フォルトゥーナ・リーベラット・メトゥー・ネーミネム/運命は誰をも恐怖から解放しない。
Fortuna liberat metu neminem.
――第三管理世界ヴァイゼン
深い森林の中、唯一開けた場所である平野に陽光とは違う光があった。
かつて、そこは許されざる怠惰が紋様を刻んでいた場所だった。
彼女によって刻まれ、そして消えていた紋様が再びその姿を現し、白い輝きを放っている。
その紋様に興味がある動物と、それに警戒する動物が次第に周辺へと集まっていく。
そして一際強く輝いた紋様。その閃光が治まるとそこには人影が一つ。
動物たちはその紋様から距離を取り、離れた木々の中からその人影を見つめている。
「・・・・・生まれてすぐに守護神と戦闘とは。・・・・これは主のイジメでしょうか?」
輝きを失った紋様の中心に立っている男から言葉が紡がれる。
その男は神父の着る黒のカソック姿に、背には鎖で縛られている十字架が描かれていた。
髪は金色のソフトモヒカン、瞳は灰色。整った顔立ちで十人中十人の女性が振り向くような美男子だ。
「それにしてもこの空腹感は・・・・・・いけないですね。あぁ、いけない・・・」
男は周囲を見渡し、付近にいる動物たちをその灰色の双眸で確認した。
そして胸の辺りで十字を切り、今度はその十字を否定するかように×十字を切る。
「あぁ、我らが主は仰り、罪深き我らへその言葉を与えた・・・。
そう、空腹は最良の料理人である、と。・・・では、いただきます」
それは一瞬の暴風。それだけで森が一つ消えた。そして更地となったその場所で佇む男。
男の名は許されざる暴食。大罪最後の罪“暴食”が今この地に降り立った。
「ふむふむ・・・・致命に足るクソ不味さ。ごちそうさまでした。
しかし、いくら空腹であろうとも不味いものは不味いのですね。あぁ、一つ経験しました」
腹部を擦りつつ何度も頷く許されざる暴食。彼の浮かべている表情には、まだまだ足りないとハッキリと現れていた。
「あぁ、それでは行きましょうか。守護神と愚か者のいるミッドチルダとやらへ。
あぁ、そこには僕の空腹を満たしてくれる方々がいれば良いのですが・・・・」
こうして許されざる暴食は食事場へと向かった。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
「確認するわよ。あたしたちはミッド中央、市街地方面。敵戦力の迎撃ラインに参加する」
アルトの操縦するヘリの中、フォワードのリーダーであるティアナから作戦の確認が行われる。
モニターに映るのは迎撃ラインと思わしきバリケードと魔導師たち。
「地上部隊と協力して向こうの厄介な戦力、召喚士や戦闘機人たちを最初に叩いて止めるのがあたしたちの仕事」
「他の隊の魔導師たちはAMFや戦闘機人戦の経験がほとんどない。
だからあたしたちがトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る」
それがこの戦いにおいてフォワードに与えられた役目。
機動六課以上のAMFや戦闘機人との戦闘経験を持つ部隊はどこにもない。
そのためにフォワードは敵戦力を可能な限り最前線で削る必要がある。
「あとは迎撃ラインが止めてくれる。と、いうわけですね」
キャロがそう締めて、ティアナ「そっ」と頷いた。
「でも、なんだか・・・・なんだかちょっとだけ、“エース”な気分ですね」
「そうね」
エリオの“エース”発言に同意を示したティアナは微笑んだ。
魔導師の憧れの“エース”になった気分。今のティアナも同じ思いだった。
「ガジェットも戦闘機人も市街地を突破されたら地上本部までは一直線です」
「市民の安全と財産を守るのがお仕事の管理局員としては、絶対行かせるわけにはいかないよね!」
四人は頷き、これからの戦いにさらに決意を固める。
そしてティアナはスバル、そしてエリオとキャロへと視線を向け、
「・・・あとはギンガさんが出てきたら・・・」
フォワードにとって最大の問題であるギンガの話を切り出す。
拉致され、次に姿を見せたときは戦闘機人と一緒に行動をしていたギンガ。
その彼女への対処について、四人はアースラを出る前に決めていた。
「優先的に対処」
「安全無事に確保」
キャロとエリオが再確認にして、ギンガの妹であるスバルへと振り向く。
スバルは力強く「うん」と頷いた。作戦開始前のブリーフィングが終わる。
「よし! いくわよ!」
ティアナの号令の下、フォワードは戦場となる廃棄都市へと向かう。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
「ノーヴェ、ディード、ウェンディ。例の四人がそっちに向かってる」
緑色のテンプレートの上に立ち、モニターに映るフォワードを確認したオットーが廃棄されているハイウェイを往くノーヴェたちへと報告を入れる。
