海上隔離施設の乙女(笑)たち ~Leviathan’s diary~
――○月×日 晴れ
ルーテシアとアギトと一緒に、この海上隔離施設に来て二日。
そしてゼストは・・・・ゼストはやっぱり死んだとのことだ。
ゼスト本人から死期が近いことは聞いていたけど、やっぱりいないと悲しい。
うん、悲しいと思える。ゼストの死に、心の痛みを感じる。
「ダンナは、きっと満足していった。あたしはそう思う」
泣くのを抑えながら、アギトはそう言った。なら、そうなんだと思う。
自分の納得のいく、満足の出来る死を迎えられる人は幸せだ。
――○月×日 晴れ
ナンバーズと久しぶりに会った。けど数が足りていない。
「あぁ、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの四人だ。
四人は捜査協力を拒んで、それぞれの軌道拘置所に入れられたんだ」
チンクからそう聞いた。
現状ではチンクが、他の妹たちにとってのリーダーだ。
チンクより下の数字を持つ妹たちは、チンクの進言で海上隔離施設に来たみたいだし。
それに妹たちの捜査協力することも先導していたとのこと。
身体は小さいのに、妹想いの良いお姉さんだ。うん、小さいのに。
「チンク・・・小さいのに・・・偉い」
「ち、小さい・・・・」
笑ってるけど、雰囲気的には落ち込んでいると見る。
何だか知らないけどごめんなさい。
――○月×日 晴れ
第三の力と第四の力が面会に来た。
目的は、わたしとルーテシアの契約のおけるちょっとした検査。
病院でルーテシアと一緒にいた時でも度々来ていた。
けど検査とは言っても質疑応答だけだから、他の人から見ればただの面会に見える。
「そう言えばレヴィヤタン。もうペッカートゥムじゃないんだし、私とルシルは名前で呼んでほしいんだけど」
質疑応答も終わって、面会時間も残りわずかとなったとき、第三の力がそう口にした。
「名前・・・うん・・・」
感謝してもしきれない恩人たちからのお願い。
断る必要もないし、それに大罪との決別の意を含めて、これからは二人を名前で呼ぼう。
「えっと・・・名前・・・知らない」
それ以前の問題だった。だって仕方ない。知らないものは仕方ない。
一応愛称のようなものはさっきから耳にしているけど、わたしがそれで呼んでいいのか分からない。
だからちゃんと名前を教えてもらって、
「シャルロッテ・・・ルシリオン」
二人を呼ぶ。シャルロッテは笑みを浮かべるけど、ルシリオンはちょっと分からない。
コソッとシャルロッテに訊くと、満更でもないとのことだ。
シャルロッテが、ルシリオンに聞き取れないような小さな声で、わたしにある単語を言うようにお願いしてきた。
意味は解らないけど、それくらいどうってことはない。
だから、
「ありがとう・・・ロリコンの・・・・お兄ちゃん」
言われたとおりに口にした。
「っ!? レヴィヤタンに何を吹きこんでいるんだお前はっ!!」
ルシリオンの表情が一瞬引き攣って、次にシャルロッテへと視線を移して怒鳴った。
「わーごめんなさーい!」
二人は本当に仲が良いと思った。
それから、シャルロッテに日記帳というのを貰った。
その日起きた印象的な出来事を書くらしい。
この施設の職員にも許可は取ったって言った。どうやって取ったかは秘密らしい。
そして今日を含めたここ数日の事も一緒に書いた。
それにしてもシャルロッテがセインやウェンディと知り合いとは思わなかった。
チンクともそれなりに話していたし、シャルロッテと何かあったのは間違いなそう。
――○月×日 曇り
今日は曇り。この天気は好きじゃない。わたしの最期の日が曇りだったから。
少し憂鬱になりながら日記帳を開く。すると今まで気づかなかったけど、端の方に小さな文章が書かれていた。
――お題:悩める乙女たちの悩みを聞き、解決せよ。by C.F――
(もしかしたら、悩みが無い、ということは考えなかったのかな?)
