天秤崩す者 ~dea deletionis~
あの小さな女の子のお母さんとお父さんがもうすぐやってくる。
それでもあたしは止まることが出来ない。
あの女の子には悪いけど・・・・撃たせてもらう。
そう思いながら玉座の間を出て迎撃へと向かうディエチ。
扉横の壁に背を預けている客人の一人、許されざる怠惰 ( ルシファー ) に見られていることに気づく。
ディエチもまたチラッとだけ一瞥をくれて扉を潜った。
ディエチは、なのはとルシリオンを迎撃するために通路を歩く。
ある程度進んだところで、さっきまでいた玉座の間から轟音。
それを耳にしたディエチは急いで来た道を戻り、そして玉座の間の扉を潜る。
許されざる怠惰 ( ルシファー ) の前、その壁に大きな穴が開いており、そしてクアットロの姿が見えない。
「クアットロ・・・・? ベルフェゴール・・・これは・・・?・・え?」
ディエチは自分の声が掠れてしまうほどに震えていることに気づく。
それは本能が警告しているのだと解るまで数秒かかった。
「・・・・罪眼 ( レーガートゥス ) ・・・」
許されざる怠惰 ( ルシファー ) の囁きが、ハッキリとディエチの耳に届く。
そして罪眼 ( レーガートゥス ) がディエチを包囲するかのように現れる。
「~~~~~~~~~!!」
現れた八つの罪眼 ( レーガートゥス ) 全ての目に見られ、ディエチは圧倒的な恐怖を感じた。
声にならない叫びを上げたディエチの体へと罪眼 ( レーガートゥス ) が殺到していく。
そこでディエチの意識は途切れ、目を覚ました時には全てが終わっていた。
†††Sideなのは†††
「ルシル君、本当に無茶してない・・・?」
「もちろん」
ヴィータちゃんと別れて玉座の間に向かう私とルシル君。
こうして玉座の間に向かう間にも、ものすごい数のガジェットが襲い掛かってきた。
それをルシル君が一機残らず潰していっている。
重力。どんな世界にでもあって、その世界に住む生命に必ず影響する力。
ルシル君はそれを操作して・・・・・・すごいなぁ。
「・・・ヴィヴィオ。もう少しで行くからね」
思うのはヴィヴィオのこと。
300年前の聖王時代。古代ベルカ時代の人の遺伝子を基にして生み出された子。
そうシスター・シャッハに聞いた。それと、ヴィヴィオを私の本当に娘にしないのか、と訊かれた。
けど私はいつも自分のことばっかりで、優しい母親になれる資格もないと思っていたから。
それに私は空の人間だ。だからあの子を幸せにしてあげられる自信もなかった。
けど今ではそんなのはどうでもいい。ヴィヴィオが大切な存在なのに変わりないのだから。
「・・・なのは」
「え、なに、ルシル君?」
「ヴィヴィオを救えたら、君はすぐにヴィータのところへ向かえ」
ガジェットの爆発音が通路に轟く中、爆炎を切り払って飛んでいくルシル君がそう言った。
「どうして・・・?」
「私とペッカートゥムの戦いは見せられるものじゃないからだ」
そう言ってルシル君は黙った。
相手が人間じゃないなら、それは確かに激しい戦いになるのかもしれない。
お互いが相手を全力で・・・・殺すために・・・。
「・・・・うん。ペッカートゥムはルシル君に任せるよ」
≪Target Point is near.(玉座の間まで、もうすぐです)≫
「ん」
“レイジングハート”がそう教えてくれた。ルシル君も私へと振り向いて頷いた。
ルシル君を追い抜くように前に出る。もうルシル君は重力を使っていないから。
そして角を曲がって、私たちの先にいたのは、以前ヘリを狙った砲撃の戦闘機人。
その子が黒く染まっている大砲を構えて、砲撃のチャージを終えようとしていた。
「チッ、レーガートゥスに飲み込まれているのか!」
砲撃の戦闘機人の体は、構えている大砲と同じように黒く染まっている。
それにいたる所に眼がある。それはレーガートゥスと呼ばれた眼そのまま。
そしてその眼からも閃光が溢れている。砲撃の一斉掃射をするつもりだ。
「発射」
大砲から、そして複数の眼から放たれるオレンジ色の砲撃と白色の砲撃。数は9。
私が行動を起こす前に、すでにルシル君が対処するための術を実行していた。
右手に持って構えるのは黄金の銃。“オルトリンデ”か“グリムゲルテ”のどっちかだと思う。
「出来るだけ怪我しないようにはするが、すまないな」
「っ!」
黄金の銃から放たれた集束砲クラスの閃光。
九つの砲撃がその閃光に掻き消されて、その閃光はそのまま戦闘機人へと向かって爆ぜた。
