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動き出す使者 ~後編~

†††Sideはやて†††


主力が向かうと思われるヘリと地下の両方に手は打った。
ならあとは私の仕事をするだけや。

『君の限定解除許可を出せるのは、現状では僕と騎士カリムの一度ずつだけだ。
承認許諾の取り直しは難しいぞ。使っていいのか?』

部隊の後見人、クロノ君がそう言うんやけど、

「使える能力を出し惜しみして、あとで後悔するんは嫌やからな」

気づけばもう手遅れ、なんてことになりたない。
だったら使えるときに使うべきや。
 
『場所が場所だけに、SSランクの投入は許可できない。限定解除は3ランクのみだが、それでいいか?』

3ランク、かぁ。今の私はAランクやから・・・。

「シングルS、か。それだけあれば十分やっ」

『・・・八神はやて、能力限定解除3ランク承認。リリースタイム120分』

「リミット・・・リリース!」

この身に宿すのはSランクの魔力。その制限時間は120分。
ガジェットを殲滅するのには余裕すぎる時間と魔力量や。

「よしっ、久しぶりの遠距離広域魔法・・・いってみようかっ!」

気合は十分。広域遠距離魔法なんて、ほんまいつ以来やろ。

『ロングアーチ1、シャリオからロングアーチ0、八神部隊長へ』

「はいなっ!」

『サイティングサポートシステム、準備完了です。シュベルトクロイツとのシンクロ誤差、調整終了』

「ん、了解。精密コントロールとか長距離サイティングは、リインと一緒やないとどうも苦手で」

こういうんはリインがおらんとどうにも上手くいかん。
高速処理とかもほとんどリイン任せやし。

『その辺はこっちにお任せください! 準備完了ですっ』

「おおきになっ」

ほんま頼りになる子らや。これで私の魔法が間違って変なところに行くこともない。

「来よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ」

私の左手の上で浮かぶ夜天の書のページが勢いよく捲れて、中間程度のところで止まる。
開かれたページは、今から私が使う魔法が記されたページ。

『スターズ1、ライトニング1、安全位置に退避。着弾地点の安全、確認』

これで全ての準備は整った。

「よおっし、第一波、いくよっ!!」

掲げていた“シュベルトクロイツ”を前方に振り下ろして、

「フレース・・・ヴェルグ!!」

術式名のフレースヴェルグと唱えた。
そして放たれた四つの白い砲撃は、ずっと向こうにおるガジェットのいくつもの編隊へと進んでく。

『フレースヴェルグ、第一波発射。発射軌道、正常』

『グループEに着弾します。5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0!』

『グループE消滅。続いてB着弾、消滅』

『同じくA、消滅しました』

ロングアーチからの報告が随時入ってくる。順調に破壊できとるようで何よりやな。

「第二波・・・いくよっ!」


†††Sideはやて⇒スバル†††


「本当にそんなのが居るなんて・・・」

ルシルさんの指示のままに先行したあたしたちは、ガジェットを破壊しながらケースのある場所を目指していた。
その合間に、ギン姉にペッカートゥムやレーガートゥスと呼ばれる存在について説明した。

ギン姉のその反応はあたしにも分かる。
あたしたちだって最初はルシルさんたちの言うことが信じられなかった。
でもホテル・アグスタでのシグナム副隊長とレヴィヤタンと呼ばれた小さい女の子の戦いを見れば誰だって信じるしかないと思う。
あの短い戦い、シグナム副隊長のリミッターがどうこうとかじゃなかった。
レヴィヤタンという子は一切のシールドとかを張らずに攻撃を素で受けていた。
でも傷一つ付かなかった。人の姿をした人じゃない存在ペッカートゥム、その使い魔レーガートゥス。
倒せるのはルシルさんとシャルさんだけ、という魔導師では勝てないモノ。

「でもルシルさんの言うことだから・・・」

「ええ・・・」

ギン姉と二人して微苦笑しながら頷きあう。
あたしとギン姉の小さい頃からのお兄ちゃんのような人のルシルさん。
そのルシルさんがそう言うならそれが本当のことなんだと・・・信じる。

「みなさん、ケースの推定位置はここです!」

着いたのは、さっきルシルさんと別れた場所と同じような開けた広い空間。
あたしたちは手分けしてレリックのケースを探し始めた。

「ありましたーっ!」

探し始めて数分、キャロが見つけてくれたみたいだ。
合流するためにキャロのいるところへと向かおうとしたとき、

「何、この音?」

近くに居たティアが辺りを見渡した。
あたしにも聞こえる。何かを蹴るような音が連続で鳴り続けてる。

「きゃあっ!」

次はキャロの悲鳴と爆発音。
キャロが何かに攻撃されたと分かって、急いでキャロのところに向かう。
駆けつけて視認したときにはキャロが、ケースを抱えた紫色の髪の女の子の攻撃を受けて吹き飛ばされて、それに巻き込まれたエリオと一緒に柱に叩きつけられた場面だった。