何を企んでいるのか分からない。わたしのことを考えてか、それとも別の意図があるのか。
でも今みんなは更生プログラムの時間を終えて、今は自由時間。
ちょうどいい。書いてあるやり方の通りに事を開始する。
メンバー全員に白紙を渡して、悩みがある人のみ書いてもらって返してもらう。
そこに解決法を書いて、態々わたしのところまで見に来てもらう、らしい。
ちなみに匿名で書かせないといけないとのこと。
(何でこんな面倒な事をするんだろう)
結局はそれに従って、始めるわけだけど・・・・。
そして何枚か届いた紙を読む。まず一枚目。
――どうしてもノリで喋って行動してしまうっス。
その所為で双子からの扱いが少し冷たいっス。どうしたら良いっスかねぇ――
「・・・・・・ウェンディだ」
匿名の意味が無さ過ぎる。「~ッス」だなんてウェンディ以外の何者でもない。
どうして口癖が文章にまで現れるのだろう。謎だ。
まあいいや。これの解決法は・・・・
――すでに手遅れ。諦めることを推奨――
よし。まずはひとつ解決だ。
次は・・・・
――あたしの性格、妹とも分け隔てなく接するせいかあまり姉として扱ってもらえない――
う~ん、これは大変な悩みかもしれない。
だったら、
――その性格を変えることを推奨。姉としての威厳を保つような態度で常にいること――
よし。二つ目解決。わたしは結構相談役としてやっていけるかもしれない。
あ、そうか。シャルロッテはそれを見抜いていたのか(←そんなわけがない)。
恐るべしシャルロッテ。
次は・・・・
――自分の体型に少しばかり不満がある。もう少し大きく・・・――
最後の方は文字を何度も書いて消した形跡がある。なんでだろう?
それにしても体型についての相談だ・・・。
どうしよう、戦闘機人って成長するものなのか・・・?
これはかなり難しい相談だ。じっくりと考えて答えてあげないといけない。
――改造手術推奨。どこを大きくしたいのか分からないけど、それで万事解決――
よし。なかなか満足のいく方法だ。
すごい。わたしはかなりすごいかもしれない。
次は・・・・
――ウェンディがうざい――
「・・・・・・・・」
どうしよう。これはいろいろとまずい気がする。
――頑張って耐えてください。心から応援しますので――
と書く。だってこの相談の答えなんて見つけられない。
うん、忘れよう。そしてウェンディにはもう少し優しくしよう。
次は・・・・
――・・・・・・・・・・・・――
「???????」
え? これは相談は無いということでいいのか・・・?
よく見ると同じような紙がもう一枚。相談事が無くても“・・・”を書いて提出。
律義。明らかにオットーとディードの紙で間違いない。
うん、悩みが無いならそれで良いことだと思う。
よし。次で最後だ・・・・
――時々面会に来る高町さんを見ると何か嬉しい。この胸の高鳴りはなに?――
(高町さん・・・・?)
あ、思い出した、あの女の人だ。
確かシャルロッテとルシリオンの友達という・・・。
わたしも一度面会したことがある。かなりの美人だ。
その人が来ると嬉しい。う~ん、
――それは大好きだから――
短く書く。それだけで十分だと思うから。
わたしもルーテシアの事が大好きだから良く解る。
よし。来た悩みも解決させたし、午前中までの嫌な気分も吹き飛んだ。
シャルロッテに感謝しよう。
――後日
セインが妹たちに偉そうな態度を見せていた。
そして反発が起きて、セインは崩れ落ちた。セインは何がしたかったんだろう?
――○月×日 晴れ
シャルロッテが面会に来た。今日はルシリオンがいないから一人だ。
訊くと他の世界での契約執行中とのこと。シャルロッテはサボっていていいのだろうか?