『ホントか?』
「ああ。ただ、前とは状況が違う。正面から戦う気で来てる」
『なーに、望むところっスよ!』
フォワードとの戦闘にやる気を見せるウェンディ。
ノーヴェもまた口には出さないが、フォワード、特にティアナには敵意を持っている。
そのために戦う気はウェンディ以上にある。
「ゆりかご浮上前に地上本部を制圧。司令部を抑えたい。
状況に対する不確定要素はなるべく排除する」
通信を切り、オットーは二手に分かれたフォワードをさらに分散させるために、ISレイストームを発動した。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
ハイウェイを往く中、フリードリヒに跨っているキャロは、前方の廃棄ビルの屋上にいる召喚士ルーテシアとガリューを視界に捉える。
ルーテシアが指差す場所には、さっきまで自分たちが乗っていたヘリがあった。
キャロはルーテシアの標的がヘリと判り、すぐさまフリードリヒに指示を出す。
「フリード!!」
フリードリヒはそれに応えるように、ルーテシアたちのいる廃棄ビルの屋上へと向かった。
その突然の行動にティアナは立ち止まり、「キャロっ!」とキャロの名を呼ぶ。
ティアナはキャロたちの行く手にルーテシアたちの姿を見、すぐさま隣に立つスバルに指示を出す。
「予定変更! 召喚士を先に捕まえる! いいわね、スバル!」
「うん! ウイング――っ!?」
――レイストーム――
ベルカ魔法陣を展開したスバルがウイングロードを発動しようとしたとき、幾条もの閃光が襲いかかってきた。
スバルとティアナはそれを回避。ティアナは傍にあったビルの屋上へ。
そこに、ティアナに襲い掛かるディード。
ティアナは“クロスミラージュ”をダガーモードにしてディードの攻撃を凌ぐが、何度目かの攻撃の際に耐え切れずに別の廃棄ビルへと弾き飛ばされた。
「ティア!?」
スバルはスバルでノーヴェからの襲撃を受けていた。
ティアナが弾き飛ばされたのを見て彼女の名前を呼ぶが、ノーヴェの苛烈な攻撃によってスバルもまたハイウェイの壁へと叩きつけられた。
――エリアルキャノン――
咄嗟にガードしたため大したダメージを受けなかったスバルに、今度はウェンディからの砲撃が襲い掛かった。
しかし、それは単なる時間稼ぎでしかなかった。
ノーヴェとウェンディの目的はティアナ。スバルには相応しい相手が用意されていた。
ティアナと合流するために走りだそうとしたとき、スバルの前に腕を組んだギンガが現れた。
「・・・・ギン姉・・・」
いざ目の前にすると思考が滞る。
『ライトニング、スバル。作戦、ちょっと変更。
目の前の相手、無理して一人で倒す必要はないわ。
足止めして削りながらそれぞれに対処。それでも十分市街地と本部は守れる。
・・・・・・・念話が聞かれてる!? 通信は以上! 全員、自分の戦いに集中!』
ティアナからの作戦変更の念話が来ても答えられず、ギンガの姿を見つめるのみだ。
そして大事な妹のスバルに名を呼ばれても一切の反応を見せないギンガ。
再度「ギン姉」と呼ばれ反応したかと思えば、ギンガは構えを取り臨戦態勢に入った。
その構えたギンガを見てスバルも構えを取る。
それはギンガをただ倒すためではなく救うために必要なことだからだ。
「ギン姉・・・」
スバルは考える。ギンガを救う方法を。
戦闘機人としての能力“振動破砕”の使用は不可。あれは威力が高すぎるためだ。
なら残る方法は魔力ダメージによる撃破となる。
「あたしが絶対助けるから!!」
スバルとギンガの足元にベルカ魔法陣が浮かぶ。
姉妹による戦闘が開始された。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
『この状況で個人戦はまずいわ! 合流を・・・!?』
――プリズナーボクス――
ティアナは弾き飛ばされた廃棄ビル内で、咽ながらも三人へと指示を出す。
だがティアナを閉じ込めるかのように、廃棄ビル全体に結界が張られてしまった。
ティアナはその場から離れ、どうにかして結界から抜け出すために行動を開始。
そして廃棄ビルの中央、吹き抜けのある場所で戦闘機人と当たってしまった。
「ハチマキとコンビでどうにか半人前。四人でようやく一人前のへっぽこガンナーが仲間と引き離された気持ちはどうっスかー?」
「チンク姉と痛さと悔しさ、ハチマキの代わりにお前に返してやる!」
ティアナへと近づいてくるノーヴェとウェンディ。
そしてその二機に率いられているガジェット数機。
ティアナは柱の陰に身を潜め、自分たちの現状を把握する。
自分は結界内。ライトニング、スバルとの分断距離と戦力負担の大きさ。
それから導き出した作戦を念話でそれぞれに伝える。
