貴女に名前を
†††Sideルシリオン†††
“闇の書”より放たれた光神の調停だったが、
「バカな!? 全弾下方に向けての無差別砲撃だと!?」
本来の効果とは違うことに驚愕する。これは予想外にもほどがある。
全方位に放たれるからこそ、地上に向けられる砲撃くらいはシャルでも対処できると思った。
だが全弾下方限定となると、シャルの防御力では全て耐え切ることは出来ない。
「(考えている暇はないな)我が内より来たれ 貴き英雄よ・・・フェンリル!!」
――異界英雄――
「隙がありすぎるなルシリオン」
――氷爆――
「ぁがっ・・!」
エヴァの一撃をまともに受けて瓦礫へと吹き飛ばされる。
フェンリルを顕現させる為の工程を途中で妨害されたため、不完全な形でフェンリルが現れた。
おそらくいつも以上に召喚時間が短いかもしれない。
「マスター!?」
「あっがっ・・・はぁはぁはぁ、やることは・・・解っているな」
駆け寄ろうとしたフェンリルを目で制し、召喚した理由を守らせる。
「了解しましたマスター、ご武運を」
風切り音とともにフェンリルがこの場から去る。
俺は立ち上がり、“闇の書”が召喚した“異界英雄”・エヴァンジェリンとの戦いに戻る。
「信頼を受けているな。ああいうのは大事にしなければ罰が当たるぞ」
「は、はは、大事に・・・か。あの子を一人で待たせている俺には出来ない相談だな」
今なお続いている砲撃の衝撃が俺とエヴァの長髪を揺らす。
しばらくの膠着状態。そして最後の一発が着弾したのを合図として戦闘に入る。
「さぁいくぞ」
――魔法の射手・連弾・闇の85矢――
「ああ来い」
――吹き荒べ、汝の轟嵐――
飛来する漆黒の弾丸を、蒼い竜巻で全弾無力化した。
そのままラシエルをエヴァへと向けて移動させる。
だがエヴァは指先から魔力の短剣を3本作り出し、真っ向から消しに掛かってきた。
「うぐぅぅあああッ!!」
ラシエルが一瞬で吹き飛び、その衝撃は俺にも届く。あまりの威力に声を上げてしまう。
直撃だけは免れたが、もし受けていたらそこで死だっただろう。
『ルシル君聞こえる!?』
このまずい状況の中、エイミィから通信が入った。
『なんです!?』
『結界内になのはちゃんたちの友達――アリサちゃんとすずかちゃんが取り残されてるの!
だから出来るだけ地上に向けて攻撃を撃たないでほしいんだ!』
『な!?』
状況が悪化してしまった。
地上への影響まで考えなければならないとなると、それだけで俺の行動が制限される。
俺はアリサとすずかの心配をしなければならないが、エヴァはその必要がない。
『本当にごめん! 出来れば海上に出て欲しいんだ!』
『海上・・・(場所を移す・・・か。それしか・・・ないな)解りました。場所を移しますから・・・あとのことはお願いします』
『え? どういうこと? ルシル君!?』
通信を一方的に切り、エヴァへと向き直る。
「話は終わったか? なら続きを始めようか」
「・・・一緒に来てもらうぞ・・・エヴァ」
俺とエヴァの間の空間が歪み、人間大の穴が開く。
「なに?」
エヴァと俺自身を“俺の世界”へと引きずり込む。
召喚時間云々と言っている間に、拡大するであろう被害を抑えるための最終手段。
(闇の書の一件が終わるまでに戻って手伝うことが出来ればいいんだが)
そしてこの世界から俺とエヴァの存在が消えた。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「エイミィさん!」
目の前で消えたフェイトがどうなったのか、なのはがエイミィに聞いている。
『フェイトちゃんのバイタル・・・まだ健在!
