聖地より蘇る翼
――ミッドチルダ南部アルトセイム地方森林地帯 9月16日 AM02:10
「態々こんなところに呼び出してどういつもりかしら?」
かつて“時の庭園”のあった地にて、一人佇むのは許されざる色欲 ( アスモデウス ) だ。
彼女は、許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) にこの場へ呼び出されていた。
しかし約束の時間になろうとも許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) は現れない。
「・・・・遅いわよ、許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) 」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) の振り向いた先に許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) はいた。
いつも手にしている本を片手にゆっくりと歩いてくる。
「そう怒る必要もないじゃない」
「怒ってなんかいないわ。ただ、このような場所に呼び出す必要があるのかどうかには少しばかりの苛立ちがあるのだけどね」
そう言って許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) から自分の背後にある平野へと視線を移す。
「・・・・・そう」
許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) の表情に変化が現れた。それは笑み。
右手に手にしている書物をゆっくりと上げ、ページを開いていく。
「・・・・それで、許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) 。私に話って―――っ!?」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) は突如襲い掛かってきた無数のページによって吹き飛ばされた。
しかし吹き飛ばされている最中に許されざる色欲 ( アスモデウス ) は大鎌を手にしてページを裂いていく。
「どういうつもり、許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) !?」
左側の髪を団子に結っていた鎖が切れ、その長い真紅の髪の半分が風に靡く。
それでもページの勢いは止まることなく、次々と襲い掛かってくる。
許されざる色欲 ( アスモデウス ) はそれを裂き続けながら、いきなりの攻撃を仕掛けてきた許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) に突進していく。
「さすが許されざる色欲 ( アスモデウス ) 。今ので決めるつもりだったけど簡単にはいかないか」
そこまで迫った大鎌をバックステップで回避する許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) 。
お互いの攻防が一度止み、この場に静けさが戻る。
「答えなさい。今のはどういうつもりで攻撃をしてきたのかを?
返答によっては斃すしかないから、素直に、かつよく考えて答えなさい」
「答え・・・・ね。それが必要なことだから。私は“力”がほしい。
だから手っ取り早く身内の“力”を手にしていくのが効率のいい方法だと思ったの」
それを聞いた許されざる色欲 ( アスモデウス ) の表情が、怒りのものから呆れに変わる。
しかし許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) の表情は真剣。嘘や冗談ではないことは許されざる色欲 ( アスモデウス ) にも理解できた。
「何を馬鹿なことを言うのかしら。それなら大罪 ( もと ) に戻ればいいだけのこと。
それを態々こんな面倒なことをしなくても――「それは違う」――・・・なに?」
言葉を遮られた許されざる色欲 ( アスモデウス ) の目に鋭い光が宿る。
許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) は笑みを浮かべて言葉を紡いでいく。
「それではダメ。私は大罪 ( ペッカートゥム ) に戻るのはごめんだから。
それに、それではいつまで経っても番外位のまま。
私は正式な数字を持ちたい。そう、今を空席としている座に着く為に“力”がほしい」
今度こそ許されざる色欲 ( アスモデウス ) の表情が驚愕へと変わる。
許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) の目的は己の存在の昇華。
そのうえでの正式数を持ち、他の絶対殲滅対象 ( アポリュオン ) と対等になる。
