ティアナの想い・なのはの願い
†††Sideシャルロッテ†††
「・・・・あ、シグナム」
「その様子では逃げられたようだな」
わざわざ私を待っていてくれたのだろうか、ガジェットの残骸の中心でシグナムが佇んでいた。
「あはは、うん・・・」
「どうした、傷でも負わされたのか?」
「ううん、大丈夫。シグナムは?」
私がレヴィヤタンと交戦する前にシグナムは戦っていた。
だからシグナムのことも心配なんだけど、シグナムの周りに転がるガジェットの残骸を見れば大丈夫かな?
「見ての通りだ。しかしアレは本当に厄介だな。聞いていた通り攻撃が何一つ通らなかった。
フライハイト、やはり私やテスタロッサたちが能力リミッターを外してもアレには勝てんのか?」
「前の会議で話したとおり、だね。ペッカートゥムと戦うには神秘といわれる力がどうしても必要になる」
二人して歩きながらペッカートゥムのことについて話す。
みんなにはヤツらと戦うだけの能力はあってもダメージを負わすための神秘がない。
それでは戦いにはならず、一方的に倒されてしまうことになる。
「そうか。それはなんというか悔しいな。私たちではやはり手も足も出ない、というわけか」
「だから私とルシルが命を懸けてでもみんなをヤツらから守る。
まぁシグナムにとっては嫌なことだろうけどね」
「そんなことはない。守り守られるのが仲間だろう? ならば私もお前たちに守られよう」
「シグナム・・・・。そうだね。うん、そのとおりだ」
「だがなフライハイト」
おなりを歩いていたシグナムが立ち止まって、真剣な面持ちで私を呼んだ。
私も数歩先行ってから立ち止まって、シグナムへと振り返る。
「命を懸けてでも、というのは許さん」
そう言ってシグナムはまた歩き出して私を追い抜いていった。
“命を賭けるのは許さない”か、そんなこと初めて言われた。
「ありがとう、シグナム」
「当たり前のことだ。だからお前たち二人も私たちに守られろ。
命を懸けるようなことは絶対にさせん」
「うん。ありがとう、ホントに」
会話はそれっきりであとは静かなものだった。
でもみんなと合流するまでのこの静かな時間がなんだか心地良かった。
そのあとは事後調査やユーノとの再会などを経て六課隊舎へと帰った。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
「あのさ、二人ともちょっといいか?」
ホテル・アグスタから戻ってきて新人のみんなと別れて隊舎内の廊下を歩いていると、うしろからヴィータちゃんに呼び止められた。
「あ、うん」
何か話があるみたいだから私たちは近くの休憩スペースに移動した。
「訓練中から時々気になってたんだよ、ティアナのこと。
強くなりたい、っていうのは若い魔導師ならみんなそうだし、無茶も多少はするもんだけど、時々ちょっと度を越えてんだよ」
ヴィータちゃんの聞きたかったことはティアナのことについて。
「あいつ、ここに来る前になんかあったのか?」
「うん。いい機会だと思うし、話しておいたほうがいいよね」
私はティアナの行動の原因、ティアナのお兄さんの話をすることにした。
モニターを出して、ティアナのお兄さんの顔写真を映し出す。
「ティアナのお兄さん、ティーダ・ランスター。
当時の階級は一等空尉、所属は首都航空隊。享年21歳」
「結構なエリートだな」
「そう、エリートだったから・・・なんだよね。
ティーダ一等空尉が亡くなったときの任務。逃走中の違法魔導師に手傷は負わせたんだけど取り逃がしちゃってて・・・」
「まぁ地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで犯人はその日に取り押さえられたそうなんだど・・・」
確かその犯人を捕まえたのが、当時のルシル君のいた部隊だった。
「その件についてね、心無い上司がちょっと酷いコメントをして一時期問題になったの」
「その、コメントって・・・なんて?」
「・・・うん、犯人を追い詰めながらも取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態で、たとえ死んでも取り押さえるべきだった・・・」
「それだけじゃなくて、任務を失敗するような役立たずは・・・その・・・」
私に次いでフェイトちゃんも悲しい顔でそう口にした。
そういえばそれを聞いていたシャルちゃんとルシル君は当時かなり荒れていた。
正直あのときの二人はすごく恐かった。
「マジかよ」
「ティアナはそのときまだ十歳。たった一人の肉親を亡くして、しかもその最後の仕事が無意味で役に立たなかった、って言われて、きっとものすごく傷ついて悲しんで・・・」
