新たなる黒き探索者
今は夜が明け始め、街が目覚め始める頃。
海鳴市を、ビルの屋上より見下ろす三つの影。
一人は黒のマントを羽織り、戦斧の如き黒い杖を持つ一人の少女。
傍らには橙色の毛並みを持ち、額にはルビーの如き真紅の宝石がある大きな狼。
そしてもう一人・・・
†††Sideシャルロッテ†††
「なのは~! 早くしないとバスの時間に間に合わないよ~!」
「なのは、まだか?」
「う~ん、ごめ~ん、もうちょっと~」
私と恭也兄さんがなのはに向けて声をかける。
するとユーノを抱いていた美由紀姉さんが話しかけてきた。
「あれ? 今日はどっかお出かけ?」
「私となのははすずかからお茶会に誘ってもらっているので月村家へ。
恭也兄さんには付き添いとして一緒に行くつもりですけど・・・」
「そうなんだ。ふ~ん、それで恭ちゃんは忍さんに会う、と」
美由紀姉さんがジト目で恭也兄さんを見る。
私は美由紀姉さんの言葉の中に知らない人名が出てきたのが気になったので訊いてみる。
「あの、忍さんって誰ですか?」
「うん? シャルちゃん、この前月村家に行ったとき会わなかった?
なら教えてあげる。月村忍さんといって、すずかちゃんのお姉さん。
そして恭ちゃんの彼女さんなんだよ♪」
「おい美由紀」
恭也兄さんが少し困った顔で美由紀姉さんの名前を呼ぶ。
なるほど恋人ですか、そうですか。
恭也兄さんの恋人なら、それは美人な女性なんだろう。
会うのが楽しみだ。
「お待たせ~!」
「遅いよなのは」
「にゃはは、ごめんね~」
「じゃあ行くか、二人とも。バスの時間ギリギリだからな」
「おいでユーノ君」
なのはがユーノを呼ぶと美由紀姉さんの腕の中からなのはの肩へと登る。
「じゃ、いってらっしゃい。恭ちゃん、なのは、シャルちゃん」
「ああ」
「「いってきます!」」
こうして私たちは月村家へと向かった。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
私とお兄ちゃん、シャルちゃんは月村家へと到着し、ノエルさんにすずかちゃんと一足先に来ているらしいアリサちゃんの元へと案内してもらった。
「あ、なのはちゃん、シャルちゃん、恭也さん」
すずかちゃんが私たちの名前を呼んで出迎えてくれる。
「すずかちゃん」
私はすずかちゃんに答えるように名前を呼んだ。
「なのはちゃん、いらっしゃい。そちらの子には初めまして。
私はファリン・K・エーアリヒカイトです。すずかちゃんの専属メイドをしてます」
「初めまして。シャルロッテ・フライハイトです。シャルと呼んでください」
シャルちゃんは綺麗なお辞儀をしながら自己紹介をした。
「あ、この子がすずかの言っていた新しいお友達ね。
初めまして、月村忍です。すずかのお姉ちゃんです。よろしくね、シャルちゃん」
「はい、よろしくお願いします、忍さん」
すずかちゃんのお姉さんの忍さんとも打ち解けてくれたようで安心する。
「お茶をご用意いたしましょう。何がよろしいですか?」
タイミングを見計らっていたのかノエルさんがお茶の要望を聞いてきた。
「任せるよ」
「私もお任せします」
私はお茶の種類にはあまり詳しくないので、お兄ちゃんに合わせて任せることにした。
「シャルお嬢様は?」
「私はローズヒップティーでお願いできますか?」
即答。シャルちゃんってどこかのお嬢様みたい。
後で聞くと、ローズヒップティーってお肌とかに良いんだって。
次からは私もそれにしてもらおうかなぁ、て思ったり。
「かしこまりました。ファリン」
「はい了解です、お姉さま」
シャルちゃんの要望にも応えて、ノエルさんはファリンさんと共にお茶の準備をしに行き、お兄ちゃんと忍さんも忍さんの部屋へと向かった。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
なのはについてのアリサとすずかの話を聞いている。
どうやら今回のお茶会の目的は、近頃元気がないなのはが抱えているであろう悩みを相談してもらえるようにするためのようだ。
なのはは二人の気遣いで目が潤んでいる。うんうん、いいなぁ女の友情。
