悪夢の幕開け
†††Sideクロノ†††
「手遅れだったみたいだな」
僕の前を飛ぶルシルが、あるビルの屋上で発生している黒い球体を見て呟く。
僕とルシルとシャルの三人は、通信妨害が発生した現場へと急いで駆けつけたが、すでに“闇の書”は完成した後だった。
「クロノ、二人の姿を確認できたんだけど・・・一人で行く?」
「・・・ああ、僕の・・・弟子としての務めだ」
僕には見えないが、シャルの視線の先には、二人の仮面の男がいることを確認出来ているんだろう。
向こうは未だこちらに気づいてはいないようだ。
「なら俺とシャルは、フェイトたちと合流してあれ――いや、八神はやてを止める。
クロノ、下手な慰めは要らないだろうから何も言わないでおくよ」
「気にしなくていい。そっちは任せたぞルシル、シャル」
「ああ」「ええ」
ルシルとシャルは、なのはたちのいるであろうあの黒い球体のあるビルへと向かった。
ここからは僕の役目となる。
「どんな理由でも、こんなことしてはいけなかった」
頭に思い浮かぶのは僕の師であり友人のリーゼ。
これから僕はあの二人を―――。
二人の仮面の男の近くにまで来たとき、あの黒い球体が爆ぜた。
どうやらルシルとシャルは間に合わなかったようだ。
(すまないが、そちらは任せたぞ)
どちらにしても僕は今出来ることをやるまでだ。信じているからな。
未だに僕の接近に気づいていない仮面の二人を、捕縛魔法ストラグルバインドで拘束する。
拘束されてもなお抵抗する二人の前へと僕は降り立った。
「ストラグルバインド――」
「「っ!」」
「――相手を拘束しつつ、強化魔法も無効化する。
あまり使いどころのない魔法だけど、こういうときには・・・役に立つ」
二人の仮面の男の輪郭が、徐々に光の粒子となって崩れていく。
「変身魔法も強制的に解除するからね」
完全に変身の解けた仮面の男の正体は、やはりリーゼたちだった。
僕の足元へと仮面が転がった音だけが空しく聞こえた。
「クロノ! このぉっ!」
「こんな魔法、教えてなかったんだけどな」
「一人でも精進しろ、と教えたのは君たちだろう。アリア、ロッテ」
“一人でも精進しろ”。この言葉をいつも胸に今まで腕を磨いてきた。
それなのに、その結果がこれだった。僕はこんな形でリーゼたちと会いたくはなかった。
†††Sideクロノ⇒シャルロッテ†††
クロノと別れた私とルシルは、急いでなのはたちと合流するために飛んだ。
だけどあともう少しという距離まで来たところで黒い球体が爆ぜた。
「くそ、間に合わなかったか」
「なのはたちは・・・・居たっ!」
爆ぜた黒い球体が消える瞬間に離脱して、ぼるの陰に隠れるのを確認できた。
様子からして無事のようだけど、あの行動は闇の書から隠れているためのようだ。
「まずは二人の状態確認だな」
「うん」
“闇の書”の死角になっているビルの陰に隠れているなのはたちのもとへと急いだ。
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
私となのはは“闇の書”から一度距離を取るため、“闇の書”の死角であるビルの陰に隠れた。
“闇の書”の攻撃を防いだなのはは右手を押さえている。あれだけの魔法だったんだ。
無傷で済むはずはなかった。
「なのは、ごめん、ありがとう。大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・」
そうは言うけどかなり痛がってる。
あれほどの威力を防ぐだけの魔法を私は持っていない。
だからなのは一人に防がせたことに対する謝罪を口にした。
「フェイト! なのは!」
頭上から聞こえた声の方へと視線を向けると、そこにはルシルとシャルがいた。
なんかルシルとは久しぶりに会った気がする。
「大丈夫二人とも?」
「私は大丈夫なんだけど、なのはが私をかばってさっきの魔法を防いだの」
シャルの言葉に私はそう答える。
するとルシルがなのはに近づいて、なのはの右手をとって容態を見る。
「これなら・・・傷つきし者に、汝の癒しを」
ルシルの治癒魔術だ。いつもこの魔術に私たちは助けられてる。
蒼いけど、でも優しい光がなのはの右手に包んで、ダメージを回復させていく。
なのはの顔も痛みが引いてきたのか楽な表情になっていってる。
「ありがとうルシル君」
「このくらいなんてことはないよ。
それよりフェイト。ソニックフォームでは彼女のような広域攻撃型には辛い」
「うん、そうだね。バルディッシュ」
≪Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form≫
ルシルの言うとおりあの子は、ルシルと同じ広域攻撃型だ。
避けきることが難しいなら、ソニックフォームの防御力だと心許ない。
なら少しでも防御力を上げるために、ライトニングフォームへと変える。