重たい空気が私たちを覆う。
「だから証明したいんだと思う。お兄さんが遺してくれた魔法は役立たずなんかじゃない、立派な魔法なんだ、って」
「あいつが必死なのはそういうことだったのか・・・」
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
「そうか、向こうでそんなことが・・・」
私に用意された個室で、シャルから任務地であるホテル・アグスタで起きたことのいくつかを聞いていた。
「甘く見ていたとはいえ今代の許されざる嫉妬はかなり速かった。
“閃駆”と“居合い”と“魔術”で与えられたのは八撃、でもその全てが致命傷じゃない」
「馬鹿な。今の君の攻撃を回避するとは一体どれだけの速さを持っていると・・・?」
いくらなんでもそれは信じられない。がシャルがそう言うなら事実だろう。
これは認識を根底から改めたほうがいいのかもしれない。
七大罰の中でもさらに弱いとされているレヴィヤタンが“速さ”という一芸を以てシャルを苦戦させた。
この事実は無視して良いようなものじゃないのは確かだ。
「しかも“心”が弱いから勝てないって言われる始末。
でもそんなこと“心”を失い、壊れて、堕ちた連中なんかに言われたくない。
確かに“心”が弱くなったのは自覚してるけど、それが直接の弱さなんて思わない」
「まぁそうだろうな」
本来なら、何も得ることも失うこともない守護神の“心”には弱さなんてものは存在し得ない。
だが今のシャルには得られるものがあり、そして心から守りたいものが出来た。
それが連中からして見れば“弱さ”になるんだろうが、人間にとってはそれが“強さ”だ。
「だから今度会ったら思い知らせてあげるつもり。今の私の本当の“強さ”を、ね。
ということで少し模擬戦に付き合って」
「全く、君というやつは。いいだろう、その代わり手加減はしないぞ?
それと私が勝ったら女装の刑は取り下げてもらおう」
「いいよ、勝てたらね」
それからすぐに外へと出て林の中の、開けた空間のある場所を目指している中、
「あれ、ティアナ? 何してるの、今日は休めって言われてるのに・・・」
シャルが立ち止まってある一点を見つめた。
そこに居たのは訓練服を着て、点滅する数ある練習用スフィアに銃口を向けるティアナの姿だった。
「今日、ティアナはミスショットをしたって言ったなシャル」
「そうだけど・・・だから自主練?」
かなり集中しているのか私たちに見られているのに気づいていないようだ。
これは邪魔は出来ないな。
「シャル、彼女の邪魔は出来ない。今日は止めておこう」
「え、あ、うん・・・。ティアナ・・・」
シャルは少しの間ティアナを見たあと、ようやくこの場を離れた。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
私はあれから時間を置いて、何度かティアナの様子を見に行っていた。
でもどの時間に行ってもティアナは同じことを繰り返していた。
辺りが暗くなる頃、もう四時間くらいになるだろうか、ルシルと再度様子を見に行くと、離れたところでティアナを見守るようにヴァイスが佇んでた。
「ルシル、シャルさん・・・」
私たちの足音に気づき、振り向いたヴァイス。
「こんばんはヴァイス」
「こんばんはっす、シャルさん。あぁついでにルシル」
ヴァイスと軽く挨拶を交わす。
それにしてもヴァイスのルシルに対するこの態度は本当に相変わらずだ。
昔、ルシルを女と勘違いして声を掛けたことを今でも根に持っているのかな?
でもあれには本当に驚いた、というより可笑しすぎてずっと笑いっぱなしだったな私。
「ああ・・・なぁヴァイス、さすがにティアナに手を出すのはまずいと思うぞ」
「違ぇよアホ。つか分かってて言ってんだろそれ?
そうじゃなくてあいつ、かれこれ四時間くらいああやってんだよ。
ヘリの整備中にスコープで時間を置いて見てたんだが全然休んじゃいねぇんだよ」
「やっぱり・・・あの子、こんな無茶して」
さすがにこれ以上やらせるわけにはいかない。
このままじゃあの子の体が壊れてしまう。
「私、少し話してみる」
「お願いするっすシャルさん」
「・・・・」
ティアナのもとへと歩き出す。
こんなに近づいているのに全く気づいている様子はない。
「ティアナ」
「っ! し、シャルさん? それにヴァイス陸曹とルシルさんまで・・・?」
私に呼ばれて少し驚いた様子を見せた。
「ティアナ、もう四時間も続けているでしょ。
これ以上続けるのを見過ごすことは出来ないよ、ティアナ」
「・・・いえ、私はまだやります。まだたったの四時間しかしていないので」
「なぁおいティアナ、それ以上はお前の体が壊れんぞ?