『ライトニング、スバル。作戦、ちょっと変更。
目の前の相手、無理して一人で倒す必要はないわ。
足止めして削りながらそれぞれに対処。それでも十分市街地と本部は守れる』
「バッカじゃねぇの!? そんなに時間かかんねぇよ!」
「あんたは捕獲対象じゃねぇんっスから、殺しても怒られねぇっスからねー」
ノーヴェとウェンディは、まるでティアナの念話を聞いていたかのようにそう口にする。
対フォワードのために、念話を盗聴できるように再調整を受けていた。
『念話が聞かれてる!? 通信は以上! 全員、自分の戦いに集中!』
念話を切り、臨戦態勢に入る。
接敵まであと僅かというところで、先攻を取るティアナ。
――クロスファイアシュート――
クロスファイアによる同時複数射撃による弾幕を張り、その隙に移動、そして再度クロスファイアを放つ。
戦闘機人二機を相手に真っ向からの勝負は自殺行為。ゆえにヒットアンドアウェイをとる。
さらにフェイク・シルエットを用い、自分と弾丸の幻影を織り交ぜる。
それでもノーヴェとウェンディの包囲網はなかなか崩れず、次々と幻影を撃ち落される。
「幻術馬鹿の一つ覚えが。・・・見えてんだよ!!」
ノーヴェやウェンディは、念話盗聴の他にもティアナの対幻術の調整も受けていた。
そのためティアナの幻術は対象のかく乱という役割を完全に失っていた。
突進してきたノーヴェの蹴りをまともに受け、弾き飛ばされるティアナ。
そこへウェンディの射撃が追撃してくるも、ティアナは負けじと射撃を繰り返す。
ようやく間が開いたことで、アンカーショットをこの廃棄ビルの天井へと打ち込んで、吹き抜けを通ってその場から離脱。
それは結界破壊スタッフが来るまでの時間稼ぎとしての離脱だった。
しかし、その彼女の行く手を防ぐ新手が現れた。ツインブレイズを手にしたディードだ。
それに気づいたティアナはギリギリで回避行動に移るが、右足を斬られてしまう。
そのまま一番近い階層の陰に隠れ、合流を果たした戦闘機人たちの様子を窺う。
「ディード、あんたも!?」
「オットーの指示。あの幻術使い、確実に仕留めておかないと面倒だって・・・」
その会話を聞きながら、右足に負った怪我を見てティアナは歯噛みする。
足に怪我を負うことがどれだけのハンデとなるか解っているからだ。
戦闘機人三機とガジェット、そして行動の要である足へのダメージ。
この二つの要因がティアナに絶望を抱かせた。
心が折れそうなとき、ティアナの脳裏に浮かんだのはスバルだった。
――大丈夫だよ。ティアならきっと出来るって――
幻聴にしてはハッキリと聞こえたスバルの声に、ティアナは周囲を見渡す。
――ティア、強いもん。絶対絶対大丈夫――
――一緒に頑張ろうね、ティア――
――一緒に行こう。夢を叶えに――
そうなると次々と思い出すスバルからのティアナへの言葉。
ティアナは膝を抱え、こんなときにスバルを思い出す自分に戸惑う。
が、そのスバルの思いの籠もった言葉のおかげで、ティアナは再度立ち向かうことを決意した。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
「あなたはどうして・・・こんなことをするの!?」
フリードリヒに乗るキャロの悲痛な叫び。
対するルーテシアは答えない。
「こんなところで、こんな戦いをする理由はなんなんだ!?」
廃棄ビルの側面を足場として何度も衝突を繰り返すエリオとガリュー。
エリオとキャロはティアナからの作戦変更の念話を受け、ルーテシアとガリューの確保に動いていた。
「目的があるなら教えて! 悪いことじゃないんなら、わたしたち手伝えるかもしれないんだよ!?」
キャロの説得は続く。その言葉はかつて、なのはやフェイトが口にしていたものに似ていた。
そのキャロの説得にルーテシアも表情を歪め、明らかに動揺しているのが判る。
だが、それを振り払うかのようにダガー状の射撃魔法“トーデス・ドルヒ”を周囲に展開。
それを見たキャロは距離を開けようとするが、ルーテシアを乗せたガジェットⅡ型が追撃。
「キャロ!」
ガリューと攻防を繰り広げていたエリオが、キャロを守るためにガリューの攻撃を捌き、
≪Düsen!≫
“ストラーダ”のヘッドブースターを点火させて、“トーデス・ドルヒ”の迫るフリードリヒの上へと跳躍。
そのまま“トーデス・ドルヒ”を叩き落し、フリードリヒに着地。
キャロを守る騎士かのように“ストラーダ”を構え、ルーテシアへと視線を向ける。
エリオとキャロの目に映るのは、表情に迷い色がハッキリと浮かぶルーテシアだった。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
地上本部へ向けて飛行するゼストとアギト。
その行く手を拒むようにして空に立つのはシグナムとリインフォースⅡ。
