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海上争奪戦
†††Sideクロノ†††


なのはたちはスタッフと顔合わせをした後、ご家族にこれから留守にすることの了解を得る為に、一度自宅へと帰っていった。

「魔術師か。厄介なのがいるな、本当に」

僕はさっきから溜息と愚痴しか口にしていない気がする。

「そうだね~。ほら見て、この銀髪の男の子、ゼフィ君、だっけ。
魔力値の平均ランクとしてはAA+。なのに、この黒い影のようなやつになったら、クロノ君のAAA+ランクを超えてニアSランクになっちゃうんだよ」

キーボードを操作しながら、魔術師の少年ゼフィの情報を口にするのはエイミィ・リミエッタ。
このアースラの通信主任で、僕の執務漢補佐もしてくれるクセのある友人だ。

「ああ、魔術師にはそういったランクに大きな揺れが出るのは当然らしい。
そのときそのときで、供給できる魔力に差異が出るからとのことだけど」

「つまり、魔力値が常に変動して本来のランクが知られにくいってこと?
確かにそれじゃあアースラの切り札であるクロノ君も苦労するね~」

「反論は出来ないね。最大値が分からない以上、下手に手を出して返り討ちだなんて御免だ。
だがこちらにも魔術師のシャルがいてくれる。
彼女が、彼を止めてくれるらしいから、その間に僕たちがジュエルシードの封印にあたることになっている」

「女の子に頼るのもカッコ悪いね」

「それは言わないでくれエイミィ。僕もそれには傷ついているんだから」

二人で溜息をついていると、母さん・・・艦長が来た。

「あ、艦長」

「これはゼフィ君のデータ、ね。確かにすごいわね彼は」

ゆっくりと僕たちのもとへと歩み寄って来る。
映し出されている少年の魔術を見て、艦長はそう呟く。

「はい、今のところはニアSランクが最高みたいですが、もしかするとそれ以上の魔力を扱えるかもしれません」

「それは本当に厄介ね。管理局の高位魔導師にでさえもAAA+以上は少ないというのに」

艦長は右手を頬に添え、「どうしましょう?」なんて困っているようには見えない声色で悩み始めた。
しかしそれもすぐに終わり、もう一つの不明瞭な問題を口にした。

「あの子達、なのはさんとシャルロッテさん、ユーノ君がジュエルシードを集めている理由は分かったけど、この黒い服の子たちはどうしてかしらね?」

「彼女たちの話では、彼はこの二人の幸せの為だと言っていたらしいです。それが本当かは分かりませんが」

「二人の幸せの為、か。まだこんなに小さい子供なのに、他の人の幸せのために戦っているだなんて、一体彼は何を思っているのかしら?」

ゼフィという少年の目的、黒衣の少女と使い魔の幸せのためだけに動いている、らしい。
真実かはどうかは判断できる要素が少ないため何とも言えないが、自分自身の事はどうでもいいと思っているのだろうか?
何一つ答えの出ない問いに苦労している最中、ユーノからアースラに滞在するための了解を得たとの通信が入ってきた。

「わかった、すぐ迎えに行くから待っていてくれ。
それでは艦長、彼女たちを迎えに行ってきます」

「ええ。お願いするわね、クロノ」

「いってらっしゃ~い♪」

艦長とエイミィに見送られながら、僕は名のは達を迎えに行くために踵を返した。


†††Sideクロノ⇒ルシリオン†††


「さすがにもうまずいよ、フェイト、ルシル」

アルフが、管理局が干渉してきたことで弱音を吐く。
「確かにまずいかもな」と俺はアルフに同意する。
もちろんアルフの心配とは別の心配でだが。
当然、俺が弱音をはくと思ってもいなかったフェイト、素直に同意されるとも思っていなかったアルフが
「ルシル?」と、二人はキョトンとして俺を見る。

「ちなみに俺の心配は、アルフの心配とは別だ。
アルフは組織としての戦力が心配なんだろう?
しかし俺は違う。「俺は組織としての探索能力の方が心配なんだ」と肩をすくめる。

「あ、そっか。組織だって捜索されたら、すぐに残りを集められちゃう」

フェイトが俺の言葉の意味を知り、納得する。
人海戦術なので来られれば、たった3人、封印できるのがフェイトだけとなると圧倒的に不利だ。
そんな俺とフェイトの管理局の戦力性危機感を度外視している態度に、「でも!」とアルフがすがってくる。