闇の書の内部空間に閉じ込められただけ! 助ける方法現在検討中!』
無事なのを確認できただけでも十分だ。
なのはもフェイトが無事と分かって一応の安堵の息を吐いた。
私もフェイトの無事に、肩の力を抜く。
「我が主もあの子も、覚めることない眠りのうちに終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢、それは永遠だ」
取り乱していた“闇の書”にはもう迷いの表情がなくなっていた。
「永遠なんてないよ。みんな変わってく。変わっていかなきゃいけないんだ。私たちも・・・あなたも!」
永遠はない、か。そうだよね。それが普通なんだよね。
――無限は肉体を縛り、永遠は魂を縛る。是、ただ苦痛也――
かつて、ルシルが言っていた言葉だ。
永遠なんてただの苦痛。無限なんてただの苦痛。
有限だからこそ、人は前を向いて歩いて行ける。
「そうね。なのはの言うとおり。私たちが、あなたの永遠をぶっ壊す!」
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
「ん・・・? あれ・・・?」
鳥のさえずりで目を覚ます。私はベッドに横になっていた体を起こす。
(ここは・・・? 懐かしい感じがする)
空気がどこか懐かしい。と、私の横から小さな寝息が聞こえた。
そちらへと顔を向けると、そこにいたのは、
「え?」
私と同じ金色の髪をした女の子・・・アリシア?・・・アリシア、だった。
私とアリシアの間には、子犬の姿のアルフまでいた。
混乱は一気にピークに達し、周囲を見渡してみる。
そこでようやくここがどこなのかが分かった。
「ここは・・・(時の・・・庭園・・・なの?)・・・っ!」
扉がノックされた音に驚いてしまう。
そして扉の向こうからとても懐かしく大切な人と大事な人の声が聞こえた。
「フェイト、アリシア、アルフ。朝ですよ」
「そろそろ起きろぉ」
するとその声に反応して起き上がるアリシア。
アリシアは私を見て、「おはようフェイト」そう挨拶してきてくれたけど、言葉が出てこない。
「みんな、ちゃんと起きてますか?」
そう言いながら部屋へと入ってきたのはリニスとルシルだ。
ルシルはカーテンを開けて、リニスはアリシアとアルフに夜更かしの追求をしている。
それにつまらなさそうに答えたアリシアとアルフ。
「早寝早起きのフェイトを見習ってほしいですね。アリシアはお姉さんなんですから」
「姉としての威厳が急落中だぞアリシア」
「むぅ、そんなことないもん」
アリシアはむくれた顔をして、それを見たリニスとルシルは微笑んだ。
どうしてこういう状況になっているのかまったく理解できない。
「あの・・・リニス?」
「はい? なんですかフェイト」
声も見た目も雰囲気からもリニスそのものだ。
だけど本当のリニスはもういない。今度はアリシアへと声をかけてみる。
「アリシア?」
すると不思議そうな顔をして私を見てきた。
アルフもアリシアみたいに首を傾げている。
「なんだ? 今朝はフェイトまで寝呆けているのか・・・?」
「前言撤回ですね」
私以外のみんなが面白そうに笑っている。
「さ、着替えて。朝ごはんです。っとその前にルシルは退室です」
「了解♪」
ルシルが寝室から出ようと歩き出した後、私たちに振り返って、
「みんな急げよ。プレシア母さんがもう食堂で待っているからな」
そんな信じられない言葉を口にしてから、ゆっくりと部屋をあとにした。
「「は~い!」」
私たちはそのあと着替えて、母さんがいるという食堂へと赴いた。
アリシアとアルフが母さんと挨拶を交わして、リニスとルシルは母さんに「嵐か雪になる」なんて言っている。
私が寝ぼけているからって。違う、そうじゃない。だって、あり得ないよ、こんなの。
「ほらフェイト」
リニスに呼ばれた私は、戸惑いながらもゆっくりと柱の陰から出た。
「フェイト、どうしたの?」
母さんが優しい声で私の名前を呼んだ。
「どうも何か怖い夢でも見たらしくて。今は夢か幻かと思ってるらしいですよ」
「フェイト、勉強のし過ぎとか?」
「あり得るぅ」
「アリシアとアルフは勉強のしなさ過ぎだけどな」
「そんなことないも~ん」
「そうだそうだー」
アリシアとアルフのその言葉に、ルシルがそう返した所為でアリシアとアルフが反論、。
何かすごく騒いでいる。それをリニスが止めに入っているとき、母さんがもう一度私を呼んだ。
「フェイト、いらっしゃい」
私は戸惑い、そしてわずかに怯えながらも母さんへと近づいていく。
