預言者の著書 ~Prophetin Schriften~
†††Sideシャルロッテ†††
「臨時査察って・・・機動六課に?」
「うん。地上本部にそうゆう動きがあるみたいなんよ・・・」
「うっわぁ、地上本部の査察って上が上だけに結構厳しいよ?」
はやてが、この六課に査察が入るって話をしてきた。
たぶん昨日の戦いが地上のトップ、レジアス中将の耳に入ってしまったんだろう。
厄介な人に目を付けられてしまったものだよホント。
「うへぇ・・・、六課はただでさえツッコミどころが満載の部隊やしなぁ」
「今、配置やシフトの変更命令が出たりしたら、正直致命的だよ?」
「そうだよね~、ここでバラバラにされるのはまずい」
査察官の判断によっては、六課内のメンバーが外されることになるかもしれない。
私とルシルが代わりになる、っていうのは論外だし・・・。
「う~ん、なんとか乗り切らなぁ」
はやての言うとおり、ここはどうにかして乗り切るしかない。
手伝えることがあれば、なんだってしてあげないとね。
「・・・・ねぇ、これって査察対策にも関係してくるんだけど、六課設立の本当の理由、そろそろ聞いてもいいかな?」
「よかったら私も教えてほしいんだけど・・・。
あ、もし機密情報だっていうんなら無理に聞かないよ?」
フェイトがこの機動六課設立について質問したから、私もそれに続いて聞いてみた。
でも、私はもう局員じゃないし、六課の隊員でもないから無理には聞けない。
「う~ん、シャルちゃんのことは信じとるし話してもええよ。それにええ機会やと思う。
これから聖王教会本部、カリムのところに報告に行くんよ。
そこでまとめて話すから、私と一緒に付いてきてくれるか?」
「うん」
「・・・ありがとう、はやて」
はやての“信じてる”というのを聞いて口元が緩むのが分かる。すごく嬉しい。
「うん。なのはちゃんはどうやろ? もう帰ってきとるかな?」
「あ、ちょっと待って」
フェイトが浮かび上がったキーボードのキーをいくつか叩いてモニターを立ち上げた。
んで、そのモニターに映し出されたのは、
『ほーら、どうだ、ヴィヴィオ?』
昨日保護した女の子を肩車して笑っているルシル。
そしてルシルの足元には、うさぎのぬいぐるみが踊ってる。
その他にも、ルシルの傍で笑みを浮かべてるなのは。さらにフォワードの子達もいる。
モニターに映るそんな光景を見て、私だけじゃなくてフェイトとはやても目を点にしてる。
「え~と・・・これは・・・?」
「取り合えず行ってみようか」
「え、うん・・・そうだね」
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
昨日の怪我がどうのこうのってことで、今日一日の強制休暇を取らされた。
大してやることのない私は、後髪を切り整えたり、のんびり海を眺めながら時間を過ごした。
「これがニートってやつかぁー」
それにも飽きて職員寮へと戻ると、遠くから子供の泣き声が聞こえた。
こんなところに子供の泣き声というのもおかしな話と思い、声のするところまで行ってみると、そこはフェイトとなのはの部屋だった。
「失礼するよ・・・って、その子は昨日の・・・」
部屋に居たのは、なのはとフォワードの子達。そして昨日保護した少女の六人。
泣き声はなのはの足元にしがみ付いているその子のものだった。
『あ、ルシル君。うん、異常もないってことだから連れて来たんだけど・・・』
なのはが口頭じゃなく念話で応対してきたから、フォワードの子達と視線だけの挨拶を済ませつつ、こっちも念話で応対する。
『それはなのはの判断だからいいとして、どうしてこういう状況に?』
『えっと、ヴィヴィオ――この子の名前なんだけど、私が仕事に戻らないといけないって言ったら、行っちゃヤダって泣き出しちゃって放してくれないの。
