動き出す使者 ~前編~
†††Sideはやて†††
ようやく強制着せ替えタイムも終わって、ゆっくり出来ると思ったのも束の間、キャロからの緊急連絡が全体通信で隊舎内に響き渡る。
『こちらライトニング4。緊急事態につき現場状況報告します。
サードアベニュF23区画にてレリックと思しきケースを発見』
ソファにぐったりと腰掛けてたみんなに緊張感が漂う。
みんなは立ち上がって、いつでも行動に移れるようにしとる。
『ケースを持っていたらしい小さな女の子が一人・・・』
その少女と思われる抱きかかえたエリオがモニターに映った。
少女は5~6歳くらいで、金髪でボロボロの服を纏っとる。
『女の子は意識不明です』
『指示をお願いします!』
「救急の手配はこっちでする。二人はそのままその子とケースを保護、応急手当をしてあげて」
「「はいっ!」」
エリオとキャロの隊長であるフェイトちゃんの指示が飛ぶ。
そしてなのはちゃんはスバルとティアナに、エリオたちと合流するように指示した。
「全員待機態勢。席を外してる子たちは配置に戻ってなっ。
安全確実に保護するよ。レリックもその女の子もやっ」
「「「了解!」」」
なのはちゃん、フェイトちゃん、そしてリインが私に指示に応える。
そして私はシャルちゃんとルシル君へと振り返って、
「シャルちゃんは隊舎で待機。でもいつでも出れるようにしておいて」
「ん、分かった」
「ルシル君は隊長たちと一緒に行ってほしいんやけど、ええか?」
「ああ。ここに来てからはシャルばかりが出ているからな。
私としてもそろそろ動きたかったところだ」
協力者であるシャルちゃんとルシル君の二人にも指示を出す。
でもシャルちゃんはちょっと不満そうやな。でも明らかに疲れとる顔やし気遣いやで、これは。
その反面、ルシル君はキリッと仕事顔。さっきまでの疲れてた(精神的に)顔がウソのようや。
「それじゃあ、機動六課出動やっ」
†††Sideはやて⇒ルシリオン†††
ヴァイスの駆るヘリに乗り、フェイトたちと共に現場へと着いた。
そしてシャマルがすぐさま少女の診察を開始。その結果は、
「・・・うん、バイタルは安定してるわね。危険な反応はないし、心配ないわ」
異常なし、ということだった。
キャロからこの子は地下水路をかなり歩いたらしいと聞いた。
それが原因の衰弱といったところだろう。何にしても大丈夫ということなら良かった。
「はいっ」
「よかったー」
キャロとスバルが安堵の声をあげた。
他のみんなも声には出さないが、表情にはハッキリと出ている。
「ごめんねみんな、折角のお休みの最中だったのに・・・」
「いえっ」
「平気ですっ」
フェイトに応えるエリオとキャロの二人。
スバルとティアナもそれに頷いて応えた。
この四人にはもっと楽しい時間を過ごさせてあげたかったが仕方ない。
次こそはちゃんとした休日を過ごさせてあげたいものだな。
「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから、みんなはこっちで現場調査ね」
「「「「はい!」」」」
「それじゃセインテスト君、この子のことヘリまでお願いできる?」
シャマルが医療道具も片付けて、私に少女をヘリへと運ぶよう頼んできた。
小さいとはいえ、気を失い、力の入っていない子供はそれなりの重さがある。
なら女の子であるフェイトやなのはに運ばせるわけにはいかない。
「ああ」
少女を抱きかかえて、シャマルと共にヘリに乗り込もうとしたところでガジェット襲来の報が届いた。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
私ははやてについて司令部へと来ている。
そしてルシルたちが出動して間もなく、レリックを狙ったガジェットが現れた。
海上とフォワードのいる地下の二か所に。
「多いなぁ・・・」
ガジェットの数の多さに苦い顔をしているはやて。