「・・・それは無理な話よ。大罪 ( わたしたち ) の“力”を集めたくらいで正式数にはなれない。
それだけでは圧倒的に概念が足りていない。あなたの考えは初めから破綻しているわ」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) は静かに告げた。先程までの怒りや呆れ、驚愕の表情はどこにもない。
あるのはただ憐憫の眼差しだけだ。
「・・・・確かに大罪 ( ペッカートゥム ) の“力”だけなら足りないのは明確。
けど、この世界には大罪 ( わたしたち ) 以上の“力”と概念を持つ存在がいる」
「っ!! まさか界律の守護神 ( あれら ) を取り込もうというの許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) !?」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) はあまりの話に声を荒げる。許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) は「クスリと笑い、その銀眼の視線を向ける。
「霊格が落ち、人間へと成り下がっていても界律の守護神 ( テスタメント ) には変わりない。
ならあの二柱を取り込んでしまえば、さらに一歩、私は正式数に近づける」
「・・・・そう。でも私はお前 ( ・・ ) に取り込まれるつもりはない。
たかが怠惰と傲慢如きが。この色欲 ( わたし ) と強欲に勝てるとでも思って?」
許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) に対しての二人称があなたからお前へと変化。
許されざる色欲 ( アスモデウス ) にとって、許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) はすでに己の敵としたからだ。
「二番目と三番目のあなた。そして私は五番目と六番目、そして―――」
許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) はゆっくりと左手の人差し指を許されざる色欲 ( アスモデウス ) に向ける。
「―――憤怒 《 よんばんめ 》 」
「っ!!?」
人差し指から放たれる黄緑色の無数のレーザー。
許されざる色欲 ( アスモデウス ) の表情は、この日何度目かの驚愕に染まる。
彼女の思考にあるのは、“何故?”、この一つだけとなってしまっていた。
「くっ! 何故お前が許されざる憤怒 ( カレ ) の“力”を持っている!?」
今代の中で最も接近戦に強い許されざる色欲 ( アスモデウス ) は、そう叫びならもレーザー群を裂いていく。
「四番に敗れてもなお存在していた許されざる憤怒 ( サタン ) を“俺”が吸収したからだ」
「許されざる傲慢 ( ルシファー ) !?」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) の混乱は頂点に達していた。
何故許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) に敗れた許されざる傲慢 ( ルシファー ) がいるのか?
その一瞬の混乱によって生み出された隙が勝敗を決してしまっていた。
「―――ぅぐぁ!?」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) を貫く四本の剣“悪ふざけ ( ルートゥス ) ”が鈍く光る。
貫かれたところより溢れるのは血ではなく真紅に輝く光の粒子。
許されざる色欲 ( アスモデウス ) を構成しているモノが静かに乖離していき崩壊していく。
さらに追撃するかのように、無数のページが許されざる色欲 ( アスモデウス ) を囲んでいく。
その衝撃でもう片方である右側の団子が解け、地面に着くほどの真紅の長髪が露になる。
「・・・・あ゛・・・あ゛あ゛あ゛・・・・ルシ・・・ファー・・・・」
「安心しておけ許されざる色欲 ( アスモデウス ) 。大罪 ( おれたち ) の当初における目的も完遂させる。
これは俺個人の目的だからな。あの御方の邪魔をするような真似だけはしない」
許されざる色欲 ( アスモデウス ) の構成していたモノが全て粒子となり、その姿が消滅した。
そしてその粒子を含めた許されざる色欲 ( アスモデウス ) の“力”が許されざる傲慢 ( ルシファー ) へと流れ込む。
「お前の役目はまだある。ゆえに後で再構成するからな、許されざる色欲 ( アスモデウス ) 」
許されざる傲慢 ( ルシファー ) は許されざる怠惰 ( ベルフェゴール ) へと姿を戻した後、左胸を強く押さえ、静かにこの場から姿を消した。
†††Sideはやて†††
――ミッドチルダ中央区画海上艦船アースラ内 9月19日