それでフォワード陣に相手をしてもらおうと思ったんだけど・・・』
私となのはの視線を受けた子達は面目なさそうに頭を下げて、
『『『『すみません』』』』
四人同時の謝罪一言。その四人には苦笑を返すしかない。
『私が少し話をしてみようか?』
『え? うん・・・、お願いできる?』
私がこういうことをするような人間には見えないだろう。
だから、なのはの歯切れの悪さも理解は出来る。
私としても幼い子供と関わりを持つことは契約中度々あったりする。
それに、赤ん坊だった妹の面倒だってゼフィ姉様と一緒に見たこともある。
そんな中で、いろいろと小さい子との付き合い方を学ぶこともたくさんあった。
とはいえこの子にも通用するかどうかは判らないが・・・。
「こんにちは」
まずは視線を合わせるために膝をつく。
視線を合わせるだけでも反応が違ってくるし、子供の視線にこっちが合わせるのも結構大切だ。
「・・・こん・・・にちは・・・」
両目に涙を浮かべながらも、恐る恐るといった風だが目を合わしてくれる。
それにきちんと挨拶を返してくれた。いきなりの拒絶でなくてよかった。
まずは第一難関を突破というわけだ。
「わた・・・、お兄ちゃんは、ルシルっていうんだ」
「・・・ルシル・・・?」
ルシリオンって長い名前よりかはルシルの方がはるかに覚えやすいだろう。
この愛称をつけてくれたゼフィ姉様には本当に感謝している。
「そう、ルシル。君のお名前はなんていうのかな?」
「・・・ヴィヴィオ・・・」
自己紹介も終わった。それじゃ本題のほうへと持っていこうか。
「ヴィヴィオ、か。いいお名前だね。それでね、ヴィヴィオ。
ヴィヴィオは、なのは・・・さんと一緒に居たいんだよな?」
なのはさんかなのはお姉ちゃんのどちらかで少し迷って、結局さん付けを選択。
何か変な感じだ。さん付けなんて・・・。
なのはもそうなのかテレを含んだ微苦笑を浮かべながら私を見た。
だって仕方ないだろ? さすがになのはお姉ちゃんと口に出すのは正直恥ずかしい。
「・・・・うん」
「うん、そっか。でも、なのはさん少しの間だけ行かないといけないみたいなんだ。
でもちょっとで戻ってくるから、それまでお兄ちゃんや・・・」
そこで一度言葉を切って、そばに落ちているぬいぐるみを見、そしてなのはを見る。
『なのは、このぬいぐるみはヴィヴィオのものか?』
『え、うん。病院で買ってあげたんだ』
念話でなのはに確認。ならこのぬいぐるみにも働いてもらおう。
指を鳴らして、操作系の魔術を発動させる。
操作系を苦手とする私でも、このぬいぐるみくらいならそう苦労せず操作できるだろう。
「この子と一緒に遊ぼう」
「?・・・・ふぇっ!?」
突然起き上がったうさぎのぬいぐるみに少し驚いて、トコトコ歩くそれを注視している。
さて、ヴィヴィオの返事は如何に・・・・?
「・・・やだ」
う~ん、駄目だったか。と、そう簡単に落とされないぞ、私は?
「それは困ったな。あ、そうだ。肩車はどうかな? すごく面白いぞ?」
よくエリオにしたことがある。
当時、休暇は専ら“界律”との契約を行っていたが、フェイトとの約束だけは出来るだけ守った。
契約はシャル一人に任せて、私はフェイトとエリオ、別の日にはキャロが、といった感じで遊びに出掛けていた。
だがそれも始めの間だけだったが・・・。
だからその穴埋めとしてシャルの代わりに、多くの命を私が出来るだけ奪った。
シャルの心が歪まないように、かつての私みたいに壊れたりしないように・・・・。
「かた・・・ぐるま・・・?」
ヴィヴィオの声で現実に引き戻される。
両手に染み付いた血の幻視を振り払って、まっすぐにヴィヴィオを見つめる。
「そうだよ、肩車。それにヴィヴィオだってなのはさんを困らせたくないよな?