すぐ傍まで来たけど、母さんの顔を見ることが出来ず俯いたままだった。
そして母さんは私の頬に両手でそっと触れてきたけど、私はそれにさらに怯えてしまう。
「怖い夢を見たのね。でももう大丈夫よ。母さんもリニスもアリシアもルシルも、みんなあなたの傍にいるわ」
「プレシアぁ、あたしも」
ルシルの頭に噛み付いていたアルフが自分もいると口にする。
それを聞いた母さんは「ふふ。そうアルフもね」と微笑んでいた。
そして始まった朝食のひと時、でも落ち着かない。
落ち着けるはずもない。だってこんなことが実際にあるわけがないから。
だって母さんは私にあんなふうに優しく笑いかけてはくれなかった。
アリシアだって、リニスだって今はもういない。
それにルシルもここにいるわけがない。
(それなのに・・・・、あるわけのないはずなのに・・・)
朝食後、みんなで庭園を散歩することになった。
そこは綺麗な緑があって風も優しい場所。静かに流れる穏やかな時間。
母さんがいてリニスがいてアリシアがいてアルフがいて、そしてルシルもいる。
私が願い望んだ時間。何度も何度も夢に見た時間。
そう思うと涙が止まらなくなって、みんなを困らせてしまった。
(やっぱり、嬉しいんだ・・・)
†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††
「そぉらぁぁーーーーッッ!!」
――風牙真空刃――
私とシャルちゃんは市街地に被害を出さないように、海上へと場所を移した。
そしてシャルちゃんと“闇の書”さんが、シャルちゃんの魔法で攻防を繰り返している。
私も手を貸したいけど、二人のその速さについていけずに様子見に徹するしかない。
「はあああぁぁぁーーーーッ!!」
≪≪Leere≫≫
風の刃同士が衝突して辺りに衝撃波が広がる。
「ああもう! 同キャラ対戦じゃあるまいし真似するな!!」
――光牙十紋刃――≪Taufe Kreuz(洗礼十字)≫
シャルちゃんが距離を取って、巨大な十字架の形に輝く斬撃を放った。
私は“闇の書”さんが回避した先の場所を考えて、その場所へと先に砲撃を放つ。
「レイジングハート!」
≪Divine buster. Extension≫
“闇の書”さんは私の砲撃を予測していたのか、最小限の動きで回避した。
そしてそのまま一直線に私へと殴りかかってきた。
私はラウンドシールドを出して防御するけど、いとも容易く砕かれてしまう。
≪Schwarze Wirkung≫
“闇の書”さんの右拳に黒い影が生まれて、そのまま拳打を打ってきた。
咄嗟に“レイジングハート”を構えて防御したけど、その威力に負けてしまって弾き飛ばされた。
「なのは!」
海面へと叩きつけられる前にシャルちゃんが受け止めてくれたけど、それでも衝撃が強くて一緒に海面へと落ちてしまった。
「我が手に携えしは確かなる幻想――」
私とシャルちゃんが海中から脱出したそのときを狙って攻撃を放ってきた。
しかも魔法じゃなくて、ルシル君の魔術の詠唱。
「神技」
≪Ether Strike≫
「エーテル――」
「なのは! 掴まって!――≪Geschwindigkeit Aufstieg≫――全速離脱!」
私はシャルちゃんの手に掴まって、すごい速さで“闇の書”さんの攻撃を回避する。
「――ストライク・・・!」
その攻撃が私たちのいたところに着弾すると、目を開けていられないほどの閃光が生まれた。
光が収まるのが分かって目を開けてみると、海に大きなクレーターが出来ていた。
もし直撃を受けていたらと思うと背筋が凍る。
「危なかった。ルシルの馬鹿、あんなものまで複製されていたなんて」
「やっぱりあれもルシル君の魔術なんだ」
反則なのは“闇の書”さんだけじゃなくてルシル君もだよ。
「それにしても一筋縄でいかないと思っていたけど」
「うん。でも話は通じていそうだからもう少し頑張ろう」
私は“レイジングハート”に新しいマガジンを装填した。
シャルちゃんも“トロイメライ”へとカートリッジを装填している。
「マガジン残り三本、カートリッジ18発。
スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな・・・?」
≪I have a method. Call me "Excellion mode"≫
“レイジングハート”がエクセリオンモードにするように告げてきた。
「ダメだよ! あれは本体を補強するまで使っちゃダメだって!