「シャルちゃん、ほんまにもう大丈夫なん?」
「おかげさまで。ルシルの治療のおかげで無事に完治したよ。
完治するまでに四日もかかるなんて思いもしなかったけど・・・・」
「ですが本当に良かったです。僕や六課一同心配していましたから」
「ありがとう、グリフィス」
アースラに本部を移してから六日目の今日。
これから今後の方針について隊員たちと話すためにグリフィス君を含めた三人で廊下を歩く。
私の元気よく隣を歩くシャルちゃんは、二日前には治療を終えて私たちと合流した。
シグナムやエリオと模擬戦をして鈍った体を鍛えるとか言い出して、なのはちゃんたちに止められてたけど、聞かずに実行。
病み上がりやというのにシグナムと相打ちっていうあたりがすごいと思うわ。
「・・・ルシル君はどないや? 二日間眠りっぱなしらしいけど?」
「うん。私の所為で無理をさせちゃったことの反動だね。
私がもう少ししっかりしていればよかったんだけど・・・・・」
ルシル君はシャルちゃんの治療を終えてすぐに死んだかのように深い眠りについた。
今もシャルちゃんの部屋で、目覚めがいつになるか分からへん眠りについてる。
俯いたシャルちゃんは少し黙って、そして顔を上げて私を見た。
「ごめん、はやて。ルシルが起きていればザフィーラやヴァイスのことも治療できたのに」
「それもう何回目や? 気にしたらあかん言うてるやん。
今回のことはしゃあない。それにザフィーラとヴァイス君ももう大丈夫や」
ザフィーラの意識は戻らんくても念話には答えてくれるて、シャマルも言うとった。
ヴァイス君も手術は無事に成功したとも報告を受けとるしな。
「シャルちゃんが何でも背負い込もうとするんはなのはちゃんの影響やね。
一人で背負ったらあかんよ。私たちみんなで背負うことやからな」
「あぁ・・・・そうかも。ごめん、ありがとう」
「うん!」
話しているうちに会議室前。
部屋の中に入って、みんなが揃っていることを確認。
シャルちゃんはなのはちゃんとフェイトちゃんの間のイスに座って、みんなに会釈してる。
私も一番手前に座って、グリフィス君は私の後ろについた。
「ちょうどよかった。今、機動六課の方針が決まったところや」
「地上本部による事件への対策は、残念ながら相変わらず後手に回っています。
地上本部だけでの事件調査を強行に主張し、本局の介入硬く拒んでいます」
グリフィス君から地上本部の現状が告げられる。
チラッと見たシャルちゃんの表情は完全に呆れ果てているといった感じ。
「よって、本局からの戦力投入はまだ行われません。
同様に、本局所属である機動六課にも捜査情報は公開されません」
「そやけどな、私たちが追うのはテロ事件でもその主犯格としてのジェイル・スカリエッティでもない」
モニターを起こしてレリックの画像を移す。
「ロストロギア、レリック。その捜査線上にスカリエッティとその一味がおるだけ。
そうゆう方向や。で、その過程で誘拐されたギンガ・ナカジマ陸曹と、なのは隊長とフェイト隊長の保護児童ヴィヴィオを捜索、救出する。
そういう線で動いていく。両隊長、意見があれば」
今の私に出来ることはこれで精一杯。
この方針について二人の意見を聞いてみる。
「理想の状況だけど、また無茶してない?」
「はやて、大丈夫?」
二人からは意見やなくて私の心配。すごくありがたいことや。
それにシャルちゃんも声には出してへんけど心配してくれとるのは解る。
「後見人のみなさんの黙認と協力はちゃんと固めてあるよ。そやから大丈夫。
何より、こんなときのための機動六課や。ここで動けな部隊を起こした意味もない」
「・・・了解」
「なら、方針に異存はありません」
「よし。そんなら捜査、出動は本日中の予定や。万全の態勢で出動命令待っててな」
「「「「「「はい!」」」」」」
†††Sideはやて⇒スバル†††
メンテナンスチェックを終えて、マリーさんに“マッハキャリバー”のところに案内された。
あたしの目に映る待機モードの“マッハキャリバー”は所々がひび割れて砕けていた。
「ごめんね、マッハキャリバー。私のこと・・・怒ってる?」
≪Perhaps I don't have the feeling of "anger".(『怒る』という感情が、私にはおそらく存在しません)
Worry is not needed.(心配は不要です)≫
そう言ってくれる“マッハキャリバー”。
けど、“マッハキャリバー”はAIだけど心があるって、一緒に走る相棒だって言ったのに。
あたしは思い出す。“マッハキャリバー”を傷つけることも厭わなかったあの戦いのことを。
あたしはあのとき“マッハキャリバー”のことを全然考えてなかった。
「自分勝手に道具扱いして、こんなに傷つけちゃった。ごめん、マッハキャリバー」
≪No. I had a problem.(いいえ。問題があったのは私の方です)
Your best stages was not supported due to my power shortage.