だというのに、そんな良い雰囲気をぶち壊すのは猫に追いかけられているユーノ。
それにしてもこの家には猫が多い。あっちを見てもこっちを見ても猫、猫、猫。
(ネコはどちちかというと好きだけれど、数が多ければいいってものじゃないのよね)
ユーノが追いかけられるだけなら大して問題は無いんだけど、お約束というか何というか、ファリンさんがトレイを持って現れる。
この先に起こると思われる被害を阻止するべく、私はユーノを抱え上げる。
「ふぅ、大丈夫? ユーノ」
「キューキュー」
怖かったね、よしよし。
それから場所を屋外へと移し、お茶会を続けた。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
屋外に移ってしばらくの後、私は“ジュエルシード”の気配を感じた。
『ジュエルシードの魔力ね』
シャルちゃんも気付いたのか私とユーノ君に念話で伝えてくる。
『うん、すぐ近くだ』
『どうするなのは、シャル?』
どうする?って、すずかちゃんとアリサちゃんがいる今、どうすれば・・・
『ユーノ、森の方へ走って。私たちはそれを追いかける』
『あ、うん、わかった。行くよ!』
シャルちゃんの提案をすぐさま受け入れたユーノ君は森のほうへと走りだした。
「あらら、ユーノどうかしたの?」
「えっと、何か見つけたのかも。ちょっと探してくるね」
「一緒に行こうか?」
ユーノ君を探すというのを口実に、“ジュエルシード”へと向かおうとして、すずかちゃんとアリサちゃんに嘘をつく。
嘘をつくのはすごく辛いけど、でも今は“ジュエルシード”を優先しないと。
すずかちゃんの家で、暴走されるようなことがあったら大変だ。
「私も一緒に行くから大丈夫。二人はここで待ってて♪」
シャルちゃんは二人が着いて来ないように仕向ける。
そして私たちは森の中へと入っていった。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
森へと入った途端“ジュエルシード”の発動を感じた。
さすがにこのような場所でも魔法を使うとアリサたちに気づかれる可能性があるため、ユーノに結界を張らせた。
それにしてもこの結界はなかなかのものだ。
現実世界と結界内の時間進行をずらす。
私たちの魔術においても結界と呼ばれる術式はあったけれど、これほどの効果を持つのはなかった。
たとえあったとしても使えるのは結界王アリスぐらいだろう。
それに戦時中のため、こういうのはあまり必要のない結界でもある。
結界が完成したのが判り、私たちは奥から光が広がったのを確認した。
そして光の中から現れたのは大きくなった猫だった。
「あ・・・あれは・・・?」
「たぶん、あの猫の大きくなりたいって思いが正しく叶えられたんじゃないかと・・・思うんだけど・・・」
「なんていうか・・・ジュエルシードの願いの叶え方ってどこかずれてる気がするわね」
私たち三人は呆れ果ててしまっていた。だって何か馬鹿馬鹿しいから仕方がない。
「さ、呆れるのはこれくらいにして、さっさと終わらせるわよ。こんなのがいたら大変な騒ぎになるから」
「そ、そうだね。すずかちゃんも困るだろうし、早く終わらせよう」
なのはが“レイジングハート”を起動させようとした瞬間、後方から猫へと向けて攻撃が加えられた。
「な、魔法の光!?」
「つまり、他の魔導師というわけね。なのは!」
「うん! お願い、レイジングハート!」
そうして変身を終えたなのはは猫の背を目指し飛び、着地後はなお続く攻撃から猫を守る。
すると敵の魔導師は猫の足元への攻撃に変更、バランスを崩させ転倒させた。
私は念のために“キルシュブリューテ”を実体化させて、地面に降り立ったなのはの横へと並んだ。
そして現れたのは、長い金髪をツインテールにした黒衣を纏った少女だった。
「同系の魔導師、ロストロギアの探索者か?」
あまり感情が感じられない声で問うてくる。
その所為かは判らないけれどなのはが少し怯えている。
それに彼女を見る限り、立ち振る舞いからして戦闘を意識した鍛え方をしている。