この子だってヴィヴィオと一緒に遊びたいって言っているぞ?」
うさぎのぬいぐるみが、ヴィヴィオの足元までトコトコ歩き、ヴィヴィオの足をその手でトントンと叩いてヴィヴィオを見上げる。
「・・・ぅぅ」
少し揺らぎ始めたようだ。あともう一押しといったところだな。
右手の親指と人差し指を何かを摘むようにしながら、ヴィヴィオの顔の前に近づける。
それで少しヴィヴィオが引いたが、構わずに左手の指を鳴らす。
右手に一瞬の煙が上がって、そして霧散する。
「????」
ヴィヴィオは本当に不思議そうな顔をしている。
親指と人差し指が摘んでいるのは、さっきまでなかった一輪のクジャクアスターの花。
花言葉は可憐。ヴィヴィオにはちょうど良さそうな花だ。
「どうぞ、お兄ちゃんからのプレゼントだ」
クジャクアスターの花を一輪、そっとヴィヴィオの髪に挿す。
少しビクッとさせてしまったが、大人しく受け入れてくれた。
「よかったね、ヴィヴィオ。すっごく可愛いよ♪」
なのはにそう言われ、ヴィヴィオは小さく頷いた。
もうそろそろいいだろう・・・。
「だから、なのはさんが戻ってくるまでの間だけ、お兄ちゃんたちと遊ぼう?
遊んでいれば、すぐになのはさんが戻ってくるから」
「・・・ホント?」
ヴィヴィオが、なのはと私を交互に見ながら確認してきた。
それに私となのはは笑顔で頷いて応える。
「うん、ホントだよ。それまで大人しく待っててね、ヴィヴィオ」
「・・・・うん」
なのはの言葉を聞いて、ヴィヴィオがゆっくりとなのはから離れた。
ミッションコンプリートだな。
「よしっ、それじゃ肩車・・・いってみようか?」
「・・・うん」
ヴィヴィオの脇下にそっと両手で入れて持ち上げる。
いきなりのことでヴィヴィオも驚いたようだったが、私の肩に乗せクルクル回ってみると、小さく、本当に小さくだが笑い声を上げてくれた。
「ほーら、どうだ、ヴィヴィオ・・・?」
なのはもフォワードの子達も安心したような表情をしているのが判る。
こんな私でも役に立てて何よりだ。
『ありがとう、ルシル君。でも、すごいね。何か慣れてるみたいだったよ?』
『ん? あぁ、まぁな。それにしてもどうするんだ、ヴィヴィオは?
このままずっと君が面倒を見るわけにもいかないだろ?』
『うん。それについてはまだ考えてるんだけど・・・』
そこのところはなのはに任せるしかないな。
なのはがどういう選択をしても、それを手伝ってあげればいいか。
「失礼しまーすっ♪」
そんなことを言いながらこの部屋に入ってきたのはシャル。
そのうしろにはフェイトとはやても居る。
「なんやルシル君、こういうんしたことあるんか?」
「黙秘。それより何かあったのか、はやて?」
はやての質問には黙秘権を発動。
そんな残念そうな顔をしても話さないものは話さないぞ、はやて。
「・・・まぁええか。ここに来た理由はな、なのは隊長を迎えにきたんよ。
これから聖王協会に報告に行くからね。なのは隊長にも一緒に来てもらおう思て」
「あぁ、昨日のことか。それは私も一緒に行くべきなのか?」
私のその言葉で、肩に乗せているヴィヴィオの動きに少し変化があった。
はやてもそれには気づいたようで、首を振ってこう告げた。
「ルシル君には、この子の相手してもらおう思てるけど、どないや?」
「そうか。なら、なのはが戻ってくるまでヴィヴィオの相手は任せてもらおう」
現状ではなのはに一番懐いている。そして自惚れかもしれないが、私が二番手だと思う。
その二人が居なくなればヴィヴィオはもちろん、フォワードの子達も大変なことになる。
それはさすがにどちらとも可哀想だ。
「えっと、エリオ、キャロ。二人もルシルと一緒にその子の面倒を見てあげてくれるかな?」
「「はいっ」」
フェイトからのお願いを快諾したエリオとキャロ。正直助かる。
「スバル、ティアナ。悪いけど、ライトニングの分のデスクワーク、お願い出来る?」
「あ、はい。お任せください」
「が、がんばりますっ」
今度はなのはからのお願いを承諾したスバルとティアナ。
ティアナは至って普通に返事をしたが、スバルは若干困り顔。すまない、スバル。
「それじゃ、ヴィヴィオ。ちょっとお出かけしてくるから、待っててね」
「・・・うん」
私はしゃがむことで、なのはとヴィヴィオの目線を合わせるようにした。