「んー、そうしろってルシルに言われてるから。
ルシルは、出来るだけ私に良い思い出をつくってもらおうとしてるみたい」
ルシリオンはシャルロッテに優しい。もしかしてシャルロッテの事が好きなのかも。
そして今日の目的はいつもの質疑応答。それと、
「ルーテシア、あなたのお母さん、メガーヌさんが目を覚ましたよ」
これを伝えるためだった。
もちろんあとで管理局の人から聞くのかもしれないけど、出来るだけ早く知らせてあげたかったとのこと。
訊けばルシリオンが特例として治療に参加したらしい。
ルシリオンには次々と恩が出来る。契約を終えていなくなるまでに、この恩を返しておきたい。
シャルロッテは目的を終えて、姉妹の面会へと向かった。
姉妹は少しずつだけど、シャルロッテと打ち解けている。
やっぱりシャルロッテは界律の守護神の時と違って、今は面白い人だ。
「良かったね・・・ルーテシア」
「うん」
ルーテシアの表情にあまり変化はない。だけど、やっぱり嬉しそう。
手を取り合って、外を眺める。これからもずっとルーテシアと一緒にいられますように。
――○月×日 晴れ
自由時間。このときだけはある程度の行動は許される。
ゆったり寛ぐチンクがコーヒーを飲んでいる。
ここ海上隔離施設は収容所と言うよりは、更生施設に近い。
だからそういうことは制限されない。一応限度はあるけど・・・・。
「それはある暑い夏の日・・・だったっスよ」
チンクの傍でそう語り出したウェンディ。
それに耳を傾けるのは他の姉妹たちだ。
「ある少年が喉の渇きを覚えてキッチンへと行くと、そこには冷えた一杯のアイスコーヒーがあったっス」
チンクもアイスじゃないホットコーヒーを飲みながら聞き耳を立てている。
「その少年はラッキーと思って、そのコップを手に取って一気飲みしたっス。
そして、飲み干した少年は夏と言う暑さを忘れるほど背筋が凍ったっスよ・・・」
ウェンディは微笑を浮かべて、話を続けていく。
正直嫌な予感しかしないけど、先が気になるから黙って聞く。
「少年の視線はコップの中にくぎ付け。そこから視線を離したくても離せないっス。
自分が犯した恐ろしい行為に、凍ってしまったっスからね~」
うんうんと頷いて焦らす。その先の事が気になるのか、ノーヴェが先を促す。
「んだよ。何があったんだよ。誰か上の偉いやつのだったのか?」
「ふふん、実はそのコップの中には・・・・」
溜めて、
「・・・・・一匹の黒いゴキ○リが死んでいたっスよ」
「ごぶぁっ!?」
「っ!? チンク姉ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ウェンディから語られた最悪な話に、チンクがコーヒーを盛大に吹いた。
それを間近で見ていたノーヴェが叫ぶ。
「げほっげほっ・・・・ウェンディ・・・・。
危うく鼻からも出すところだったではないか・・・!」
チンクの目が怖い。でも気持ちは解る。
ウェンディに向けられる他の姉妹の視線も冷たい。
ルーテシアは口元を押さえているし、アギトはルーテシアの背中を擦っている。
「ええっ!? 面白くなかったっスか!?」
「「「気持ち悪いだけだぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
「ウェンディ姉様、最悪です」
大顰蹙。
「おかしいっスね~。あ、じゃあもうひとつ面白い話があるっスよ!」
「「「もう黙ってろ!!」」」
海上隔離施設は、今日も平和です。
――○月×日 晴れ
今日のページにもお題が書いてあるのに気づく。
――お題:話し方の改善(出来るだけ間を開けないように)by C.F――
わたしに対してのお題のようだ。
「どうしたのレヴィ?」
「ルーテシア・・・えっと・・・」
そうか。この間を無くすことが今回のお題なんだ。
でも、気づいたらこの話し方だった。それを今さら直すなんて、少し面倒くさい。
「話し方の改善・・・?」
「C.F・・・? 誰か知らねぇけどレヴィに何させるつもりだよ」
ルーテシアとアギトが日記帳の端を見て、声を出して読んだ。
わたしはそれに頷いて応える。
「やっぱり・・・聞き取りにくい・・・?」
「そんなことない」
「あたしも今のままで良いと思うぞ」
「でも・・・・」
うん、やっぱり直そう。これからをこの世界で生きるなら、甘えは許されない。
それで、どのようにして直そうかと姉妹に相談した。
「レヴィお嬢様は別にそれで良いと思うっスよ?」
「どうかしたんですか?」
まずはウェンディとセインに相談。
話し方の改善が必要になったと告げて、どうすればいいか訊いた。
ウェンディは現状で良いとのこと。
「う~ん、すぐに直せるものじゃないんですよね?
だったら時間をかけてゆっくりと直していくしかないと・・・」
セインはゆっくり時間をかけて、っと。
「そうですね・・・・早口言葉、はどうでしょうか?