「ダンナ、あいつら・・・!」
アギトに袖を引っ張られるゼスト。ゼストはそのままシグナムの前で止まる。
「局の騎士か?」
「本局機動六課、シグナム二尉です。前所属は首都防衛隊。
あなたの、後輩、ということになります」
ゼストに訊ねられたシグナムは自らの名、所属、階級、そして前所属を口にする。
そして目の前にいる騎士、ゼストの後輩でもある、とも。
「そうか・・・」
そうゼストは短く答える。
「中央本部でも壊しに行かれるのですか・・・?」
「古い友人に、レジアスに会いに行くだけだ」
「それは・・・復讐のため・・・?」
「・・・言葉で語れるものではない。道を開けてもらおう」
問答無用でゼストが構える。
「言葉にしてもらわねば譲れる道も譲れません」
それに応じるようにシグナムもまた“レヴァンティン”を鞘から抜き放つ。
カートリッジを一発ロードし、刀身に一瞬だけだが紅蓮の炎が燃え立った。
その炎を見たアギトが驚愕するが、ゼストに「どうかしたか?」と訊かれ、「なんでもねぇ」と返した。
「グダグダ語るなんてなぁ、騎士のやるこっちゃねぇんだよ!」
アギトが紫色の光球となりゼストとユニゾンを果たす。
「騎士とかそうでないとか、お話しないで意地を張るから戦うことになっちゃうですよ!!」
リインもまた白い光球となりシグナムとユニゾンする。
そしてリインとアギトの言い争いは続く。
『うるせぇバッテンチビ!! 剣精アギト、大儀と友人ゼストが為にこの手の炎で押して参る!!』
アギトの炎がゼストの槍の穂を紅蓮の炎が生み出される。
『祝福の風リインフォースⅡ。管理局の一員として、あなた方を止めさせてもらいます!!』
そしてシグナムの“レヴァンティン”にもまた、ゼストの槍と同様の紅蓮の炎が上がる。
シグナムは“レヴァンティン”を構え、ルシリオンから出撃前に訊いた伝言を口にする。
「ルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイト・・・・覚えておいでですか・・・?」
シグナムの口から出た名前を聞いたゼストは少し眉を寄せ、「ああ」とだけ答える。
「そうですか。ならそのセインテストからの伝言です。
馬鹿な真似だけはしないでください・・・だそうです。確かにお伝えしました」
「・・・そうか・・・・」
シグナムはゼストの表情から何も窺い知れなかった。今、何を考えているのか、と。
だがこれであとは戦ってどちらかの目的が果たされるのみとなった。
「・・・いきます!!」
シグナムが先に動く。それに応えるようにゼストも前進。
衝突するシグナムの“レヴァンティン”とゼストの槍。
剣の騎士と槍の騎士の戦いが始まった。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
向こうの戦力はスカリエッティの体を乗っ取ったアスモデウス。
そしてこの場で一番厄介と思うレヴィヤタンの二体。
もしかするとさらにレーガートゥスが現れる可能性あり。
それに対してこちらは私とフェイトとシスター、そして戦闘機人三機の計六人。
だけど実際の戦力としては私とフェイトにシスターの三人。
戦闘機人は人間には強いというのは解るけど、相手がペッカートゥムならその強さは無意味だ。
まぁ、協力するか否かの返答はまだ聞いてないけど・・・。
「さぁ、どうする? きっちり考えたうえで答えて。
1、手伝ってくれるならスカリエッティを無傷とはいかないけど救う。
2、手伝わないのならとっとと白旗振って逮捕されること。ハッキリ言って邪魔になる。
3、この場に第三勢力として戦う。その場合は瞬殺するから覚悟しておくこと」
わざわざこちらが動くのを待っていてくれているアスモデウスとレヴィヤタンだ。
ならこの時間を有用に使わせてもらおう。
1の協力してくれるなら、こいつらの持つ能力を聞き出して適材適所で使用。
2の協力しないのなら、瞬殺でも何でもして他の突入部隊に引き渡す。
3の第三勢力としての参戦。それはまずないと言える・・・はず。
私たちが来るまでどんな戦いをしていたか知らないけど、それなりにダメージを負っている。
そんな状況で私たちやアスモデウスと敵対すればどうなるか分からないわけじゃないはず。
「返答は如何に・・・?」
“トロイメライ”を握る左拳に力を入れる。2か3を選んだ場合に備えて、だ。
戦闘機人がそのどっちかを選んだ瞬間、左の“トロイメライ”を叩きつける。
三機同時撃破とはいかなくても、おそらくリーダー格と思うトーレは確実に倒せる。
「・・・悩む必要はないと思うわ。この体が死んでもスカリエッティは再び現れるのだから」
スカリエッティの顔でアスモデウスの声と口調・・・ハッキリ言ってキショすぎる。
待った、違う。そんなことはどうでもいい。アスモデウスは今なんて言った・・・?