ヴィヴィオの返事は少し涙声だ。やはりなのはと一時とはいえ別れることが原因だろう。
『ルシル君、それじゃお願いするね』
「『ああ、任せてくれ』さぁ、ヴィヴィオ、なのはさんに“いってらっしゃい”だ」
「・・・いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
こうしてシャルたちは聖王協会へ、スターズは今日の仕事へと向かった。
私とライトニングはお姫様と、なのはが戻ってくるまでの時間つぶしを始めた。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
聖王協会に着くまでの間、私はヘリの中でさっきの光景を思い出す。
肩車された子供、肩車をしているルシル、そばで笑っていたなのは。
まるで本当の親子のようだった。それを見たとき、胸が苦しかった。
『ふふ、さっきのルシルたちを見て「親子みたいだったな~」とか思ってんでしょ?』
突然のシャルからの念話に驚いたけど、顔に出さないようにして応対した。
『え、あ・・・そ、そんなことないよ? 羨ましいなぁ、なんて思ってないよっ?』
『ふ~ん、羨ましいって思ってったんだ。ていうか別にごまかす必要ないよ、フェイト。
みんな、フェイトがルシルに抱いてる感情には気づいてるし・・・』
そうなんだけど、それでもやっぱり恥ずかしいよ。
『それ以前に、なのはとルシルがくっつくなんてこと自体がおかしな話だし。
それに、なのはにはすでにユーノがいるからね』
シャルに微笑みかけられたなのはが首を傾げた。
シャルは「なんでもないよ」って言って、また微笑んでる。
『フェイトとルシルってお似合いだと私は思うよ』
『そ、そうかな? 本当にそう思う?』
ルシルへの想いはもう十年になる。
そういえば出会い方は、“ジュエルシード”を巡っての戦いだったな。
今思うとめちゃくちゃな出会い方だよ。
『思うよ。でもルシルがその気になるかどうかはすごく難しい話だけどね。
だけど私が何とかしてあげるから、フェイトはそれまで待ってて』
『え? う、うん・・・?』
何を待ってればいいのかは、目的地聖王教会に着いたことで聞けなかった。
そのあともはぐらかして教えてくれなかったし・・・・。
†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††
フェイトは本当に可愛いな~。だから応援したくなってくるんだよね。
でも、ルシルがそれを認めてくれるかによっていろいろと変わってくる。
そこをどうにかして私がフォローしてあげないと・・・。
「ここや」
はやてのうしろについて教会内の廊下を歩いて少し、目的の部屋の前に着いた。
なのはが木製の扉にノックをして、「どうぞ」との返事が返ってきたから、「失礼いたします」と告げて扉を開けて部屋へと入っていく。
「高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
「シャルロッテ・フライハイトです」
なのはとフェイトは敬礼をして名前と階級を告げた。
でも私はもう局員じゃないから、敬礼はしないで名前だけで済ませる。
「いらっしゃい。はじめまして、聖王教会教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します」
迎えてくれたのは、教会の騎士カリム・グラシア。
直接の面識は初めてだけど、想像通りの物腰が柔らかそうな女性だ。
その彼女に席へと案内されると、すでにクロノが椅子に座って待っていた。
う~ん、それにしてもクロノの制服姿ってなんだか新鮮?っていうより違和感が湧いてくる。
「「失礼します」」
なのはとほぼ同時にそう口にして、椅子へと座る。
「クロノ提督、少しお久しぶりです」
「ああ、フェイト執務官」
そんでフェイトはというと、クロノとそんなやり取りをしてから椅子へと座った。
それにしても硬いな~。まぁ、こういう状況じゃ仕方ないとは思うけど・・・。
「ふふ、お二人とも、そう硬くならないで。私たちは個人的にも友人だから。いつも通りで平気ですよ」
「と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで」
「平気や」