(あなたの全力に応えきれなかった、私の力不足です)≫
なのにマッハキャリバーは自分の所為だって、あたしが悪いんじゃない、って・・・・。
「あぁ、ごめん! 大事なお話中?」
メンテナンスルームの扉が開いて入ってきたのはマリーさんとシャーリーさん。
「あ、いえ・・・」
≪Reconsideration meeting.(反省会です)≫
上手く言うことが出来なかったあたしの代わりに“マッハキャリバー”が答えた。
反省会をしているんだ、って。
「シャーリーさん、もういいんですか?」
シャーリーさんだって入院をするほどの怪我を負った。
「六課が大変な時期だし、デバイスたちの面倒も見ないとだし、寝てられないよ」
「・・・はい」
そう答えるしかなかった。あたしも同じ気持ちだから。
シャーリーさんはコンソールを操作し始めた。
「ねぇ、スバル。マッハキャリバーね、修理ついでにって強化システムのプラン、自分で考えちゃったのよ。
アウトフレームの強化とか、装甲強度のアップとか」
「かなり重くなるし、扱いづらくなるだろうから、スバルに聞かないとって言ったんだけど・・・」
“マッハキャリバー”が自分の意思で強くなろうとしてる。
あたしはモニターに映るその強化プランをしがみ付くようにして見る。
そこにはいろいろなプランが提示されてた。
「魔力消費1.4倍、本体重量2.5倍・・・・。やります! この程度なら確実に!」
結構キツイ事になるかもしれないけど、それでも“マッハキャリバー”が考えてくれたプラン。
それを無駄にするわけにはいかないし、あたしも頑張りたい。
「じゃあ、このプランは採用。良かったね、マッハキャリバー」
≪Thank you≫
「そうと決まれば早速。パーツ受け取ってくるから」
「スバル。もうしばらく待っててね」
「ありがとうございます!!」
感謝で胸いっぱいだ。“マッハキャリバー”にも、シャーリーさんにも、マリーさんにも。
≪Please give me one more chance.(もう一度、私にチャンスを下さい)
Your best will be supported without fail this time.
(今度は必ず、あなたの全力を受け止めます)
So that you can go as far as you want.(あなたが、どこまでも走れるように)≫
「・・・うん。今度は絶対一緒に走ろう、マッハキャリバー」
あたしの相棒は本当に頼りがいがある。かっこよすぎるよ、“マッハキャリバー”。
†††Sideスバル⇒シャルロッテ†††
「ルシル。捜査とか出動とかは今日からになるって」
ベッドの縁に座って、そこに眠り続けるルシルに伝える。
前みたいに“英知の書庫 ( アルヴィト ) ”で話が出来たらいいんだけど、私じゃ使えないから無理だ。
だから伝えることが出来ないし、ルシルの現状についても把握できない。
「ギンガとヴィヴィオの捜索も今日からだし、早く起きないと・・・・置いて行くよ?」
起きないなら置いて行く、我ながらあんまりな話だ。
こうしてルシルが眠り続ける原因をつくったのが私だというのに。
「・・・・ルシ――「今、起きたよ」――ルシル!」
横になっているルシルの目が開いて、僅かに焦点が合わない目で私を見る。
でも一度眼を閉じて、開いた時にはもうしっかりと焦点が合っていた。
「・・・・私の意識が落ちてから・・どれだけ時間が経過した?」
「二日だよルシル。私を完治させて、すぐルシルは倒れた」
ルシルはゆっくりと深呼吸して、意識をさらに覚醒させていく。
視線を巡らせていることから、自分の居場所を探っているのかも。
「ここはアースラだよ、ルシル。勝手だったけどここに運んでもらった」
「・・・・そうか。アースラに・・・・懐かしいな」
体を起こして、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
ルシルが背伸びをしたことで、ルシルの体のあちこちが“ポキポキ”鳴っている。
「女神の祝福 ( コード・エイル ) の副作用の強制休眠が二日か。思っていたより早く回復したようだな」
最後に首を鳴らしたルシルの顔色は良好。どうやら完全復活のようだ。
「六課の現状は?」
いきなり真剣な顔になったルシル。
さっき私が話しているときにはまだ起きていなかったということか。