あれは滑舌を良くするのに良い方法だと思いますが」
「そうだな。私もオットーの意見に賛成だ」
今度は、集まっていたチンク、オットー、ディードの三人に訊いた。
早口言葉。聞いたことはあるけど、具体的なものは知らない。
「レヴィお嬢様。ここには読書室もありますから、そこで御調べになるのがよろしいかと」
「うん・・・・ありがとう・・・ディード。チンクと・・・オットーも・・・ありがとう」
やっぱりあの三人は頼りになる。
ウェンディとセインもわたしのことを思ってのことだろうけど、やっぱり早い内に直したい。
それからルーテシアとアギトに手伝ってもらって、早口言葉に関する本を探す。
一冊だけだったけど、内容を見れば十分だった。
「月々に・・・月見る月の・・・多けれど・・・・月見る月の・・・この月の・・・月」
結構つらい。
「月々に月見る月の多けでっ!?」
アギトが思いっ切り噛んだ。
「分かった? 分からない? 分かったら「分かった」と、分からなかったら「分からなかった」と言わなかったら、分かったか分からなかったか分からないじゃない。分かった?」
ルーテシアは早口言葉というレベルじゃない遅さで口にした。
「「「・・・・・・・」」」
沈黙。そう簡単にいくわけもないか。
本のページを捲って、
「光合成・・・合成・・・毒性・・・化合物・・・」
「光合成合成毒性化合物!! よっし言えたぁぁぁ!!」
アギト、それを何回か繰り返さないとダメなんだよ。
「放射線照射装置掃射総責任者・・・・」
「手術中・・・集中しなくて・・・中傷集中・・・砲火・・・」
口にする早口言葉の選択が間違っているのかもしれない。
さすがに初心者にはレベルが高過ぎる気がする。
「レヴィお嬢様、ルーお嬢様、アギトさん、首尾はどうっスかぁ?」
陽気な声で読書室に入ってきたウェンディ。
上手くなる方法を訊いて、まずは簡単なものから始めることになった。
「じゃあレヴィお嬢様、いくっスよ。生麦生米生卵、はい!」
「生麦・・・生米生・・・たまご・・・」
慣れた話し方だとどうしても間を空けてしまう。
どうしてこんな話し方をするようになったんだろうか。
「もう一回っスよ。生麦生米生卵、はい」
「生ふぎ生ほめ生なまこ」
「「「「・・・・・」」」」
「いろいろと惜しいっスねぇ」
「でも間が空かなかった。それだけでも進歩だよ、レヴィ」
「あ・・・うん・・・」
「ありゃ空いたっスね」
もう少し時間がかかりそうだ。
けどいつかは言えるようになってみせる。
――○月×日 晴れ
今日は更生プログラムの一環でお菓子作りとなっている。
と言うか何故お菓子作りなんてものが更生プログラムに入っているのかが不明だ。
だけど料理は好きになったから、やる気はある。
「つうか何で菓子作りなんだよ。んなもん必要ねぇだろ」
だけどノーヴェはあまり乗り気じゃない。
「まあそう言うな、ノーヴェ。もしかしたらここを出たら必要になるかもしれん」
「チンク姉がそう言うなら、しゃあねぇ」
ノーヴェが簡単に折れた。これが鶴の一言というものか。
渋々ノーヴェが残っている白いエプロンを手に取った。
他の姉妹も、すでに手に取っていたシンプルなエプロンをつけていく。
「チンク姉、可愛いっス! ノーヴェは似合わねぇっスけど」
調理に邪魔にならないように髪を結ったチンクを見てウェンディが、チンクへの褒めと、ノーヴェへの余計なひと言を口にした。
「うっせぇっ! テメェだって似合わねぇじゃんかよ!」
「そんなことねぇっスよねぇ、お嬢様方~?」
「「・・・・・・」」
「無言っスか!? 無視っスか!? あたしも変なんスか!?」
「ニアッテル」
「棒読みっスか!?」
もうどうすれば良いのか分からないから、ウェンディをセインたちに任せる。
視界からウェンディを外して、わたしもルーテシアもアギトもエプロンをつける。