「おおおおおおっ!!」

エリオとキャロに追撃をかけようとした人型のナニかのような奴に蹴りを放つ。
それを余裕でかわしたソレと目が合う。

「でぇぇぇいっ! はぁっ!」

ソレはあたしの蹴りをかわした直後に、ギン姉の一撃を受けて弾き飛ばされる。
あたしはケースの回収を優先して、ケースを持ってここから去ろうとする女の子を追う。

「こらぁっ! そこの女の子、それ危険なものなんだよ!?
触っちゃダメっ、こっちに渡してっ」

最初は立ち止まって振り返ってくれたけど、何も言わないでまた歩き出そうとした。

「ごめんね、乱暴で。でもね、これ本当に危ないものなんだよ?」

幻術で姿を隠していたティアが、女の子にダガーモードの“クロスミラージュ”を向けながら姿を現した。
ティアは女の子をきっちり捕まえていてくれてる。ナイスだよ、ティア。

――スターレンゲホイル――

これで解決と思ったら、目の前に何かが着弾して、強烈な音と閃光が発生、私たちを襲った。
攻撃じゃないのは分かる。分かるけど・・・あまりの爆音に耳がすごく痛い。
必死に両耳を手で押さえるけどほとんど気休め程度でしかない。
やっと爆音と閃光が消えてゆっくりと目を開けてみると、ティアが自分から離れていく女の子に“クロスミラージュ”を向けていたところ。
でもそれを邪魔するように、さっきの人型がティアに飛び蹴りを入れて吹き飛ばした。
吹き飛ばされたティアはそれでも銃口を、今度は女の子の方に向けて発砲・・・だけど、女の子に迫っていたティアの弾丸をその身を盾にした人型。
そして弾丸を受けた肩の装甲?のようなものが壊れて地面に落ちた。

「ったくもう、あたしたちに黙って勝手に出掛けちゃったりするからだぞっ?」

第三者の声がこの空間に響き渡る。
声のしたところを見てみると、リイン曹長並みの小さなの女の子。

「ルールーもガリューも」

「アギト・・・」

「それにしてもレヴィは何やってんだよっ?
あいつ、ルールーを守るとか言ってたくせに守れてねぇじゃんかよっ」

「レヴィは仲間と一緒に仕事だって。すぐに片付けて戻ってくるって言ってた」

女の子たちの会話を聞きながら一旦距離を開けてエリオとキャロの傍に行く。
エリオは大丈夫そうだけど、キャロが気を失ったままだ。

「まぁいいや、あいつがいなくてもこのあたし、烈火の剣精アギト様が来たからにはもう大丈夫だぞっ」


†††Sideスバル⇒シャルロッテ†††


私は今、隊舎から戦闘が行われている区域に向けて飛行中。
それはルシルが地下へと向かうときに、地上の警戒を頼まれたからだ。
レーガートゥスがフォワードの子達と遭遇、それなのにフォワードの子達に手を出さない。
目的はケースの回収でも妨害でもない。なら地下で何をしている?
答えは至極簡単、ルシルを誘っているんだ。
じゃあ、誰がそんなことをする? それもまた簡単、ペッカートゥムだ。
ヤツらが間違いなくあの区域の近くにいる。

(私とルシルの居る世界で好き勝手出来ると思わないでよホント・・・)

ルシルも同じ考えに至ったから、私に「地上を頼む」と一言だけ告げたんだ。
地下だけじゃなくて地上にもペッカートゥムがいる可能性がある、と。
飛行中の最中、戦闘になったときのことを考えて、私の戦力についての現状を把握する。
さっきまでは、というより今もAA+ランクとして活動中だ。
この状態での複製術式使用のおかげで馬鹿みたいに魔力を消費した。
だけど、リミッターを解除すればそれも大した問題にはならないと思う。

「いつでも来いって感じよね」

そんなことを呟き、広い空を翔る。ここから戦闘区域まで大体あと5分弱。

『ルシル、私はもうすぐなのはたちにところに着くけど、そっちの状況はどうなってる?』

ルシルの現状を知ろうとしてリンクを通すけど繋がらない。
こんなこと今までなかった。魔法による念話はジャミングとかあって繋がらないこともある。
なのに守護神としてのリンクが妨害されるなんて・・・有り得ない。
ヤツらにそんな術を持つヤツがいるということ?
それとも・・・。

「・・・ルシルに・・・何かあった・・・?」

空を翔けながらルシルのことを思っていると、

「来たか。三番」

私を待ち構えていたように男が二人、私の行く手を拒んでいた。

「・・・ペッカートゥム。どっちも知らない顔だけど・・・ナニ?」

許されざる傲慢(ルシファー)だ」

「そんでオレが許されざる憤怒(サタン)だ」

白いスーツの男が腕を組みながら“ルシファー”と静かに告げて、黒の燕尾服の男が左手の親指を自分に向けて“サタン”と笑みを浮かべた。

「傲慢と憤怒、か・・・。6番目と4番目が私に勝てると思ってるの?」

軽い挑発を口にしながら、自分で掛けたリミッターを解除する。
使用する魔力はSSランク。状況を見てSSSへと上げる。
けど市街地ということで、SSやSSSの魔力攻撃は使えない。
だから使うのは“キルシュブリューテ”の神秘による攻撃のみだ。