「なのは! シャル!」
「フェイト! ルシル!」
アルフとユーノも私たちに合流した。
「ユーノ君! アルフさん!」
「これで全員揃ったな。さて、あとは彼女をどうやって止めるかだな」
ルシルが私たちを見回して、思案顔になった。
倒すんじゃなくて、止める。それが難しいのは判ってる。
何か良い手があればいいんだけどなぁ・・・。
†††Sideフェイト⇒ルシル†††
“闇の書”の彼女一人に対して俺たちは六人。
おそらく動きくらいは止められるだろうがその先が問題だ。
未だ俺たちにはやてを救う方法はない。倒すだけなら、俺とシャルの二人で出来る。
“闇の書”の方へと視線を向けると同時に結界が張られたのが判った。
「閉じ込められたな」
「やっぱり私たちを狙ってるんだ」
俺の呟きにフェイトがそう答える。
フェイトたちが狙われる理由について俺には理解できないな。
だがフェイトがそう言うのであれば、俺たちの知らない何かがあったんだろう。
「さっきクロノと会ったんだけど、何としても解決法を探すって言ってた。
それと、援護のほうも向かわせるってことだけど、まだ時間が掛かるみたいなんだ」
クロノがグレアム提督とリーゼ姉妹から解決法を聞き出すことになっている。
一応俺とクロノで解決法のいくつかを立ててみたが、どれも問題点があった。
グレアム提督たちの解決法が俺たちと別のものであれば、と願わずにはいられない。
「それまでは私たちでどうにかするしかないわけか」
シャルの言葉にみんなが頷く。
クロノから連絡が入るまでは、きっちり時間を稼ぐとしようか。
†††Sideルシリオン⇒????†††
此度の愛しき主もまた闇の書の犠牲となってしった。
出来れば此度の主だけは何としても救いたかったが・・・・。
だが、その願いは、おそらくもう叶わない。
ならば、それが叶わないのであれば、私が成すべきことをすればいい。
成すべきこと。それは愛しき主と守護者たちを傷つけた者たちを破壊するということ。
「我が内より来たれ 貴き英雄よ」
≪Einherjar(異界英雄)≫
何時かに蒐集した者の力を此処に具現させる。
結界内には六つの反応。その内、二つはかなりの魔力を保有している。
騎士たちの記憶にあるセインテストとフライハイトという子達であろう。
私一人の戦力では心許ない。だがこれで少しは戦力の差が埋まったことだろう。
「スレイプニール、羽ばたいて」
≪Sleipnir≫
†††Side????⇒クロノ†††
「リーゼたちの行動はあなたの指示ですねグレアム提督」
リーゼたちを本局へと連行して、今はグレアム提督と向かいあって座っている。
これからすることは提督たちが成そうとしたことの確認だ。
「違うクロノ!」
「私たちの独断だ! 父様には関係ない」
「ロッテ、アリア、いいんだよ。クロノはあらかたのことを掴んでる。違うかい?」
提督の言うとおりほとんどのことは調べがついている。
「11年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を探していましたね。
そして発見した。闇の書の在り処と現在の主――八神はやてを」
モニターに八神はやてと闇の書の映像を出す。
「しかし、完成前の闇の書と主を押さえてもあまり意味がない。
主を捕らえようと闇の書を破壊しようと、どちらにしてもすぐに転生してしまうから。
だから監視をしながら闇の書の完成を待った。見つけたんですね、闇の書の永久封印の方法を」
これこそ一番に知っておきたかった情報だ。
あの“闇の書”を封印する術を発見したからこそ、このような違法捜査をしていたのだとルシルとシャルと話し合った。
「両親に死なれ、体を悪くしていたあの子を見て、心は痛んだが運命だと思った。
孤独な子であればそれだけ悲しむ人は少なくなる」
それでも悲しむ人がいなくなるわけじゃない。
提督もそれくらいのことが判っての判断、というわけか。
一体どれだけ悩んで、苦しんで、そして決定したのか。
「あの子の父の友人を語って生活の援助をしていたのも提督ですね」
八神はやてから提督に宛てられた手紙と写真をテーブルの上に置く。
写真には、どこにでもいそうな家族のような八神はやてと守護者たちが写っている。
「永遠の眠りにつく前くらい、せめて幸せにしてやりたかった。・・・・・偽善だな」
提督はそう言って俯いた。
「封印の方法は、闇の書を主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める、そんなところですね」
「そう。それならば闇の書の転生機能は働かない」
やはりルシルの言っていたことと同じだ。
だがその方法にはいくつか問題点があると言っていた。
僕も彼の示した問題点には同感だった。
「これまでの闇の書の主だってアルカンシェルで蒸発させたりしてんだ!
