔道砲塔からの砲撃を回避しつつ、過去ルシリオンと彼の率いる空戦部隊“オラトリオ”が空を翔る。
“銃”というこの時代には無い神器から放たれる魔力弾や砲撃が、次々と魔道砲塔を陥落させていく。
『神器王から各員へ。魔道砲塔も残り一つだ。一気に決めるぞ・・・!』
過去ルシリオンが部下へと指示し、隊員たちは『了解!』と答え、銃口を一斉に最後の魔道砲塔へと向けた。
「見せてやれ。我らが銃軍嬉遊曲・・・・撃てぇぇぇぇぇぇッ!!!」
四十の銃口から放たれる魔力弾と砲撃、そして過去ルシリオンは蒼の弓矢を魔力で造り出し、
――弓神の狩猟――
蒼の長矢型の砲撃を射った。
それらの直撃を受け、ヴァナヘイムの有する“帝都防衛魔道砲塔エンペラトゥリス・バウティスモ”が全て折られた。
イヴィリシリアとオペルの何度目かの決闘。勝敗はイヴィリシリアの勝利となった。
シエルとカノンの“戦場の妖精”は、A.M.T.I.S.と激戦を繰り広げる。
ステアは敵兵をなぎ倒しつつ王城へと駆ける。
フォルテシアは、スヴァルトアールヴヘイムを滅ぼした仇の一人、特務十二将にして最下層魔界の支配権“戦闘卿バラディウム・クートラント”と死闘を繰り広げ、瀕死になりながらも勝利を収める。
そして地上へと降り立った過去ルシリオンは、
「結界王・・・アリス、だったか」
かつて自分を追い込んだ結界魔術師アリス・ロードスターと対峙した。
額を大きく出したターコイズブルーの長髪は煤汚れ、尋常ではない汗をかいていた。
目も虚ろで、目の前の過去ルシリオンにすら気づいていない様子。
過去ルシリオンは最大警戒のまま近づき、アリスの頭に手を置き、記憶を探る。
そして知った。アリスは連合によって拉致され、薬物と魔術によってその力を強化、それに洗脳されていた事に。
過去ルシリオンは彼女を連れて帰り保護。治療によって薬物による悪影響を全て取り除き完治させた。
ヴァナヘイム攻略戦は成功し、ヨツンヘイム連合のリーダー格の一つヴァナヘイムを陥落させた。
この三日後、アースガルド同盟へとヨツンヘイム連合からの休戦申し込みが来た。
同盟軍はその申し出を受諾。通算283回目の休戦協定となった。
この大戦最後の休戦期間を“世界最後の冬”と呼ぶ。
≪この半年後、千年と続いた大戦が終結する≫
ルシリオンがそう告げ、場面が変わる。
そこは、防衛世界ビフレストにある“アミュスタウロトス宮殿”の広場。
五千万人という同盟軍を前に、フノスを始めとしたアンスールが立っていた。
そして、半年前に保護した結界王アリスも13人目のアンスールとして、シエルとカノンの隣にいた。
「歩み寄りの刻はすでに遥か遠くに過ぎ去り、今まで私たちは戦ってきました。
みなさん、千年の永き時の果て、ようやくこの戦争も終わりを迎えます。
ヨツンヘイム連合は、自ら休戦協定を破り、聖域ヴィーグリーズへと進軍中です。
我らアースガルド同盟の心を踏みにじるその愚行、私は許せません」
全同盟軍へと向け、語り続ける最高司令官フノス。
「みなさん、戦闘態勢を! 己が神器に、断罪の意思を! 粛清の意思を!
私たちが望むのは覇ではありません! それを分からず屋にお教えに行きましょう!