「俺たちに勝てるかどうかは試してみるといい」

「こっちは時間がねぇんだ。だが、簡単に終わってくれるなよ、三番!!」

「上等・・・。そっちこそ簡単に・・・あ、終わってくれていいんだ」

“キルシュブリューテ”を鞘から抜いて臨戦態勢に移る。
ルシルのことは気になるけど、今はこいつらを片付けるのが先だ。


◦―◦―◦―◦―◦―◦


首のないルシリオンの遺体を前に三体の“大罪(ペッカートゥム)”が静かに佇む。
許されざる嫉妬(レヴィヤタン)は無表情、許されざる強欲(マモン)はつまらなそうに、そして許されざる色欲(アスモデウス)はただルシルを見下ろして口元を堅く結んでいる。

「結構簡単に終わっちゃったよね。もう少し苦戦すると思っていたけどさ」

「「・・・・」」

許されざる強欲(マモン)の言葉に他の二体は応えない。
そんな中、許されざる色欲(アスモデウス)は辺りを探るように見回し始めた。

「どしたの?」

「分からないの許されざる強欲(マモン)? 欠陥品は今は人間なのよ?
なのにこの体からは一切血が流れていない。つまり、これは・・・贋物(フェイク)

許されざる色欲(アスモデウス)の言うとおり、ルシりオンの体や首からは血が一滴も流れていない。
許されざる強欲(マモン)もそのルシルの体から血が流れていないことに気づいたようで、許されざる色欲(アスモデウス)同様、周囲を警戒する。

「こんなモノで私たちを欺けるとでも思ったのかしら」

許されざる色欲(アスモデウス)は転がっているルシルの頭部へと近づき勢いよく踏みつけた。
グシャっと音がしたあと、頭部だったものは光となって消滅していった。

「あはは、たとえ贋物でもスカッとするよこれ」

許されざる強欲(マモン)は未だに残っているルシルの胴体を散々痛めつけ、吹き飛ばした。
そして改めてルシルに警戒するなか、この二体の頭の中に一つの疑問が生まれる。
それはルシルがいつの間に贋物と入れ替わったか、ということだ。

「でも欠陥品の首に刃が当たったのは間違いないよ? 刃先に・・・血が付いてるしさ」

許されざる強欲(マモン)許されざる色欲(アスモデウス)へ刃先を向ける。
そこには確かに乾いていない赤い血が付着していた。
これは本物であるルシリオンに何らかのダメージが入っている証拠である。

「仕掛けてこないということは、すぐに仕掛けられないような傷を負ったということかしら?」

「案外もう死んでるかもよ? 首って人間の急所だしさ」

「その油断が自分の終わりを呼ぶわよ、許されざる強欲(マモン)?」

許されざる色欲(アスモデウス)許されざる強欲(マモン)から大鎌を受け取り肩に担いだ。

「・・・わたし・・・先に戻っていい?」

今まで沈黙していた許されざる嫉妬(レヴィヤタン)がそう囁く。
当然それは許されない。だがそれを承知で彼女は告げた。

「もう少し待って。それと許されざる嫉妬(レヴィヤタン)。あなた、少しルーテシアに固執しすぎよ?
彼女もまたこの世界と一緒に消えるんだから、必要以上に関わるのはやめなさい」

許されざる色欲(アスモデウス)許されざる嫉妬(レヴィヤタン)にそう告げる。
許されざる嫉妬(レヴィヤタン)は少し逡巡したあと小さく頷いた。
それはこの場での待機のことか、それともルーテシアとの関係のことか、許されざる色欲(アスモデウス)には分からなかった。

「・・・探すのも面倒だし仕方ないわ。この付近一帯を吹き飛ばしましょう」

「おおっ、過激だね」

「・・・分かった・・・」

三体が行動に移ろうとしたその時、それは起こった。

――我が御名の下、開け、英雄の居館(ヴァルハラ)――

「「なにっ!?」」

三体のすぐ近くで黒い穴が開いた。
許されざる色欲(アスモデウス)は呑まれた右腕を自ら切断して、傍にいた許されざる嫉妬(レヴィヤタン)の速度を以って離脱、完全に穴へ呑まれることはなかった。
しかし、あまりにその穴に近かった許されざる強欲(マモン)は成す術なく呑み込まれた。
この瞬間、許されざる強欲(マモン)の消滅は確定された。

英雄の居館(ヴァルハラ)”に居る“異界英雄(エインヘリヤル)”は総勢3万超。だが全員が戦闘員というわけではない。
だがそれは許されざる強欲(マモン)にとっては何の気休めにもならない。
異界英雄(エインヘリヤル)”の中には、正真正銘の神だっているのだから、戦い以前の問題なのだ。

「やってくれるじゃない、欠陥品・・・!」

許されざる色欲(アスモデウス)の綺麗な顔が怒りに歪む。自らが決定した行動の果ての許されざる強欲(マモン)の消滅。
許されざる嫉妬(レヴィヤタン)だけは無表情を崩さず、仲間の消滅よりひたすらルーテシアの事を考えていた。


◦―◦―◦―◦―◦―◦


許されざる色欲(アスモデウス)許されざる嫉妬(レヴィヤタン)から離れた場所に、首と右肩から血を流して座り込んでいるルシルがいた。
綺麗だった銀髪は今はもう短く、血に染まって赤くなっていた。
ルシルは首を刎ねられるその刹那に複製術式、神騙す夢幻レフィナド・イルシオンを発動。
そのおかげで大鎌から逃れ、首と右肩だけの傷だけで済んだのだ。