私がコントロールに失敗したら、レイジングハート、壊れちゃうんだよ!?」
“レイジングハート”のフルドライブモードは使っちゃダメだとエイミィさんに言われた。
だから私は使いたくないんだけど、“レイジングハート”はもう一度エクセリオンモードにするように告げた。
「・・・なのは。あなたとレイジングハートならきっと大丈夫。
私がなんとか彼女に大きな隙を与えてみせるから、そのときが来たら迷わず撃って、あなたたちの一撃を」
≪Explosion. Zwillinge Form≫
シャルちゃんの“トロイメライ”が二つに分かれて短い刀になった。
「お前たちももう眠れ」
ゆっくりと私たちへと近づいてきた闇の書さんがそう告げる。
私は・・・・決めた。“レイジングハート“を信じるから。
「いつかは眠るよ。だけどそれは今じゃない。
今ははやてちゃんとフェイトちゃんを助ける。それからあなたも!」
「なのはの言うとおり。だから・・・!」
≪Flamme unt Blitz(炎雷)≫
「大人しくしなさい!!」
――双牙炎雷刃――
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
「ここはなんだ?」
遠くからエヴァの声が聞こえる。
いや実際は近くにいるが、俺の聴覚に障害が発生したことで遠くに聞こえるのだろう。
視界が赤い。それは血涙を流しているから。体中が痛い、それは魔力が荒れ狂っているから。
それは俺に許されている魔力量を超える魔力を使用していることへのペナルティ。
ここは創世結界の失敗作“聖天の極壁”。
地平線の彼方まで続く、天地を覆い隠す黒い雲は渦巻き、その間には輝くルーン文字が舞っている。
唯一の明かりは地平線の果てに輝く曙光のみ。
度々ノイズのようなものが走る。それは不完全な状態で放置された術式ゆえの現象。
本当なら“宝庫”や“書庫”、“居館”に取り込みたかったが出来なかった。
現実に展開するのではないから出来ると思っていたがそれも制限されていたのだ。
「ほう、空戦形態になったか。そうでなくては楽しめんからな」
エヴァが笑っている。だったらその余裕を根こそぎ捻り潰してやる。
エヴァの周囲から、彼女の身長を軽く超す巨大な氷の弾丸がいくつも現れる。
ならばその全てを残さず喰らい尽くそう。
――殲滅せよ、汝の軍勢――
背後に待機させるのは最大展開本数である二千の倍、四千の槍の軍勢。
質より量を選んだために出来ることだが、本来の威力の3分の1程度しかない。
「蹂躙審判」
エヴァへと向けて100本ずつ放つ。
放つタイミングと速度を変更してさらに200、続けて500、1000。
エヴァはそれを回避しては魔力を纏わせた手で打ち落としていく。
それでも少しずつだが掠り傷、直撃によって貫かれたりしている。
だがすぐそばから治るために、さほどのダメージにはなっていないようだ。
(量より質にしておけばよかったか?)
「くく、はっはっはっはっはっはっ!! いいぞルシリオン!!
来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪けよ常夜の氷雪・・・!」
――闇の吹雪――
どうやらまだまだ余裕があるらしい。
――削り抉れ、汝の裂風――
飛び交う槍の軍勢を回避しながら魔法を撃ってきたエヴァ。
それに対処するためにこちらも別の魔術で迎撃する。
衝突する闇色の吹雪と螺旋軌道を描く蒼い竜巻の砲撃。
そのどちらも消える前にエヴァが俺へと接近する。
目の前に現れたエヴァの魔力を纏った拳打を回避し、その細い首を鷲掴む。
「っぐ」
そのまま神速飛翔のベクトルを利用して、この結界内にいくつか点在する全体にルーンが刻まれた球体へと叩きつける。
あまりの威力だったためか、直径3km程の球体が粉々に吹っ飛ぶ。
だがここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
俺はそこから離脱し、すぐさま残りの槍の軍勢をその残骸へと集中砲火する。
「惜しかったな」
――転移魔法――
いつの間にか真後ろに移動していたエヴァの殺気だけが含まれた一言。
(影を使った転移魔法!)
