3rd Episode:プロローグⅡ
-―新暦73年4月 時空管理局本局
†††Sideルシリオン†††
「シャル、君だけでもこのまま管理局に残っていいんだぞ?」
「ううん。ルシルにだけ負担は掛けられないから。
それに大事な弟の面倒を見るのはお姉ちゃんの務めだしね」
俺と義姉シャルロッテは、総務統括官であるリンディさんの居る総務部へと向かっている。
二人が手にしているのは辞表。これから慣れしたんだ管理局を辞めるために行くのだ。
「俺一人でも十分だ。負担なんてものはそもそも契約執行中の界律の守護神にはない。
それに本契約ではない以上、態々二人で出向く必要もないからな」
辞職する最大の理由は、抑止力である俺とシャルの行動範囲が次元世界に及んだことでの、この次元世界に散る“界律”との契約数だ。
管理局に入って二年目くらいしてから様々な“界律”からの契約要請が来た。
ここ最近までは休日などを利用してシャルと二人で分担して何とか捌いていたのだが、管理局での仕事の傍らではもう限界なまでの数になってしまっていた。
これ以上は管理局での活動に支障が出ると判断した俺は、独り管理局を辞めるために辞表を書いていたのが、それをシャルに発見され、それはもう凄まじいプロレス技のコンボで撃沈されたのだ。
それから二人して相談。結局はシャルも辞めると言い出し、今に至る。
「私一人だけ残って楽しんじゃいられないよ。
それに、ルシルだって本当はこのまま残りたいんでしょ?」
「どうだろうな? 確かになかなか楽しめたと思うが・・・」
そうだな。残りたいという思いは小さいが、フェイトたちと離れるのは少し辛いかもな。
さすがの俺もここまであの子達と付き合えばさすがに名残惜しく思う。
「ふ~ん。顔にはまだ居たいって書いてあるけどね」
シャルが上目遣いで俺を見て笑っている。
そこまでハッキリと顔に出るのも俺としては問題だな。
「ああ認めるよ。俺はまだあの子達と一緒にいたい。
だがもう限界だ。管理局と守護神、両立することはもう出来ない」
「・・・うん」
だからこそもう管理局にはいられない。
ようやく総務部へと着き、リンディさんの姿を探す。
しかし見当たらないため、近くにいた局員へと聞いてみた。
「すみません。ハラオウン総務統括官はどちらに?」
「あぁこれはセインテスト一等空佐、フライハイト三等陸佐、お疲れ様です。
ハラオウン総務統括官なら、休憩所の方でお休みになっていると思います」
「そうか、ありがとう」
局員に礼を述べて総務部を後にして近くの休憩所へと向かう。
「ルシル。あそこに居るよ」
シャルが指差すところに目を向けると、リンディさんがお茶を幸せそうに飲んでいた。
俺たちは休憩中のリンディさんのもとへ向かう。
「ハラオウン総務統括官、今お時間よろしいですか?」
シャルと二人して敬礼をし、時間の余裕があるか確認する。
休憩中だからこその確認だ。まぁリンディさんの様子からして必要ないとも思うが。
「あらルシリオン君、シャルロッテさん。ええ、大丈夫よ。どうぞ座って座って♪
それより私相手にそんな堅苦しい挨拶は抜きでいいのよ?」
リンディさんに促されるままに椅子へと座り、「お茶はいかが?」と聞かれたが、それはもう丁重にお断りした。
「それで今日はどうかしたのかしら?