「アルフ、執務官とはそれなりの実力を備えたエリートなんだろう?
なら、あの程度が管理局の凄腕なら俺一人で十分に無力化できる」

クロノと名乗った少年は、見た限りでもそれなりの危険を潜り抜けてきたことくらいは分かる。
だが、たかが十数年の生きただけの子供に、数千年と存在し幾たびの死闘を越えてきた俺の経験に勝てるわけがない。
空戦に持ち込んでしまえば、空を飛ぶことのできないシャルは無力化、なのはやクロノにも遅れをとることはないはずだ。

「大丈夫だよアルフ。先日のルシルの強さを見たでしょ。
あの執務官だって、あんなに簡単に倒しちゃったんだし」

「そうかもしんないけどさ!?」

「なら、アルフ。これからの戦闘は全て俺が引き受ける。
君はフェイトのサポートにだけ回ってくれればいい」

迷い始めたアルフは足を引っ張る可能性がある。
ならば、極力フェイトの側につかせて護衛として動かす方がいい。

「え? あ、ちょっと待ってルシル! ルシル一人でなんて、さすがに任せれないよ!」

フェイトは俺の心配をしてくれるが、さっき俺一人でも大丈夫って言ってなかったか?

「問題ないよ。フェイトとアルフはジュエルシードの封印にだけ集中してほしい。
アルフもそれで構わないな? もうそれしか道はないと一応言っておくがな」

アルフに、諦めて最後まで付き合えと言う。

「アルフ? ごめんね、嫌だったらアルフだけでも・・・」

「フェイト、違うんだよ。あたしはフェイトとルシルのためを思って・・・」

アルフは、俺たちのことを思って、と泣きはじめた。

「アルフ、大丈夫だよ。フェイトとアルフは何が何でも俺が守るから。
だから、そう心配せずにフェイトについていてあげてくれ」

そっと優しく撫でながら諭すと、ようやく諦めたのか、アルフは軽く頷いた。

「・・・わかったよ、あたしたちの背中は任せたよ」

「了解だ。それでいいな、フェイト?」

「う、うん」

二人の了承は得た。それじゃあ、今日はこれで休むことにしよう。


†††Sideルシリオン⇒なのは†††


私とシャルちゃんは、お母さんにしばらく留守にすることの許可を得る為に、ユーノ君との出会ってからの今日までのこと、魔法のことやユーノ君の正体のような言えないことは省いて、説明した。
そして、お母さんから許可が下りたので、アースラに戻りました。

「君たちの部屋を用意したから、今日はそのまま休んでくれ」

私たちを迎えに来たクロノ君に、部屋へと案内されながら聞かされる。

「あ、うん、ありがとう」

お礼を言って、私に用意された部屋へと入る。
部屋に入ったのは私だけ。扉が閉まったのを見て、頭の上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。
すぐに通路へと戻って、「あ、あれ? シャルちゃんは?」って、去ろうとしてたシャルちゃんとユーノ君とクロノ君に声をかける。
するとシャルちゃんとユーノ君とクロノ君が振り向いて、私を見る。

「ん? シャルには別の部屋を用意しているんだが」

「同じ部屋に二人だと狭いでしょ?」

そう二人は言ってきた。二人ならまだ大丈夫な広さだ。
さすがに3人は無理だけど。私とシャルちゃんなら十分に快適に過ごせる、と思う。

「え~? 一緒じゃダメなの? 私は一緒に寝たいな~」

私は一緒の部屋にしようよ、とシャルちゃんに告げる。
シャルちゃん達はお互いの顔を見合わせて、「それは、二人の方で決めてくれていい」とクロノ君が任せてくれた。
私はシャルちゃんをじぃーと見つめる。するとシャルちゃんは「・・・まぁ、私もどっちでもいいかな」って折れてくれた。
断られなかったことが嬉しくて、シャルちゃんに駆け寄って両手を取って上下に振る。

「うん! じゃあ一緒に寝ようねシャルちゃん!」

「え、ええ。すごく嬉しそうねなのは。まぁ私も・・・嬉しい、かな」

「にゃはは♪」

シャルちゃんが苦笑い。でも少し照れているみたいで頬がちょっと赤くなってる。
久しぶりにシャルちゃんと寝れて、ご機嫌な私でした。


†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††


さて突然だけれど、私たちがアースラに来てから十日が経過した。
それにしても、やはり組織の力というのは良いものだ。
あれだけ苦労していた“ジュエルシード”の探索が順調に進んでいるからだ。
たった今も、管理局が発見した“ジュエルシード”をなのはが封印を終えた。