「あ、うん。方針としてはレリックの捜査という名目でスカリエッティ一味の追跡かな。
当然誘拐されたギンガとヴィヴィオを捜索、救出することも入ってる。
事に当たるのは今日中ってこと。大体こんなところだね」
大まかな方針をルシルに告げる。
ルシルは少し逡巡した後に、「そうか」と呟いた。
「しかし、体が鈍って少し重いな。シャル、少し付き合ってくれ」
「あはは、了解。私もそうだった。四日も寝てれば当然だけどねー」
そうして部屋を出てトレーニングルームを目指す。
ルシルは廊下を歩きながら辺りを見回して「本当に懐かしい」って呟いてばかり。
ちょっと年寄りくさいよ、ルシル・・・って年寄りか、実際。
「おかしなことを考えてないか?」
「べっつにぃ~」
トレーニングルームに向けて歩いていると、
「あーーーーっ! ルシルさんが起きてますーーっ!!」
「ルシル君!」
廊下いっぱいに響き渡る・・・リインとなのはの声。
さっき過ぎた曲がり角の向こうから二人が向かってきた。
「そんな大きな声を出して・・・・」
「だってルシルさんが起きてるんですよ!?」
「それは私が起きていると問題がある、と捉えてもいいのか?」
リインに訊き返したルシルの表情は若干落ち込み風。
そのルシルの言葉と表情に、リインは「違いますー!!」と必死に否定。
ルシルはそんなリインを見て笑うだけだ。
そしてリインは顔を赤くしてプンスカ怒り始めた。
からかわれたことに気がづいたみたい。可愛い。
「そんなことより。もう大丈夫なの、ルシル君?」
なのはが心配そうな表情でルシルに聞く。
ルシルの傍で怒っていたリインは「そんなことより!?」って言ってショックを受けてる。
それを無視するルシルは「ああ。もう大丈夫だ」と答えて、体を軽く動かした。
「うぅ、リインは、リインは・・・・・」
「あぁ、落ち込んじゃった。ルシルもなのはもからかい過ぎ」
リインを手のひらの上に座らせて、頭を優しく撫でる。
なのはは「?」の表情。天然だったらしい。ルシルは「ごめんごめん」と笑いながら、私と同じようにリインの頭を撫でた。
「なのはさんもルシルさんもひどいです」
それから四人で少し話して、なのはとリインと別れた。
目指すはトレーニングルーム。
「ルシル!!」
デジャヴ。前から来るのはフェイトとシグナム。
「もういいの、ルシル!?」
フェイトが全力ダッシュで駆け寄ってきた。
私はシグナムと目を合わせて苦笑。
「さっきもなのはとリインに言われた。答えは問題なしだよ、フェイト。
全快率で言えば90%。残り10%はこれからだ」
フェイトはそれを聞いて首を傾げてる。
「これからシャルと軽く模擬戦をするんだ。二日も眠っていた所為で体が鈍って仕方がない」
「え、大丈夫なの? さっき起きたばかり・・・なんだよね?」
フェイトの心配そうな表情とは裏腹に、シグナムの目が怪しく光ってる。
「私が相手をしよう」とか言い出さなければいいんだけど・・・。
「これから六課は動くんだろ? なら少しでも役に立ちたい。
だが、こうも体が鈍っているとかえって足手まといになる。それだけは避けたい」
「なるほど。なら私があい――「シグナムは時間」――・・・・むぅ」
シグナム撃沈。そんなシグナムが可笑しくて笑ってしまう私たち。
それからなのはたちと同じように少し話してから二人と別れた。
「なんかすごいね、ルシル。会う人会う人に心配されるなんて」
「私が眠っている間、君も似たような体験をしたんだろ?」
「まあね」
ここのみんなは本当に優しい。だからこそ守りたい。
“絶対殲滅対象 ( アポリュオン ) ”の連中に滅ぼさせたりはしない。絶対に・・・。
ようやくトレーニングルームに着いて、模擬戦の準備を始めようとしたとき、艦内にアラートが鳴り響いた。
「ルシル!」
「ああ!」
トレーニングルームから飛び出して、なのはたちと合流するために私たちは走り出した。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
『アインヘリヤルの襲撃と制圧、ほぼ完了です』
スカリエッティに報告するのはウーノ。
スカリエッティはその映像を別のモニターで観賞していた。
自分の作り出した作品 ( ナンバーズ ) が地上防衛用魔力攻撃兵器“アインヘリヤル”を制圧していく様を。
『妹たちも初回出動からのデータを全て蓄積、行動に反映出来ています』
「ああ、いいね、素晴らしい。素晴らしいよ」