本来のなのはたちなら問題ないけど、今はリミッターがかけられてる。
ルシルもまた市街地戦ということで魔力を制限することになるはずだ。
だからこそあの数を相手にするのは結構骨が折れることになる。
「どうするのはやて? 私も援軍に行こうか?」
慣れていない複製術式の乱用で、結構魔力を消費しているけどガジェット相手なら余裕だ。
「そやなぁ・・・・」
はやては仕方ないといった感じでそう答えた。
私とグリフィスの二人の視線を受けながらも、必死に良い手を考えているみたいだ。
『ロングアーチ、こちらスターズ2』
モニターに映ったのは、海上を飛んでいるヴィータの姿。
『海上で演習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれた。今現場に向かってる』
ナイスタイミング。ヴィータ一人来るだけでもかなり違ってくるはずだ。
これなら私は出撃する必要はなさそう。
『それからもう一人・・・』
『108部隊、ギンガ・ナカジマです』
「「っ!」」
はやてとグリフィスの表情に驚愕の色が現れる。
確かギンガはスバルの姉で、シューティングアーツの師でもあるという話だ。
戦力としては申し分ない。
『別件捜査の途中だったんですが、そちらとの事例とも関係がありそうなんです。
参加してもよろしいでしょうか?』
「うん、お願いや。ほんならヴィータはリインと合流、協力して海上の南西方向を制圧」
『南西方向、了解ですっ!』
「なのは隊長とフェイト隊長は北西部から」
『『了解』』
「ルシル君はヴィータやリインと一緒に南西制圧」
『了解した』
「ヘリの方はヴァイス君とシャマルに任せてもええか?」
『お任せあれっ』
『しっかり守ります』
矢継ぎ早に指示を出していくはやて。
さすが部隊長といったところだ。
「ギンガは地下でスバルたちと合流。道々別件の方も聞かせてな」
『はい!』
全ての指示を終えたはやては椅子に深く座りなおした。
それじゃ私はゆっくりと見学でもさせてもらおうかな。
◦―◦―◦―◦―◦―◦
廃棄都市区画の遥か上空、四つの影は離れたビルの屋上にある一機のヘリを見据えている。
そして八つの瞳に見られているのはルシリオン。
しかし彼はこの四人に見られているのに気づいていない。
本来、すでに時を持たない“絶対殲滅対象”に成長はない。
しかし“大罪”は例外となる。代替わりをすればするほど、先代たちの記録を、力を引き継いでいく。
そのため、己の神秘を感知されないよう隠匿する術を、今代は全て手にしている。
「許されざる嫉妬、今んところはルーテシアについてけ」
『それ・・・じゃない・・・ルーテシア。次は・・・間違えないで、許されざる憤怒』
「どっちでもいいだろ? 最終的にこの世界は滅びるんだから覚える必要はないんだよ」
レヴィヤタンのズレた反論にそう答えるサタン。
オールバックにしたその漆黒の髪は、まるで馬の鬣のようになっている。
漆黒の燕尾服に袖なしのインバネスコートを着た彼は、どこか品格のある存在だ。
そしてその灰色の瞳はレヴィヤタンのいる方へと向いている。
「――で、三番いないようだし、どうするの?」
ガジェットの掃討を始めたルシリオン、なのは、フェイトを見ながら、一番やる気のなさそうな少女がそう口にする。
髪は橙色でウェーブのかかったセミロング。瞳は透き通った桃色で、優しい目付きをしている。
服は黒いブラウスに赤いネクタイ、白のプリーツスカート姿の、どこにでもいるような少女だ。
「欠陥品だけでも先に潰しとく?」
その少女は遠く離れたルシリオンの姿をハッキリと捉えながら首を鳴らす。
見た目に反して戦闘志向が強いらしい。
「あ? 大罪の役目はあくまで“標”だろ? なぁリーダー?」
「私がリーダーになった覚えはないんだけど・・・」
サタンは背後にいる存在へと問いかける。