「ジュエルシードの封印も順調、なのはの魔導師としてのレベルも上がってきているし、良いこと尽くめってこのことね」

私は少し離れたところで、様子を見ている。
理由としては、いつルシルと戦うことになるか分からない為の魔力温存、そしてなのはのレベルアップだ。
実際、なのははこの十日間で目まぐるしい成長を遂げている。
ユーノと二人で新しい魔法も組んだらしいしね。どういうのかは見てのお楽しみにしよう。

「にゃはは、そうだね~♪」

なのはは少し照れている感じで笑みをつくっている。

「でも、この十日間は全然フェイトちゃんたちに会えなかった」

「まぁね、向こうも好き好んで管理局とぶつかろうなんて思っていないはずだから。
だから遭遇することは、あまりないと思うけど」

そうなのだ。この十日間でフェイトたちとは一度もぶつかっていない。
こちらが向かったときには、すでに封印を終えて立ち去った後だったりということで、なかなかあたらない。
喜ばしいことなのかどうかは微妙だけれど、もうちょっとなのはがレベルアップしてからの方が良いかもしれない。

「う~ん、フェイトちゃんとゼフィ君とお話して、お友達になりたいんだけどな~」

「友達・・・ねぇ。まぁいいんじゃないの?」

フェイトはともかく、ルシルがこちらの味方となるのは正直助かる。
このままずっと、ルシルと敵対するのはまずい。

「そうだよね! うん!」

なのはは嬉しそうにしながら、私たちはアースラへと帰艦した。


†††Sideなのは⇒フェイト†††


「やっぱり、なかなか見つからないな~」

フェイトはぼそっと溜息をこぼす。
管理局が出てきてからは発見率が悪くなってしまったから当然の事なんだが。
「ああ、管理局と極力出会わないようにしているから、自然と外れを引いてしまうことが多くなってしまう。 
戦闘覚悟で行くことも出来るが、極力戦闘は避けたい」

「うん、それは仕方ないよね。ルシルなら大丈夫って思うけど、やっぱりあまり戦いたくないから」

私はフェイトの頭を撫でながら「やさしいな」と微笑みかけると、フェイトは「むぅ、子供扱いしないで」と頬を膨らませるが、嫌がっていないのは一目瞭然。
フェイトは事実優しい子だ。あんな母親の目的のために全力で、でも他人を傷つけたくない。
嗚呼、だから彼女の苦しみが少しでも軽減されるなら、俺が戦うべきなんだろう。
しかしそれも許されない。フェイトの優しさがそれをさせない。

「けどさぁ、こんなに探しても見つからないなら、地上にはもう無いんじゃないかい?」

アルフが的確な疑問をぶつてきた。
さすがフェイトの使い魔、時々オツムが優秀になるな。

「お、分かっているなアルフ。それについては俺も考えていた。
地上はほとんど探したから、残るのは・・・」

「海、だね」

フェイトが俺の発言の後をついで、答えを口にした。

「そういうこと。だが、海中のジュエルシードの回収をどうするかなんだが、何か策はあるかフェイト、アルフ?」

聞かずとも、この二人なら以前と同じように強制発動する、とか言いそうだ。
まぁ実際それしかないと俺も思うが、あれはあまりやりたくはない。

「えっと、前みたいに魔力流を撃ち込んで、強制発動するしか・・・ないかな」

「そうだね~、もうそれしかないんじゃないかい?」

やっぱり、それしかないか。

「・・・わかった、魔力流を撃ち込むのは俺がやる。
フェイトはジュエルシードの封印に全力を尽くせ。
アルフはフェイトのサポートに全力であたってくれ」

「ルシル!?」

「ちょっと待ちな!? あんたに出来るのかい!?」

二人が驚いているが、この役割を変更するわけにはいかない。
それに複製術式を使えば、フェイト以上の魔力を扱えるから、強制発動させるのは俺でも十分に可能のはずだ。

「ジュエルシードを封印できるのはフェイト一人だけだ。
封印する前に魔力が切れては意味が無いからフェイトはダメだ。
アルフもまた、フェイトの使い魔だから主をサポートするのは当たり前。
なら消去法で俺がすることになる」