これで最後です! アースガルド同盟軍、いざ、聖域ヴィーグリーズへ!!」
アースガルド同盟軍もまた聖域ヴィーグリーズへと進軍を開始。
そして、ヴィーグリーズ決戦が始まった。
一日目。雷皇ジークヘルグと鮮血姫シリアの決闘。
互いに重傷を与えつつ、シリアはジークヘルグの真技“雷神放つ破滅の雷”によって死亡した。
他のアンスールメンバーもまた戦場に繰り出す。
「お前が、神器王ルシリオン・・・」
「剣神シャルロッテ・フライハイト、だな」
戦場から離れた一画。過去ルシリオンと過去シャルロッテが対峙していた。
手にするのはお互いの神器、“グングニル”と“キルシュブリューテ”。
なのはたちも固唾を飲んで、二人の親友の姿を黙って見守る。
「目覚めよ、断刀・・・キルシュブリューテ!!」
過去シャルロッテの“キルシュブリューテ”が桜色の閃光を纏う。
刀身の腹にも幾何学模様、文字のようなものが浮かび上がっていた。
そして、
「・・・・・プッ」
「何が可笑しい!? 神器王!!」
激昂する過去シャルロッテ。それに反し、笑みを見せる過去ルシリオン。
そして、彼女は知る。“キルシュブリューテ”の腹の書かれた概念文の意味。
「もうどうでもいいわ。神器王、私はあなたに会いたかった。
この手で、あなたを斃せる日が来るのをどれだけ待ち望んだか・・・・!」
「そうか。ならば、こちらも手加減無用で行こう。目覚めよ、神槍・・・・グングニル!!」
そして始まる死闘。
過去ルシリオンの放つ神器群を、片っ端から斬り捨てていく過去シャルロッテ。
結局その日は決着しなかった。
二日目。
シエルとカノンの“戦場の妖精”、特務十二将にしてA.M.T.I.S.最強の二機“機神剣フルングニル”と“機神砲アングルボザ”の激戦。
シエルは、真技“天壌蹂躙するは神なる拳”によってフルングニルを破壊。
カノンもまた、創世結界“殲滅領域”で、アングルボザを破壊した。
三日目。
魔道王フノスが、ついに戦場に立つ。
相手は、特務十二将にして最下層魔界支配権の第二位“喰滅狼ウリベルト・ツェレストティッツァ・カーナス・フレイオルタ”。
その実力、まさに連合最強。過去ルシリオンですら一対一で勝てるかどうか分からない怪物。
それと引き分けるフノスの実力の高さが良く分かる。
プレンセレリウスと特務十二将“魔術の蔵フランセスク”の決闘。
ボロボロになりながらも、プレンセレリウスは勝利を収めた。
四日目。
互いの主力が出ることの無かった一日。
五日目。
特務十二将リーダー召喚王アーサーの、禁呪“上位魔族召喚”の代償による精神崩壊が始まった。
理性が完全に飛び、300頭以上という魔獣の群れを従え、戦場を蹂躙した。
暴走したアーサーを止めたのはシェフィリス。
彼女の真技“氷葬大結界・真百花繚乱”によりアーサーと魔獣群は氷漬けにされ、そのまま砕かれた。
過去ルシリオンは、連合四王のヴァナヘイム女帝とヨツンヘイム王が部下を置いて逃亡する場面に遭遇。
部下が命を賭して戦っているというのに、主たるその二人の逃亡が許せなかった彼は、創世結界“神々の宝庫”を展開、二人の王とその側近を蹂躙した。
六日目。
ステアは、求婚を迫るストーカー、四王たるフォードと決着をつける。
二人が同時展開した創世結界が、互いの術式を食い潰そうとしている時、フォードを襲うのはアリスの反則結界“一方通行の聖域”。
閉じ込められ、一切の魔力行使が出来なくなったフォードへと、ステアは真技“咬み殺す神焔”を放ち、フォードを討った。
過去ルシリオンとシェフィリスのコンビが、過去シャルロッテとミストラルとチェルシーと戦う。
多種多様なミストラルとチェルシーの魔術に苦戦を強いられながらも、最初にチェルシーの創世結界を破り戦闘不能にする。
次いでミストラルを戦闘不能に追い込む。最後に、過去シャルロッテを戦闘不能にした。
こうして、大戦に参加した星騎士は全滅した。
最終日。
ムスペルヘイムの裏切り一族の末裔“炎浄王マーディス”と、ムスペルヘイム王女セシリスの決闘。
炎熱系の魔術師同士の戦いは、セシリスの勝利で決着する。
連合の敗北がすでに決定しているようなものの、連合最後の四天王たるプリムスが“戦場の妖精”と戦う。
得意の幻影魔術と創世結界“心狂わす道化の国”によってあと一歩まで追い込むも、カノンに結界術式の穴を見破られ、創世結界を上書きされる。
戦う術を無くしたプリムスに投降を呼びかけるシエルだったが、最期まで戦おうとしたプリムスに、カノンは砲撃を放ち、プリムスを撃破した。
連合を統べる四天王の全滅である。
フノスと死闘を繰り広げ、結局勝敗が着かなかったウリベルトは、契約主である四王全滅ということもあり召喚が解かれ、魔界へと帰還した。