通路に吹き荒れる突風に身構えて、咄嗟にルシル君に掴まった。
そうでもしないと吹き飛ばされそうだったから。
「・・・・どうなったの・・・?」
ルシル君に掴まっていた手を離して、戦闘機人の居たところを見据える。
煙が次第に晴れていって視界に入ったのは、倒れ付した戦闘機人とバラバラになった大砲。
眼のあった黒い影も完全に消滅していた。
「・・・行くぞ、なのは。彼女はしばらく目を覚まさない」
そう言ってルシル君が戦闘機人にバインドをかけた。
その言葉には少し怒りが含まれているような気がした。
「・・・分かった。行こう」
ルシル君がそう言うんならそうなんだろう。ルシル君に続いて私も先へ進む。
玉座の間に向かう中、私はワイドエリアサーチ――サーチャーでゆりかご内を探索する魔法――を放っておく。
他にもまだ戦闘機人がいるかもしれない。ルシル君がペッカートゥムなら、私は戦闘機人をどうにかしないと。
そして玉座の間まであと一つの角を曲がればいいというところまで来た。
「っ!?」
私を襲うのは強烈な威圧感。
今まで感じたことのない激しい存在感を、私たちがこれから曲がる角の先から感じる。
本能が警鐘を鳴らし続ける。“これ以上は行くな。行けば死ぬぞ”って。
“レイジングハート”を持つ両手が震えるのが分かる。
前を飛ぶルシル君が私の横に並んで、私の両手に手を重ねてきてくれた。
「ルシル君・・・?」
「大丈夫だ。ヴィヴィオは君を待ってる。迎えに行って、さっさと帰ろう、みんなのところへ」
その言葉でさっきまでの恐怖が晴れていく。
そうだ。この先にはヴィヴィオがいるんだから、ここで立ち竦むわけにはいかないんだ。
「ありがとう、ルシル君。私はもう平気。いこう、ヴィヴィオが待ってる!」
角を曲がった先に扉がひとつ。
ルシル君が扉を破壊して、私たちはヴィヴィオのいる玉座の間へと入った。
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
“グリムゲルテ”で玉座の間を仕切る扉を撃ち壊す。
なのはと二人して中に入ると、そこには救うべきヴィヴィオと白髪の女の二人。
戦闘機人の姿は・・・・ない、か。
「いらっしゃい、欠陥品」
ヴィヴィオの囚われている玉座の隣に佇んでいた白髪の女がそう告げた。
「ヴィヴィオ! 今助けるからね!!」
そう言って、なのはがヴィヴィオに駆け寄ろうとしたから肩を掴んで止める。
「待て、なのは!」
「ちょっ、何で止めるのルシル君! ヴィヴィオしか居ないなら今が助けるチャンスだよ!?」
「な・・・に・・・?」
なのはにはあの白髪の女が見えていないというのか・・・?
「まさか・・・見えていないのか?」
「見えてないって・・・なにが・・・?」
知覚阻害を使っているということか。
神秘に対する抵抗力のないなのはは見事に影響を受けているらしい。
「ヴィヴィオの隣にペッカートゥムが一体いる。
知覚阻害を利用しているせいで、君には見えていないのだろうが・・・」
「っ! そんな・・・じゃあどうしたら・・・?」
まずいな。戦闘になれば、なのはとヴィヴィオを庇いながらになる。
だからなのはを半ば庇うようにして前に出る。
「ルシル君・・・・」
任せろ、と視線で送った。なのはは「ごめん」と一言。
「貴様はベルフェゴールか? それともベルゼブブか?」
「名? そうだな・・・・これからは許されざる支配 ( バエル ) 、と名乗ろうか」
「なに・・・?」
確かバエルとは、支配、強さ、高慢、野心といった悪徳を司どる高位悪魔の名だ。
しかしペッカートゥムの罪にはない名だ。一体何を考えている。
「名などもうどうでもいいことだ。私に必要なのは名ではなく“力”なのだから・・・・」
そう言ってヴィヴィオの頬に触れて撫でた。
「触るな!!」
“オルトリンデ”を向け、ヴィヴィオに影響が及ばないように注意して撃つ。
バエルへ向かった弾丸は“ルートゥス”がいくつも重なって盾となり弾いた。
「っ! 見えた。白髪の女の人・・・」
なのはが後ろで呟いた。どうやら今の攻防で、バエルの知覚阻害が弱まったらしい。
バエルは大して気にしていないと示すように微笑を浮かべているが。
「・・・・惜しい。しかしこの程度では届かないな」
バエルが腕を大きく広げ、八本の“ルートゥス”を左右の壁へと展開した。
そして今気づいたが、この玉座の間の壁に大きな穴が開いている。
ここで何があった・・・?