それと何にも変わんない!」
「クロノ、今からでも遅くない。私たちを解放して。
凍結がかけられるのは暴走が始まる数分だけなんだ!」
「その時点では闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない。違法だ」
問題点その一。定められいる法に則れば、その時点ではそこまでの罪になっていない。
完全に逸脱した違法行為と見なされてしまうことになるだろう。
「その所為で! そんな決まりの所為で悲劇が繰り返されてんだ・・・!
クライド君だって、あんたの父さんだってそれで!!」
「ロッテ」
僕の言葉を聞いたロッテが声を荒げる。
そんな法の所為で僕の父――クライドも死んだのだ、と。
激高しているロッテを、それを聞いていた提督が諌める。
提督たちが取ろうとした方法は分かった。
でもそれはルシルや僕も考えていた方法の一つだった。
僕は立ち上がり、現場が気になるため部屋を後にしようとしたけど、その前にもう一つこの方法においての問題点を告げておくことにした。
「法以外にも提督のプランがあります。まず凍結の解除はそう難しくないはずです。
どんなに守ろうと、いつかは誰かが手に入れて使おうとする。
怒りや悲しみ、欲望や切望、そんな願いが導いてしまう。封じられた力へと」
言っておきたいことは言い終えた。
今は一刻も早く現場へと戻り、力を貸さないといけない。
ルシルに、それにみんなに何て言えば良いだろう? 解決方法が見つからなかった。
「現場が心配なので。すいません、一旦失礼します」
「クロノ」
「はい・・・?」
扉の前まで来たところで提督に呼び止められた。
「アリア、デュランダルを彼に」
「父様!?」
「そんな!?」
“デュランダル”というのが分からないが、リーゼたちはかなり驚愕している。
「私たちにもうチャンスはないよ。持っていたって役に立たん」
そうしてアリアから渡されたのは一枚のカード。
「どう使うかは君に任せる。氷結の杖デュランダルだ」
これが提督たちの切り札だと分かった。
†††Sideクロノ⇒シャルロッテ†††
“闇の書”が翼を羽ばたかせて私たちへと向かってきた。
だけど気になるのは、“闇の書”に追随するように空を翔るウェーブのかかった金髪の少女。
そして両目を閉じた、何やら貴族のような服装を纏った男がビルの屋上伝いに飛び跳ねている。
「エヴァ!? ズェピア!? 馬鹿な!」
その二人を見たルシルが驚愕の声を上げた。
その反応から知り合いのようだ・・・・て、まさか。
「ルシル、知り合いなの?」
未だに目を見開いているルシルの様子を見て、フェイトが心配して声をかける。
「・・・あれは俺の使い魔・・のようなものだ。
フェイトとアルフには以前教えたことがあるだろう?
魔力だけで構成された使い魔が俺にいるって、あの二人もそうなんだ」
それを聞いた私たちは気付いてしまった。
ルシルが私たちの知らないところで“闇の書”に蒐集されていたことに。
「いつ・・・ルシル君、いつ吸収されたの?」
なのはが信じられないといった顔でそう呟いた。
「あれは・・・フェイトが転入してすぐだったか」
なるほど。だからあの時からルシルは戦闘に参加せずに無限書庫での調査に就いたんだね。
やっぱり様子がおかしいと思ったんだ。それを聞いたなのはたちは完全に固まってしまった。
ユーノだけは何故か驚いていない。もしかしてユーノも知っていた?