――神騙す夢幻レフィナド・イルシオン。大戦時、夢幻王プリムスがたった一度だけ使った魔術。
全てを欺くほどの質量のある精巧な自分の幻影(みがわり)を生み出す。
幻影と入れ替わるようにして、最大900m範囲内に瞬間転移することで敵からの攻撃を回避し、代わりに攻撃を受けた幻影(みがわり)によって自分を死んだと思わせる術式。
本来なら血液や臓器などの効果も含まれるが、今回は全てに余裕のなかったために術式を省いたことで単なる回避用の手段となってしまった――

座り込むルシリオンは傷は深いが治癒魔術は使わない。
魔力を放つことで、自身の居場所を察知されてしまうためだ。
そうなると“英雄の居館(ヴァルハラ)”で一気に決めようとしていた策が無に帰すことになると判断したからだ。
だが結局それは叶わず、取り込んだのは許されざる強欲(マモン)の一体だけ。
ルシリオンは「チッ」と舌打ちしたあと、首と右肩に負った怪我を治す。
これで残りの二体に自分のいる場所を知られたはずだ。

「全く、シャルにもリンクが通らないし、面倒なことをしてくれた」

ルシリオンは残りの“大罪(ペッカートゥム)”と戦うために立ち上がる。
ここでさらに数を、可能ならば二体とも完全に斃すことを目指す。
そしてリンクに関しては、この場にいない許されざる傲慢(ルシファー)が仕掛けたことだが、もちろんルシリオンは知らない。

「地上はどうなっているだろうか? いや、フェイトたちが居るのだから心配はないな。
それ以上に気になるのは、あの子達がちゃんとケースを回収できたかどうかだが・・・」

ルシリオンが気になるのは先行させたフォワード陣とギンガの五人。
だがルシリオンは気にはなるものの、まずは現状を打破するために、

「第三級断罪執行権限・・・解凍」

ルシルは、S-ランクからSSSランクの魔力を制限する第三級の執行権限(リミッター)を解凍、その身に宿す魔力をSSSランクとした。

≪我が手に携えしは確かなる幻想≫

ルシリオンは冷静に考え、魔力攻撃はまずいと判断、全て神秘の攻撃に切り替える。
なら魔術は不可、複製術式もまた不可、ならば複製能力を使えばいいと結論した。
ルシリオンは、別の世界で契約を行っている別の自分が複製した能力を引っ張り出す。
オリジナルに神秘はないが、“英知の書庫(アルヴィト)”に一度登録されたものは例外なく神秘を宿すようになる。
だから何も問題なく“大罪(ペッカートゥム)”にダメージを与えられる、と考える。

「さぁ、第二ラウンドを始めようか」  

――ディーンドライブ――

ルシリオンはそう呟いて、複製能力を発動させた。


†††Sideシャルロッテ†††


廃棄都市区画のある一画で、私はルシファーとサタンと空戦を繰り広げる。

「はああぁぁぁっ!!」

“キルシュブリューテ”に宿る神秘を斬撃として飛ばし続ける。
だけどそれはルシファーとサタンに容易く避けられる。

「まだまだぁっ!」

位置的に近いルシファーを斬り捨てるために肉薄する。
“キルシュブリューテ”の届く間合いにルシファーが入り、一気に右斜めに斬り上げる。

「惜しかったな」

「っ! ペッカートゥムが武器を持つ・・・?」

ルシファーは、刀身部分が赤黒く染まる細長い四角柱の剣を構えて、私の斬撃を防いだ。
わけが分からない。どうしてペッカートゥムが武器を持っているのか・・・。
今までにこんなことはなかった。今代のペッカートゥムは何かがおかしい。

「ボサッとしていると直撃だぜ?」

サタンが私に向けて、レヴィヤタンと同じような砲撃を放ってきた。
砲撃と言っても、それはレーザーより少し太い感じのようなモノ。
それをいくつも連続で掃射してくる。
私はそのレーザーの掃射を、“キルシュブリューテ”で斬り払っては回避する。

「これ以上は・・・魔術を使わないとキツイかな?」

“キルシュブリューテ”の神秘による直接斬撃や放出斬撃にも限界を感じ始めた。
陸戦ならそれで十分だろうけど、空戦じゃメチャクチャなハンデに感じる。
何ならSSSランクで“キルシュブリューテ”の能力を解放、真技の“牢刃”でも使おうかな?
けどそれははやてたちに迷惑をかけることになるかもしれない。

「ん? 許されざる傲慢(ルシファー)、聞いたか?」

「ああ。許されざる強欲(マモン)が敗れたそうだな」

私の思考の最中、ルシファーとサタンが、マモンが敗れた、とか言い出した。
そういう話は普通敵の前ではしないと思うんだけどね。
でも、それが事実ならルシルは無事で、そのうえペッカートゥムの一体を斃したということだ。

「・・・・誘き出しといて返り討ちってことでしょ、それ?
これで残り六体ってことよね。ここに二体、ルシルの方はどうなのかな?」

たぶんルシルの方も一体だけってことはないと思う。
居るのはベルゼブブ、ベルフェゴール、アスモデウス、それとも・・・レヴィヤタン?
どちらにしてもルシルなら何とか出来るはずだ。