「あぁ、それか。それはつい先程までいた眼鏡をかけた戦闘機人、名前はなんだったかな?
すまない、忘れてしまった。どうでもいい虫けらでしかない存在だからね。
もう必要なかったからご退場願ったよ。それで開いてしまった穴なんだ。
だから、その穴の先で寝ているんじゃないか? バラバラに壊れていなければ、だけどね」
尚もヴィヴィオの隣に立つバエルがそう口にした。戦闘機人は必要ないから攻撃した、と。
なのはもそれを聞いて戸惑っているのが分かる。
この話が本当なら、この事件はもうペッカートゥムの手の中だ。
「ルシル君。どうすれば・・・・?」
「・・・・まずはヴィヴィオだ。そのためには・・・・」
バエルをヴィヴィオから引き離す必要がある。
「バエルは私に任せて、なのははヴィヴィオを救い出してくれ。
そうしたらさっき言ったとおり、君はヴィヴィオを連れてここから離れてくれ」
そう答え、二人してヴィヴィオが囚われている玉座へと向かう。
手にするのは“グングニル”。いつでも戦闘に移れるように細心の注意を払う。
「・・・クク。さぁ、ここからがショータイムだ。
欠陥品、お前の大切な存在によって傷つき弱まるといい」
「っ・・・うぁぁあぁ・・・ぅああああああっ!!」
急に苦しみだしたヴィヴィオ。
「ヴィヴィオ!!」
「何をした!?」
私となのはは急いでヴィヴィオの下へと駆け寄る。
しかし、その行く手を遮るようにヴィヴィオから強大な力が溢れ出てくる。
その吹き荒れる光は虹色。私の大事な義妹、魔道王フノスを見ているようだ。
「戦闘機人 ( にんぎょう ) からコピーした情報だと、それは古代ベルカ王族の固有スキル“聖王の鎧”。
レリックとの融合を経て、ヴィヴィオ ( それ ) はその力を完全に取り戻すらしい」
「いっ・・・・いたいよぉ! うあ・・・・ああああぅぅぅ!!」
「もうやめてぇぇぇぇッ!!」
ヴィヴィオの胸の辺りからレリックが浮かび上がる。
ヴィヴィオの叫びになのはも“やめて”と叫ぶ。
近づこうにも、この虹色の奔流が私の行動を制限している。
「レリックと融合、だと・・・・ふざけるなよ、貴様!!」
あんな危険なものをヴィヴィオに融合させたというのかヤツらは。
「怒鳴るな、欠陥品。それを行ったのは大罪 ( わたしたち ) ではなくスカリエッティだ。
まぁ今となってはあの男は私の駒によって乗っ取られ操り人形となっているけどね」
ここまでペッカートゥムに好き勝手させておいて“界律”は何故動かない?
十分すぎるほどにこの世界の辿る本来の道筋を狂わしているというのに、何故だ!!