「でも、でも」

フェイトはあまり納得していない様子だな。
一方アルフは、納得しきれていないが仕方ないといった感じか。

「大丈夫だよ。失敗はしないし、何があっても二人は俺が守るから」

「そうじゃなくて!」

フェイトが怒鳴りながら詰め寄ってきたが、そんな場合じゃない。

「フェイト、何を心配しているのか分からないけど、変更はない。
少し休憩をしたら海上に向かう、いいね?」

「む~」

フェイトの機嫌が一気に急落したが、こればかりはどうしようもない。
アルフはフェイトの機嫌取りに必死だ、すまないアルフ。

俺たちは弁当を広げ、昼食をとり始めた。
フェイトは弁当を食べ始めると、機嫌が良くなった。
やはり女の子は、美味しいものには目がないのだろう。


†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††


私はなのはたちを部屋に残したまま、ブリッジに来ている。
そうしたらエイミィに声をかけられ、一緒にルシルやフェイトのデータを見ていた。

「フェイト・テスタロッサ。かつての大魔導師と同じファミリーネームだ」

いつ来たかは分からなかったけど、私の背後に立ち、クロノがそう口にした。
クロノの話によると、一昔前に魔法実験の最中に次元干渉事故を起こし、追放された結構高位の魔導師だったらしい。

「じゃあ、この子ってその人の関係者か何かかな?」

「分からない。本名を名乗っていない可能性もあるから」

私は二人の会話を黙って聞いていた。

(ジャマー結界か。本当に便利なものね、魔法っていうのは)

さてと二人の邪魔にならないように退出しようかとしたら、リンディ艦長が私を手招きしているのに気付いた。
何かしら?と思い、艦長席にまで向かう。

「今日もお疲れ様、シャルロッテさん。戻ってから何も口にしていないでしょ?
だから一緒にお茶をしようと思ったのよ」

いつもリンディ艦長が愛飲しているお茶を勧められてしまった。
ま、まずい、何とか理由をつけて逃げなければ・・・・悶死確実。
必死に逃げる口実を考える。あんな激甘そうなものを飲むと、いろいろとまずい気がする。

「え~と、お、お気持ちは嬉しいのですが、その~・・・」

俯きながらそう口にし、ゆっくりと顔を上げてリンディ艦長の顔を見る。

(や、やめて、そんな顔をしないで。罪悪感でいっぱいになりそう)

残念そうな顔をしているリンディ艦長を見て、心が折れそうになる。
この世界に来るまではこんな感情は必要なく、消していたものだけど。
くっ、諦めて飲むしかない、のか? いや、結構美味しいのかも・・・?
覚悟を決めた私は笑顔で湯飲みを受け取る。

「い、いただきます」

「ええ、どうぞ」

ごくりと喉に通す。飲んだ。飲んでしまった。飲んでまず頭に浮かんだのは

(甘っ!! 甘い!! ていうか甘い!! 違う! 甘いを通り越して苦い!?
な、何でこんなものを飲んで平気な顔をしているの!?)
 
リンディ艦長の味覚の異常性だった。
やばい、なんか目の前が暗くなってきたような・・・?
意識がブラックアウトしそうなところで鳴り響く警報。

「な、なんてことをしてるのあの子達!!?」

「何だあれは!?」

エイミィとクロノが叫ぶ。何とか意識を繋ぎ止め、私もすぐさまモニターへと目を向ける。
そこには、

(うそ! ルシルが異界英雄(エインへリヤル)を使っている!?)

剣の蒼翼が生えたルシルの前方に浮かぶ少年を見て、私は軽く絶望した。


†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††


昼食と休憩を終えた私たちは、残りの“ジュエルシード”が眠るであろう海上へとやって来た。
結果としてビンゴ。海中に魔力反応。間違いなく“ジュエルシード”がある。
魔力察知に長けるルシルもそう言うから間違いない。

「ルシル、本当に大丈夫?」

今回、魔力流を撃ち込むことになっているルシルに言葉をかける。
ルシルは大丈夫だって言ってたけど、やっぱり心配だ。

「フェイトは心配性だな。本当に問題ないよ。
それじゃあ始めるから、準備してくれ二人とも」

だって気になるんだもん! また無茶されて血がいっぱい出たらとか思っちゃうよ。 
そんな私の気持ちに気付かないルシルが、魔力流を撃ち込む用意をし始め、「フェイト、封印の準備を。アルフもその補佐を」って私たちにも準備するように言ってきた。

「う、うん!」

「あいよ!」

私とアルフは指示通りに、いつでも“ジュエルシード”を封印することが出来るように準備を始めた。

≪我が内より出でよ 貴き英雄よ≫

ルシルが呪文を唱える。

「来たれ! 救世主(メシア)、弓樹真弥!」

その言葉と共に強烈な光が生まれて、一瞬だけ目の前が真っ白に染まる。
そして現れたのは、変わった服を着た男の人。というかこの人は誰ですか!?
私とアルフは、突然現れた男の人に動揺してしまっている。
一体誰なのかと注意深くその人の様子を窺がってみると、