あ! もしかしてフェイトとのお付き合いの許可でも貰いに来たのかしら♪」
嬉しそうに喋るリンディさんだが、俺たちの話はそれじゃない。
というか、それならわざわざシャルを連れてきたりしない。
「いえ。お渡ししたいものがありましたので」
「私に渡したいもの? 何かしら? 誕生日でもないし・・・」
シャルと同時に辞表の入った封筒をリンディさんとの間にあるテーブルの上に置く。
それを手にして、リンディさんの表情が見惚れてしまう程の笑顔から、一気に驚愕の色へと変わった。
「辞表!? ちょ、これはどういうことなのルシリオン君、シャルロッテさん!?」
「そのままの意味です」
「今日本日を以て、時空管理局を辞めさせていただきたく来ました」
「え? うそ、よね? だってこんな、え? 急すぎるわ」
リンディさんは完全に混乱していた。
だが俺とシャルの言葉を聞き、椅子へと座り直してため息を吐いた。
それからお茶を飲んだことで少しは落ち着いたようだ。
「お話を、理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
少し声が震えているようだが、そこは気にしない方がいいのだろう。
「それが私たちにとって必要なことだからです。
すいません。今までお世話になっておきながらこのようなこと・・・」
シャルも少し声が震えている。やはりシャルだけでも残させるべきだろう。
「シャ――「ルシル。これはもうあなただけの問題じゃないから」――・・・判った」
そう言われたらもう何も言うことは出来ない。
シャルの決意もきっちりと受け取っておこう。
「考え直せないのかしら? あなたたち二人は、局内でもかなり重要な子たちなの。
空戦SSランクのルシリオン君、陸戦SSランクのシャルロッテさん。
あなたたちの力を必要としている部署は本当に多いのよ」
「申し訳ありません。そのことについては十分に解っているつもりです。
ですが管理局を辞さなければならない理由がどうしてもあるのです。
詳しくは話せないのですが、それが俺とシャルにどうしても必要なんです」
「リンディさん、本当にごめんなさい。
どうか管理局を辞めることを許してください。お願いします」
椅子から立ち上がって二人して頭を下げる。
今の休憩所の空気はかなり重く、入ってきた局員はすぐさまここを後にしていく。
少し悪い気もするがそこは許してもらおう。
しばらく沈黙が続き、ようやくリンディさんが口を開いた。
「・・・・分かりました。それがあなたたちに必要のことなら認めます。
正直止めたいのだけれど、聞かないのでしょ?」
黙って頷くことしか出来なかった。
「総務統括官として、あなたたちの辞表を正式に受理します。
本当によろしいのね? ルシリオン君、シャルロッテさん」
「「はい」」
返事をしてもう一度リンディさんに頭を下げる。
リンディさんは俺とシャルの頭を抱いて優しく撫でてくれた。
「「お世話になりました!!」」
この日、俺とシャルは8年間勤めた時空管理局を辞めた。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
リンディさんと別れたあと、しばらく本局内を歩いた。
ここへはあまり来たことがないけど、知り合いはいるために挨拶回りをしているのだ。
本局の挨拶回りが終わったら今度はミッド地上へと赴き、また挨拶回りとなる。
でも私とルシルは、なのはたちのいる部署にだけは行けなかった。
「はぁ、リインフォースに偉そうに言っておきながら、自分のことになるとダメね」
かつての冬の日、リインフォースに言ったことを思い出して反省。
別れをしないと逆に悲しみが多きくなる、か。
「別に永遠の別れとはならないから必要ないんじゃないか?
そういう別れの挨拶は、俺たちの本契約が決定してからでもいいはずだ」
「そうなんだけどねぇー」
それはそれで何か嫌だな~。そういうのはあまり考えたくないよ。
「ルシル! シャル!」
こんな人の居るところで私とルシルの名前を叫ぶのはどこのどいつだ?と思い、声のした方へと視線を移すと、そこにはユーノが走っている姿があった。
そして私たちのところまで全力疾走してきたユーノは、私たちの前で息を切らせて咽てしまっている。
「はぁはぁはぁ・・・どういうことだよ!!
クロノから聞いたぞ! 二人が管理局を辞めるって!!」
リンディさん、まさかみんなに教えてしまっているんじゃ・・・?