三人の言葉で、この場の空気が柔らかくなった。
私としても、今ではさっきのような硬い空気はあまり好きじゃないから助かる。
生前は、そういう空気こそが当り前の生活だったけどね。
「じゃあ、クロノ君、久しぶり」
「お兄ちゃん、元気だった?」
「っていうかクロノ、制服姿が変」
なのはは普通の挨拶だけど、私とフェイトからは口撃が放たれた。
フェイトからの一撃が堪えたようで、クロノは若干頬を赤らめてる。
昔からそういうのには弱いよね、クロノって。
「それは止せっ。お互い、いい年だぞっ。それにシャル、ドサクサに何だそれは?」
「兄弟関係に年齢は関係ないよ、クロノ」
「リアクション感謝。それにフェイトの言うとおりじゃない。兄弟関係に年齢は無関係。
クロノだって本当はお兄ちゃんって呼ばれて嬉しいくせに」
さらに追撃。クロノはさらに頬を赤らめた。
全員が分かるくらいに、ハッキリとだ。
「っ! そ、そういうシャルこそ、ルシルに「お姉ちゃん」と呼ばれたらどうするんだ?」
ふ~ん、そういう切返しをしますか・・・。
私は軽く想像してみる。クロノの言葉を聞いたなのはたちもおそらく想像したんだと思う。
だって微妙な表情してるし・・・。そして、結論。
「キショい」
「「「キショい!?」」」
「それは酷いな。もう少し言葉を選んだらどうだ?」
盛大なリアクションをありがとう、なのは、フェイト、はやて。そしてクロノは黙れ。
だってルシルが私を「お姉ちゃん」呼ばわり?
数年前までは少し期待してたけど、今となっては背筋が凍るよ、本当に。
それに実際の年齢で言えば、私は享年21歳で、ルシルは今なお生きているから・・・・、
もう六千歳以上になる計算だ。それで兄弟関係となったら一種のホラーだよ。
「仕方ないじゃない。咄嗟に浮かんだのがそれだもん」
「でもキショいってあんまりだよ?」
「ああもうっ、いいじゃない。それより本題に入ろうよ」
こういうやり取りも楽しいんだけど、六課設立の秘密という興味の方が勝ってる。
けど私の方向修正で、この場の空気が若干重くなった。
内容が内容だから当たり前の話だ。少しの沈黙のあと、はやてがその沈黙を破った。
「そやね。それじゃ昨日の動きについてのまとめと、改めて機動六課設立の裏表について。それから、今後の動きの話や」
はやての言葉を合図にしたみたいにカーテンが閉まり、この部屋が一気に暗くなる。
「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア“レリック”の対策と、独立性の高い少数部隊の実験例」
表向きの理由、ね。
「知っての通り、六課の後見人は僕と騎士カリム、それから僕とフェイトの母親で上官、リンディ・ハラオウンだ」
モニターに映し出されたのは、その三人の顔写真と簡単な情報が載った画像。
それにしてもリンディさんはほとんど変わってない。衰えってものがないのかも・・・。
「それに加えて非公式ではあるが、彼の三提督も設立を認め、協力を約束してくれている」
クロノたちのものから、三提督の顔写真へと変わった。
「「っ!」」
これはビックリだ。まさかそこまでの大物が関わってるなんて。
なのはもフェイトも驚いてる。というか、局員なら驚かない方がどうかしてる。
「その理由は、私の能力と関係があります」
能力? あぁ、残念。ルシルがいれば複製できたのに。
私はルシルの複製されたものなら使えるけど、複製することは出来ない。
「私の能力“預言者の著書”。これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出した預言書の作成を行うことが出来ます」
騎士カリムは、手にしていた手のひらに乗るくらいの紙束を纏めていた紐を解いた。
するとその光を発しながら紙束がバラけて、騎士カリムの周りを囲むようにして回り始めた。
「二つの月の魔力が上手く揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しか出来ません」
じゃあ、ルシルが複製しても意味はない。この世界限定なら尚更。
そういう制限のないものはルシルもすでにいくつか持ってるから余計にだ。
それにルシルの固有魔術にもあった気がする。なんだっけ、ガブリエルだったかな?