「変じゃない?」
ルーテシアが桃色のエプロンの裾を摘まんで、変じゃないか訊いてくる。
もちろん変なんかじゃない。
「変じゃない」
「そうだぜルールー。似合ってるって」
「ありがとう、レヴィ、アギト」
わたしたちの準備は完了。
姉妹たちもエプロン装着済みで、いつでも始められるようだ。
「ごめんなさい、遅くなって!」
そして調理室へと入ってきたのは、姉妹たちの更生プログラムの指導をしてくれる一人、ギンガ・ナカジマ。
以前ここに面会に来たスバルのお姉さん。
時々、ギンガとスバルのお父さんや、ギンガの上官のラッドお兄さんも来る。
「えっと、それじゃあ今日はクッキーをつくります。簡単なものだから、すぐに出来ます」
ギンガがエプロンをつけて、コンソールを操作してクッキーの作り方をモニターに出す。
「それじゃあ役割を分担して、始めましょう」
姉妹たちが作るのはチョコクッキー(約70枚)
バター、もしくはマーガリンを240g。三温糖100g。ミルクココア(砂糖入り)100g。
小麦粉260g。カカオマス、もしくはチョコレートを40g。
役割を決めて、クッキー作りを始めた。
何も知らない人が姉妹たちを見たら、それはもう普通の女の子に見えるに違いない。
「それじゃあルーテシアちゃんたちも始めようか」
ギンガがわたしたちの所まで来る。
わたしたちは頷いて、メープルクッキー(約30枚)を作り始める。
料理経験者であるアギトとわたし。そう苦労しないで作れるはず。
薄力粉100g。片栗粉10g。サラダ油おおさじ。メープルシロップ大さじ3。
「そんじゃあやるぞ、ルー、レヴィ」
「「うん」」
まずはサラダ油とメープルシロップを混ぜ合わせる。
薄力粉と片栗粉も混ぜて、一塊にする。冷蔵30分。170度のオーブンで15分。
「出来は完璧だな」
「ルーテシアの・・・・型抜きが可愛い」
「ありがとう、レヴィ」
姉妹たちより早くに完成。クッキーの出来は満足のいくものだ。
いろんな形をした香ばしい匂いがするクッキーを見る。
「ぐああ、失敗だぁ!」
「真っ黒ですね、チョコだけに」
「上手くもなんともねぇよ」
「何が美味いんスか?」
「ちゃんとオーブン見とけよなぁ」
焦げ臭い。向こうはいろいろと苦戦しているみたい。
もう一度作りなおそうとしている姉妹たち。
「・・・そうだ。ルーテシア・・・アギト、耳を貸して・・・」
時間が余りそうだから、ルーテシアとアギトに提案。
「お、そうだな。あたしは賛成だ」
「わたしも」
わたしたちはもう一度クッキーを作る。
それは感謝の意味を込めて作るクッキー。
――後日
機動六課の人たちにクッキーを渡した。
みんなからのクッキーの評判はすごく良かった。だけど、
「ぐぼぉっ!? レヴィヤ・・・タン・・・・な・・・ぜ・・・だ・・・?」
ルシリオンに渡ったクッキーには、姉妹たちの失敗作が紛れていたらしく、それを食べたルシリオンが悲しいことになったって後で聞いた。
いろいろとごめんなさい。そしてありがとう、ルシリオン。
制限された空間だけの生活だったけど、すごく楽しい日々だった。
ルーテシアがいて、アギトがいて、姉妹たちもいて、友達も出来た。
わたしは本当に幸せだった。
だから、この時間をくれてありがとう、ルシリオン、シャルロッテ。
――4月12日 曇りのち雷雨
そう。やっぱりあなたは諦めずに動くのですね、“主”。
でも、好きにはさせない。この世界は必ず守ってみせる。
この今日と言う運命の日を、ルシリオンとシャルロッテは必ず乗り越える。
それは絶対。だから、諦めて消えてください、終極様。
――ここから先は、一度このエピソードの『エピローグ ~After Day~』を読んでからじゃないとダメだよ?
わたしとの約束なのです。いいですね?