『ねぇアルフ、この人、たぶん人間じゃない気がする』

『あたしもそう思うよ。理由はわからないけど、何ていうか本能がそう訴えてきてるような感じなんだ』

人ではない。ただ直感が告げてくる。
私たちがおかしな顔をしていたのか、ルシルがこの人のことを説明してくれた。


†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††


フェイトたちが真弥を見て困惑しているのに気付き、彼のことを話す。

「ああ、彼の名前は弓樹真弥といって、魔力だけで構成された一種の使い魔みたいなものなんだ。
味方だから、そんな引かなくても大丈夫だって」

それを聞いた二人は、徐々にこちらへと戻ってきた。
だが、未だに少し警戒している感じだ。
まぁ仕方ないか。いきなりそんなことを言われても困るよな。
しかし、先程の説明には嘘はない。魔力で構成された使い魔、これは本当のことだ。

俺が保有する創世結界の一つ、“神々の宝庫(ブレイザブリク)”の上位術式である“英雄の居館(ヴァルハラ)”から呼び出した数多くいる“異界英雄(エインヘリヤル)”の一人。
俺が複製した武装は“神々の宝庫(ブレイザブリク)”に貯蔵され、術式は“英知の書庫(アルヴィト)”に登録される。
英雄の居館(ヴァルハラ)”とは、それを複製した時点での担い手を、その二つの結界の中にある複製した物から記録を読み取り、
異界英雄(エインヘリヤル)”として軍勢を生み出すものだ。
ゆえに全員が俺の従者となる、だから使い魔といっても間違いではない。
まぁ今の俺の状態では、中位以下の連中しか呼び出せないが。

「そ、そうなんだ。ルシルにも使い魔がいたんだね。でも、何で今まで呼ばなかったの?」

「そうだよ! こんなことが出来るなら、早く呼んでほしかったもんだね!」

「いや、これには深い訳があるような~、ないような~」

これを使えるのに気付いたのは、ほんの二時間前だった。
神々の宝庫(ブレイザブリク)”と“英知の書庫(アルヴィト)”の使用制限を再確認していた際に、“英雄の居館(ヴァルハラ)”の使用も可能だと、ようやく気付いたのだ。
だが、どの創世結界も現実へと顕現できないように制限されているため、その都度に少しずつ取り出すことしか使用方法がない。

「なんだいそりゃ?」

「そんなことより! さっさと始めるぞ!」

最大召喚時間がたったの三分となってしまっているため、急いで“ジュエルシード”を強制発動させなければ。

「うん! いつでもいいよ!」

「はぁ、あたしもいつでも構わないよ」

フェイトは元気に返事をしたが、アルフは一度溜息を吐いてから準備万端の返事をした。

「それじゃあ、始める。頼んだよ、真弥」
 
「うん、任せて」

――天をも貫く無敵の雷――

顕現せしは天を裂き、海を割る絶大たる雷光。周囲一kmに雷撃が振り注ぐ。
さすが救世主(メシア)・真弥、中位の英雄なのに、なかなかの威力だ。
真弥の召喚を解き、次の段階へと進むために俺も準備に入る。
強大な雷撃によって次々と目覚める“ジュエルシード”。吹き荒れる複数の竜巻。
フェイトとアルフがあまりの光景に絶句しているが、すぐさま立ち直り、“ジュエルシード”の封印へと移る。


†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††


今、アースラのブリッジは静まり返っている。
原因はもちろんルシルの放った雷撃。
だけど、実際にアレを放ったのは先程消えた少年だ。
ルシルに必要なのは召喚時の魔力のみ。あの雷撃に使用される魔力は、現実へと呼び出されたあのエインヘリヤルの少年が受け持つことになっている。

(本当に最悪だ。制限されている状態であんなのを顕現させれるなんて・・・!)