ネブソノフスもまた、ウリベルト同様に契約主を失い、魔界へと帰還されようとしたとき、それは起こった。
≪これが再誕神話に記される世界の終わり“ラグナロク”だ≫
敗北した事が信じられず狂気に走った連合魔術師の一部が、最大禁呪“ラグナロク”を発動。
時間や空間を無視して破壊を撒き散らす、原初王オーディンが生み出した“ルーン”に次ぐ原初魔術。
視界を突然覆う白。その刹那に起こる強烈な衝撃波、そして地割れ。
“ラグナロク”の発動地点を中心に破壊が広がっていく。
このとき、すでに周囲にある様々な世界が滅んでいた。
ヨツンヘイムを始めとした連合世界。アースガルドを始めとした同盟世界も、滅亡とはいかずとも甚大な被害を被っていた。
そして、無事だったミストラルも、魔界へと帰還しようとしていたネブソノフスも、最初の衝撃波で消滅していた。
“ラグナロク”発動を行った連合軍も、発動と同時に消滅していた。
「何てことを・・・!!」
過去シャルロッテがグレーテルたち騎士団とチェルシーを庇って、“ラグナロク”の衝撃波に耐えていた。
“キルシュブリューテ”を完全解放し衝撃波を斬り裂いてはいるものの、次第に掌からの出血が増え、腕の筋肉や血管が断裂していった。
激しい痛みに意識を飛ばされそうになりながら、過去シャルロッテは背後に庇う仲間を救うために懸命に耐える。
(誰でもいい。お願い。神さまでも、悪魔でも構わない。この子たちを護ってあげて・・・)
“キルシュブリューテ”の刀身にヒビが入るのを見た過去シャルロッテは祈った。
背後で気を失っている大切な仲間たちを護ってほしい、と。
そして、“ラグナロク”の何度目かの衝撃波によって、“キルシュブリューテ”が砕け散る。
意識が飛びそうになっていた過去シャルロッテが目を見開く。
(私では・・・やはり護れないというの・・・?
お願いお願いお願いお願いお願い・・・! この子たちを護って!!!!)
衝撃波に飲まれ、自身の肉体が消滅し始めたのを見た過去シャルロッテの最期の願い。
――我にその魂を捧げよ――
(え・・・?)
突然耳元で囁かれたような声に、過去シャルロッテは戸惑った。
彼女の視界には時間が止まったかのように動きを止めていた世界が映った。
灰色の世界。体の大半が消滅した自分。その背後に倒れている大切な仲間たち。
――我が眷族、界律の守護神となり、その刻が訪れるまで戦い続けよ――
(テスタメント・・・?)
聞いた事のない言葉に戸惑う過去シャルロッテだったが、
(そのテスタメントというのに私がなれば、この子たちとミッドガルドを護ってくれる?)
疑問を抑え、謎の声に取引を持ちかけた。過去シャルロッテは手段を選ばなかった。
護れるのならなんだってする、という決意が今の彼女の全てだった。
――そちらから提案してくるとは――
(どう? 私の背後にいる仲間と、私の故郷レーベンヴェルトを含めたミッドガルドを護ってくれるのならば・・・)
――よかろう。ここに契約は為された。汝には、白き第三の力“剣戟の極致に至りし者”の名を授ける――
謎の声の主“神意の玉座”の意思と過去シャルロッテの取引通りに、チェルシーやグレーテルたちは生き延びた。
そしてミッドガルドもまた滅亡することなく、現代に到るまで存在し続けた。
≪これが私の人間としての終わり。そして界律の守護神としての始まり≫
≪僕たちの住むミッドチルダが今こうしてあるのは、君のおかげなんだな、シャル≫
クロノがシャルロッテを見ながらそう口にした。
なのはたちはただ泣いていた。親友の人生が、そしてその死が壮絶過ぎて。
≪私は後悔してないよ。仲間は護れたし、ミッドガルドも護れた。
あーでも、レーベンヴェルトだったベルカが滅んだのはちょっと悲しいけどね≫
それを聞き、シグナムたち古代ベルカを生きた騎士は顔を伏せた。
≪さてと、これで私の話は終わり。さ、ルシル。今度はルシルの番だよ≫
シャルロッテの姿が消える。そして今まで黙っていたルシリオンが口を開く。
≪どうする? もうここで止めておくか?≫
≪ううん。見せて。ルシルの全てを。私は知っておきたいから≫
フェイトがそう答え、なのはたちも頷いて答えた。
≪・・・そうか、分かった。これが、私の終わりで始まりだ≫
う~ん、シャルロッテは敵方の上、さほど出ない。の割に人気の高かったキャラなんですよね~。
何で人気だったのか未だに分かりませんが、私自身も敵キャラの中では何となく好きな方だったりします。
今ではどうしようもないギャグキャラですけどね(笑)
さて、過去編も次で終わりですね。アンスールの最期、そしてルシルの終わりと始まりです。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。