今度は俺の首を掴んだエヴァが、俺を別の球体へと叩きつけた。
クレーターが生まれるほどの衝撃をその身に受ける。
「っが・・・!」
――傷つきし者に、汝の癒しを――
意識が飛びそうになが、だがすぐさまラファエルを使用してダメージを回復させる。
蒼翼は現在22枚全て無傷。ならば・・・
「もう少し伸びていればよかったものを」
「そう簡単にいくと思うな」
俺は静かに中級術式最強のミカエルの準備に入る。
≪我が手に携えしは確かなる幻想≫
「遠き地にて闇に染まれ・・・デアボリック・エミッション」
“闇の書”から、俺の術式を蒐集したお返しと言わんばかりに複製した術式を放つ。
至近距離からの一撃に防御するしかないエヴァ。
――崇め讃えよ――
エヴァへと向けて蒼翼全てを突撃させる。
未だにデアボリック・エミッションを防いでいるエヴァに、22枚の蒼翼から様々な角度、威力、速さで砲撃が放たれ続ける。
「ちっ」
直撃寸前でデアボリック・エミッションの効果が切れ、エヴァの離脱を許す。
だが、それを追撃する蒼翼から再度22発の砲撃が放たれる。
「目障りだな」
エヴァは速度をいわせて蒼翼を振り切ろうとするが、蒼翼が引いている蒼い閃光が鎖となって檻を形成していく。
その所為でエヴァはスピードが出せず上手く逃げれていない。
エヴァは両手に魔力を纏わせて、檻を作り出している蒼翼を破壊しようとした。
だが蒼翼に純粋な魔力攻撃は通用しない。
それどころかその魔力を吸収して威力を上げるし、俺への魔力供給をも助ける。
その分物理攻撃には弱いという欠点があるが。
≪我が手に携えしは確かなる幻想≫
ミカエルで決まらなかったときのための保険を用意しておく。
エヴァが今度は“エンシス・エクセクエンス”で強引に檻を破壊しようとするが、
「っ! しまった!」
蒼光の鎖で直接縛られてしまった。今こそ好機、周囲の檻を完成させる。
準備は整った。これでもうエヴァは逃げることは出来ない。
22枚の蒼翼が俺の上下左右へと展開される。
蒼翼の切っ先は全て捕らえられているエヴァへと向けられた。
「安らかなる慈悲の眠りを!!!」
――汝の其の御名を――
一番端の翼から順に莫大な光量と熱量を持った砲撃が放たれる。
さっきまで放たれていたものとは比べ物にならないその威力。
それはエヴァの魔力も含まれているために、俺の今出せる威力以上となっているからだ。
放たれたミカエルの最初の三発までは確かな手応えがった。
しかし、それ以降は爆散している閃光を素通りしている。
「・・・召喚時間の終了・・・か。全くもう少し待っておけばよかったな」
異界英雄との戦いは、決着を見ることなく終わりを告げた。
いつまでもここにいては完全に魔力炉破綻を起こしかねない。
早く現実へと戻らなければ。
「闇の書との戦いはどうなっただろうか?」
こうしている間にも解決しているかもしれない。
さすがにそれだけは遠慮したいものだ。解決した場面に立ち会えないというのは悲しすぎる。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
庭園の木陰で私は今の状況について考えていた。
すぐ近くにはアリシアが横になりながら本を読んでいる。
「あれ? 雨になりそうだね。フェイト、帰ろう。・・・フェイトってば」
呼ばれたことに気づいた私は、深い思考をやめてアリシアへと視線を移す。
「ごめんアリシア。私はもう少しここにいる」
私が望んだものであっても、やっぱり心が受け入れてくれない。
あの時間に甘えるには、もう何もかもが遅かった。
「そうなの? じゃあわたしも、一緒に雨・宿・り♪」
アリシアが私のもとへと駆け寄ってきて隣に座る。
それからどれくらい経っただろう。雨は一向に止みそうにない。
「ねぇアリシア、これは夢・・・なんだよね。
私とあなたは同じ世界にはいない。あなたが生きてたら、私は生まれなかった」
私はアリシアとこの世界のことについて話を始めた。
それがこの世界を否定することと知りながら。
「・・・そう、だね」
静かな肯定の言葉。そこには少し悲しみが含まれている気がした。
「母さんも、私にはあんなに優しくは・・・」
「優しい人だったんだよ。優しかったから壊れたんだ。
死んじゃったわたしを生き返らせるために」
「・・・うん」
自分の世界だったアリシアを喪ったからこその暴走。
「ねぇフェイト、夢でもいいじゃない。ここにいよう、ずっと一緒に。
わたし、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。
母さんとアルフとリニス、それにルシルだって。みんなずっと一緒にいられるんだよ。
フェイトが欲しかった幸せ、みんなあげるよ」
†††Sideフェイト⇒はやて†††
「・・・眠い・・・」
なんやすごく眠い。でもその眠さに抗うように目を開ける。
目を開けて最初に見たんは、綺麗な銀色の髪と真紅の瞳を持つ女の人。
前にも一度会ったことがあるような気がする。
「そのままお休みを、我が主。あなたの望みは全て私が叶えます。
目を閉じて、心静かに夢を見てください」
その綺麗な人はそう言うけど、本当にそれでいいんか迷ってしまった。
(わたしは何望んでたんやったっけ?)