そこに居るのは、燃えるような真紅の髪を両サイドで細い鎖で纏め団子にし、そして同じ燃えるような真紅の瞳、真紅のチャイナドレスを着た二十代前半と思しき女。
髪も瞳も纏う服すらも真紅一色という目に優しくない存在だ。
「許されざる暴食の席が空いている今は君がリーダーだ許されざる色欲」
この場にいる最後の一人、白のスーツを着た許されざる傲慢がそう告げる。
それを聞いたアスモデウスは短くため息を吐いたあと、
「斃せるうちに斃しておいても別に構わないわ。欠陥品は地下で始末をつける。
空より陸のほうが斃しやすいって話だしね。けど制限は20分・・・いいわね?」
アスモデウスは戦闘にかける時間を最大20分と設定する。
いくら分裂することで“界律”を誤魔化していても、やはり人類の天敵・“絶対殲滅対象”。
過ぎた行動は“界律”に危険存在として認知されてしまうことを知っている。
「まずは地下に罪眼を放って欠陥品を誘き出さないといけないわね。
それから私と・・・許されざる強欲、あなたもついてきて」
これで地下に三体の大罪が揃うことになる。
レヴィヤタン、そしてアスモデウスにマモン。
「許されざる傲慢と許されざる憤怒はここで待機。もし三番が出てきたら相手をしてやって」
「「分かった」」
アスモデウスの指示に素直に従うルシファーとサタン。
「許されざる嫉妬、悪いけどルーテシアと別れて私たちと合流して」
『・・・分かった・・・でも第四の力・・・斃したらすぐ戻る・・・』
レヴィヤタンはアスモデウスの指示に渋々従うようにそう告げた。
そしてアスモデウスとマモンの姿が消える。
残されたルシファーとサタンは再度海上で繰り広げられるガジェット殲滅戦へと視線を移した。
†††Sideルシリオン†††
『セインテスト、そっち頼んだ』
「了解した。蹂躙粛清」
――殲滅せよ、汝の軍勢――
ヴィータからの念話に応え、ガジェット十数機を40の槍群で撃ち落す。
「それにしても多いな」
ガジェットの数の多さに改めて舌を巻く。
一体何機作っているのか、それ以前に犯罪者であるスカリエッティには金銭的な問題はないのだろうか?
そもそもスカリエッティには謎が多すぎる。
通信映像や音声のデータがあるのに、一度も逮捕歴がないというのもおかしい。
何か大きな後ろ盾でもあるのか? それが“絶対殲滅対象”と繋がっている?
くそっ、人間に干渉して一体何を企んでいるんだヤツらは・・・。
『ルシルさんっ、増援ですっ!』
リインから念話が届く。リインとヴィータの見ている方に視線を移すと、さらに何十機ものガジェットが見えた。
「確認した。第四波装填」
市街地戦ということで使用する魔力をAAA+に設定している。
それでもガジェットを破壊するだけならお釣りが来るから気にならない。
「離れてくれヴィータ、リイン」
射線上から二人が退いたことを確認して、
「蹂躙粛清」
40の槍の軍勢を、増援として現れたガジェットへと放つ。
ヒットまで4・・・3・・・2・・・1・・・ん?
槍がいくつかのガジェットをすり抜けた。
「実機と幻影による混成編隊・・・か。面倒な能力を持つ奴がいるな。
フェイト、なのは。増援のガジェットの中に幻影が混じっている」
北西を担当する二人に念話で報告しておく。
『うん、こっちでも確認できた。防衛ラインを割られない自信はあるけどちょっとキリがないかも』
『ここまで派手な引き付けをするってことは海上のガジェットは全て囮だと思うんだ』
「つまり本命はヘリか地下・・・か」
――第五波装填、蹂躙粛清――
念話の間でも間髪入れずに汝の軍勢を放ち続ける。
だが実機を破壊する数より、幻影にミスする数が多くなってきた。
『こちらスターズ4! ルシルさん、今よろしいですか!?』
ティアナからの通信モニターが私の前に展開される。
ティアナの表情は焦りと疑惑に満ちたものとなっていた。
「どうした?」
『地下水路D26区画でレーガートゥスと思われるものがいます!