「どういうこと?」
「プロジェクトF、だったかしら。それを利用したらしいのだけどね。
この男は十二機の戦闘機人の体内に自らのコピーを仕込んだ、ということよ。
つまりオリジナルであるこの体が死んでも、復活して、一ヶ月もすればこの男と同じ記憶を持ったクローンが生まれる、というわけ。
・・・・愚かな。やはり人間は愚かな存在ね」
プロジェクトF、か。面倒なことを・・・・いや、おかしい。
アスモデウスの話が本当ならスカリエッティは確かに死んでも復活するんだろう。
だけどその体を乗っ取っているアスモデウスはどうなる?
いくらアスモデウスもそれと一緒に復活するなんてことは出来ないはずだ。
私の推測だけど、アスモデウスがスカリエッティの体を乗っ取った理由はおそらく“界律”対策。
すでに“界律”に認められている存在の中に入ることで、“界律”の抑止や修正から外れようとしているんだろう。
なのに、わざわざそんなことまでしておいてここで死んでもいい? その矛盾が引っかかる。
「さっき、全てはルシファーの目的のため、って言ったよね。
ルシファーはもういないんじゃないの・・・?」
ルシファーは、あの白髪の女に取り込まれたと私は睨んでいる。
そこまでの経緯は知らないけど、それが正しい答えであるようにしか思えない。
「・・・・話すのも飽きたわ。もうそろそろ始めてもいいわよね・・・?」
私の疑問に対する返答の代わりに殺気をお見舞いしてきた。
私の背後でフェイトとシスターが身構えるのが分かる。
レヴィヤタンもやる気を見せているし、仕方がない。
「戦闘機人! どうする!?」
「・・・トーレ姉」
「・・・・我々は・・・――「トーレ」――ドクター!?」
アスモデウスの声ではなくスカリエッティの声がした。
もちろん声の出所はスカリエッティの体から。
目の色も真紅から元の金色へと戻っている。
「トーレ、セッテ、セイン。私と共に戦ってくれないかね?
我々の夢のために・・・共に戦って、目の前にいる偽善者たちを葬ろうではないか」
「「はい!!」」
「・・・・・」
トーレと、桃色の髪をしたおそらくセッテ・・・?
その二機がスカリエッティの言葉に嬉々として賛同、傍へ行こうとする。
残りの水色の髪をした、セイン?・・・ で本当に良いのかな・・・?
その子は無言。完全に迷っている節がある。
そんなことよりトーレとセッテ? の非協力は決定。
すぐさま戦闘不能にするために左手の“トロイメライ”を振り切ろうとしたけど、
「ライドインパルス!」
避けられた。この速さはたぶんあのとき、ヴィヴィオを保護したときの戦いでメガネ女と砲撃女をなのはとフェイトの挟撃から助けたやつ。
――Mors certa/死は確実――
「シャル!」
フェイトの声で、私は迫るレヴィヤタンの砲撃に気づいた。
すぐさま離脱と思ったけど、近くにフェイトとシスターがいる。
なら回避じゃなくて迎撃に移る。レヴィヤタンの砲撃は魔力じゃなく神秘。
ならば“キルシュブリューテ”の保有する神秘で断つ。
「はあああああっ!!」
“トロイメライ”を振った遠心力を利用した“キルシュブリューテ”の打ち下ろしによる一閃。
すみれ色の砲撃は左右に裂かれて遥か後方に飛んでいった。
「大丈夫、シャル・・・?」
フェイトの心配に頷くことで応える。
それに問題があるのは私じゃなくて、あの戦闘機人二機だ。
人間の意志がアスモデウスに勝るわけがない。
なら、さっきの声は間違いなくアスモデウスの“演技”だ。
あんな演技くらい簡単に見抜けないなんて、それほど敬愛しているということか・・・?