「夢を見ること。悲しい現実は全て夢となる。安らかな眠りを」
(そう・・・なんか? わたしの本当の望みは?)
頭の中がぼうっとする。わたしが欲しかった幸せ? それは・・・
「健康な体、愛する者たちとのずっと続いていく暮らし。
眠ってください。そうすれば夢の中であなたはずっとそんな世界にいられます」
違う。わたしが願ったもの、欲しかった幸せはそんなものやない。
ここでようやくハッキリと覚醒する。
「せやけど、それはただの夢や!」
わたしは確かに夢であってほしいと願った。
それは事実。そやけどそれはやっぱり夢は夢でしかない。
わたしは現実と向き合う覚悟を決めた。
†††Sideはやて⇒シャルロッテ†††
≪Schwarz Strom≫
「飲まれろぉ!!」
――凶牙波瀑刃――
“闇の書”へ漆黒の津波を放つ。
以前シグナムに、結構簡単に突破されたことがある。
案の定闇の書も容易く突破してきた。
だけど突破してきた場所は私の真下。“闇の書”はおそらく気づいていない。
カートリッジをロードして放つのは、鳥の形をした砲撃グランツ・フォーゲル。
「いっけぇぇッ!!」
“闇の書”は直撃する寸前で私に気づき真上を見る。
だけどもう遅い。回避や防御もすることが出来ないまま、“闇の書”は光の鳥に飲み込まれた。
『シャルちゃん、もしかして終わった?』
なのはから念話が入る。それに答えようとしたとき悪寒を感じた。
確かに至近距離での直撃だった。だけど私は“闇の書”の防御力をあまりにも甘く見ていた。
“闇の書”は閃光の爆発の中から、私に向けて砲撃を放ったのだ。
――ナイトメア――
≪Seelisch Widerstand≫
私はそれを耐え切り、“トロイメライ”をゼーゲフォルムへと変形させる。
『なのは! 私がなんとしても防御を崩す! その瞬間を狙って撃って!』
『う、うんっ。分かった!』
唸りを上げるゼーゲフォルムの“トロイメライ”。
私はそれを上段に構えて一気に振り下ろす。
≪Hartriegel Schild≫
“闇の書”は回避ではなく障壁を展開させた。
それは私の持つ障壁の一つで、対物に優れている盾。
私と“闇の書”を覆うほどの火花が散っていく。
だけど、こうなってしまえば“闇の書”は身動きが取れないだろう。
もし少しでも手を抜けば“トロイメライ”の一撃を受けることになるからだ。
「今!!」
――エクセリオンバスターA.C.S――
なのはへと今がチャンスだと叫ぶ。すると後方からなのはが突撃してきた。
今の“レイジングハート”は杖ではなく、もう槍と言えるような形状へとなっている。
六枚の桜色の翼を展開し、“レイジングハート”の先端からも魔力刃が形成されている。
私の一撃となのはの一撃によって、次第に“闇の書”の障壁が弱まっていく。
そして“レイジングハート”が障壁を貫いた。
「いっけぇぇぇーーーーッ!!!」
「ブレイク・・・シューーーートッッ!!!」
なのはが放った零距離のエクセリオンバスターは見事に直撃。
炸裂する魔力から、私はなのはを守るために片翼で包み込む。
そのおかげで私となのはは傷一つ付かなかった。だけど、それは“闇の書”も同じだった。
「どれだけ硬いわけ?」
「にゃはは、でもまだまだ・・・頑張らないと、だよね」
「もちろん!」
どれだけ耐えられようが、大人しくなるまで戦ってやる。
諦めの悪さじゃ、私となのははゴールドメダルだよ、“闇の書”。
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
「ごめんねアリシア。だけど私は行かなくちゃ」
そう、夢を見る時間はもう終わり。
私は行かないと。帰らないと。みんなが戦ってるあの世界へ。
「・・・・そう」
アリシアは悲しい顔をしたあと、私に“バルディッシュ”を差し出した。
でもすぐに微笑みを浮かべて私を見る。
私は涙を流しながらそれを受け取って、そっと両手で胸へと抱える。
するとアリシアはそっと私を抱きしめ、私もそれに応えるように抱きしめ返す。
夢の中でしか、そして二度とすることの出来ない抱擁。