「う、うそ、さっきの雷撃・・・SSランクに匹敵するよ」

エイミィが信じられない、と小さく声に出す。
私だって正直信じたくない。ただでさえルシル一人に苦労させられているというのに、そこにエインヘリヤルが加わるなんて。

「おい、シャル。君は本当に彼に勝てるのか?」

クロノが青い顔をして訊ねてきた。さっきまでなら勝てると思ってた。
だけど、ルシルが創世結界“英雄の居館(ヴァルハラ)”を使えると知った以上、勝率は確実に5割を切った。

「接近戦に持ち込めば3~5割、それ以外は0よ。
それに、彼の魔術の出初めを叩くしかないという条件付き」

正直に話す。あれはもう私では勝てない。
唯一勝てる方法は一つ、私の最強の魔術、真技を使うことだ。
接近戦に持ち込み、アレを使えば今のルシルに防げる術はないはず。
何せルシルが最強とされていた大戦の最中の決闘で、ルシルの利き腕を四分割に切り落としたんだ。
今のルシルには当時のような魔力はないも無いし防ぐ手立てもない。
ただ問題なのは、アレが必殺の技ということだ。非殺傷設定なんて使えない私は、確実にルシルをバラバラに斬り殺すことになる。

「接近戦限定か。それでも3~5割の確立で勝てるというのはすごいな」

「その代わり、ゼフィが死ぬことになるけどね」

「なに!? どういうことだ!?」

私の死ぬ発言でクロノが叫び、ブリッジが嫌な空気に包まれる。
いつの間にか来ていたなのはとユーノも、それを聞いて青い顔をしている。

「私がゼフィに勝つ方法は一つ、私の最強の魔術で彼を殺すこと」

「だ、ダメだよ!! シャルちゃん! ゼフィ君をこ、殺すだなんて!!」

「さすがにそれは認められないわ、シャルロッテさん」

なのはとリンディ艦長からお叱りの言葉が飛び出す。
もちろん私だってそんなことはしたくない。

「・・・私だって嫌よ、そんなことしたくない」

私の様子を見て再び静寂に包まれるブリッジ。

「はぁ、まずはあの子達を止めるのが先決だな。
このままじゃ海中のジュエルシードを全て取られる」

そうクロノが言い、転送装置へと向かう。
それを見たなのはが「わ、私も行きますっ!」と言いだす。

「危険だぞ。あの竜巻もそうだが、ゼフィは少なくともSSランクに匹敵する魔力の持ち主だ。
何をしてくるのか見当がつかない。あの時いた背後の少年も気になるし、まだ他の仲間がいるかもしれない」

クロノは怒鳴るようなことをせず、真剣になのはを見て忠告した。
なのはも覚悟を決めているようで、これまた真剣な顔で返答する。

「わかってるよ。でもいつかお互いが持ってるジュエルシードをかけて戦うことになると思う。
だから、今でも後でも同じ結果なら、今行っておきたいの」

クロノは少し考え、リンディ艦長に出撃の許可を申請しようとする。

「艦長・・・」

「無茶だけはしないようにね、クロノ、なのはさん」

リンディ艦長の表情は、今だけは上官ではなく母親の顔だった。
クロノが決意の首肯、そして「はい、いってきます。シャル、ユーノ、来てくれ」と言ってきた。
さぁどうしようか、私は飛びたくない。というか飛べないのだ。
ここははっきり言うほうがいいだろう。たとえ笑われたとしても。

「ごめん、私・・・飛べないんだ」

「「「え?」」」

なのはたちが目を点にしながら私を見る。
だから知られたくなかったのに~(涙)
ユーノが「えっとつまり、飛行の魔術は覚えていないの?」と訊いてくる。

「飛翔術式は習得しているけど、上手く飛べないというか」

「それなら大丈夫、私が手を貸すから」

なのはがそう言いながら私の手を引っ張り、転送装置へと入った。

「ちょっ、まっ――」

心の準備もまだだというのに、私は強制的に転送させられた。


†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††


来た、管理局だ。予想より少し遅れていたが、まぁそのほうが都合がいい。
ふと視界に入る真紅。あれは・・・シャル? 間違いない。飛翔術式を克服したのか?
こちらへ向かって来ていたのは、なのは、ユーノ、クロノ、そして真紅に輝く片翼を羽ばたかせ、空を翔るシャルの姿だった。

『フェイト、アルフ、管理局だ。相手は俺がするから、封印作業は続行してくれ』

念話で管理局の来訪を告げ、気にせずに作業を続けるよう指示する。
しかし予定外だ。いつの間にシャルは飛翔術式を克服したんだ?
陸戦限定の騎士だったシャルが、俺の領域の空戦にまで入ってきたとなると、戦術を全て変更しなければならない。