「・・・・ありがとう、トーレ、セッテ。・・・本当に・・・・・馬鹿ね・・・」
目の色が金から真紅へ。声が男のものから女のものへ。
案の定だった。こっちに残ったセインは迷いのおかげで助かった。
「「っ!?」」
「トーレ姉! セッテ!」
再びアスモデウスとなったスカリエッティの両手が、トーレとセッテの頭を鷲掴み。
ミシミシ、という嫌な音がハッキリと私たちの耳に届く。
そのまま両手に光が生まれて、戦闘機人の全身を包み込んでいく。
「フェイト! シスター!」
あの二機は敵だ。だからと言ってアスモデウスの勝手で殺させるわけにはいかない。
本来なら、この世界の歴史にとって間違いなくイレギュラーである守護神と絶対殲滅対象。
その勝手な戦いに犠牲者だけは出したくない。それに、ムカつくけどスカリエッティも同様。
瞬時にアスモデウスとの距離を詰めるフェイトとシスター。
私は動こうとしたレヴィヤタンへ一直線に走る。二人の邪魔をさせないために。
「バルディッシュ! ≪Jet Zamber≫ はあああっ!!」
「ヴィンデルシャフト!!」
レヴィヤタンの真ん前に立って“キルシュブリューテ”と“トロイメライ”の同時斬撃を放ったときに、二人の気合の声が聞こえた。
そして私の二刀は空を切る。レヴィヤタンは移動・・・じゃなかった。あれは転移だった。
速さの正体はノーアクションによる転移。まるで守護神が使う位相空間転移のそれだった。
少し考えれば分かる仕掛けだった。けどたぶん認めなかった。
番外位のペッカートゥム、そのさらに下の嫉妬がそんな術を使うなんて、と。
「フェイト、シスター・・・!」
私はフェイトたちへと振り向く。向こうの方は何とかなっていた。
フェイトとシスターの神秘の無い一撃を受けて片膝をつくアスモデウス。
頭を鷲掴みにされていたトーレとセッテはシスターが抱えていて、力なく倒れているその二機は完全に意識が落ちているみたい。
フェイトのザンバーはアスモデウスの首に当てられている状態。
そしてレヴィヤタンはそんなアスモデウスをただ見ているだけ。
助けようともしていない。随分と非協力的というか仲間意識が小さいというか。
「(まあいいや)これで解った? お前が犯したミスがなんなのか。
それは神秘でなくともダメージを受ける人間の体、スカリエッティに乗り移ったこと。
全てにおいて本末転倒というわけ」
アスモデウスは“界律”を誤魔化すためにスカリエッティを乗っ取った。
だけどその反面、神秘のない単なる魔力攻撃にもダメージを受けてしまうようになった。
つまり、アスモデウスを斃せるのは神秘のない魔法を使う魔導師も含まれることになる。
なら、ここからは他の犯罪者たちと同じにすればいい。
魔力ダメージによるスカリエッティの昏倒。出てきたところを私が完全に討ち斃す。
レヴィヤタンの戦闘意思は萎えていないけど、それでもさっきとは比べるまでもなく弱い。
私がレヴィヤタンを斃すまでの間、フェイトとシスターにはアスモデウスと戦って時間を稼いでもらう。
そして私がレヴィヤタンを撃破、フェイト達に合流して一気にチェックをかける。
「さぁ、どうする? そこの二人は強いよ?」
「・・・なるほど。確かに魔法で傷をつけられるのは問題だわ。
けど、そこの魔導師二人に遅れをとるほどに私が弱いと思っているのかしら?
そこの二人がAMFと呼ばれるこの中で、十全の力が発揮できないのは分かっているのよ?」
そう言ってアスモデウスは一度口を閉じた。
するとスカリエッティの目と口から勢いよく真紅の髪が溢れ出して、その体を包み込んだ。
それを見たフェイトとシスター、残りの戦闘機人セインは何度目かの絶句。
すぐにその傍からフェイトは離れて、“バルディッシュ”を構えなおす。
スカリエッティの体を包み込んでいた髪がバラけて、その中からアスモデウスの肢体が見えた。
「これで少しは戦いやすくなったわ」
この目で実際に初めて見たアスモデウスの姿。
上から下まで全てが真紅とは・・・・なんか目が痛い。
「・・・ドクター・・・?」
セインが覚束ない足取りでアスモデウスへと近づこうとする。
もちろんそんなことはさせない。私はセインの肩を掴んで止める。
「セイン。AMFを解除するにはどうすればいいの?」
私は気にならないけど、フェイトとシスターにとって、ここのAMFはかなりキツい。
アスモデウスの言うとおり、二人は強いけど十全に力が発揮できないならまずい。
ならここのAMFを制御している場所を先に叩く必要がある。
「教えて。あなたたちのためにも、スカリエッティのためにも・・・・」
「・・・ウーノ、あたしたちナンバーズの一番。そのウー姉を止めれば・・・たぶん・・・」
「ありがとう、セイン。シスター、この子と一緒にウーノのところへお願いします」
敵でもある私にちゃんと答えてくれたセインに感謝を告げる。
「え、しかし・・・」
シスターは私やフェイト、セイン、そしてアスモデウスとレヴィヤタンを見回す。
シスターの心配は最もだけど、AMFがある状況じゃ私の考えは上手くいかないと思う。
なら戦力を削ってでもAMFをどうにかする必要がある。
「シャル。アコース査察官に任せられないかな・・・?」
アコース査察官か。それも一つの手だけど、戦えるのだろうか・・・?