ここは大人しくシャルさんの言うとおりに休め」
どうやら言うことを聞かないつもりみたい。
今日のミスショットが本当に悔しかったのは分かる。
何せ私も生前では同じような経験があるから。だから今のティアナの思いがよく分かる。
でもだからといってここまでの無茶をするようじゃ全然ダメだ。
「あたしは大丈夫ですから心配いりません。これくらいはやらないとダメなんです」
「だからよ、精密射撃なんざそうほいほい上手くなるもんじゃねぇし。
無理な詰め込みで変なクセをつけんのも良くねぇぞ」
ティアナはヴァイスの言葉を黙って聞いていたけどやっぱり練習を止める様子はない。
どうしたものかなぁ、いっそ力ずくで止めてみようか?
「ティアナ、今日はもう止めておくんだ。無茶をしたところで得られるものなんてない。
それにいつ招集がかかるかも判らないんだ。もしこの瞬間にかけられたらどうする?
新人の指揮を任されている君が、そんな状態で乗り切れるとでも思っているのか?
今度はスバルだけじゃなくて、エリオやキャロまで危険な目に遭わせるかもしれないぞ?」
ルシルの言っていることは正しいけど、もう少し優しく言ってくれないかなぁ。
ヴァイスだって“そこまで言うか?”みたいな顔してるし。
「っ・・・分かりました。今日はこれで失礼させてもらいます」
そう言ってティアナは少しフラつきながら隊舎に戻っていった。
「なぁ、あそこまでキツイこと言わなくてもよかったんじゃねぇか?
あいつに嫌われるかもしんねぇぞルシル」
「なら黙って続けさせればよかったか? 違うよな?
四時間も休まずに続けていればもう限界なはずだ。ならあれくらい言って止めさせたほうがいい。
それに私は嫌われるのも憎まれ恨まれるのも慣れている。だから問題はない」
「あ、おい!」
ルシルもそう言って自室へと戻っていった。
残された私とヴァイスはボケッと佇んでお互いを見た。
「え~と、そんじゃ俺も戻りますんでお休みっす」
「あ、うん、お休み」
ヴァイスもそう言って戻っていったので私も自室に戻ることにした。
私はこれでティアナの無茶な自主練も少しは緩和されると思ってた。
翌日からティアナはスバルと一緒に早朝、夕方の訓練後も二人で自主練をするようになった。
それもまぁ無茶だけど、でもあの夜のような行き過ぎた無茶じゃなかったから止めなかった。
それに二人の訓練における前向きな姿勢に、みんなが感化されていい感じになっていたから。
それを邪魔するようなこともしたくなかったし。
そんなことが数日続いたある日、いつもどおりの模擬戦。
今朝から胸のざわつきが止まらなかったから、ルシルと一緒に直に見学させてもらっていた。
まぁルシルは私のような見学オンリーと違ってライトニングのエリオを鍛えていたけどね。
「さーて、午前中のまとめ、2on1で模擬戦やるよ。
まずは・・・スターズからやろうか。バリアジャケット、準備して」
「「はい!」」
呼ばれたスバルとティアナは強く答えた。
「んじゃ、エリオとキャロはあたしらと見学だ。セインテストとフライハイトもそれでいいな」
「「はい!」」
「ああ」
「・・・・ええ」
そうしてビルの屋上へと場所を移して、スターズの模擬戦を見学することになった。
模擬戦が始まって少し経ったとき、背後の扉が勢いよく開けられる音がした。
扉から出てきたのは訓練服姿のフェイト。かなり急いで来たみたいで、少し息を切らしてる。
「あ、もう模擬戦始まっちゃってる!? 私も手伝おうと思ったんだけど・・・」
「今はスターズの番」
「本当はスターズの模擬戦も私が引き受けようと思ったんだけど・・・」
だからそんなに急いでたんだ。フェイトだって捜査とかで大変なのに・・・。
ていうか私が一番仕事してない・・・かも。
「ああ、なのはもここんとこ訓練密度濃いーからな、少し休ませねぇと」
ヴィータの言うとおり、なのはは最近結構ハードなスケジュールを組んでるんだよね。
なのはもなのはで結構無茶をするものだ。
「なのは、部屋に戻ってからもずっとモニターの向かいっぱなしなんだよ。
訓練メニュー作ったり、ビデオでみんなの陣形をチェックしたり」
「なのはさん、訓練中もいつも僕たちのこと見ててくれるんですよね」
「本当にずっと・・・」
昔はよく無茶をする突進少女だったのに、今は誰からも尊敬される先生、か。
変われば変わるものだよ本当に。
「お、クロスシフトだな」
ヴィータの言葉でみんなの意識が模擬戦へと移る。