『失敗が目立つ人造魔導師と比較して、私たち戦闘機人はトラブルが少ないですね』
「元は最高評議会の主導で、管理局が実用寸前まで漕ぎ着けた技術だからね」
スカリエッティの前に展開されているモニターに映るものが変わる。
それは戦闘機人開発に関するデータであり、そこから先日の地上本部襲撃においてのナンバーズたちの戦闘記録だ。
「それを私が随分と時間を掛けて改良したんだ」
『良質なはずです』
「人造魔導師製造もまた、ゼストやルーテシアが長期活動してくれたおかげで随分と貴重なデータを取ることが出来た。
彼らの成功と失敗のおかげで、聖王の器も見事な完成を見た」
凶悪な笑みを浮かべるスカリエッティ。
スカリエッティにとって、やはりゼストとルーテシアは研究材料の一端でしかなかった。
もしこの場にルーテシアとゼストを慕う許されざる嫉妬 ( レヴィヤタン ) がいれば、彼は間違いなく殺されていた。
スカリエッティのアジトとは違う通路を歩くウーノ。
彼女は布に包まれた何かを横に抱き、その通路を歩き続ける。
「この“聖王のゆりかご”を発見し、触れることが出来て以来、その起動はあなたの夢でしたから。
そのために聖王の器たる素材を探し求め、準備も整えてきた」
ウーノが抱いていた布に包まれた何かから覗くのはヴィヴィオだった。
そして彼女がある広い空間に出たとき、その空間に明かりが生まれていく。
まるで彼女の来訪を歓迎するかのように。
「夢が・・・叶うときですね」
ウーノは感慨深く告げる。
『まだまだ。夢の始まりはここからなんだよ、ウーノ。
古代ベルカの叡智の結晶“ゆりかご”の力を手にして、ここから始まるんだ。
誰にも邪魔されない、楽しい夢の始まりだぁ!』
ウーノの隣にあるモニターから流れるスカリエッティの歓喜の言葉。
ウーノもそれに答えようとしたところで、彼女のいる“聖王のゆりかご”にアラートが響く。
「っ! 私たちのほうに侵入者!?」
“聖王のゆりかご”内に緑色をした半透明な獣が数体侵入していた。
それがセキュリティーに引っかかったことでアラートが鳴り響いたのだ。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
“聖王のゆりかご”へと続く洞窟入り口の前、そこには二つの人影。
一人はシスター・シャッハ。騎士カリムの補佐的な立場にある女性。
もう一人はヴェロッサだ。その騎士カリムの義弟であり、管理局査察官でもある。
「僕の猟犬を発見して、そのうえ一発で潰した。
並のセキュリティーじゃない。ここがアジトで間違いないね」
「すごいですね、ロッサ。こんな場所、よく掴めました」
「シャッハ。いい加減、僕を子ども扱いするのは止めてほしいな」
シスター・シャッハの褒め言葉をそう捉えたヴェロッサ。
そして両手を腰に当てたヴェロッサの背後から、緑色の半透明な獣が数頭現れる。
ヴァロッサは片膝をつき、その内の一頭の頭を優しく撫でる。
「これでも一応、はやてやカリムと同じ古代ベルカ式のレアスキル継承者なんだよ?」
「無限の猟犬“ウンエントリヒ・ヤークト”。あなたの能力は存じ上げていますよ」
この猟犬こそが先程“聖王のゆりかご”のセキュリティー・センサーにかかり排除されたものだ。
猟犬を魔力で生み出して放ち、その場にいながら探査・捜索などが行える能力。
目視や魔力探査に対するステルス能力を持ち、視覚・聴覚で得た情報を能力者であるヴェロッサに送ることも出来、または記憶することも可能な万能猟犬。
「ま、今回の発見はフェイト執務官やナカジマ三佐の部隊の地道な捜査があってこそのものだけどね」
ヴェロッサの言葉が切れると同時に、シスター・シャッハの、トンファーのようでありながら双剣型のデバイスである“ヴィンデルシャフト”が敵の接近を知らせるかのように輝く。
それと同時に茂みの中や、洞窟の中から無数のガジェットⅠ型が姿を現す。
二人は臨戦態勢に入り、そしてガジェットの迎撃へと移った。
†††Sideルシリオン†††
トレーニングルームから現状を知るために、アースラブリッジへと移動した私とシャル。
私に気づいたはやてに左手を軽く挙げて挨拶。
シグナムが居ることから、私が起きていることはもう知っているだろうから、それだけで済ました。
「アインヘリヤル一号機、二号機から戦闘機人たちの撤収が始まっています!」