それが一体どれだけ貴いものか。
「ありがとう、ごめんねアリシア」
「いいよ、わたしはフェイトのお姉さんだもん。
待ってるんでしょ、優しくて強い子たちが」
みんながきっと待ってる。私が本当にいるべき場所で。
「じゃあ、いってらっしゃいフェイト」
アリシアが光となって消えていく。
もう会うことも、話すことも出来ないたった一人のお姉ちゃん。
「現実でもこんなふうにいたかったなぁ」
アリシアが消えるその瞬間まで抱擁を続ける。
その温もりを決して忘れないために。
静かに光となって消えたアリシアを見るかのように、私は空を見上げる。
「いってきますアリシア・・・お姉ちゃん」
†††Sideフェイト⇒はやて†††
「わたし、こんなん望んでない! あなたも同じはずや! 違うか!?」
「私の心は騎士達と深くリンクしています。
だから騎士達と同じように、私もあなたを愛おしく思います。
だからこそ、あなたを殺してしまう自分自身が許せない。
自分ではどうにもならない力の暴走。
あなたを侵食することも、暴走してあなたを食らい尽くしてしまうことも止められない」
その表情は何も出来ない自分を情けないと思ってるもの。
わたしはそれを見て、どれだけ悲しくて悔しいのかわかってしまった。
「覚醒のときに今までのこと、少しはわかったんよ。
望むように生きられへん悲しさ、私にも少しはわかる。
シグナムたちと同じや。ずっと悲しい思い、寂しい思いしてきた。
せやけど、忘れたらあかん!」
わたしは車椅子から彼女へと手を差し出す。
彼女はちゃんと手を取ってくれた。わたしは彼女の頬に手を添える。
「あなたのマスターは今はわたしや! マスターの言うことは、ちゃんと聞かなあかん!」
わたしはもう片方の手も、彼女の頬にそっと添えた。
「名前をあげる。もう闇の書とか、呪いの魔導書とか言わせへん。
わたしが呼ばせへん! わたしは管理者や、わたしにはそれが出来る」
「無理です。自動防御プログラムが止まりません。
管理局の魔導師が戦っていますが、それも・・・・」
彼女は涙を流しながらそんなことを言うけど、きっと止まってくれる。
わたしは「止まって」と強く願った。すると、確かな手応えを感じた。
「外の方! えっと、管理局の方! ウチはえっと、そこにいる子の保護者、八神はやてです!」
わたしは、外にいる人に届くように力いっぱい叫んだ。
†††Sideはやて⇒なのは†††
もう一度“闇の書”さんとの戦いに移ろうとしたとき、“闇の書”さんの様子がおかしいことに気づいた。
動きが急にぎこちないものになったのを見た私とシャルちゃんは顔を見合わせる。
すると、
『外の方! えっと、管理局の方! ウチはえっと、そこにいる子の保護者、八神はやてです!』
“闇の書”さんから念話を通してはやてちゃんの声が聞こえた。
「はやてちゃん!?」
「はやて!?」
私もそうだけど、シャルちゃんも驚愕している。
あまりに予想外な出来事だから。
『え? なのはちゃん!? シャルちゃん!? ほんまに!?』
「うん、なのはだよ! いろいろあって闇の書さんと戦ってるの!」
『ごめんなのはちゃん、シャルちゃん。なんとかその子止めてあげてくれる!?
魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が発していると管理者権限が使えへん!
今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから!』
えっと、難しくてよく分からないよはやてちゃん。
「つまりは・・・ユーノ、なのはに簡単な説明お願い」
シャルちゃんは何とか分かっているようだけど、私への説明には困っているようだ。
ユーノ君へと助けを求めたシャルちゃん。ごめんね、ついていけなくて。
『うん! なのは! 分かりやすく説明するよ!
今から言うことが出来ればはやてちゃんもフェイトも外に出られる!
どんな方法でもいい! 目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして!