ですがあたしたちを見ても何の動きも見せようとしないので・・・指示をお願いします!』
レーガートゥスが地下に? この付近一帯が様々な魔力で満ちている所為で気づかなかった。
『ルシル君、行って。ここは私たちで何とかするから』
『それにどの道地下に誰か行かないといけなかったから。ルシル、新人たちの方をお願い』
なのはとフェイトから地下へ行くように念話が届く。
確かに地下に主力が向かう可能性があるという話をたった今していた。
ならば、「・・・ヴィータ、リイン、ここを頼めるか?」行くしかないだろう。
『誰に言ってんだよ。あたしとリインに落とせねぇものはねぇっ!』
『はいっ、その通りですっ!』
全く、本当に頼りになる仲間だ。そうと決まれば全力で空を翔けよう。
「ティアナ、今から私がそちらに向かう。それはおそらく君たちを狙うことはしないはずだ。
警戒しつつもケース捜索に移ってくれ」
『り、了解!』
ティアナにそう指示して、私は全力で地下へと向かった。
レーガートゥスはケースを回収しに来たティアナたちを見ても行動に移らなかった。
つまり用があるのは彼女たちではなく・・・私か?
†††Sideルシリオン⇒なのは†††
ルシル君が地下に向かってくれたことで心配の種が一つ減った。
あとはヘリの護衛だけど・・・。
「なのは、私が残って、ここをヴィータと一緒に抑えるから行って」
「フェイトちゃん!?」
フェイトちゃんのいきなりの提案に驚きを隠せない。
いくらなんでもこの数をフェイトちゃんとヴィータちゃんの二人で抑えるには辛すぎる。
「コンビでも普通に空戦してたんじゃ時間が掛かりすぎる。
限定解除すれば広域殲滅でまとめて落とせる」
「それはそうだけど・・・」
確かにそれなら出来ないことはないだろうけど・・・。
「なんだか嫌な予感がするんだ」
こういうときのフェイトちゃんの勘はよく当たる。
だったらここはフェイトちゃんの言うとおりに・・・。
『割り込み失礼』
そう思ったところで、私とフェイトちゃんの間にモニターが現れる。
そこに映っているのははやてちゃん・・・なんだけど、
『ロングアーチからライトニング1へ。その案も限定解除申請も部隊長権限で却下します』
「はやてっ!」
「はやてちゃん、何で騎士甲冑!?」
はやてちゃんは局の制服じゃなくて騎士甲冑を身に纏っていた。
『嫌な予感は私も同じでな。クロノ君から私の限定解除をもらうことにした。
空の掃除は私がやるよ。ちゅうことで、なのはちゃんとフェイトちゃんは地上に降りてヘリの護衛。
ヴィータとリインも地下に行ってケースの確保を手伝ってな』
『『了解!』』
ルシル君に続いてヴィータちゃんたちも地下に行くならケースの確保は決まったも同然。
それなら私とフェイトちゃんも安心してヘリの護衛に専念できる。
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
ティアナから受けた報告で聞いたD26区画へと着き、レーガートゥスの殲滅を開始した。
「さぁ撃ち貫かれたい奴から前に出ろっ!」
しかし、こうも狭い場所では神器“星填銃”が役に立つ。
概念兵装でありながら神造兵装の二十位並の神秘の弾丸を放てるのだから。
自作の神器でありながら本当に素晴らしい出来だとかつての私を褒めたくなってくる。
接敵から数秒で殲滅を終えたところで、フォワードの子達と合流するために走る。
すでにあの子達の魔力波形は覚えているため、簡単に魔力探査することが出来た。
そして大きく開けた空間でガジェットを殲滅しているフォワード、そしてギンガと合流した。
「「「「ルシルさんっ!!」」」」
ここに来るまでにガジェットの残骸の山を見てきたが、四人とも大して疲れていないようだ。
順調に成長していっている証拠だ。
「みんなお疲れ様だ。そしてギンガ、久しぶりだな」
「はい。ルシルさんもお元気そうでなによりです」
ギンガは律儀に頭を下げて挨拶をしてくれた。
最後に会ったのは局を辞める際だったから、スバルと同じ二年前くらいか。
「ああ。っと世間話はこの件が終わってからということで、な」
「あ、はいっ。そうですね」
今はレリックのケース確保が最優先だ。
このメンバーなら道すがら話すことも出来るだろうが、それは不謹慎だ。
「それではティアナ。私もこれから君の指揮下に入る。好きなだけ使ってくれ」
「えっ!? あぁその・・・でも、あたしが・・・」
何だ? 急によそよそしくなったが、何か変なことを言ってしまったか?