「ヴィヴィオ ( これ ) のことを戦闘機人 ( にんぎょう ) どもは“王”と言っていたが、あれらの願いは終わっている。
だから私はこう呼ぼう。お前の体と心を痛めつけ、その力を果てなく弱める者・・・」
大きく両腕を広げて高々に語るバエル。
「“天秤崩す者 《 デア・デーレーティオー 》 ”と!!」
デア・デーレーティオー・・・・破壊の女神、か。
私を、この存在を弱めるために、そんなくだらないことのためにヴィヴィオを苦しめているというのか・・・・ヤツは。
「ママぁ! パパぁ!」
「「ヴィヴィオ!!」」
「っ! ママぁぁぁ!! パパぁぁぁ!! やだぁぁ! たすけて、ママぁ! パパぁ!」
「さぁ、このゆりかごの力を、そして許されざる支配 ( わたし ) の力を受け、無限の力を振るえ」
バエルの姿が光の粒子となって霞んでいく。
そしてその粒子は少しずつレリックへと入り込んで、レリックもまたヴィヴィオの体へと戻っていく。
「「ヴィヴィオ!!」」
次第に強くなる虹色の光の奔流。
吹き飛ばされそうになっているなのはを支え、ヴィヴィオへと近づく。
早くバエルを止めなければヴィヴィオが乗っ取られてしまう。
「ヴィヴィオ!! 今、助ける!!」
「パパぁ! マ・・・ぅああああああああああ!!!」
ヴィヴィオの苦痛の叫びがこの玉座の間に轟く。
そして一際強く荒れ狂う奔流が吹き、私となのはは耐え切れずに後ろへと吹き飛ばされる。
「掴まれ!!」
「うん!」
私は“グングニル”を床に突き刺して体を固定、そして尚も吹き飛ばされていたなのはの手を取る。
そしてその荒れ狂った光の奔流が止んだ。
視界がクリアになり、目に映ったのは虹色の光球の中に漂うヴィヴィオ。
『天秤崩す者 《 デア・デーレーティオー 》 、目の前にいるその男をその力で沈めるんだ』
頭の中に直接届くバエルの声。念話の一種か・・・?
「や・・・だ・・・・いや・・・だぁぁ・・・・!」
「やめろ! それ以上ヴィヴィオを苦しめるな!!」
走る。ヴィヴィオを救う為に。
あと少しで1mほどで手が届くといったところで、
「パパぁ!」
「ルシル君!」
先ほど壁に展開されていたルシファーの剣“ルートゥス”が襲い掛かってきた。
ギリギリで回避して飛び退く。頬に痛みが走る。触れた手を見ると血が付着していた。
だが阻害系の概念がかけられている以上、治癒することは出来ない。
「やだ・・・・やだ・・・・いやだぁぁぁぁ!!」
必死にバエルの支配に抗うヴィヴィオ。だが、それも時間の問題だ。
『残念。もう時間切れだ』
完全にバエルを構成した粒子を取り込んだレリックが、ヴィヴィオの体内に戻った。
くそっ、止めることが出来なかった!!
「あああああああああああ!!!!」
「「ヴィヴィオ!!」」
ヴィヴィオのその小さな体が変化していく。それは急激な成長といってもいい。
5歳前後だったヴィヴィオの体が17前後にまで成長していった。
防護服は黒を基調としていて、髪は普段のなのはと同じサイドポニー。
背にするのは“ルートゥス”と大鎌が光となって構成された八枚の翼。
右側が“ルートゥス”の翼で、左側が大鎌の翼だ。
その体の周辺をバエルの持っていた書物の紙片が渦巻いている。
そんな今のヴィヴィオは完全武装といったところだ。
変化を終えたことで用がなくなったのか、ヴィヴィオを包み込んでいた虹色の光球が砕け散る。
「これで完成だ、欠陥品。“天秤崩す者 《 デア・デーレーティオー 》 バエル”。戦い辛いだろう?」
『いやだ! たすけてママ! パパ!』
「ヴィヴィオ!?」
「なに!?」
ヴィヴィオからの助けを求める念話。
体は支配されてしまっていても精神が尚も抗い続けている。
これはヴィヴィオの強さか? それともバエルの企みの一環か・・・・?