あの猟犬たちに戦闘能力はあるとは聞いているけど・・・、
「ロッサならきちんと戦えますよ。無限の猟犬の戦闘能力はかなり高いですから」
私の考えていることが分かったのか、シスターが私の心配を晴らした。
「本当にそれでいいのかしら? ウーノは私の支配を受けているわよ。
あの緑色をした半透明な獣だけで勝てるわけないわ」
せっかく晴れた心配がさっきより遥かに強くなる。
シスターもその言葉を聞いて「ロッサ」と心配している。
「シスターとセインはウーノのところへ。アコース査察官を手伝ってください。それでいい、セイン?」
「・・・・うん」
セインは迷いに迷ってその答えを出してくれた。
シスターとセインは、このアジトを管理しているウーノのところへ。
倒れたトーレとセッテは、セインの能力で一緒に連れて行った。
「ごめん、フェイト。二人だけになっちゃった」
「ううん。大丈夫」
アスモデウスとレヴィヤタン。私とフェイト。
合計戦力としては向こうが若干上といったところかも。
まぁ、アスモデウスの姿をしていてもスカリエッティの体に変わりはない。
それなら変わらずにフェイトの攻撃は有効だ。
でもフェイトが全力を出すためには邪魔なAMFが解除されるまではまだ時間がある。
それもウーノとかいう戦闘機人の戦闘能力によって変わってくるはずだ。
アスモデウスの支配。どういう力かは知らないけど嫌な響きだ。
そして最大の問題、レヴィヤタン。高速移動じゃなくて位相転移を持つペッカートゥム。
おそらく真技じゃないと勝てない。転移前に潰すか転移直後に潰すかの二択。
空間干渉の術式があればもっと簡単だろうけど、生憎と私はそんな反則は使えない。
「考えれば考えるほど泥沼に嵌る、か。仕方ない」
もうごちゃごちゃ考えるのも面倒。こうなったら私の体が動くままに、だ。
『フェイト、私がアスモデウスとレヴィヤタンを同時に相手する。
離れたところからでいいから、アスモデウスへの牽制をお願い』
『ちょっ、シャル!? いくらシャルでもそれは・・・!!』
『大丈夫。アスモデウスへの魔力攻撃は通じる。牽制だけでも十分に効果は望める。
だから後方支援をお願いするの。AMFが解除されたら、もちろんフェイトにもアスモデウスと真っ向から戦ってもらうからそのつもりでよろしく』
AMFが解除されたあとのフェイトならアスモデウスとも渡り合えるはず。
それが概念存在であれば不可能だけど今は違うからだ。
アスモデウスは自ら首を絞めることばかりをしている。間抜け。
『・・・分かった。でもシャルが危ないと判断したら私も動くからね!』
『まぁそのときはお願い』
フェイトは私たちから10メートルくらい距離を開けた。
私の傍にいるのはアスモデウスとレヴィヤタンの二体。
“トロイメライ”でアスモデウスを、“キルシュブリューテ”でレヴィヤタンを討つ。
「シャルロッテ・フライハイト・・・・参ります!!」
――閃駆――
閃駆を使って先手をとる。まずは一番近いアスモデウスから。
振るうのは“トロイメライ”。使用魔法は、
――光牙月閃刃――
閃光系の魔力を刀身に纏わせた一撃。
「正面から、しかも一人で私たちと戦うと? そこのクローンと一緒でなくていいのかしら?」
「うるさい!! そんなの関係ない! フェイトは私たちの親友だ!!」
フェイトに向けて、こいつは禁句を口にした。
私は友達を傷つける奴だけは絶対に許さない。
跳躍して私の一撃を回避したそんなアスモデウスに、
≪Plasma lancer≫
フェイトから放たれたプラズマランサーが12。
アスモデウスは空中で大鎌を振り上げて、そのまま斬り払おうとする。
(ナイス、フェイト!)