送別会は必要ないですから、なのはたちには連絡しないでくださいって言ったのに・・・。
「まずは落ち着けユーノ。こんな人のいるところでそんな大きい声を出すな」
「これが落ち着いていられるか! なんで黙って・・・相談してくれなかったんだよ!! 僕たちは友達だろ!!」
「ユーノ、まずは場所を移そう? さすがにここだと迷惑になるよ」
「はぁはぁはぁ・・・はぁ、分かった」
近くにあった飲食店へと入り、私たちが辞める経緯を話した。
もちろん“界律の守護神”なんて単語と、本当のことは話せなかったけど。
「本当に辞めるんだな。でも二人の決意はもう分かっかたら僕は止めない。
でも一言くらいは欲しかったよルシル、シャル」
「「ごめん」」
店を出て、ユーノが無限書庫のあるエリアへと戻っていくのを私たちは黙って見ていた。
やばい。大声で泣いてしまいそうだ。
もしここでなのはたちと会えば、私は泣く自信がある。ううん、確信だ。
おそらくリンディさんからなのはたちへと連絡がいっているはずだ。
泣く姿はこれ以上は見せたくない。だけど・・・
「会い・・たい。やっぱり会いたいよぉ・・・」
胸が苦しい。永遠のお別れじゃない。
だけど、なのは達と離れることがこんなに辛い。苦しい。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
「なんで・・・なんでシャルちゃん!! ルシル君!!」
私は今、シャルちゃんの通信端末へと何度もかけながら本局内を走っている。
事の発端はエイミィさんからのメール。
内容は“シャルちゃんとルシル君が管理局を辞めた”というものだった。
もちろん最初は信じなかった。でもリンディさんに確認すると、シャルちゃんたちから受け取った辞表をすでに受理したとのことだった。
「ごめんなさい!!」
廊下の角で他の局員とぶつかりそうになった。
私は謝罪の言葉を口にしながらも止まらずに走り続ける。
「なんで、何で繋がらないの!? シャルちゃん、ルシル君・・・どうして!?」
「なのは!」
「なのはちゃん!」
一度止まって端末を操作しているところにフェイトちゃんとはやてちゃんが姿を現す。
二人とも私と同じように端末を手に、肩で息をしながら私のもとへと走ってきた。
どうやらフェイトちゃんたちもシャルちゃんたちを探しているみたいだ。
「なのは、エイミィからのメール見た!?」
「うん! リンディさんはもうシャルちゃんたちの辞表を受理したって!」
「なんで・・・シャルちゃんとルシル君はこんな黙って決めるん!?」
私たちの声に局員の人たちが驚いて私たちを見る。
さすがに恥ずかしかったので場所を移した。
「本局内に居るのは間違いないみたい」
フェイトちゃんが少し震えた声で教えてくれた。
「今、本局に居るシャマルとザフィーラにも捜してもらえるよう頼んだから」
はやてちゃんが端末を畳んで、両手で包み込むながらため息を吐いた。
私もさっきからシャルちゃんとルシル君の端末に交互に掛けているんだけど繋がらない。
「ダメ、繋がらない。何でシャルちゃんとルシル君、黙ってこんなこと?」
「酷いよ。何も相談してくれないなんて。ルシルとシャルのバカ」
「私の作る部隊に協力してくれるって言っとったのに」
シャルちゃんとルシル君のことを考える。
今思えば、最近のシャルちゃんとルシル君の行動は少し不自然だったと思う。
休日が重なれば絶対に会っていたのに、ここ最近は全く会っていない。
それによく二人でどこかへと出掛けていたのも分かっている。
でもそれは遊びとかじゃなくて、何か重要なことだということも何となく気づいていた。
もしかしたらそれに何か関係しているんじゃないかって思うけど何も聞いていない。
思考の最中、突如鳴り出した通信端末に驚きながらもコールを受ける。
「ユーノ君からだ。もしも・・・え!? うん! そこなら近いからすぐだよ!