「なのは! こうなれば二人でヴィヴィオをバエルの支配から救い出す!」
「え、うん! 指示して、ルシル君! 私はそれに従うよ!」
「防御は私が受け持つ。なのはは攻撃だけに専念。
君の魔力ダメージでヴィヴィオに巣くっているレリックを破壊する。
そのあとは私に任せてほしい。バエルを引き釣りだし止めを刺す!」
「了解!」
私の攻撃ではヴィヴィオの体に必要以上のダメージを与える可能性がある。
なら、なのはに攻撃を任せるしかないだろう。
「フッ、やはりそうきたか。それで私に勝てるか試してみるといい」
『や・・・だ・・・。ママ・・・・パパ・・・・いや・・・』
涙声の念話。それも少し弱弱しくなっている気がする。
これは急いだほうがいい。待っていろ、ヴィヴィオ。今すぐにバエルから救い出してやる。
「いくぞ!」
「うん! レイジングハート、ブラスターシステム、リミット1リリース!」
≪Blaster set≫
◦―◦―◦―◦―◦―◦
オレンジ色のミッド魔法陣の中心で片膝をつくティアナ。
現在彼女が使用している幻術魔法、その連続使用による魔力消費が多大すぎるため、大きく肩で息をして疲労に顔を歪ませている。
≪They confirmed our position. They are moving in our direction
(発見されました。3方向からまっすぐ向かってきます)≫
この位置が戦闘機人 ( ナンバーズ ) たちに知れたと、“クロスミラージュ”が告げる。
「シューターとシルエット、制御放棄。現状維持。あとはここで迎え撃つ」
≪Yes (了解)≫
ティアナは立ち上がり、もう逃げも隠れもせず、真っ向から迎え撃つことを選択をした。
もうそれしか彼女に残された手は残されていないからだ。
右足の負傷。魔力の残量。カートリッジの残弾数。それが迎撃を決めた理由である。
だがそれだけではない。ティアナには今自分が戦っている戦闘機人 ( ナンバーズ ) 三機限定の対策を組み立てていた。
それがもうひとつの理由だ。
「ほんとはさ、ずいぶん前から気づいてたんだ。
私はどんなに頑張っても、万能無敵の超一流なんてきっとなれない」
ティアナの独白。万能無敵の超一流になれない、と。
だが実際にそんな人間はどこにもいないのが現実だ。
かつて最強と謳われたルシリオンですら敗北経験があるほどなのだから。
「悔しくて、情けなくて、認めたくなくてね。
それは今もあまり変わらないんだけど・・・。だけど・・・・」
ティアナの独白の途中、突然天井が崩壊する。攻めてきた戦闘機人 《 ナンバーズ 》 による襲撃だ。
天井崩壊による土煙の中から姿を現したのは、疾走するノーヴェと飛翔するディードの二機。
≪Twin Dagger≫
両手に持つ“クロスミラージュ”がダガーモードとなる。
ディードの振り下ろした“ツインブレイズ”を受けることに成功するも、
ノーヴェがディードの背後から遠心力で加速され威力が強化された蹴りが放たれる。
巻き起こる粉塵。同階の別の場所で待機していたウェンディの前に、粉塵からアンカーショットに続くティアナ現れる。
ウェンディは撃ち落すためにすぐさま“エリアルショット”をティアナへと放つ。
「幻影!?」
ウェンディの驚愕の声が示すとおり、“エリアルショット”を受けたティアナは消滅した。
そして晴れていく粉塵の中から姿を現すのは、右足の“ジェットエッジ”の先が破壊され、歯噛みするノーヴェ。
そしてダガーモードとなっている“クロスミラージュ”二挺を構え、二つのスフィアを展開したティアナの二人。
ディードとウェンディは、ティアナの背後に立ち、その逃げ道を塞ぐようにして個々の武装を構える。
『逃げない・・・?』
『罠か・・・?』
今まで逃げ続けていたティアナを、ウェンディとディードが警戒する。
『本物なのは間違いないっスね』
『ああ。本物だ』
『油断しないで。同時攻撃で、一瞬で仕留める』
戦闘機人 ( ナンバーズ ) は少しずつ立ち位置をずらして、決められたポジションを取る。
しかし、そのポジションを取ってもらうことこそがティアナの狙いだった。
ティアナの作戦、それは目の前にいる戦闘機人 ( ナンバーズ ) 三機の完璧だが単純な連携。
その連携の初動を見抜くことが出来いれば各個撃破できるというものだった。
静寂。そしてそれは突然起きた。この廃棄ビルを覆っていた結界が消えたのだ。
それは、結界を張っていたオットーが、シャマルとザフィーラによって捕縛されたことによる結果だった。
「こんのぉぉぉぉッ!!」
ノーヴェが動く。それを合図としてディードもティアナの背後から迫り、ウェンディも“ライディングボード”を構え、砲撃体勢に入った。
「ここ!!」
待ちに待った展開となりティアナが動く。
周囲に展開していたスフィア二つを前方のノーヴェ、後方のディードへと放つ。
ノーヴェとディードは迫る弾丸を紙一重で回避。
そのままティアナは“クロスミラージ”ュの銃口をウェンディに向け、そして撃つ。
砲撃のチャージ中に砲門への攻撃を受け、周囲のスフィアを巻き込んで暴発、爆煙が起こる。
その爆煙を利用してディードがティアナの背後から襲いかかる。
しかし、それをティアナは察知していた。ダガーモードの“クロスミラージュ”を背後で構えるたことでディードの“ツインブレイズ”を防ぐことに成功。