「えっと、今は局員じゃないとしてもルシルさんを・・・その・・・」
ここで昔の話を持ってきたティアナ。
今のティアナの階級は二等陸士。そして私が元一等空佐・・・・む、確かに少し躊躇うか。
「そんなことは気にしなくてもいいと思うが。
それに私は今の君の指揮能力を買っている。だから自信を持て、ティアナ」
「は――「ようやく来たわね欠陥品」――・・・え?」
この開けた空間に響き渡る第三者の声。
全員が警戒に移る中、ゆっくりと靴音を響かせ、暗がりから現れたのは二つの影。
「・・・レヴィヤタン。それに・・・貴様も新入りか」
一体はホテル・アグスタでシャルを苦戦させた最速のレヴィヤタン。
そしてもう一体は全てが真紅という女で、自分の身長を超える大鎌を手にしている。
その女を見て思い出すのは、あの小さな少女が言っていた“赤いお姉ちゃん”という言葉。
スカリエッティからの受信専用の通信機を少女に渡したのはこの女だろう。
「ルシルさん・・・」
ヤツらを見て怯え始めたフリードを抱きかかえながら、キャロが私の名前を呟く。
キャロも震えている。そして他の子達を同様。おそらく本能が危険だと告げているんだろう。
『君たちは先に行ってケースの確保を優先してくれ』
『『『『・・・はいっ』』』』
『そんなっ! あの二人は明らかに危険です! 私たちも・・・!』
私の念話に唯一反論したのはギンガ。
そうか、ギンガはペッカートゥムやレーガートゥスのことは知らなかったか。
『ギン姉、魔導師じゃあいつらは倒せない。ううん、傷つけることだって出来ないんだ』
『え? どういうこと・・・?』
『詳しい説明はあとだギンガ。君たちは一刻も早くケースのある場所を目指せ』
レヴィヤタンたちから庇うようにして前に出る。
ギンガは躊躇っているようだが、スバルたちとの念話で説得されたのか渋々従った。
「そんな窮屈な肉体に入れられて大変そうね、欠陥品?」
真紅の女が私をまじまじと見て面白そうに笑った。
欠陥品。それは不完全な“界律の守護神”である私とマリアを指す蔑称だ。
「いやいや、人間は人間で楽しいんだよ、二級品?」
こちらも“絶対殲滅対象”の番外位であるヤツらの蔑称、二級品で応戦。
レヴィヤタンの表情は変わらないが、真紅の女は笑みを浮かべたまま止まっている。
そして真紅の女の姿が掻き消え、一瞬で私の背後に回ってきたが、シャルより、それにフェイトよりはるかに遅い。
神器“星填銃”に魔力を流して神秘の弾丸を生成、至近距離からの特大砲撃をお見舞いする。
「いっっっっけぇぇぇぇっ!!!」
「っ!」
魔力ではなく純粋な神秘の一撃。
ペッカートゥム状態ならいざ知らず、分裂体である今なら概念兵装の一撃でも十分ダメージを与えられる。
そして閃光が途切れ視界がクリアになる。
「・・・確かに速い・・・な。レヴィヤタン・・・」
かなり離れたところに真紅の女の襟を掴んでいるレヴィヤタンがいた。
“星填銃”の砲撃が真紅の女に届くより先に移動、そして真紅の女と共に射線上より離脱。
確かに陸戦機動力ならシャル以上であるのは間違いなさそうだ。
だが、その速さに対処するための・・・・魔眼が私にはある。
右目の魔眼封じのコンタクトレンズを外す。
「第四の力・・・」
レヴィヤタンがそう呟き、コツコツと靴を鳴らして歩く。
視線は私へ、歩く方向は私に対して平行に・・・そして、
「早く・・・消えて・・・」
「っ!? はや――」