――同日
海上隔離施設にペッカートゥムが襲撃を仕掛けてきた。
わたしは、わたしをこの世界に留める核“生定の宝玉”の力を使って戦った。
でも、一つの代を重ねた新しいペッカートゥムは強かった。
そもそも戦力差が違い過ぎる。敗北は必至だった。
殺されるのを覚悟した。でも生き残れた。テルミナスが助けてくれた。
「もうしばらく生きるがいい。ルーテシアの死という絶望を抱いた後で消してあげる」
そこでわたしの意識が落ちた。
心身ともにボロボロというのだろうか。指一本動かせなかった。
次に目を覚ました時、ルーテシアがシャルロッテと戦っている場面を見た。
ルーテシアと繋がっていることで得られる情報の一つのようだ。
痛む身体を引き摺って、ルーテシアたちのいる場所を目指して移動した。
そこで白天王を召喚しようとしていたルーテシアを発見、気配を消して当て身を食らわせて気絶させた。
そこからテルミナスの操作から解放するために、“生定の宝玉”の神秘と、わたしに残された僅かな神秘を流し込んだ。
わたしの自滅覚悟の策は上手くいった。
ルーテシアはテルミナスから解放された。
でも、こんな簡単に上手くいくなんておかし過ぎた。
きっとこうなることをテルミナスが読んでいたに違いない。
趣味の悪い。
結果的にシャルロッテとルシリオンは、この戦いを乗り越えた。
わたしとルーテシア、アギトは六課に案内されて、シャルロッテの治療を受けた。
わたしはルシリオンと少し話をして、それから海上隔離施設に戻った。
それから少しして、テルミナスが滅んだ事が分かった。
シャルロッテとルシリオンは上手くやったらしい。
さすがとしか言いようがない。
もう会う事がない二人に、心からありがとうとわたしは口にした。
――4月14日 曇り
姉妹たちに全て話した。わたしの正体、シャルロッテとルシリオンの事。
当然信じてもらえるとは思っていなかったけど、
「アレだけの事を実際に体験したんだ。信じないわけにはいかないだろうな」
チンクがそう言うとみんなも頷いた。
「今まで嘘をついててごめんなさい」
「気にすることはないっスよ。昨日のことがなかったら今でも信じないと思うっスから」
「にしてもテスタメントって・・・凄過ぎだろ?」
「まぁ、シャルロッテが何であっても友達には変わりないかな」
ようやく隠し事が無くなった。なんかスッキリした。
――4月20日 晴れ
高町なのはさんが面会に来た。少し話をした。
ルシリオンがこの世界に残る予定だったという事、シャルロッテが還った事。
そして艦が戦場となった世界にたどり着けなかった事。
なのはさんがわたしに会いに来た理由が、その原因を知る為だった。
「たぶんだけど界律が何らかの理由で拒んでいた・・・と思う」
「界律・・・、世界の意思の事、だよね・・・?」
「そう。なのはさんたちを世界が拒んだ」
理由はいくつか考えられたけど、もう全てが手遅れだから何も言わなかった。
なのはさんは「ありがとう」と言って帰っていった。
なのはさんたちを戦闘に巻き込まないためか、それともルシリオンを世界に留めさせないためか。
どちらにしてもルシリオンは残れなかった。
――〇月×日 晴れ
アギトが今日、ここ海上隔離施設から出る。
機動六課の部隊長、八神はやてさんの家に引き取られるからだ。
「ルー、レヴィ。あたし行くわ」
「うん。またね、アギト」
「管理局の仕事、頑張って」
「おう!」
涙は出なかった。三人にあるのは笑み。必要なのは笑顔だけだから。
「寂しくなったっスねぇ」
「でもまぁアギトさんのこれからを思えば良い事だと思うよ」
「そうだな」
姉妹たちも寂しそうだったけど、でもどこか嬉しそうな顔をしていた。
〇月×日 晴れ
今日、ルーテシアのお母さんメガーヌ・アルピーノさんが来た。
母子の再会。わたしは邪魔したらダメだと思って、面会しないようにしようとしていたら、
「レヴィ。レヴィも一緒に来て」
半ば強引にルーテシアに連れていかれた。
面会室には、すでにメガーヌさんがいた。
ルーテシアとメガーヌさんの会話を聞きながら、わたしはただずっと黙っていた。
そんなとき、
「レヴィヤタンちゃん。もしよかったら、私たち家族、私の娘にならないかしら?」
「え?」
メガーヌさんがわたしに視線を移してそんな事を突然言い出した。
反応に困っていると、メガーヌさんはさらに話を続けていく。
「あなたのことは機動六課の隊長さんたちに聞いた。
ルーテシアのことを護ってくれたって。ずっと仲良くしているって。
だから、あなたも一緒に私たちと暮らさない?」
「でも・・・わたし、人じゃない」
「それがどうかした?」
「邪魔じゃない?」
「そんなことはないわねぇ」
「あの・・・家族なんて勿体ないです。わたしには従者くらいがちょうどい――」
「レヴィヤタンちゃん、私の娘になりなさい」
有無を言わせないメガーヌさんの言葉。
娘になっていいの? わたしは人じゃないのに?