お願いだから下手な無茶はしないでよ、ティアナ、スバル。
「クロスファイア・・・シューット!!」
なのはに向けて放たれた誘導弾なんだけど、
「あ? なんかキレがねぇな」
「コントロールはいいみたいだけど・・・」
ヴィータやフェイトの言うとおりコントロールは気にするほどのものじゃないけど、スピードとかのキレがいつもより弱い。
「いや、それにしたって・・・」
ヴィータたちの声を聞きながら、ティアナたちの模擬戦に集中する。
放たれたティアナの誘導弾はなのはの飛行の軌道を制限している。
そしてウイングロード上のスバルが真正面からなのはへと疾走していく。
――ディバインシューター――
それを捉えたなのはの周囲にいくつもスフィアが展開されて、スバルを迎撃するために放たれた。
でもスバルは回避じゃなくて防御を選択、そのままなのはへと突撃した。
何だろう、ここにきて一気に不安になった。
スバルの拳をラウンドシールドで防ぎ、そして弾き飛ばしたなのはを見ながらそんなことを考える。
「こらっスバル! ダメだよ、そんな危ない軌道!」
弾き飛ばされている最中のスバルへ、なのはからのありがたいお叱りの言葉が飛ぶ。
その間もティアナの誘導弾を難なく回避するのはさすがだ。
「すいません! でもちゃんと防ぎますから!!」
何とかウイングロード上に着地できたスバル。
全く危ないことをするものだから落ち着いて見ていられない。
「あれ、ティアナはどこ?」
そこで私はティアナの姿がないことに気づく。辺りを見渡していると、
「あそこだよシャル」
ルシルが視線を向けた場所にティアナは居た。
ティアナは“クロスミラージュ”を構え、砲撃魔法の体勢に入っていた。
「砲撃? ティアナが!?」
フェイトが驚きの声を上げた。
私は構わずスバルの行動に何かを感じ取ってスバルへと視線を向けた。
「でえぇぇりゃああぁぁぁッ!!!」
――ナックルダスター――
スバルはウイングロードを疾走し、再度なのはへと唸りを上げる“リボルバーナックル”の一撃を与えようと突撃した。
もちろんなのはが黙って見ている訳もなく、低威力のディバインシューターをいくつかスバルに放つ。
スバルはそれを全弾紙一重でかわして“リボルバーナックル”で殴りつける。
――ラウンドシールド――
けどその一撃もなのはのシールドで防がれるんだけど・・・これが狙い?
スバルがなのはの足止めに徹して、そしてティアナの砲撃でなのはを撃墜・・・?
でもその考えは違っていた。
「あっちのティアさんは幻影!?」
キャロの言うとおり離れたビルの屋上で“クロスミラージュ”を構えていたティアナが消失した。
その瞬間、ルシルの雰囲気が一気に変わった。
みんなは気づいていないみたいだけど・・・これは・・・落胆?
「本物のティアさんは!?」
エリオの疑問よりルシルの視線の先が気になった私は同じ方を見た。
そこに居たのは、ウイングロード上を駆けるティアナの姿。
「まさか・・・あの子たちがやろうとしていることって・・・・」
ティアナはウイングロードを駆け上がりながらカートリッジを二発ロードし、“クロスミラージュ”の銃口部分から魔力刃を生み出した。
なのはの真上まで駆けて行くということは、上空からの勢いでなのはの障壁を斬り裂く、ということを狙っているんだろう。
「・・・ダメ、それはダメだよティアナ・・・」
やっぱり止めておけばよかった。
あの二人は確実になのはの教導から外れた行動を取ろうとしている。
センターガード――つまりは中衛であるティアナがフロントアタッカーのスバルを囮にして、自らも近接攻撃へと移る戦法。
「・・・レイジングハート、モード・リリース」
ささやき程度の小ささだっていうのに、なのはの声が私たちのところまで届いた。
その声に含まれているのはルシルと同じような落胆、それに悲しみや・・・怒り。
上空から仕掛けてきたティアナを見もせずに“レイジングハート”を解除した。
その次の瞬間、なのはたちのいるところに大きな爆発が起こり、煙を上げた。
「なのはっ!?」
そして未だ煙が晴れきっていない中、
「おかしいなぁ、二人ともどうしちゃったのかな・・・?」
なのはの声が聞こえた。
煙が晴れてウイングロード上に居たのはスバルの拳を左手で受け止め、“クロスミラージュ”の魔力刃をティアナごとフローターを掛けて右手で支えているなのはたちの姿。