一緒に無限書庫へと行ったのだから、ルシルがいる理由くらいは聞いているかもしれない。
「ルシル、あとで一発殴らせて。今はそれだけ言っとく。
なのは、フェイト。今はまず闇の書をどうにかするのが先、いいね?」
「「うん」」
まったく、こんなときに知りもしたくなかったことが知ってしまうなんて。
「なのはたちはみんな闇の書の相手をお願い。
ルシル。あなたは私と一緒に異界英雄を潰す、オーケー?」
額に青筋を浮かべながらみんなに確認を取る。
そんな私を見たみんなが黙って何度も頷く。拒否権なんてものは存在しない。
「最後に一つ、みんな無理はしないこと」
「「「はい!」」」
「おう!」
ここでなのはとフェイトと分かれる。二人は“闇の書”をどうにかするために。
私とルシルは、“闇の書”より厄介なエヴァンジェリンとズェピアとかっていう二人を潰すことになった。
「シャル、そちらは任せた。ズェピアは結構な怪物だから気をつけろ」
私が相手をすることになった貴族風の男“ズェピア”を、かなりの怪物だってルシルは言った。
でも相手は魔導師じゃなくて単なる魔力の塊だ。だったら魔術師としての戦いが出来るということだ。
「ごめんね、トロイメライ。キルシュブリューテ!」
私が携えるのはデバイス“トロイメライ”ではなく、神器“キルシュブリューテ”。
折角直って私のところに戻ってきてくれたのにあんまりだけど。
でも“異界英雄”の正体とその力の前では、おそらくデバイスでは傷一つ付けられないだろう。
だからこその神器だ。
「ふむ、此度の演劇においてはどうやら私は脇役のようだ。
さて、剣を携えし娘よ、命に保険は懸けたかね?」
何あの口調? 演劇とか脇役とか意味が分からない。
「上等!」
私は瞬時に間合いを詰め、“キルシュブリューテ”を一閃する。
「フフ」 ――クリーチャーチャンネル(エス)――
ズェピアは纏っているマントに覆われた。
防御でもするのかと思ったんだけど、ズェピアはそこから姿を消していた。
私の斬撃は空を斬り、勢いを殺せず踏鞴を踏んだ。
「フェイク!」 ――シリーニュース(マリス)――
声は私のすぐ真後ろから聞こえた。私は考えるより先に前へと飛んだ。
視線の端で捉えたのは、足下から延びる黒い爪の斬撃だった。
「ほう」
「なるほど、確かに“気をつけろ”ね」
再度対峙する私とズェピア。直接“キルシュブリューテ”の一撃は少し見直したほうがいいかもしれない。
だったら彼の間合い外からの攻撃をすればいい。
「はああぁぁッ!!」
魔力の刃を放つ。ズェピアはそれを半身ずらしたことで回避する。
彼の転移に気をつけながら、さらにいくつもの刃を放っていく。
だけどそれも容易く回避されていく。
「キャスト!」 ――レプリカント・コーディネーター(イド)――
突然現れた少年の黒い影。その黒い影が瞬時に私へと間合いを詰めて、手に持つ短刀を振るってきた。
「っく」
私はそれを何とか捌いて、影の少年を斬り裂いた。
その直後、私の直感がこの場から離れろと告げてきた。
それに従ってすぐさま後方へと退く。その瞬間、現れたのは巨大な黒い竜巻だった。
「カット! カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォッ!!」
今のは結構危なかったかもしれない。
あの黒い竜巻はまずい。その竜巻も消え、ビルの屋上が静まり返る。
「どうした娘。このまま何もせずに舞台を降りるかね?」
「まさか。あなたはここで消えてもらう」
魔術の大半を魔法へと変えたために今使える魔術は少ない。
それでも負けるつもりはない。
神秘の篭った“キルシュブリューテ”の一閃さえ当てられれば勝てるはずだ。
(仕方ない、接近戦に戻す)
やっぱり私は外からの攻撃には向かない。
直接叩っ斬る。それこそ私の本来の戦い方だ。
私はもう一度ズェピアとの間合いを詰める。
「少し芸が無いのではないかね?」 ――クリーチャーチャンネル(エス)――
再びマントを纏って消えたズェピア。
私は“キルシュブリューテ”を足元に突き刺して、周囲一帯に魔力の刃を噴き出させる。
すると、
「むう・・・!」
かかった。刃に囲まれたズェピアを発見する。
私は囲んでいる刃ごと斬り裂いてズェピアへと一閃しようとしたところで、私の体を何か大きな手が押しつぶしてきた。
「っが!?」
何の気配もなかったために気がつかなかった。背後に現れていた大男のことを。
私は何とか立ち上がろうとしたんだけど、ズェピアの纏っていたマントが襲ってきた。
その一撃を受けた私は上空へと打ち上げられた。
「開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す」
(まずい!)