グルグルと頭の中をいろんな言葉が駆けまわる。
「レヴィ、家族になろう」
わたしはルーテシアと一緒にいられるだけで十分だった。
その形が従者でも友達でも何でも。それが家族になる。
嬉しかった。
「お、お願いします・・・・お、お母さん」
「ええ、これからよろしくね、レヴィ♪」
わたしは、レヴィ・アルピーノになった。
〇月×日 晴れ
今度はルーテシアとわたしがここを出ていく番だ。
ルーテシアに言い渡された刑“辺境世界隔離”の執行のために。
姉妹たちと挨拶を何度も交わして、それから管理局の人たちに連れていかれた。
着いたのは無人世界の一つ。ここからわたしたちの新しい生活が始まった。
〇月×日 快晴
久しぶりに日記を書きます。
ここ一年半は本当に忙しかった。無人世界だから何も無い。
お買い物できる店も何もかも。そう、全て一からのスタート。
でも充実した毎日だった。わたしは今すごく幸せです。
〇月×日 少し曇りかな
ルーテシアが徐々に自分を取り戻しつつある、というより取り戻した(らしい)。
スカリエッティ(名前を出すのも億劫)のところにいた時とは全然違う(ビックリするほど)。
元気だ。明るい。ていうか全くの別人(生まれ変わったよう)。
「レヴィーーーーーー!!」
そんな大声も平気で出すようになった(どっから声出してんの?)。
いつも可愛いらしい笑顔で、わたしとガリューを振り回す(楽しいけどメッチャ疲れる)。
でもそんなルーテシアも良い。わたしの大好きなお姉ちゃん(そう呼ぶのは少し恥ずかしい)。
〇月×日 雨
姉妹たちから連絡があった。
みんな施設から出て、それぞれの居場所で頑張っているとのことだ。
チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディの四人はナカジマ家へ。
セイン、オットー、ディードの三人は聖王教会のカリムさんとシャッハさんのところへ。
みんなはそれぞれを始めて頑張っている。わたしも頑張って強くならないと。
〇月×日 晴れ
久しぶりに日記を書く。
最近はどうも眠い、激しく眠い、超眠い、どうしようもなく眠い。
成長期じゃない?とかいろいろとルーテシアとお母さんに言われた。
そんなバカな、って思った。だってわたしは生きているけど人じゃないんだから。
成長だなんて有り得ない。そう、わたしは今の姿のままで時を過ごす。
〇月×日 晴れ
日記を書く作業が毎日じゃなくなってきた。ごめん、シャルロッテ。
で、今日も友達が遊びに来た。最近はヴィヴィオとそのお友達が多いかな。
リオとコロナという子だ。でも残念、今日は予定が合わなくて来れないらしい。
で、今回は元六課のなのはさんたちを始めとした前線組の人たち。
そして今日も勃発する世界一小さい闘い、ルーテシアとキャロの軽いじゃれあい。
年の割には小さいだの何だのという。どうでもいいような事(口にはしない)。
そしてキャロはいつも決まってやられ役。少し可哀想。
「うちのレヴィだって少しは大きくなっているのに。
キャロは全然成長してないね。ちゃんと食べてるの?」
「なんですとおぉぉぉぉぉぉ!!?」
ルーテシアの言う通り、わたしはなんだか成長している。
背だって伸びたし、これではまるで人間のようだった。
シャマル先生に調べてもらったところ、今のわたしは人と変わらないということだった。
ちゃんと肉体を得ている人そのもの。これも“生定の宝玉”のおかげなんだろうか?