「三番、俺たちはここで撤退する。別にかまわないだろう?
ここで俺たちと戦い続けるより、仲間の方に向かうのがいいと思うが?」

ルシファーからのいきなりの撤退申告。
私は思考を巡らせる。確かにこのままじゃ埒が明かないのも事実。
空戦においての速さが互角である以上、私のような接近戦タイプは辛い。
でも、ここでヤツらを見逃すのも何か嫌だ。

空に静止して少し、私は結論を出す。

「大人しく撤退するならいい。けど、私の友達に手を出すような真似をしたら容赦しない」

ルシファーとサタンの撤退を見逃す。それが私の出した結論。
次に会ったときは市街地じゃなくて、私が全力を出せるような場所で思いっきり戦って勝つ。

「いい判断だ、三番。では、これで失礼させてもらおう」

「・・・次はその首を落とす。待っていろよ、三番」

ルシファーとサタンはそう告げて、その姿を消した。


◦―◦―◦―◦―◦―◦


ルシリオンは再度戦いに臨む為、執行権限(リミッター)を解凍しようとしていたとき、

「・・・許されざる強欲(マモン)・・・死んじゃったの?」

「はぁ・・・そうね」
 
二体は黒い穴が閉じた場所を見ながら佇んでいた。
許されざる色欲(アスモデウス)は知らなかった。ルシルにこのような力があるということを。
歴代の許されざる色欲(アスモデウス)の記録の中のルシルは、干渉、もしくは簡単な魔術しか使っていなかった。
当然だ。番外位である“大罪(ペッカートゥム)”相手に創世結界を使うこと事態が異常だからだ。

許されざる強欲(マモン)は死んだ。戦闘行動も一時中止、退却する」

このまま戦い続けても構わないが、此度における“大罪(ペッカートゥム)”の目的はあまで“標”だ。
無理に戦って勝つ必要もないし、それ以前に負けて目的を果たせなくなるほうが問題だ。
そう判断しての退却となる。

許されざる嫉妬(レヴィヤタン)、もう戻っていいわよ。欠陥品とは改めて―――そう、やる気なわけね」

そのとき、二体の立つ場所より500m弱離れた場所から強烈な魔力を感じた。
ルシリオンがまだ戦おうとしていることが分かり、やれやれといった風に首を振る。

「どうしたい、許されざる嫉妬(レヴィヤタン)?」

「・・・ルーテシアのところ・・・戻りたい」

「そう・・・・」

許されざる色欲(アスモデウス)の失っていた右腕部分に光が集束していく。
そしてその次の瞬間には、失う前と何ら変わらない右腕があった。
閉じられていた右拳が開く。開いた手のひらの上にあるのは淡く輝く光球。

許されざる強欲(マモン)。あなたの“力”、有効に使わせてもらうわ」

その光球は許されざる強欲(マモン)の“力”そのもの。
許されざる色欲(アスモデウス)は呑まれた右腕を使い、同じく呑み込まれた許されざる強欲(マモン)の“力”だけを取り戻したのだ。
そして許されざる色欲(アスモデウス)は、その“力”の光球を胸に押し当て取り込んだ。
これで許されざる色欲(アスモデウス)は二体分の“力”を有することになった。

「欠陥品、私たちはこれで―――」

全てを言い終わる前に、許されざる色欲(アスモデウス)はその場から離脱。
許されざる嫉妬(レヴィヤタン)もまた、その場から完全に姿を消していた。
それと入れ替わるようにして許されざる色欲(アスモデウス)たちが居た場所にはルシリオンの姿があった。

「・・・逃げたか」

“グングニル”を携えたルシルは静かに呟き、地上へと出るために歩を進めた。
そして歩を進める中、地下に大きな揺れが起きた。

「な、何だ・・・?」


◦―◦―◦―◦―◦―◦


車の通りが何一つない廃棄されたハイウェイ上に、ルーテシアとアギト、ガリューの姿。
優勢に立っていた地下での戦いに、フォワード陣の増援として現れたヴィータとリインの奇襲によって一時的な撤退を余儀なくされたのだ。

「ルールー、これはまずいって! 埋まった中からどうやってケースを探す!?
あいつらだって局員とはいえ、潰れて死んじゃうかもなんだぞっ!?」

アギトの言っていることは、地下を崩落させようとしている甲虫のことを指しているのだろう。
確かに普通の人間ならば崩落に巻き込まれれば死ぬことになる。

「あのレベルなら、たぶんこれくらいじゃ死なない。
ケースはクアットロとセインに頼んで探してもらう」

ルーテシアは意を返さない。
問題のケースは、クアットロとセインと呼ばれた二人に回収してもらうらしい。

「よくねぇよ、ルールー! あの変態医師とかナンバーズ連中、あんな奴らと関わっちゃダメだって!
ゼストの旦那も言ってたろ! あいつら口ばっか上手いけど、実際あたしたちのことなんてせいぜい実験動物くらいにしか思ってねぇよ!」