「頑張ってるのは分かるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ?」
静かに紡がれていくなのはの言葉。
「練習のときだけ言うことを聞いてる振りで、本番でこんな無茶するんなら練習の意味・・・ないじゃない。ちゃんとさ、練習どおりやろうよ」
ティアナとスバルはもうどうして良いのか分からないんだと思う。
完全に今のなのはの雰囲気に呑まれてしまってる。
「ねぇ、私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」
その言葉を聞いたティアナは魔力刃を消して後方のウイングロードまで大きく飛んだ。
そしてなのはに“クロスミラージュ”の銃口を向けるという行動を取った。
「あたしはっ! もう誰も傷つけたくないからっ! 失くしたくないからっ!」
ティアナが泣き叫びながら感情をなのはにぶつける。
「だから・・・強くなりたいんですっ!!」
それを聞いたなのははティアナへと指先を向けて足元に魔法陣を浮かび上がらせる。
待って、ちょっと待ってよなのは・・・。
「少し、頭を冷やそうか・・・クロスファイア――」
「ああああああッ!!!! ファントムブレイ―――」
「――シュート」
ティアナの砲撃より先になのはの魔法が放たれる。
しかもそれはティアナの魔法・・・。
「ティア―――バインドっ!?」
なのはの一撃を受けたティアナを見てスバルが駆け寄ろうとするけど、それより先になのはがスバルへとバインドを掛けた。
「じっとして、よく見てなさい」
「っ、なのはさんっ!!」
再度なのははクロスファイアを、しかも砲撃のように集めて放とうとしている。
「ティアナっ! 待って、なの―――ルシル!?」
私もなのはを止めようとしたところで、ルシルに右手を掴まれて身動きが取れなくなった。
そして容赦なくティアナへとなのはの砲撃が放たれた。
「なんで・・・なんで止めたの、ルシル!!?」
「ちょっと待てフライハイト、ティアナは無茶をし過ぎたんだ。
一度自分たちがどれだけ危険なことをしたかを思い知らなくちゃいけねぇ」
無言のルシルに代わってヴィータがそう答えた。
分かってる、分かってるけど・・・だからって撃墜なんてしなくてもいいじゃない。
「ティアナはこのままだとかつてのなのはや私のようになってしまう。
無茶をして撃墜されて・・・そしてみんなに多大な迷惑をかける・・・」
ルシルは八年前のあの日のことを言っているのだとすぐに分かった。
でも事情が分からないエリオとキャロは黙って私たちを見ている。
「・・・ティアナを医務室に運んでくる。私も一応医療班だしな」
ルシルはそう言って、ティアナのもとへと向かった。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「なのは」
スバルに睨まれ続けているなのはのもとへと降り立った。
なのははスバルとティアナから一切視線を逸らさずにいた。
「私がティアナを医務室へと運ぼう」
「・・・ルシル君。うん、お願い」
なのはの許可も貰ったことで倒れ付しているティアナと、傍にいるスバルのもとへとゆっくりと歩く。
「スバル、君も一緒に医務室へ来るんだ」
「・・・・はい」
ティアナを横にして抱えながらスバルにもついてくるように言う。
スバルは涙を袖で拭って大人しくついてきてくれた。
『なのは』
ここを去る前に言っておきたいことがあったから、念話でなのはに語りかける。
『っ、何かな、ルシル君?』
『一度フォワードたちと話し合うことを提案する。
君の考え、教導の意味、それらを一度真正面から話し合ったほうが良いかもしれない。
この子達を、かつての私となのはのようにさせないためにも、な』
このまま放っておいたら、ティアナはまた無茶をするだろう。
そんなことを続けてしまうようなことになったら、いつか本当に実戦で撃墜されてしまうことになりそうだ。
『そう・・・だね。うん、そうする。ごめんね、ありがとう』
そうして隊舎へと戻った私たちはシャマルのいる医務室へと向かっていた。
というか視線が痛い。女性隊員からは妙な視線、男性隊員からは負の視線が・・・。
それらを無視して医務室へと急ぐ。
「あの・・・ルシルさん、ちょっと・・・聞いてもいいですか?」
「私に答えられることなら」
隣を歩くスバルが遠慮がちにそう口にした。
「あたしたちは・・・間違っていたんですか?