そのまま誘導弾を操作し、背後のディードの後頭部に命中させ撃破。
ウェンディもまた顎下に誘導弾を受け脳震盪を起こし倒れた。
「ウェンディ! ディード!」
未だ晴れていなかった爆煙の中からノーヴェが現れる。
「あなたたちを保護します」
右の“クロスミラージュ”のダガーを解除し、ノーヴェへと向けるティアナ。
「武装を解除しなさい!!」
◦―◦―◦―◦―◦―◦
ギンガの激しい攻撃に対抗することができずにスバルは受け続ける。
「行動不能段階まで破壊、その後回収します」
「ギン姉ぇぇっ!!」
どこまでも冷めた声でギンガが迫る。
スバルの何度目かの姉ギンガへ向ける叫び。
それでもギンガは顔色ひとつ変えずにスバルへ疾駆、立ち上がったスバルの
腹部へと一撃、そして続けて顎へと強烈で正確、一切の手加減のないアッパーを放つ。
まともに受けたスバルは宙へと殴り飛ばされる意識が朦朧とする中、スバルは思う。
自分はどうあっても弱く、情けなく、何にも出来ないままで終わるんだ、と。
そこで脳裏に浮かぶのは、なのはと話した自分の強くなりたい理由。
最初はなのはへの憧れから。しかしなのは言った。強くなって何をしたいのか、と。
未だ宙に浮くスバルへとギンガの追撃が迫る。
だがスバルはそれに反応できるだけの意識と意思がない。
≪Wing Road!≫
“マッハキャリバー”の独断によるウイングロード。
しかしそのお陰で、スバルに迫るギンガの左腕を弾くことできた。
“マッハキャリバー”は尚も止まらない。
そのままウイングロードを利用した攻撃でギンガを退けた。
ここでようやくスバルの意識がハッキリとなる。
目の前にいるのは驚愕の色に顔を染めたギンガ。
≪Just as rehearsed.(練習通りです)≫
「え? マッハキャリバー・・・?」
≪We can still take actions... you and I.(まだ動けます・・・私も、あなたも)
We can still fight. So why abandon now?(まだ戦えます。なのに、こんな所で終わる気ですか?)≫
“マッハキャリバー”はスバルに問う。
負けてもいない。まだ動け、戦うことも出来るのにここで立ち止まるのか、と。
≪You taught me the reason of my being here, my strength and power which you adore so much.
(あなたが教えてくれた、わたしの生まれた理由。あなたの憧れる強さ)
Don't make everything a lie.(嘘にしないでください)≫
スバルの脳裏に再びあの日の、なのはに問われた強さを得た後の話が蘇る。
そのなのはに自分はこう答えた、と。
――災害とか争いごととか、そんなどうしようもない状況が起きたとき、
苦しくて悲しくて助けて、って泣いてる人を、助けられるような人になりたい。
自分の力で、安全な場所まで一直線に――
思い出す。それがスバルが目指すもの。
そして、それを聞いたなのはがとても嬉しそうに笑ってくれたことを。
戦うことを、誰かを傷つけることを恐れていたスバル。
だがスバルは思う。自分の力は壊すためのものではなく守るためのものなんだと。
「いくよ、マッハキャリバー!」
≪All right buddy.(はい、相棒)≫
決意と覚悟を新たに、スバルがギンガを見据える
「フルドライブ! ≪Ignition≫ ギア・エクセリオン!!」
“マッハキャリバー”よりそれぞれ二枚の翼が生まれる。
≪A.C.S. Standby≫
「いくよ、ギン姉」
数瞬の静寂。そしてギンガの構えていた左腕の“リボルバーナックル”が動く。
それが戦闘再開の合図となり、スバルとギンガが同時に前進。
最初の一撃は互いのバリアに防がれるも、それで終わるわけもなく激しい攻防は続く。
スバルの気合の咆哮が轟き、先ほどと同じように真っ向からの拳打を放つ。
再度バリアが互いの一撃を防ぐ。が、
「一撃必倒!!」
スバルの開いた右手の指が徐々にギンガのバリアを越えていく。
しかしギンガも同様に、“リボルバー・ギムレット”がスバルのバリアを徐々に貫いていく。
先に突破されたのはスバルのバリア。側頭部を掠めるようにして“リボルバー・ギムレット”が通過、スバルのハチマキが千切れ飛ぶ。
額からも血が流れるが、それに構わずスバルは動きを止めない。
そしてスバルもまたギンガのバリアを突破、破壊する。
左拳をギンガの腹部へと向け、巨大なスフィアを生み出す。
「ディバイィィィン・・・」
ギンガの何度目かの驚愕。
スバルはそのまま右の“リボルバーナックル”をスフィアへと殴りつけ、
「―――バスターーーーーーーッ!!!」
スバルの憧れるなのはの代名詞とも言える砲撃魔法。
自己流で習得し磨きに磨いたその一撃がギンガを飲み込む。
ここにスバルとギンガの姉妹による戦いは、スバルの勝利という形で終わりを迎えた。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
「ルーちゃん! わたしたちが戦う理由なんてないんだよ!? 戦ってもなんにもならないよ!」
「うるさい・・・うるさい!」
暴走するルーテシアにはもう説得の声は届かない。
だが、それでも諦めずに必死に名を呼ぶキャロ。
「ガリューも! 主人を、ルーのことを想うなら、ルーを止めるんだ!