「預言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わることがある難解な文書」
騎士カリムの周りを回っている三枚の紙が、私、なのは、フェイトの前に飛んできた。
さらっと目を通してみる。書かれた文書は私の世界で使っていた言語に似て、少し読める。
やっぱりベルカと、故郷レーベンヴェルトは関係があるようだ。
チラッとなのはとフェイトを見てみる。
私と違って、なのはとフェイトはさっぱりなようで、首を横に振ってお手上げといった風だ。
「世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は割とよく当たる占い程度。
つまりはあまり便利な能力ではないんですが・・・」
「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。
信用するかどうかは別にして、有識者による予想情報の一つとしてな」
「ちなみに、地上部隊はこの予言がお嫌いや。
実質のトップが、この手のレアスキルとかがお嫌いやからな」
レジアス・ゲイズ中将。平和を求める姿勢はいいけど、どっか危なっかしいんだよね。
優秀で地上の正義の守護者、って聞くけど黒い噂も絶えない。
でも地上部隊における下からの信頼が厚い。全く、面倒な人だ。
「そんな騎士カリムの予言能力に、数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている」
クロノが騎士カリムに視線を向け、騎士カリムはそれに応えるようにして、予言を思われる言葉を口にし始めた。
「旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。
死者たちは踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けとし、数多の海を守る法の船は砕け落ちる」
「それって・・」
「まさか・・・」
「ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と、そして管理局システムの崩壊・・・」
騎士カリムの口にした予言内容とその解釈に、なのはとフェイトが目を見開いた。
私も同じ気持ちだけど、こういうのには慣れている手前、若干驚きが小さい。
「実はこれだけではないんだ。この予言にはまだ続きがある」
地上本部の壊滅に管理システムの崩壊、それに続く出来事なんて予想が出来る。
「そうなのですが、こういったことは初めてなので未だ全てを解読出来ていません」
「ん? あの、解読できないというのはどういうことなんでしょうか?
完璧な解釈は出来なくとも、古代ベルカ語を読めるんですよね?」
こうして予言の解釈とかを行うことが出来るのだから、古代だろうと読めないことはないはず。
だから私は疑問を口にしてみた。
すると騎士カリムは少し逡巡したあと、別の紙を自分の目の前に持ってきた。
それが解読できていない予言が書かれたものなんだろう。
「・・・さっきの予言の続きだけが古代ベルカ語ではないんです。
使われている言語がバラバラで、使われていた時代もまた統一されていません。
現時点で解読できたのはたったの一行の一部だけなんです」
かなり戸惑っている様子だ。
自分の能力に、今までなかった異常があればそうなってもおかしくはない、か。
「現状で解読できている予言はこうです。
“その果てに大罪を標として、遥かに高き破滅の座より”・・・・、ここまでです」
今度こそ私は驚愕した。この予言の内容からして“大罪”の目的が分かったからだ。
ヤツらは“絶対殲滅対象”の誰かをこの世界に呼び入れるために、この世界で活動しているんだ。
そうなるとこの世界の結末は唯一つ。純粋な滅びでしかない。
たぶん、それが私とルシルに与えられた本契約の内容。
予言にはまだ続きがあるみたいだし、解読できていない部分に正確なことが書かれている可能性がある。
「残りの部分の解読には、無限書庫司書長のユーノを筆頭とした考古学者も当たっている。
それに確かに気になる内容だが、現時点では全くの不透明なものだ。
だから、現状ではすでに解読を終えている部分にのみ力を注ごうと思ってる。
それを防ぐことが出来れば、解読を終えていない部分も事前に防げることになるからな」
クロノの言葉に、なのはとフェイトは強く頷いて応えた。
もちろん私もそれに続いて頷くけど、頭の中はすでに“絶対殲滅対象”のことでいっぱいだ。
「情報源が不確定ということもありますが、管理局崩壊ということ自体が現状ではありえない話ですから・・・」
「そもそも地上本部がテロやクーデターに遭ったとして、それが切欠で本局まで崩壊、ゆうんは考えづらいしなぁ・・・」
「まぁ、本局でも警戒強化はしているんだがな・・・」
一度思考を休めて、はやてたちの言葉に耳を傾ける。
確かに言っていることも分かるけど、それを覆すナニかがあるんだろう。
本局を脅かすようなナニかが・・・。
「問題は地上本部なんです」
「ゲイズ中将は予言そのものを信用しておられない。特別な対策は取らないそうだ」
全く、あのヒゲ親父はどうにかならないものかな~。
いっそのことルシルの複製能力とかで黙らせられないかな~?