アギトは、スカリエッティ一味のことをそう評した。
自分たちのことを単なる実験動物としか見ていない、と。

「それにペッカートゥムって奴らもそうだ! あいつらも絶対ヤバイって!
何かこう・・・、あぁもうっ、なんて言っていいか分かんないけどさ、ヤバイんだって!!」 

アギトは的確な表現が出来ないせいでそう声を荒げる。“大罪(ペッカートゥム)”は危険だと。
しかしそれを聞いたルーテシアは、

「そんなことないよ、アギト。レヴィはすごく優しいし、アスモデウスだって面白い。
わたしとアギトにもよくしてくれる」

大罪(ペッカートゥム)”のことを庇うような言葉を囁く。
だが彼女は知らない。その“大罪(ペッカートゥム)”の目的を・・・。
そして轟音が響く。音の出所は甲虫の足下。地面が大きく陥没している。
あれではもう地下は完全に崩落しているだろう。

「やっちまった」

アギトが大きく肩を落として項垂れた。

「ガリュー、怪我・・・大丈夫?」

ルーテシアの傍にいるガリューは頷き、それに応える。
それを見たルーテシアは優しく「戻っていいよ」と告げ、ガリューの召喚を解いた。
そして今度は地面を陥没させた甲虫――地雷王の召喚を解こうとしたとき、地雷王の足下に四角い魔法陣が展開。

――アルケミックチェーン――

召喚魔法陣より生み出された無数の鎖によって捕縛された。
そこから繰り広げられたのはフォワードたちとルーテシアたちの短い戦闘。
だがフォワードたちの方が一枚上手だったのか、ルーテシアとアギトは捕らえられてしまった。

「子供をイジメてるみてぇでいい気分はしねぇが、市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

ヴィータがルーテシアの前で、二人に対する罪状を告げた。


◦―◦―◦―◦―◦―◦


廃棄都市区画のあるビルの屋上、人影が二つ。

「ディエチちゃーん、ちゃんと見えてるぅ?」

眼鏡をかけた茶髪の女が、布に包まれた筒のようなものを手にしている同じく茶髪のディエチと呼ばれた女に視線を向ける。

「ああ。遮蔽物もないし空気も澄んでる。よく見える。
でもいいのか、クアットロ。撃っちゃって?」

ディエチの視線の先には、ここより遠く離れているヘリの姿がある。
ディエチはそのヘリを撃ってもいいのか?と、眼鏡の女、クアットロに確認を取る。

「ケースは残せるだろうけど、マテリアルのほうは破壊しちゃうことになる」

「うふふ、ドクターとウーノ姉様曰く、あのマテリアルが当りなら、本当に聖王の器なら、砲撃くらいでは死んだりしない大丈夫、だそうよ?」

「ふ~ん」

クアットロの言葉を聞いたディエチは、手にしていた筒から布を取り払う。
そこから現れたのは無反動砲のような青い大砲だった。

『クアットロ、ルーテシアお嬢様とアギトさんが捕まったわ』

「あぁ、そういえば例のチビ騎士に捕まってましたねぇ」

クアットロの横にモニターが現れ、スカリエッティの秘書ウーノが映し出される。
ウーノの言葉にのんびりした口調でそう返すクアットロ。

『今はセインが様子を窺ってるけど・・・』

「あのレヴィヤタン、とかいうのはどうしたんですかー?
いつもルーお嬢様と一緒にいるみたいでしたけどー?」

『あの方たちは今、大事な仕事中のようで手を離せないらしいの。
だからあなたたちはルーテシアお嬢様たちのフォローをお願い』

「はーい。・・・ドクターもウーノ姉様も、どうしてあんなわけの分からない連中と付き合えるのかしらぁ?」

モニターが消え、クアットロは“大罪(ペッカートゥム)”のことを嫌うかのように呟く。
だがそんな思考をすぐさまカットし、ルーテシアを救助するために動き出す。

『セインちゃん。こっちから指示を出すわ。お姉様の言うとおりに動いてねぇ』

『う~ん、りょうかーい』


◦―◦―◦―◦―◦―◦


ルーテシアとフォワード陣のいる廃棄されたハイウェイ上。
フォワード陣からいくつか尋問を受けているルーテシアとアギト。
そんなとき、バインドで拘束されているルーテシアに、クアットロからの念話が届く。

『はぁーい、ルーお嬢様』

『クアットロ・・・』

『何やらピンチのようで。お邪魔でなければクアットロがお手伝いいたします』

『・・・お願い』

ルーテシアは、クアットロの力を借りることにした。
本当は許されざる嫉妬(レヴィヤタン)を待っていた、という本音は明かさなかった。

『はいー。ではお嬢様、クアットロの言うとおりの言葉を、その赤い騎士に・・・』

ルーテシアの口から紡がれるのは、クアットロからの伝言。
沈黙を保っていたルーテシアが口を開いたことで、ヴィータとフォワード陣が口を閉じる。

「逮捕はいいけど、大事なヘリは放っておいていいの?」

それを聞いたヴィータを始めとしたフォワード陣は焦る。
だがルーテシアを介してのクアットロの伝言は終わらない。
ルーテシアから向けられる視線に気づき、ヴィータは怪訝そうな表情を浮かべる。

「あなたはまた守れないかもね」

「っ!」

今度こそヴィータの表情に変化が現れた。
そして次の瞬間、ヴァイスの駆るヘリに向けて、ディエチの砲撃が放たれた。


†††Sideなのは†††


「見えたっ!」

「よかった、ヘリは無事」

フェイトちゃんと二人でストームレイダーを視界に捉えて安堵したそのとき、大きな魔力反応を感じることが出来た。

『砲撃のチャージ確認。物理破壊型、推定Sランク!』

ロングアーチからの報告が入る。
Sランクの、しかも物理破壊型の砲撃じゃヘリに備えられているシールドじゃ防ぎきれない。
そして全力で飛ぶ私たちを尻目に砲撃が放たれた。一直線にヘリへと向かう暴力の一撃。