90メートル近くあった距離をノーアクションで一瞬に詰め、私の真横へと現れる。
用意しておいた魔眼、“極近未来視”では追いきれない。それどころか目にも映らない。
「チッ、捕らえよ、ドローミ、レーディング!!」
レヴィヤタンを覆うように大小様々な鎖が現れる。
二つの捕縛神器による全方位からの襲撃。
レヴィヤタンが回避行動に入り、目で追いきれないほどの速さで離れていく。
だが捕縛神器の波状襲撃によって次第に追い込まれていく。
「・・・捕まった・・・」
その体には何重にも鎖が巻かれ、その周囲も“ドローミとレーディング”で覆われている。
私は止めを刺すために、表層世界最高の神秘を持つ“グングニル”を左手に具現させる。
「私がいるってことを忘れてるんじゃないの!?」
真紅の女がそんな当たり前なことを言いながら攻撃を仕掛けてくる。
右手に持つ“星填銃オルトリンデ”の銃口を向けてさっきと同じ砲撃を放つ。
「同じ手は通用しないってことを教えてあげる!」
真紅の女は大鎌を前面で回すようにして砲撃を防いだ。
私としてもそう簡単に斃れてくれるとは考えていない。
「・・・神槍!!」
能力を解放せずとも内包している神秘は絶大。分裂体を消滅させるには十分すぎるほどにだ。
そんな“グングニル”を、未だに砲撃に対処している真紅の女へと投げ放つ。
「まず一体目。そして・・・お前もこれで終わりだ、レヴィヤタン」
右手の“星填銃オルトリンデ”の銃口を、今度はレヴィヤタンに向けて・・・砲撃を放つ。
これでまずは二体の消滅、となるはずだった。
「・・・甘い」
「全然ダメ」
「なにっ!?」
これもまた油断だったのだろう。真紅の女は左手に持つ大鎌で、“グングニル”を砲撃同様弾き返した。
あの大鎌も結構な神秘を保有しているようだ。
「欠陥品はどこまで私たちを甘く見ればいいのかしら?」
手元に戻ってきた“グングニル”を掴み取る。真紅の女が笑みを浮かべる。
それにしても“絶対殲滅対象”が神器と同じような神秘を持つ武器を持つとは・・・。
「・・・このくらいの神秘じゃ・・・わたしは斃せない・・・」
二つの神器を引き千切り、尚且つ持っていた鯨のぬいぐるみで砲撃を防いだレヴィヤタン。
悪用されてはまずいため、神器を一度魔力に戻す。
全く、今代の分裂体は悉くこちらの予想を上回る。
「・・・・仕方ない・・・か」
クロノやはやてたちには悪いが、神秘にSSSランクの魔力を上乗せさせてもらおう。
魔力と神器の両方の神秘を相乗させればもう防げまい。
「第三級断罪執行権限・・・かい―――がっ!?」
SSSランクの魔力を使用するための執行権限を解放しようとしたところで、いきなり背後から首を掴まれ、仰向けになるようにして地面に叩きつけられた。
叩きつけられた衝撃のあと浮遊感がこの身を襲う。
どうやらあまりの威力だったためにバウンドして空中に跳ね上げられたようだ。
「っうぐ、がはっ・・・まだ・・・いたのか・・・?」
――傷つきし者に、汝の癒しを――
何とか体勢を整え、地面に着地して治癒魔術を発動。今負ったダメージを回復させる。
「もう面倒だから出てきたけど別にいいよね、許されざる色欲?」
私を地面に叩きつけた少女が真紅の女のことをアスモデウスと呼んだ。
許されざる色欲は大罪の内、二番目に重い罪とされる存在だ。
もちろんその実力も二番目となる。
「まぁいいわ。フフ、どう、界律の守護神が最弱とした私たちの強さは?