ルーはあいつらに騙されているんだ! ただ操られてるだけじゃないか!」
エリオもまたガリューへの説得を続ける。
しかしルーテシアが折れない限りはガリューもまた折れないだろう。
「あなたたちには解らない。優しくしてくれる人がいて、友達がいて、愛されてる。
わたしの大切な人はみんな、わたしのことを忘れて行っちゃう」
今のルーテシアには許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) の記憶に霞がかかっている。
それはクアットロが起動させたコンシデレーション・コンソールの影響によるもの。
スカリエッティとクアットロは、許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) のルーテシアへ及ぼす影響が邪魔と考えた上でのものだった。
「独りはいやだ・・・」
ルーテシアのグローブ型のデバイス“アスクレピオス”の甲の部分にある半球状のコアが強く輝く。
それと同時にルーテシアの足元に召喚魔法陣が浮かびあがる。
そしてルーテシアの背後の空には巨大な召喚魔法陣が展開、そこから巨大な人型の竜が現れた。
「さみしいのはもういやだ。独りぼっちは・・・いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルーテシアの悲鳴に、キャロとエリオも悲しみの表情を浮かべる。
そして今召喚された白い竜“白天王”がその悲鳴に応えるように吼える。
「キャロ!」
「うん!」
エリオとキャロは、ルーテシアたちを止めるために戦うことを決める。
キャロの足元に召喚魔法陣が浮かび上がる。
「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠 ( とわ ) の護り手、我が元に来 ( こ ) よ、
黒き炎の大地の守護者・・・・」
キャロの詠唱が始まる。それを妨害しようと迫るガリューを迎撃するエリオ。
“ストラーダ”を構えガリューと対峙し、
「よく似てるんだ。僕たちとルーは。ずっと独りぼっちで、誰も守ってくれなくて。
誰も信じられなくて。何も分からなくて。傷つけることしか出来なくて」
エリオは語る。自分たちの境遇は似ていると。
俯いているその表情は悲しみ。だが、顔を上げ言葉を続ける。
「だけど変われるんだ。切っ掛け一つ、想い一つで変わっていけるんだ!!」
そこに悲しみはない。あるのは未来 ( まえ ) を見据えた強く立派な表情だった。
「竜騎招来、天地轟鳴、来 ( こ ) よ、ヴォルテーーール!」
巨大な召喚魔法陣から炎柱が立ち上り、そこから姿を現すのは“ヴォルテール”。
白天王とヴォルテールの、二体の竜の戦いが始まった。
「あなたのお母さんを助けるのわたしたちがきっと手伝う!