シャーリーの報告がブリッジに響く。モニターに映る×印がアインヘリヤルだろう。
そしてそこから離れていく赤い点滅が戦闘機人ということか。
それにしても“異界英雄 ( エインヘリヤル ) ”に近い名を持つ兵器とは少し複雑な気分だ。
「前回よりも動きが速い」
「早めに叩かんと取り返しが着かんことになるけど、嫌な感じに拡散してる。隊長たちの投入はしづらいな」
私は戦闘機人の速度に関しては知らないが、速いことは確かだろう。
とはいえ、それでも私の空戦形態には遠く及ばないものだが。
「アコース査察官から直通連絡!」
『はやて、こちらヴェロッサ。スカリエッティのアジトを発見した』
モニターにアコース査察官が映り、彼の声には緊迫の色が見える。
スカリエッティのアジトを発見しただけではその色は出ないと思うが。
『今、シャッハが迎撃に来たガジェットを叩き潰してる。
教会騎士団から戦力を呼び寄せてるけど、そっちからも制圧戦力を送れるかい?』
そういうことか。いくら何でもシスター・シャッハだけで無数のガジェットを相手にするのは骨が折れるはずだ。
そんな状況であれば緊迫するのも当然か。
「うん、もちろんやけど――」
「戦闘機人、アインヘリヤルから撤収。地上本部に向かっています!」
モニターに映る複数の点滅が地上本部方面へと移動し始めた。
そして私はモニターに映った一人の男に目を疑った。
「あの騎士も別ルートで本部に・・・!」
「ぜ、ゼスト・・・さん・・・?」
「知っているのか、セインテスト?」
知らず口にしていた男の名を私の口から聞いて、シグナムが私に振り返った。
ゼスト・グランガイツ。首都防衛隊所属のストライカー級魔導師、いや、騎士。
私がクロノの謀略による研修で、僅かな時間だったがお世話になった人だ。
八年前に亡くなったと聞いていたが・・・・生きている。
「ああ。昔、世話になった人だ」
「・・・・そうか」
シグナムは深く聞いてはこなかった。
『廃棄都市から別反応。エネルギー反応膨大! これは・・・戦闘機人!
こちらも地上本部に向かっています! 映像が今・・・・!』
ブリッジに居ないルキノから報告が入り、また別のモニターが浮かび上がる。
そのモニターに映る戦闘機人を見て、ブリッジの居る全員が息を呑んだ。
何故ならそこに映っていたのは、拉致されていたギンガだったからだ。
『さぁ、いよいよ復活のときだ』
ブリッジに流れたのはスカリエッティの声。
そしてモニターに映るのはどこかの森林地帯。
『私のスポンサー諸氏。そしてこんな世界をつくり出した管理局の諸君。
偽善の平和を謳う聖王教会の諸君。・・・見えるかい?
これこそが君たちが忌避しながらも求めていた絶対の力』
その森林が徐々に浮かび上がっていく様がモニターに流れる。
完全に浮かび上がったそれは森林などではなく・・・・戦艦?
『旧暦の時代、一度は世界を席巻し、そして破壊した古代ベルカの悪夢の叡智』
『聖王の・・・ゆりかご・・・!』
アコース査察官が、その艦を指してそう口にした。
『見えるかい? 待ち望んだ主を得て、古代の技術と叡智の結晶は今、その力を発揮する』
新たに浮かび上がるモニターに、玉座と思しき物に座らされたヴィヴィオが映し出された。
そして、そのヴィヴィオの座る玉座の隣に、白髪の女が笑みを浮かべて立っていた。
『ママ? ぅあ・・・ああ・・・いたいよ! こわいよ! ママぁぁ! パパぁぁ!』
「・・・・屑が」
ヴィヴィオがあれほど苦しんでいるのに何も出来ない。
助けを求めているのに、今は見ていることしか出来ない。
怨むぞ、“界律”。守護神の力があれば、本来の魔術師としての力が出せれば、今すぐにでも助け出せるのに。
『さぁ、いらっしゃい。欠陥品』
白髪の女が、見えていないはずの私へと確かに視線を向けてそう言った。
それに気づいたシャルを含めたはやてたちが私を見る。“欠陥品ってなに?”と籠められた視線で。
『さあ! ここからが夢の始まりだ!!
ハハハハハハハ! アァーッハハハハッハハハッハ・・・・!!!』
夢? そんなもの・・・・粉々に砕いてやるよ・・・・。
「ジェイル・・・・スカリエッティ・・・・!!」
3rdエピソードの最終決戦へとようやく入っていきます。
ですが、あまり皆さんに期待させてガッカリさせないために言っておきます。
期待要注意!!
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