で、実際に今のわたしはキャロより大きい。
いろいろなところで大きい。それを自慢するルーテシア。
そしてヘコむキャロ。顔を赤くしてここから離脱しようと試みるエリオ。
それを止めるルーテシアとキャロ。わたしはそれを横目に離脱。
助けを求めるような視線を向けてくるエリオを放置(エリオは涙目)して、その場を後にした。
そしていつも通りの練習会と称した模擬戦訓練。
今回はわたしも(半ば強制)参戦することになった。
いつもはガリューと同じ見学組なんだけど・・・(トホホ、です)
「では、いきます・・・!」
わたしが今回担当することになったのはガードウィング。前衛、若しくは中衛だ。
一応今回は、だけど。実際わたしはフルバック以外ならどこでもいける。
わたしだって毎日欠かさずに訓練している。ルーテシアを害する全てから護るために。
だからそれなりの力を付けている(つもり)。
今日はそれを実戦で試すいい機会だ。
「手加減はしない、レヴィ・・・!」
対するのは同じガードウィングのエリオ。
さっきわたしが見捨てたことを、エリオが根に持っていない事を祈るばかりです。
そして始まる練習会。思っていた以上にエリオは速い。
昔のわたしなら余裕で撃墜出来るけど、今じゃあまり上手くいかない。
いつの間にか後ろを取られて、攻撃しようとしてきたエリオに一言。
「い、痛くしないでね?」
「なっ!?」
振り向きざまに上目目線でそう言ったら、エリオが顔を真っ赤にしながら停止。
チャンスだ。わたしの射撃魔法集中砲火の刑を放つ。
すみれ色の魔力弾が機能停止していたエリオに降り注いだんだけど、それをギリギリでかわしたエリオ。
再度攻撃しようとしてきたから、
「や、優しくしてね?」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
そう叫びながらわたしの目前で再停止。
再びチャンス到来。もう一度集中砲火の刑を放つ。
それをまた回避したエリオ。肩で息をしながら恨めしそうにわたしを見てくる。
そしてまた攻撃に転じてきた。わたしの連続砲撃や牽制射撃を上手に回避した。
「ホントに痛くしちゃダメ、だよ?」
「レヴィーーーーーーーーーー!!!!
もうそんな事を言うの本当にやめてぇぇぇぇーーーーーーーー!!!」
二度あることは三度ある。またエリオがわたしの目前で動きを止めて叫んだ。
なんだか知らないけど、ルーテシアの言う通りに言ったらエリオを無効化できた(少しの間だけど)。
頭を両手で押さえて、思いっきり頭を振るエリオに向けて、特大砲撃紫光掃破を放つ。
今度こそエリオは避けられずに直撃、ようやく撃墜した。
「エリオ・・・」
「エリオ君・・・・」
「優しいバカだな」
哀れんだ視線が気を失って倒れているエリオに集中する。
結局練習会は負けたけど、充実した時間で楽しかったのは言うまでもない。
そんな楽しい日々が続いている。
これもルシリオンとシャルロッテのおかげ。本当にありがとう。
〇月×日 今日も清々しいほどの快晴です❤
ルーテシアが目覚めたよ♪。
建築設計だとか、デバイス開発なんていうのもお手の物
物すごい勢いで、家の隣に建てる宿泊ロッジの設計を組んでいくしビックリなの☆
そして今はわたしとルーテシアとガリューで、お手製のアスレチック施設を作ってるんだ❤
すっごく楽しい!! でも、ルーテシアのハイテンションにはいつまでもついていけない。
はぁ、今日も疲れた。元気いっぱいなのは嬉しいけど、限度というのも知ってほしいかも・・・・。
〇月×日 今日もハ・レ♪
温泉が出た(ホント唐突だけど)。
ルーテシアの掘ってみようという突拍子もない提案。
あぁ、元気になり過ぎてとうとう頭がおかしくなったのか・・・・。
出るわけがないと思いつつもガリューと頑張って穴を掘っていると、温泉が出た。
「な、何で・・・温泉が出るって・・・・?」
濡れないように穴から離れながら、目を輝かせているルーテシアに訊く。
「夢に出てきたから♪」
すごいと思った。
ルーテシアは夢で見たことをただ信じてわたしたちに穴を掘らせたらしい。
予知夢というやつだ。何ていう行動力・・・。驚きを通り越して少し呆れるよ・・・。
でもそんな毎日が輝いている。
これからも、もっともっと楽しい日々が続くと思うと、すごくドキドキする。
海上隔離施設ってどこまで許されるか分からないので、ほとんど適当です。
今はこんなところですが、もしかしたら追々ストーリーを追加するかもしれません。
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