「間に合わないっ!!」

目に見えているのに、あと少しなのに・・・。
この距離でリミッターを解除されてもギリギリ、ううん・・・届かない。
そのとき、

『私が守る!!』

ここにいないはずのシャルちゃんからの念話が届いた。
そしてヘリへと向かう砲撃は、

「そう上手くいくと思うなぁぁぁっ!!!」

着弾するその瞬間に、ヘリと砲撃の間に現れたシャルちゃんの“キルシュブリューテ”によって防がれて・・・違う、綺麗に斬り裂かれていた。

『ヘリは無事っ! なのはとフェイトは狙撃犯の逮捕、急いでっ!
はやて、二人のリミッターの解除をお願い!』

シャルちゃんから私たちに指示が飛ぶ。
私たちはその勢いに負けてただ「了解」と応えて、すぐさま行動に移った。
 

†††Sideなのは⇒ヴィータ†††


『こちらロングアーチ! ヘリは無事です!』

『シャルさんがやってくれました!!』

ヘリが無事っていう連絡があたしらに届く。
どうなることかと思った。また守れないんじゃねぇかって・・・。

「やってくれたなテメェら・・・!」

捕まえている紫のガキに“アイゼン”を突きつける。
もう少しでヘリが落とされて・・・シャマルもヴァイスも死んでいたかもしれなかった。
そう思うと怒りが込み上げてきて、どうにかなりそうだ。

「お、落ち着いて副隊長!」

「これが落ち着けるかっ!」

スバルにはわりぃが、こればっかりは怒りが収まらねぇ。
それに“また守れない”っつう言葉。あれは、八年前のことを指しているんじゃねぇか?
だったらこいつらの仲間は、あの事について何か関わってるかもしれねぇってことだ。

「答えろっ、テメェらの仲間だどこだ!? 八年前のこと知ってんのかっ!?」

感情が抑えられねぇ。バインドで縛られてるアギトっつう奴が何か言ってるが耳に入らない。
そのとき、

「・・・っ! エリオ君、足下にナニかっ!!」

うしろでギンガが叫んだ。それであたしもガキから視線をエリオに向ける。
すると地面から変な格好をした女が現れて、エリオの持つケースを奪い取って、また地面へと・・・潜った!?

「チックショー、何なんだよっ!?」

「副隊長、危ない!!」

ティアナの叫びに反応して振り返ろうとしたけど、その前に強烈な衝撃を受けた。
突然のことで一瞬だけ頭ん中が白くなっちまったが、すぐに体勢を立て直して前を見る。

「・・・ごめん、ルーテシア。・・・遅れた・・・」

そこにいたのはレヴィヤタン。
ペッカートゥムの一人で、セインテストかフライハイトにしか斃せない人外。

「・・・帰ろう・・・」

レヴィヤタンがそう呟いて、鯨のぬいぐるみを掲げると、辺りが紫の閃光に包まれた。
光が収まったとき、もうそこにはあたしら以外、誰もいなかった。

「・・・反応・・・ロストです」

「くそっ、やられたっ!」


†††Sideヴィータ⇒シャルロッテ†††


ヘリの護衛の最中、モニターに映るのは犯人と思しき二人の女。
一人は眼鏡をかけた女で、なんとなくお近づきになりたくないような奴だ。
もう一人は“殲滅姫カノン”の持っていた神器と似た無反動砲のようなモノを手にした女。
いきなりのフェイトのプラズマランサーから回避して、必死に逃げ回っている。

「さっさと諦めればいいのに」

『フライハイトちゃん。助かったわ、ありがとう』

『マジで助かりましたシャルさん。出来れば、このまま護衛を任せちまってもいいですか?』

「ん、了解。逃亡犯たちはなのはたちが捕まえるだろうしね」

私が砲撃を防いだことでヘリは無傷。そのままヘリの護衛に就くことにした。
そしてルシルのことは、ルシファーとサタンが居なくなったことで連絡をとることが出来た。
今回の詳細は帰ってから、ということになったけど、ルシルは結構まずい戦況だったみたい。

ルシルの綺麗で長かった髪は短く雑に切られていて、戦闘甲冑の首と右肩を覆う部分は、裂けている部分を中心に赤く血で染まっていた。
それは下手をすれば死んでいたことを意味しているのに、「無事だったから問題ない」って軽く言うルシルには呆れ果てる。
だから私もそれ以上は何も言わなかった。
だったら今は、目の前の問題を先に片付けることを優先しよう。

「はやて、デアボリック・エミッション、スタンバイ」

『それはあのうちのどっちかが幻影の使い手、やからかな?』

「間違いなくね。そろそろ姿を消すはず・・・」

狙撃犯の傍にいながら何もしないで、たとえ安全を確保していても戦場にいる時点で黒。
幻影系はおそらく現代(いま)も近いところからじゃないと発動できないと私は踏んでいる。
仮に違ってもあの二人を捕まえることには変わりないからよし。
そしてはやては詠唱を終えて、いつでも発動できるように待機している。