守護神ならいざ知らず、今の人間に遅れを取るような大罪じゃないわ」
「・・・干渉能力の戦いなら・・・わたしたちは・・・確かに弱い。
だけど・・・干渉がお互い使えないなら・・・第四の力にだって勝てる」
「そういうわけだからさ、さっさと逝っちゃってよ欠陥品」
アスモデウスにレヴィヤタン。そして新手の少女が私を中心として三角形の陣形を取る。
確かにヤツらの言い分は最もだが、解っていないのはお前たちも同様。
分裂体もまた私たちと同様その身の霊格が落ちることになる。
だからこそ干渉能力だけでなく神器程度の神秘でダメージを負うことになっている。
それゆえに・・・今の私とシャルでも貴様たちに勝てるんだよ。
≪我が手に携えしは確かなる幻想≫
いつでも複製武装や術式を取り出せるようにしておく。
――目醒めよ、我が心なる世界が一つ――
“聖天の極壁”とは違い、“神々の宝庫”や“英雄の居館”の二つには詠唱が必要となる。
それが展開する場合でも取り込む場合でも、だ。
今回は展開ではなく取り込むほうにする。展開すれば、地上にいるみんな、下手をすれば地上本部に気付かれる。
普通ではない魔力反応を。現象を。私を。
――其は美しき黄金に輝きたる館――
「無駄なあがきは止しなさい」
――其は我が心に在りし神秘の幾多の主――
アスモデウスが大鎌を振り、神秘の衝撃波を放ってくる。
その次の行動は魔眼で判明しているため回避ではなく“星填銃”の弾丸で迎撃する。
そうとは知らず突っ込んできたアスモデウスの眉間に銃口を押し付ける。
だが、
「させないっつうの」
三体目のペッカートゥムが腕を払い巨大な斬撃を撃ちだす。
魔眼がこの少女の次の動きを見せてくれる。
今度はそれを回避してカウンター気味に、再度具現させた“グングニル”で斬りつける。
――契約の下、出でよ英雄の軍勢――
少女は前髪を少し切られるほどのところで後ろに跳躍、難を逃れた。
アスモデウスもまた銃口から逃れて、私から大きく離れた。
やはりレヴィヤタンだけが異常な速さを持っているようだ。
これなら何とかなる。
「・・・一気に・・・決める・・・」
レヴィヤタンのその一言に背筋が凍る。
本能が今から放たれる一撃を避けろと全力で告げてくる。
魔眼が次に起こる災厄を映し出す。
「・・・deus caedere・・・」
レヴィヤタンから紡がれた言葉は・・・神殺し。
この空間一体を照らし出すようにすみれ色の閃光が爆ぜる。
私は魔眼のおかげで、ギリギリ有効範囲外にまで退避できた。
「ぐっ・・・もう時間が・・・」
魔眼使用時間終了となり、魔眼封じのコンタクトを嵌めなおす。
――拒みし者を蹂躙せよ 罪ある者を断罪せよ 助け求める者を救済せよ――
だが詠唱も間もなく終える。未だに三体とも私の居場所に気づいていない。
これで私の勝ちだよ、ペッカートゥム。
「そうでもないんじゃない?」
「チッ」
背後に現れたのはレヴィヤタンとアスモデウスの二体。
すぐさまその場から離脱して、“星填銃”二挺の銃口を向ける。
だが二人は何のアクションも起こそうとしない。
それだけじゃない。アスモデウスが手にしていた大鎌が今はない。
「いらっしゃい」
離脱後の場所には、私を待ち構えていたかのように少女が大鎌を構えていた。
そして間髪いれずに横一線にその大鎌を振るった。目に映るのは私の首を狙った必殺の凶器。
許されざる強欲の振るった大鎌によってその場に銀髪が舞い、そしてルシリオンの首が飛んだ。
11話と12話を繋げようと試みるも失敗。
結局ナンバーズは出せずに今回は終了。
そして初の前後編。
サブタイトルをケチったわけじゃないんです・・・ウソです、ごめんなさい。
本当はケチってます。
複製能力
極近未来視の魔眼:コードギアス 反逆のルルーシュ R2
許されざる嫉妬の攻撃
deus caedere:デウス・カエデレ
ラテン語で神を意味する“デウス”と、殺害の“カエデレ”の名を持つ攻撃。
単純な神秘の爆発です。名前を付ける必要性はなかったんですが、ね。
なんとなく付けてしまいました。
そういえばペッカートゥムやレーガートゥスもまたラテン語です。
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