私はそれを横目にレヴィヤタンへと突撃をかける。
“キルシュブリューテ”に魔力を籠めて、その能力を瞬間解放する。
レヴィヤタンと“キルシュブリューテ”における神秘の差はあまりない。
前回のように逃がさない。必ず致命傷を与えて終わらせてみせる。
「目醒めよ、キルシュブリューテ!!」
解放時間は3秒。限定解放はまだ使わない。
下手に解放して決まらなかったらこっちが終わる。
瞬時に間合いを詰めて、一気に下から斜め右上に振り切る。
案の定レヴィヤタンは転移、私の頭上に現れたのを知覚で捉える。
“キルシュブリューテ”の剣先は上を向いた状態。
その先いるのは砲撃準備を終えたレヴィヤタン。どっちが先に発動して討ち滅ぼすか・・・
「勝負!!」
――光牙閃衝刃・伍連――
――Mors certa/死は確実――
同時。私とレヴィヤタンの間に莫大な神秘の奔流が生まれる。
全てを押し流そうとする力の中、一瞬だけ視線をフェイトのほうへと向ける。
フェイトがアスモデウスへ向けて、プラズマランサーを撃ち続けているのが見えた。
奔流も止んで体が自由になったところで、レヴィヤタンが私から大きく距離を取っているのが分かった。それなら、
「トロイメライ! ≪Glanz Vogel≫ いっけぇぇぇぇっ!!」
“トロイメライ”を振るって発動したのは砲撃魔法グランツ・フォーゲル。
フェイトのプラズマランサー群と私のグランツ・フォーゲルでアスモデウスを挟撃。
アスモデウスもそれに気づいて、その体の周辺に本のページのような紙片で防いだ。
紙片の防御陣と私の砲撃が衝突して爆発が起こる。
「シャル・・・!」
「私は大丈夫。フェイトは?」
「私も大丈夫。ちょっとAMFが辛いけど・・・」
フェイトの傍へと跳躍して並び立った。
お互いの心配に対して強く頷くことで問題なしと教え合う。
煙が晴れていってその姿を現すアスモデウスとレヴィヤタン。
「もう一度仕掛ける。フェイト、援護射撃お願い。でも無茶はしないで。
危険と思ったらすぐに離脱してくれていいから。それじゃ・・・・いくよ!!」
再度、閃駆を使って接近。アスモデウスはそれに気づいていても体がついてきていない。
これはもしかするとAMFが解除されるまでにアスモデウスをどうにか出来るかもしれない。
「そう甘くはないとは思うけど・・・・ね!」
――炎牙崩爆刃――
アスモデウスを横切る瞬間に、“トロイメライ”で炎熱系の一撃を放つ。
真紅の炎を纏った刀身から放たれる爆発力の高い炎刃による斬撃一閃。
咄嗟にページによる防御をしたように見えたけど、あれくらいじゃ防ぎきれないはず。
「プラズマランサー・・・・ファイア!!」
未だに爆煙に包まれているアスモデウスに向けて放たれるプラズマランサー10基。
結構容赦ないフェイトの攻撃。もしこれがAMFのない状況なら決まっているかもしれない。
フェイトからの容赦ない攻撃を受け続けるアスモデウスの横を通り抜け、目指すはレヴィヤタン。
だけどその前にもう一発アスモデウスに魔法を食らわせる。
本当に容赦ないと思うけど、スカリエッティには良い薬だ。意識があるかは知らないけど。
――雷牙閃衝刃――
“トロイメライ”の剣先から放たれた真紅の雷槍が、アスモデウスへ一直線に向かう。
そのまま結果は見ずにレヴィヤタンへと肉薄。“キルシュブリューテ”の刺突を放つ。
これもおそらく回避される。けど転移後に強烈な一撃をぶちかます。
「っ・・・ルーテシア!?・・・・っ!!」
「え・・・?」
レヴィヤタンは誰かの名前を叫び、そのまま私の“キルシュブリューテ”に貫かれた。
終盤も終盤で最後の罪、ベルゼブブ降臨。
邪魔な存在だぁ・・・出しておいてなんですが。
そしてフェイト組。戦闘機人との共闘はボツ!!
フェイトとシャルの見せ場を減らす必要はない、と思ったためです。
この二人の活躍こそ重大なのです・・・・と思います。
一応フェイト組&機人組の共闘によるアスモデウスとレヴィヤタン戦も書いたんですが、トーレとセッテ、ついでにシスターが邪魔すぎる!
セインはディープダイバーによる奇策で活躍、なんてものもあったのですがボツ!
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