それはいつかルシルが使っていた複製術式だ。
まさかこいつがオリジナルだったなんて。
「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ!!!!」
それは暴力の渦となってビルごと私を蹂躙した。
その暴力にさらされたビルの上半分が完全に倒壊した。
私は瓦礫の上で倒れている中、近くからズェピアの声を聞いた。
「あぁ、無理をしなくてもいい。客席に残るのは君一人きりだ、遠慮なく休みたまえ。ホールの灯りは消しておくよ」
「・・・いっつ、待ち・・まだ・・まだ。まだまだぁぁ!!」
私は立ち上がって、“キルシュブリューテ”を構えなおす。
「そうか、では第二幕と洒落込もうかお嬢さん」
第二幕? 違う。これで終幕にしてやる。
もちろん私の勝利っていう形でね。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「何だルシリオン。ずいぶんと可愛らしい姿じゃないか」
黒いマントにトンガリ帽子を被ったエヴァンジェリンが、俺の姿を見て笑い始めた。
全く。“異界英雄”の人格がオリジナルと同じというのが問題だ。
一応は俺の使い魔という形になっているが、自我の強い奴は好き勝手することもある。
エヴァンジェリンはその典型だ。
「うるさい。とっとと終わらせてフェイトたちの援護に向かいたいんだよ。
君には悪いが早々に消えてもらうぞ」
「そう焦るな。何せ久々の殺し合いだ、もっと楽しもうじゃないか」
「はぁ・・・・・判った。ならエヴァ、自決か特攻好きなほうを選べ」
年相応の少女のように笑うエヴァンジェリン。
何を言っても無駄のようならとっとと消すしかない。
「自決か特攻・・・か。おい待て、どっちにしても私には死ぬしか選択肢がないじゃないか」
「当たり前だ。それに死ぬんじゃなくて消える、だ。
単なる魔力の塊でしかない君には死ぬという概念は存在していない」
そう告げると、エヴァは可愛らしい笑顔から無機質な表情へと変えた。
俺とエヴァを包み込む空気が一瞬で凍りついた。
だが気にはならない。これまでの幾たびかこのくらいの殺気、何万何億と浴びてきた。
「確かにそうだが私は面白くない。ならばさっさと貴様を殺し、他の連中の戦いをのんびりと見物して楽しむことにしようか」
「やれるものならな」
交わる視線、互いの殺気が入り乱れる。可能な限り短期決戦へと持ち込む。
ここで下手に魔力を消費するわけにはいかない。
「氷の精霊48柱。集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・氷の48矢」
≪我が手に携えしは確かなる幻想≫
エヴァは魔法の呪文を、俺は複製術式を引き出す呪文を告げる。
先に放たれたのはエヴァの魔法。追尾してくるそれを回避しつつ炎の大剣で焼き払う。
「焔杖大火!」
属性の相性としては俺のほうが断然有利だが、それを覆すのがエヴァだ。
どこまで俺がそれについていけるかで勝敗は決まる。
まぁ守護騎士たちのように、相手の命を心配する必要がないため、負けるつもりはない。
「ちっ、やはり私と貴様では相性が悪過ぎるな。だがこれならどうだ?」
エヴァの右腕から大剣が作り出された。
あれは間違いなく“エンシス・エクセクエンス”だ。
「そんなもの持ち出してくるなぁぁぁぁッ!!」
シャルとルシルの相手、エヴァンジェリンとズェピアとなりました。
さすがに闇の書一人相手に六人の集中砲火では簡単に終わってしまいますから。
複製術式
ANSUR 焔杖大火
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