確かにあたしとティアは危ないことをしたと思います。
でも、自分なりに強くなろうとか・・・どんな状況でも何とかしようって。
そのための努力をしようとすることはダメなことなんでしょうか?」
スバルたちからしてみれば、その努力をなのはに否定されたと思っているのだろう。
だが違う。なのはだってそれを認めてくれるはずだ。
「その思いは確かに間違ってはいない。
間違ってはいないけど、でも・・・いや、そこはなのはに語ってもらおう」
これはなのはの問題でもあるから私が解決させてはいけない。
私が途中で言葉を切ってしまったためにスバルが若干沈む。
そして医務室へと着き、ティアナとスバルをシャマルに預けて医務室をあとにした。
というかシャマル、いい加減結婚ネタを引っ張るのをやめていただきたい、と思ったり。
そして時間は夜。
なのはに呼ばれたフォワード陣や私たちはロビーへと集められた。
私がなのはに提案した話し合いをするためだろう。
「こんな時間に集まってもらってごめんね。
でもどうしても今日のうちに話しておきたいことがあったんだ」
なのはは一度フォワード、とくにティアナとスバルを見てそう告げた。
そしてなのはの隣に座るシャーリーがキーボードを叩くのをやめ、なのはに視線で合図した。
なのはもそれに視線で応え、シャーリーが再度キーボードを叩き、私たちの前にモニターを出した。
語り部はシャーリーが担当するようだ。
「昔ね、一人の女の子がいたの。その子は本当に普通の女の子で、
魔法なんて知りもしなかったし、戦いなんてするような子じゃなかった」
モニターに映し出されたのは十年前のなのは。そして日常の何てことはない風景だった。
それを黙って見ている一同だが、なのはだけは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「友達と一緒に学校へ行って、家族と一緒に幸せに暮らして、そういう一生を送るはずだった。だけど、事件が起こったの」
日常から非日常の始まりを告げる出会い。
ユーノと“レイジングハート”、そして魔法と出会ったシーンが映し出された。
私とシャルは話には聞いていたが実際に見るのは初めて・・・それよりいつ撮ったんだこれ?
「魔法学校に通っていたわけでもなければ、特別なスキルがあったわけでもない。
偶然の出会いで魔法を得て、偶々魔力が大きかったってだけのたった9歳の女の子が、魔法と出会ってからわずか数ヶ月で命がけの実戦を繰り返したの」
“ジュエルシード”探索での出来事が映し出されていく。
そこにはシャルとなのはの出逢い。そしてフェイトと私との戦いも含まれていた。
「え? フェイトさんとルシルさん・・・ですよね?」
「そんな・・・どうして四人が戦って・・・?」
キャロとエリオの疑問も当然といえば当然、か。
今の関係を見れば信じられないようなことをしているな確かに。
スバルとティアナも同じ思いなのか口を開けて驚いている。
「うん、当時のフェイトちゃんの家庭環境がかなり複雑でね。
私とシャルちゃん、そしてフェイトちゃんとルシル君はあるロストロギアを巡って敵同士・・・だったんだ」
エリオとキャロは名前の挙がった私たちを不安そうな目で見回した。
それには苦笑して応えることが出来なかった。でも今は、知っての通り仲が良いぞ。
「・・・この事件の中心人物はテスタロッサの母、プレシア・テスタロッサ。
その名をとってプレシア・テスタロッサ事件、あるいはジュエルシード事件と呼ばれている」
次々とモニターに映る映像が変わっていく。
なのはとフェイトの戦い、私とシャルの戦い・・・そしてフォワードの子たちを驚愕させたのはなのはの最大砲撃スターライト・ブレイカーの一撃だった。
「集束砲!? こんな大きな・・・!!」
「9歳の・・・女の子が・・・」
「ただでさえ大威力砲撃は体に負担がかかるのに・・・!」
「・・・・」
三者三様の驚きを口にした。
唯一ティアナは無言だったが、思っていることは同じだろう。
「そうして私とフェイトちゃん、シャルちゃんとルシル君の戦いは無事・・・て言うのもちょっとおかしいけど終わって、こうしてみんなと友達になれた」
なのはが少し照れながら私たちを順に見た。
そして映し出されたのは別れの日の・・・なのはとフェイト。
まぁ私とシャルは映っては居ないがちゃんといるんだぞ?