確か、相手に絶対の命令を強いる、絶対遵守の能力があったはずだ。
「異なる組織同士が協力し合うのは、難しいことですから・・・」
「協力の申請も、内政干渉や強制介入という言葉に言い換えられれば、即座にいさかいの種になる」
なるほど、掴めてきたよ、機動六課の設立の真相が。
はやてたちはそれをどうにかして防ぎたいんだ。
予言が外れればそれで結構、表向きの理由もあるから問題にはならない。
そして、もし予言が当たっていれば、すぐに自由に動き出せる戦力のある部隊が必要になる。
それが機動六課。これでようやくこの部隊の過剰戦力についても納得できた。
「ただでさえミッド地上本部の武力や発言力の強さは問題視されてるしなぁ」
「だから表立っての主力投入は出来ない、と」
「すまないな。政治的な話は現場には関係なし、としたいんだが・・・」
それはどこの世界でも、いつの時代でも抱える問題の一つだ。
現場は常にそういった上層部の政治云々で乱される。
少しは現場のことも考えてほしいものだ。
「裏技でも、地上で自由に動ける部隊が必要やった。
レリック事件だけで事が済めばよし。大きな事態に繋がっていくようなら、最前線で事態の推移を見守って・・・」
「地上本部が本腰を入れるか、本局と教会の主力投入まで前線で頑張る、と・・・」
「それが・・・六課の意義や」
ようやくはやての口から発せられた機動六課の真実。
なのはとフェイトは頷いて応えた。
私も“大罪”と“絶対殲滅対象”が関わってくる以上は全力でみんなを助ける。
「もちろん、みなさんに任務外でのご迷惑はおかけしません」
「あ、それは大丈夫です」
「部隊員たちへの配慮は、八神二佐から確約を頂いてますし」
「シャル、そしてこの場にいないルシルにも改めてお願いしたい。
どうか、君たち二人の力を僕たちに貸してくれ」
クロノが椅子から立ち上がって私に頭を下げた。
そんなことしないでも助けるに決まってるでしょ、バカ。
「私の答えも、ルシルの答えもとっくの昔に決まってる。
大切な友人が困っているのに手を貸さない馬鹿がどこにいると思う?