『わかった、気をつけてね』

返事はフェイトだけ、アルフは残り1つの竜巻と格闘している。
本当なら全ての竜巻を片付けたかったが、時間がかかり過ぎた。

『すまないアルフ、任せた』

『あいよ、ルシルもちゃんと仕事しなよ』

『了解だ』

しかしどうしたものか?
魔力も接近戦技術もシャルが上、苦手な遠距離攻撃はなのはとクロノ。
俺の現在の最大魔力はAA+、二人の砲撃を防ぎきる術は複製の力のみ。
だが二人にばかり気をとられると、シャルが術の発動を妨害してくる。

「やばい、これは負ける・・・かもな」

負ける要素しか見つけられない俺は一人呟いた。


†††Sideルシリオン⇒なのは†††


私はシャルちゃんを無理矢理転送させて、空へと飛んだ。
私は変身を終えて、シャルちゃんの方を見る。私はシャルちゃんの姿に目を奪われた。

「わぁ、綺麗!」

――真紅の片翼アインス・ルービン・フリューゲル――

シャルちゃんの背中には、片方だけど綺麗な真紅の、天使のような翼が生えていた。
シャルちゃんがキッと私を睨みつけて、「なのはぁぁぁっ!? 急に何するの!? 死ぬかと思ったじゃない!」って絶叫。

「え、えっと、私が手伝うから大丈夫だと」

あまりの怒鳴り声に少し怯む私ですが、反論しちゃいます。

「それにシャルちゃん、ちゃんと飛べてるよ!」

「え?・・・本当だ。飛べる、飛べてる! 私飛べ「感動は後だ!」・・・」

シャルちゃんの感動タイムは、クロノ君によって終わらされました。
でも、シャルちゃんもそれが分かっているのか反論せずに頷いた。

「ジュエルシードの暴走はほとんど停止している。
今なら封印出来るはずだ。なのはとユーノは封印へ行ってくれ。
僕とシャルはゼフィを足止めする」

「わかった。気をつけてね、シャルちゃん、クロノ君」

「なのは、急ごう!」

「うん!」

私とユーノ君は、フェイトちゃんとアルフさんの元へと向かった。
けど、それを邪魔しようとするゼフィ君が私たちの前に立ちはだかった。
「悪いが行かせない」とゼフィ君がクリスタルのような穂を持つ大きな槍の先端を向けてきた。

――風牙真空刃(レーレ)――

シャルちゃんが無言で、ゼフィ君に攻撃を仕掛けた。
ゼフィ君は物凄い速さで避けて、私の前からいなくなる。

「今だ!」

クロノ君が回避しているゼフィ君に向けて砲撃を放ちながら、私たちに叫ぶ。
私はその隙にゼフィ君の横を通り過ぎる。

「しまった! フェイト! アルフ!」

ゼフィ君がクロノ君の砲撃を避けながら、フェイトちゃんたちの名前を叫んだ。

「クロノ! ユーノ! ちゃんとなのはを守りなさいよっ!」

そしてクロノ君も、シャルちゃんの援護を受けて、ゼフィ君の横を通り過ぎる。
「行かせるか!」と、ゼフィ君が叫んで、≪我が手に――≫と唱え始めた。

「私を忘れないでよね!!」

「ぬっ、おのれぇぇ!」

「余裕がないなゼフィ。ブレイズキャノン!!」

ゼフィ君があの呪文を唱えようとして、シャルちゃんの攻撃で中断された。
その一瞬の隙をつき、背後からクロノ君が砲撃を放って、ゼフィ君に直撃する。
ゼフィ君は、そのまま海へと落ちていった。
シャルちゃんは、ゼフィ君が落ちていった場所へと向かったから、ゼフィ君の心配はいらないはずだ。
そして私はフェイトちゃんのもとへ。あと少し、あと少しでフェイトちゃんのもとへ行ける。
そうして、私はみんなの協力のおかげでフェイトちゃんのもとへと辿り着く事が出来た。