今のなのはではまず勝てない相手だろう。
「間違いない、僕と同じ世界の住人。そしてこの子、ジュエルシードの正体を・・・」
ユーノが何か呟いているが今はどうでもいい。
こちらはやることをするだけだ。
「いきなりの攻撃なんてあまり感心できないわね。ねぇ、何が目的? 教えてほしいんだけど・・・」
「その必要はない」
ま、当然か。少しでも情報がほしいのだけど、話し合いを最初から受けるなら攻撃なんてしないはずだ。
「なら、力づくで吐かせましょうか? なのは、サポートお願い」
「え? あ、う、うん」
本来なら一人でも十分だろうけど、なのはにも実戦を体感してもらい力を持つ者としての自覚を与えておく必要がある。
「さぁ、始めましょうか。招かれざるお客様?」
†††Sideシャルロッテ⇒黒衣の少女†††
“ジュエルシード”の発動を察知してその場へと到着すると、“ジュエルシード”が原因なのかとても大きな猫がいた。
少し心が痛むけど、母さんの為だと自分に言い聞かせ、フォトンランサーを打ち込む。
そしてさらに放つ。すると今度は私と同じ魔導師らしき白い服を着た子が猫を守るためにシールドを張る。
私は構わず打ち続けるけど、
「・・・硬い」
埒が明かないので猫の足元に着弾させて転倒させる。ごめんね。
そのまま“ジュエルシード”を封印するべく現場へと向かう。
私は白い子がデバイスを持っているのを確認するけど、一応問い質す。
「同系の魔導師、ロストロギアの探索者か?」
白い子は答えない、。けど、隣いるすごく長い剣を持った水色の髪をした子が、私の目的を聞いてきた。
でも私は応える必要はないとその言葉を断つ。
すると彼女は私と戦うつもりなのか、白い子にサポートをするように言っている。
本当は誰も傷つけたくないけど・・・仕方がない。
「申し訳ないけど、いただいていきます」
私のその言葉を開戦の合図として、水色の子が長い剣で薙いできた。
†††Side黒衣の少女⇒なのは†††
私はシャルちゃんに言われてサポートをしている。
正直、あの女の子に攻撃するなんてイヤだけど、ユーノ君と約束したんだ。
“ジュエルシード”を全部集めるって。だからごめんなさい、名前も判らない女の子。
私はシャルちゃんがあの子を誘導したところへとディバインシューターを放つ。
そしてシャルちゃんは刀であの子の攻撃を断ち切りながら翻弄している。
けど、あの子もそれに負けじと次々と魔力弾や斬撃を飛ばしてくる。
「ほう。結構な実力を備えているわ。あの子の師はよほどの腕を持つ魔導師のようね」
シャルちゃんが感心しながら襲い来る攻撃を切り裂いていく。
まだまだ余裕があるみたいだ。
あの子はシャルちゃんの強さが判ったのか攻撃の手数で決めにかかってきた。
それでもシャルちゃんにはたった一つも攻撃が通らない。
焦り始めたんだと思う。だから私たちへの警戒が一切なくなってしまっていた。
「これで終わりだよっ・・・!」
――チェーンバインド――
「しま・・・っ!」
そしてユーノ君が鎖の形をしたバインドであの子を捕える。
シャルちゃんは圧倒的だった。あれだけ動いて汗一つかいてない。
こうしてこの戦いは、いとも容易く終わりを迎えた。
捕まえた子へと歩き出したシャルちゃん。
あと3メートル程というところで上のほうから何かが落ちてきた。
その衝撃でシャルちゃんは木の葉のように宙を舞った。
「シャルちゃん!?」
「シャル!?」
私とユーノ君の心配は杞憂だったようで、きちんと体勢を立て直し着地した。
そしてシャルちゃんは落ちてきた何かを凝視している。
「大丈夫かい、フェイト?」
知らない誰かの声が聞こえる。
土煙の向こうには大きな犬・・・ううん、狼さんがあの子を背に乗せている。
そして、もう一人。全身黒い服、黒いフード付きの外套、黒い仮面をしている子だ。
その子はあの女の子を守るように、シャルちゃんとの間に立っていた。
ここからではよくわからないけど、シャルちゃんの顔がすごく青褪めているように私は見えた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。