だから頭を下げる必要もない。こっちが好きでやるんだから、好きなだけ使ってくれていい。
私たちがみんなから貰った幸福のお返しはまだ出来ていないんだから」
守るための戦い。それは騎士として、そして守護神としての私が望んでいたものだ。
その守るものが友人だというのなら尚更喜ばしいことじゃないの。
「というわけでクロノ。とっとと頭を上げなさい」
クロノに少し怒鳴るように言って頭を上げさせる。
全く、クロノは立場としてそうしたんだろうけど、こういう場合は友人として頼ってほしいものだ。
「それでは、改めて聖王教会騎士団騎士、カリム・グラシアがお願いいたします。
華々しくもなく危険を伴う任務ですが、協力を・・・していただけますか?」
「非才の身ですが、全力にて」
「承ります」
「我が剣と魂に誓って」
全力でみんなを守ってみせる。たとえ何が来ようとも・・・みんなを害するものは全て・・・・。
(消し去ってやる)
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
「あのなっ」
教会から隊舎に戻ってはやてちゃんと別れて職員寮に戻ろうとしたとき、はやてちゃんが私たちを呼び止めた。
振り返ってみると、はやてちゃんが私たちのもとまで駆けてきた。
「私にとって三人は、ううん、ルシル君も一緒やから四人は命の恩人で大切な友達やっ。
六課がどんな展開をたどって、どんな結末になるかはまだ分かれへんけど・・・」
「その話なら、出向決めるときにちゃんと聞いたよ」
「私もなのはも、シャルだって、ね? 納得してここにいるんだよね」
「まぁ私は約束破って管理局を辞めたことで六課に正式には入らなかったけど・・・。
でもフェイトの言うとおりだよ。どんなことになっても自分の選択した道だから、大丈夫」
そう、あの日に私たちは決めたんだ。
シャルちゃんは設立前に辞めちゃったけど、思いはあの頃のままだと思う。
「それに私の教導隊入りとか、フェイトちゃんの試験とか、はやてちゃんや八神家のみんな、すごくフォローしてくれたじゃない」
「だから今度は、はやての夢をフォローをしないとって」
「そういうこと。だから気にしないでよ、はやて」
あの時は本当にいろいろなことが重なった所為で大変だった。
もしはやてちゃんたちのフォローがなかったら、今の私たちはいないかもしれない。
「・・・・あかんなぁ、それやと恩返しとフォローの永久機関や」
私はそれがいいのだと思って笑ってしまう。
そういう関係が面白くて楽しくて・・・とても大切なことだから。
「友達って、そういうものだと思うよ」
「だからこそ、八神はやては間違っていないと思いますっ」
シャルちゃんがビシッと姿勢を正してそう口にした。
私とフェイトちゃんもそれに倣ってビシッと姿勢を正して、そして敬礼をする。
「右に同じく、八神部隊長は今のところ間違っていないと思うでありますっ」
「だから大丈夫。いつものように堂々と命令してください。
胸をはって、えっへん、と・・・」
「・・・うん!」
†††Sideはやて⇒フェイト†††
はやてと別れて、寮にある部屋へと戻ってきた。
シャルともさっき別れたところだ。
「「ただいまー!」」
「「おかえりなさい」」
エリオとキャロが小さな声で囁くようにして返事をしてきた。
なのはと顔を見合わせて、そっと部屋の中に入っていくと、ソファの上で気持ちよさそうに眠っているヴィヴィオと、ヴィヴィオに寄りかかられているルシルがいた。
ルシルは小声で「おかえり」と言って、ゆっくりとヴィヴィオを横にして立ち上がった。
『眠っちゃってるんだね』
『ああ。さっきまでは起きていたんだけどな』
声を出すと起きちゃうかもしれないから、ここからは念話での話しになる。
『ありがとう、ルシル君。エリオとキャロもありがとう』
『いえ、僕たちはルシルさんのお手伝いをしただけで・・・』
『そんなことはないぞ、エリオ。エリオとキャロの二人が居てくれて本当に助かった』
『そっか。エリオ、キャロ、ありがとう』
エリオとキャロのそっと優しく抱く。
えいっ、ついでに頭も撫でちゃえっ。
『それじゃ、私は戻るよ』
『うん、今日は本当にありがとう。おやすみ、ルシル君』
『お休みなさい、ルシル』
『ああ、お休み、フェイト、なのは。エリオとキャロも明日早いから、そろそろ休むようにな』
『『はいっ』』
フェイトのヴィヴィオあやしスキルを、ルシルにさせてすいません。
ルシルのスキルの多さを何となく出すためにこうなりました。
あとは、ベルカとレーベンヴェルト(ドイツ語で生ある世界)の関係ですが、ベルカの数千年前の世界をレーベンヴェルトとしてます。
ミッドガルド(後にミッドチルダに)と併せて複合世界ミッドガルドと設定してました。
あまり関係ない話ですね。
そして予言について。
ペッカートゥムの目的、シャルシルの本契約?をチラッと登場させました。
後半部分を、他の言語で書かれたために解読できないというのは、ここで書くのもつまらないと思ったためです。
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