「フェイトちゃん」

「っ! 君は!? ゼフィは・・・!?」

フェイトちゃんは、私の存在に今気付いたようだ。
ゼフィ君の姿が見えないことで、すごく焦っている。

「大丈夫だよフェイトちゃん。ゼフィ君はあそこにいるから」

私は、シャルちゃんがゼフィ君を抱えている場所へと指を指す。
それを見たフェイトちゃんは、安堵の表情でそれを見ている。

「よかった」

「ねえフェイトちゃん、私ね、ずっと思っていたことがあるんだ」

フェイトちゃんやゼフィ君、アルフさんと友達になる。
今なら、それを伝えられるチャンスだ。

「私は、フェイトちゃんたちと友達になりたいんだ」

「え?」

フェイトちゃんは信じられないことを聞いた、みたいな顔をしている。
私は返事を聞くために待っていた。だけど周囲に雷が落ちてきた。

「か、母さん・・・!?」

フェイトちゃんが少し怯えたような顔をして、母さん、と口にした。
どうして、お母さんに怯えるんだろう?
そして次の瞬間、フェイトちゃんは雷を受けて悲鳴を上げた。

「フェイトちゃん!!?」


†††Sideなのは⇒ルシリオン†††


少し、気を失っていたか。今の状況を確認すると、シャルに抱きかかえられている状態だった。

「し、シャル・・・」

シャルは勝ち誇るでもなく「私たちの勝ち、みたいね」と、ただ事実を告げた。
俺は負けを認めようとした瞬間、フェイトを襲う雷撃を見た。

「な・・・!? あれってどういうこと!?」

「なんの・・・なんのつもりだ!? プレシアァァァァーーーーッッ!!」

俺はあまりの光景に、攻撃した張本人であろうプレシアの名を叫ぶ。
俺はすぐさま落下しているフェイトのもとへ飛び、気を失っているフェイトを受け止める。
間髪いれずに「アルフ! ジュエルシードを!!」と、アルフに“ジュエルシード”の捕獲を指示する。
だが、それをクロノが妨害する。アルフは邪魔をするクロノを弾き飛ばすが、いくつかの“ジュエルシード”を奪われていた。

「くそっ『アルフ、一度引くぞ。奪われたジュエルシードは後日にでも取り返そう。俺が時間を稼ぐ、先に行け』」

『くっ、仕方ないね、わかったよ』

念話でアルフに撤退を指示し、フェイトを一緒に連れて行かせる。
クロノが追っていくが、行かせるわけにはいかない。

≪我が手に携えしは確かなる幻想≫

シャルが何か叫んでいるが、今は聞く耳は持たない。
そもそもプレシアへの怒りで完全に聴覚をカットされてしまっている。

貴き落涙(ディオサ・ラグリマ)!!!」

巨大な水の塊を海に叩きつけ、波を発生させてクロノたちを飲み込ませる。
連中が海に沈んだのを確認して、俺はその隙にこの場から去った。



†◦―◦―◦―◦―◦↓シャル先生の魔術講座↓◦―◦―◦―◦―◦†


シャル
「今回も来てくれたのね。第五回シャル先生の魔術講座へようこそ」

なのは
「早いことでもう五回目だね~♪」

ユーノ
「うん、そうだね」

シャル
「さて。では早速、今回使用された魔術を紹介するわ。

――真紅の片翼アインス・ルービン・フリューゲル――

魔力で翼を創るという術式で、これを展開することで飛翔術式を扱えるようになるの。
アインスは数字の1。ルービンは、宝石ルビーのドイツ語読み。フリューゲルは翼という意味よ」

ユーノ
「そう言えば、出撃前にシャルは空を飛べないって言ってたけど、結局飛べたよね?」

なのは
「というかシャルちゃんって練習してこなかったのずっと?」

シャル
「したわ、したわよ。練習をしてもダメだったの。どうやっても死にかけのような羽虫みたいになっちゃうのよぉ(号泣)」

なのは
「ご、ごめんね!? まさか泣くなんて思わなくて・・・」

ユーノ
「えっとえっと、今日はここまで!」


すいません、駆け足で進みました。

ルシルをもう少し粘らせるべきか迷いましたが、アレ以上頑張るとジュエルシードを全てフェイトが封印してしまうので、早々に落ちてもらいました。

複製の武装と術式を封じられると、極端に弱くなってしまうルシルですが、固有魔術の攻性術式が解禁されると、一対一ではもう誰も勝てません。

それでは、設定紹介に行きます。
創世結界:
術者のイメージした世界を現実へと展開する大魔術。
創世結界の展開に成功した者は例外なく大魔術師の称号を得る。

―神々の宝庫 (ブレイザブリク)―
ルシリオンの有する創世結界の一つ。
複製した武装が縦横無尽に乱立する黄金に光り輝く地。
空は黄金の陽光で輝く雲が中心へと渦巻いていって、その中心には黄金の太陽がある。

―英雄の居館 (ヴァルハラ)―
創世結界の一つ。
複製した武装や術式などの当時の持ち主の情報を引き出して、使い魔とした連中の軍勢が存在する超巨大な館。

―異界英雄 (エインヘリヤル)―
英雄の居館(ヴァルハラ)に存在する使い魔を召喚するという術式。


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