全力全開、手加減なしで!!』
ユーノ君からの話は分かりやすいの一言。
シャルちゃんも頷いている。
「さっすがユーノ君! わっかりやすい!!」
「よし! そうと決まれば・・・っと、触手が邪魔か。
なのは、私が触手を抑えるから、分かってるよね!」
“闇の書”さんを守るように海上から伸びた触手。
シャルちゃんは私の返事を聞かずに、それに向かって行って全て斬り捨てた。
「エクセリオンバスター、バレル展開! 中距離砲撃モード!」
≪All right. Barrel shot≫
“レイジングハート”から再び桜色の翼が現れる。
まずは“闇の書”さんを抑え、照準と弾道を安定させるためのバレルショットを放つ。
“闇の書”さんから離れたシャルちゃんの横を通過して、バレルショットが“闇の書”さんに直撃する。
衝撃波が命中したことで、目には見えないけどちゃんとそこにあるバインドが“闇の書”さんを拘束した。
「しつこいっ!」
――風牙真空刃――
――ストラグルバインド――
――チェーンバインド――
それでもなお“闇の書”さんを守るように現れる触手を、シャルちゃんや合流したユーノ君、アルフさんが分担して対処してくれている。
そのおかげで私は何の心配もなく砲撃に専念できる。
「エクセリオンバスター、フォースバースト!!
ブレイク・・・シューーーーーートッッ!!!!」
†††Sideなのは⇒はやて†††
なのはちゃんたちに、外に出ている子を任せたから大丈夫なはず。
なら今わたしに出来ることをしないといけない。
「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。
強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、“リインフォース”」
ずっと悲しい時を過ごしてきた目の前にいる彼女に新しい名前を与える。
これで少しは主らしいことが出来たかな?
それから少ししたら、目の前に広がる闇の世界が光に満ち溢れた世界へと変わった。
なのはちゃんたちが防御プログラムの子をどうにかしてくれたみたいや。
「新名称、リンフォース認識。管理者権限の使用が可能になります。
ですが防御プログラムの暴走は止まりません。
管理から切り離された膨大な力は、じき暴れだします」
「うん、まぁなんとかしよ」
わたしの前に新たな名前を得た魔導書“リインフォース”が現れる。
「行こか、リインフォース」
「はい、我が主」
“リインフォース”を抱え、わたしは現実へと戻る。
闇の書の永きに渡る旅路を終わらせるために。
アニメ11話・・・・コロコロ視点が変わり過ぎです。
後半のはやてとフェイトが特に凄まじい(泣)
愚痴はこれくらいにしておきます。
さてようやく2ndも残り二話となりました。
決戦とその後ですね。
ルシルとエヴァの戦いですが、勝敗は着けませんでした。
全力エヴァの負ける姿が想像できないんですよね。
ルシルの魔術
聖天の極壁
北欧神話に登場する「天の絶壁」「天の見張り所」の意味を持つ
曙光の神ヘイムダルが住まう館。
ルシルが初めて組んだ創世結界だが完全な失敗作。
神々の宝庫と英知の書庫の原型。
複製武装と複製術式両方の保管庫とした結果、失敗して放置していた術式。
仕方なく二つに分けたのが宝庫と書庫。そのため何の効果も持たないただの空間。
削り抉れ、汝の裂風
エノク書に登場する嵐を司る天使。
螺旋を描くように放たれる削岩機のような嵐を対象に放つ対人術式。
直撃すればその名のとおり、それはもうグロい結果となる。
崇め讃えよ、汝の其の御名を
天使=ミカエルとさえいえる超がつくほどに有名な天使。
「神に似た者」という意味を持つ天使ですが、逆説的な意味の
「神の如き者などいない」という意見を持つ学者さんもいるみたいです。
ルシルの扱う中級術式最強の威力を誇る連続砲撃の対人術式。
使用するには空戦形態、22枚の蒼翼が必須となる。
蒼翼が低威力の砲撃を放ちながら、対象の行動を封じる檻を形成する。
対象を封じ込める檻が完成すると、ルシルの頭上に五枚、左右に五枚ずつ、
足元に七枚、蒼翼を十字架型に展開させ端から順に高威力の砲撃を放つ。
今回の威力は一発あたりSS、それを22発エヴァに放った。
複製術式
魔法少女リリカルなのはA’s デアボリック・エミッション
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