うんうん! ありがとうユーノ君!!」
「まさか・・・!」
「うん! シャルちゃんとルシル君の居場所が分かった!」
「なら急がなあかんな!!」
シャルちゃんとルシル君がいるという区画へと私たちは全力で走った。
†††Sideなのは⇒フェイト†††
ユーノから教えてもらった区画へと来た私たちはルシルたちを捜す。
はやてもシャマルたちに連絡をとって、この区画に呼び寄せたとのことだ。
「・・・・いた!!」
なのはが指を指して叫ぶ。私とはやてもそちらへと視線を向ける。
そこは局員の憩いの場としてある公園だった。
そしてその公園に、確かにルシルとシャルの二人の姿があった。
私たちは急いで二人のもとへと走った。
それに気づいたシャルも私たちのもとへと走ってきた。
「なのは! フェイト! はやて!」
「「「うわぁっ?」」」
全力疾走で飛び込んできたシャルを、私たちは受け止める。
その場に倒れこむ私たち。それを見ていた他の局員たちがクスクス笑っている。
「おいおいシャル。今のは危なすぎだろ」
ルシルがゆっくりと歩み寄ってきた。
私は立ち上がってルシルの真ん前へと立ちはだかる。
「どうして何も相談しないで辞めたの?」
今、私の中にあるのは怒りに近い悲しみだ。
確かに最近の私たちは離れ離れが続いてきたけど、この仕打ちはいくらなんでもあんまりだ。
だから私は半ば睨むようにルシルを見据える。
「すまなかった。だが初めから辞めると決めていたから、相談とかは必要ないと思った」
「でも! それでも話して欲しかったよ!!」
「そうや! 私らがどれだけ心配したか!!」
なのはとはやても私のようにルシル君を睨む。
みんな身長の高いルシル君を見上げるような格好となっている。
「待って! ルシルだけの責任じゃないよ! 私も同罪だから!」
シャルが背後から叫ぶ。それを聞いた私たちは冷静になり、ルシルだけを責めていたことに気づく。
「「「ごめんなさい」」」
「責められるようなことをした俺が悪い。だから謝る必要はないよ」
三人でルシルへと謝ると、ルシルは私たちの頭を撫でて微笑んだ。
やっぱりいくつになってもルシルに頭を撫でられるのが一番気持ちいい。
「ごめんねなのは、フェイト、はやて。
黙って辞めたことには本当に悪いと思ってる。それは本当だよ。
でも、これはどうしても必要なことなんだよ」
シャルは俯いたまま囁くようにしてそう口にした。
辞めることがシャルたちにとって必要なことなんて意味が分からない。
「何で辞める必要があるの? それは管理局にいたら出来ないことなの?」
「そうや、一般人にならなあかん理由でもあるん?」
「そうだな。管理局のような組織に入っていると行動が制限されてしまう。
今の俺とシャルにとってはそれがどうしても枷になってしまうんだ」
なのはとはやての疑問にルシルが答える。
そうまでしないと出来ないことが気になったから、今度は私が聞いてみた。
「ルシルとシャルは一体何をしようとしているの?
それって休日にいつも出掛けていたことと関係があるの?」
「そっか、知ってたんだ。そうだよ。私とルシルが別の世界へと行っていたことと関係ある。
私とルシルにはどうしてもやらないといけないコトがあるんだ。
でも休日だけの時間じゃ圧倒的に足りなくなってきたんだ。だから・・・」
「管理局を辞めて、そのやらないといけないコトための時間を作ろうとした」
「うん」
私の質問に答えたシャルがそう話す。
具体的なことはどうしても話せないみたいだけど、犯罪行為じゃないことだけは確かだ。
この二人がそんなことをするわけがないのだから。
「シャルちゃん、ルシル君、もう会えないの?」
なのはの言葉に私は嫌な想像をした。
二度とルシルたちに会えないそんな嫌な想像を。
「そんなわけないだろ。いつかきっとまた会える。
そう何度もここへは帰っては来れないだろうが、それでもこれで最後じゃないのは確かだよ」
「そうだよなのは! 私たちはまた会えるって!
だから少しの間だけお別れ。帰ってきたら「お帰り」って言ってよね!」
「「「うん!」」」
このあとルシルとシャルの送別会が開かれた。
急いで帰ってきたシグナムがシャルに模擬戦を挑んで丸めた雑誌で叩き合ったり、ルシルはシャマルと最後まで仕事の話をして、ヴィータのツッコミを受けて吹っ飛んだり、そんな楽しく騒がしい送別会だった。
そして翌日、ルシルとシャルは静かに私たちのもとから去っていった。
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