「なのはとフェイトは、はやての一撃のあとに出てきたところを撃って」

『『了解!』』

そして予想通りに犯人の二人が消えた。
だけど実際にはまだ消えた付近にいるはずだ。
そこを潰すのが広域空間魔法デアボリック・エミッション。
見えなくても居るのだから、動き出さざるを得ない状況を作り出す。
そして出てきたところでなのはとフェイトで挟撃させる。それでチェックだ。

「なのは、フェイトは離脱! はやて・・・撃って!!」

『遠き地にて、闇に沈め。デアボリック・エミッション!!』

遠隔発生された一撃が廃棄都市区画の一画を飲み込んでいく。
そんで、あの二人は・・・っと、なんとまぁ、いい具合になのなとフェイトの間に現れた。

≪They never surrender. Judged to have in danger of escape.
(投降の意志なし…逃走の危険ありと認定)≫

≪Knockout by buster. After that, arrests it.(砲撃で昏倒させて捕らえます)≫

「トライデント・・・スマッシャァァァーーーーッ!!!」

「エクセリオン・・・バスタァァァーーーーッ!!!」

なのはとフェイトから放たれた砲撃は真っ直ぐ向かっていって・・・っ!!
寸でのところでかなり速い伏兵に邪魔された。ダメ、速い。突然過ぎて目が追いつけない。

『避けられた!』

『直前で救援が入った。今すぐ追って』

なのはとフェイトも気づいたようで、ロングアーチに追跡するように指示を出した。
だけど、ロングアーチが足取りを追ったけど犯人は逃亡、逮捕は出来なかった。


†††Sideシャルロッテ⇒ティアナ†††


「ああ、悪い。こっちは最悪だ。召喚士一味には逃げられて、ケースも持っていかれちまった。
逃走経路も掴めねぇ。迂闊だった」

ヴィータ副隊長が沈んだ声で、隊長たちと連絡を取ってる。
けど、あたしたちは言わないといけないことがある。
あるんだけど、ヴィータ副隊長の放つ重い空気にたじろいでしまう。

「あ、あのー、ヴィータ副隊長・・・」

ギンガさんに急かされたスバルがヴィータ副隊長に声をかけるけど、邪魔すんなって意味が籠められた“グラーフアイゼン”がスバルに向けられた。

「ああ、フォワード陣はベストだった。今回は完全にあたしの失態だ」

「リインもです・・・」

早く言わないといろいろとまずい気がして、今度はあたしが意を決して口に出す。

「副隊長・・・あの・・・」

「なんだよっ、報告中だぞ!」
 
恐い。けどここで言わないと、きっとあとでさらに恐いことになる。

「いやぁ、あの・・・ずっと緊迫してたんで切り出すタイミングがなかったんですけど・・・」

「レリックには、あたしたちで一工夫をしてまして・・・」

「んん?」

あたしとスバルの言葉を聞いて、ヴィータ副隊長もようやく話を聞いてくれるみたいだ。
ヴィータ副隊長の前に集まって、あたしたちがレリックに施した工夫の説明を始める。

「ケースはシルエットではなく本物でした。
あたしのシルエットって衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから・・・」

「なので、ケースを開封してレリック本体に直接厳重封印をかけて・・・」

「その中身は・・・」

スバルがキャロの被っている帽子を手に取る。
キャロのカチューシャの上に一輪の花が咲いている。
ヴィータ副隊長がそれを確認したのを見て、あたしは指を鳴らす。
すると花はレリックへと変わる。これがあたしたちがレリックに施した一工夫だ。

「敵との直接接触が一番少ないキャロの持っててもらおうって・・・」

「なーるほどー!」

「はは、あははは、ははは・・・・」

リイン曹長は感嘆の声を、ヴィータ副隊長は・・・あの、大丈夫ですか?
あたしたちはどうしていいのか分からず、ヴィータ副隊長が復活するまで待つことにした。
ヴィータ副隊長の力のない笑いが続いている中、上空からルシルさんの声が聞こえた。

「みんなも無事にレリックを回収したみたいでよかった・・・」

そしてあたしたちは、空から降りてきたルシルさんへと視線を移した。
けど、ルシルさんの姿は別れたときと違ってボロボロだった。

「「「「「ルシルさん!?」」」」」

「セインテスト!? お前、大丈夫なのかよ、それっ!?」

「す、すぐにシャマルを呼んで――」

さっきまでの雰囲気が一気に消し飛んだ。それほどルシルさんの見た目が酷かった。
綺麗だった髪は短くなっているし、血で赤く染まってる。

「あぁ、大丈夫だから。止血も終えたし、傷も塞いだ。・・・心配することはないよ」

笑みを浮かべるルシルさんに、一同ドン引き。
このあと、フェイトさんやシャマル先生に捕まったルシルさんは、診察室に強制連行された。


さて、許されざる強欲(マモン)が僅か二話で退場。
ですが力だけは許されざる色欲(アスモデウス)へと取り込まれることに。
これで強くしていきますよ、大罪(ペッカートゥム)を。

複製能力
ディーンドライブ:NEEDLESS

複製術式
神騙す夢幻:ANSUR
レフィナド(洗練された)、イルシオン(幻影)、という意味を持つスペイン語


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