絶対絶対約束する! だから、こんなこともうやめて!」
「嘘だ・・・・嘘だぁぁぁぁぁッ!!」
ルーテシアは何度目かの悲鳴を上げる。
それに応じ、白天王もガリューも武装を完全解放した。
「白天王、ガリュー・・・殺して・・・ころ――「ルーテシア!!」――っ!?」
突然響いたルーテシアを呼ぶ第三者の声。
その場に居たエリオとキャロを含めた全員がその動きを止める。
キャロとルーテシアの間の空間が波打ち、そこから許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) が姿を現す。
それを見たエリオとキャロの心の内に絶望が満ちる。
ルーテシアの救援に来たのはペッカートゥムの一体というのが分かったためにだ。
二人はどうすればいいかも分からず、ただ身構えたそのとき、
「・・・・もういいよ・・・ルーテシア。・・・もう・・・やめよ? ガリューも・・・もう止まって・・・」
そう静かに、それでいて優しくルーテシアを止めようとする許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) の声を聞く。
両腕を広げて迎え入れようとしている許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) を見て、エリオとキャロは何故か“もう大丈夫”と思った。
「・・・・あなた・・・誰・・・?」
「え・・・!? ルー・・・テシア・・・? わたしだよ? レヴィ・・・だよ?」
あまりの事に許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) は驚愕した。大好きなルーテシアが自分の事が分からないと。
「あの、レヴィヤタン・・・ちゃん?」
キャロが恐れながらも許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) の名前を呼んだ。
それを聞いた許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) はキャロへと振り向く。
「キャロと・・・エリオ・・・。大丈夫・・・わたしは・・・ルーテシアを・・・止めに来ただけ・・・。あなたたちを傷つけないように・・・・約束もしたから」
キャロとエリオは何のことかは解らなかったが、敵じゃないと解るとルーテシアが操られていることを説明した。
もちろんその間も二体の竜が戦い、フリードリヒも地雷王との戦いを続けていた。
だがガリューは腕から、目からも血を流しつつも動きを止めていた。
「教えてくれて・・・ありがとう・・・。ここは・・・わたしに任せて・・・・くれてもいい・・・?」
許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) の強い意志の籠もった目を見て、キャロとエリオは強く頷いた。
ゆっくりとルーテシアへと歩みよる許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) 。
「来ないで・・・来るな・・・・来るなぁぁぁぁ!」
ルーテシアは許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) に向けインゼクトを放つ。
それを防御も回避もせずに受け続ける許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) は、しかし止まらない。
いくら魔力が強くとも神秘がなければ無意味な力となるのが、彼女たちの存在する世界だ。
キャロとエリオはただ見守る。ガリューもまたルーテシアと許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) を見守る。
「ルーテシア・・・さ、もう帰ろう・・・」
「ガリュー! 白天王! こいつを殺してぇぇぇッ!!」
ガリューは・・・・それでも動かない。
彼はルーテシアを守る戦士として、今は許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) に託しているのだ。
許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) が自分の仕える主ルーテシアを救い出してくれることを。
対する白天王は、ヴォルテールに邪魔をされて動けずにいた。
「・・・・ルーテシアは・・・もう独りじゃないんだよ・・・・。
わたしもいる・・・。ガリューも・・・アギトも・・・いる。
ルーテシアのお母さん・・・第四の力 ( くろいろ ) に頼んで・・・起こしてもらおう?」
ルーテシアに触れられる距離にまで近づいた許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) 。
一歩退こうとしたルーテシアを、許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) は優しく、それでいて力強く抱きしめた。
ルーテシアの口から「あ」と小さく息が漏れる。
「それに・・・」
許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) は背後にいるキャロとエリオを見て、
「新しい友達・・・・だっているんだから・・・・帰ろう・・・」
さらに強く抱きしめ、許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) の体が強く輝く。
ルーテシアはその輝きに包みこまれ、その表情が次第に和らいでいく。
周囲を照らし出していた美しく、どこか儚いすみれ色の輝きが治まっていく。
「・・・ルーちゃん? レヴィヤタンちゃん・・・?」
キャロがゆっくりとルーテシアを抱える許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) へ近づく。
すると許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) が顔を上げ、微笑をつくりこう告げた。
「もう大丈夫」
キャロとエリオは安堵の表情を浮かべ、お互いを見合い笑みを浮かべた。
ガリューもまた武装を解除しており、その目にはもう血は流れていなかった。
そして白天王と地雷王もまた動きを止めていた。
全てが一件落着となろうとしたとき、
「あぁ、君はそっち側へと寝返ったんですね、許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) 」
圧倒的な威圧感と存在感がこの場に満ちた。
そのあまりにも強烈な存在に、キャロとエリオの歯が鳴る。
本能が絶対の“死”を感じ取っているのだ。
しかしガリューたち召喚された者たちは臨戦態勢に入る。
何をしても自分たちの主を守るのだ、と。
「・・・許されざる暴食 ( ベルゼブブ ) ・・・!」
ここに最強の罪“暴食”と、最弱の罪“嫉妬”が相見えた。
本来ならなのはとヴィヴィオの悲しい戦いというのに邪魔が二人。
ルシルとルシファーことバエル。大目に見てくださると嬉しいです。
エリキャロとルーテシアもまたしかり、ですね。すいません。
そしてベルゼブブとレヴィヤタンの戦い。これだけは書いておきたかった。
そのための鬱陶しいベルゼブブ登場ですので。
次回で勝敗を決めます。←予告しない、と言っておきながらですが。
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