「その後もな、さほど時も置かず戦いは続いた」
シグナムの言葉を合図として、別れの感動シーンからヴィータの襲撃シーンへと変わった。
「あたしらが深く関わった闇の書事件」
「襲撃戦での撃墜未遂と敗北」
なのはがヴィータの一撃を受けて弾き飛ばされた映像が流れる。
「それに打ち勝つために選んだのは、当時はまだ安全性が危うかったカートリッジシステムの使用」
今度は“闇の書”との戦闘が映し出される。
シャルとの連携で食らいついているが、それでも足りないために負担がハンパじゃないエクセリオンモードを起動させるなのはの姿。
私もあの場に居れば、なのはにだけ負担をかけずに済んだものを・・・。
今となっては悔やんでも覆すことは出来ない過去の話。
「体への負担を無視して、自身の限界値を超える出力を無理矢理引き出すフルドライブ、エクセリオンモード・・・」
もうフォワードの子達は顔が青い。
あまりのなのはの無茶ぶりに思考が追いついていっていないようだ。
「誰かを救うため、自分の思いを通すための無茶をなのはは続けた。
だがそんなことを繰り返して、体に負担が生じないはずもなかった」
ここでようやくシグナムは言葉を切って、なのはへと視線を向けた。
“ここからはお前の番だ”と言うかのように、だ。
「・・・あれは私が入局して二年目の冬」
映し出されたのは今でもハッキリと覚えている私となのはの撃墜の現場。
雪がチラつき、私の知らしめよ、汝の忠誠によってバラバラに破壊し尽くされた未確認体の残骸――今はガジェットという名だが――が転がる、白い雪と黒い煙の世界。
さすがにボロボロになっている私となのはの姿は映し出されなかった。
「ヴィータちゃんやルシル君たちとの異世界での捜査任務。
その帰り、私は・・・体を酷使し続けたその無茶の代償として、襲撃してきた未確認体によって撃墜された・・・そして、その結果がこれ・・・」
包帯が所々に巻かれ、酸素マスクを付けられたなのは。
フォワードの子たちは息を呑み、言葉を失った。
「私一人だけならまだよかった。でも私のその無茶の所為で、ルシル君にも迷惑をかけてしまったんだ・・・」
なのはとシャーリーが私をチラっと見たので、それに応えるように頷いた。
そしてなのはの映像から私の映像へと切り替わる。
「「「「っ!」」」」
なのは以上の包帯を巻かれ、様々なチューブを体のあらゆる所に付けられた私の姿。
何人もの医者がベッドを囲んで治療を必死に施している。
「まぁ私は自分の持つ治癒魔法で二週間で完治させたから大して問題じゃない。
問題があったのはなのはの方だった。私と二人っきりで会えばいつも謝りたおして、シャルたちの前では“迷惑をかけて、無茶をしてごめんなさい”っていつも笑っていた」
なのはの容態は私の治癒魔法で治せるレベルだったから、治すか?と訊いてみたが、なのはは自分の過ちの証だからと言って聞かず、自力でここまで立ち直った。
私の話も終わったことで、なのはへと視線を移す。
みんなもそれにつられて一斉になのはへと視線を向ける。
「命を懸けて戦わないといけないとき、無茶をしないといけないときは確かにあるよ。
でもねティアナ。今更こんなことを言うのもなんだけど、あの時は自分の命やみんなの安全を全て懸けてでも無茶をしないときじゃなかったと思うんだ」
「っ・・・!」
なのはの言葉を受けてティアナが震える。
思い出しているのだろう、自分がミスショットを撃った場面を。
「ティアナ。お前の訓練中でのあの技は一体誰のための、何のための技だ?」
シグナムの問いに、ティアナは俯いて答えを口にはしなかった。
まぁすぐにでも答えが出るわけでもないし口にするものでもないな。
「私は・・・・みんなに無茶をしてほしくない。私みたいになってほしくないんだ」
「みんな、なのはさんはみんなに無茶をしなくてもいいように、絶対絶対みんなが元気で帰ってこられるようにって、本当に丁寧に一生懸命考えて教えてくれてるんだよ・・・」
†††Sideルシリオン⇒なのは†††
話も終わってみんなが解散していく中、私はティアナを呼び止めて隊舎の外へと来ていた。
隊舎すぐの防波堤に二人して足を出して座る。
「・・・なのはさん・・・その、すいませんでした。
あたし、何も知らずに・・・あんな・・・」
先に口を開いたのはティアナの方だった。
無茶をすることがどれだけ危ないか分かってくれたみたいでよかった。
お話の提案をしてくれたルシル君には感謝しないといけないな。
「じゃあ分かってくれたところで少し叱っとこうかな。
あのね、ティアナは自分のこと凡人で射撃と幻術しか出来ないって言うけど、それ間違ってるからね。
ティアナも他のみんなも原石の状態。凸凹だらけだし本当の価値も分かりづらいけど、だけど磨いていくうちにどんどん輝く部分が見えてくる」
そう、全てはこれからなんだ。
だからゆっくりと丁寧に育てて生きたい、この子たちを。
何ものからも害されない強く優しいそんな人に・・・。
「エリオはスピード、キャロは優しい支援魔法、スバルはクロスレンジの爆発力。
三人を指揮するティアナは射撃と幻術で仲間を守って、知恵と勇気でどんな状況でも切り抜ける。
そんなチームが理想系で、ゆっくりだけどその形に近づいていってる。
模擬戦でさ、自分で受けてみて気づかなかった?」
それを聞いたティアナは少し引いちゃった。
「ティアナの射撃魔法ってちゃんと使えばあんなに避けにくくて当たると痛いんだよ?」
ティアナもその場面を思い出したみたいで、ようやく自分の魔法のすごさが分かったみたい。
「一番魅力的なところを蔑ろにして、慌てて他のことをやろうとするから危なっかしくなっちゃうんだよ、って教えたかったんだけど・・・」
久しく忘れてた、話し合うということ。
昔はそれでよくぶつかってたのに、大人になると忘れちゃうんだね。
「でもね、ティアナの考えたこと間違ってはいないんだよね」
“クロスミラージュ”の一挺を手にとる。
ティアナの考えが正しいものだって教えておいてあげないとね。
「システムリミッター、テストモードリリース」
≪yes≫
「命令してみて、モード2って」
“クロスミラージュ”をティアナに返してそう指示する。
ティアナは受け取って少し戸惑いながら“クロスミラージュ”を構えた。
「モード・・・2」
≪Set up. Dagger Mode≫
ティアナの声に応えた“クロスミラージュ”から魔力刃が伸びる。
「これ・・・」
「ティアナは執務官志望なんだよね?
ここを出て執務官を目指すようになったらどうしても個人戦が多くなるし、将来を考えて用意はしてたんだ」
再度“クロスミラージュ”のリミッターをかけなおす。
そしてティアナが泣き出してしまったので優しく引き寄せる。
「クロスもロングももう少ししたら教えようと思ってた。
だけど出動は今すぐにでもあるかもしれないでしょ?
だからもう使いこなしてる武器をもっともっと確実なものにしてあげたかった・・・・。
だけど私の教導地味だからあんまり成果が出ていないように感じて苦しかったんだよね?
ごめんね、ティアナ」
私も早く気づいてあげればよかった。本当にごめんね。
「うわぁあぁぁ……ああ……なの、は……さん……ごめんな、さ、い……ごめんなさい……」
これでやっと始まり・・・なのかな。
それから少ししてティアナを見送ってから、私も明日のために休むことにした。
そして翌日。
朝日が眩しい中、私は今日の訓練メニューを組み立てている。
傍には訓練服に身を包んでいるヴィータちゃんとルシル君、そして制服姿のシグナムさんの三人。
「しかし、教官っつうのも因果な役職だよなぁ。
面倒な時期に手ぇかけて育ててやっても教導が終わったら、あとはみんな勝手な道を行っちまうんだから」
キーボードを叩く私の背後からヴィータちゃんが不平を洩らした。
私は一度キーボードを叩く指を止めて、ヴィータちゃんへと振り向く。
「まぁ一緒に居られる時間があんまり長くないのはちょっと寂しいけどね。
ずっと見ていられるわけじゃないから、一緒に居られる間は出来る限りのことを教えたあげたいんだ」
そう。何があっても、誰が来ても、あの子達を絶対に墜とさせないために。
私の目が届く間はもちろん、いつか一人でそれぞれの空を飛ぶようになってからも・・・ね。
「あ、そうだ。ルシル君、ありがとね」
「・・・ん? ああ。それにしてもあの子たちの将来が本当に楽しみで仕方がない。
いつか君やみんなが育てたあの子達と思いっきり戦ってみたいな」
ルシル君が自分から戦ってみたいなんて珍しいこともあるな。
「えええ? ルシル君って思いっきりって反則だから・・・さすがにキツいよ」
「なら君たちも混ざれば、いい戦いになるんじゃないか?」
「む、それは甘く見られてるね。いいよ、いつかきっとルシル君だって倒してあげるんだから♪」
「いい機会だ。その時は私も参加させてもらおう」
「はは、そのときは私の本気を見せてあげよう」
「んだよ、セインテストまでバトルマニア病発症かよ」
そんなやり取りがすごく面白くてつい笑ってしまう。
でも、そんな笑い話はそう遠くない未来で現実となってしまう。それも最悪の形として。
このときは私もみんなも・・・きっとルシル君ですら知る由もなかっただろう。
「「「「おはようございまーす!!!」」」」
みんなが元気よく挨拶しながら駆けてくる。
「おはよう、みんな」
さぁ今日も一日頑張りますかっ!!
ごめんユーノ、少ない出番を切り捨てて・・・。
今回はアニメの8話と9話を繋げました。
そのためにいろいろと省いてしまったんですが・・・いいですよね?
あとスカリエッティの航空戦力調査、これも省きました。
何故ならルシルの正体と得意とする戦術を知っているからです。
なのはたちが出撃するまでもなく隊舎から撃ち落せますからね。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。